基地制圧戦の2日前、剛から基地の偵察と提督の容疑を固める為に必要不可欠な証拠を集める様に依頼された通は、川内と共に当日の予行練習も兼ねて陸路を使って件の基地に赴き、夜の闇に紛れて基地内に潜入していた
何故川内が同行しているのかについてだが、彼女は江風と共に通から隠密行動のイロハを仕込まれ、持ち前の夜戦スキルと通の教えが上手い具合に噛み合った結果、長門屋鎮守府に所属する艦娘達の中で、最も隠密行動が得意な艦娘となっており、その隠密スキルは剛からも高い評価を受けていた為、剛は通の負担を軽減する為に、川内に通のサポートを依頼し、依頼を受けた川内もそれを了承、こうして通に同行しているのである
その際神通もこの隠密作戦に参加したいと申し出たのだが、神通の隠密スキルが川内ほどのものではなかった事と、隠密作戦に参加する人数を増やし過ぎるとかえって動きにくくなり、任務に支障が出てしまうかもしれないと言う事で剛から却下されてしまったのだとか……
その時の神通の表情はとても寂し気なものだった様で、その表情を目の当たりにした通は、申し訳なさで胸が張り裂けそうになったそうな……
それはさて置き、無事に基地内に潜入する事に成功した通と川内は、手筈通りに二手に分かれ、護が基地の情報をブッコ抜いて作ってくれた基地の見取り図を頼りに、この基地の提督を法廷に突き出す為の証拠集めを開始するのであった
「結構遅い時間のはずなのですが……、寝ている艦娘の方が少ないようですね……。こんな時間まで起きていて、任務に支障が出ないのでしょうか……?」
基地内の誰にも気付かれない様に、天井裏を這う様に移動していた通は、海軍が規定した就寝時間を過ぎているにも関わらず、未だに起きている艦娘の多さに思わず溜息を吐きつつ、この様な愚痴を零すのであった
如何やら此処の基地の艦娘達は、インターネット放送とは別に各自でライブ配信なども行っているらしく、昼間は任務などでインターネット放送やテレビの収録などに参加出来なかった艦娘達は、自分達を売り込む為にこの時間を利用してライブ配信を行っている様である……
「此処の艦娘達はあもりにも自由すぐるでしょう……?寝る子は育つと言う名セリフを知らないのかよ……?」
通が愚痴を零したその直後、通が念の為に持ち込んだ月影がカタカタと震えると同時に、鞘の中からくぐもったダークネスの声が聞こえ、これは不味いと思った通は急いで震える月影を両手で押え込み……
「ダークネスさん、今回ばかりは静かにしていて下さい……っ!」
声を押し殺しつつ、通は勝手に喋り出したダークネスを叱責するのであった
「安心すろ
「私が知らない内に何恐ろしい事をサラッとやってるんですか……。任務が終わったら、キチンと元に戻しておいてくださいよ……?」
「hai!!!」
このやり取りの後、通は念には念をの精神で引き続き姿を隠し、不用意に物音を立てない様細心の注意を払いながら、証拠集めを継続するのであった
そうしてある程度証拠を集めた通は、感覚を研ぎ澄まして行動をするが故に発生する精神的疲労を癒す為に、人通りが少ない場所にある物置として使用されている部屋に降り立ち、その身を隠しつつ休憩する事にするのであった
尚この時……
「
ダークネスはそう言って通を労い、何処からともなく缶ジュースを出現させ、通にプレゼントするのだったが……
「……何ですかこの『ヌギル・コーラ』と言うのは……?得体のしれない飲料を飲ませようとしないで下さい……」
ダークネスから何とも名状し難いパッケージをした缶ジュースを受け取った通は、そう言ってこの冒涜的な飲料を飲む事を拒否……はするものの、ダークネスが気を遣ってくれた事を感謝する意味合いを込めて、取り敢えずは受け取って懐に仕舞い込むのであった
