「ねぇ戦治郎さん、さっきの誰だこいつらって発言についてなんだけど……」
「あぁ、あれなぁ……、実はマジのガチで分かんねぇんだわ……。この日進って水母とアトランタって軽巡についてはなぁ……」
「提督でも知らない事があるのですね……、ちょっと意外でした……」
あの後、戦治郎達は出し物の件で思った以上に時間が経過している事に気が付き、この日は取り敢えずこれで自主練を切り上げ、明日に疲れを残さない様にしっかり休息を取る為に自室に引き上げた訳なのだが、先程の戦治郎の発言がどうしても気になった瑞鶴が、軍学校選抜演習の参加者一覧表を持つ鹿島を巻き込んで、戦治郎達の部屋にやって来たのである
そして戦治郎達の部屋に上がり込んだ瑞鶴は、開口一番先程の戦治郎の発言について尋ね、それを受けた戦治郎は困った様な表情を浮かべ、頭をガシガシと掻きながらこの様に返答し、それを戦治郎の傍で聞いていた大和が戦治郎の言葉に反応し、思わずこの様な言葉を口にするのであった
この大和の発言に対して、瑞鶴も同意見だとばかりにしきりに首肯し、その様子を見ていた戦治郎は……
「俺も全知全能って訳じゃねぇからな……、実際……、瑞鶴と鹿島は知らねぇと思うけど、俺がヘモジーって呼んでいる頭がイカレ切った転生個体は、俺がなってるこの戦艦水鬼とよく似た姿を持つ深海棲艦、戦艦水鬼改って奴の転生個体らしいんだが、この戦艦水鬼改って奴は、俺達は全く知らなかったんだよな……」
先程以上に困った様な表情を浮かべながらこの様に返答し……
「確か戦治郎さん達が持っている艦娘や深海棲艦に関する知識って、戦治郎さん達の世界にあるって言う、『艦隊これくしょん』ってソーシャルゲームから得たものなんですよね?」
それを聞いた鹿島がこの様な事を尋ねると、戦治郎はそれを肯定する様に、黙って首を縦に振るのであった
「ソーシャルゲームって事は、アップデートとかもあるって事よね……?」
「だな、この日進とアトランタって艦娘は、恐らく俺達が死んだ後に行われたアップデートで実装されたのかもしんねぇ」
「だから提督も、この2人の事はご存じなかったと言う訳なのですね」
「ただまあ、仮にこれが事実だったとしたら、どうしても気になる点があるんだよな……」
鹿島の問いを聞き、瑞鶴が自分の中で湧き上がった疑問を戦治郎にぶつけると、戦治郎は考え込む様な仕草をしながらこの様に返事をし、それを聞いた大和が何処か納得した様な表情を浮かべながらこの様な事を言うと、戦治郎は眉間の皺を更に深くしながらこの様に述べ、それを聞いた大和達は不思議そうに小首を傾げるのであった
さて、戦治郎が言う気になる点とは一体何なのか?
その答えは、このアップデート後の艦娘達の情報が、どうやってこの世界にもたらされたのかについてだ
この世界そのものの艤装の開発能力と言うものは、横須賀にいる間に戦治郎達が調べたこの世界に来るよりも前に発見されていた改二改修レシピの開発期間から考えても、お世辞にも高い水準にあるとは言えないものであった
それが爆発的に高まったのは、戦治郎達がアムステルダム泊地の件で長門達と遭遇し、戦治郎達が持つ艦これの知識を長門達に提供してからであるのだが……
(俺達の知識には限りがある……、つまりそれがこの世界の艤装開発能力の上限のはずなんだが……、何がどうなってこうなったのかは分からんが、今では俺達の知識にない艤装が生み出され、多くの艦娘達に使用されている……。いくら技術が向上したからって、この世界に存在していないはずの代物を、何の前情報も無く開発出来るとは考えにくい……。っとなると可能性が高いのは、どっかの転生個体が情報をこの世界に持ち込んだ線だが……、穏健派連合からはそれに関する報告はねぇし……、カルメンやアビスの連中の線は、組織の様子から考えて薄そうだな……。ってなると……、アリーさん率いるエデンの構成員の誰かが……?しかしそうなると、エデンは敵に塩を送る……って、あそこは戦争を激化させる事が目的だし、艦娘の強化はある意味都合が良いのか……)
