ミゼーアの力の一部を借りてモルディギアンと戦う事となった空は、異空間ティンダロスから艦これの世界に送還されるその道中にて、体の中で暴れ回るミゼーアの力を何とか自身の身体に馴染ませる事に成功し、今は艦これ世界ともティンダロスとも違う異空間の中を、ただ只管落下し続けていたのであった
(先程あいつはこの力の継続時間は1分と言っていたが……、どう考えても俺はこの空間を5分以上落下し続けている……。奴が言う1分と俺が感じる1分には、何か大きな違いがあるのだろうか……?)
落下中にある程度落ち着きを取り戻した空がそんな事を考えていると、再び空間の裂け目が発生し、その先にはミゼーアにティンダロスに連れ込まれるよりも前に自分がいた、モルディギアンの納骨堂の光景が広がっていたのであった
それに気付いた空は、驚異的な反射神経と身体能力でまるで高い所から落とした猫の如く空中で身体の向きを変え、見た者が誰でも思わず見惚れてしまう様な、それはそれは見事なヒーロー着地で納骨堂に降り立つのであった
それから僅かな間、空はその姿勢のまま周囲のリアクションを確認しようとその場に佇んでいたのだが、待てども待てども周りからは誰の声も聞こえず、更に言えば物音1つもしていなかったのであった
そんな派手な帰還を果たしたにも関わらず、辺りからどよめきも歓声も驚愕の声も聞こえなかった事を不審に思った空が、取り敢えず立ち上がって辺りを見回してみると、そこには今にも自分達に向かって飛び掛かろうとする……、いや、何体かは既に武器を頭上に掲げて跳躍した姿のままピクリとも動かなくなっているグール達の姿や、恐らくモルディギアンの発光を目にして気絶してしまったエイブラムスを叩き起こそうと、モリブデン・アーマーに蹴りを入れた姿勢のまま固まった護の姿、グールを迎撃する為に魔法を使おうとしたのか、将又斬りかかろうとしたのか、腰に差した鼓翼を鞘から引き抜こうとした恰好のまま停止した翔の姿、激痛に苛まれて苦悶の表情を浮かべながら背を丸めて痛みに耐えるシゲと、シゲの背中から生えるシゲの魂と思われる半透明のシゲの上半身、そして激情丸出しの鬼気迫る表情を浮かべ、何かを叫ぶ姿のまま静止するモルディギアンの姿が存在していたのであった
(まさか……)
この状況を目の当たりにした空は内心でそう呟くと、先ずは自分の腕に付けた腕時計を確認、その後懐からスマホを取り出して時間を確認し、双方の時間が進んでいない事を把握すると……
(ミゼーアの仕業と言ったところか……、まあ時間制限があるこっちとしては助かるところだが……、せめて時間停止を行うなら事前に言っておいてもらいたいものだな……。戻って来たところでこの光景を見せられれば、幾ら俺でも流石に驚くぞ……)
何処か複雑そうな表情を浮かべながらスマホを仕舞い、表情を引き締めてこの時間停止を利用してモルディギアンに殴りかかろうとするのだが、その直後にピシリと言う何かにヒビが入った様な音が空の耳を打ち、その音に驚いた空は思わずその場に踏み止まるのであった
(……時間停止が解除される合図か……?ならば1分の間に、効率良くモルディギアンにダメージを与える方法を……、いや待て……)
先程の音の正体について察しが付いた空は、制限時間内により多くの攻撃をモルディギアンに叩き込む方法について考えようとしたのだが、ふとある事を思い出して思考を中断させ、そのある事を試してみる事にするのであった
「はっはっはっはっはっ!!!俺が思っていた通りだっ!!!お前ならその考えに至れると思っていたぜ空ぁっ!!よし決めたっ!!!シゲを配下に出来たら、次はお前を俺の配下にするわっ!!!」
そんな空の様子をティンダロスから空間の裂け目を通して見ていたミゼーアは、空が『ソレ』を成功させるや否や、心底愉快そうに爆笑しながらそう叫んでいたのであった……
空が何かしらを成功させた直後、辺りにまるでガラスが割れる様な音が鳴り響き、それを合図に納骨堂の中がモルディギアンの身体から放たれる光に包まれ、彼の眷属であるグール達も一斉に襲い掛かって来る……
「……
それに対して、グール達が間合いに入っていないにも関わらず、空は鋭い目つきをしながら掛け声と共に回し蹴りを放つ。するとどうだ、直接蹴りが当たっていないはずのグール達が一斉に後方に吹き飛び、納骨堂の壁に轟音を立てながら激突すると、深く深く壁の中に沈み込み、ピクリとも動かなくなってしまうのであった
