※この作品はR-18です。

鬼の鎮守府   作:稲荷童子

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演劇の感想と次の行先

お化け屋敷でアトランタのサプライズを受ける事となった戦治郎達が次に向かったのは、戦艦による演劇だった訳なのだが……

 

「なんつぅか……、正直微妙だったな……」

 

「皆さんが頑張っているのは伝わって来るんですけどね……」

 

「内容や演出は悪くなかったと思うけど……、キャスティングの方がね……」

 

「主役の娘の演技が、脇役のはずの榛名さんの演技に全て持っていかれていた感じがしましたね……」

 

演劇を鑑賞し終えた戦治郎達は、中央に布都御魂が展示されている中庭のベンチで休憩しながら、各々に演劇の感想を口にしていたのであった

 

そう、戦治郎達が言う様に、戦艦科の演劇はお世辞にも良いものとは言い難い出来で、鑑賞していた戦治郎達も途中から思わず苦笑いを浮かべるほどのものだったのである

 

その最大の原因はキャスティングミス……、これに尽きるだろう……

 

演劇のストーリーや演出に関しては、恐らく霧島が指揮を執っていたからなのかしっかりとしたものに仕上がっていたのだが、如何せんそれをメインキャストの面々が悉く台無しにしてしまったのである……

 

少し踏み込んで話すと、舞台に上がる回数が多いメインキャストの殆どが、この舞台の為にこれまで努力を重ねて来ている事が伺えたのだが、如何せんどいつもこいつも舞台に上がった時の緊張感に負けてしまい、動きが少々ぎこちなかったり、セリフが時々トんでしまっていたのである……

 

これが特に酷かったのが主役を演じる娘で、その娘は重要な場面でしょっちゅうポカをやらかしていた為、観客達はそのせいでその世界観に没入し難くなってしまっていたのである……

 

そんなダイコン役者ばかりが立つ舞台の中で、一際輝きを放っていたのがチョイ役を演じていたはずの榛名であった

 

恐らく忘れられていると思うが、彼女は自身のいじめ被害を隠蔽する為に、いじめに屈しない強い心を持った自分と言うものを演じる事で、双子の妹である霧島さえも欺く事に成功した所謂女優なのである

 

そんな彼女がその気になれば、自身に与えられた役を演じ切るのは朝飯前なのである

 

それに拍車を掛けたのが、自主練時にちょくちょく行われていた、戦治郎主導による発声練習であった

 

軍学校の教本の中では、作戦行動中の艦娘は相手に会話内容を聞かれる事を防止する為に、どの様な会話であっても通信機を通して話す事を推奨されているのだが、戦治郎を中心とした実戦経験者達が、揃ってそれに異を唱えたのである

 

「通信機を使うと情報伝達にラグが発生すっし、レーダーの電波や砲弾の破裂音でノイズが発生して内容を聞き取りにくくなる。そして何より通信する事に気を取られ過ぎて、晒す必要のない隙を晒す羽目になる恐れがあるかんな。それだったらしっかりした発音で、腹から声出してやり取りした方がまだマシなんよ。情報漏洩だぁ?そんなの撤退する為に背中晒した奴を後ろから刺すなり、通信する事に夢中になって棒立ちしてる奴をその場でしっかり仕留めちまえばいいだけの話よ」

 

戦治郎のこの発言に実践経験の無い鹿島を除くどの教官も賛同し、その結果自主練に参加する艦娘候補生達は、時々ではあるがそう言った事態に備えて発声練習を行っていたのである

 

因みにこの訓練、長門屋の面々も毎日欠かさずやっている模様

 

そして何より、戦治郎が約束通りに演劇を観に来てくれた事を、榛名が舞台上で戦治郎達の姿を発見して知った事で、彼女のコンディションとモチベーションが爆上がりした事も、彼女の演技がより一層輝きを放つ事になる要因になっている事だろう

 

そう言った要素が絶妙に絡み合った結果、榛名の演技はどの役者の演技よりも魅力的に映る様になり、チョイ役であるにも関わらず主役以上に注目を集める事になったのである

 

そうなって来ると観客達は主役そっちのけで、榛名の演技を観る為に演劇を観る様になり、話の展開的に榛名がこれ以上出てこない事を察すると、次々と席を立つ様になってしまったのである……

 

「観客が劇の世界観にのめり込めずに中座しちまう劇ってのは、どう取り繕っても微妙としか評価出来ねぇんだよなぁ……」

 

「あの光景は、本当に悲惨でしたね……」

 

「もし榛名さんが主役だったら、劇が終わった後にスタンディングオベーションが巻き起こっていたかもしれませんね……」

 

「まあ戦治郎から聞いた彼女の性格を考えれば、相当根気強く説得しないと無理だっただろうね……」

 

そんなやり取りを苦笑しながら交わす戦治郎達の目の前を、会場の清掃を担当する事になっている海防艦の艦娘候補生達が行き来し、頭上では会場のインフォメーションを担当する事になっている水母達の艦載機達が、忙しなく飛び回っていたのであった

 

「さて……、残りは軽空のピタゴラスイッチと潜水艦のシンクロ、空母のメイド喫茶に駆逐の屋台だが……」

「まずは瑞鳳さんのところに行きましょう、それから磯風さん達の屋台に向かい、演習に臨む様にしましょう」

「そうですね、恐らく時間的にも空母と潜水艦の出し物を回る余裕はなさそうですし、その2つは申し訳ないですけど諦めましょう」

 

