クトゥグアがほんの僅かに目を離している間に、納骨堂で一体どの様な事があったのかについて、少し時間を撒き戻して触れていこうと思う
モルディギアンがシゲに攻撃を仕掛けた直後、彼の身体からは直視してしまえば即座に失明してしまいそうな程に眩く、一切の慈悲すら感じとる事が出来ない程に冷酷な光が放たれ始め、それによって翔達は碌に身動きが取れなくなってしまうのであった
「このままじゃシゲが危ないっ!!」
「分かっているっ!!だがしかし……っ!!」
この冷たい光に対しての抵抗手段を持っていない翔が、光を目にしない様強く瞼を閉じてモルディギアンから顔を背けて俯き、焦りを滲ませた声でそう叫んだ事に対し、同じく焦りが混じった声で空が返答したその直後、中々に強烈な打撃音と短い悲鳴が翔の耳を打つ
「すまねぇ……、本当にすまねぇ……っ!!」
「こうなった以上、俺達はボスに従うしかないんだ……っ!!」
「ボスは居場所がねぇ俺達に、この納骨堂って居場所を与えてくれたんだ……っ!!」
「そんなボスに、俺達は如何しても逆らう事が出来ねぇんだ……っ!!」
そんな事を口々に言いながら、モルディギアンの眷属であるグール達は、モルディギアンの魔力が注入されている事で光の影響を受ける事無く、震える手で武器を握り締めて翔達に襲い掛かっていた
そう、先程の打撃音と悲鳴は、襲い掛かるグール達の気配を感じ取った空が、拳でグールを殴り飛ばした時の音と、空の拳の直撃を受けたグールの悲鳴だったのである
これから分かる通り、相手の気配を感じとる事が出来る空は、モルディギアンの命令で翔達に襲い掛かって来るグール達の相手をするので手一杯で、シゲを助け出しに行く事が出来ない状態となってしまっているのである
更に強力なレーダー持ちである護はと言うと……
「んぎゃあああぁぁぁっ!!!あんの光、電磁波にも赤外線にも干渉して来やがるッスッ!!!これじゃあレーダーが使い物にならねぇッスッ!!!」
HMDのむせるくんのおかげで光を直視せずに済んだものの、その光のせいで肝心要のレーダー類が全て無効化されてしまい、お得意のミサイル攻撃も使用する事も出来ず、むせるくんに表示されている映像も件の光が原因で真っ白になっているせいで、フレンドリーファイアが発生する可能性がある能力を使った電撃攻撃や、ゲーリュオーンやケンタウロスを用いた射撃も行えずにいたのであった
(絶体絶命か……、この俺がいながらこのザマとは……っ!)
そんな危機的状況の中、空は翔に襲い掛かろうとしていたグールを回し蹴りで蹴り飛ばしながら、苛立ちを募らせながら内心で独り言ちる
翔鶴と戦治郎が絡まない限り、大抵の事はある程度冷静に処理する事が出来る空が、何故この様に苛立っているかと言えば、パーティーの件も理由の一部に入っていたりもするが、その大半は己の不甲斐無さに対しての怒りなのであった
モルディギアンがシゲが1度死んだと言う事実を告げ、それをシゲが肯定した時、空はシゲの死因が桂島での墜落事故である事にすぐに気が付いたのだ
そして自分の監督不行き届きのせいでシゲを死なせてしまった事に、これまでに無いくらいの後悔と共に、自身に対しての激しい怒りを覚えたのである
それに追撃を加える様に、黄泉帰りを果たしてまで自分達について来てくれているシゲが、モルディギアンによって蹂躙されると言う状況に陥り、自身は取り巻きの相手ばかりして一向に助けに行けない事に、空の怒りは爆発寸前になっていたのであった
しかしそれでも、空はその怒りをグール達にぶつけようとはしなかった
いつもの空ならば、敵対する相手には容赦なく攻撃を仕掛け、その肉体を易々と破壊してしまうところなのだが、今回の相手であるグール達に対してだけは、そう言う気分になれなかったのである
恐らく空の中で、嫌々ながら攻撃を仕掛けて来るグール達の姿が、行き場が無かったところを戦治郎に拾われたと言う自分達長門屋の面々と被ってしまった事が、空の攻撃の手を緩める原因となってしまっているのだと思われる
(どうすればいい……っ!?どうすればこの状況を打破出来る……っ?!)
