「シゲ、大丈夫?」
空がモルディギアンを打ち倒した事により、モルディギアンの術による苦痛から解放され全身から滝のように汗を流し、両手両膝を地についてゼェゼェと苦しそうに呼吸するシゲを、抱え起こしながら翔がそう尋ねると
「全身がまるで粉砕機に突っ込まれた様に痛ぇ……」
「それ、普通だったらショック死するレベルだから……。そんなのに本当によく耐えられたね……」
シゲは相変わらず苦しそうにそう答え、それを聞いた翔は表情を引き攣らせながらそう言うと、シゲに肩を貸しながら彼を何とか立ち上がらせるのであった
「畜生……、ホント情けねぇぜ……。翔の制止を突っぱねて来ておきながら、結局クソの役にも立たねぇどころか皆の足引っ張っちまった……」
「気にしないでシゲ、これは艦娘の皆にシゲが地上に残る理由を、変な勘繰りをされない様にそれっぽく説明する事すら出来なかった僕にも非があるから……」
シゲと翔がそんなやり取りをしていると、この戦いの一番の功労者である空が2人の下に歩み寄って来て……
「シゲ、無事か?」
「大丈夫です……と言いたいところなんっすけど、正直精神的にも肉体的にもかなりきついですわ……」
空がシゲに向かって安否を尋ね、それに対してシゲはこの様に答えた後、その表情を曇らせながら俯いてしまうのであった。如何やらシゲは隠しておきたかった自身の死を暴かれてしまった事と、今回の戦いで碌に戦う事が出来なかった挙句、空達をピンチに陥れてしまった事で、精神的に相当参ってしまってる様であった……
(俺達を心配させない様に隠していた事を、この様な形で暴かれてしまったのだからな……。シゲがこうなってしまうのも無理も無いか……)
「それよりも空さん……、スゲェ大事な事を隠してて、本当に申し訳ありませんでした……」
そんなシゲの様子を見ていた空が、誰にも聞かれない様に内心でこの様な事を呟いていると、不意にシゲが心底申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にする
「……詳細については地上に戻ってから、俺の部屋で聞かせてもらう。今は調子を戻す事に専念しておけ、でないと今のお前の姿を見た摩耶達が取り乱してしまうかもしれんからな」
そんなシゲに向かって空はこの様に返答した後、少しの間モルディギアンとグール達の処遇について翔と話し合い、それが決まると空は翔達にシゲを連れて先に地上に戻っている様にと伝え、護の蹴りで復活したエイブラムスのモリブデン・アーマーの上に横たわるシゲと、そんなシゲがモリブデン・アーマーから転落しない様に両サイドから支える翔と護の姿を見送った後、先程自分が作り出した大穴の奥に転がるモルディギアンの下へゆっくりと歩いてゆくのだった
「まさかこのオレッチが……、こんな醜態を晒す事になるなんて……。あいつの攻撃……、全く反応出来なかったでゲス……。あいつは一体何者なんでゲス……?」
大穴の奥では、空のモリブデン・アーマーを使った必殺技である《フルインパクト・ドリル》の直撃で腹に大きな風穴が開いたモルディギアンが、傷痕をゆっくりと再生させながら、先程の戦いを振り返りながらこの様な事を掠れた声で呟いていた
モルディギアンがこの様な事を言いたくなるのも分かる、相手が普通の人間だったならば、モルディギアンはその力で終始優位に立って相手を蹂躙する事が出来た事だろう。だが、今回ばかりは流石の対人戦最強クラスの旧支配者であったとしても、相手があまりにも悪すぎたのである……
それからしばらくの間、モルディギアンが穴の奥で横たわったまま、譫言の様に空に関する事を呟いていると……
「その疑問の答えを教えてやろうか?」
不意に聞き慣れない声が穴の中に響き渡り、ボロボロになったモルディギアンは声の主を見つけるべく、警戒する様に視線だけで周囲を見回し始め……
「ひぃっ!?」
声の主である空が視界に映るなり、思わず短い悲鳴を上げるのだった
「どうした?何をそんなに怯えている?」
「ぎゃあああっ!!来るなっ!!来るなでゲスッ!!!」
そんなモルディギアンの様子を見て、空が無表情のままモルディギアンに向かってそう尋ねると、モルディギアンは必死になってそう叫びながら、まるで世界の終わりを目にした様な、圧倒的な絶望を具現化した様な表情をしながらズルズルと後ずさるのであった
まあ空はこんな事を言っているが、実際の所全身に龍気と闘気を混合させたオーラを纏い、モルディギアンに向かってブチ殺すぞとばかりにバチバチに圧を掛けていたりする為、モルディギアンの反応は正しいと言えば正しかったりする……
「まあお前がどんな事を吠えようと、俺は一切聞く気は無いがな……」
空はそう言いながらモルディギアンの方へと歩み寄り、彼の下に辿り着くとその芋虫の様な下半身を足で思いっきり踏みつけ……
「お前の疑問に答える前に、幾つか面白い事を教えてやろう」
