「ったく……、おめぇって奴ぁよぉ……、カトリーヌの尻撫でまわしただけでは飽き足らず、俺を射殺しようとするとかよぉ……。おめぇ、今自分がやってる事がどんな事か分かってやってんのか?」
先程の頭突きのせいで余計にベッタリと眉間に張り付いてしまった鉛玉を、指先で掻き毟る様にして取り払う事に成功した戦治郎は、溜息交じりにこの様な言葉を口にしながら、未だに先程の頭突きの衝撃から立ち直れていないのか、床にへたり込んだまま左右にユラユラと頭を揺らすロッソの下へとゆっくりと歩み寄り、彼の目の前まで辿り着くと、少々行儀が悪いがうんこ座りをして彼の顔を覗き込み始めるのであった
と、その直後である
「俺がやった事は国際問題になるってか……?その言葉……、そっくりそのまま返してやんよぉっ!!!」
戦治郎が自身の顔を覗き込んで来る事を待っていましたとばかりに、ロッソはそう叫ぶと突然左右に頭を揺らすのを止め、眼前の戦治郎の口の中に手にしたデザートイーグルの銃口を、戦治郎の顔を覆い隠すフェイスベール諸共無理矢理ねじ込み、そのトリガーを引こうとするのであった
しかし……
「ふんぐぅっ!!!」
如何やらロッソがそうしてくるだろうと予測していた戦治郎は、下顎に全身全霊の力を込め、くぐもった気合の雄叫びと共にデザートイーグルの銃身を、フェイスベールごと噛み千切って見せるのであった
これには流石のロッソも、そしてロッソの秘書艦として今までの様子を静観していたリットリオも激しく動揺し、戦治郎に噛み千切られたデザートイーグルを目を丸くしてしばらくの間眺め、我に返ったロッソは舌打ちしながら噛み千切られたデザートイーグルを校長室の隅に投げ捨てるのであった
尚、こんな芸当を見せた戦治郎と大和はと言うと……
「あ"ぁ"~、金属片のせいで口の中がイガイガするんじゃ~……」
「口の中を濯ぐ為のお水をお持ちしましょうか?」
驚くイタリア海軍の2人そっちのけで、戦治郎は口の中の金属片を吐き出そうと、先程自分が噛み千切ったフェイスベールの切れ端に何度も唾を吐きながら、大和の方は戦治郎に換えのフェイスベールを手渡しながら、平然とした態度でこの様なやり取りを交わしていたのであった
それから間もなくして、デザートイーグルを投げ捨てたロッソが、今度は袖の内側に仕込んでいた大型のナイフを引き抜き、すぐさま戦治郎に斬りかかろうとするのだが……
「ロッソ総司令官、流石にこれ以上の蛮行は許容出来ませんよ?もしこの警告以降に、その手に握ったナイフで提督に斬りかかろうとすれば、この件を国際問題として各所に報告せざるを得なくなってしまいますよ?」
戦治郎とロッソの間に即座に大和が割って入り、ロッソに険しい表情を向けながらそう言い放つのであった
しかし……
「だったらこっちも、そちらがやってくれたイタリア海軍のメインサーバーへの不正アクセスの件を、国際問題として報告する事になっちまうんだが……、それに関してはどう言い訳するつもりなんだ?」
ここでロッソは不敵な笑みを浮かべながら、戦治郎の指示で行ったイタリア海軍へのハッキングの件を持ち出して来るのであった
これに対して大和が一瞬驚いた後、ロッソの発言に対して返す言葉を見つけられず、困った様な表情を浮かべて言い淀む中、戦治郎はロッソの発言に思わず右眉をピクリと動かし……
(こいつ……、あの護とイオッチのハッキングに気付いたって言うのか……?特にイオッチのハッキングに関しては、通常の人間じゃほぼ確実にハッキングされた事実を認識出来ないレベルの芸当のはずなのに……。まさかあっちにも護や盾井さん並の凄腕のハッカーがいるってぇのか……?)
