※この作品はR-18です。

鬼の鎮守府   作:稲荷童子

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問題になる前に潰す

パーティーが盛り上がっている最中、陽炎のペーガソスとそう変わらないサイズのモリブデン・アーマーを纏ったまま食堂に突撃し、即座に空に殴り飛ばされてしまったエイブラムスは、その後空に無理矢理モリブデン・アーマーから引きずり降ろされ、食堂の床に思いっきり叩きつけられ、更には頭を尋常では無い勢いで踏みつけられるのであった

 

如何やらエイブラムスがやらかしてしまった事に対して、空は相当ご立腹の模様……

 

まあエイブラムスがこの様な仕打ちを受けるのは、仕方ない事なのかもしれない……。折角盛り上がっていたパーティーに水を差し、空の親友である戦治郎の私物であるグランドピアノを吹き飛ばした扉で真っ二つにした挙句、ハッキリと面倒臭そうな物を見つけたと、言い換えれば厄介事を持ち帰って来たと言い放ったのだから……

 

ピアノの件については、空達が修理すればいいのではないか?と思うところだろう……。確かに空達はピアノを修理する事は一応可能なのだが、ピアノの調律に関しては長門屋の中でも長年ピアノと触れ合って来た戦治郎にしか出来ない事である為、例え外見や内部を完璧に修理したところで、どうしても実際にそのピアノを演奏した時の音の違いで、ピアノに何かあった事を戦治郎に察される可能性が極めて高いのである……

 

じゃあ新しいものを買って調律師に依頼してしっかりと調律してもらって誤魔化すか?となるかと言うと、そう言う訳にもいかない。何故なら今の長門屋の懐は、メンバーの移動に必要な自動車の購入や、飛行場の完成に合わせて納入される予定となっている輸送用ヘリの購入などによって、少々寂しい事になっているからである……

 

だったらピアノなんか買うなと言いたいだろうが、戦治郎のピアノ演奏や通のギター演奏、剛のトランペット演奏は所属艦娘達の中でもかなり好評で、また聴く機会があったら是非聴きたいと言う者が数多く存在している

 

更に通や剛からも戦治郎とのセッションはやってて楽しいと言う意見もあり、娯楽や士気高揚の観点からも、長門屋鎮守府からピアノを切り離す事が出来なくなっているのが現状なのである

 

それはさて置き……

 

「取り敢えずパーティーを台無しにした件については、これで手打ちとしておこう。それでエイブラムス、お前は一体何を見つけたと言うのだ?」

 

エイブラムスの頭を踏みつけたまま、空が落ち着いた声でエイブラムスにそう尋ねると、エイブラムスは空の踏みつけから逃れようと、全ての足をバタバタさせながらこの様に答える

 

「いでででで……っ!ショ、ショーシェー達が見つけたのは、地下に広がる納骨堂と大量の食屍鬼(グール)ディシュ……ッ!!」

 

その言葉を聞いた直後、納骨堂とグールと言う単語に聞き覚えがあったこの場にいる全員が、一斉にこれらの言葉を教えた張本人、翔の方へと顔を向ける

 

「……間違いなくモルディギアンの納骨堂と、その眷属のグールの集団だね……」

 

何処か複雑そうな表情を浮かべる翔がそう言った次の瞬間、食堂内がザワザワとざわつき始める……

 

モルディギアンはクトゥルフ神話において旧支配者に分類される死を司る神格であり、基本生者には不干渉を貫いてはいるものの、死体を己の供物として喰らい、死者蘇生を自分の供物を横取りする行為として忌み嫌い、もしゾンビの様に死者蘇生によって蘇った存在や、死者蘇生の儀式を実際に行った事がある者が目の前にいたり、納骨堂に納められている自身を崇拝するグール達が集めて来た遺体を持ち出そうとした者を目撃しようものならば、激昂して襲い掛かって来る様な存在なのである

 

