※この作品はR-18です。

鬼の鎮守府   作:稲荷童子

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マフィア出身の総司令官 その1

戦治郎達がロッソと邂逅したその日の夜、医者としての資格を取る為に太郎丸達と共に横須賀に残っていた悟は、横須賀市内にあるとある場所でくつろいでいた

 

「悟さんや、アンタ本当に最近腕を上げたなぁ」

 

「くきき、そりゃぁアンタの教え方が上手かったからなぁ。まぁ俺が皮膚科に関する知識を持っていて、それを上手く応用する事が出来たのも、上達の要因なのかもしんねぇけどなぁ」

 

そんな中、悟の傍に腰掛けて悟同様くつろぐ中年くらいの男が、火の付いた煙草を片手に悟に話し掛け、それを受けた悟はいつもの気色悪い笑いを零した後、自信満々にこの様に答えるのであった

 

さて、悟とこの男性の関係や2人がいるこの場所は一体何処なのかと、疑問が浮かんで来るところだが、その答えはこの男性の腕や脚をよく観察すると分かる事だろう

 

問題のその男、よく見ると身体の至る所に刺青を入れているのである

 

本人曰く、駆け出しの頃に仕事の練習をする際、自分の身体を練習台に使っていたところ、このような状態になってしまったのだとか……

 

そう、現在悟達がいるこの場所は、この男が経営しているタトゥースタジオであり、悟は病院での仕事を終えた後、彫師としての経験を積む為にこのタトゥースタジオでバイトをしているのである

 

如何して悟がこの様なバイトをしているのかと言うと、大体無茶な方法で腕に刺青を入れた戦治郎が原因となっている

 

悟としてはあの不細工で痛々しさが前面に出ているタトゥーを何とかしたいのだが、消すと言えば戦治郎が有り得ないくらいに猛反発し、専門家の所に行けと言えば施術中に自分が転生個体である事がバレるかもしれないからと拒否するのである

 

その辺の事情を考慮して、件の刺青を見栄えよくする方法を考えた結果、悟は自分が彫師となって刺青を綺麗にすればいいと言う結論に至り、彫師としての知識や技術を手に入れる為に、このタトゥースタジオでバイトをする事にしたのである

 

まあそれはさて置き……

 

「しかしまぁ、戦争って奴は本当に人を狂わせちまうモンなんだなぁ……」

 

「あん?」

 

刺青だらけの店主と悟が休憩中に他愛もない話をしていると、ふと思い出したかの様に店主がこの様な事を呟き、戦争と言う単語に反応した悟は、思わず店主にその発言をした理由を問う様に、彼の方に視線を向けながら声を上げるのであった

 

「ほら、この間来た旦那が言ってただろ?どっかの国のマフィアの頭が、海軍の総司令官に任命されたって。俺はその話聞いて、その国は頭がおかしいんじゃねぇか?って思っちまった訳よ」

 

「あぁ……、その話なぁ……。確かによぉ、現状国の存亡がかかってる様なとこに、そんなやべぇヤクザモンを据えるとか、正気の沙汰じゃぁねぇよなぁ……」

 

自分の呟きに反応した悟に対して、店主が理解に苦しむとばかりに渋い表情を浮かべながらそう言うと、悟はそれに同意する様に、どこか複雑そうな表情を浮かべながらこの様に答えるのであった

 

尤も

 

(でもまぁ、俺達を正式に軍属にしようとしてる日本は、その国を笑える立場じゃねぇんだよなぁ……)

 

悟は内心では、この様な事を呟いていたりする。それが少々表情に出てしまった為、悟は複雑そうな表情を浮かべていたのである

 

因みに先程店主が言った旦那と言うのは、横須賀市を拠点にして活動している裏社会の人間であり、この店は他の店とは違って深夜帯まで営業している都合上、この手の客が結構な頻度で来店し、時々この様な裏社会に関する情報をポロリと零してくれたりするのである

 

