ミサイル駆逐艦を全て沈めた事で気が緩み、私の接近に気付けなかった深海棲艦の水雷戦隊は緩慢な動作で沈めた艦から出てくる救命ボートに照準を合わせていきます
それを私が許すと思いますか?瞬時に艤装を展開しまもなく砲撃するであろう1匹の駆逐艦に3発ほど砲弾を叩き込みあっという間に沈めます。刑事をやっている時にやっていた射撃訓練がこんな形で役立つ日が来るとは思いもしませんでしたね……
唐突な出来事に混乱する深海棲艦達、正に油断大敵と言ったところでしょうかね。ここでようやくヘ級が私の存在に気付き、駆逐2匹と共に私に向かって砲撃してくるのですが相当焦っているようで上手く照準を合わせられず撃ち出した砲弾は明後日の方向へと飛んでいきました。相手が冷静になる前にさっさと仕留めてしまいますか、そう思った時です
「ぎゃあああぁぁぁ!!!」「ひいいいぃぃぃ!!!」「ぐあああぁぁぁ!!!」
遠くから多くの悲鳴が響き渡ります、何事かと思ってそちらへ視線を向けてみれば駆逐2匹が私の出現に目もくれず救命ボートへの攻撃を続行しているではありませんか!
これは不味い!そう思い救命ボートへの攻撃を続ける駆逐2匹を止めようと私が動き出そうとしたところに、ヘ級達の砲弾がこちらに向かって飛んで来て上手い具合に足止めされてしまいました……。先程明後日の方向に飛んで行った砲撃も、もしかしたら私の意識を引きつける為のものだったのかもしれません
してやられた!このままでは多くの命が深海棲艦達に踏みにじられ先程の姫様達も海の藻屑に……、それだけは何とかして阻止しなければ!相手の砲弾の間を縫うように回避して出来た隙に砲撃を行うものの、ほんの少し駆逐の砲撃の妨害が出来る程度で大して状況は変わらず……
どうにか出来ないのか!そう思って鉄パイプを強く握りしめたところで違和感を感じます、鉄パイプと私の掌の間に何かがある……?それを確認する為に砲撃を避けながら鉄パイプを収め掌に残った違和感の原因に目を向けます
そこには導火線のようなものが付いた丸い玉がありました、これと似たようなものを子供の頃駄菓子屋か何かで見たような気が……、いえ、これは間違いなくそれですね、でもどうしてこれが突然私の手の中に現れたのでしょう……?
っとそんな事を悠長に考えている余裕はありませんね、今の状況で突然出て来たと言うのならばもしかしたらこれを使えば状況を変える可能性があるかもしれません。しかしこれにどうやって火を点ければいいのでしょうか……?
そんな事を考えながら導火線を指でいじっていたら突然導火線に火が点きました、なるほどこうやって火を点けるのですね、やり方が非常に簡単だったので今のだけでしっかり覚える事が出来ました
私は火の点いた玉、煙玉をヘ級達の方と救命ボートを狙う駆逐達の方へそれぞれ1つずつ投げ込みました。するとどうでしょう、煙玉は安っぽい見た目とは裏腹に物凄い濃さの煙を大量に吐き出し始めるではないですか
その結果まるで濃霧が発生しているかのように辺りは煙だらけで相当近づかなければ相手を視認出来ない状況になり、ヘ級達は突然の出来事に動揺し更に煙のせいで私を見失った為焦ったようにキョロキョロと周囲を見回している
救命ボートを狙っていた駆逐達も煙が原因で照準を合わせられなくなったのか完全に砲撃の手を止めてしまっている
こうなってしまうと私もまともに相手を視認する事が出来なくなってしまいますが、剣術や風魔の技術を身に付けた結果体得した相手のいる位置を気配だけで察知出来る感覚のおかげで、例え相手が見えなくても気配を察知して相手の位置を知る事が出来るので問題なく動けるのです
ただこの煙も風で流されたりするものですからずっとこの場所に留まってはくれない、煙が晴れるまでの間に状況を変えるように立ち回らなければいけません。だったらと私は救命ボートを狙っていた駆逐2匹の方へ駆け出し、先輩が言っていたように気合を入れて鉄パイプで殴りかかれば駆逐の片割れは真っ二つに斬れて沈んでいきました。まさか本当に鉄パイプで切断出来てしまうとは……
先程の出来事が本当の事だったのか確認する為に同じ方法でもう片方の駆逐を両断したところで、煙は風に流されて消えてしまい私は再度ヘ級達に捕捉され砲撃される事となりましたが、ヘ級の砲撃が先程とは打って変わってそれなりに精度が上がったものとなり至近弾が増えてきました
直撃しそうなものは鉄パイプで斬り払ってしまおうと思いはしましたが、鉄パイプがそれに耐えられるのかが現状では分からないので本当にやっていいものか迷ってしまい、そこにヘ級から直撃コースの砲弾が放たれました
こうなってしまっては覚悟を決めるしかないですね、鉄パイプがなくなってもまだ艤装があるので何とかなるだろう、そう思って鉄パイプを気合を入れて握り込めば手からクシャリという音が聞こえ、もしかしたらまた何か出て来たのかもしれないと思い確認してみたら握り込んだせいで皺が付いた人の形をした紙が1枚だけありました
これは……龍驤や雲龍型が使う式神という奴でしょうか?しかし何故それが出て来たのでしょうか?私はそういう形で艦載機を飛ばしたりするわけでもないのに……。どちらかと言えば川内のように夜戦で忍者のように闇に紛れて戦うのが得意なのですが……
そこまで考えたところで忍者という単語に引っかかりを覚えました、忍者……式神……いや、この場合は人型と考えましょう……、そう考えると心当たりが1つあるのですが、それは空想の話ではないのでしょうか……?でも今このタイミングで出て来たと考えるともしかして出来てしまうのでしょうか……?……このまま考えてばかりでは埒が明きませんね、取り敢えず試してみましょう!
