不味い……、これは本当に不味い……
俺達はボロボロになり海岸に打ち上げられていた艦娘を始末しに来たであろう駆逐棲姫との戦闘を開始したのだが、ジリ貧と言ったとこだろうか状況は非常に悪い
まずこの駆逐棲姫、滅茶苦茶速いのだ。どのくらい速いかって言えば速力最速+と言ったところだろうか……
最初は皆で一斉射撃したんだけど、この駆逐棲姫はそれに一切臆する事も無く砲弾の弾幕に突っ込んで行きそれを潜り抜けて接近してきたのだ。砲弾が当たった形跡が全く見受けられなかった事から、その全てを持ち前の速力だけで回避したのだろう……
接近して来たところを木曾さんや神通さんが斬りかかるも、余裕を持って回避されてしまうという有様だ
剛さんが駆逐棲姫の進行方向を予測しての射撃も、急激な方向転換で予想ルートを外されて掠りもしなかったのである。こうなると艦娘の皆の射撃は役に立たなくなってしまう
この速度に追いつけそうなのが俺と通、それに空の3人くらいしかいないのだが、空は現在この駆逐棲姫のターゲットとなっている艦娘の艤装の修理の為こちらに参加出来ない。つまり現状俺と通の2人で何とかしないといけないのである
「こんのぉっ!」
俺が駆逐棲姫との距離を詰め掴みかかろうとするも、寸でのところで回避されてしまった。俺に格闘術の心得でもあったらさっきのタイミングで一撃入れる事が出来たのかもしれないが、今の状況で無いものねだりしても仕方がないな……
「っ!?しまったっ!!!」
通が舌打ちして叫ぶ、俺の掴みかかりを回避したと同時にハコを展開して動けなくなっている大五郎を狙い砲撃したのだ。だが
「ヴォオオオォォォッ!!!」
大五郎が咆哮を上げ、その大きな左腕を振るい砲弾を切り裂いた。摩耶が最初の砲弾を撃ち落とした後に、大五郎が自分に向けて砲撃された事に気付き身体の向きを変えてハコに砲弾が当たらないようにしたのだ
「これならどうですかっ!?」
通がそう言って印を切り3体の分身を生み出し駆逐棲姫の方へと差し向ける、しかし分身は通本体より速力が若干劣るのか駆逐棲姫を追いかけてもジリジリと距離を離されていた。そして時々振り返って砲撃を何度か繰り返して、通の分身を全て倒してしまった
そんな駆逐棲姫が姉様の前を通過しようとしたその時
「形代っ!!!」
姉様の艤装から大きな腕が飛び出し、駆逐棲姫に殴りかかったのだ。だが駆逐棲姫はこの予想外の攻撃さえも瞬時に反応して回避し、姉様の奇襲も空振りに終わる……はずだった
「それ捕まえたっ!!!」
駆逐棲姫の進行方向を予測し、先回りしていた剛さんが駆逐棲姫に掴みかかりその身体を拘束したのだ。多分俺達が追いかけっこしている間に姉様と打ち合わせしてたんだと思われる
「よっしゃ!身動き出来ねぇんなら俺でも攻撃出来るっ!!!」
そう言って駆逐棲姫に飛び掛かるシゲ、だがそれも不発に終わってしまう……
「ちょっ!?何この娘?!」「グガッ!!!」
何とこの駆逐棲姫、自身を拘束していた剛さんの腕を腕力だけで引き剝がし、その体勢のまま下半身の艤装を勢いよく振り上げて、飛び掛かって来たシゲの顎に艤装を叩き込み迎撃して見せたのだ
そしてそのまま剛さんの背後に回り込んで砲撃を開始しようとしたのだが、俺が横から飛び掛かって来た為砲撃を中止し俺の攻撃を回避する
「このままだと不味いですね……」
全くだ……、こっちはさっきから走り回りっぱなしでスタミナがガリガリと削られているのだが、向こうは全然余裕があるのか涼しい顔をしている……。まあ最初みた時からずっと表情変わってないんだけどね……
速力といい、反応速度といい、腕力にスタミナ……、この駆逐棲姫はそれら全てが俺達を上回っているとでも言うのだろうか……?そんな相手に俺達は勝てるのだろうか……?