そんな空が苛立ちのせいで冷静さを欠いた頭で、必死になって状況を打開する為の策を考えていたその時である
『お~お~、随分必死になって悩んでんなぁ……』
不意に空の頭の中に聞き覚えの無い声が響き渡り、それに気付いた空はすぐさま思考を中断し、いつでも動ける様に警戒体制へと移行する
『まぁそう警戒すんなって、俺はお前にこの状況を打破する為に、力を貸してやろうって腹積もりなんだからよぉ』
(何……?)
その直後に聞こえて来た声に、空は不審に思いながら内心でそう呟く
『その為には取り敢えず、目ぇ開けな。先ずはそこからだ』
(いや、そうすればモルディギアンの光が……)
『それなら安心しな、此処には奴はいねぇからな』
このやり取りの後、空は疑問を感じつつ、声の主の言葉に従って閉じていた双眸を開き、辺りの光景を目の当たりにすると、思わず目を見開いて愕然としてしまうのであった……
空の目に飛び込んで来た光景は、今まで空がいた納骨堂の中でもなければ、見知った長門屋鎮守府(警備府)の風景でもない、それどころか周囲にある全ての物が異様な角度を持ち、距離感や時間の感覚までもが正常に働かず、更にはそこかしこから何か禍々しい気配を感じる様な、そんな異様な空間だったのであった
一体何が起こったか分からず、空が混乱しながら状況を把握しようと辺りをキョロキョロと見回していたその時
「俺が統治する異空間『ティンダロス』へようこそ。歓迎するぜ、石川 空さんよぉ」
突然頭上から先程の声が聞こえ、それに気付いた空は急いで正面の頭上を見上げ、そこに存在するものを見て絶句するのであった……
そこにあったのはあまりにも巨大な狼の頭……、その大きさは間違いなく現在の長門屋鎮守府(警備府)よりも大きかった……
「ティンダロス……、統治……、まさかお前は……っ!?」
「おぉっと、そっから先は自分で言わせてもらうぜ?自己紹介はそっちの礼儀みたいなもんなんだろ?」
先程の言葉からこの巨大狼の正体に気が付いた空が、その名を口にしようとしたところで巨大狼がそれを制し、一呼吸おいてから巨大狼は己の名を口にする
「俺の名はミゼーア、異空間ティンダロスの大君主にして
ミゼーアが名乗ったその瞬間、空の全身から脂汗が噴き出し、闘争本能が全力で逃げろと警鐘を煩いくらいに鳴らし始める……
(一目見て分かった……、こいつは御大とは比べ物にならない程に強い……、今の俺が戦いを仕掛けたところで、成すすべもなく蹂躙されて無様を晒すだけだ……)
ミゼーアが纏う気迫を感じ取った空は、内心でそう呟くのであった
「んで、俺がさっきお前に力を貸すって言ってた件だが……」
「待て、その前に聞きたい。如何してお前は俺の名前を知っている?どうして俺達に力を貸そうとしているんだ?俺達はお前と会うのはこれが初めてのはずだが……」
「それを今から話すんだよ、だから黙って聞いてろ」
「むぅ……、承知した……」
この後、ミゼーアは空に力を貸そうと思い至った経緯について話し始め、空は言われた通りにそれを大人しく聞く事にするのであった
ミゼーアが空に力を貸そうと考えた理由……、それはシゲがミゼーアにとって気になる存在であり、そんなシゲを苦しめるモルディギアンの事を、これでもかと言うくらい痛めつけてやろうと思ったからである
「シゲが死者蘇生によって蘇りを果たしたってのは、あの
「クトゥグアの気配と魔力……?」
「あぁ、俺もそれが気になって過去に時間跳躍して、シゲが死者蘇生を受けるとこをコッソリ見てたんだが、あいつを復活させたのは火の玉小僧とヴォルヴァドス、それにクタニドの3柱だったんだ」
そう言ってミゼーアは、シゲが復活を果たすまでどの様な事をして来たか、そしてクトゥグアの実力と素性について話し、それを聞いた空は事故の後シゲが急激に強くなった原因がクトゥグアの魔力にあると知ると、納得した様な素振りを見せるのであった
「シゲが火の玉小僧と真正面からぶつかって、根比べして勝ったって事知ってから、俺は益々あいつの事が気に入っちまってなぁ、何時からかあいつを俺の部下にしてぇって気持ちが芽生えちまったんだわ。これに関しては、火の玉小僧も同じ事企んでるみてぇだがなっ!!!」
「……シゲをヘッドハンティングするつもりか?」
