※この作品はR-18です。

鬼の鎮守府   作:稲荷童子

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彼女の名は・・・・・・

やっちまった……っ!

 

あんだけでかいクチ叩いておきながら、砲撃回避した後派手にコケた挙句そこを狙われっちまった!空の身体を気遣って無理した結果がこれかよぉっ!!!

 

駆逐棲姫はそんな無様な俺に飛び掛かり馬乗りになると、鋭い爪の付いた右手で俺の顔目掛けて貫手を放ってきた

 

他の2人も急いでこちらに向かって来ているが、距離的に考えて2人がこちらに到着するよりも早く駆逐棲姫の貫手が俺の顔面に突き刺さるだろう……

 

俺が死を覚悟したその時

 

「ダメッ!!!望っ!!!」

 

誰かの叫び声が辺りに響き渡り、それを聞いた駆逐棲姫が動きを止めたのである

 

だが、変化があったのは何も駆逐棲姫だけではなかった。その声が聞こえた瞬間、俺の右目がジクリと疼いたのである

 

今聞こえた声は、この駆逐棲姫の事を何と呼んだ……?

 

「お願い望っ!目を覚ましてっ!!!」

 

望……?今確かに望と言った……、その言葉に反応するようにまたも右目が疼く

 

「うぐ……っ!あっ……がぁ……っ!!!」

 

今まで1度も表情の変化がなかった駆逐棲姫の顔がその声が聞こえる度に苦痛に歪む、そして頭を抱えながら俺の上から飛び退いて海岸の方へと後退を始める

 

「神……か……ぜ……おね……が……逃げ……」

 

苦悶の表情を浮かべる駆逐棲姫の口から、途切れ途切れではあるがそのような言葉がつむがれる。駆逐棲姫の身に一体何があったのだろうか……?俺は右目の疼きに耐えながらそんな事を考えていると

 

「……重大なエラーが発生……、このまま戦闘を続行するのは不可能と判断……、撤退を開始する……」

 

「待ってっ!行っちゃダメッ!!望っ!!!望ぃぃぃっ!!!」

 

そう言って駆逐棲姫は撤退を開始、駆逐棲姫が海に飛び出したところで先程の声の主であろう神風さんが姿を現し、海岸に駆け寄り駆逐棲姫の背中に向けて必死に制止の声を掛け続けるも、駆逐棲姫は1度も振り返らずに物凄い速度で走り去ってしまった……

 

望と呼ばれた駆逐棲姫の姿が見えなくなると、神風は海岸に膝をつき泣き出してしまった……。このやり取りを見聞きしていた限りだと、どうやらこの神風はあの駆逐棲姫の知り合いのようなのだが……

 

「光太郎、大丈夫かっ!?」

 

「右目を押さえていますけど……、まさかさっきの貫手が当たったのではっ?!」

 

そんな事を考えていると、空と通が俺のところへ駆け寄って来た。俺はそんな2人に無事である事を伝え立ち上がる、右目の疼きは未だに収まっていないんだけどな……

 

「しかし、さっきの駆逐棲姫は何者なんだ?急に攻撃を仕掛けて来たかと思えばすぐに撤退してしまったが……」

 

「私達も詳しい事は分かりません……、分かりませんが……」

 

空の疑問にそう答えた後に神風さんの方へと視線を向ける通

 

「どうやらあの娘はあの駆逐棲姫と知り合いみたいだから、少々酷かもしれないけれどそのあたりの話を聞かせてもらおうか……」

 

その後、俺達は神風を落ち着かせてから皆のところに戻って先程の駆逐棲姫の事を教えてもらう事にした

 

だが、その前に……

 

「もしかしてここにいる深海棲艦は皆普通じゃない深海棲艦なの……?」

 

神風さんが海賊団のメンバーを見て物凄く驚いているのだが、驚いているポイントが他の艦娘と明らかに違っていた

 

「神風の言う通り、ここにいる深海棲艦は皆普通じゃない奴ばっかだな。まあ深海棲艦達が転生個体って呼んでるみてぇだから、俺達もそれに倣って転生個体って呼んでるわけだが」

 

「転生個体……成程、人間から転生した深海棲艦だから転生個体と言うわけね。次からは私もそう呼ぶ事にするわ」

 

取り敢えず普通じゃない深海棲艦の呼称を転生個体に統一する事になったようだ、まあその方がこっちも分かり易いからいいんだけど……

 

因みに神風さんは最初敬語で挨拶してたんだけど、戦治郎が堅苦しいとか言い出したのでこんな感じの砕けた話し方になっていた

 

「それはいいとして、さっきの駆逐棲姫は一体何者なんだ?何かお前の事狙ってたみたいだが……?」

 

ナイス木曾さん、これで話が進む!

