彼は幼き頃より日本と言う国に深く興味を持っていた
そうなった切っ掛けは彼の祖父から聞かされていた話なのだが、その内容は正直とても褒められたものではなかった……
彼の祖父はその昔、ロシアが日本と戦争し敗北してしまった事がとても気に入らなかったらしく、何かにつけて日本を侮辱する様な言葉を吐いていたのである……
この様な感じで祖父から反日感情を煽る様な言葉を聞かされながら育っていたにも関わらず、如何して彼は日本に興味を持ったのか……?
彼の祖父は日本を侮辱する際、ロシアは偉大な国であると、そんじょそこらの国には負けない素晴らしい国であると、やたらロシアの凄さを誇張して話していたのである
それにより幼き頃の彼は、そんなロシアを倒した日本と言う国は、一体どれだけ凄いのだろうか?と言った感じで、子孫に反日感情を植え付けたい祖父の思惑とは全く逆の形で日本に興味を抱いたのである
この日本への興味は彼が成長するに連れて興味から憧れへと姿を変えていき、それは彼をロシア屈指の日本オタクにしてしまうのであった
そんな彼が大人となり、金銭を稼ぐ手段を手に入れたところで、彼は日本の事をもっと深く知る為に日本に長期滞在する事を決意し、その為の資金を稼ぐ為に必死になって働く傍ら、日本語の事を猛勉強したのであった
そうした努力の甲斐あってか長期滞在の為の資金はすぐに貯まり、彼はその資金とまだまだ頼りない日本語の知識を携えて、念願の日本での生活を開始したのであった
この時彼が真っ先に実行したのは、剣術の道場に入門する事であった
日本オタクとなっていた彼は、まだインターネットが普及していない時代であった関係で、図書館などを利用して膨大な量の日本の情報を集めており、その中で日本海軍は武士道を重んじていた事を知ると、武士道のルーツについても調べ上げ、武士や侍に対しても興味を抱く様になったのである
そう言った経緯で剣術道場に入門した彼は、仕事の関係で道場内で唯一ロシア語が話せると言う少し歳が離れた先輩の世話になりながら、1ヶ月と言う短い期間で剣術と日本語をしっかりとマスターする事に成功するのであった
尚、彼の太刀筋を見た件の先輩とやらは
「お前は本当にロシア人か?そこら辺の連中なんかよりもよっぽど才能があるぞ……。此処で本格的に剣術を学べば、お前は確実に化けるだろうよ……。……ビザを長期滞在で申請してるのが、ちょっちどころじゃなく勿体無いな……」
心底残念そうに、この様な言葉を口にしていたりする……
因みにその先輩と言うのが、若かりし頃の現長門コンツェルンの創設者、長門 正蔵だったりする……
こうして剣術と日本語をマスターした彼は世話になった道場を去り、2ヶ月と言う時間を使って日本中の仏閣や神社を渡り歩くのだが、そこで彼の好奇心が鎌首をもたげる……。そう、彼はこの時に仏閣や神社が持つ、独特の雰囲気に魅了されてしまったのである……
こうなってしまった彼は誰にも止める事が出来ず、ビザの有効期限が切れる前に帰国した彼は、日本に帰化する事を決意すると長い月日を費やして準備を進め、帰化申請が無事に受理され日本に移住すると、すぐさま寺に入門し修行を開始するのであった
これが彼の運命を大きく変える切っ掛けとなるのであった……
寺に入門した彼は、自身の身体の中に迸る情熱に従い、普通の修行だけでは飽き足らず、厳しさのあまり修行中に死者が出てしまう様な苦行にまで手を出したのである……
周りの者がその厳しさに耐え切れず逃げ出したり、命を落としてしまう中、彼は剣術道場で培った精神力を用いて必死になってあらゆる苦痛に耐え、苦行を遂行していた……
そんなある日、遂に彼は苦行中にとある存在との邂逅を果たす……
苦行による苦痛で意識が朦朧としていた中、不意に周囲がブラックアウトし、突然の出来事に彼が驚いていると、何の前触れも無く彼の目の前に後光を放つ何者かが姿を現し……
「深い悲しみや怒りに晒され、絶望を抱く彷徨える者達を鎮めてあげなさい……」
混乱する彼に対してそう言い放つと、突然激しく輝き出した後光と共に、一瞬にして彼の目の前から姿を消してしまうのであった……
最早何が起こったのか理解出来ず、先程以上に彼が混乱していると、突然凶悪な睡魔に襲われた様な感覚に陥り、次に気が付いた時には、彼の身体は病院のベットの上に横たわっていたのであった……
その後彼は検査入院を経て寺に戻る事になったのだが、寺に着いて何気無く寺の敷地内にあった墓地に視線を向けたところで、彼は自分の身に起こった変化に気が付く事になるのであった……
