「ふぅ……」
時間はもう少しで23時になろうとしている頃、僕は宴会会場で適当に見繕ったジュースで割った日本酒を飲みながら一息ついていた
会場にはもう殆ど人はいない、精々輝さんと司、シゲが床に転がっている程度かな?
明日日本へ向けてこの拠点から出る事になっているので、艦娘の皆には早めに切り上げてもらいしっかりと睡眠をとって明日に備えてもらっている
イギリスとドイツの皆さんはここに来る時に乗って来た船の中で眠っているそうだ、何でも僕達を見送る為にここで一泊してから帰るんだとか
僕が今この会場にいるのは宴会の片付けの為だ、宴会の途中から空いたお皿は順次片付けていってたので残りはほんのちょっと、僕だけでも何とか出来そうな量なので料理人さん達には既に戻ってもらっている
僕は宴会を途中から抜けて配膳や片付けばかりやっていたので、正直物足りなさがあったので今こうして最後に1杯だけ頂いてるわけだ。まあ片付けがあるからお酒の量は物凄く少な目にしてあるんだけどね
しかし、長いようで短かったここでの生活も今日で最後と思うとちょっと寂しくなってくる
「あの……」
僕が感慨に耽っていると背後から声を掛けられた、振り返ってみるとそこにはプリンツさんが立っていた。もう宴会は終わり皆寝静まっているはずなのに一体どうしたのだろうか?
「ん?どうしたの?何か嫌な夢でも見ちゃったのかな?」
「あ、いえ、そう言うわけじゃないんです……」
僕が聞いてみるとそれを否定するプリンツさん、ホントどうしたの?
「捕まっていた私を最初に発見したのは貴方でしたよね……?」
「え?ああ、うん、そうだね」
「あの時は本当にごめんなさい!あの時は私、気が動転しちゃってその……貴方の手を……」
ああ、僕の左手を噛んじゃった事を態々謝りに来てくれたのか、別に気にしなくてもいいのにな~……
「これの事なら気にしてないよ、と言うか僕の方こそごめんね、口に中にいきなり手を突っ込んじゃったりして。口の中怪我とかしなかった?」
僕は未だに歯形が残っている左手の3本の指をヒラヒラさせながらそう言った。一応悟さんに診てもらったんだけど、傷自体は問題ないけどこの歯形は一生ついたままになるだろうって言われた。まあ人1人助けた時の傷だから勲章と言い張って問題ないだろう
そもそもあの時は放っておいたら自分の舌を噛み切っちゃいそうだったから咄嗟に手を入れちゃったけど、今考えるともっと他にやり方あったはずだとつい思ってしまう……
「いえそんな!私の方は全然大丈夫でしたからっ!でもその……」
何か凄く言いにくそうだけど……ってそう言えばまともに自己紹介してなかった気がする
「翔、僕は出雲丸 翔って言います。自己紹介遅れてごめんねプリンツさん」
「あっはい!翔さんですね、今しっかり覚えました!それでえっと……」
「さっきも言ったけど、手の傷の事は気にしてないからプリンツさんももう気にしなくていいんだよ。それに利き腕は全くの無事だからね」
最後のあたりは少しお道化ながら言ったんだけど、表情を見る限りそれじゃ納得出来ないって感じだな~……
「ん~、これでも納得出来ないか~……、よし、じゃあこうしよう!僕は今から宴会で使った食器の片付けをするんだけど、プリンツさんにそれを手伝ってもらう。それで手打ちにするって事でどう?」
「あっ……はいっ!分かりましたっ!私、精一杯お手伝いしますねっ!」
こうして、僕はプリンツさんと一緒に宴会の片付けをする事になった。その時に作業しながらお互いの事を色々と話していると、彼女はそこでようやく笑みを見せてくれた
その微笑みはとても可愛らしく、見た瞬間ちょっとドキッとしてしまった……
