さて、時間の事などスッカリ忘れて、戦治郎達はいつもの浜辺で引き続き江田校祭での出し物の話題で盛り上がっていた
「取り敢えず戦艦、空母、重巡、潜水艦、整備科の出し物については大体分かったが、他のところはどんな感じの奴をやるつもりなん?」
「これは五十鈴さんから聞いた話なのですが、如何やら軽巡科はお化け屋敷をやる予定だそうですよ?」
その最中に戦治郎が一旦話を纏め、まだ出し物の事を話していない艦種の候補生が、話題を出し易くなる様に話を振ってみたところ、戦治郎の傍でこの駄弁りに参加していた大和が、何処か淡い期待を抱いた様な雰囲気を辺りに漂わせながら、五十鈴から聞いたと言う軽巡科の出し物について触れるのであった
大和が聞いたところによると、軽巡科の候補生達は鉄板ネタは外せないと言う理由で、出し物をお化け屋敷にしたらしい
ただこの話、ここで終るかと言うとそうではない
軽巡の候補生達は、やるならクオリティーの高い出し物にしたいと言う事で、各役割に人を割り振った後にその中から代表者を選出、その代表者は時間がある時には積極的に自分達の出し物のモチーフとなるVRホラーゲームをプレイしてもらい、その内容を何とか記憶した代表者達は、それを基に様々な指示を出す様にしたり、セットや衣装を作る様にしているのだそうな……
因みに如何して教官と言う立場である都合、軍学校選抜演習のメンバー選出などで忙しいはずの五十鈴が、此処まで軽巡科の出し物について詳しいのかと言うと、彼女は時々教え子達の様子を見る為に、出し物の準備で慌ただしい軽巡科の教室を訪れていたのだが、日を追う毎に数名の候補生達が、目に見えてやつれていっている事に気付き、それが如何しても気になってしまい、候補生達にその理由を尋ねたからである
「VRホラーをベースにしたお化け屋敷か……、VRホラーは横須賀にいる時にちょっちだけプレイしたが、アレマジで怖ぇよな……。うん、これ聞いてちょっち興味出て来た。って事で大和、時間が合ったら一緒に行ってみねぇか?」
そうして話を聞いていた戦治郎は、そう言って大和をお化け屋敷に誘い、戦治郎の口から望んでいた通りのセリフを聞いた大和は、内心では何処ぞの新世界の神の如き悪そうな笑みを浮かべ、表面上では思わず目が眩みそうになるほどの、それはそれは眩しい笑顔を浮かべて、戦治郎の提案を快諾するのであった
尚この時、榛名は物凄く残念そうな表情を、鈴谷は心底悔しそうな表情を浮かべていたのだが、その事実に気が付いていたのは、今回の件での勝者である大和唯一人だけだったりする……
さて、軽巡科の出し物が判明したところで、軽巡と同じく艦種名に軽の文字が付く軽空母科の瑞鳳が、自分達の科の出し物について語り始めるのであった
「軽空母科は艦載機のエンジンをモチーフにした、ピタゴラスイッチみたいな物を展示する予定になってるわね。それで来場者の皆さんには、それが展示されてる軽空母科の教室に入る前にある程度の規模のグループになってもらった後、その中の誰かに展示物に付けられた的目掛けて、真っ直ぐ飛ぶ様に先端に重りを付けた紙飛行機を投げてもらって、仕掛けのスタートを切ってもらう感じにしようって考えてるの」
「その口振りから思うに、瑞鳳よぉ……、その展示物のモチーフとギミック、全部おめぇが考えただろ……?」
「あ、やっぱり分かっちゃう?」
瑞鳳の話を聞いた戦治郎は、ジットリとした視線で瑞鳳の事を見つめながら、彼女に向かってこの様な事を尋ね、それを受けた瑞鳳はウインクをする様に片目を閉じ、悪戯っぽくチロリと舌を出しながら、この様に返事をするのであった
因みにこのピタゴラスイッチ、ギミックが作動すると艦載機の機構などに関する説明が書かれたプレートなどが出て来る様になっているらしく、来場者達はギミックを楽しむだけではなく、艦載機に関する知識を高められる様になっているのだそうな
