※この作品はR-18です。

鬼の鎮守府   作:稲荷童子

647 / 655
横須賀の乱の影響の大きさ

戦治郎の頼みとリチャード夫妻の頼みを聞き入れ、これまで研修の為に勤務している病院に貢献して来た事を理由に、長めの休暇をもぎ取って江田校祭に参加する為に広島入りした悟だが、そんな彼を見てここできっと1つ疑問が生じるところだろう

 

どうして悟と同じく横須賀に残っている太郎丸と弥七を、一緒に連れて行かなかったのだろうか?と……

 

今回はそれについて触れていこうと思っている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悟がリチャード夫妻と共に広島に向かった後の事である、横須賀鎮守府内に存在するある設備の中に、複数の影が一切の無駄の無い動きで音も立てずに侵入していく……

 

そんな影達は市街戦用の都市迷彩を施した野戦服で身を包み、顔も防弾マスクやガスマスクなどで覆い隠し、その手にはアサルトライフルやグレネードランチャーなどの様々な歩兵用火器が握られていた

 

そして影達が周囲を警戒しながら施設の奥の方へと進んでいくと、先頭に立って進んでいた影達のリーダー格と思わしき存在が急に全体に止まる様にとハンドサインで指示を出し、影達がそれに従って傍に転がる瓦礫やガラクタの陰に身を潜めた直後、進行方向上から影達と全く同じ武装を装備した者達が姿を現すのであった

 

こうして新たに現れた影達が物陰に潜む影達の存在に気付かず、瓦礫やガラクタの傍を通り過ぎようとしたところで、リーダー格が攻撃指示を出し、影達は新たに現れた影達に両サイドから奇襲を仕掛け、反撃のチャンスすら与える事無く新たな影達を制圧し、進軍を再開するのだったが……

 

「……来たかっ!?」

 

「うげぇ……、マジかよ……」

 

「なるべく大きな音を立てない様にナイフや格闘術で仕留めたのですが……、やはり気付かれますか……」

 

リーダー格が何かの気配を察知し、険しい顔で呟く様に声を荒らげ、それを聞いた他の影達はどこかゲンナリした様子で、各々に言葉を口にしながら戦闘態勢に入る。それから間もなくして、影達の進行方向上から明らかに人間よりも大きな影が、建物内の狭い通路であるにも関わらず、かなりの速度を出しながら影達目掛けて突っ込んで来るのであった

 

そんな影を排除するべく、影達が遮蔽物から身を乗り出して攻撃を仕掛けようとするのだが、直後に大きな影の背後からまるで大蛇の様な長く太い影が伸び、その先端が一瞬火を噴くと次の瞬間には、通路上の遮蔽物諸共一部の影が吹き飛ばされてしまうのであった

 

「怯むなっ!!奴をこれ以上近付けさせない為にも攻撃を続けるんだっ!!」

 

寸でのところで大きな影の攻撃を回避する事に成功したリーダー格が、鬼気迫る様子で他の影達に指示を出し、それに従って影達が大きな影の侵攻を妨害するべく弾幕を張る様に手にした武器の引き金を引き、大きな影に対して一斉攻撃を開始する訳なのだが……

 

「……当たらないっ!?」

 

「あの図体でこの銃弾の嵐を潜り抜けて来るかっ!?」

 

驚くべき事に大きな影は通路上に展開された弾幕を、そのサイズからは想像出来ないほどの身軽さで、三角飛びの要領で床や壁を蹴って跳躍しながらスルスルと回避し、攻撃の手を止める事無く続行しつつ、影達の方へと猛然と突進して来るのであった

 

それにより影達の数が見る見るうちに減っていき、このままでは不味いと判断したリーダー格が、グレネードランチャー持ちに大きな影を討ち取るべく攻撃指示を出し、残った影達の中でグレネードランチャーを所持する者達が攻撃を開始したところ……

 

「あ……」

 

「終わった……」

 

大きな影は床に転がる榴弾を察知するや否や、爆発に巻き込まれぬ様にとこれまでより高く跳躍、空中で左右に影を伸ばしながら身を翻して天井に貼り付くと、先程伸ばした影を羽ばたかせながら天井を猛ダッシュし始め、やがて影達の頭上に到達してしまうのであった

 

その様子を目にした影達の表情が絶望の色に染まった直後……

 

「もらったよっ!」

「悪ぃな皆っ!こっちのチームの勝ちだっ!!」

 

影達の頭上から聞き覚えがある声が聞こえると同時に、大量の銃弾と砲弾が一斉に浴びせかけられ、影達は瞬く間の内に制圧されてしまうのであった

 

その直後である

 

『侵攻サイドの全滅を確認っ!よって今回の演習は防衛サイドの勝利となったっ!!』

 

『設備内に残ってる奴は全員表出ろ~、結果発表すんぞ~』

 

不意に建物内に設置されたスピーカーから陸軍元帥大将である剣持と海軍中将である燎の声が発され、それを聞いた影達と大きな影はまるで今まで争っていたのが嘘の様に並び立って建物から出ていくのであった

 

