「戦治郎さん、少しだけお時間よろしいでしょうか?」
件の死骸を医務室に運び、悟による検死解剖の結果が出るまでの間工廠で待機していた俺達のところに姉様がやって来た
「応、今例の死骸らしきものを悟に調べてもらっててな、結果出るまで暇してたところなんだわ。んで、何かあったのか?」
「いえ、大した事ではないのですが……、そのぉ、瑞穂ちゃんの事についてなのですが……」
その言葉を聞いて戦治郎、空、俺の3人が固まる、あの長ドス見てたらこんなリアクションになるのも仕方ないと思うんだ……。そんな俺達をシゲが不思議そうに見ている、知らないと言うのは残酷だったり罪だったりするけど、こういう時は幸せなんだろうな……。まあもうすぐそれも崩れ去るんだろうけど……
我に返った戦治郎がすぐに了承し、姉様が瑞穂さんについて語り始める
尚、肝心な瑞穂さん本人はこの場所にはいない、しばらくの間風呂に入ってないと言う事だったので、拠点制圧直後に輝が近くにいなかった為出て来ていた九尺主導で即作られた風呂場に行ってるそうだ。やっぱここにも風呂はなかったんだな……
話が逸れた……それで瑞穂さんの事なのだが、やはりと言うか何と言うか……姉様の実家と深い関わりがある『や』の付く自由業のアタマの娘さんだったよ……
その付き合いはかなり古く、なんと明治時代あたりから今までずっと付き合いがあるそうだ。なんでも姉様の実家の近辺を守る自警団的な組織のトップだったのが瑞穂さんの実家の方だったんだってさ
その自警団のような組織が時代の変化と共に姿を変えて、今では表では建築会社の看板を掲げるそういう組織になっているんだと
「瑞穂ちゃんが小さい頃は、お家の事で周囲から怖がられていつも独りで寂しそうにしていました……。それを見ていたら耐えられなくなってしまいまして、妹と共に声をかけて一緒に遊ぶようになったのです。私の実家と瑞穂ちゃんの繋がりを知ったのは、それからかなり後の事でした」
それならあそこまで姉様に懐くのも納得かな?それと長ドスの件も取り敢えずは納得出来ました……。けどこの件は姉様には伏せておこう、凄くショック受けそうな気がするし……
「そういう繋がりがあったのな~……、しかしそうなると姉様の身体の事とか伝えにくいんじゃねぇか?実はもう既に深海棲艦になってます~なんてとてもじゃねぇけど言えねぇだろ?」
「確かにそうなのですけど、この事はしっかりと瑞穂ちゃんに伝えようと思います。例え瑞穂ちゃんがショックを受ける事になったとしても、私が深海棲艦になってしまっているのは変えようのない、受け入れてもらわなければいけない事実ですからね……。それに……」
戦治郎の質問に、決意を込めた表情で答える姉様。ある程度話したところで姉様は1度言葉を区切る
「瑞穂ちゃんがお家から持ち出して来た物について、ちょっとお話しなければいけませんからね。アレを見た時、私もちょっとショックでしたからそれでお相子と言う事で」
あ、もう気付いていたのね……、でもそれインパクトに物凄い差があるんじゃないかな~?瑞穂さん大丈夫かな……?
「おめぇら人が気味の悪ぃ死体いじりしてる間楽しそうにしてたみてぇじゃねぇかよぉ……えぇ?」
そんな話をしていると、悟がファイルを持って工廠にやって来た。どうやら結果が出たので報告に来たようなのだが、何か悟から怒りのオーラ出てないか……?普段なら完璧に隠蔽するのに今日に限ってはそんな事一切してないみたいで、シゲと姉様もそれに感付いてるのか表情が強張っている
「取り敢えず検死解剖の結果が出たから報告するぜぇ、だがその内容が非っ常に胸糞悪ぃモンになってっからよぉ、全員に伝えるかどうかは戦治郎の判断に任せるぜぇ……」
悟の言葉に戦治郎は眉を顰めながら了承、それから悟が検死解剖の結果を報告し始める
「まずこの死骸……、いや死体は艦娘だったもんだぁ。頭部のイ級は肉体が変質してそうなってるもんなんだがなぁ、問題は右腕の方で艤装だけ付けてんのかと思ったらまさかの右腕丸ごと移植してたみてぇなんだわぁ」
そう言ってファイルから件の死体の右腕部分が写った写真を取り出す悟、その写真には肩あたりにくっきりと縫合痕が残った右腕がしっかりと映っていた
「衣服で隠れて見えなかったのか……、もしかして頭が半分イ級になってんのって……」
「恐らく移植した右腕が暴走したコアと同じように、この艦娘を侵食してたんだろうなぁ……。まあその途中で身体が拒絶反応起こしてお亡くなりになった結果こんな半端な形で止まったのかもなぁ……」
成程、悟が怒ってたのはこれが原因か……。そりゃこんなの知ったら誰だって怒る、特に命を守る為に医者になった悟なら尚の事だ
「そんでこれを施術したのは恐らくだが人間だろうよぉ……、深海棲艦がわざわざ同胞の腕を艦娘にくっ付ける理由がねぇからなぁ……」
確かにその通りだ、その通りなのだが……
「つまり、この娘にそんな酷ぇ事した腐れ外道がもしかしたら近くにいるって事かよ……。こりゃ確かに胸糞悪ぃ話だな……」
そういう事になるよな……、これをやった奴は艦娘を一体何だと思っているんだ……!この世界では艦娘は間違いなく人間ではないかっ!それなのに何故こんな酷い事をやるんだっ!!!
「少し気になったのだが、この娘はドロップ艦なのか?それとも何処かの鎮守府や泊地に所属する軍の艦娘なのか?このあたりが分かれば話が大きく変わると思うのだが……」
「生憎それは俺じゃぁ分かんねぇなぁ、って事で戦治郎、こっからは工廠組の出番だぜぇ。この娘の艤装バラしてドロップ艦か軍属か特定しろよぉ」
空がふと思った事を口にして、悟が自分はそれは門外漢だからと答え専門家である工廠組に仕事を依頼する
「あいよ、そんじゃ外にいる護も呼んできて早速作業開始するとしますかねっ!」
戦治郎がそう言って立ち上がり護を呼ぶ為に入口へと向かって行く、わざわざ通信するような距離でもないからな。その間に空があの娘の艤装を作業し易い場所へと移動させ、シゲが必要そうな道具を集めて作業場所へと持って来る。相変わらず工廠組はしっかり連携してるな~……
戦治郎が護を呼びに行っている間に妖精さんから聞いたのだが、深海棲艦の身体の一部を人間の身体に移植する案はありはしたが、拒絶反応が恐ろしくて没になり今のように艤装に機械化した深海棲艦の脳のコピーを取り付ける形になったんだとか
あの死体を見て、心底移植案が没になってよかったと思っているそうだ
「もしこの娘が生きてる時に俺達と会ってたら、この娘を助ける事が出来たのかな……?」
「そこは生きてる奴とご対面しなきゃぁ分かんねぇなぁ……、コアの暴走とこいつの件は似てる様で違ぇから、オベロニウムの力で助けられるか否かは実際にやり合って確かめねぇと何とも言えねぇ……」
俺がついポロリとこぼした言葉を拾って答える悟、口ではこうは言っているもののその表情と雰囲気から恐らく助けるのは絶望的だと語っているような気がした……
「んじゃいっちょ始めますかぁっ!!!」
そんな俺達を余所に、護を連れて来た戦治郎が作業開始を声高らかに宣言し作業を開始していた