※この作品はR-18です。

鬼の鎮守府   作:稲荷童子

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お前は居ちゃ駄目でしょ

重巡科の出し物である射的の会場を後にした戦治郎達は、次の目的地である艦娘候補生用の体育館型の屋内訓練場へ足を運ぶのであった

 

この体育館型の屋内訓練場は、雨天などでグラウンドが使えなくなった際に使用する設備で、そこでは軽巡達の出し物であるVRホラーゲームを基にしたお化け屋敷が開催されており、軽巡科の出し物がどのくらいのクオリティーであるかについてと、アトランタが他の軽巡艦娘候補生達とうまく馴染めているかを確認する為に、戦治郎達はそこに向かう事にしたのである

 

「……来たわね」

 

「来ましたわよ。ってやめろやめろ!俺を見るなり露骨に嫌そうな顔すんじゃねぇっ!」

 

そんな戦治郎達が会場の入口に辿り着くと、受付を担当する事になったアトランタが戦治郎達を見つけるなりそう言ってあからさまに嫌そうな表情を浮かべ、そんなアトランタの反応を見た戦治郎は思わずそう叫ぶのであった

 

まあアトランタがこの様な反応をするのも無理も無い話である。彼女からしたら戦治郎は脅迫紛いの方法で引き籠りだった彼女を無理矢理表に引きずり出した張本人である上に、これまでの経験(転生個体や神話生物との戦い)の関係で、胆力が恐ろしい程に鍛え上げられている為、この出し物とは相性が非常に悪いのである

 

そして戦治郎と言う男は生粋の技術者及び職人である為、鍛え上げられた胆力によって平常心を維持しつつ、軽巡艦娘候補生達が頑張って作った出し物の細かい所までもを冷静に観察し、そのクオリティーについてダメ出ししてくるかもしれないのである。故にアトランタはあの様な反応を見せたのである

 

まあそれは兎も角、いつもの何処か気だるそうな表情に戻ったアトランタは、客としてやって来た戦治郎達から入場料受け取ると出し物の簡単な説明を行い、出し物の説明を受けた戦治郎達は戦治郎と大和、リチャードとスウの2つのグループに分かれてこの出し物を楽しむ事にし、先ずはリチャード達が会場の中へと入って行くのであった

 

そしてそれからある程度時間が経過し、出口からリチャード達が姿を現したのだが……

 

「おぉぅ……、スウさんがまるで生まれたての小鹿の様に……」

 

「どうやらスウはモンスターパニック系のホラーは大丈夫だけど、ジャパニーズホラーは苦手だったみたいだね」

 

そこには会場に入る前は余裕そうな表情を浮かべていたにも関わらず、両目を閉じて苦笑するリチャードの腕に救いを求める様に、縋る様にしがみ付いてプルプルと震えるスウの姿があり、そんなスウの……、元深海棲艦の指導者の姿を目の当たりにした戦治郎は、意外そうな表情を浮かべながら呟くようにこの様な言葉を口にし、それを聞いたリチャードは相変わらず苦笑しながらこの様に返事をするのであった

 

それから間もなく戦治郎達の順番が回って来て、戦治郎達は軽巡艦娘候補生達の誘導に従いながら会場内に入って行くのであった

 

そうして戦治郎達が踏み入ったお化け屋敷は、戦治郎がかつて横須賀でやった事のある和風のVRホラーゲーを再現した、薄暗い迷路を出口を目指して進んでいくと言うものになっており、元ネタを知るが故にギミックを先読み出来てしまう戦治郎は、ネタバレしない様に細心の注意を払いながら、桂島での生活が長かったが故にこの様な娯楽に疎く、新鮮な気持ちでこのお化け屋敷に挑み、時々ギミックに驚いて戦治郎の腕にしがみつく大和を落ち着かせながら、出口に向かって歩みを進めるのであった

 

「う~ん……、俺から見たらこのお化け屋敷は~……、まあ及第点って感じだな~……。元ネタの再現を頑張ってます!ってのは伝わってくんだけど、細部の再現がちょっちおざなりになってて、そのせいで臨場感が半減してるって感じなんだよな~……」

 

「そこは流石に大目に見てあげてもいいかと……、提督達の技術力と比較されてしまうと軽巡の候補生達が可哀想です……」

 

そんな中、戦治郎はこのお化け屋敷のクオリティーに関する感想を零し、それを聞いた大和はギミックのせいで涙目になりながら、軽巡の候補生達をフォローするのであった

 