なので実のところ、悟は戦治郎達よりも少しばかり早く、ある人物に関する情報を少しだけ入手していたのである

 

その人物と言うのが、この日戦治郎達と邂逅し、挨拶代わりに戦治郎に鉛玉をプレゼントした、あのロッソの事なのである……

 

 

 

 

 

ここからはロッソがどの様な人物であるかについて、そしてニィ=ラカスとロッソが出会った経緯について掘り下げていこうと思う

 

このロッソと言う男は、元々は戦治郎やアルバートと同じく、イタリア南部にあるかなり裕福な家庭に生まれ、小さい頃は不自由のない生活を送っていたのであった

 

因みにそんなロッソには、幼い頃から付き合いのある許嫁がいた

 

だがそんなロッソの幸せな生活も、ある日突然終わりを迎えてしまったのである……

 

この世界の大企業のトップとして活躍していたロッソの父が、企業のトップとしての重圧や企業内での派閥争いなどで大きなストレスを抱え込んだ結果、法で禁止されている薬物に手を出してしまい、警察に逮捕されてしまったのである

 

これによって父親の会社は乗っ取られ、その会社からの損害賠償請求によって多額の借金を抱え、そのショックで母親が行方をくらませてしまい、挙句の果てには許嫁との婚約も破棄された上で絶縁宣言までされてしまい、ロッソは15歳と言う若さで路頭に迷う事となってしまったのである……

 

こうして天涯孤独の身となったロッソは、飢えを凌ぐ為にスリや置き引き、時には他人の家に侵入して盗みを働く事で金や食糧を調達する様な、極めて苦しい生活を送っていたのであった

 

そんな彼に転機が訪れたのは、彼の活動拠点であったナポリにて、盗みをしているところを見つかってしまい、その家の家主や近所に住む者達から袋叩きにされ、大怪我を負いながらも何とか自分の脚で歩き、自身の寝床としている場所に戻ろうとしている時だった

 

道中ですれ違う誰もがボロボロになったロッソを一瞥した後、我関せずと言った様子でロッソを避けて歩いて行く中、たった一人だけ、小綺麗なスーツを着こなす中年くらいの男性が、ロッソの姿を見るなり僅かな驚きを見せた後、彼の下へゆっくりと歩み寄り、何があったのか尋ねて来たのである

 

そんな男性に対して、ロッソは不信感を抱きながら自身がこうなってしまった理由について話し、それを親身になって聞いてくれた男性は、ロッソを自分の家へと招き入れ、風呂や食事を与えてくれるのであった

 

こうして久しぶりに人間の温かさに触れたロッソは、男性に対して如何して自分にそんなに優しくしてくれるのか?と尋ねてみると、男性は少し遠い目をしながら自身の過去について少しだけ話してくれるのであった

 

如何やら彼には妻の忘れ形見とも言える息子がいたのだが、とある事件に巻き込まれてしまった事でこの世から去ってしまったのだとか……

 

そしてこの日、ボロボロになったロッソを目にした時、思わず息を飲み、普段は碌に感謝もしていない神と言う存在に、この日ばかりは感謝したと言うのだ

 

何とこの男性の息子とロッソが、寸分違わぬほどによく似ていたのと、男性は昔撮影した物と思われるボロボロになった息子の写真をロッソに見せながら、そう言って来たのである

 

そう、この男性はロッソに死んだ息子の面影を重ね、いてもたってもいられなくなってしまい、思わずロッソに声を掛けたのだそうな……

 

こうして男性はロッソに声を掛けた経緯を語った後、ロッソに対してよければ自分と共に暮らさないかと提案し、特に行く当ての無かったロッソはその提案を受け、この男性と2人で暮らす事となるのであった

 

さて、そんな2人の生活だが、所々に普通では考えられない点が存在していた

 

その最たる例と言うのが、ロッソの教育に関してであった

 

