ジョシュアの頼みを受ける事となった戦治郎は、翌日に早速アトランタの部屋に向かうのであった
この日はアトランタの部屋の位置も分かった事から五十鈴は連れず、代わりに空の命令で戦治郎の傍に就く事となったイオッチを懐に忍ばせての訪問となっていた
空がイオッチにこの様な命令を下した理由だが、空は外なる神であるニィ=ラカスがどの様な思考回路を持つ神話生物なのかを知らない為、ニィ=ラカスと組んでいると言うイタリア海軍の総司令と戦う可能性がある戦治郎に対して、もしかしたら物理的ないし精神的な攻撃を仕掛けて来るかもしれないと警戒し、戦治郎の安全を確保する為にこの様な命令を下したのである
因みにこの事をイオッチから聞いた戦治郎は
「特訓の件もあるし、こっちとしては願ったり叶ったりってとこだな」
この様に返答し、イタリア海軍との合同演習が行われるまでの間、イオッチが護衛として戦治郎の傍に控える事を了承したのであった
そんな1人と1柱がアトランタの部屋の前に辿り着くと、戦治郎が前にもやった様に扉をノックし、反応が返って来なかった事を確認すると次は扉に耳を当てて部屋の中の様子を探り、前と同じ様にキーボードとマウスの操作音が聞こえる事を確認すると……
「前回は五十鈴に止められたが……、今回はジョシュアの旦那のお墨付きだからなぁ……、遠慮なくこじ開けさせてもらうぜぇ……っ!」
そう言ってピッキングツールを取り出し、部屋の扉の鍵をこじ開けにかかろうとする
だが……
「戦治郎、態々そんな時間が掛かる様な事しなくていいンゴ」
戦治郎の様子を見ていたイオッチが、どこか呆れた様に戦治郎に向かってこの様に言い、それに反応してピッキングの手を止めたところで、イオッチは戦治郎の懐から抜け出し、彼の手を押しのける形で扉の鍵穴の前に立つ(?)と、自身の頭の先端を鍵穴に差し込み、戦治郎に自分の身体を掴んで回す様に指示するのであった
そしてその様子を見ていた戦治郎が、やや困惑しながらイオッチが言う通り彼の身体を掴んで鍵を開ける様に回してみたところ、扉の鍵はカチリと言う音を立てながら開錠されてしまうのであった
「お前こんな事も出来んのかよ……」
「電子ロックも物理的な鍵も、ワイの前では無力ンゴ」
このやり取りの後、戦治郎はイオッチの不条理さと頼もしさに苦笑しながらドヤ顔を浮かべるイオッチを鍵穴から引っこ抜き、懐に仕舞い込んでアトランタの部屋の中に、部屋の主の了承を取らずに侵入するのであった
因みに今回イオッチがやって見せた事を、同じ様に実行する事が出来る神話生物は、自身の姿を自在に変化させられるシャーマンと不定形の身体を持つ神格、後はヨグ=ソトースくらいであるとここに明記しておく
そうしてアトランタの部屋に侵入した戦治郎が、まず最初に見たものと言えば……
「……」
アメリカからの特別留学生であるアトランタの身に何かあってしまえば国際問題になりかねないと言う事から、普通の艦娘寮の部屋の鍵よりも防犯性が高い鍵が取り付けてあったにも関わらず、それを破って侵入して来た戦治郎の姿を、椅子に座ったまま振り返る様にして見て言葉を失い、思わず愕然とするアトランタの姿であった
「ジョシュアの旦那の姪って聞いてたが……、旦那とは似ても似つかねぇ別嬪さんじゃねぇか」
そんなアトランタの姿を見た戦治郎は、意外なものを見たとばかりにやや驚いた様子でこの様な言葉を口にするのであった
まあ戦治郎からしたらアトランタと言う艦娘は初めて目にする艦娘であり、その容姿については全く情報を持っていないのである。強いて言えばジョシュアの姪であると言う事くらいで、ジョシュアの容姿はどちらかと言えば生前の剛の様な、体格も顔もかなりいかつい方に分類されるものであった為、戦治郎はアトランタの姿をややいかつい女性の姿で想像していたのである