絶望の色をより濃くするモルディギアンに向かってそう言い放つと、空はミゼーアから教えられた事……、モルディギアンが真っ先に殺そうとしたシゲの蘇生に宇宙ヤクザの親玉であるクトゥグアが関わっている事、そのクトゥグアがシゲの事を大層気に入っている事、更にシゲの復活を見届けた事でシゲに興味を持ち、クトゥグア同様シゲの事を気に入ったミゼーアの存在と、自分が先程の戦闘でミゼーアの力を借りた事をモルディギアンに伝えるのであった
「因みに神話生物に好かれているのは、何もシゲだけではないぞ?お前と交渉していた翔と言う男も、クトゥルフ殿をはじめとしたルルイエの神話生物全てと、旧神のリーダーであるクタニド殿と友好関係を築いているし、入口の方にいた護と言う男も、馬が合うからとイオドを相棒にしているぞ」
「……」
空の話を聞いたモルディギアンは、顔面蒼白になりながら思わず絶句してしまうのであった……
空の口から飛び出して来た神話生物の名前については、ほぼほぼ地上に出ていなかったモルディギアンでも知っているものばかりで、その実力についても聞き及んでいるのである。もし仮に此処で空達を殺してしまっていれば、その後自分がどうなってしまうか想像した結果、モルディギアンは言葉を発する事すら出来なくなってしまう程、その心を恐怖に埋め尽くされてしまったのである
「そして何よりも、俺自身は修行の一環としてクトゥルフ殿と生身で組手を行う関係でな、おかげで今では彼と互角に渡り合えるくらいの実力を身に付ける事が出来たぞ。実際、その修行のおかげでアトラク=ナクアを倒し、配下にする事に成功したからな」
「これ以上追い打ちをかけるのは止めるでゲスッ!!!」
そして空のこの言葉により、モルディギアンはただでさえ強いのにミゼーアによってブーストを掛けられた空に、自分が圧倒されて敗北した事に納得すると同時に、先程自分が想像した地獄絵図……、今回の件の報復の為に地上に出たところで、待ち構えていたクトゥルフ達に囲まれて一方的にボコボコにされている様子に、空とアトラク=ナクアの軍勢を追加した更なる地獄絵図を頭の中で完成させ、思わず懇願する様にそう叫ぶのであった
「さっき俺は言ったはずだ、お前がどれだけ吠えようが知った事では無いと」
空はその一言でモルディギアンの悲痛の訴えを一蹴し、無表情のまま言葉を続けるのであった。具体的にはモルディギアンが翔の話でその存在を知り、グール達に仕留めさせて供物として喰おうとしていた転生個体の中には、空に匹敵……或いは正蔵の様に空を凌駕するほどの実力を持っている者も存在する事を、モルディギアンに伝えたのである
こうして空によって地上に出る気力を奪われたモルディギアンが、最初に翔が提案して来た事……、地上をこれ以上混乱させない様にする為に、モルディギアン達には地下で大人しくしていてもらい、それによって供給出来なくなった供物の代わりに翔の料理を提供すると言う案を了承する旨を伝えたところ……
「その件だが、先程お前がシゲに攻撃を仕掛けた事で白紙になった」
「ファッ!?」
思いもよらぬ空の返事に、モルディギアンは思わず驚きの声を上げる
そう、先程空が言った通り、モルディギアンがシゲの死の事実を暴露し、挙句の果てにシゲの魂を肉体から強引に引き剝がそうとした事で、神話生物関連の事件の最高責任者である翔がシゲの事を精神的にも肉体的にも傷つけたモルディギアンに怒りを覚え、最初の提案を撤回してモルディギアンに罰を与える事にしたのである
そして翔が要求した罰と言うのが……
「お前達は今日からアトラク=ナクア同様、俺の配下として俺の指示に従って働いてもらう事になった。再三言うが、お前達が幾ら抗議しようが俺も翔も聞く耳は持たん。お前はそれだけの事をしでかしてくれたのだからな……」
空の言葉を受けたモルディギアンは、空にいい様に利用され、逆らえばボコボコにされる自分達の姿を想像し、無表情のまま壁に背を預け、項垂れてしまうのであった……
その後、傷痕が塞がったところでモルディギアンは空の命令でその姿をポケモンのゲンガーに変化させ、配下となった証として第二次世界大戦で活躍したアメリカのM4中戦車の通称からとった『シャーマン』の名を与えられるのであった
因みにモルディギアンの事をシャーマンと呼ぶのは大体空と翔鶴くらいであり、それ以外の者達はほぼ殆どが、後にシャーマンに与えられる事となる仕事の役職である『駅長』と呼ぶ様になる模様……
これが後に艦娘ランドがある鹿児島県の桂島、長門屋鎮守府がある佐賀県鹿島市、佐世保鎮守府がある長崎県佐世保市、陸軍の春日駐屯地がある福岡県春日市、佐伯湾泊地がある大分県佐伯市、鹿屋基地がある鹿児島県鹿屋市を繋ぐ巨大高速地下鉄『マリンメトロ』を統括し、地下鉄開通直後から存在する艦娘ランド直通の路線がある長門屋鎮守府駅の駅長と、空が対巨大神話生物用に作り出す事となる機関車型決戦兵器『マンガン・ライナー』の運転手を務める事となる旧支配者のモルディギアンであるシャーマンと神話生物対策本部の出会いなのであった