又、これらの仕掛けは次のグループの待ち時間を短縮する為に、展示物を見終えた来場者達が教室を出た後、直ぐにギミックが作動していない、元の状態に戻せる様に工夫がされているのだとか……。因みにこれらも全部、瑞鳳が提案し作った物なのだそうな……
こうして瑞鳳の話を聞いて、多くの者が軽空母科の出し物に興味を抱く中……
「流石瑞鳳さんだわ……」
「こりゃ大学で身に付けた知識と技術で、反対する奴等を全員まとめて捻じ伏せたんだろうなぁ……、正直たまげたなぁ……」
軍学校に入る前から瑞鳳と面識がある瑞鶴と、軍学校内での物作りの際に、度々瑞鳳とコンビを組んでいる戦治郎は、その表情を引き攣らせながら、それぞれこの様な言葉を呟くのであった……
さて、軽空母科の出し物の発表が終わったところで……
「あら?もしかして今日の自主練は、もう終わっちゃったんですか……?」
軍学校選抜演習に関する資料などを作成すると言う理由で、自主練に参加するのが遅れてしまうと前もって連絡していた鹿島が、1枚の書類を片手に浜辺に姿を現すのであった
因みに戦治郎の護衛任務を受けている大和と、資料作成をしていた鹿島以外の教官達は、艦娘候補生達の夜間外出を阻止するべく、軍学校による指示で敷地内の警備を行っている為此処には来ていない
この期間中は江田校祭の出し物の為と言う理由があれば、大体の事は容認されてしまうところがあるが、夜遊びが出し物に役立つとは到底思えない上に、出先で人攫いなどの犯罪に巻き込まれてしまう可能性がある事や、何かしらの問題を起こしかねない事から、夜間外出に関しては流石にNGが出た様である
「鹿島か、書類作成お疲れさん。今は休憩中でな、各科の出し物についてちょっち話してたんだわ。ってそういや鹿島は海防艦の担当だったっけか?なら海防艦の出し物について何か知ってるんじゃねぇか?」
「あぁ、そう言う事だったんですね。それで海防艦の皆さんの出し物なんですけど、厳密に言えば出し物では無いものをやる予定になっていますね」
鹿島の存在に気が付いた戦治郎が、ふと思い出した様に鹿島に向かってこの様に尋ねると、鹿島は少し考え込む様な素振りを見せた後にこの様な言葉を口にして、その言葉の意味がよく分からなかった為か、それを聞いたこの場にいる誰もが思わず小首を傾げるのであった
鹿島が言うところによると、如何やら海防艦達は江田校祭が開催されている間、軍学校内の清掃活動を担当する事になっているらしい
「様々な理由が重なった結果、海防艦の適正を持っているにも関わらず、軍学校に入学出来る様になったのが大人になってからと言う人も、この世界にはいたりするんですけど……」
「まあ入り辛ぇよなぁっ!社会の荒波に揉まれた後、ようやく軍学校に入学出来る様になったから入学しました!って感じで実際に入ってみたら、周りは愛国心激高の親御さんの方針で入学した、幼稚園児や保育園児みたいな娘ばっかでした~とかだったら、立つ瀬無ぇからなぁっ!」
江田校祭期間中の海防艦の役割について話し終えた鹿島が、苦笑しながらこの様な言葉を口にすると、戦治郎は何処かくたびれたOLの様な20代後半くらいの、海防艦の適正を持つ架空の女性を思い浮かべながら、この様な言葉を言い放つのであった
因みに戦治郎が言った内容に少し補足を入れると、海防艦の艤装は他の艦種の艤装よりも小型で比較的扱い易く、価格も他の艤装と比べて安価で入手し易い事から、愛国心が強かったり、見栄っ張りな両親を持つ海防艦適正持ちの子供達は、各種予防接種のついでに艦娘適性検査を受け、そこで海防艦の適正が見つかれば、家庭の事情に何等かの問題が無い限り、幼稚園や保育園への入園そっちのけで軍学校へ入学する為の教育を施され、幼いながらも親元を離れて軍学校に入学させられるのだとか……
その様な事情がある為、海防艦と言う艦種には小さな子供が多く、海防艦科の教室は幼稚園に入る事を楽しみにしていた子供達の期待に応えるべく、まるで幼稚園の教室の様な様相と空気を醸し出しており、海防艦の適正持ちの大人が非常に入りにくい状態になっているのである……