内心で思わずこの様に呟き、思考を巡らせ始めるのであった
しかしそれも長くは続かず、戦治郎は次のロッソの言葉によって、すぐに我に返る事となるのであった
「そっちがやってくれたハッキングの件、
この言葉を受けた大和は沈痛な面持ちを浮かべながら完全に沈黙してしまい、戦治郎も表情にこそ出さないものの、内心ではその様な命令がロッソに下されるのも仕方ないだろうと、苦笑しながら呟くのであった
実際問題、ロッソがやった事も国際問題だが、戦治郎達がやった事も大概なのである
イタリア海軍に所属する者達の個人情報と、大小様々な軍事機密がミッチリと詰まったメインサーバーにハッキングを仕掛け、重要なデータを抜き取ると言うのも十分問題行動なのである。これは幾ら戦治郎が世界的に重要な人物であったとしても、とても許される様な事ではないのである
この事もあって、戦治郎はイタリア海軍が護達のハッキングに気付いた点について疑問を抱きながらも、各国の間に綻びを作らない様にする為に、ロッソによる戦治郎襲撃の件は、校長達を上手く言いくるめた上で無かった事にする事にし、ロッソの方も護衛の目が厳しく、任務を遂行出来なかったとイタリア政府に虚偽の報告をする事になるのであった
しかしまぁ、これで全てが丸く収まったかと言うと……
「国際問題の件はこれでいいとして……、おめぇがカトリーヌにやってくれた件については、どう落とし前つけるつもりなんだ?おぉん?」
「あんなもん、
全然そんな事は無く、戦治郎達は額がくっつく様な距離まで顔を近付け、互いにメンチを切りながら、ロッソが香取に対して行ったセクハラの件について、この様な約束を取り交わすのであった
このやり取りの後、ロッソはリットリオを連れて校長室を出ていき、戦治郎はそんなロッソの背中にファックサインを向けながら、抗議団体の妨害のせいで相変わらず復旧が進んでいない呉鎮守府の代わりに宿泊する事となっているホテルに向かう彼らを見送るのであった
その途中、ロッソは不意にリットリオにトイレに行きたいと告げ、それを受けたリットリオは……
「分かりました、では誰もトイレに入って来ない様、私が入口の方で見張っていますね」
ロッソの言葉で何かを察したのか、そう言うと事前に頭の中に入れておいた校舎の見取り図の中から、この場から最も近い男子トイレの場所を見つけ出し、そこにロッソを案内すると先程の宣言通り、そのトイレに誰も近づかない様にする為に見張りを開始し、トイレに案内されたロッソは感謝の意を込めてリットリオの頬に軽く口づけし、洋式トイレがある個室に入って扉に鍵を掛け、ズボンも降ろさずに便器に座り込むと、右のこめかみに右人差し指を当てながら静かに目を閉じ……
(お~い、聞こえてるか~?)
言葉を口には出さず、心の中で誰かに呼び掛け始める……
すると……
(聞こえてるよ、お疲れ様だったねロッソ)
何と何者かがその呼び掛けに応え、ロッソの頭の中に直接語り掛けて来るのであった
(おめぇが作ってくれた台本通りにやったら、マジで事がトントン拍子に進んでいきやがったぞ……)
(そう言ってもらえると、僕もやった甲斐があってとても嬉しいよ。でもまぁ、イオドのハッキングに気付く事が出来たのは、本当に偶然だったんだけどね……)
(あぁ……、確かおめぇがこの間ド淫乱クソビッチの姉の暴虐ぶりに耐え兼ねて、ウチの本拠地に避難して来た時だったっけか……)
(そのおかげであの台本が作れたんだけど……)
(ノリと勢いで性転換して知り合いの女レイプして、挙句の果てに妊娠させて無理矢理子供生ませた様な姉に感謝はしたくない……、だっけか?)
(そう、それ。ホントにマイノグーラさんには申し訳ないと思ってるよ……)
(おめぇの義兄さん、何でそんなのと結婚する気になったんだろうな……?)
(さぁ……?)
それからしばらくの間、ロッソはこの謎の存在と他愛もないやり取りを交わした後……
(まあ姉さんの事はこの辺にして、例の戦治郎って人はどうだった?)
(戦士としては特上クラスだな、正直あんな奴と直接戦う様な事はもう二度としたくねぇ……。んで指揮官としては……、今度の演習で判断するしかねぇってとこだわ)
(きっと指揮官としても優秀なのかもしれないね、何せ彼はクトゥルフさんが統治するルルイエと人間達との間を取り持った人や、アトラク=ナクアを武力で従えさせている人を従えているんだからね)
(やめてくれ……、それ聞くと頭がおかしくなっちまいそうになっから……)
今度は戦治郎の話題を出し、各々の評価を口にするのであった
その後、そろそろトイレから出ないと周囲から怪訝に思われるかもしれないからと言う事で、ロッソは話を切り上げようとし……
(そいじゃ、また何かあったら連絡するわ。ホント今回はありがとうな、ニィ=ラカス)
(これくらいの事でいいなら幾らでも、僕からしたらロッソは大切な友人で、恩人でもあるんだからね)
互いにこの様な言葉を交わした後、ロッソはクトゥルフ神話において最高神に位置付けられる外なる神、ヨグ=ソトースの妻である外なる神のシュブ=ニグラスの弟とされる外なる神、ニィ=ラカスとの交信を止めて、トイレから出ていくのであった……