モルディギアンが問題を起こす前に釘を刺しに行く事になった空達は、先程空の手によって修復されたモリブデン・アーマーを装着したエイブラムスの案内で、モルディギアンがいると思われる件の納骨堂へと向かった
因みに納骨堂がある場所は、長門屋鎮守府(警備府)の工廠の地下にある大黒丸のドックより深く、イオッチが見つけたボーキサイトの地下鉱脈よりも浅い位置にあった為、空達はその存在に今まで気付く事が出来なかった様である
尚、その道中で空達は土器や青銅器など、恐らく邪馬台国があった時代に作られた代物を数多く発見していたりするのだが、結局モルディギアンが引き起こす問題を阻止する事を優先し、それらを全て無視して歩みを進めるのであった
さて、穴を掘った張本人(?)であるエイブラムスの案内を受けた空達は、大して時間を掛けずに目的地である納骨堂の入口に到着し、もしかしたら何かしらの攻撃があるかもしれない事を考慮し、このメンバーの中で最も強い空が、納骨堂の中から感じる気配にすぐに発見されてしまわないよう細心の注意を払いながら、壁から少しだけ頭を出して注意深く中の様子を窺う
「ふむ……、中には結構な数のグールがいるな……。恐らく納骨堂に納められた人々の遺体を守る為なのだろう、全員が武装している……」
「どれどれ~……、うっわぁ~……、ラウンドシールドに棍棒にブロードソード……、胴は薄っぺらいブレストプレート……、時代錯誤も甚だしい装備ッスね~。これなら自分達の手持ちの射撃武器だけで如何にか出来そうッスね」
中の様子を見た空がそう言うと、好奇心を抑えられなかった護が空に続く様にして納骨堂の中を覗き見し、グール達の装備が明らかに中世ヨーロッパで使用されていた様な代物であった事を確認すると、ニヤリと悪い笑みを浮かべながらこの様な言葉を口にする
「確かにグール達の装備の見た目はアレだけど、モルディギアンが何かしらの魔法をかけて強化してる可能性もあるから油断はしない方が……、って何で最初から戦う気満々なのさ……。戦うって選択肢は交渉が決裂した時の最終手段だって、道中で話してたでしょ……」
そんな護の言葉を聞いた翔は、最初は護の言葉に釣られる様にグール達を警戒しながらこの様な事を言うのだが、途中で先ずは翔が中心となってモルディギアンと交渉を行い、双方の血が流れる量を少しでも減らそうとしていた事を思い出すと、呆れ返った様子でこの様に言葉を続けるのであった
そう、翔は最初からモルディギアン達を武力制圧し、脅迫する形で相手を制御しようとは考えておらず、あくまでそれは先程も言った通り交渉が決裂した時の最終手段であり、先ずはモルディギアンに地上に無闇に出てこない様にと交渉をするつもりなのである
その事を思い出した翔は、手筈通りに空だけを護衛に付け、残りの2人と1柱には挟み撃ち対策として入口の陰に待機してもらい、納骨堂の中に入って行くのであった
そして……
「あの~……、ちょっといいですか?」
「ん?誰だアンタら……、此処に何しに来た?いや、それ以前に如何やって此処に来たんだ?」
翔は近くにいた武装グールに恐る恐る声を掛け、翔に声を掛けられた事で彼と空の存在に気が付いたグールは、2人を警戒する様に手にした武器を構えながらこの様に尋ねて来る
「実は……」
それに対して翔は少し怯える様な素振りを見せながら、現在の世界情勢などについて話した後、それを踏まえて自分達が彼らの主であるモルディギアンと交渉する為に此処に来た事を告げるのであった
尚、翔が少し怯える様な素振りを見せていたのは、相手を持ち上げる事で調子に乗せ、ある程度交渉を有利に進められる様にする為の演技であり、本心ではグール達に対して一切恐怖心を持っていなかったりする
さて、こうして翔から話を聞いたグール達だが……
「地上やべぇじゃん……、それ聞いたら此処から出たくなくなったんだが……?」
「最近自殺者が増えたな~って思ってたけど、そう言う事だったのかよ……」
「ちょっとぉ、それマジでどうにかしてくんない?こっちはそのせいで仕事量滅茶苦茶増えちゃってるんですけどぉ?」
「旧支配者の動きが活発になってんのは知ってたけど……、まさか外なる神まで飛来してんのかよ……。今の地上最悪過ぎんだろ……、命が幾つあっても足りねぇよ……」
「待てお前ら……、さっきこいつは海上がメインの戦争が起こってるって言ったよな……?」
