「……引き籠りとな?」
『ああ……、あの娘は訳あって両親に大層甘やかされて育てられてな……、そのせいで極度の引き籠り気質になってしまったんだ……」
戦治郎がアトランタとのコンタクトを試みてから数日経過したある日の夜、未だにアトランタと接触する事が出来ずにいた戦治郎は、遂に業を煮やしたのかアトランタを日本に送り込んだ張本人であるアメリカ海軍の総司令であるジョシュアに通信を入れ、アトランタについて尋ねる事にしたのであった
そうして戦治郎が通信に出たジョシュアに開口一番アトランタに会えていない事を伝えたところ、ジョシュアは頭を抱えながら溜息を吐き、アトランタが自分の姪である事と、彼女が極度の引き籠りである事を教えてくれるのであった
ジョシュアの話によると、如何やら彼女は生まれつき静止視力と動体視力、更に聴覚が人並外れたレベルで優れていたらしく、それが原因で小さい頃にその能力に嫉妬したり気味悪がった周りの子供達からいじめを受けていたのだとか……
その事を知ったジョシュアが、いじめられるのはアトランタが反抗しないからだとして、アトランタに相手を威嚇する為のスラングなどを教えたり、簡単な軍隊格闘技の技などを教えたりしたものの……
『こう言っては何なんだが……、あいつは視力に関しては凄まじいものを持ってはいるのだが、それ以外に関しては少々難があってな……』
「……感知能力以外はヘッポコで、スラングで罵って威嚇はするものの、教えられた格闘技の技を上手く使いこなせなくて、結局罵られて逆上した相手にボコられて、結果的にいじめがエスカレートしちまった感じか……」
『そのせいで俺はアトランタとその両親から大層嫌われてしまってな……、あいつが艦娘になるまでの間、自分達とは関わり合いにならないで欲しいと……』
「う~ん……、これは嫌われてもシカタナイネ……」
『それからあいつの両親は、人との関わり合いに苦手意識を持つ様になったあいつを守る為だとか言って、あいつの引き籠りを容認する様になってしまってなぁ……』
「その結果がコレかい……」
こうしてジョシュアからアトランタが引き籠りになった経緯を聞いた戦治郎は、内心で呆れ返りながらジョシュアに次の質問を投げかけるのであった
その質問と言うのが、そんなアトランタが如何して軍属の艦娘になれたのか、如何して特別留学生として戦治郎達がいるこの江田島軍学校に送り込まれたのか、そして如何してそんな彼女が合同演習のメンバーに抜擢されたのかについてである
この質問に対して、ジョシュアの返答はと言うと……
『最初の質問に関しては、アトランタの艦娘になれる素質を持っていたのが、現状ではあいつだけだったからだな……。出来れば俺もあいつを戦場に立たせる様な真似はしたくはなかったのだが……、今のアメリカの状況を考えればそんな事も言ってはいられん……。だから俺はこの事をあいつの両親に話し、何とか説得してあいつを軍に引き入れたんだ……』
「アメリカとしては早急に深海棲艦と戦える戦力を集めて、母国を取り返したいところだろうからなぁ……。これも仕方ないっちゃ仕方ないか……」
アトランタが艦娘になった経緯を聞いた戦治郎は、アメリカの現状を顧みて複雑な表情を浮かべながらこの様に呟くと、すぐにジョシュアに次の質問……彼女が特別留学生として江田島軍学校に送り込まれた理由についての返答を促し、それを受けたジョシュアは戦治郎が五十鈴の話を聞いた直後に予想した通りの返事と……
『後はお前ならあいつの引き籠り気質を如何にか出来るだろうと思ってな……』
「引き籠り云々の話聞いた時、嫌な予感がしたと思ったらやっぱりかよコンチキセフッ!!!俺は皆の町の便利屋さんじゃねぇんだぞっ!!!いや、生前はそれっぽい事してたけどさぁっ!!!」
『なら大丈夫そうだな、期待しているぞ!』
「Fuck you!!!」
アトランタが引き籠りであると聞いた直後に、戦治郎の脳裏に浮かんだ嫌な予感が現実のものとなった様な返事をし、それを聞いた戦治郎は思わずタブレットのカメラに向かって中指を立てながらやたらいい発音でそう叫ぶのであった
