※この作品はR-18です。

鬼の鎮守府   作:稲荷童子

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隠形鬼

募る怒りが私の中の何かを崩し、漲る力と血液が煮え滾っているかのような熱、そして得も言われぬ高揚感が一斉に湧き上がってきました

 

しかし私はそれらに身を委ねる事はせず、しっかりと手綱を握り制御するように努めます。もしこの衝動に飲み込まれてしまえば、私が私ではなくなってしまうのではないだろうか……そうなってしまった時、私はどんな顔をしてセオドールさんや姫様に会えばいいのだろうか……。セオドールさん達を救出出来た事で生まれた心の余裕が暴走の先にある未来を考えさせてくれる、その結果冷静さを失う事無く動けるのでしょう

 

「ちょっ、速い速い通速いっ!いくら知り合いが酷い目にあったからって先走んなってっ!!!」

 

チラリと後方を見れば先輩が私の後を必死になって追いかけて来ています、私はこれでも冷静なんですがねぇ……

 

「って何だその仮面!?めっちゃカッコイイ!!!それ一体どうしたんだよっ?!」

 

先輩の言葉に小首を傾げます、仮面がどうしたのでしょうか?まあ今はそれよりも眼前の敵です、増援こそなくなったようですがそれでもまだ数が多いですね……

 

どうしたものかと考えている時に、私の腕が、手が、指が勝手に動き出し何か印のようなものを結び始めます。しかしこんな印を私は今まで1度も見た事ないのですが……何でしょうね?これ

 

そう思っていると印を結び終わったのか右手と左手の中指と人差し指を立て、右手の立てた2本の指を左手の立てていない3本の指で包んだ状態で手が止まりました。ああ、これは忍者がよくやってる奴ですね

 

そんな事を考えていると唐突に頭の中に漢字が1文字浮かび上がってきました、もしかしてこれを私が言えばいいんでしょうか?よく分かりませんが取り敢えずやってみましょうか

 

「行!」

 

思わず声に力が入ってしまいましたがこれで多分大丈夫なはず……、するとその声に反応するかのように紙の人形が大量に現れるや否やその姿を変えていきます。一体何が起こっているのでしょう……?

 

やがて人形の変化が終わり人形はあるものに変わっていました。その姿はまるで……

 

「これは……、私ですか……?」

 

突然現れた人形は全て私そっくりな姿に変わっていましたが、その姿に少々思うところがあり頭に疑問符が浮かびます。この仮面は何なんでしょう……?

 

軽巡棲姫の仮面に口布のような追加パーツみたいなものが付いており、それは鋭い牙がまるで剣山のように生え並んでいる閉ざされた鬼の口のように見えました

 

何でこのようなものが付いているのでしょう?そう思いながら顎に手を当てようとしたら硬質な何かに手が触れました、まさかと思い手でしっかり触って確認すると私にも同じものが付いていたようです

 

何時の間に……?と思ったところで、御首頂戴と呟いた後にガシャリと言う音が聞こえた事を思い出しました。ああ、あの時に出て来たのですね……

 

「通が増えたあああぁぁぁっ!!!あれか、遂に分身の術まで覚えやがったのかよっ!!?」

 

先輩うるさいですよ……、しかし分身の術ですか……、まさかあの印が発動のキーになっているのでしょうか?この戦いが終わった後に練習しておきましょう

 

「おほぉ~……、通が64人もいやがるぜ……」

 

何時の間に数えたんですか……、それは兎も角64人もいるのならこの戦いもすぐに終わらせる事が出来そうですね

 

\これは好機かもしれませんね、先輩!/

 

「えぇい、こえぇから一斉に喋るなっ!」

 

 

 

分身を引き連れて敵陣に突撃してみれば、敵も味方も大量にいる私を見て驚きの余り動きを止める

 

私はその隙に分身達を散開させ一斉に攻撃を開始する、目に映る深海棲艦を次々と撫で斬りにしたり、取り囲んで砲撃したりとやりたい放題やっていると相手も次々と我に返り攻撃を開始してきます

 

飛んでくる砲弾に数人がかりで捕まえた別の深海棲艦を投げつけたり、艦載機から降り注ぐ爆弾を奴らを傘にして防いだりと防御方面でも好き勝手に暴れさせてもらいました

 

その時に分かったのですが、分身の方は1撃でも攻撃をもらうと消えてしまうのと分身の攻撃は私本体の攻撃よりも威力が劣っているようでした。次に使う時は計画的に使った方がよさそうですね……

 

分身を連れて戦い始めてからそれなりに時間が経過したのですが、まだまだあちらは結構な数が残っているようでした。一体どれだけいるんでしょうかね……?分身達もちょこちょこと被弾して64人いたのが50人くらいまで減ってしまいました

 

何かもう1手あれば一気に決着が付けられそうな気がするのですが、何かいい手はないものでしょうか……?

