※この作品はR-18です。

鬼の鎮守府   作:稲荷童子

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対ロッソ用の切り札

留学してから今までずっと寮の自室に引き籠っていたアトランタを、何とか部屋から引きずり出す事に成功した戦治郎は、早速その日の夜に行う自主練に彼女を連れ出し、彼女の事を自主練に参加する艦娘候補生達に紹介し、いつもの様に自主練を開始するのであった

 

この時戦治郎は、改めてアトランタに合同演習の際に彼女にやって欲しい事と、それを上手くやる為のコツを教え、彼女がその内容を大体理解したと思ったところで、大和を相手に実践する様に指示を出し、それを受けたアトランタはやや困惑しながらも、日本帝国海軍内でもトップクラスの実力を持つ大和と対峙するのであった

 

そしてこの対戦の勝敗がどうしても気になり、自主練の手を止めてその戦いを見守る事にした艦娘候補生達の前で、アトランタは見事にそれをやってのけ、艦娘候補生達の度肝を抜くのであった

 

そんな彼女がやって見せた事……、それは迫り来る艦載機を対空射撃で退けたり撃墜したりしつつ、艦載機を援護する為、或いは艦載機に気を取られている隙を狙って放たれた砲弾を、正確無比な砲撃で撃ち落とすと言う、護や摩耶が得意としている砲弾迎撃だったのである

 

普通軍学校や各拠点で行われる訓練では、砲弾を砲弾で撃ち落とす事は非常に困難な事だとされ、そうするよりも飛んで来た砲弾を回避し、敵が砲弾を再装填している隙を狙って攻撃を仕掛ける様にと教えられるのだが……

 

「これが上手くいけば相手を動揺させて、砲弾の再装填が終わってから再攻撃するまでの間に更に隙だらけの時間を追加で作れるし、味方も回避行動に気を遣わず、ガンガン攻撃し続けられる……。まあその為には相当な技量が要求される訳なんだがな」

 

武術における後の先の重要性をこのメンバーの中で一番よく理解しているであろう戦治郎が、大和に中々有効打を与えられずに苦い表情を浮かべるアトランタの事を見守りながら、まるでその理屈に異を唱えるかの如くそうほざくのであった

 

因みにこの戦いは、途中でアトランタがスタミナ切れを起こしてしまい、それによってアトランタの動きが鈍くなって出来た隙を逃す事無く大和が突き、大和の勝利と言う形で幕を閉じる事になったのだが……

 

「大和教官相手にあれだけ戦えるってチョー凄いじゃんっ!!」

 

「大和教官の被弾箇所に何度も正確に砲弾を当て続けるその砲撃も、とても素晴らしかったですっ!」

 

「その精密さがあるからこそ、飛来する砲弾を空中で撃ち落とせるのでしょうね……」

 

「どれもこれも、とても最近艦娘になった人の動きだと思えませんでしたわ……」

 

その様子を見ていた艦娘候補生達の殆どが、戦いが終わるなりアトランタの傍に駆け寄り、興奮した様子で彼女の健闘を称え始め……

 

「戦治郎さんがあの娘に固執していた理由がよく分かったわ、確かにこれならイタリア海軍に負ける可能性は格段に減るわね……」

 

「いくら戦艦の砲撃だとしても、当たるどころか飛んでこなけりゃどうと言う事も無い……ってなっ!」

 

「問題はあ奴のスタミナくらいじゃな……」

 

「んだな、技術面は横須賀の主力艦隊の連中に匹敵するほどのものがあっから、あいつの自主練習は体力作りを中心にやってもらうとすっかね」

 

アトランタを取り囲む候補生達から少し離れた場所で、戦治郎が彼女と接触する為に奔走していた事を知る瑞鶴がこの様に呟き、それに対して戦治郎がアトランタの模擬戦に付き合ってくれたご褒美とばかりに、大和の頭をこれでもかと言うくらい撫でまわしながらこの様に言葉を返し、戦治郎に撫でられるのが余程気持ちいいのか、スッカリ蕩け切ってフニャフニャの笑みを浮かべる大和から目を逸らしながら、顎に手を当てて眉間に皺を寄せながら日進がそう呟くと、戦治郎は変わらず大和を撫で回しながらこの様に答え、すぐさま大和にアトランタの体力作りのサポートをお願いするのであった

 

尚これは余談だが、これにより榛名と霧島の自主練における技術指導役が大和から戦治郎に変わる事になり、戦治郎に褒められたい……あわよくば大和の様にナデナデしてもらいたいと考える榛名が、今まで以上に自主練を頑張る様になり、その結果彼女がメキメキ成長する事になる模様

 

その後、アトランタと大和の戦いの熱がある程度冷めたところで、戦治郎が艦娘候補生達に自主練を再開する様に指示を出し、それからしばらく時間が経過し解散の時刻が迫り、皆が後片付けを終えて部屋に戻ろうとしたところで、戦治郎は瑞鶴とアトランタの2人を呼び止めるのであった

 