そしてその予想が外れ、アトランタが見たところ大人しそうな感じの可愛い娘さんであったが故に、戦治郎はアトランタを見た時この様な事を思わず口にしたのである
それに対してアトランタはと言うと……
「あんた……、如何してジョシュア伯父さんの事知ってんだよ……?」
戦治郎が何気なく口にしたジョシュアの名前に反応し、眉を吊り上げて威嚇する様な表情を浮かべ、その容姿からは想像し難い口調で戦治郎にそう尋ねるのであった
「旦那から何も聞いてねぇのか?」
「質問に質問で……」
「これに答えてもらわねぇとこっちも答えにくいんじゃいっ!」
アトランタの質問に対して戦治郎がそう尋ねると、アトランタは質問に質問で返された事が余程気に入らなかったのか、戦治郎に鋭い視線を向けながら言葉を発しようとするのだが、戦治郎がそれを制する様にそう言って自身の質問に対する返答を催促するのであった
このやり取りの後、アトランタは軍規に関わるからと言って戦治郎の問いに対しての返答を幾度となく拒否し、これでは話が進まないと考えた戦治郎は、取り敢えずアトランタの質問の答えである自分とジョシュアの出会いについて話すのであった
そうして戦治郎の話を聞き終えたアトランタは……
「つまり貴方が伯父さんが言っていた戦治郎って事……?」
「そゆこと」
戦治郎を威嚇する様な険しい表情を一変させ、困惑と煩わしさが合わさった様な感情が見え隠れする様な、それはそれはなんとも複雑な表情を浮かべ、そんなアトランタの様子を見ていた戦治郎は、アトランタが自分の事をジョシュアから聞いている事を確認すると、そう言いながらフェイスベールとチャドルの頭部を外し、自身の素顔をアトランタに晒して見せるのであった
それによって露わとなった戦治郎の顔……、顔の半分近くを覆う火傷痕が付いた戦艦水鬼の顔を見たアトランタが、話では聞いていたが実物は自身の想像以上に迫力があり、火傷痕も生々しく非常に悍ましかった事から、思わずギョッとして硬直する中……
「取り敢えずお互い旦那から話を聞いてるみてぇだから、自己紹介やら細けぇ挨拶は抜きだ。んで、おめぇは俺が今回此処に来た理由に心当たりはあるか?」
「あたしの引き籠りの矯正……?」
「う~ん……、それもあるっちゃあるが……、メインはそっちじゃねぇ」
戦治郎がアトランタに向かってこの様に尋ね、それにアトランタが返事をすると戦治郎は腕を組み、苦笑しながらそう言って合同演習の件について話し始めるのであった
この時戦治郎は、アトランタがジョシュアから神話生物についても聞いているものだとして、ロッソがニィ=ラカスと繋がりがある事についても触れた上で、今回の合同演習は負けられない戦いであると伝えるのだが……
「ニィ=ラカスって何よ……?ホノルルのあの半魚人みたいなのとは違うの……?」
「あぁん……、旦那ったらその辺については話してなかったのねぇん……」
如何やらアトランタはホノルルを警護するディープ・ワン達の事は分かるが、それ以上については全く知らないらしく、その事実を知った戦治郎は神話生物に関する説明をしなければいけない事に面倒さを覚え、そう言ってガックリと肩を落として溜息を吐くのであった
そして気を取り直して戦治郎がアトランタに神話生物について説明しようとしたその時、戦治郎の懐が突如としてモゾモゾと動き出し、何が起こったのか分からずアトランタが警戒する様に蠢く戦治郎の懐に鋭い視線を向けたその直後……
「神話生物の事ならワイが説明するンゴ!てか現状それくらいしかワイの出番が無さそうンゴ!」
「えっ……?P〇KEMON……!?」
「う~ん……、外見的には合ってんだけど違うんだよなぁ……」
イオッチがそう叫びながら戦治郎の懐から飛び出し、それを目の当たりにしたアトランタは突然の出来事に目を白黒させながら思わずそう呟き、その呟きを聞いた戦治郎は複雑そうな表情を浮かべながらこの様な事を呟くのであった