普通ならばロッソくらいの年頃の子供は、学校に通ってそこで様々な事を学ぶ事となるのだが、この男性はロッソを学校には通わせず、男性が雇って来た家庭教師にロッソの教育を任せていたのである

 

それ以外にも男性はロッソに外出しない様に厳命し、どうしてもそれが納得いかないロッソがその理由を尋ねると、男性は何処か悲しそうな表情を浮かべながら言葉を濁すのであった

 

それから月日が経ち、やはり外出厳禁が納得いかないロッソが、男性が外出している隙に、盗みを繰り返していた事で身に付いた技術を用いて男性の部屋を漁ってみたところ、様々な事柄が明るみになるのであった

 

先ずこの男性の正体だが、何とこの男性はイタリア南部で暗躍する、中々規模が大きいマフィアの幹部の1人だったらしく、男性がロッソに外出厳禁を言い渡した理由には、彼が所属するマフィアと敵対していたマフィアが、彼の活躍によって大打撃を受け、その報復の為に彼の息子が乗ったスクールバスを襲撃、スクールバス諸共彼の息子を葬り去ったと言う、恐ろしい出来事が背景に存在していた事が発覚したのである

 

こうして男性の正体と外出禁止令の背景を知ったロッソは、男性の言う事は素直に聞いておこうと心に誓い、男性との生活を楽しむ事にするのであった

 

だが、それも長くは続かなかった……

 

男性が敵対マフィアの刺客に襲われて致命傷を負ってしまい、医師達の努力も空しく、搬送された病院で亡くなってしまうのであった……

 

その際男性は、自身の我が儘に付き合わせて済まなかったと言う、ロッソに対しての謝罪の言葉を口にしながら息を引き取ったらしく、その事を彼の部下から聞いたロッソは、自分の事を拾って手厚く世話をしてくれた男性に対しての、感謝の言葉を嗚咽混じりに述べながら、その場に泣き崩れてしまうのであった

 

こうして2度目の天涯孤独の身となったロッソだが、絶望感に苛まれるばかりの最初の時とは全く違い、この時の彼の瞳には、その名に違わぬ真っ赤な炎が宿っていたのであった

 

そう、彼は1つの覚悟を決めたのである……。彼が所属し愛した組織に入り、その組織を守る為に良く働く事、そして自分の恩人である彼を殺害した組織を、この世から完全に葬り去る事を、心に固く誓ったのである……

 

そうして彼が所属していたマフィアに入ったロッソは、これまでの経験で培われた技術や、彼の正体を知った後に彼から教え込まれた様々な知識を駆使して、彼に恩返しをする様に組織の為によく働き、時には自分の人生を狂わせるきっかけとなった薬物と戦い、抗争の際には組織の誰よりも勇猛に戦って組織を勝利へと導いていると、ロッソはその働きを幹部達やボスに認められ、恩人の後釜として組織史上最速で幹部の地位に就く事になるのであった

 

これはロッソが20歳の時の出来事であり、幹部就任の最速記録だけでなく、最年少記録も塗り替える出来事だったのだとか……

 

こうしてロッソが組織の幹部になってからしばらく経ったある日、ロッソは自身の運命を大きく変える様な、その生涯の中で最大クラスの転機の場面と出くわす事となるのであった……

 

その日のロッソは、日頃から頑張ってくれている部下達数名を連れ、食事会をする為にレストランに向かっていたのだが……

 

「……何ですかね?あれ……?」

 

ふと何かに気が付いた部下の1人が、とある方角へ顔を向けながら、不思議そうにこの様な言葉を発したのである

 

その部下に倣って、ロッソと他の部下達がそちらに視線を向けると、そこには余りにも異様な光景が広がっていたのであった……

 

先ず最初に見えたのは、何処か必死な形相を浮かべている様な気がする、異様に角の数が多い黒い山羊の姿であった……

 

そしてその黒山羊はロッソ達がいる方角に向かって走っており、その後方からは物凄い数の人間達が、目を血走らせ、時折金蔓などと叫び声を上げ、逃げる黒山羊を追う様に、土煙を上げながらこちらに向かって走って来ていたのであった