そんなモルディギアンが実質ゾンビの様な存在である深海棲艦の事や、黄泉個体や転生個体の事を知ろうものなら、恐らくグール達を引き連れてこの戦争に武力介入しようとする事だろう……

 

特に艦娘として轟沈した後に深海棲艦として蘇り、そこから更に艦娘としての記憶と姿を取り戻す事に成功した黄泉個体など、モルディギアンからしたら逆鱗に触れるどころか引き千切りに来たような存在にしか見えない事だろう……。そして現在長門屋には黄泉個体である扶桑と神通が所属している為、ほぼ間違いなく長門屋はモルディギアンに敵視される事となるであろう……

 

更に言うのならば、舞鶴の由良の実家がある琵琶湖周辺は、グラグラにゾンビにされてしまった住民達が、咲作の力によって蘇りを果たしている。この事がモルディギアンの耳に入ろうものならば、琵琶湖周辺はモルディギアンの襲撃を受ける事になるだろう……

 

問題はこれだけでは留まらない、この世界は表は艦娘ブームによって非常に華やかなものとなっているが、その裏側は欲望と暴力と死の臭いが蔓延している。特に最近はその闇が深くなっていると言う佐世保においては、海や山や市街地の裏路地で行方不明となった者の遺体が発見される事が増えて来ているのだとか……

 

それ以外にも、いつまでも終わらない戦争や軍学校受験の失敗などが原因で、この世界に完全に絶望してしまい、自殺を図る者も少なくはないのである……

 

もしこの事をモルディギアンが知れば、きっと嬉々としてグール達にそれらの遺体の回収を命じ、己が満足するまで行方不明者達の遺体を貪り食う事だろう……。そうなってしまえば行方不明者や自殺者の遺体は遺族の下に帰る事が出来なくなり、遺族達はいつまでも嘆き悲しむ事となるであろう……

 

戦治郎達と行動を共にして来た事で、この世界の本当の姿を知る事になった艦娘達は、翔による神話生物に関する講習で知ったモルディギアンの名を聞いた直後に上記の可能性に気付く事は出来たのだが、相手が相手である為、今の自分達ではどうする事も出来ないであろうと言う考えが頭を過り、不安そうにざわついていた……

 

そんな時だ

 

「これは対策本部案件だな」

 

「……んぐ。放置してると間違いなく後で面倒な事になりそうッスからね、だったら先手を打って問題になる前にモルディギアンを潰しておくべきッス」

 

ようやくエイブラムスを解放した空が、神妙な面持ちになりながらそう言い放ち、それに翔の料理を取り分けた小皿を片手に、口の中に含んでいた料理を飲み込んだ護がこの様に言葉を続けるのであった

 

これにより艦娘達はホッと安堵の息を吐くのだが、神話生物対策本部の長である翔だけは、どこか複雑そうな表情を浮かべながらシゲの方へと視線を向ける……

 

そんな翔の視線の先には、翔以上に複雑そうな表情を浮かべ、何かを思案しているシゲの姿があった……

 

(やっぱり思い悩むよね……、相手が相手だから……。今回の件に関しては、やっぱりシゲには待機してもらうべきなんだろうな……)

 

シゲの様子を確認した翔は、内心でこの様な事を呟くのであった

 

先程も言ったが、モルディギアンは死者蘇生と言うものを心の底から嫌っている。そこに理由や形式は兎も角この世界で転生を遂げた転生個体である上に、クトゥグア達の手によって事故死から復活したシゲが現れようものならば、モルディギアンが怒り狂って襲い掛かって来るのは明白なのである

 

横須賀で資格取得の為の勉強をしていた時、シゲ本人から死者蘇生の事を聞いて知っていた翔は、今回の相手がモルディギアンであると判明した直後から、なるべくモルディギアンを刺激しない様にする為に、今回の件にはシゲを関わらせない様にすべきだと考えていたのである

 

そして先程シゲの様子を見て、翔は自分の考えは間違っていないだろうと思い、シゲを作戦に参加させない様にする為の理由を即座にでっち上げ、空達にそれを伝えようとするのだが……