この新しい艤装の情報を誰がこの世界にもたらしたのかについて、戦治郎は周りの者達の存在も忘れて、ついつい独りで静かに考え込んでしまうのであった
その時である
「だあああぁぁぁーーーっ!!!」
長い沈黙に耐え切れなくなったのか、突如として瑞鶴が大声を上げながら勢いよく立ち上がり、戦治郎はその叫びによって意識を強制的に引き戻されるのであった
「私達の事を無視して独りで考え込まないでよっ!そりゃ私とか戦治郎さん達ほど博識じゃないけどさ……、でも一緒に考える事くらいは出来るじゃないっ!皆で情報を共有する事で、何か答えに辿り着ける切っ掛けみたいな物を出せるかもしれないじゃないっ!!」
「すまん、それに関しては俺が悪かった……。だからちょっち落ち着け瑞鶴、今結構夜遅いんだから、大声張り上げたら他の教官達の迷惑になるから……」
その後、瑞鶴は戦治郎に向かって怒りを露わにしながらこの様に捲し立て、それを受けた戦治郎は瑞鶴に謝罪した後、そう言って彼女を宥め始めるのであった
それによって瑞鶴が落ち着いたところで、戦治郎は自分が先程考えていた事を瑞鶴達に話し、一緒にこの件について考えてみるのだが、判断材料が少なすぎる事もあって、結局この件に関しては答えを出せずに終わってしまうのであった
「取り敢えずこの件に関しては、後日空達にも連絡入れて一緒に考える事にするとして……。ときに鹿島よい、選抜演習の相手って何処の軍学校の連中よ?」
「それなんですけど……、今回の江田島軍学校の選抜演習の相手は、国内の軍学校の方々ではなく、イタリア海軍の主力艦隊なんだそうです……」
「「ファッ!?」」
戦治郎達にとって未知の艦娘の件についての話し合いを終わらせた後、ふと思い出した様に戦治郎が鹿島に向かってこの様に尋ねると、鹿島はばつの悪そうな表情を浮かべながら、たどたどしくこの様に返答し、それを聞いた選抜メンバーである戦治郎と瑞鶴は、思わず素っ頓狂な声を上げ、愕然としてしまうのであった……
鹿島の話によると、イタリア海軍はここ最近になってようやく艦娘の頭数が揃った様で、彼女達に経験を積ませる為の演習の相手を探していたのだそうな……
「いや待って?なしてイタリアはご近所さんのドイツやイギリスとやろうとしなかったのん?如何して遠路遥々日本に来て、軍学校の候補生達と演習しようとしてるのん?そこは横須賀の長門達とやるべきところでしょ~?」
「話によるとその2国とは既に演習を行い、完膚なきまでに叩きのめされているそうで、それが原因となってあちらの艦娘の皆さんの心が……」
「OK、把握。でもウチも接待プレイは出来ないんだよな~……」
「これでもし私達にも敗北したら、イタリア海軍はどうなっちゃうのよ……?」
「それは……、戦治郎さんの手腕で何とかしてもらうしか……。戦治郎さんが選抜メンバーに選ばれたのは、戦治郎さんならきっと何とかしてくれるだろうと言う事で、長門さん、源中将、レーダー総司令官、ヴァレンタイン総司令官の4名の連名で、戦治郎さんを指名されたからなんです……」
「アレはそう言う理由だったのかよっ!?指揮能力なら俺より勉や三原の方が上だって思ってたから、俺が選ばれたのは何でぞ~?とか思ってたら、そう言う事だったのかよちきせうっ!!!」
「うわぁ……、えっぐい連名……、これは戦治郎さんに指揮官やってもらうしかないわね……」
このやり取りの後、戦治郎は不満を爆発させて騒ぎ散らし、その様子を見ていた鹿島は苦笑を浮かべ、戦治郎が選抜メンバーに選ばれた理由を知った瑞鶴は、その表情を引き攣らせてドン引きするのであった
因みにこれは余談だが、この後鹿島が持って来たイタリア側の演習参加者の一覧表を見て、その中に戦治郎にとって未知の艦娘……、軽巡のアブルッツィとガリバルディ、駆逐艦のマエストラーレとグレカーレの名前があった事で、先程保留した話を蒸し返された様な気分になった事と、思った以上にその数が多かった事で戦治郎が軽く発狂し、奇声を上げながら一覧表を破り捨てそうになったのだそうな……