※この作品はR-18です。

鬼の鎮守府   作:稲荷童子

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霊能力と凍る世界

さて、駆がアビス・コンダクターの本拠地を防衛する為に作り出した死霊兵と対峙する事になった氷海法師だが、彼は仕込み琵琶の鯉口を静かに切った後、死霊兵達の様子を窺いながらゆっくりとした動作で抜刀術の構えを取り、その姿を目の当たりにした比叡は、その構えの美しさに思わず感嘆の声を上げるのであった

 

この時もし戦治郎と通、更には空がこの場にいて、彼の構えを目にした場合、恐らくきっと彼等は法師に正蔵の面影を重ねる事であろう……。尤も、法師は正蔵と同じ道場で剣術を学んだ為、当然と言えば当然の事なのだが……

 

そうして構えを取った法師は……

 

「少々お待ち下サイ……、今拙僧が貴方方をその檻から解放して差し上げマスカラ……」

 

そう呟くや否や、まるで疾風の如く速さで死霊兵達との間合いを詰め、手始めに最前列にいたタ級型の死霊兵の首を刎ねる、そして瞬く間の内に倶利伽羅剣を持つ手を返すとその近くにいた球磨型軽巡艦娘型死霊兵の頭部を袈裟斬りで斬り飛ばすのであった

 

そこから更にその隣に立っていた夕雲型駆逐艦艦娘型の死霊兵の腹を切り払いで一閃、再び手首を捻って突きの構えを取り、直線上にいるリ級型死霊兵との間合いを一気に詰め、その胸に目にも留まらぬ速さで繰り出した突きを放ち、その勢いに乗ったままリ級型死霊兵の背後にいたチ級型死霊兵も、諸共串刺しにしてしまうのであった

 

こうして法師はあっという間に5体の死霊兵を始末し、その様子を見ていた比叡は法師の動きのキレの良さに、満面の笑顔を浮かべながら歓声と拍手を送っていた

 

ここで普通ならば、法師に斬り捨てられた死霊兵達はすぐさまその身体を再生させ、再び法師に襲い掛かって来るはずなのだが、法師に斬り捨てられた死霊兵達は如何言う事か、そのままその身体をボロボロと崩壊させ海へと還っていっていたのであった

 

法師に斬り捨てられた死霊兵達の身に、一体何があったと言うのだろうか?

 

その答えは法師自身と、法師が使う倶利伽羅剣にあった

 

法師と言う人物は寺での厳しい修行の末、釈迦と邂逅を果たしたと言う本物の聖職者であり、その際に霊を見る、霊の言葉を聞く、霊に直接触れる、霊を祓うと言う、複数の霊能力を手に入れた本物の霊能力者でもあるのだ

 

そう、彼は霊視で死霊兵のコアを捕捉し、そのコアに浄霊の力を宿した倶利伽羅剣を叩き込む事で、コアに囚われていたコアの基となった深海棲艦や艦娘の魂を解放し成仏させてしまったのである

 

更に言えば彼が手にしている倶利伽羅剣、これは彼が慣れないながらもなんとか自作した代物であり、製作者である法師自身が本物の聖人である事が理由で半ば退魔の神器と化しており、法師の祓う力を増幅させる力を持っていたのである

 

これにより法師は死霊兵だけでなく、強い怒りや悲しみなどの負の感情から生まれる強硬派深海棲艦に対しても、無類の強さを誇っているのである。実際、強硬派深海棲艦の中でもそこまで強くない個体は、法師の経を耳にしただけで心を浄化され、穏やかな笑みを浮かべながら成仏してしまうのである

 

これは余談だが、艦娘が登場する以前の海軍では、寺の住職などを連れて出撃し、深海棲艦達に経を聞かせて祓おうと言う作戦があったのだが、どの僧侶達も法師ほどの霊能力を持っていなかった関係で、多少足止めするくらいの事には成功したらしいのだが、法師の様に成仏させるまでには至らなかった為、この作戦はそれ以降行われなくなったのだとか……

 

それはさて置いて、自身の剣術と霊を祓う力を駆使して戦う法師は、それ以降も次々と死霊兵達を斬り捨て、成仏させて順調に相手の数を削っていき、戦況を優位に進めていたのだが、ここでちょっとした問題が発生してしまうのであった

 

そう、法師が戦っている場所から少し離れた位置にいる、空母型死霊兵の艦載機が比叡を発見し、死霊兵達は彼女にまで矛先を向けて来たのである

 

空母型死霊兵達が一斉に彼女向けて艦載機を発艦し、戦艦型死霊兵達もそれを支援するかの如く長距離砲撃を開始しており、法師の戦いを見る事に夢中になっていた比叡が気付いた頃には、彼女の視界は艦載機から投下された大量の爆弾や焼夷弾、無数の戦艦の砲弾で埋め尽くされていたのであった……

 

「あ……」

 

それを見た比叡は目を見開きながら短く呟き、これは流石に駄目かもしれないと死を覚悟するのだが、ここで突然不思議な事が発生するのであった

 

