ただ純粋に兄の力になりたかった……
私には12歳も年上の兄がいて、小さい頃はよく兄に面倒を見てもらっていたのを今でも覚えています。私はそんな兄が大好きでした
ある日、兄が進路に関して話があると言って家族全員を集めて話し合いをする事になりました
兄は連邦軍大学へ進学した後ドイツ海軍に入隊するつもりでいる事をこの時初めて両親に打ち明けたそうです
両親からは余りにも危険過ぎるから止めるようにと説得されていたそうですが、深海棲艦の出現により混乱している世界を救いたい、大切な家族や友人達をその脅威から守りたいというまるで鋼鉄のような意志を両親にぶつける事で連邦軍大学進学を渋々認めさせたそうです
この頃の私はようやく基礎学校に入ったばかりなので細かい事情はよく分かりませんでしたが、兄が進学しようとしている大学は寮で生活しなければいけないのでしばらくの間兄と会えなくなると聞いた途端、私は兄と離れるのを嫌がって激しく泣きじゃくり兄を困らせてしまいました
月日が流れて、私がギムナジウムでアビトゥーア取得を目指して勉学に励んでいた頃に実施された艤装適正検査で私に艦娘の適正がある事が発覚し、アビトゥーア取得後私は海軍に入隊するか否かを選択する事になりました
適性検査の時に艦娘の事を教えてもらっていた私はそれを快諾、両親を必死に説得して晴れてドイツ海軍へ入隊しました
ドイツ海軍で再会した兄から物凄い剣幕で怒られてしまいましたが、兄が両親に対して自分の意志をぶつけた時と同じように私も兄に自分の思いをまっすぐぶつけて納得させる事に成功しました
それからしばらくは勉強と訓練の毎日で忙しく、兄と会って話をするのも中々出来ませんでした……
そんなある日、私の艤装が遂に完成したそうで量産体制を敷く為のデータ収集をする任務を言い渡され、私は出来上がったばかりの艤装を装着して海上で艤装のテストとデータ収集をやっていました
その時運悪く深海棲艦の艦隊に襲撃されてしまい、慣れない艤装で可能な限り応戦したものの結局相手の砲撃を受けた衝撃で私は気を失ってしまい、気が付いた時には知らない場所の檻の中、どうやら私は深海棲艦に捕まってしまったようです……
それからどれだけの時間が経ったでしょう……、深海棲艦が出す粗末な食事で多少なれど飢えと渇きは癒す事が出来ましたが、孤独感だけはどうしても拭い切る事が出来ませんでした……
最初の頃は兄を、仲間を信じて待つ事が出来ましたが待てども待てども助けはこず、私は皆に忘れ去られてしまったのだろうかという不安と恐怖、そしてたった1人檻の中に閉じ込められているという状況が生み出す寂しさが私の心を蝕んでいきます……
そんな中、外が何か騒がしくなりましたがそんな事はもうどうでもよくなってきました……、先程から視界がぼやけてきて周りがよく見えなくなってきましたから……
そしてこの牢獄の入口の扉が開かれて誰かが中に入って来る気配はしますが、目がよく見えないので誰が入って来たのかを確認する事が出来ません……
「いたっ!皆さん牢獄でプリンツさんを発見しましたっ!!!」
誰かが私の今の名前を叫んでいた、あまり聞いたことのない言語で話してるみたいだけど一体誰なんだろう……?
「戦治郎さんは鉄パイプで檻を斬ったって言ってたけど……、僕に出来るかな……?」
ごめんなさい、何を言っているのかよく分からないです……
その人が動いて何かやった後、カランカランという金属の棒がコンクリートの床に落ちた時のような音が辺りに響き渡りました、もしかしてこの人が鉄格子に何かやったのかな……?
「うわぁ……出来ちゃった……鼓翼、君って凄いんだね……」
この人が何を言っているのか分からない……、貴方は一体何を言ってるんですか……、段々それが怖くなってきました
そんな事を考えていたら、その人が檻の中に入って来て私に小走りで駆け寄って来ました、この距離だったらこの人の顔も見えるかな?そう思ってその人の顔を注視したところで私は驚愕してしまいました……
「プリンツさん、大丈夫ですかっ?!」
海軍で勉強していた時に使っていた教本に載っていた泊地水鬼が私の顔を覗き込みながら何かを叫んでいるのです、もしかしてもう私を生かしておく意味が無くなったから処分しに来たのかな……?私は深海棲艦に殺されちゃうの……?深海棲艦なんかに殺されるくらいならいっそ……っ!