 

「確かモルディギアンって奴は、目くらましみたいな事してくる奴でしたよね?だったら俺の熱源感知が使えるかもしれないですね。俺の熱源感知は高温だけでなく、低温も感知出来るみたいなんで、それで相手の位置を探れるかもしれません」

 

摩耶の方をチラ見し、先程以上に険しい表情を見せながら思考を巡らせた後、空達に向かってこの様な事を言い放ち、それを聞いた翔は一瞬ギョッとした後、誰にも聞こえないくらいの大きさの声で、シゲに耳打ちするのであった

 

「シゲ、自分が何を言ってるか分かってるの?」

 

「あぁ……、今回俺は引っ込んでおくべきなんだろうってのは、頭ん中では分かってはいんだけどよぉ……」

 

「だったら……っ!」

 

「けどよ……、ここで俺が下がる様な真似をすりゃ、摩耶達に勘繰られっちまう可能性があるだろ……?」

 

「それは……」

 

このやり取りの後、翔は思わず言い淀み、シゲは再び摩耶の方へと視線を向ける

 

モルディギアンの事は翔が講習で教えている為、艦娘達もモルディギアンがどの様な神格であるか把握している。自身の身体を発光させ、相手の目をくらませて動きを鈍くし、隙だらけになったところで相手を丸呑みにする事が出来る為、場合によっては対人戦最強クラスの神格であると言われている事も……

 

そしてシゲが熱源を感知する事で、視覚にそこまで依存せずに相手の位置を正確に特定し、攻撃を仕掛ける事が出来ると言う事も、この場にいる艦娘達全員が知っている事である

 

それ故に、相手の気配をある程度感知出来る空と同じくらいに、相手の位置を把握して相手に有効打を与えられそうなシゲを作戦から外すとなると、誰もがシゲに何かあるのか?と疑念を抱く事になるかもしれない……

 

翔はそれも考慮してシゲを作戦に参加させない理由をでっち上げたのだが、それだけでは艦娘達の中に湧き上がる疑念は完全には払拭出来ないかもしれないと、心の何処かで思っていた。そんな考えがあったが故に、若干不安の色も見え隠れするものの、摩耶(大切なもの)を守りたい、厄介事に巻き込みたくない、これ以上不安にさせたくないと言う強い意志を宿したシゲの瞳を見た時、その瞳の力強さに心を揺さぶられ、シゲをこの作戦に関わらせない様にする事を諦めるのであった

 

その後、話し合いの末納骨堂に向かうメンバーは、メインアタッカーになりそうな空とシゲ、案内役のエイブラムス、交渉が出来そうだった場合の交渉担当として翔、そしてサポート要員として護とイオッチの計4人+2柱と言う事になったのだが……

 

「……イオッチは何処に行ったんッスか?」

 

出発直前になって、イオッチが食堂どころか長門屋鎮守府(警備府)の敷地内にいない事が発覚し、結局空達は先程のメンバーからイオッチを除いた4人+1柱で向かう事になるのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、イオッチが何処にいたかと言うと……

 

「うっほおおおぉぉぉーーーっ!!!こっれ超やべえええぇぇぇーーーっ!!!もう痺れるくらい全身に力漲って来るうううぅぅぅーーーっ!!!」

 

「本番はもっと魔力を注入するンゴ、でないとこれと同じ事をやって来る可能性があるイタリア海軍の総司令官に太刀打ち出来ないかもしれないンゴ。だから今の内に身体を馴らしておくンゴ」

 

「合点承知の助っ!!!」

 

ハッキングを感知されてしまった事に負い目を感じていたイオッチは、頃合いを見てパーティーを抜け出した後、戦治郎と共にニィ=ラカスの力を使って来るかもしれないロッソを打ち負かす為の特訓を、戦治郎達がいつもトレーニングの際に使っている浜辺で、艦娘達とのトレーニングの後に密かに行っていたのであった

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