 

「えっ!?通さん、口のところから何か出てますよ?!」

 

考え事をしていたら突然陽炎さんが慌てて私に声をかけてきました、一体どうしたのでしょうか?

 

「おいっ!分身の方からも何か出てるけど何だこりゃっ!?」

 

分身からも?そう思って近くの分身を見てみれば確かに追加パーツの口から黒い何かを牙の間から吐き出していました……、何なんでしょうかね?これは……。……そう言えばこの口のようなパーツは開きそうな形をしているのですが、どうやったら開くのでしょう?そしてこの状態で開いたら何が起こるのでしょう?取り敢えず開けと思ったら開いたりするんでしょうかね?まあ試してみますか

 

頭の中で口を開くイメージをしてみても開く気配はしませんでした、どうしたらいいのでしょう……?そう思っているとまた手が動きます、今度は何でしょう?

 

先程とは違う印を結び、先程と同じ形で結び終わる。そして先程同様頭に言葉が浮かんだのでそれをそのまま言葉にします

 

「開放」

 

すると私と分身の仮面の口が開き、黒いモヤのようなものが勢いよく吐き出され周囲を包み込み始めました、もうあまり深く考えるのはやめましょう……、取り敢えず先程の印の結び方を頭の中で反復して終わるのを待ちましょうか……

 

やがて口から黒いモヤが出るのが収まると、辺りはまるで夜にでもなったかのように真っ暗になっていました、これは川内さんが見たら興奮するでしょうね……

 

これによって相手はまた混乱し始めました、これはまた絶好のチャンスと言う奴ですね。先程の術のおかげで戦場は瞬く間に私の狩場へと変貌したわけですからね……

 

「これなら本気で戦う事が出来そうですね」

 

思わずそう呟いて、私は再び突撃を開始しました

 

闇に紛れて音を消し、気配を殺して忍び寄り一撃必殺とばかりに深海棲艦を斬り捨てる、分身達も私と同じ様に振舞い次々と奴らを海の底へと沈めていきます

 

先程とは打って変わって我に返ったとしてもすぐに私の姿を捕捉するする事が出来ず、気付いた時には胸から刃が伸びているといった状況、先輩達の意識が戻ってからはそれは更に苛烈になっていきました

 

先輩達の攻撃に意識を奪われれば私の刃が命を奪う、私を警戒し過ぎて動きを止めれば先輩達の恰好の的になる、外れそうな砲弾があればその着弾点に深海棲艦を蹴り飛ばし強引に命中させる、回避しようとする者がいれば海中からその脚を掴み動きを封じる、中には恐怖に耐え切れなくなって暴れ出し誤って仲間を沈めてしまう輩も出てきました

 

そしてモヤが晴れた時には深海棲艦の姿はなく、海上に立っているのは私達だけになっていました

 

これでようやく本拠地に突入出来る、そう思ったときカシャリと言う音が聞こえ口元に風が当たる感覚を覚えました。どうやら仮面が元に戻ったようですね、そんな事を考えていたら急に全身の力が抜けて私は倒れ込んでしまいました。それと同期したかのように今まで一緒に戦っていた分身達が全て消えてしまいました

 

「通さんっ!?!」

 

それに気付いた神通さんが悲鳴じみた声を上げて私の下へ駆け寄って来ました

 

「大丈夫ですよ神通さん、ちょっと休めばきっと大丈夫なはずです」

 

正直、口を動かすのも億劫なくらい全身が疲労しているのが自分でも分かりましたが、倒れた私を見て涙を浮かべる神通さんを見るとそうも言ってられません

 

恐らくこの疲労感の原因は黒いモヤの術なのでしょうね……、あれは取り敢えず切り札と言う事にして普段はあまり使わないようにしましょう……

 

神通さんに背負われて移動する中、私はそんな事を考えていました

 

後に通には闇を生み出し闇に紛れ敵を討つ姿から【隠形鬼】の二つ名が与えられる事になる




もう少しでこの章のボスが出せる……
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