私は舌を出し、その舌を自ら噛み千切ろうとした時です
「プリンツさんダメっ!!!」
泊地水鬼は左手を伸ばして人差し指、中指、薬指で私の舌を口の中に押し込めました
「いっつっ!」
舌を噛み千切ろうとして勢いよく閉じた口の中に血の味が広がってきました、私は私の舌を口の中に押し込んだ時に口の中に入ってしまった泊地水鬼の3本の指に思いっきり噛み付いてしまったようで、私が感じている血の味はこの人の指から流れ出た血の味だった事に気付くとすぐにその血を吐き出しましたが、自分が吐き出した血の色を見て私は再び驚いてしまいました……、血が……赤い……?
教本には深海棲艦の血液は青いと書かれていたのに、この深海棲艦の血は赤かった……。じゃあこの人は何なんだ……?見た目は泊地水鬼のそれそのものなのに……
「プリンツさん落ち着いて、僕達は貴女を助けに来たんです……、だからもう大丈夫ですよ……」
この人は混乱する私を優しく抱きしめながら耳元でそう囁きます……、私を助けに……?
「プリンツっ!何処にいるのっ!?返事をしなさいっ!!!」
その直後、牢獄の入口からとても聞き慣れた、ずっと待ち侘びていた声が響いて来ました……、この声は……ビスマルク姉様……?
「ビスマルクさん!こっちです!」
私を抱きしめる泊地水鬼が声を上げ、ビスマルク姉様の名前を呼んでいました……。まさかこの深海棲艦はビスマルク姉様の仲間だったの……?
誰かがこちらに走って来ている、その足音が段々と近づいて来て私がいる牢屋の前に人影が2つ見えました。泊地水鬼はその人影が現れたのを確認すると私から離れ、先程現れた2つの人影のうちの片方が私に駆け寄って来るなり私を強く抱きしめてきました
「プリンツ……、良かった……本当に良かった……。遅くなってしまってごめんなさい……、貴女はよく頑張ったわ……だからもう大丈夫、安心しなさい……」
私の耳に聞こえてくる嗚咽混じりのその声は、間違いなくビスマルク姉様の声……本当にビスマルク姉様が私を助けに来てくれたんだ……
私はビスマルク姉様の温もりを実感したところで緊張の糸が切れて、そのまま意識を手放しました……
「こいつぁ酷ぇ、後数日来るのが遅かったら衰弱死してたところだなぁ……」
プリンツさんが眠ってしまった後、悟さんがプリンツさんの容態を診たところ栄養失調で衰弱死してしまうところだったそうです……
「んじゃぁ俺達はプリンツ連れて先に戻るとしますかねぇ」
悟さんがプリンツさんに携帯用の点滴を打ちながら言いました
「悟さん、ビスマルクさん、先に戻っててもらえますか?」
「……おぅ、んじゃぁ先に戻っとくから後は頼んだぜぇ」
僕は悟さんにここに残る事を伝えると、悟さんは何かを察したのかあっさりと承諾してくれた。悟さんありがとうございます……、心の中でお礼を言いながら僕は檻から出る
「翔、何をするつもりなの?」
「心配しなくても大丈夫ですよ、戦治郎さん達と合流するだけですからね」
プリンツさんをおんぶしてここから脱出しようとしているビスマルクさんが尋ねて来たので、ビスマルクさんの目を見ながら話す為に振り返って答えます
「……っ!分かったわ、無理しないように……。それじゃあ悟、ここから出るわよ!」
ビスマルクさんの言葉にヘイヘイと答えながら動き出す悟さん、2人の背中を見送った後僕も目的の為に動き出す。目指す場所はこの拠点の主がいる場所……拠点の内部構造とそいつがいる場所は既に把握しているので焦る事無くゆっくりと歩みを進める
無言で、ゆっくりと……
「俺が言えたクチじゃねぇけどよぉ……、通といい翔といい簡単にキレ過ぎだろうよぅ。そう思わねぇかぁ?ビス子よぅ」
俺と並走するビス子に話しかける、どいつもこいつもブッチブッチキレ過ぎなんだよなぁ全く……カルシウム、不足、してませんかぁ?ってかぁ?
「あれってやっぱり怒っていたのね……、翔のあの目すっごく怖かったんだけど、あれって一体何なの?貴方医者だったわよね、何か知らないの?」
「細かく調べたこたぁねぇから分からねぇなぁ……、まああいつの生まれつきのもんと思っておきゃぁ気分は楽になるだろうよぅ」
俺が言ってる言葉に嘘はねぇ、まあ機会があったら調べてみてぇところだが正直アレと目を合わせたくねぇ……、さっきのやり取りの時目ぇ合わせたんだがそん時出た鳥肌が今でも消えてねぇし……
「何よそれ……まあいいわ、それよりも今はプリンツの事よ、しっかり付いて来なさいっ!!!」
そう言って加速するビス子、もうちょい患者の事を考えて走れよぉ……
しかしここのアタマも運が悪ぃ、戦治郎、シゲ、弥七だけでなくブチギレた翔まで相手にしねぇといけねぇなんてなぁ……、ご愁傷様だぜぇ……