「どうしたの?何か用事?」

 

「用事があるならさっさと言って……、あたしもうヘトヘトなんだけど……」

 

「ちょっち合同演習関係で2人に話がある……、ってかアトランタの場合は少し前に俺と交わした約束の事、もう忘れちまったのか?」

 

特に疲れた様子も無く、戦治郎に呼び止められた事に対してただただ不思議そうな表情を浮かべる瑞鶴とは対称的に、心底疲れ切った様子でジットリとした視線で戦治郎を睨みつけるアトランタが、それぞれの言葉で要件について戦治郎に向かって尋ねると、戦治郎は不満そうなアトランタの方を向き、苦笑いを浮かべながらそう答えるのであった

 

「あ~……」

 

「何?何かあったの?」

 

「アトランタを部屋から連れ出す時、合同演習中に発生するかもしれねぇアッチの総司令と俺とのガチンコバトルの時、俺が使う事になるかも知んねぇ『とっておき』って奴を見せてやるって言ったのよ。んでおめぇに残ってもらったのは、俺が『ソレ』を使った後の事について、ちょっち話しておかなきゃと思ってな」

 

戦治郎の言葉により、少し前にあったやり取りの事を思い出したアトランタが、気の抜けた声を出し、その内容がちょっと気になった瑞鶴が戦治郎に言及したところ、戦治郎は少し複雑そうな表情を浮かべ、頭をガシガシと乱暴に掻きながらこの様に答え、戦治郎がそう言った直後に詳細を知っているであろう大和の表情が曇るのであった

 

戦治郎のこの発言により、瑞鶴はより一層頭上に疑問符を浮かべていたのだが、次の戦治郎の言葉を聞いた瞬間、思わず目を見開き愕然としてしまうのであった

 

「俺が『ソレ』を使ったら、どうしても艦隊に対して俺から指示が一切出せなくなっちまうんだ。だからもしそうなったらなんだが、艦隊の指揮は俺の代わりとして、第一艦隊旗艦のお前に全部任せようって思ってんだが……」

 

「指示が出せなくなるってどういう事よ……?」

 

戦治郎の言葉を聞くなり固まってしまった瑞鶴の隣に立つアトランタが、訳が分からないと言った様子でそう尋ねた直後、我に返った瑞鶴が戦治郎に詰め寄り……

 

「指示が出せなくなるって、『ソレ』ってつまり『アレ』の事なのっ!?流石に『アレ』はヤバ過ぎるでしょっ!!!周囲の被害とかどうするつもりよっ!!?」

 

戦治郎が言う『ソレ』に心当たりがあるのか、目尻を吊り上げながらそう捲し立てるのであった

 

「その辺はこっちで既に対策済みだ、まあ言葉だけじゃ信じてもらえねぇだろうし、今からすぐに実践すっからそれ見て俺の提案受けるか考えてくれ。ってな訳で行くぞイオッチ」

 

「分かったンゴ」

 

怒りを露わにする瑞鶴の言葉を受けた戦治郎は、そう言うなり変装を解いて準備体操を始め、程よく身体がほぐれたところで戦治郎の懐に入っていたイオッチに声を掛け、海の方へとゆっくりと歩いて行き、沖の方まで辿り着くとその場で立ち止まり静かに目を閉じるのであった

 

そんな戦治郎の様子を、瑞鶴は内心ハラハラしながら、大和は相変わらずその表情を曇らせながら、アトランタは頭上に疑問符の嵐を巻き起こしながら見守っていると、突如として戦治郎の身体が小刻みに震え始め、それを合図にしていたのだろうか、イオッチが戦治郎の懐から飛び出し、戦治郎の額の右側に貼り付いてその姿を戦治郎の左側の額から生える角と同じ形に変化させ、それが完了したその直後……

 

「―――――――――!!!」

 

天に向かって吼える様に仰け反った戦治郎の左目から、まるで血の様に紅い炎が勢いよく噴き出し、その中に『鬼』の文字が浮かび上がると同時に、左目の炎から紅炎……プロミネンスが幾度となく発生し始めるのであった……

 

「え……っ!?ちょっと……、何よアレ……っ?!」

 

「うわぁ……、マジかぁ……。まぁ……、相手のバックに咲作さんクラスの神話生物がいるってなると、ソレを使わざるを得ないってのは分かるんだけど……。本当に大丈夫なのかな……?」

 

突然の出来事に混乱するアトランタを余所に、舞鶴鎮守府に滞在していた時に行われた、ジジーズ主催のハチャメチャ演習に参加した際に『ソレ』を……、戦治郎の能力の1つである『鬼神紅帝 鬼帝ノ型』を目にした事があった瑞鶴が、心配そうな表情を浮かべながらそう呟くのであった

 

そう、瑞鶴はこの力の恐ろしさをよく知っているのである

 

