空達がシャーマン達を仲間に引き込み、それぞれに仕事を与えたその翌日、舞台は江田島軍学校に戻り、戦治郎は全身の筋肉が上げる悲鳴……所謂筋肉痛に耐えながら、五十鈴と共に軽巡艦娘候補生達の寮の中を歩いていた
「戦治郎さん……、本当に大丈夫なの……?」
「正直だいじょばない……、日常生活でも戦闘でもあまり使わない様な筋肉が、どちゃくそ痛くて仕方ないんじゃぁ……。でも我慢する、我慢してやるべき事を成し遂げるんじゃぁ……、っつつつ……」
全身に襲い掛かる苦痛に戦治郎がその表情を歪め、まるで幽鬼の如くゆっくりと歩みを進めていると、五十鈴が心配と呆れが半々といった様子の表情を浮かべ、戦治郎に向かってそう尋ねたところ、戦治郎は苦悶の表情を浮かべながらこの様に答えるのであった
さて、どうして戦治郎がこの様な状態になっているのかについてだが、それは昨晩戦治郎が行った、イオッチとの特訓が原因であった
江田校祭の最大の目玉とも言えるイタリア海軍との合同演習の際、ニィ=ラカスと関りがあると思われるイタリア海軍の総司令官であるロッソと、正面切って戦う事になるかもしれないと、先日の顔合わせの時のロッソの行動から予想した戦治郎は、そのきっかけとなってしまった事に責任を感じているイオッチと共に、その戦いに備えて特訓を行っていたのだが、その方法がかなり無茶なものであった為、戦治郎はその反動で全身筋肉痛に苦しめられる事となっているのである
それはそうとして、戦治郎達がこの日軽巡寮に来ているのは、件の合同演習に参加する事となっている軽巡の艦娘候補生で、アメリカからの特別留学生であるアトランタと顔合わせをする為である
彼女の事について少し触れると、彼女は戦治郎達が舞鶴鎮守府に研修に行っている間に、ジョシュアから言い渡された任務を遂行する為に、この江田島軍学校に留学して来たのだそうな。その為、戦治郎は彼女の事を全く知らない状態だったのである
そのジョシュアから言い渡された任務と言うのは、日本の軍学校で艤装の扱い方の指導者としてのスキルを磨き、それを基に艦娘育成に関するマニュアルを作成すると言うものなのだそうな
この事を五十鈴から聞いた時、戦治郎はその理由をすぐに察するのだった
アメリカはここ最近になってようやく艤装を完成させる事に成功した為、国内に艤装の扱いを指導し、艦娘を育成出来る人材が全くいない状況にあるのである
これでは折角の艤装も宝の持ち腐れ……。そうならない様にする為に、ジョシュアはアトランタとやらにこの任務を与え、日本に送り込んだのだろうと戦治郎は予想したのである
これに関しては日本やらドイツやらからそれが出来る人材を送ってもらい、指導者を育ててもらえばいいのでは?となるところだが、深海棲艦との戦争で敗走し、国を深海棲艦にほぼほぼ奪われてしまった今のアメリカには、残念ながらそんな余裕は無いのである……
(現在国民をカナダに面倒見てもらってるアメリカに、他国から人を招き入れてもてなすなんて真似は出来ねぇだろうからなぁ……。だからジョシュアの旦那はこの方法を採用したんだろうなぁ……)
ミッドウェーでの戦いの後、アメリカの現状をジョシュアや局長から教えてもらっていた戦治郎は、ジョシュアの考えに察しが付いたところで、かつての大国の現状に哀れみを覚えながら、内心でこの様に呟くのであった
さて、戦治郎がそんな彼女とコンタクトを取ろうと考えた理由だが、これは彼女と今の内に接点を作っておき、自分を介して彼女と他の艦娘候補生達との間に繋がりを構築し、合同演習の際にしっかり連携を取れるようにする事で、合同演習に勝利しようと考えたからである
確かに戦治郎とロッソのド突き合いも気になるところだろうが、メインは艦娘候補生達による合同演習なのである。いくら戦治郎がロッソとのド突き合いを制したとしても、艦娘候補生達の方が敗北してしまえば元も子もないのである……
