昨日の話し合いから一夜明け、やや重い空気の中俺達はプリンシペ島を出る準備をしていた
そりゃあまあ昨日あんな話されれば、誰でも気分よく出発なんて出来ないよな……。阿武隈さん達が無事だった事も海賊団に加入した事も、件の話のせいで全部台無しだよ……
それはさておき、しっかり準備出来た事を確認し皆が揃っているかを確認する為に周囲を見回してみると、出発予定時間がかなり近づいているのに遅刻しないようにと皆に言っていた戦治郎含む工廠組と木曾さんの姿が見えないのですが……
「悪い、遅くなった!」
そんな事を考えている矢先に木曾さんの声が聞こえた、ちょっと寝坊でもしたのだろうかと思いながら声がした方向を向いてみれば
「うぉっ!木曾!お前何だその姿っ!?」
このメンバーの中で木曾との付き合いが一番長かったであろう摩耶が驚きながら尋ねる
「本当にどうしたんですかその恰好!?凄くカッコイイじゃないですかっ!!!」
「てか雰囲気もなんかイケメンっぽくなってない?一体何があったんですか?」
天津風と陽炎が続く、女の子にイケメンって……まあ俺も最初みた時はそう思ったけどさぁ……。阿武隈さんとか目が椎茸みたいになってピクリとも動かなくなっちゃったんですけど……?
「いや、俺もよく分かってねぇんだ……。今朝戦治郎さんと朝練してたんだが、それ終わった直後に工廠に連れて行かれて気付いたらこうなってたんだ……」
「皆待たせたな~、木曾の改修してたら遅くなったわ」
木曾さんの後から工廠組が姿を現す、木曾さんの改二が近いとは言ってたみたいだが本当だったのか……
そう、木曾さんの今の姿は俺達がよく知っている重雷装巡洋艦である木曾改二のものになっているのだ
「いや~、今朝木曾と朝練やったらこいつ遂に俺に攻撃掠らせやがったからなっ!急いで工廠組叩き起こして改修作業やっちゃったんだZE!」
マジで?お前に攻撃掠らせるとか……、木曾さんは本当に頑張ってたんだな……。まあ恐らく戦治郎も手加減はしてたんだろうけど、それでも掠らせた程度だとしても攻撃を当てる事が出来たのは大したものだ
「改修と言う事は……、まさか木曾さんも改二になったと言うのですかっ!?」
驚きの声を上げる神通さん、だがその言葉がちょっと引っかかる
「応、神通同様木曾にも改二があるんだよ。もしかして知らなかったのか?」
首を傾げながら神通さんに問いかける戦治郎、それに対して神通さんは1度頷いて肯定し話し始める
どうやらこの世界の軍の皆さんは、どの艦娘が改二になれるのかをまだ把握していないようで、手探りでようやく探し当てたのが川内型と金剛型に大井と北上くらいなんだとか……
「マジか……、全体から見たらほんの一握り程度しか分かってねぇのか……」
「これはあくまで私が教導艦になる前までの情報なのでもしかしたら今はもう少し増えてるかもしれません」
もしかしたら俺達が持っている知識は、世界に相当影響を与える可能性があるかもしれないな……、グラーフさんの件もあるし……
「まあそのへんについては今考えても仕方ねぇから日本に着いてから考えるか、んでもって改めて木曾、改二おめでとう!道中頼りにしてるぜ!」
「ああ、その期待、しっかり応えてやるさっ!」
「よっしゃ、気合十分だな。そんじゃおめぇら準備はいいか?抜錨だぁっ!」
戦治郎の抜錨宣言で、俺達はプリンシペ島を離れ南下を開始するのだった
さて、プリンシペ島を離れた俺達が次に向かうのはプリンス・エドワード諸島になるわけなんだが、そこは前にも言った通りプリンシペ島からかなり離れた位置にあるのだ。だからアンゴラかナミビアあたりで1度上陸、1泊してから向かう話になっていた
その為何処に上陸するか決める為に地図を見ていたら、ナミビアにポセッション島と言う島があるのをたまたま発見。位置的にも俺達にかなり都合がいいのではと思い、俺は早速戦治郎にその島に上陸するのはどうかと提案したところあっさりとOKが出た
「あ"~重がっだ~……」
無事ポセッション島に到着した時の輝の第一声がこちらになります、こいつまだあのワンボックスカー持って来てたのかよ……。空も今回はフォローしてなかったみたいだから余計重たかっただろうよ……
「輝お疲れさん、取り敢えず何人かはその車の中で眠れそうだな……、つか今思ったんだけどその車は艤装の中に突っ込めねぇの?」
この島に着いたところで丁度日が沈み始めたので、寝る為のテントを組み立てる戦治郎が労いの言葉と共に今ふと思った事を輝に聞く。それを聞いた輝はさっきまで肩で息をしていたのがピタリと止まり、輝と一緒に車をここまで運んだ艤装を数秒見つめてからまた戦治郎に向き直り
「……ちょい試してくるわ」
そう言って車を担いで艤装のところへと向かう輝、そして艤装の口の部分に車を押し付けるとなんとズルズルと入っていくではないかっ!
