時は戻って戦治郎とロッソが対峙した日の夜、戦治郎はいつもの浜辺でいつものメンツに日進の事を紹介し、いつも通りに自主練を行って解散した後、自主練の前に予め連絡を入れておいた戦治郎達の事情を知る艦娘達を自分達の部屋に集めていた
そして全員が集まった事を確認すると、戦治郎は今日起こった校長室での出来事について話した後……
「カトリーヌに対してのセクハラについて、謝罪するどころかこっちを煽ってくる様な真似をし腐ったので、イタリア海軍との演習では奴らを情け容赦なく、徹底的にボッコボコにしてやろうと思ってんだ」
「演習に参加する候補生の皆さんは、戦治郎さんの言う通り手加減無しでやっちゃってくださいっ!!」
戦治郎は演習においての自分の方向性について話し、香取に対して行われたセクハラに憤りを感じていた鹿島が、怒りを露わにしながらこの様に続く
そうして戦治郎の話を静かに聞いていた艦娘達は、何とも言えない様な複雑な表情を浮かべながらも戦治郎の考えに同意するのであった
どうして艦娘達が微妙な反応をしたのかと言えば、今回の事件の切っ掛けとも言える戦治郎の指示で行われた不正アクセスが大体の原因である
確かに得体の知れない相手と言うものは、本当に恐ろしいものである。事実転生個体が出現するよりも以前から、この世界の日本帝国海軍は深海棲艦達と戦っており、未知の個体が出て来る度に相手の弱点を探る為に何度も戦闘を行い、多くの犠牲を払いながら弱点を発見し勝利をもぎ取って来ている為、戦治郎が未知の艦娘を恐れ、情報収集の為にハッキングを仕掛ける様に指示を出した事は納得出来ると言えば出来る
しかし人の生死が関わる実戦でなら兎も角、たかが演習の為にそこまでやるか?と言う疑問も、少なからず彼女達の中に湧き上がっていたのも確かである
尤も、その疑問もイタリア海軍が行ったとされるドイツとイギリスを侮辱する様な手加減によって粉砕され、香取に対するセクハラと煽り行為によって戦治郎の考えに対して肯定的になれる感情が芽生え、最終的には艦娘達は戦治郎の考えに完全にでは無いが同意する事にしたのである
「それにしても、イタリア海軍はどうやって護達のハッキングに気付いたのかしら?」
「私はイオッチとやらの事は知らんが、護が電子戦において凶悪な力を持っている事は、トラック泊地での一件以降何度か護と交流していたから知っているからな。だからイタリア海軍が護のハッキングに気付く事が出来たと言う話が俄かに信じられん……」
「それな、俺もあいつから言われた時からずっと不思議で仕方なかったんだわ。あのコンビのハッキングに気付けるとか、とても信じられねぇってな……」
戦治郎の話が終わって間もなくして、イタリア海軍が護達のハッキングに気付いた事が信じられなかったのか、五十鈴と那智が険しい表情を浮かべながらこの様な事を言い、それを聞いた戦治郎も頭をガシガシと掻きながら同意する
と、そんな時である
「戦治郎~、いるンゴ~?」
突然イオッチが戦治郎のタブレットのUSBポートから飛び出して来て、イオッチの事を初めて見る面々の度肝を抜くのであった
「おん?何事ぞ?」
「翔からの伝言ンゴ、今度こっちの方でちょっとしたパーティーをやりたいから、食材購入の為に共有資金を少し使ってもいいか?って事ンゴ」
イオッチの用件を聞く為に戦治郎が返事をすると、イオッチは何かに期待を膨らませているのか、その身体をテカテカと輝かせながらこの様な事を言い、パーティーとやらの事が気になった戦治郎は、イオッチに詳細について尋ねるのであった
イオッチの話を聞くところによると、如何やらこれまで建物はあるが設備が揃っていなかった関係で張りぼて扱いされていた長門屋鎮守府が、空達の頑張りによって必要な設備が整い、泊地を通り越して長門屋鎮守府(警備府)にランクアップしたらしいのである
「おぉ……、まだ1年経ってねぇのにそこまで来たのか……」
「工期を大幅に短縮出来たのは、輝が建築関係の能力を手に入れた事が大きいンゴ。んで後は航空機の離発着用の設備を整えれば、警備府から鎮守府にランクアップするらしいンゴ。だからその為の英気を養う事と、これまで頑張って来た皆を労う事を目的として、翔がパーティーを開く事を提案したンゴ」
話を聞いた戦治郎が思わず感嘆の声を上げ、それを聞いたイオッチがパーティーを開くことになった経緯について言葉を続けると、戦治郎は快く共用資金使用の許可を出すのであった
それを聞いたイオッチが、この事を早速翔に伝えるべく戦治郎のタブレットのUSBポートに頭を突っ込もうとした時、戦治郎はイオッチの話のせいで危うく忘れそうになっていたイタリア海軍にハッキングに気付かれた事を思い出し、慌ててイオッチを止めてこの件について尋ねるのであった