「まあそれは確かにそうなんだけどな~……」

 

「他の科が整備科の力を借りながら出し物の準備をする中、彼女達は自分達の力だけd……」

 

大和の言葉を聞いた戦治郎が、申し訳なさそうな表情を浮かべながら後頭部をガシガシと掻き始め、戦治郎の反応を見た大和が更なるフォローの言葉を口にしようとしたその時、進行方向上にある曲がり角から、火災防止の関係で蝋燭の代わりに照明として設置された蝋燭型ライトの光に照らされて伸びる異様な影に気付いた大和は、口にしようとした言葉を飲み込み、目を丸くして硬直してしまうのであった

 

「ん?どったよ大和?」

 

急に歩みを止めてしまった大和に対して、大和の方ばかり見ていて影に気付いていなかった戦治郎が、怪訝そうな表情を浮かべながら歩みを止めてこの様に尋ねると、大和は愕然としたまま静かに震える指先を影の方へと向け、それに倣って戦治郎がそちらに視線を動かすと……

 

「……」

 

そこには大和が指差すと同時に曲がり角から姿を現した影の主……、マムシの様な頭部にオオアナコンダよりも巨大な身体を持ち、その背中から蝙蝠の様な翼を生やした、このお化け屋敷の元ネタになったVRゲームには絶対に出て来るはずの無い悍ましい生物……、クトゥルフ神話において奉仕種族に分類される神話生物である忌まわしき狩人の姿があった……

 

それを視認した直後、戦治郎は自分でも驚くほどの速度で思考を巡らせ始める

 

(どうしてこいつが此処にいる……?一体誰の差し金だ……?もしや翔と敵対していると言うニャルの仕業か……?それともイタリアの司令官の背後にいるっつぅニィ=ラカスが先手を打って来た……?いや、それは一旦置いておこう、その辺りの事情は今はそこまで重要じゃねぇ……。今一番重要なのは、目の前のこいつをどうするかだ……。いっそこの場で倒すか……?答えは否、此処で騒ぎを起こせば来場客達がパニックに陥るし、何より軽巡艦娘候補生達が必死になって作ったこの出し物のセットをぶっ壊す事になっちまう……。それは避けたいところだ……。だがこいつを放置してたら、間違いなく後で厄介な事になる……。だったら……)

 

刹那の間に繰り広げた自問自答の末、自分なりの最適解に辿り着いた戦治郎は……

 

「どっこいしょ」

 

「えっ!?てっ、提督っ!?」

 

すぐさま自身の隣で棒立ちになっている大和をお姫様抱っこすると、忌まわしき狩人の動きを注意深く観察し……

 

「ここだっ!!!」

 

タイミングを見計らって自分達に近付いて来る狩人の横を、狩人と壁の間を縫う様に潜り抜け……

 

「だらっしゃぁっ!!!」

 

狩人の気を引く為に、すれ違いざまに狩人の尻尾に渾身のローキックをお見舞いし、そのまま出口に向かって全力疾走し始めるのであった

 

そう、戦治郎は自分達の方へ狩人の注意を引き付け、お化け屋敷から脱出しつつ狩人を人気の無い場所へ誘き寄せ、リチャード達と協力して始末する事にしたのである

 

「提督っ!あの怪物が追って来ていますっ!!」

 

「わーってるっ!そう仕向けたんだからなっ!!ってか舌噛むからあんま喋んなっ!!」

 

戦治郎が迷路を破壊しないよう注意しながら駆け抜ける中、狩人が追って来ている事に気付いた大和が警告を発すると、戦治郎は走り続けながら非常に簡潔に自分の考えを大和に伝えつつ、この様な注意を促すのであった

 

そんな戦治郎だが、狩人にローキックを叩き込んだ際に違和感を感じた為、この様な事を言いつつ、足だけでなく思考もその違和感の正体を突き止める為にフルスロットルで回していたのであった

 

(さっきあいつを蹴った時、感触が明らかにおかしかったな……。生物を蹴ったと言うよりも、柔らかいゴムボールとかパンチバッグを蹴った様な感触だった……。あいつの皮膚にそう言った性質があるのか……?えぇい分からんっ!!!)