「……え?もしかして俺達……、その戦争の戦死者の死体も回収しなくちゃいけなくなんの……?」
「舟漕いで海の上移動して、死体回収の為に素潜りせにゃならんのか?」
「それだけならまだしも、もしかしたらその深海なんたらと俺達が見間違われて、艦娘とか言う人間達に攻撃される可能性も……」
「最悪、その深海棲艦からも襲われるかも……?」
その表情を引き攣らせ、こんな調子で不安そうに騒めき、そして……
\今の地上に関わりたくねぇっ!!!/
誰もかれもが声を揃え、今の地上と関りもを持ちたくないと叫ぶのであった
グール達がこの調子ならば、もしかしたらモルディギアンとの交渉も上手くいくのではないか?そう考えた翔がグール達にモルディギアンを呼んで来る様に頼んだその直後である
「一体何の騒ぎでゲスか?」
納骨堂の奥からまるで顔の無い芋虫の様な黒い大きな何かが姿を現し、翔達の目の前までズルズルと這う様にして寄って来るのであった。そしてそれは翔達の目の前に辿り着くと、蛇が鎌首をもたげる様に上半身を起こし、その上半身を目が付いていない人間の上半身へと変化させるのであった
そう、彼こそがこの納骨堂の主、旧支配者のモルディギアンなのである
こうして目当ての神格であるモルディギアンと邂逅した翔が、緊張した面持ちで息を呑むその傍らで……
「語尾が三下臭いな……」
「空さんっ!シーッ!!」
空はモルディギアンの語尾に反応して思わずこの様な感想を呟き、それを聞いた翔はすかさず空の口を手で塞いでそれ以上空に発言させない様に彼を制するのであった
その後、翔は改めて自分達が此処に来た理由を話し、モルディギアンに彼の供物となる人間の死体の代替品として自分の料理を提供するので、地上にある死体をこれ以上持ち去らない様にし、地上での戦争に関与しないで欲しいとお願いするのであった
「なるほどなるほど……、今の地上はそんな事になっているんでゲスねぇ……。まさか外なる神までもが地球に飛来し、好き勝手しているとは……。そんな状況で供物の回収なんかやってたら、とんでもない損害を被る事になりそうでゲスなぁ……」
翔の話を聞いたモルディギアンが、顎に手を当てて考える様な素振りを見せながらこの様な言葉を口にすると、翔は交渉が成功しそうな手ごたえを感じ、内心でガッツポーズをとるのだが……
「まあ尤も?オレッチはお前達が言っている事を、これっぽっちも信じちゃいないんでゲスけどねぇ」
「……え?」
続くモルディギアンの言葉を聞いた直後、翔はその内容に思わず驚き、目を丸くしながらモルディギアンの方へと顔を向ける
「その顔……、如何して自分達がオレッチに信用してもらえないか分からないって顔でゲスねぇ……」
「悪いが俺にはサッパリ分からん、是非ともその理由を教えてもらいたいものだな」
そんな翔の表情を見たモルディギアンが、不気味な笑みを浮かべながら己の顔を翔の顔のすぐ近くまで近づけてこの様な言葉を口にすると、そのやり取りを翔の傍で見ていた空が、納得いかないと言った様子でこの様に尋ねると、モルディギアンはその姿勢のまま空の方へと顔を向け、次の様な言葉を口にして場を凍らせるのであった
「お前の方は本当に知らないみたいでゲスな……、だったら教えてやるでゲス。オレッチがお前達の事を信用出来ない理由は、オレッチの納骨堂に死者蘇生の魔法で蘇りを果たした人間を連れて来たからでゲス。ほら、そこにいるはずでゲス、納骨堂の入口付近に……、2人いる内の立っている方でゲス」
そう言ってモルディギアンは納骨堂の入口の方を指差し、それに釣られる様にして翔と空が入口の方へと顔を向けると、そこにはしゃがんだ姿勢で納骨堂の内部の様子を窺う護の頭があった……
「……へ?」
モルディギアンの言葉を聞いた護が、間抜けな声を上げながら自身の後方にいる人物の顔を見る為に、しゃがんだまま見上げる様に後ろを振り向く様子を見て、空は護の後方に誰が立っているのかすぐに気付き、翔もその表情を強張らせるのであった……
「……やっぱ死を司るだけあって、その辺はお見通しって事かよ……」
「臭いで分かるんでゲスよ、臭いで。お前からはオレッチが大嫌いな臭いが、そりゃもうプンプンするんでゲスよ……」