「ふんっ!!!」
そんな事を考えていると、誰かが駆逐棲姫の背後から殴りかかる。駆逐棲姫はそれにすぐに反応して回避するも
「せいっ!!!」
駆逐棲姫が回避する方向に既に回り込んでいたその人物は、駆逐棲姫の脇腹にその拳を叩き込んだ。どうやら艤装の修理が完了したのか空が駆けつけてくれたのだ
「大丈夫か?」
俺達に声を掛けてくる空、空が加わってくれれば正に百人力と言ったところだろうか、負ける気がしなくなってきた。だが空の身体の都合上長い時間この速度で戦うわけにはいかない……、俺自身もそろそろ体力がやばいしな……
「助かるぜ空、追いつけるのが3人もいれば何とか出来るはずだ、ここからは短期決戦でいくぞっ!!!」
俺の声を合図に駆逐棲姫に向かって駆け出す3人、ここから一気に片を付けてやる!!!
「ん……、ここは……?」
「よぅ、目ぇ覚めたか嬢ちゃんよぉ」
声がする方を見てみると、そこには深海棲艦の潜水棲姫が立っていた。普通の艦娘だったらここで攻撃態勢に入るなり混乱するなりするところだけど、私はそうはならなかった。この深海棲艦からはあの娘と同じ何かを感じたからだ……
「すみません、えっと……「……悟だ」悟さん、ここは何処なんですか?」
「ここはナミビアの西に浮かんでるポセッション島ってところだぁ、ってそれは兎も角よぉ、おめぇは俺見て何とも思わねぇのかぁ?仮にも俺は深海棲艦の潜水棲姫なわけなんだから、艦娘だったら普通何かしらアクションするとこじゃねぇのかぁ?」
艦娘である私に現在地を教えてくれた上に、名前まで名乗ってくれた。これはもう確定と言っていいだろう、この人はあの娘と同じで普通とは違う深海棲艦なのだと……
「悟さんが普通の深海棲艦だったら、私を見かけた段階で沈めに来るはずですからね。でも悟さんはそんな事はせず、逆に助けてくれてるじゃないですか。こんな風に……」
そう言って自分の身体を見てみると、何と服が脱がされてしまっているじゃないですかっ!それに気付いた私は顔が急に熱くなってくるのを感じて……
「きゃぁっ!!!」
慌てて両手で胸元を隠す、胸に包帯が巻かれているのにも気づかずに……
「そのへんの文句は聞くつもりねぇからなぁ、そうしねぇと包帯が巻けなかったからなぁ。っとさっき普通の深海棲艦だったら~とか言ってたが、普通じゃねぇ深海棲艦がいるとでも言うのかぁ?」
「え、ええ、それに関してはご自身がよく分かっているんじゃないですか?昔は人間だったけど何かが原因で深海棲艦になっちゃったとか……」
私の話を聞いた途端悟さんの眉がピクリと動いた、やっぱりこの人も……
「……何処で知った?」
「私の友達に同じ境遇の娘がいて……ってそうだっ!あの娘はっ?!」
そう、私はさっきまでその娘に追われていたのだ。もしかしたらもうすぐそこまで来ているかもしれない、私は急いで服を着て診察台から飛び降りる。まだ体中が痛いけど今はそんな事を気にしている場合ではない!
「もしかして、あっちでドンパチやってる駆逐棲姫がおめぇの友達って奴なのかぁ?」
悟さんが指差す方向を見ると、空母棲姫、南方棲戦姫、軽巡棲姫と戦っているあの娘の姿が見えた
4人共凄まじい速さで戦っているが、よく見ると南方棲戦姫の動きが悪くなってきていた。恐らく体力の限界が近いのかもしれない……
そしてそれに気付いたのかあの娘は南方棲戦姫に砲撃、南方棲戦姫はそれを回避するも勢い余って転んでしまった、恐らくもう踏ん張るような体力も残ってないのだろう……
あの娘はそれを待っていたと言わんばかりに南方棲戦姫に飛び掛かり馬乗りになる、そして南方棲戦姫の顔に右手を突き刺そうとしたところで
「ダメッ!!!望っ!!!」
私、神風型駆逐艦1番艦神風は友人である春雨 望の名前を叫んでいた……