「今の音は何っ!?」
「ファッ?!一体何事ッスかっ!?」
「グール達を一蹴……っ!?さっきまでは1対1で対処していた筈なのに……?それに奴から溢れ出る力は一体……っ?!貴様っ!!一体何をしたでゲスっ!!?」
突然の出来事に驚いた翔と護は、モルディギアンの光と音がよく反響する納骨堂の構造のせいなのか、揃って明後日の方角に向かって驚愕の声を上げ、光の影響を受ける事無く空達の様子を確認出来るモルディギアンは、唐突な空の戦い方の変化と空の身体から漏れ出てくる力に思わず声を荒げるのであった
それに対して空は……
「やかましい……っ!」
モルディギアンに向かってそう言い放った直後、空の姿が突然消え、それに驚きつつも空を捕捉すべくモルディギアンが辺りを見回し始めると、空はモルディギアンの背後から出現し、目の前にあるモルディギアンの首に、延髄を叩き切らんとばかりに回し蹴りを叩き込み、モルディギアンの身体を吹き飛ばしてしまうのであった
「ぐはぁっ!?」
「この程度で済むと思うなよ……っ!!」
短い悲鳴を上げながら吹き飛ぶモルディギアンに向かって、空はそう言うと再び姿を消し、モルディギアンの目の前に出現しては殴りかかり、それによって吹き飛ぶモルディギアンの身体が加速すれば、またもや姿を消してはモルディギアンの目の前に出現して攻撃を加えると言う、中々にえげつない追撃を連続して行い、遂にはモルディギアンを壁に叩きつけるのであった
「ゴフ、ゴフ……ッ!!何故……、どうしてオレッチの居場所を特定出来るんでゲス……ッ!?発光はまだ続いているはずでゲス……ッ?!」
「教えてやる義理があると思うか?俺の部下を散々苦しめた貴様に対してな……っ!!!」
口からどす黒い液体を吐き出しながら、モルディギアンが空に向かってそう尋ねると、空はその質問を一蹴しながら3人に分身し、銀色と金色、そしてほぼ黒に近い紫色のオーラを両腕に纏わせるとモルディギアンを取り囲み、【参式千手観音】と【龍神烈火拳】を合わせた空オリジナルの技、【アジ・ダハーカ=ラッシュ】を叩き込むのであった
3つの頭を持つゾロアスターの邪竜の連撃を受けたモルディギアンの身体は、凄まじい勢いで壁を抉りながら頭から天井に突き刺さり、宙吊りになっているところに両サイドから空の分身達が繰り出す投げモーションの代わりに使用者の方が跳躍すると言う、変形の【流星蹴り】を上半身と下半身にそれぞれ受け、モルディギアンは再び黒い液体を口から吐き出すのであった
「これでトドメだっ!!モリブデン・アーマーッ!!!」
そんなモルディギアンの姿を見た空は、ブレスレットに向かってそう叫びながら跳躍、ライトニングⅡとテキサスを展開するとテキサスをライトニングⅡに連結させ、それを右腕に装着する
その直後、空の叫びに反応して自動操縦に切り替わり、気絶したエイブラムスを外に排出して空の下へ駆け付けて来たモリブデン・アーマーが跳躍し、ライトニングⅡとテキサスの上にマウント、8本の脚でライトニングⅡとテキサスを包み込む様にしてドッキングしてしまうのであった
そして……
「喰らえ……っ!!!」
合体したライトニングⅡとテキサスだけでもかなり巨大なのだが、それに更に普通の戦車とほぼサイズが変わらないモリブデン・アーマーまで合体した事で、驚く程巨大化した右腕で空は光速正拳突きを繰り出し、モリブデン・アーマーに取り付けられた巨大なドリルが、ライトニングⅡとテキサスの動力まで使い火花を散らす程の速さで回転しながらモルディギアンの身体に接触すると、瞬時にパイルバンカーの要領でドリルが勢いよく撃ち出され、モルディギアンの身体はドリルの刃に内部をズタズタに引き裂かれながら、亜光速で迫って来るモリブデン・アーマー本体と壁に挟まれてしまうのであった
この衝撃によってモルディギアンの身体が叩きつけられ続けた壁は崩壊、更にその後方には直径6m、奥行き数十kmにもおよぶ大穴が開いてしまうのであった
その後、地面に着地した空は右腕を勢いよく振るい、ドリルに貫かれたまま痙攣していたモルディギアンの身体を払い落としながら
(これがミゼーアの力の一部……、俺達はこれに匹敵するレベルの相手をしなくてはいけない可能性があると言うのか……?)