その直後、入口の陰に身を潜めていたシゲが、神妙な面持ちを浮かべ、この様な事を言いながら納骨堂へと入って行き、シゲの言葉を聞いたモルディギアンはこの様に返事をしながら、今しがた納骨堂へ入って来たシゲの下へ這う様にして近付いて行くのであった……
「シゲ……、こいつが言っている事は本当なのか……?」
そんなシゲの様子を見て、空は信じられないと言った様子でシゲに向かってこの様に尋ね、それを受けたシゲは声を出さずに、静かに首を縦に振ってその言葉を肯定するのであった……
「さて……、さっきの口振りからすると、如何やらお前はオレッチがどんな神格か知った上で此処に来ている事になるでゲスなぁ……」
「まぁ、そうなるな……。だが俺達にはどうしてもやんなきゃいけねぇ事がある……、だから俺は例えお前との確執が出来ようとも、それを成し遂げる為に覚悟決めて此処に来たんだ……っ!」
不気味な笑みから一転し、無表情になったモルディギアンがシゲに向かってそう言うと、シゲは神妙な面持ちのままそう言って戦闘態勢に入ろうとするのだが……
「貴様らの都合などどうでもいいでゲスッ!!!1度死んだ身なら大人しくオレッチに供物として喰われるでゲスッ!!!」
シゲの言葉を受けたモルディギアンが、そう叫びながらシゲの方へと右腕をかざした次の瞬間……
「があああぁぁぁーーーっ!!?」
突然シゲが両目を見開き、納骨堂内を震わせる程の叫び声を上げながら、ビクリビクリと痙攣し始めるのであった
シゲの身に何が起こったのか分からず、翔達が動揺し立ち尽くしていると、モルディギアンが燃え滾る怒りを露わにしながら、シゲに負けない様な声量で叫ぶ……
「お前の様な奴には、肉体と魂を無理矢理引き剝がされる激痛に大いに苦しんでもらい、己の肉体と大切な仲間達がオレッチに喰われる様子を見て絶望してもらうでゲスッ!!!」
その直後、モルディギアンの身体から何もかもを凍てつかせてしまえそうな程に冷たく、直視しようものならば忽ち失明してしまいそうな程に眩い光が放たれ始め、空達は思わず目を閉じてモルディギアンから顔を背けるのであった……
「どうでゲスか~?お前の大事な仲間は、皆顔を背けてお前を助けようとはしないでゲスよ~?苦しいでゲスか~?悲しいでゲスか~?」
生きたまま全身の皮と言う皮を剥がれる様な激痛に苦しむシゲに向かって、モルディギアンはニヤニヤと不気味な笑みを浮かべながらそう言うと……
「お前の存在はオレッチにこれ以上の苦痛を与えてるんでゲスッ!!!それが分かったら無駄な抵抗はせず大人しく肉体から魂を引き剝がされるでゲスっ!!!」
一拍置いた後、激情の限りにそう叫ぶのであった……
「あんの三下野郎っ!!ウチの未来の幹部に何し腐ってやがんだゴラァッ!!!こうしちゃいられねぇっ!!シゲを助けにいくぞっ!!!」
その様子を自室の執務机で見ていたクトゥグアは、シゲが絶望的な状況に置かれた事を知るや否や、そう言って自室を飛び出して以前シゲをドリームランドに連れて行く際に使用したゲートを利用し、シゲの下へと駆け付けようとするのだが……
「ハンムラビッ?!」
クトゥグアがゲートを潜ろうとした直後、クトゥグアの身体は見えない壁の様な物に激突し押し戻されてしまうのであった……
「な、何だこりゃ……っ!?」
ゲートを塞ぐ見えない壁の存在に気が付いたクトゥグアが、そっとその壁に触れた直後、クトゥグアはその壁から壁を作り出した存在の気配を感じ取り、思わず飛び退く様にして壁から離れ……
「何でおめぇがこんな事を……?」
驚愕しながらこの様な事を呟いたのであった
こうしてゲートが使えない事が分かったクトゥグアは、シゲの事が心配になりその場でシゲの様子を観察する為に作り出した魔法を使って納骨堂の様子を窺うのだが、そこには信じられない光景が広がっていたのであった……
その光景を目の当たりにしたクトゥグアは……
「一体何を企んでいるって言うんだっ!!?ミゼーアアアアァァァーーーッ!!!」
この光景を作り出した張本人(?)であるとされ、クトゥグア邸のゲートに見えない壁を作り出した存在であるヨグ=ソトースの宿敵にしてティンダロスの大君主である外なる神クラスの神話生物、ミゼーアの名を叫ぶのであった……
そんなクトゥグアの目の前には、魔法によって納骨堂の様子が映し出され、その中に只ならぬ気配を発し、モルディギアンの放つ光をその拳で空間ごと引き裂いて無効化しながら、只々一方的にモルディギアンを殴り続ける空の姿が存在していた……