話を戻して、海防艦科の出し物が鹿島の口から知らされた事で、いよいよこの場で知る事が出来るのは、駆逐艦科の出し物だけとなるのであった
「トリは私達か……」
「他の科の出し物も、よく趣向が凝らされていて、興味深いものになっていましたね……」
「じゃがっ!ウチらの出し物も、皆の出し物に引けを取らんものになっちょるはずじゃっ!」
磯風、浜風、浦風の3人は口々にそう言った後、相当出し物の内容に自信があるのか、堂々とした様子で自分達の出し物について語り始めるのであった
彼女達が所属している駆逐艦科は、如何やら主計の候補生達と提携して、食べ物に関する屋台を出し物としてやる予定になっているのだそうな
只、軍学校の中でも最も生徒数が多いとされている駆逐艦科全体で、1つの屋台をやる訳では無く、駆逐艦科全体から主計の候補生を最低1人は混ぜたグループを幾つか作り、そのグループ単位で1つの屋台を経営する様になっているのだとか
こうしてグループ分けが行われた訳なのだが、彼女達は奇跡的に3人共同じグループになり、更には主計科から来た候補生も、布都御魂製作時に行った昼食作りの際、浜風と浦風と面識を持った人物が来てくれたおかげで、グループ内の空気は他の所と比べてかなり良好なのだそうな
さて、そんな彼女達が自信を持って提供しようとしている、屋台の食べ物が一体何なのかと言うと……
「私達が提供するのは、ズバリ卵焼きだ」
磯風がそう言い放った直後、卵焼きと言う単語に瑞鳳が即座に反応、真剣な表情を浮かべ、姿勢を正して磯風達の話を聞く体勢となり、他の艦娘候補生達は卵焼きと屋台がイメージの中で上手く結びつかないせいか、怪訝そうな表情を浮かべるのであった
「それも只の卵焼きではありません……っ!」
「ほぐした辛子明太子をふわっふわの卵焼きで優しく包み込んだ、明太卵焼きじゃっ!!」
瑞鳳以外の誰もが怪訝そうな表情を浮かべる中、浜風と浦風はそんな候補生達の様子など意に介する事無く、自信たっぷりにこの様に言葉を続け、2人の言葉を聞いた瑞鳳だけでなく、戦治郎までもがピクリと身体を震わせて反応するのであった
「私達はこの間の長期休暇中、軍学校を卒業した後に戦治郎さんが着任する予定となっている、長門屋鎮守府と言う現在建設中の鎮守府を見学して来たんだが……」
「なぬっ!?それちょっと詳しくっ!!」
「榛名、その鎮守府の事が凄く気になりますっ!!」
屋台のメニューを決めた切っ掛けについて、磯風が当時の事を思い出す様に瞳を閉じ、ゆっくりと話し始めた訳なのだが、その中で鈴谷と榛名が長門屋鎮守府と言う単語に凄まじい勢いで食い付き、その双眸を輝かせながら長門屋鎮守府について質問しようとするのだが……
「は~いそこの2人~、長門屋については後でおっちゃんがじっくりたっぷりねっちょり教えてやっから、今は陽炎型達の話を静かに聞いてやってな~」
そこですかさず戦治郎が話に割って入り、興奮した2人を制するのであった
その後磯風は戦治郎に礼を言い、話を再開するのであった
磯風達は長門屋鎮守府(張りぼて)で、翔が作った料理を食べている最中に江田校祭の出し物の事を思い出し、もしかしたら翔の料理は出し物の参考になるのではないかと考え、最初に準備されていた料理とは別に、全て食べ切る事を条件に、翔に少々無理を言って様々な料理を作ってもらったのだとか……
只、それでも中々ピン!と来る様なメニューが出て来る事は無く、3人がテーブルを囲んで揃って頭を悩ませていると……
「そこで悩み苦しむ私達の様子を見ていた翔さんが相談に乗って下さり、その結果私達は明太卵焼きと言う答えに辿り着いたんです」
「あの時、翔さんが実際に作ってくれた明太卵焼きは、本当に美味しいものだったな……」
「辛子明太子のピリ辛と卵焼きの優しい甘みが、互いの手を取りあっちょるかの様にそれぞれの旨味を引き立て合っちょって、ホンマに美味しかったのう……」