 

戦治郎がそんな事を考えていると、目の前から強い光が差し、それが出口であると察した戦治郎はリチャードにこの事を伝える時間を作る為、走る速度を上げて出口から勢いよく飛び出すのであった

 

「どうしたんだい戦治郎?何か慌ててる様に見えるけど……」

 

「リチャードさんっ!!お化け屋敷の中に明らかに此処に居ちゃいけねぇ奴がいましたっ!!!ってかリチャードさんほどの人が、そいつの存在に気付かなかったんですかっ?!」

 

「えっ?僕達はそれらしい奴を見た記憶が無いんだけど……?」

 

「けどいたのはマジですからっ!!実際今俺達の事追っかけt」

「……?それらしい影は何処にも見当たらないよ?」

 

「……へ?」

 

戦治郎達が戻って来るのを出口付近で待っていたリチャードが、急に飛び出して来た戦治郎とこの様なやり取りを交わし、戦治郎の言葉を遮る様にして発されたリチャードの言葉を聞いた戦治郎が、気の抜けた様な声を上げながら後ろを振り返ったところ、そこには先程まで自分達を追い掛けていたはずの狩人の姿は無く、それを確認した戦治郎は思わず首を傾げるのであった

 

と、その直後である

 

「随分と急いでお化け屋敷から出て来たみたいだけど、そんなに怖かったのかしら?」

 

不意に聞き覚えのある声が戦治郎の耳を打ち、戦治郎が声がした方へと視線を向けたところ、そこにはまるで悪戯が成功した悪ガキの様に、ニヤニヤと小憎たらしい笑みを浮かべるアトランタの姿があった

 

「いや、別にそんな事は……。って言ってる場合じゃねぇっ!もしかしたらあいつ、俺達の追跡を諦めて他の客を……」

 

そんなアトランタの言葉に対し、戦治郎が血相を変えて一般客の避難を要請しようとしたその時、アトランタの口から信じられない言葉が飛び出して来るのであった

 

「戦治郎が言うあいつって……、神話生物の忌まわしき狩人の事……?」

 

「おい待て、何でおめぇその事を……」

 

アトランタの言葉を聞いた戦治郎が、彼女に向けて鋭い視線を向けたその直後、彼女は突然パチンと指を鳴らし、それに反応して戦治郎だけでなくリチャードまでもが身構えた次の瞬間……!

 

「テケリ・リ」

 

お化け屋敷の中から微かに……、本当に微かにこの様な鳴き声が聞こえ、戦治郎達がそちらに急いで視線を向けたところ……

 

「……何じゃこりゃ?」

 

「これって……、もしかして養殖ショゴスかな……?しかし僕が知っているものよりも明らかに小さいし、何より形状も何か違う……」

 

そこには煙草の箱くらいの大きさの、ゼリーのようにプルプルした物体がおり、それは戦治郎達の股下を潜る様にしてアトランタの方へと向かって行き、彼女の下に辿り着くと彼女の身体を這う様にして登っていき、やがて彼女の右肩に辿り着くとそこで制止するのであった

 

「この子はあたしがホノルルにいた時から飼ってる養殖ショゴスで、大きさが他のより小さいのは多分畑じゃなくて部屋の中で、植木鉢を使って育てたからなのかもしれないわ」

 

「俺が部屋に突入した時には見かけなかったが……?」

 

「隠してたのよ、神話生物の事を知らない人に見られたりなんかしたら大騒ぎになるかもしれないからね」

 

「……ちょい待ち、って事は……?」

 

「貴方達が見たって言う忌まわしき狩人は、この子がネット上に転がってる忌まわしき狩人の画像を基に変身した偽物って事。身体の大きさの違いに関しては、ゴム風船みたいに周りの空気を取り込んで無理矢理膨らんでサイズの違いを誤魔化してた感じ。そのせいで戦闘能力は皆無なんだけどね」

 

「じゃあ僕達がその子を見かけなかったのは……?」

 

「リチャードさん達が戻って来た後、戦治郎達が入口から入ったのに合わせて出口からこっそり入ってもらってたから、リチャードさん達が気付かないのは当然よ」

 

このやり取りによって、アトランタに一杯食わされた事に気付いた戦治郎は……

 

「お前っ!!!おまっ!!!お前えええぇぇぇーーーっ!!!」

 

怒りのあまり語彙力が低下しまくった咆哮を上げ……

 

「あたしの部屋に押し入った件の仕返しよ」

 

そんな戦治郎に向かって、アトランタはそう言いながら、戦治郎を挑発する様に舌を出すのであった

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