空の提案で空の地下ラボが神話生物対策本部の本拠地となり、シャーマンとの戦いで空の身に何が起こったのかについて話し終えたところで、空達は少しの休憩を挟んだ後、今後空の下で働く事になったシャーマンの仕事について話し始めるのであった
「ウチは働かざる者食うべからずを基本方針にしている、なので俺の下で働く事になったお前達にもしっかりと働いてもらう。それでお前達にやってもらいたい事なのだが、現在ウチはエイブラムスの配下である織り手達の一部を長崎県佐世保市にある佐世保鎮守府に公にならんように秘密裏に派遣し、文月教教徒達と協力して同市の犯罪発生件数の増加の原因を探っているんだが、お前達には九州7県にある陸軍駐屯地の憲兵達と協力し、それぞれの県の犯罪発生件数の調査と犯罪防止の為の巡回、犯行現場に遭遇した際には犯人の身柄の拘束を行って欲しいんだ」
「オレッチ達にやって欲しい事は分かったでゲス、けどその前に幾つか聞きたい事があるでゲス。その文月教ってのは一体何なんでゲス?」
「まあ、そうなるよね……」
空がシャーマンとその眷属であるグール達にやって欲しい事を伝えると、シャーマンは怪訝そうな表情を浮かべながら文月教について尋ね、それを傍で聞いていた翔は思わず苦笑いをしながらそう呟き、シャーマンに文月教について説明すると、シャーマンは口を大きく開けて愕然としてしまうのであった……
まあその宗教の教祖が旧支配者のヴルトゥームであり、信仰対象が幼い子供の艦娘であると聞けば、同じ旧支配者であるシャーマンがこの様な反応も已む無しと言える事だろう……
さて、ここで空が如何してシャーマン達にこの様な仕事を頼んだ理由について触れていく
現在翔達神話生物対策本部は、ヴル率いる文月教と弓取率いる九州地方を担当する陸軍と協力して九州治安維持強化令を発令し、九州の治安維持を図ると共に九州の何処かに潜伏していると思われる、九州の治安悪化の大きな原因と思わしきイゴーロナクを見つけ出すべく、エイブラムスの眷属である織り手達を各地に派遣したり、自分達の手が空いた日を利用して活動しているのだが、中々成果を上げられずにいたのである
その最たる原因は、それぞれの組織の人手不足にあった
3つの組織の中で最も戦闘力があり、イゴーロナクの居場所を知るであろう犯人達を拘束出来る可能性が最も高い神話生物対策本部は、人数が少ない上に鎮守府(警備府)の仕事があるせいで自由に行動出来る範囲も時間が限られており、中々犯人達に遭遇する機会に恵まれず、戦闘に参加出来る人員もその戦闘力もそこそこある文月教は、凶悪犯罪が多発する長崎県だけで手一杯で他に人員を回す余裕が無い状態となっており、陸軍の憲兵隊は数はいるものの憲兵1人1人の戦闘力が他と比べて低く、事件に遭遇し犯人と戦闘になった場合、重傷者を出しながらも犯人を退けるのが精一杯で、犯人達の身柄の拘束まで至れていないと言った感じになっているのである
そう、ここ最近起きている犯罪の犯人達は、イゴーロナクの加護か何かを受けているのか、戦闘のプロである陸軍の兵達を相手にしても引けを取らない程に強いのである。故に犯人の拘束に関しては警察と言う組織がほぼほぼアテにならず、現在警察はここ最近起きている犯罪に関しては、憲兵隊がある陸軍に情報を提供するだけの組織と成り果てていた……
因みに佐世保に派遣された織り手達の戦闘力だが、群れを成せばヴルのところの精鋭と同格とかなり強力なのだが、単体では一般人に踏み潰されるだけで死にはしないが行動不能に陥るレベルである為、今回の作戦ではその身体の小ささを活かした単独での諜報活動がメインとなっている織り手達は、戦力として計算に入れられていなかったりする
翔達がそんな状況を何とか打破したいと思っていたところで、運命の巡り合わせと言うべきか、シャーマンと彼が率いるグール達が空の傘下に入る事となった為、翔達は彼らの力を借りてこの状況を何とかする事にしたのである
「俺の攻撃を受けて尚立ち上がれるほど頑丈なグール達ならば、ヴルが作り出す兵器も問題無く扱える事だろう」
「幾ら鍛えていても憲兵隊の人達は只の人間だからな……、下手な艦娘の兵装よりも強力なヴルさんの兵器を生身で使えば、肩外れたりひっくり返って頭打ったりしちまうんだよなぁ……」
「そんなグール達が憲兵隊の皆さんと協力すれば、犯人の身柄を拘束出来る確率が上がると思うんだけど……、どうかな?」
グールと実際に戦った空がこの様な事を言い、それにシゲが何とも複雑そうな表情を浮かべながらこの様に続き、そこから翔がシャーマンに向かってこの様に尋ねると……