背筋に薄ら寒いものを感じながら、内心でそう呟いていたのであった
さて今回の戦い、空はいつも通りに戦っていた様に見えたかもしれない。姿が消えては現れると言うのも、空が凄まじい速度で動いていただけだと思うところだろう
しかし実際はそうではない。あの時空は自分の気配をモルディギアンに悟られない様にする為に、ミゼーアの力を使って時空跳躍を行ってモルディギアンとの間合いを詰め、攻撃を仕掛けていたのである
ここで疑問に思うのは、ティンダロスの猟犬達の王であるミゼーアの時空跳躍の方法が、猟犬達と同じ120度以下の鋭角がその場に無ければ実行出来ないと言うものだった場合、空はどうやって時空跳躍を行ったのかと言う点だろう
これについては、空がとんでもない事をやらかしてくれている
この空と言う男、自分の身体に走る赤い光を放つラインの中で、交差して120度以下の角度が出来ているところを起点にして時空跳躍を行ったのである。故に時空跳躍に関しては、かなり自由に行使する事が出来たのである
そんな時空跳躍よりも今回の戦闘で空を支えたのは、他でもないミゼーア自身が能力と言ったその力であった
さて、そんなミゼーアの能力とは一体どの様なものなのだろうか?それについてミゼーアに尋ねれば、彼は『事象破壊』と答える事だろう
咲作があらゆる物を分解、融合させる様に、ニィ=ラカスがあらゆる物の性質を反転させる様に、ミゼーアはありとあらゆる物を……、それこそ時間や空間の概念をも破壊する事が出来、今回の様に時間停止すらやってのけ、力を借りた空はモルディギアンの光が自身に及ぼす影響を破壊する事が出来たのである
また、空はこの力を使う事でミゼーアの魔力の使用制限時間の概念を破壊し、空が1分経過したと宣言するか、この戦闘の終わりを自覚でもしない限り、魔力を好き放題使用出来る状況を作り出し、それを見たミゼーアは爆笑しながらその行動とその考えに至った空のクレバーさを称賛していた
まあこんな事を言ってはいるが、実際のところミゼーアは猟犬達も使える時空跳躍以外の、外なる神の様な固有能力的なものを持ってはいない。彼はあくまで外なる神に匹敵する力を持つ神話生物なのであって、純粋な外なる神ではないのである
ではどうしてこんな能力染みた事が出来るのかと言えば、その答えは若干冗談めかして言えば彼の筋肉から繰り出される暴力と言う名の牙に、ありとあらゆる事象が恐怖して屈服したか逃亡したかと言った感じなのである
因みに空がモルディギアンにトドメを刺す際に使用した、モリブデン・アーマーをパイルバンカーとして使用する攻撃も、本来はクロム・ドラゴンスーツを纏っていなければ繰り出す事が出来ない大技だったりするが、それもこのミゼーアの事象を歪める程の力のおかげで、身体にかかる負荷に対する耐性が滅茶苦茶底上げされる事となり、その結果スーツ無しでも使用出来た模様
空がモルディギアンを倒した時に発した呟きも、この世界では強大な暴力は時として事象を歪めてしまうと言う事実を知り、恐怖のあまり思わず呟いてしまったものだと考えられる……
それはそうとして、空の手によってモルディギアンがボコボコにされた事で、彼が発する光は完全に消失し、それと同時にシゲに仕掛けられた攻撃も解除され、シゲの身体からはみ出していた魂はシゲの身体の中に戻り、モルディギアンの攻撃からようやく解放されたシゲは両膝を地面について蹲り、全身から汗をダラダラと流しながら呼吸を整えていると、やっと身動きが取れる様になった翔が、心配そうな表情を浮かべながらシゲの方へと駆け寄っていくのであった
(……その事については後で考えるとして、今はシゲの容態の確認を……っ!?)
その様子を見ていた空が、思考を中断してシゲの容態を確認する為に彼の下へ歩み寄ろうとしたその瞬間、空は急に身体から力が抜けていく感覚に襲われるのであった
(そうか……、俺が戦闘終了を自覚したからミゼーアの力が消失したのか……。……ん?これは……?)
その原因を察した空が内心でそう呟き、自身の身体に異常が無いか確認していると、不意に足元に見慣れない物が落ちている事に気付き、空は警戒しながらそれを拾い上げ……
(これは俺に刺さっていたあいつの体毛か……?ふむ……、流石にもうあの時の様な力は残っていない様だが……、もしかしたら何かに使えるかもしれんな……)
空は先程拾い上げた物……、力を失って抜け落ちたミゼーアの体毛をまじまじと観察した後、そう呟いてそれを自身の艤装の格納庫に収納すると、再びシゲ達の方へと歩み寄っていくのであった
尚、こうして持ち帰られたミゼーアの体毛は、後にクロム・ドラゴンスーツに編み込まれる事になる模様……