ミゼーアが豪快に笑いながらそう言った直後、クトゥグアとミゼーアの企みを知った空は険しい顔をしながらミゼーアに尋ねる
「ああそうだ、っつっても今すぐって訳じゃねぇ。俺は俺の流儀として、部下にしてぇ奴とは互いが納得するまで全力でぶつかり合って、勝利をもぎ取って下に置くってやり方を貫いてんだ。んで今のシゲじゃ勝負しても俺が勝つ未来しかなくて、どんだけ闘り合ってもつまんねぇだけだかんな。だから俺はシゲが俺といい勝負が出来る程に強くなったその時に改めて果たし状を叩きつけて、俺が勝ったらシゲを部下に、シゲが勝ったら俺がシゲの下についてやろうって考えてんだわ」
空の問いに対して、ミゼーアはニヤリと獰猛な笑みを浮かべながらこの様に答え
(中々に潔い奴だな……。シゲもこの条件ならば恐らくこの勝負を受け、負ければ約束通り納得してミゼーアの部下になるだろう……)
ミゼーアの返事を聞いた空は、複雑そうな表情を浮かべながら内心でそう呟くのであった
その後、ミゼーアはシゲを観察していた事で長門屋の面々の事を覚えた事を伝え……
「そんで話は戻って、俺は俺のお気に入りであるシゲを苦しめるイキリドサンピンを、立場を分からせる為にボコにしてやりてぇと思ったんだが、如何せん身体がデカすぎて納骨堂に姿を現そうものならば、お前ら全員を俺の身体で押し潰した挙句、体毛でズタズタに引き裂きかねねぇって事もあって、どうしても手出しする事が出来なかったんだが……」
「モルディギアンを此処に引き込めば良かったのでは?」
「あんな雑魚を俺の土地に入れたくねぇんだよっ!!」
「そうか……」
「んで、どうにかしてあいつボコれねぇか?って考えてた時、あのドサンピンに一発ぶちかましてぇって考えてたお前に気付いてな、だったらお前に俺の代わりにあいつボコしてもらおうって思い至って、こうして交渉の場を設けた訳よ」
「交渉の場……?」
「うっせぇ馬鹿っ!揚げ足取んなっ!!」
空に力を貸そうと考えた経緯について話し、それを聞いた空はミゼーアと自分の利害は一致すると思い至ると、ミゼーアと協力してモルディギアンを討つ事を承諾するのであった
因みに
「何か火の玉小僧があの戦いに介入しようとしてたんだが、あいつにばっかいいカッコさせんのも何か悔しいから、あいつの家のゲートを俺の魔力で一時的に塞いでやったわ。お前ばっかいい思いさせねぇぞってなぁっ!!」
空とのやり取りの中で、ミゼーアはこの様な事を言っていたりする……
さて、こうして空とミゼーアが協力し、憎きモルディギアンをシバき回す事が決まった訳だが……
「それで、お前の力を借りると言う件だが……、具体的にどうするつもりだ?」
「先ずお前に俺の魔力を込めた体毛を1本打ち込む、そうすりゃお前の身体ん中に俺の魔力が注入されてお前の戦闘能力は飛躍的に上昇する、お前が持ってるクロム・ドラゴンスーツの比じゃねぇ位にな。んでもって少しくらいなら魔力を基に俺の能力も使える様になるから、それを駆使してあいつの光をどうにかする感じだな。最後に体毛を打ち込んだらすぐにお前を元いた場所に戻すから、後は好きに暴れてやんな」
「クロム・ドラゴンスーツの事も知っていたか……、まあそれは今はいい、それよりも俺に注入する魔力の持続時間は、一体どのくらいなんだ?」
「お前らの感覚で大体1分、お前らの身体の限界を考えりゃこれが精一杯だな」
空はミゼーアに具体的な手筈について尋ね、それを受けたミゼーアは少々雑な説明で手筈について話し、それを受けた空は了承した旨を伝えるべくミゼーアに向かって頷いて見せるのであった
「んじゃいくぜっ!!」
「来いっ!!!」
この掛け合いの後、ミゼーアの身体から途轍もない鋭さを持つ体毛が1本抜け落ちたかと思うと、禍々しいオーラを纏いながら凄まじい速度で空の首筋に突き刺さり……
「ぐぬうううぅぅぅーーーっ!!!」
直後にミゼーアの魔力が身体中を駆け巡り、これまでに感じた事の無い力の滾りと高揚感に、空は思わず声を上げるのであった
こうして準備が整ったところで、突然空の足元が崩れ去り、落下する空の身体は突如として出現した空間の裂け目に飲み込まれてしまうのであった
「行って来い石川 空、シゲの事を頼んだぞ……」
空を空間の裂け目を使って元いた場所に送り届けたミゼーアは、今しがた空を飲み込んだ空間の裂け目を見つめながらそう呟くのであった……