1人でもすぐ終わるような量を2人でやった為、片付けはあっという間に終わってしまった、う~ん……心の何処かでそれを残念がっている僕がいるみたいだ……
「翔さん達は明日ここを出るんですよね……?」
片付けが終わったところで不意にプリンツさんが聞いてくる
「そうだね、ここに長居してたらヨーロッパの人達に迷惑かけちゃうかもだし、僕達の方でやりたい事が出来ちゃったからね……」
僕達がやりたい事、それはソロモン諸島にあるらしい深海棲艦の穏健派の総本山へ向かい穏健派の代表と接触する事だ
この間の会議で本当は皆で話し合ってルートを決めるつもりだったんだけど、戦治郎さんがヲ改さんの情報の真偽を確かめたいと言ったので南ルートで日本へ向かうのが決まったのだ
「そうですか……あ~あ、何か残念だな~……、折角翔さんと仲良くなれたのにそれも今日で終わりだなんて……もっと早く翔さん達と会いたかったな~……」
そのセリフ、僕が勘違い起こしちゃいそうなんだけど……
「そうだね、そしたらもっと色んな事話せたと思うんだよね」
「ですね~……、そうだ!もし翔さんがよければなんですけど、日付が変わるまでもう少しお話しませんか?」
プリンツさんがそう提案してきたので、時計を見て時間を確認……残り15分か……
「分かった、それじゃあもう少しお話しよっか。元々丁度日付が変わるくらいを目処に片付けするつもりだったんだけど、プリンツさんのおかげで早く終わったからね」
僕はそう言って時間が来るまでの間プリンツさんとのお喋りを楽しむ事にした
その時に、もしまた会う事が出来たら日本料理の作り方を教えて欲しいとお願いされたので僕はそれを快く承諾した。何でも今日の宴会の料理をビスマルクさんが大層気に入ってくれたらしいのでプリンツさんが作って食べさせてあげたいそうだ
そんな楽しい時間もすぐに終わりを告げる、時計の針が0時になったのだ
「あ……もう時間かぁ……、それじゃあ私はこのあたりで戻りますね。翔さん今日は楽しかったです、DankeDanke!それではまたいつか会いましょう!約束、忘れないでくださいねっ!」
「僕の方こそありがとうね、約束は絶対忘れないから安心して。それじゃあおやすみ」
「Gute Nacht.」
彼女はそう言ってドイツ海軍の船の方へと帰って行った、それじゃあ僕も戻りますか
そう思って厨房から出ようとした時、厨房の隅の方から気配を感じたので僕は思わず振り向いた
そこには物凄くニヤニヤしている戦治郎さんとセオドールさん、そして苦笑いを浮かべる通の姿があった……
「いや~翔~いいもん見させてもらったわ~」
「青春してんじゃねぇかよお~い」
何で貴方達ここにいるのおおおぉぉぉっ!!!
「すみません翔、私達は先輩の部屋で二次会をやってまして……、ここに肴になるようなものが無いか探していたんですよ。そしたら貴方達が戻って来たので見つからないように隠れていたんですが……」
うわあああぁぁぁっ!!!これここでのプリンツさんとの会話全部聞かれてたって事じゃないかあああぁぁぁっ!!!
「よかったな~翔~、遂におめぇにも春が来たんじゃないかこれ~」
「よっし!これを肴に飲み直そうぜ!」
「翔……ご愁傷様……」
よし、この3人を消そう……、今すぐ消そう……、ってもう通の奴が逃げてる……、じゃあこの2人だけでいいや……
「うん、ごめん翔、冗談だから!冗談だから鼓翼しまって!おっちゃんのお願い!」
「ちょっ!何じゃこりゃ!?目ぇ赤っ!めっちゃ怖ぇ!すまんやり過ぎた!俺達が悪かった!この通りだ!なっ!?」
ちょっと頭冷やしましょうか……お二方……
拠点のある島中に響き渡った悲鳴で眠っていた皆が飛び起きたと言うのは後から聞きました
次回でこの章が終わると思います