そうして太陽の下に姿を現した者達は、誰もかれもが全身塗料まみれになっており、今回の戦いの激しさと、この戦いがペイント弾を用いた模擬戦であった事を物語っていた

 

「やっぱり負けたか~……」

 

「ある程度ハンデがあるとしても、大体太郎丸達が入ってるチームが勝つわよね~……。そもそも身体能力とかに差があり過ぎるし……」

 

「そう言えばムサシさんが屋上から侵入するチームにいたはずですが……?」

 

「ごめん……、弥七に奇襲を仕掛けられて開始早々退場させられたんだ……」

 

「痛々しい引っ掻き傷ね……、中将達の話が終わったら手当てしてあげるわ」

 

この様に今回の模擬戦に関するやり取りを交わしながら、影と呼ばれていた者達が今まで顔を覆い隠していたマスクを外せば、そこにはよく見知った顔……、横須賀鎮守府の主力艦娘の面々や、ムサシを含む陸軍の精鋭達の顔があり、その表情は揃いも揃って苦々しいものとなっていたのであった

 

このメンツを見て分かる通り、この戦いは海軍の艦娘達と陸軍の兵士達による、市街戦を想定した合同演習だったのである

 

横須賀の乱により例え海軍所属の艦娘であろうと、ある程度は屋内での対人戦闘がこなせる様になっておかなければ不味い事が浮き彫りになり、この事態を重く見た元帥が燎に重要拠点に所属する艦娘達だけでも構わないので、艦娘にもある程度陸上戦が出来る様に早急に鍛える様にと命令を出し、それを受けた燎が剣持にこの件を相談したところ、剣持から定期的に陸軍と合同演習するのはどうだろうかと提案された事で、この合同演習が行われる事になったのである

 

これだけ聞けば陸軍にあまりメリットが無い様な気がするが、今の陸軍は以前にも言ったと思うが即戦力になりそうな者がムサシと煌くらいしかいない、所属する兵士の殆どが新兵だと言っても過言ではない状態である為、そんな新兵達になるべく多くの経験を積ませたいと考えている剣持からしてみれば、今回の件は渡りに舟と言った感じだったのである

 

又、海軍からすれば今の陸軍は横須賀の乱の際に各地の拠点に赴き、暴走する旧陸軍共から多くの艦娘や提督を助けてくれた恩人である為、この提案を簡単に断る事は出来なかったのであった

 

さてそれはそうとして、工廠にある元明石の部屋で監視カメラを通じて演習の様子を見守っていた剣持達の到着を待つ間、横須賀の艦娘達と陸軍の兵士達が各々に交流を図る中、地上からの突入部隊の指揮を執っていた長門は、自分達の部隊をあっという間に制圧してみせた大きな影の正体……、背中から大きな鷲の翼を生やし、尾の代わりにレ級の艤装を尻から生やした全長3mを優に超えるベンガルトラに跨る太郎丸に話し掛けていた

 

そんな太郎丸の腰にあるホルスターの中には、戦治郎が舞鶴で作り出した2丁の小型短機関銃であるアルルカンとピエロットが収められていた

 

「本当に済まないな、折角戦治郎に会える機会だったのに、この様な事に付き合わせてしまって……」

 

「これに関しては仕方ないよ、陸軍の戦力強化は今の日本帝国軍が抱えている大きな課題の1つだろうし、艦娘達の対人戦闘のスキル向上も大事な事だからね」

 

心底申し訳なさそうに長門がそう言うと、太郎丸は少々複雑そうな表情を浮かべながらこの様に返答し……

 

「俺はその辺の細けぇ事はサッパリ分かんねぇけど、存分に暴れて能力を身体に馴染ませる機会が来たってのは嬉しい事だな。まあ本音言えばご主人やシゲとは会いたいとこなんだけどな……」

 

太郎丸の言葉に続く様に、太郎丸が現在跨っている巨大な虎の様なナニカが、この様な事を口にするのであった

 

そう、この翼を持つ巨大な虎の様なナニカは、ゾア汁によって秘めたる能力を解放し、この様な姿に変身する能力を手にした弥七なのである

 

弥七はこの能力を手にした事で、エリレとしての戦闘力はそのまま……、いや、慣れ親しんだ四足歩行による安定性のある機敏な動きによって相手を攪乱し、その巨体で相手を威圧して動揺を誘える様になった事や、翼を使って空を飛び、相手の頭上から艦載機による爆撃と合わせて戦艦主砲を叩き込む、或いは相手の懐に飛び込んで装甲ごと相手を鋭い爪で切り裂いたり、相手が人型の深海棲艦ならば巨大な顎で首筋に食らい付き、研ぎ澄まされた牙で喉笛を噛み千切る様な事が出来る様になった事もあり、下手をすればエリレの姿の時よりも戦闘能力は向上していると言えるだろう

 