「あいつらが大勢の人間達の中に混ざっても問題にならないんでゲスか?見た目とか体臭の問題とかあると思うんでゲスが……」
シャーマンはグール達の見た目や、彼らが放つ独特の体臭に関する問題について指摘するのであった
確かにグール達の見た目は人型ではあるものの、蹄があったり犬の様な顔をしていたりで、近くで見ればすぐに人間ではないと分かるものとなっており、その体臭もグールが死肉や排泄物を好んで食べる関係上、非常に強烈な臭いとなっている
そんなものが人間の集団の中に堂々と紛れ込めば、間違いなく辺りはパニックになる事であろう……
「それについてはこちらに考えがある」
至極尤もなシャーマンの指摘に対して、空はこの様に返事をして己の考えについて話し始める
先ずグール達の見た目に関しては、専用の変装を司に頼んで準備してもらい、体臭対策については雨で濡れたり水洗いしても簡単には取れない臭い消しの香料を開発し、それを変装用衣装に染み込ませると同時に、グール達本体にも塗ってもらう様にするのだとか……
それに加え……
「服に関しては変装用のものとは別に、グール達の防御力を底上げする為の、変装用衣装の下に着る事が出来る防弾性と防刃性の高い野戦服も準備させよう」
「体臭については食生活を変えればある程度抑えられるかもしれないから、僕の方でいい感じのメニューを考えておくね」
空と翔がそれぞれこの様な提案をして来た為、シャーマンはグール達の仕事については納得した上で了承するのであった
こうしてグール達の仕事が決まったところで……
「ところで……、グール達の仕事は決まったでゲスが、オレッチの仕事はどうなってるんでゲス?」
まだ自分の仕事を言い渡されていない事を思い出したシャーマンが、不思議そうな表情を浮かべながらそう尋ねると……
「お前には此処で集められた情報を纏める仕事をしてもらうッス」
「一応ワイと護も手が空いた時には手伝うンゴ」
長門屋鎮守府(警備府)の動くデータベースとも言える護とイオッチが、空の代わりにシャーマンの疑問に答えるのであった
そう、シャーマンに与えられた仕事とは、自身が率いるグール達や陸軍の憲兵達、文月教の諜報部や護達の手によって集められた情報を纏め上げ、この事件の根源ともいえるイゴーロナクの居場所を特定すると言うものなのである
これまでは護達がその仕事をやっていたのだが、鎮守府(警備府)の仕事と掛け持ちする護の負担が大きい事、イオッチも働かないとは言っていたものの、何だかんだメッセンジャーとして飛び回っている事もあり、集中して情報を纏め上げる作業をする時間を中々作れないでいたのである……
これでは事件の早期解決もままならない……、そんな話が神話生物対策本部の中でポツポツ挙がっていたところで、今回のシャーマンの加入である
「これを使わない手なんて……、何処にも無いッスよね~」
「因みに作業場所が此処なのは、作業中のところを誰かに見られて情報が外に漏れる事を防ぐ為ンゴ。まあ扱ってる情報が神話生物関係のものである以上、仕方ない処置ンゴ」
「これは責任重大な仕事な気がするでゲス……」
シャーマンにこの仕事が与えられた経緯と、何故作業場がこの地下ラボとなっているについて、護とイオッチが説明したところ、シャーマンはゲンナリしながらそう呟いた後、自身の仕事内容を承諾するのであった
こうしてシャーマン達はそれぞれ仕事を与えられ、最初こそブツクサ文句を言いながら作業を行う事になるのだが、それも本当に最初だけで、シャーマン達もルルイエの者達同様翔の料理の虜になってしまい、美味い飯にありつく為に必死になって仕事に取り組む様になっただけでなく、特に翔の料理を気に入り供物に見向きもしなくなったシャーマンは、空から与えられる給料の8割(残り2割は空の指示で有事の際に備えての貯金に回している)を、食堂の食事の品質向上の為に毎月投資する様になるのであった
尚、これに対して翔はシャーマンに『食堂フリーパス』と銘打った券を渡し、食事の際に厨房にこれを掲示すれば、普通の食堂の料理よりも少しグレードが高い料理を、好きなだけ食べれる様にする事で、己の中に湧き上がるシャーマンに対しての心苦しさを解消するのであった
話を戻して、シャーマン達の仕事について話し終えたところで、今回の神話生物対策本部の話し合いは終わる事となり、地上に戻った空が司にグール達の服を作る様に依頼したところ……
「その量は流石の俺様でも死にますって……」
戦治郎からも依頼を受けている司は珍しく真顔になってこの様な事を言い、それを受けた空は織り手達にも作業を手伝わせると言って、この無茶な依頼を無理矢理押し通すのであった……