「……ワイ達の侵入を察知された……?ちょっと信じられない……と言いたいところだけど……」
「何か心当たりあんのか?」
その事を尋ねられたイオッチは、何やら心当たりがあったのか渋い表情を浮かべながら言い淀み、イオッチの様子を見た戦治郎は少しでもいいから、何かしらの手がかりを手に入れるべく再びイオッチにこの様に尋ねるのであった
「ワイ達が撤収する間際、突然イタリア海軍の拠点内にえげつないくらい強大な気配が出現したンゴ……。気配の規模から考えると……、恐らくそいつは外なる神クラスの……、実力……、うぅ……、何か頭が……」
「ちょっ!?どうしたのよイオッチッ?!」
イオッチが心当たりについて話している途中で突然頭痛を訴え始めると、その場にいる誰もが唐突過ぎる出来事に驚き、戦治郎と大和を除けばこの中では一番イオッチと付き合いがあるであろう瑞鶴が、もがき苦しみだしたイオッチの事を心配し思わず声を上げ、イオッチの下に駆け寄ろうとする
「だ、大丈夫ンゴ……。それよりも今のでとんでもない事を思い出したンゴ……」
「とんでもない事……?」
「それは一体……?」
「何じゃろう……?ウチ、何か物凄く嫌な予感がするんじゃが……?」
イオッチはそんな瑞鶴を制し、フラフラしながら空中に浮き上がると、全身から脂汗と粘液が混ざり合った液体を吹き出しながらこの様な事を言い、その言葉が気になった磯風、浜風、浦風が思い思いに言葉を口にする
「さっきワイが言っていた気配が出現した直後、その気配をまるで監視している様な気配が、爆発的にその存在感を出し始めたンゴ……。そして後から自己主張を始めたその気配の持ち主を、ワイは知っているンゴ……」
「ふむ……、イオッチが知ってる神格か……。んで、それは一体誰の事なんだ?」
「……ヨグ=ソトース」
イオッチが思い出した事について話し、戦治郎が後者の気配について尋ねたところ、イオッチは挙動不審になりながら気配の正体について……、過去に自分の事をアザトース軍に引き込もうとしていた神格の名を口にし、それを聞いた戦治郎と瑞鶴は思わず盛大に吹き出し、大和と五十鈴は驚愕の表情を浮かべたまま固まってしまうのであった……
因みに何故五十鈴まで固まったのかと言えば、彼女は自分の拠点に住み着く文月を崇め讃えるヴルから神話生物に関する情報を得ており、その中でもアザトース、ヨグ=ソトース、ミゼーア、ニャルラトホテプは特に危険な存在であると教えられていたから、この様な反応を見せたのである
「そんなレジェンドクラスの神格と関りがある神格って言やぁ、アザトースやシュブ=ニグラス、無名の霧とかダークネスとかになると思うんだが……」
それからしばらくして、何とか落ち着きを取り戻した戦治郎が、ヨグ=ソトース以外のイタリア海軍の拠点に出現した気配の正体を探る様に、自身が知っている神格の名を次々に口にするのだが、イオッチはその全てに対して首を横に振って否定する
「その辺りの連中は、相当な事が無い限りアザトースの宮殿から出る事は無いンゴ。だから一番怪しい奴となると……、何かワイの事が気に食わないのか、ワイの事だけ呼び捨てにしてくるシュブ=ニグラスの弟、ニィ=ラカス辺りになると思うンゴ」
「血縁的には何か凄そうなんだが、どうもマイナー感の強ぇ神格だな……」
「確かに戦治郎の言う通り、あまり名前を知られていない神格かもしれないンゴ。けどこいつは『事象反転』とか言うえげつない力を持ってるから、中々侮れないンゴ」
「うん、前言撤回」
その後戦治郎とイオッチがこの様なやり取りを交わし、戦治郎はもしかしたらロッソはニィ=ラカスと何かしらの繋がりがあり、演習中にニィ=ラカスの力を借りて何かしら仕掛けて来るかもしれないと言う可能性を危惧し、それに備える為のある物と、ついでにステージで演技を行った後、アンコールがあった場合に備えての衣装を司に作る様に伝えて欲しいと、イオッチにお願いして彼を送り出すのであった
尚……
「舞台衣装は兎も角、如何してそんなのがイタリア海軍の総司令官を迎え撃つのに必要になるのよ……?」
「状況的にはあっちも下手に武器を使えないだろうから、仕掛けて来るとしたらステゴロだと思うんだ。だったらそれも江田校祭の出し物の1つにでもしてやろうと思って、『アレ』を発注した訳よ」
イオッチと戦治郎のやり取りを聞いていた瑞鶴が、その内容に思わずツッコミを入れたところ、戦治郎は何かを企んでいるのか不気味な笑みを浮かべながらこの様に返答し、戦治郎の言葉を聞いた瑞鶴は思わず溜息を吐くのであった