正蔵から演習のルールを伝えられた直後、戦治郎がこの力を発動して正蔵に殴りかかった時の様子を、戦治郎の咆哮や攻撃によって発生した衝撃波によって粉々に砕かれた埠頭のコンクリートが、まるで細切れにした発泡スチロールの様に吹き飛んで行くその光景を、瑞鶴は頭と心に無理矢理刻み込まれたのである……

 

「……って、あれ……?」

 

その時の記憶が脳裏に蘇った直後、瑞鶴の中によく分からない違和感が湧き上がり、それに気が付いた彼女は思わず首を傾げながらそう呟く……

 

そしてその違和感は、海上で動き回る戦治郎の姿を見ている内に肥大化していき、瑞鶴はその違和感の正体を探る為、顎に手を当て目を細めて考え込み始める……

 

それからしばらくして……

 

「……何で衝撃波がこっちに来てないの……?それに今の戦治郎さんの動き……、舞鶴の時と何か違う様な気がする……?」

 

違和感の正体に気が付いた瑞鶴は、思わずそう呟くのであった

 

そう、瑞鶴が言う通り戦治郎が鬼帝ノ型を発動させれば、攻撃だけでなく声量や声が響き渡る範囲、衝撃波の速度までもが50倍に強化される為、戦治郎が鬼帝ノ型を発動して咆哮を上げれば、浜辺に立ち戦治郎の様子を見守る瑞鶴達も巻き込み、衝撃波やそれによって生み出された津波で辺り一帯に甚大な被害が出るはずなのだが、今回に限ってはそれが無かったのである

 

更に鬼帝ノ型を発動した戦治郎の動きと言うものは、戦治郎が持ち合わせている理性や知性が吹き飛び、完全な暴走状態になってしまう関係上、非常に野性的で荒々しいものになるはずなのだが、今回の場合は少々ぎこちないながらも、武術を修めている者らしい立ち回りをしているのである

 

因みに瑞鶴と共に戦治郎の様子を見守っていたアトランタは、戦治郎が左目から炎を噴き出した事と、豹変と言っていい程に雰囲気をガラリと変えた事に対しての驚きと、今の状況が全く掴めていない事から来る困惑により、大いに混乱し瑞鶴の隣で立ち尽くしていたりする

 

それからしばらくの間、瑞鶴は己の中に湧き上がった2つの疑問の答えを探る様に、自身のこめかみに指を当てながら考え込み始めるのだが、情報があまりにも少なすぎる為答えを導き出す事が出来ずにいたのであった

 

そんな瑞鶴に答えを教えてくれたのは、瑞鶴が考え込んでいる間に彼女達のすぐ傍まで歩み寄って来ていた大和であった

 

「提督が繰り出す攻撃によって発生する衝撃波や津波がこちらに来ていないのは、提督が沖に辿り着いた直後にイオッチさんが提督の周囲に魔力で出来た障壁を張って下さっているからなんです」

 

そう言って大和が戦治郎の方へ……、厳密には現在戦治郎が向いている方向の少し前辺りを指差し、それに倣う様に瑞鶴と我に返ったアトランタがそちらに顔を向けたところ、丁度戦治郎が大きく口を開けながら正拳突きを繰り出し、その拳圧で海面が大きくうねり、左右に大きな波を形成し前進していくのだが、それがある程度進んだところで唐突に見えない壁にぶつかった様な動きを見せて消失すると言う光景が目に映るのであった

 

「なるほど……、これが周囲に被害を出さない様にする為の対策って奴なのね……」

 

「あんなに口を大きく開けているにも関わらず、戦治郎の声がこちらに一切聞こえていないのも、その障壁が空気振動も防いでいるからって事……?」

 

「傍から見ればシュールな光景に見えると思いますが、今の提督の咆哮は艦娘の艤装を容易く中破させる威力がありますから……」

 

その後3人はこの様なやり取りを交わし、大和の言葉を聞いたアトランタは鬼帝ノ型を発動した戦治郎の恐ろしさを思い知り、思わずその表情を引き攣らせるのであった

 

これにより瑞鶴の疑問の1つが解けた訳だが、まだもう1つ、戦治郎の立ち回りに関する疑問が残っていた為、瑞鶴はその件について大和に質問するのであった

 

それについても大和は知っていた様で、大和は今度は戦治郎の頭に貼り付いたイオッチを指差し、この様に返答するのであった

 

「提督があの様に動けているのは、イオッチさんが提督の記憶を読み取って得た武術の立ち回りに関する知識を基に、提督の全身の神経に電気信号を流して提督の身体を操作しているからなんです……。更に言えば、今の提督の身体を形成する細胞は、イオッチさんが纏う電気による刺激によって活性化している上に、イオッチさんの魔力によって強化も施されているんです……。なので今の提督の戦闘力は、瑞鶴さんが舞鶴で見た時よりも遥かに向上しています……。因みに提督がここ最近筋肉痛に悩まされていたのは、これが大きな原因なんです……」

 

「えぇ……」

「うわぁ……」

 

大和のこの言葉により、戦治郎が途轍もなく無茶をしている事を知った2人は、思わずその表情を引き攣らせながら絶句するのであった……

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