如何やらそんな3人を見ていられなかったのか、翔が3人の相談に乗ってあげた様で、そのやり取りの中で食べた翔特製明太卵焼きを食べたと言う3人は、その時に感じた旨味を思い出したのか、恍惚とした表情を浮かべ始めるのであった……
「明太卵焼きは翔の入れ知恵か……、確かにこれはアリだな……。福岡の屋台の中には、酒のつまみとして明太卵焼きを提供しているところがあるかんな……」
「ウチらは翔さんからそれを教えてもろうた事が決定打になって、明太卵焼きでいく事にしたんじゃ!」
「屋台の中には軍学校からの許可を得て、缶ジュースと一緒に缶ビールも販売するところがあるらしいからな、それを上手く使わせてもらおうと思っている」
「それ以外にも、この軍学校の催しは江田島軍学校だけではなく、他の地域の軍学校でも同時期に開催される為、江田校祭の来場客は基本広島や広島近辺の県の方々が中心になると予想され、そう言った方々を引き付けるつもりならば、広島風お好み焼きの様な地元の名物料理を出すよりも、広島県外の料理を提供した方がいいかもしれないと、翔さんからその様にアドバイスされました」
「確かに!それに今の皆の様子を見れば分かるけど、卵焼きと屋台は中々結び付きにくいところがあるから、尚の事お客さんの好奇心をくすぐる事が出来そうだし、私もこれは良いと思うっ!」
そんな磯風達の様子を見ていた戦治郎が、まるで作戦会議でもしているかの様な、それを見た大和が思わずうっとりしてしまいそうな……、いや、実際にうっとりしてしまっている真剣な表情を浮かべながらこの様に呟くと、磯風達はその声によって我に返り、戦治郎の呟きに対してそれぞれ返事をし、それを聞いていた瑞鳳はメニューに明太卵焼きを選んでくれた事がよっぽど嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべながら戦治郎達のやり取りに加わるのであった
更にこの後、磯風の口から屋台で使用する辛子明太子は、翔がゾアと共に鎮守府の食堂に食材を提供してくれる店を探すと言う名目で、福岡中を巡って見つけたオススメの店の物から良質な物を厳選した物を、江田校祭の前日くらいに翔から送られる手筈になっている事が告げられ、それを聞いた戦治郎は……
「おし、磯風達の屋台に行く時は、白米持参するわ……っ!これが米に合わないとか、絶対に有り得んだろ……っ!!」
そう言って磯風達の屋台に絶対に行く事を約束するのであった
さて、こうして戦治郎達の中に関係者がいない水母科以外の出し物が判明し、そろそろこの話を終わらせて自主練を再開しようと言う空気が漂い始めたところで、不意に瑞鶴が鹿島の方を指差し、この様な事を言うのであった
「そう言えば、鹿島教官がずっと持ってるその書類って、一体何なの?」
「あ、これですか?これはさっき私が書き上げた、軍学校選抜演習の参加メンバーの一覧表です。本当はまだ生徒達には見せちゃいけない物なんですけど……、此処にいる皆さんなら、全く無関係ではないので見せてもいいかな?って判断して、1枚多めに印刷して持って来ちゃいました」
瑞鶴の問いに対して、鹿島はこの様に返事をしながら件の一覧表を自身の顔の前まで上げてみせ、先程鹿島から無関係ではないと言われた艦娘候補生達は、こぞってその書類に目を走らせるのであった
「おぉぅ……、確かにこりゃ無関係じゃねぇな……。此処にいるメンバー全員、これに名前載ってるし……。って……」
艦娘候補生達と同じ様に、一覧表に目を通していた戦治郎は、自分までもが指揮官として参加する事になっている事に思わず苦笑するのだが、その次の瞬間、今度は怪訝そうな表情を浮かべながらある点を凝視し始め……
「誰だこいつら……?」
思わずこの様な言葉を口走ってしまうのであった……
そんな戦治郎が凝視していた欄には……
第二艦隊旗艦 軽巡
第二艦隊随伴艦 水母 日進
戦治郎達の没後に艦隊これくしょんに実装された為、戦治郎達が全く知らない2人の艦娘の名前が記載されていたのであった……