それからしばらくして、戦治郎が落ち着きを取り戻したところで次の質問……、アトランタが合同演習のメンバーに抜擢された件について触れる事になった
これに関してはジョシュアもその理由を知らなかった為、戦治郎もジョシュアも互いに意見を交換しながら予想する事になるのであった
そして……
『あいつは艤装のテストを行った時、持ち前の感知能力を駆使して攻撃力の低さと装甲の薄さを補って余りあるほどの、驚くべき対空防御力を発揮してな……。確かお前の所の摩耶だったか?凄まじい対空防御力を持っていた艦娘は……、あいつは対空防御力だけで言えば、恐らくその摩耶すら凌駕する程の実力があるぞ』
「OK、そんだけ対空防御力がありゃ、艦載機の搭載数が多い正規空母だろうと、問答無用で只の案山子に成り下がっちまうわ……。そうなりゃ火力が低かろうと装甲が薄かろうと関係無いわな……、空母は只々アトランタに喰われちまうと……」
『恐らく合同演習に抜擢されたのも、その対空防御力を買われた形なのだろうな……』
「空母を無力化出来るのはデカイからなぁ……」
ジョシュアから送られて来たアトランタのデータを見た戦治郎が、アトランタの対空の数値だけが、他のステータスと比較して飛び抜けている事に気付き、この事をジョシュアに尋ねてみたところジョシュアはこの様に返答し、それを聞いた戦治郎は何処か納得した様な表情を浮かべながら、呟く様にこの様な言葉を口にするのであった
実際2人の予想は大当たりで、彼女が江田島軍学校に来た時に行われた実力テストにて、彼女は艦娘としては異常過ぎるレベルに達しているその対空防御を披露して校長と教官達の度肝を抜き、後日そのデータを見た五十鈴の防空巡洋艦としてのプライドをズタズタに引き裂き、最終的には実力テストに参加した教官達と校長の推薦により、彼女は合同演習のメンバーに抜擢されていたりする
さて、こうして粗方アトランタに関わる事柄について質問し終えた戦治郎は、腕を組んで考え込むのであった
(しっかし引き籠りかぁ……、俺もクロエのせいで一時期引き籠りになったっけなぁ……。ってそうじゃねぇな、取り敢えずアトランタの引き籠りを何とかしなきゃなんぇねな……。もしこのままだとあいつは合同演習をブッチして、当日戦力が欠ける事態になっちまうし、それに対処出来なかった責任を俺が負う羽目なって、元帥のじっちゃの命令で今以上のペナルティーを科せられる可能性が……、おぉぅ、考えたくもねぇ……)
戦治郎が渋い顔をしながら唸り声を上げてこんな事を考えていると……
『無茶な事を頼んでいるのは重々承知している……、だがあいつに嫌われてしまっている俺では、如何する事も出来ないんだ……。だから戦治郎、あいつを如何にかして引き籠りから立ち直らせてくれ……。頼む……っ!』
不意にジョシュアがこの様な事を言いながら頭を下げてくるのであった
「まぁ引き籠りのままだと軍の作戦行動どころか日常生活にも影響が出るかんなぁ……、うっし!ジョシュアの旦那の頼み、引き受けますわ。只多少手荒な真似する事になるかもしんないんで、そこだけは覚悟しといてください」
『なるべく加減はしてやってくれ……、あいつには嫌われてはいるものの、あいつは俺の姪だからな……』
そんなジョシュアの様子を見た戦治郎は、そう言って彼の頼みを受ける旨を伝え、それを受けたジョシュアは苦笑しながらこの様に返事をするのであった
こうしてアトランタの引き籠り気質の矯正を約束した戦治郎は、通信を切ってどうやってアトランタの引き籠りを直すかについて思考を巡らせ始めようとするのだが……
「あっ!そういやアトランタの件以外にも、やっとかなきゃいけねぇ事あったわっ!!」
ふと何かを思い出した戦治郎はそう言うと、タブレットを操作して電子メールを起動し、2通のメールを即座に作成してそれぞれ別のアドレスに送信するのであった