あっと言う間に強硬派深海棲艦の艦隊を全滅させた望が、悟から教えられた気持ちを落ち着かせる方法で心を鎮め、胸や腕の追加装甲、増えた腕や触手などを消して空達の所へ戻って来ると、電と天津風、そして夕立が急いで駆け寄って来て、電と夕立は望に対して気分は悪くないか、何処かに異常は無いかと心配そうな表情を浮かべながら、少々しつこいくらいに質問を繰り返し、その最中に天津風は出撃する時から手にしていたアタッシュケース状の装置を使い、望のメディカルチェックを開始するのであった
さて、天津風が持っていたこの装置だが、これは悟が一時的に離脱する事が決定した時、悟の指示で作られ、光太郎に預けられていたメディカルチェック用の装置で、今回のテスト的な戦闘を実行するにあたって、空が望の体質などに関する事を悟に相談したところ、悟が医療チームに所属する艦娘である天津風か電のどちらかにこの装置を持たせ、戦闘後にすぐさまメディカルチェックを行う様にと指示を出したのである
因みにどうして光太郎ではなくこの2人なのかと言えば、深海棲艦と戦闘する場合において、相手を過剰に刺激しない為に転生個体を2人以上艦隊に編成しないと言う、戦治郎達と帝国海軍の間で結ばれた約束事があり、これと望が何らかの事故で暴走してしまった時の事を考えた結果、テストの対象である望とその暴走を力尽くで止められそうな空の2人で出撃枠が埋まってしまったのである。故に光太郎は今回の件においては出撃はせず、特撮同好会の面々と共に護の部屋に集まり、望の戦いを護の衛星カメラを用いて見守っていたのであった
「それで空さん、さっき言ってた望の能力ってのは一体何なんだ?さっきの戦闘中に生えて来たあの不気味な腕や触手が、望の能力に関係しているのは何となく分かるんだが……」
天津風達が望の容態を確認している中、空と並び立ってその様子を見ていた木曾が、不意に空に怪訝そうな表情を向けながらこの様に尋ねる
「細かい部分は後で説明するとして、結論だけ先に言うと、望の能力は『外部から受けた刺激を基に、身体を突然変異させる』と言うもの様なんだ」
「突然……、変異……?」
すると空は相変わらず手にしたブルーレイディスクのパッケージを見つめながら、木曾の質問に対してこの様に答え、それを聞いた木曾は困惑しながらこの様に呟くのであった……
その後、空は今回のテストを実行する事になった切っ掛けや、望の能力についてそう判断した根拠について、静かに話し始めるのであった
事の始まりはつい先日、空主催で開催された特撮同好会の集まりであった……
こちらの世界に来てからというもの、キャシーに特撮の素晴らしさを伝える為にやった戦隊名乗りを除けば、特撮同好会としての活動を碌にやっていなかった事に気付いた空は、戦治郎を除く特撮同好会のメンバーを集め、久方振りに特撮作品を肴にしつつ飲み会をやろうと提案、それを受けたメンバーはそれを快諾し、メンバーで話し合って開催日を決め、前日に各々に酒やつまみの材料を準備し、その日の19時を迎えたのだが……
「その、今日はよろしくお願いしますっ!」
飲み会の当日に同好会のメンバーではない望が、光太郎と共に飲み会の会場となる空の部屋にやって来たのであった
如何して望が?誰もが内心で思う事を、飲み会の主催者である空が代表して望に尋ねたところ……
「以前から先生に言われていたんです、医療従事者になる為に勉強を頑張る事も大事だけど、そればかりだと戦闘による心労も合わさってストレスが凄く溜まってしまうから、適度にガス抜きをして精神衛生を保つ様にって……」
望は真剣な表情を浮かべながらこの様に返事をし、それを聞いた同好会のメンバー達は望の言葉に納得したかの様に小さく頷き返してみせた後、少し考え込む様な素振りを見せるのであった
さて、同好会のメンバーのリアクションについてだが、前者の反応に関しては悟が望に対してこの様に言った理由がよく分かるからである……
望は激しく興奮したりストレスを溜め込み過ぎたり強い精神的ショックを受けると、体内にある謎の器官が強力な覚醒剤の様な物質を分泌し始める様になっており、その物質は過去に望が受けた投薬実験が原因で強化された筋肉細胞を更に強化するだけに留まらず、脳のリミッターを強制的に解除した上に痛覚と疲労感を奪い去り、最終的には望を暴走状態にしてしまう恐ろしい物である事を、此処にいるメンバーは悟から知らされているのである。なので望の話を聞いた直後、同好会のメンバーは揃って前者の様な反応を見せたのである
では後者の反応は如何言う事なのか?と言う事になるのだが、これは単純に望の話とそれに対しての望の行動が、メンバーの中で上手く結びつかなかったからである
「そう言う事なら、先ずはこの濃いオッサン達の濃い集まりに参加するよりも、自分の趣味に打ち込んで発散した方がいいんじゃないッスか?」
「それなんですが……」