何と彼女に襲い掛かって来ていた艦載機達や砲弾などが、まるで空間に固定された様に突然ピタリと動きを止め、次々と海面に向かって落下し始めたのである

 

いや、それだけではない……

 

艦載機達が落下し始めてしばらく時間が経過したところで、落下中のそれらが何の前触れも無く凍り付き始めたのである……

 

「これは一体……?」

 

その光景に驚愕した比叡がこの様に呟き、法師にこの現象の事を尋ねようと法師の方へと顔を向けると、そこにはこれ以上に信じられない光景が広がっていたのであった……

 

何と法師を中心に海上が広い範囲に亘って凍り付き、死霊兵達も氷の塊の中に閉じ込められてしまい、身動きが取れなくなってしまっていたのである……

 

「油断大敵デスヨ、ヒエイ。次からは気を付けなサイ」

 

そんな中、法師は少々困った様な表情を浮かべながら比叡に忠告し、その様子からこの現象は法師が引き起こしたものである事に気が付いた比叡は……

 

「ひえぇ……」

 

只々愕然としながら、思わずそう呟くのであった……

 

さて、この現象は流れからして法師が引き起こした事だと分かったが、具体的に何が起こったのかについてここで触れていこうと思う

 

一見、この現象は法師が転生個体としての能力を使用し、対象を凍らせてしまった様に感じると思うところだが、それは半分は正解と言ったところだろう。その証拠として、法師の能力が単純に対象を凍らせるタイプだった場合、艦載機や砲弾はその場で停止したりせず、氷のつぶてとなりながら比叡に突っ込んで行く事になるはずなのだから……

 

では法師の能力は一体如何いう物なのだろうか?

 

答えは『運動エネルギーを操る』能力である

 

これは如何言う事かと言うと、比叡に向かって飛んで行っていた艦載機や砲弾には、運動エネルギーが発生していた訳だが、法師は自身の能力を利用して艦載機や砲弾に発生している運動エネルギーを全て一旦0にする事で、それらを一時的に動けなくしてしまったのである

 

そしてそこから艦載機や砲弾に働く運動エネルギーの向きを、比叡を避けながら海面の方へと向け、それらを次々と海面に叩き落したのである

 

ここで艦載機や砲弾、更には海面や死霊兵達が凍り付いた理由に触れるが、これは海面上や空気中を自由に動き回っていた水分子の運動エネルギーが、法師の能力によって奪われた事で水分子が自由に動けなくなり、そうして動けなくなった水分子が結合し始めた事で水の固体……、つまり氷になってしまった為である

 

因みに法師はこの能力を使う事で、慣性の法則を無視した急停止や直角移動なども行えるのだそうな

 

尚、法師は自身の手の内を相手にすぐに把握させない様にする為に、自身の能力を氷関係のものであると勘違いさせる為に、なるべく運動エネルギーの方向変更は使用を控え、能力を使用する時は相手を頻繁に氷漬けにしていたりする

 

正直なところ、法師本人はあまり戦いを好んでいないのだが、だからと言って無抵抗で経を唱えるだけではいつか命を落としてしまうと、これまでの経験で理解している為、相手が襲い掛かって来た場合、手札を極力相手に見せない様に注意しつつ、迎え撃つ方針を取っているのだとか……

 

話を戻して、法師の能力である『紅蓮散華』によって凍り付いた死霊兵達は、この後凍った海面上をフィギュアスケートの選手の如く、軽やかに且つ美しく滑りながら移動する法師の剣術によって、全員が抵抗する事も出来ずに斬り捨てられ、成仏する事となるのであった

 

「お見事です師匠っ!!いや~……、まさか師匠にこんな力があるなんて……。正直ビックリしましたっ!!!」

 

「出来れば使いたくはなかったのデスガ……、今回ばかりは仕方がアリマセンネ。さて、先程の方々も無事に天に召された事デスシ、そろそろ此処を離れまショウ。もしかしたらあの方々をあの様な姿にした張本人ガ、また何かを仕掛けて来るかもしれませんカラネ……」

 

「あぁ、そう言えば師匠はさっきの連中を見た時に、傀儡がどうこう言ってましたね……。そう言う事なら急いで此処から離れましょうっ!!!」

 

死霊兵達を全て成仏させ終えた法師が、倶利伽羅剣を琵琶に納刀しながら比叡の下へと戻ったところ、比叡は興奮した様子で法師に向かって話し掛け、それを受けた法師は苦笑しながら比叡にこの様な提案をし、それを聞いた比叡は一瞬難しそうな表情を浮かべた後、すぐに快活な笑顔を浮かべながら法師の提案を呑み、急いでアビス・コンダクターの防衛圏から離脱するのであった

 

その後、法師は比叡と共にこの狂った世界の至る海を、深海棲艦達を経や剣術を用いて成仏させながら渡り歩き、比叡は法師の指導でメキメキと剣術の腕前を上達させていくのであった

 

そんな2人が戦治郎達と出会うのは、まだしばらく先の話となっている……

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