エリレの時よりも身体が格段に大きくなった事により、被弾リスクが上がったと思う者もいるだろうが、向上した機動力のおかげで相手の砲撃や機銃掃射も難なく回避する事が出来る上に、翼を使って強い風を起こして砲弾の軌道を逸らしたり、重さや勢いの無い銃弾を吹き飛ばせる事や、緊急回避として虎形態からエリレ形態に瞬時に戻る事も可能である為、被弾リスクに関しては全く以て心配無用なのである

 

まあそれはそうとして、太郎丸の言葉で若干明るくなった長門の表情が、弥七の言葉によって先程以上に暗いものになってしまった為、太郎丸は慌てた様子で慰めの言葉を長門にかけてあげるのであった

 

さて、ここでようやく太郎丸達が悟達について行かず、横須賀に残った理由について触れていこう

 

率直に言ってしまえば、太郎丸達はこの海軍と陸軍の合同演習の強敵役として駆り出されてしまったのである

 

これは如何言った経緯でこの様になったのかと言えば、合同演習の件が可決した後、剣持が陸軍の戦力強化を急ぐ理由を燎に話したところ、燎がその意見に賛同したからである

 

そんな剣持が話した内容とは、桂島の件を鑑みて、もしかしたら今残っている海軍の提督の中に、元桂島の提督が築いたパイプを利用して未だにプロフェッサーやアリーと繋がっている者がいるかもしれないし、この2人以外の他の転生個体と手を組んでいる者もいるかもしれず、場合によっては陸軍の兵士達は陸上で転生個体と戦闘する可能性があるかもしれないと言うものだったのである

 

これを聞いた直後、過去に転生個体と直接戦ってボコボコにされた事がある燎は、その時の事がフラッシュバックして即座に剣持の考えを否定しようとしたのだが……

 

「正直なところ、俺達人間風情が圧倒的な力を持つ転生個体相手に勝つ事が出来ないと言う事など重々承知だ。だが俺達が頑張る事で相手をその場に縛り付ける、或いは追跡する為に必要な痕跡を残す事が出来れば、転生個体を倒せる可能性があるあいつら(戦治郎達)の助けになるのではないかと、そう考えたからこそ陸軍は早急に戦力を強化し、転生個体との戦闘での生存率を上げ、あいつら(戦治郎達)にタスキを渡せる可能性を上げる必要があると思っているんだ」

 

剣持がこの様に言葉を続けた為、燎は今しがた口にしようとした言葉を飲み込み、剣持の考えに賛同したのである

 

こう言った経緯があり、合同演習は艦娘達用の人間だけで行うもの以外に、転生個体を仮想敵としたものも行う方針になり、話し合いの結果横須賀に残っていた太郎丸と弥七、それに陸軍のムサシが対転生個体演習のターゲットになる事となったのである

 

因みに太郎丸達と同じく転生個体である悟と、転生個体よりも厄介な神話生物である煌がターゲットから外された理由は、悟の場合は医師免許取得の為の研修が忙しいから、煌の場合は1度試しにやってみたところ、ちょっぴり本気を出した煌に誰も……、ディープストライカースーツを装備した燎や本気を出した剣持を加えても勝つ事が出来なかった為、これでは訓練にならないと言う事で外された模様……

 

尚これは余談だが、今回の演習ではムサシが太郎丸達と戦ってみたいと言う要望を出し、それを受けた剣持がその要望に答えた訳なのだが、肝心のムサシは先程本人が言った通り、開始早々太郎丸が立てた『相手のチームで一番強い人を真っ先に倒す事で、相手チームに動揺を誘って士気をガタ落ちさせる』と言う作戦に従った弥七に奇襲を仕掛けられ、巨体を駆使したのしかかりからの顔面への乱れ引っ掻き、そしてフィニッシュとして尻尾の主砲から特大のペイント弾を鼻っ柱にお見舞いされた模様

 

この話を燎から持ち掛けられた時、弥七は上記の理由でノリノリで引き受けたのだが、太郎丸の方は少し躊躇いを見せたものの、最終的には戦治郎の助けになるからと言う事で、この件を引き受ける事にしたのである

 

そうして行われて来た合同演習だが、今回は運悪く江田校祭の開催期間とモロ被りしてしまい、太郎丸達は戦治郎に会いたい気持ちを抑え込み、合同演習に参加する事にしたのであった

 

そう、合同演習は専用の設備内で1日ドンパチするだけで終わらず、それによって出て来た問題点を解消すべく、しばらくの期間中合同の訓練も行われる事になっているのである。その期間が江田校祭の開催期間と被ってしまっている為、太郎丸達は戦治郎との再会の機会を諦める事にしたのである

 

そうしている間に剣持達が姿を現し、今回の演習の結果や問題点を発表し、後日行う訓練の内容について説明を開始するのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ハラヘッタ」

 

剣持達が地上でこの様なやり取りを交わしている中、横須賀鎮守府の地下深く……、かつてアムステルダム泊地の提督だったものの頭が封印されていた場所では、水の様なナニカが蠢きながらこの様な事を呟いていたのであった……




弥七の天井走行は、爪で天井に貼り付いた上で、構造を若干変化させて羽ばたかせれば浮力ではなくダウンフォースを生み出せる様にした翼を用いて行う模様
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。