それからしばらくして、アトランタがなんとか落ち着きを取り戻したところでイオッチが彼女に神話生物について……、特にニィ=ラカスについて細かく説明し始め、それによりイタリア海軍の総司令がとんでもない存在と手を組んでいる事をようやく理解したアトランタは……
「……もしかしなくても、あたしはとんでもない事に巻き込まれてる……?」
「
「……断る権利は……」
「ありませぬ、まあそっちの相手は十中八九俺がする事になるだろうから、おめぇが気にすることじゃねぇ。おめぇにやって欲しいのは、さっきも言ったが他の選抜メンバーと協力してそいつが連れて来た艦娘達と合同演習で戦って、コテンパンに叩きのめして欲しいってだけだ」
心の奥底から嫌そうな表情を浮かべながら、ゲンナリした様子でこの様な事を口にし、それに戦治郎が返答したところで合同演習への参加を断ろうと言葉を口にしようとするのだが、アトランタがそうくるだろうと予想していた戦治郎は、アトランタの言葉を遮る様にして自身がアトランタにやって欲しい事を再び伝えるのであった
それに対してアトランタは
「無理よ……、伯父さんから聞いてるでしょ?あたしは対空防御以外取り得が無いって事……。砲撃も雷撃も対潜もパッとしないから、他の人達の迷惑にしか……」
「馬鹿言え、おめぇはウチの
自分の戦闘能力の無さを自覚しているのか、渋い表情を浮かべながらこの様な返事をするのだが、それを受けた戦治郎はニヤリと笑みを浮かべながら、アトランタの事を真っ直ぐ見据えながらハッキリとそう言い切るのであった
「どう言う事……?」
「考えてみ?対空防御が高いって事は、すんげぇ雑に言っちまえばこっちに飛んで来る物体を一早く認識して、砲撃で撃ち落とせる可能性が高いって事だろ?そしてこっちに飛んで来る物体は何も艦載機だけじゃねぇだろ?」
「それってまさか……?」
「そう言う事、因みにそれは俺達の常套手段なんだわ」
戦治郎の言葉に疑問を覚えたアトランタが戦治郎に向かってその言葉の意味を尋ねたところ、戦治郎は相変わらず笑みを浮かべながらこの様に答え、それで戦治郎が自分に何をやらせようとしているのか察しが付いたアトランタが、引き攣った表情で答え合わせをする様に言葉を口にしようとすると、戦治郎はゆっくりと1度だけ頷きながらこの様に答えるのであった
その後、そんな事出来るはずが無いとごねるアトランタと、やり方を教えるだのコツを掴めば割とアッサリ出来るだの言って彼女の説得を試みる戦治郎が、しばらくの間押し問答を繰り広げていたのだが……
「あーっ!!!」
いつの間にかアトランタのパソコンの前に移動していたイオッチが、不意に驚いたように大声を上げ、それで驚いた2人は問答を中断しイオッチの方へと視線を向けるのであった
「どうしたんよイオッチ、何か見つけたのか?」
イオッチのリアクションの原因が気になった戦治郎が、イオッチに向かってそう尋ねてみたところ、イオッチは身体を震わせながら戦治郎達の方へと向き直り……
「ACEってアトランタの事だったンゴ……?」
「ACE?」
「それは……、あたしがネトゲで使ってるハンドルネームだけど……。って何でこいつはあたしのハンドルネーム見て驚いてるのよ……?」
戦治郎にはよく分からない事を言い出し、それを聞いた戦治郎が頭の中に疑問符を浮かべながらそう呟くと、それに答える様にアトランタがこの様な事を口にするのであった
「ワイ、I.O.D.ンゴ」
それに対してイオッチがそう答え、しばらくの間部屋の中に静寂が訪れ、アトランタの知識の中にあるものと、イオッチが発した言葉の意味が噛み合ったその瞬間、アトランタはこれまでに無いくらいの声量で驚愕の声を上げるのであった……