彼の視界の中には大量の人影があった、墓参りのシーズンでは無いにも関わらず、墓地に大量の人影が存在していたのである……
そして彼の耳を打つのは、その者達のすすり泣く声や怒りの声……
これは一体何なのか?そう思った彼が自分を迎えに来てくれた住職に向かって、墓地にいる者達について尋ねてみるのだが、住職はこいつは一体何を言っているんだ?とばかりに、只々不思議そうな表情を浮かべるのであった……
此処で彼はこの者達が、皆この墓地の中で眠る者達の魂であると感付き、住職に今日は修行はせずに療養する様に言い渡された彼は、夜中にこっそりと部屋を抜け出し、無念によって成仏する事が叶わず、浮世を彷徨い続ける魂達が集まる墓地へと向かうのであった……
そうして真夜中の墓地に辿り着いた彼は、手始めにその場で蹲り泣きじゃくる子供の魂の方へ、その悲しみを取り払わんと手を伸ばし、子供の魂に触れる事が出来た事に若干驚きつつも、その頭を優しく撫でて上げながら励ましの言葉を掛け、霊が何とか落ち着いたところで心を込めて経を唱え、その霊を成仏させてあげるのであった……
こうして子供の霊を成仏させた時、彼はふと苦行中に起きた出来事を思い出し……
「アレは……、まさかオシャカ様だったのでしょうカ……?アノ方が言っていたのハ、こう言う事なのデスカ……?」
自身が邂逅した存在と、その存在が口にした言葉に一頻り驚愕した後、その言葉に従う様に、墓場の魂達を次々に成仏させていくのであった……
そして墓場の魂達を全員成仏させた後、彼は静かに床へと戻り、しばらく布団にくるまって考え込み、ある決意を固めるのであった
翌日、彼は住職に昨晩の事を話した後、日本中にいるであろう彷徨える魂達を成仏させるべく、旅に出ようと考えている事を打ち明けるのであった
この時住職は、彼の話を半信半疑と言った様子で聞いていたのだが、直後に墓地に眠っている者達の遺族の方々から、夢の中で彼等に感謝され、自分達の中でも彼等の死を受け入れる事が出来、お互い笑顔で別れを告げる事が出来たと言った、喜びと感謝の電話が殺到し、それらを受けた住職は彼の言葉を信じる事にし、彼を送り出す事にするのであった
その際住職は彼の生まれなどに因んで『氷海』と言う僧名を送り、以後彼は『氷海法師』と名乗り、日本全国の彷徨える魂達を鎮める旅に出るのであった
その旅の中で彼は琵琶を用いて経を読む事を思い付き、自身が体得している剣術を遺憾なく発揮出来る様、護身用の木刀を仕込んだ琵琶を手に旅を続けるのであった
それから月日が流れ、彼が62歳を迎えた頃、大きな地震が日本を襲い、多くの者が命を落としたと言う報を受けた彼は、急いで被災地へと向かい独自の経で犠牲者達の魂を成仏させていたのだが、そんな彼に地震によって発生した津波が襲い掛かり、津波に呑まれた彼はそこで命を落としてしまうのであった……
そんな彼が次に目覚めた時、その姿は彼にとって今まで全く見た事の無い女性の様な姿……、北方水姫のものへと変貌していたのだが、60歳を過ぎた彼はソレに対しては特に動揺した様子は見せず……
「何なんですかここハ……?至るところに憎悪と悲哀が漂っているではないデスカ……」
この世界に蔓延する負の感情を感じ取り、その膨大な量に思わず驚愕し、全身から脂汗を出しながらこの様な言葉を零すのであった……
こうして艦これ世界にやって来た氷海法師は、この世界の全ての負の感情を取り払う事を決意し、時には負の感情から生まれた強硬派深海棲艦と対峙したり、時には人間達の生活圏に迷い込んでしまい、彼等に強硬派深海棲艦と間違われて攻撃されながらも、生前から持ち合わせていた霊能力とは別に新たに手にした力をも駆使して、この世界を悲しみや怒り、絶望から解放するべく、広大な海を放浪するのであった
因みにこの世界で彼が手にしている琵琶や倶利伽羅剣、艤装が持っている鈴などは、休息の為に立ち寄った小島などに座礁し、放棄されていた輸送船の中にあった木材や鋼材を利用し、慣れない手つきで自作した物だったりする
尚、衣服に関しては輸送船が強硬派深海棲艦に襲撃された際に発生した火災によって、全てが灰になってしまっていたらしく、調達する事が出来なかったのだとか……
氷海法師の僧名は、正式な手続きなどをやっている訳では無い為、扱いとしては彼が勝手にそう名乗っていると言った感じです