「ゲヴォッ」
輝の艤装がまるでゲップのような声を出した時には、車は艤装の中に全てスッポリと収まってしまっていた
「……出せ」
今度は艤装にさっき中に入れた車を出すように短い言葉で命令すると
「ゥ"オ"ォ"エ"ッ"オ"ォ"ロロロロロ……」
妙にリアルな声を出しながら口から車を吐き出す輝の艤装、聞いてるだけで気持ち悪くなってきた……
吐き出された車をしばらく無言で見つめ、そのまま無言で艤装に蹴りを入れる輝。気持ちは分かるが艤装に八つ当たりするのは可愛そうだから止めてやれ……
「今までの苦労はなんだったんだよ……、チキショウ……」
あ~あ~……、頭抱えて俯いちゃったよ……。輝マジドンマイ……
「取り敢えず艤装の中に入れられるのは分かったな……んで、誰かこの車の中で寝たいって奴いる?」
戦治郎が皆に問いかけるが誰1人として反応しない……、まあオエオエ言いながら吐き出されたものに乗るのは抵抗あるかもしれんわな……
仕方ないので幼馴染ズ5人で車の中で寝る事にした、輝の愚痴が煩くて中々寝付けなかったけどね……
そして朝を迎えた俺達は翔が準備した朝食を済ませ、後片付けをしてから目的地であるプリンス・エドワード諸島へ向かおうと海岸に出たところで、海岸に打ち上げられた人影を発見した
その背中に艤装を背負っていた事から艦娘だと一目で分かった、しかしその艤装は既にボロボロになっており、身体の方も傷だらけになっていた
「大五郎!ハコを展開しろっ!悟は本体の方を頼んだ!工廠組は手伝え!」
「任せなぁ」「「「了解っ!」」」
戦治郎がこの娘から艤装を外しながら叫び、大五郎がすぐにハコを展開する。ハコが展開しきったところで工廠組が集まり艤装の修理を開始し、悟は本体である少女の治療を開始、残ったメンバーはすぐに戦闘態勢に入り周囲の警戒する
「こりゃ酷ぇな……、沈んでねぇのが奇跡ってくらいボッコボコにやられてんじゃねぇか……」
「こっちもかなり手酷くやられてらぁ……、一体何処のどいつがやりやがったんだぁ?」
戦治郎と悟がその手を止める事無くお互いの状態を報告する
「艦載機がこちらに高速で接近する影を発見……って速っ!!!もう視認出来るとこまで来たよっ!!!方角は10時方向っ!!!」
翔が言う方向に皆が一斉に視線を送る、そこには激しく水飛沫を上げながらこちらに向かってくる何かがいた
「あれは……駆逐棲姫だとっ!?でも何か外見が微妙に違わねぇかっ?!」
シゲが相手の姿を確認したところで、驚きを隠そうともせずに叫ぶ
シゲの言う通り、こちらへ向かって来ているのは駆逐棲姫のようだが俺達が知っている駆逐棲姫とは見た目が若干違っていた
胸のあたりに追加装甲なのか胸当てみたいなのが付いており、右手には指先に鋭い爪の付いたガントレットのようなもの、左手の砲にも鉤爪のようなものが付いている、そして一番異質だったのは首に付いている首輪のような機械だ
「ターゲット確認、これよりターゲットの破壊を開始します」
まるでの機械ような抑揚のない声でえらく物騒な事を言って、砲撃を開始する駆逐棲姫。その砲弾は俺達の頭上を越えて、あろうことか今悟達が治療している艦娘の方へと向かっていたのだ
「やらせっかよっ!」
摩耶がそう叫び砲弾を撃ち落とす、その光景を見た駆逐棲姫は表情を一切変える事無く
「障害物を確認、これより排除します」
無機的な声でそう言って今度はこちらへ攻撃を仕掛けて来たのだった