それからしばらくして、ある程度疲れが取れた通が任務を再開しようと立ち上がったその時である、不意にこの物置の扉が開く音と共に何者かの足音が通の耳を打ち、それに気が付いた通は咄嗟にその身を隠し、物置に入って来た人物を確認する為に入口の方へと視線を向けるのであった
「……あれは……、能代さん……?」
転生個体であるが故に夜目がやたらと利く通が、物置に入って来た人物が能代である事を確認し、思わずそう呟いたその直後である、扉を閉めた事で物置の中が真っ暗になった途端、能代は突然膝から崩れ落ちる様にして床に座り込み、すすり泣き始めたのであった……
「おいぃ……、あいつ何いきなり泣き出してるわけ……?」
「私に分かる訳がないじゃないですか……」
そんな能代の様子を目の当たりにしたダークネスと通が、この様なやり取りを交わしていると……
「どうして……?何で私がこんな目に……。幾ら提督の命令だからと言っても……、よく知らない様な男に抱かれないといけないなんて……。嫌……、そんなの絶対に嫌よ……」
物置内にすすり泣く声と共に、絞り出す様にして吐き出される能代の声が響き渡る……
「……
「今ので分かりました、彼女は私達が何としても助けるべき存在の様ですね……」
能代の言葉を聞いたダークネスが通に向かって声を掛けると、通はそう言って立ち上がり……
「ダークネスさん、私の存在を彼女に認識出来る様にしてもらえますか?」
「別に構わにいが……、一体如何するつもりなんですかねぇ……?」
「どうも私は女性の涙と言う物が苦手な性分な様でしてね……、ああいうのは見ていられないのですよ」
ダークネスに向かってこの様に言い放ち、それを聞いたダークネスはある程度は通が何をしようとしているのかについて察するものの、敢えてこの様に返事をし、ダークネスの返事を聞いた通はそう言って能代の方へとゆっくりと歩み寄っていき、ダークネスはその様子を見守りながら、やれやれとばかりに鞘の中で首を振るのであった
その後、通は能代に聞こえる様、わざと足音を立てて彼女へと近付き……
「……っ!?誰……っ?!」
「静かに……、この様な格好でこの様な事を言っても信じてもらえないかもしれませんが、私は怪しいものではありません……」
通の足音に気が付いた能代は驚きつつも即座に足音が聞こえた方へと顔を向け、足音の主を確認する様に鋭い視線で通を見据える。それに対して通は、自分がしっかりと能代に認識されている事に安堵の息を吐いた後、能代に向かってそう言いながら特警隊のエンブレムが描かれた腕章を見せるのであった
因みにこの時の通の格好は、基地鎮圧戦の時に着用していた黒衣となっており、能代に通が軽巡棲姫の転生個体である事は気付かれていなかった様である
「それは……、最近海軍内で設立されたと言う特警隊の……っ!?」
「そうです、私は貴女が所属する基地の黒い噂を聞きつけ、秘密裏に調査をする為にやって来た者です。この腕章が信じられないと言うのならば、身分証明書も出しますが……」
通の腕章を目にした能代が驚愕する中、通はそう言って海軍内で発行された自分の身分証明書となるIDカードを掲示するのであった
これにより通が本物の特警隊の隊員である事を確信した能代は、提督による支配から解放されるかもしれないと言う事実に、大粒の涙を流しながら歓喜し、思わず通に抱き着いてしまうのであった
この時通は能代の身体から放たれる白桃の様な甘い香りと、晒でガチガチに固めた自身の胸に当たる柔らかい感触に動揺する中、頭の中に鎮守府(張りぼて)を発つ前に見た寂しげな神通の顔が過り、あまりの申し訳なさで精神的に死にそうになってしまうのであった……
その後通は何とか能代を落ち着かせ、彼女からこの基地の実情を事細かく聞き出す事に成功するのであった