そう言った事情がある為、戦治郎は全身を引き裂く様な……と言うより実際に筋細胞が大量に断裂しているが為に発生している痛みに耐えながら、アトランタの部屋へと向かっているのである
そうしてようやくアトランタの部屋に辿り着いた戦治郎は、あまり腕に負担を掛けない様に、ゆっくりとした動作で部屋の扉をノックするのだが……
「反応がねぇな……」
部屋の中から返事が返って来る事も無ければ、アトランタが扉の方に歩いて来る音も気配も感じなかった戦治郎は、訝しむ様な表情を浮かべながらそう呟き、傍に立つ五十鈴の方へと顔を向ける
「う~ん……、昨日の晩に戦治郎さんからアトランタと会いたいって連絡をもらってすぐ、すれ違いが発生しないように彼女には今日は部屋にいるようにって言っておいたんだけど……」
それに対して五十鈴は腕を組んで困った様な表情を浮かべ、この様に返答するのであった
「もしかしたらトイレに行ってる可能性が……、あると思っていた時期が俺にもありました……」
そんな五十鈴の返答を聞いた戦治郎が、扉に耳を当てて中の様子を探ってみたところ、中からパソコンのキーボードやマウスを操作する様な音が聞こえ、それを聞いた戦治郎は険しい表情を浮かべながら、この様な言葉を口にするのであった
「俺の事無視するたぁ中々度胸ある娘っ子じゃねぇか……」
「ちょっ!?流石にそれは不味いでしょっ!!」
聞き耳を立てていた戦治郎が、そう言ってゆっくり立ち上がり、懐からピッキングツールを取り出したところで、慌てて五十鈴がそれを制止する。ここで戦治郎が扉の鍵をこじ開け、中に突入なんて事をやってしまえば、軍学校内だけではとても処理出来ないレベルの問題になりかねないのだから、五十鈴が制止するのも当然と言えば当然なのだ……
その後、五十鈴がなんとか戦治郎の怒りを鎮める事に成功し、戦治郎が顔合わせは後日改めて行う事を決定すると、2人はこの場を後にするのであった
尚、こうしてこの日にアトランタと会う事を断念した戦治郎は、五十鈴から預かった彼女の写真を頼りに、タイミングを見計らって軽巡候補生達の教室を尋ねてみたり、食堂で彼女を探してみたり、改めて彼女の部屋を訪れてみたりしたものの、結局しばらくの間は彼女と会う事は出来なかったのだとか……
「……行ったみたいね」
戦治郎達の気配が部屋から離れていっている事を感知すると、アトランタ級防空巡洋艦の1番艦であるアトランタはそう呟き、目の前にある『ある物』に意識を集中させ始める……
そんな彼女の目の前には、護やイオッチがよくやっているFPSゲームの画面が表示されたディスプレイがあり……
『どうしたんッスかACE?さっきからずっと待機状態のままッスよ?』
表示されているゲームのチャット欄で、彼女のフレンドである
『ごめんなさい、ちょっとお客さんが来ててそれの対応してたの』
『それならそうと言って欲しいッス、今日は
『悪かったって言ってるでしょ……、って言うかアンタ、何時から『I.O.D.』の事呼び捨てする様になったのよ?』
それに対してアトランタはこの様に答えた後、少しだけ他愛もないやり取りを交わし、それからマウスを操作してゲームを開始するのであった
それからしばらくして、空腹感を覚えた彼女は護に断りを入れて離席すると、部屋の隅に置いているカバンから、ホノルルにいる間に大量に買い込んだかなりの期間保存が利くスナック菓子を取り出して食べ始める
(ジョシュア伯父さんには日本でその引き籠り気質を直して来いって言われたけど……、正直リアルの人と関わり合いになるのは面倒だからなぁ……)
空腹を満たす為にスナック菓子を食べるアトランタは、自身の母の兄であり、今のアメリカ海軍の総司令であるジュシュアとのやり取りをふと思い出し、うんざりした様子で内心でこの様な事を呟くのであった……
そう、戦治郎がしばらくの間彼女と会えなかったのは、彼女のこの引き籠り気質が原因だったのである。そして戦治郎がその事実に気付くのは、業を煮やした戦治郎がジョシュアにアトランタについて問い合わせた時になるのであった……