望の発言の後、空の部屋の中にしばらくの間沈黙が流れ、このままだと何も始まらないし場の空気も悪くなると考えた護が、意を決して望に向かってこの様に尋ねると、望は両頬を薄っすらと紅潮させ、何処か恥ずかしそうにモジモジしながら返事をするのであった
望の話を聞くところによると、如何やら彼女はこれまで医療従事者になる為の勉強に必死になる余り、趣味らしい趣味を持っていなかったのだとか……
一応年頃の女の子らしく、流行りのファッションや美味しいスイーツ、テレビの中で歌って踊る可愛らしいアイドルなどには興味はあったらしいのだが、自身の要領があまり良くなかった事を自覚していたと言う望は、娯楽に費やす時間をも勉強に充てていかないと、悟の様な立派な医療従事者にはなれないと考え、実際にその通りに行動をした結果、そう言った類のものに極めて疎くなってしまったのだそうな……
この話を聞いた直後、同好会のメンバーの誰もが複雑そうな表情を浮かべ、空の部屋の中に重苦しい空気が流れ始める……。その中でも特に、トップアイドルとして今も色々な場所で大活躍している妹を持つ通の表情には悲愴感が漂っていた……。恐らく妹の事を望に認知されていない事が、心の奥底から悲しかったのだろう……
そんな中、望は自分の趣味を探す事を決意したものの、どんな事を趣味にしたらいいものかと悩んでいたところで、光太郎からこの集まりの事を聞き、集まりの事を心底楽しみにしている様に話す光太郎の姿を見て、普段は誰にでも優しく、その雰囲気から頼もしさを感じさせる光太郎を、こうまで変えてしまう特撮作品に興味を持つ様になった事を話すのであった
此処まで静かに望の話を聞いていたメンバーの殆どが、望を参加させてもいいのではないか?と言う雰囲気を漂わせ始めるのだが……
「待てお前達……、冷静になって考えろ……。今回俺達が視聴しようとしている作品が、一体何だったか思い出せ……っ!」
表面上冷静を装いながら、内心では激しく動揺している空が待ったをかけ、それによってメンバーの誰もが、何かを思い出したかの様にハッとして、空の手元に視線を向ける……
その視線の先にあったのは、グロテスクな表現が多い事で有名な仮面ライダーアマゾンズ SEASON2のブルーレイコレクション……、そう、これが本日特撮同好会で視聴する予定となっている特撮作品なのである……
これを望に見せるのは流石に不味いのではないか……?そう思った同好会のメンバーが、誰からともなく空の下に集まり、今日見る作品を変えるべきではないか?と円陣を組んで話し合いを始めるのだが……
「この方が主人公なんですか?何か変身した光太郎さんみたいでカッコイイですねっ!」
同好会のメンバーが話し合いをする中、いつの間にか部屋の中に入り込み、ブルーレイコレクションのパッケージを手に取って眺めていた望が、その両目をキラキラさせながらこの様な事を言い、そんな望の様子から誰もが見る作品を今から変える事は叶わないと悟り、渋々と言った様子で視聴する準備を整え、望を特別ゲストとして迎え入れ、空が代表として再生ボタンを押して飲み会を開始するのであった……
それから約7時間後……、空の部屋の壁に掛けられた時計が深夜の2時を指し示す頃……
「うぅ……、千翼君……、千翼君がぁ……」
全13話の視聴を終えた望は両目からボロボロと涙を零しながらこの様な事を嗚咽混じりに呟き、その様子を見た同好会のメンバーは、思わず苦笑いを浮かべていたのであった……
如何やら望は作品を見ていく内に、SEASON2の主人公である千翼及びアマゾンネオのファンになってしまったらしく、戦闘シーンでは悟の手伝いによって培われた、長門屋屈指のグロ耐性のおかげでグロ描写に特に動揺する事無く、やや興奮した様子で千翼に声援を送ったり、終盤では届かないと分かってはいるものの、千翼を制止しようと必死になって悲痛な叫びを上げていたのであった
そして千翼が迎えた結末を目の当たりにした望は、心の内側から湧き上がって来る感情を涙に変え、泣き崩れてしまうのであった……
そんな望を落ち着かせようと、少し酒が入った事でおぼつかなくなった足取りで、光太郎が望の傍に近寄ったその時である……
「っ!?」
「うぉっ?!っとわっしょおおおぉぉぉーーーいっ!!」
本当に何の前触れも無く、唐突に望の背中からまるでさっき見ていたアマゾンズSEASON2に登場する6本腕のアマゾンの触手の様な物が、光太郎を貫かんとばかりの勢いで飛び出して来て、それを間近で目の当たりにした光太郎は、驚きながらも急いで半身をズラして回避し、光太郎の後ろで座って酒を呑んでいたシゲは、突然視界に飛び込んで来た触手の槍に光太郎以上に激しく驚きながらも、即座に床に背中を叩きつけんばかりの勢いで寝転がり、寸でのところで触手を回避する事に成功するのであった……
「えっ!?皆さんどうしたんですかっ?!」
余りにも突然過ぎる出来事に、同好会のメンバー全員が唖然とする中、シゲの声に驚いてビクリと身体を震わせた望は、状況が全く掴めていないのかオロオロしながらこの様な言葉を口にするのであった……