考えがまとまったので即実行、紙人形を砲弾に投げつけると砲弾が爆発し私の周囲に爆煙が立ち込めました。どうやら当たりのようですね……、まさか空蝉の術まで使えるとは……これじゃあ本当に忍者じゃないですか……
私はそんな事を考えながら爆煙が消える前に海中に潜り、あたかも先程の砲撃で私が沈んだかのように見せかけます。海中から海面を見てみれば奴らは私が本当に沈んだかを碌に確認せず再び救命ボートを狙おうとしていましたので、私はヘ級の背後に回り込み一気に浮上、海上に飛び出しながら鉄パイプを真上に振り上げヘ級を斬り捨てました
沈んだと思っていた私が再び現れた事と旗艦と思われるヘ級が倒された事で激しく動揺し混乱する駆逐達、私はそんな奴らの気持ちなど知った事ではないとばかりに一蹴し片方を斬り捨て、もう片方へは鉄パイプを振り抜いた勢いを利用して身体の向きを変えてから砲弾を数発叩き込んで沈めてあげました
今確認している奴らはこれで全滅、しかし増援があるかもしれないと周囲を警戒するも深海棲艦の反応は確認出来なかったのでその心配も杞憂で終わりました
戦いが終わり生存者の確認の為に救命ボートの方へ振り返ってみると、生き残った乗組員の皆さんから盛大な拍手と大歓声を頂きました。ただ、今の私にはその歓声が私に対しての罵声のように聞こえていました
全員無事に助けるつもりだったのに、結局犠牲者を出してしまった事がとても悔しくて……、私の未熟さが情けなくて……。それらの感情が皆さんの歓声を、お礼の言葉を歪めて私の心を苛んでいく……
「おーい!さっきの姉ちゃーん!無事かー!」
姉ちゃん……?それは私の事なのでしょうか?っとそう言えば私の中身が男である事を教えていませんでしたね。声がする方を見てみれば姫様達が乗っているボートがあり、私に質問してきた男性が叫びながら手を振っていました
そう言えば戦いが終わったら質問に答えると約束していましたね、その事を思い出して私は彼らのボートの方へと向かいました
「姉ちゃんすっげぇなっ!まさか本当にたった1人であいつらを倒しちまうなんてよぉっ!」
「いえ、私は貴方が思っているほど凄くはないですよ……、事実何名か助けてあげられませんでしたから……」
彼の言葉が私の胸に刺さります、私が頑張っても救えなかった命がある、その事が今の私の心に重くのしかかっていますから……
「馬鹿言え!確かに死んじまった奴もいるがそいつらも誇り高きイギリス海軍の軍人なんだ、今回のは不意打ちだったとは言え軍の船に乗る以上いつでもそういうのに対して覚悟決めてるんだ。だからこの事を気にすんなとは言えねぇがお前1人で抱え込むな!そもそも今回の件は俺にも責任があるんだからな、お前1人だけの問題じゃねぇんだ」
彼はこんな私を励ましてくれました、と言うか彼にも責任があるとはどういう事でしょうか?そもそもこの方何者なのでしょう?
「っと、そういやお互い自己紹介してなかったな。俺はセオドール・ヴァレンタイン、イギリス海軍で大佐やってるもんだ。そんで姉ちゃんは何て名前なんだ?」
「私は神代 通と申します、見た目はこんな事になっていますが中身はれっきとした男ですので姉ちゃんと呼ぶのと口説くのは勘弁して下さいね」
これが私と後に【欧州の獅子王】の二つ名を持つイギリス海軍総司令セオドール・ヴァレンタインとの出会いでした