 

「……あいつら全員、あの黒山羊の事追い回してんのか?確かに角が多いのは珍しいとは思うが、それだけで金蔓って言うほどの稼ぎになるたぁ思えねぇんだけどなぁ……?」

 

その光景を目の当たりにして部下達の誰もが唖然とする中、ロッソはふと自分の中に湧き上がった疑問を何となく呟く。当然の事だが、それに対しての返事は返って来る事は無かった……

 

そんな事をしている間に、件の黒山羊はロッソ達の横を通り過ぎていき、それを視線で追っていたロッソが正面を向き直ると、そこには鬼気迫る表情で黒山羊を追っている大衆の姿が……

 

「……チィッ!」

 

大衆の足音で我に返った部下達が、迫り来る大衆に押し潰されまいと、蜘蛛の子を散らす様に逃げ惑い始める中、ロッソは大衆に鋭い視線を向けながら舌打ちすると……

 

「てめぇら一体何やってんだっ!!!」

 

鬼の形相を浮かべながら大衆に向かって叫び、それによってロッソの存在に気が付いた大衆は、顔色を真っ青にしながらその脚を止めて急ブレーキをかけ、鮮やかなターンを決めると……

 

「ぎゃあああぁぁぁーーーっ!!!ロッソ=ファウストだあああぁぁぁーーーっ!!!」

 

ロッソに負けないくらいの声量で悲鳴を上げながら、ロッソから逃れようと来た道を全力ダッシュで引き返していくのであった

 

「ったく……、寄ってたかって動物虐めてんじゃねぇよ……」

 

逃げた大衆を見送りながら、ロッソが呆れた様子でこの様な事を呟いていると、不意に自身の脚に温かさを感じ、思わずそちらに視線を向けてみると、そこには先程大衆に追われていた黒山羊が、ロッソの脚に自身の角が当たらない様に注意しながら、頭を擦り付けている姿があったのだった

 

「おめぇも災難だったなぁ……、……ん?」

 

そんな黒山羊に対して、ロッソが同情の視線を向けながらこの様な事を言い、何となしに頭を撫でてみたところ、ベチャリと言う音と共にロッソの手に泥を触る様な感触が伝わり、ロッソが表情を引き攣らせながら黒山羊を撫でた手を見てみると、そこには大量の泥と黒山羊の抜け毛が……

 

そこから視線を落とし、自身の脚の方を見てみれば、そこには泥と抜け毛まみれになったスーツのズボン……

 

恐らく大衆に追われている時に全身が汚れてしまったのだろうと、ズボンの汚れを見つめながらロッソが内心で呟いていると……

 

「そこの糞山羊っ!!!ロッソさんになんて事をっ!!!」

 

「やめんか馬鹿タレッ!!いたいけな動物に銃向けようとしてんじゃねぇよっ!!!組織の品格が疑われるだろうがいっ!!!」

 

騒ぎが収まった事に気付いて戻って来た部下達の1人が、黒山羊がロッソのスーツをグチャグチャに汚している事に気が付くと、懐に仕舞っていた銃を引き抜いて黒山羊を始末しようとするのだが、それをロッソがこの様な事を言いながら、彼の頭を小突いて制止するのであった

 

この騒動のせいで食事会は延期となり、ロッソは部下達に守られながら家に帰る事となったのだが……

 

「ほれ、おめぇも付いて来い。全身泥だらけだと気持ち悪ぃだろ?その汚れ落としてやっから、俺について来な」

 

何となく……、本当に何となくではあるが、黒山羊に昔の自分の姿が重なってしまったロッソは、黒山羊に向かって手招きしながらこの様な事を言い、それを受けた黒山羊は、嬉しそうにロッソに付いて来るのであった

 

これが後にとある事情でイタリア海軍の総司令官となるロッソと、山羊の姿をした外なる神であるニィ=ラカスの出会いなのであった

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