そうして演劇の話を締めた戦治郎が、次の行先は何処が良いかと他の面々に尋ねようとしたその直後、戦治郎がセリフを言い切るよりも早く、話に割って入る様にニッコリと笑みを浮かべた大和がこの様な言葉を口にし、大和と同じくニコニコしながらスウがこの様に続くのであった

 

「えぇ?僕としてはどちらも行ってみたいんだけど……」

 

そんな女性陣の言葉を聞いたリチャードが、不服そうにこの様な言葉を口にした瞬間、ニコニコと笑顔を浮かべていた女性陣の表情が一変、余計な事を言うなとばかりに、鬼の様な形相を浮かべながら鋭く冷たい視線を同時にリチャードへと向け、視線を向けられたリチャードとその様子を見ていた戦治郎は、背中に冷たいものが伝う感覚に襲われながら、大人しく彼女達の意見に従う事にするのであった……

 

まあ……、彼女達の気持ちも察してあげて欲しい……

 

そう言う訳で次の行き先が決まった戦治郎達は、瑞鶴とイクに出し物を見に行けなくなった旨を伝える通信を入れながら、次の目的地である軽空の出し物が展示されている教室へ向かうのであった

 

そしてその道中……

 

「……?」

 

一行がある女性とすれ違った際、リチャードだけがその女性に対してヒリつく様な感覚を覚え、思わず足を止めてその女性の背中を視線で追うのであった

 

(この感覚……、戦場で強硬派の深海棲艦と対峙した時に感じるものと同じだ……。まさかあの女性……)

 

「どうしたのですかリチャード?そんな難しい顔をして……」

 

その感覚に覚えがあるリチャードが、内心でこの様な事を呟きながらその女性の背中に鋭い視線を向けていると、不意にスウの不安そうな声が耳を打ち、我に返ったリチャードは彼女の方へと向き直ると

 

「いや、何でもないよ」

 

これ以上彼女に心配かけない様に、笑顔でこの様に返事をしながらポケットの中に手を滑り込ませ、中にあったスマホをポケットの中に手を入れたまま操作して戦治郎のスマホに警戒を促すメッセージを送るのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むぅ……、何とか日本帝国海軍が関係していると言う施設に潜入する事が出来たが……、如何せん人が多過ぎて日本帝国海軍の機密がありそうな、此処の中枢部分にまで潜り込めそうにはないな……」

 

先程戦治郎達とすれ違った女性は不愉快そうに顔を歪ませながら、この様な事を呟いていたのであった

 

そんな彼女の額や胸元を注視してみると、そこには白粉の様な物でカモフラージュした、突起物を削った様な痕があり、それが彼女が普通の人間ではない事を証明していたのであった

 

そう、この女性はリコリスの命令で日本を攻め落とす為に派遣されて来た、強硬派深海棲艦に属する戦艦棲姫なのである

 

彼女は日本に派遣された後、ある方法を使って瀬戸内海内に帝国海軍に気付かれぬように密かに拠点を築き、そこで日本攻略の為に攻撃を仕掛ける機会を窺っていたのである

 

そして彼女は彼女の部下が持ち帰った情報を基に、こうして帝国海軍の管轄下にある軍学校に、部下達の全力のサポートを受けて変装して侵入したのである

 

「しかし、此処の警備はザルを通り越して枠だったな……。侵入口に検問が張ってあった時にはヒヤリとしたが……」

 

来場客の数があまりにも多く、その対応でてんやわんやしていた入口の様子を思い出しながら彼女はそう呟くと、懐からしっかりとした細工が施されたロケットペンダントを取り出し、チャーム部分を開いて中に収められた写真に視線を落とす

 

そこには彼女と、彼女の親友であった飛行場姫……、ミッドウェーにて剛が討ち取ったあの飛行場姫が、楽しそうに笑顔を浮かべている姿があり……

 

「飛行場姫……、お前の仇は私が討つからな……。お前が遺してくれたあの装置を使ってな……っ!!」

 

戦艦棲姫はその表情を引き締め、今は亡き親友に誓う様にそう呟き……

 

「さて……、気を引き締めたところでタ級とル級を探さねばな……。あいつら、私が潜入捜査をすると言うや否や、凄まじい剣幕で同行すると言い出してついて来たのだが……、拠点内に侵入するなりすぐさま行方が分からなくなりおって……。全く世話の焼ける連中だ……」

 

ロケットペンダントのチャーム部分を閉じて懐に戻すと、困った様な顔をしながらそう呟き、何処に行ってしまったのか分からなくなった部下の2人を探す為に歩き出すのであった……

 

尚、実際に迷子になったのはタ級とル級の方ではなく彼女の方であり、部下の2人が無理矢理彼女について来たのは、この様な事態になってしまう事が簡単に予想出来てしまったからである……。そう……、この戦艦棲姫……、強硬派の中では『武神』と呼ばれるほどの手練れなのだが、影ではポンコツと呼ばれる程抜けている部分があるのである……

 

因みに先程からずっと会場内を飛び回っている水母達の艦載機だが、それは彼女の部下達の要請で迷子になった彼女を見つける為に発艦されたものだったりする……

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