 

「それは……」

 

神風さんの表情が暗く陰る、そしてそのままポツポツと話し始めた

 

神風さんはアムステルダム島にあると言う泊地に所属する艦娘だそうで、哨戒任務をやっている時にたまたまあの駆逐棲姫を見つけたそうだ

 

発見した時は酷く混乱していたそうで、何とか落ち着かせて話を聞いたものの彼女の話はよく分からない点が多かったそうだ

 

神風さんは彼女はまだ混乱しているのだろうと思い、アムステルダム島の南にあるサンポール島に彼女を匿い時々会って話をしている内に仲良くなったんだそうな

 

「何でまたそんな便所洗剤みたいな名前の島に匿ったんだ?泊地に連れて行けなかったのか?」

 

「便所洗剤て……、ってそんなん普通に考えたら分かるやろっ!泊地に深海棲艦連れてったら泊地が蜂の巣突いたような大騒ぎになるやろっ!!!」

 

輝の疑問にツッコミを入れる龍驤さん、だがそのやり取りを見た神風さんの表情が更に暗くなった事からそれとは別の事情があるようだ……

 

「アムステルダム島の泊地……、何処かで聞いたような……」

 

そう言った神通さんの方へ皆の視線が集まる、一方神風さんは神通さんの言葉を聞いた途端、ビクリと身体を震わせたのだ……。これは絶対何かあるな……

 

「神通さんもあいつらから声を掛けられた事があるの……?」

 

「あっそうです、思い出しました。確か教導艦になろうと思い大本営に行った時にその泊地の関係者と言う方から声を掛けられました」

 

神通さんによると、その泊地では負傷による後遺症の治療を行っているらしく、もし泊地に着任してくれれば後遺症を治して再び戦場に立てるようにしてくれると言っていたそうだ

 

まあ、神通さんはその時には既に施設の話を聞いていた為、その話を蹴って教導艦になったんだとか

 

神通さんの話が終わると、神風さんはやっぱりと言った表情で俯いてしまった

 

「なぁ、もしかして神風もそいつらに声を掛けられたのか?」

 

「ええ、神通さんと同じ様な内容で声をかけられたわ……。ちょっとこれを見て欲しいの……」

 

摩耶の言葉を肯定した後、神風さんは右手を顔の高さまで上げるのだが……

 

「……何か起こるんッスか?」

 

しばらく待ってみても何も起こらない、神風さんは何を見せたかったんだ?

 

「えっ!?あれっ?!なんでっ!??いつもならもう震えだすところなのに!!?」

 

「かぁっひゃっひゃっひゃっ!!!おめぇの治療している時にそれっぽいの見つけたからなぁ、ついでに治しておいてやったぜぇ。そんなもん残すたぁ一体何処のヤブに診せたんだぁ?ったく笑いが止まんねぇぜぇくぁっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!!」

 

ああ、神風さんは自分の後遺症に関するの見せようとしてたわけね。それにしてもいや~悟先生流石です、ホントよくそんなのに気付けたなこいつ……。神風さんもポカンとしてらっしゃるぅ

 

「コホン!私は右手に後遺症があった「過去形」そこうるさい!ああもう!兎に角!私は右手の後遺症を治したくて付いていっちゃったのよっ!」

 

完全にこっちのペースに呑まれる神風さん可哀想……

 

「それで、その泊地は確かに医療関係は充実していたわ。処方される薬のおかげで私の後遺症の症状も抑えられてある程度なら戦えるようになったし、任務なんかも普通にこなしていたわ、表向きはね……」

 

表向きは……ねぇ……、って事は裏で何かやってるって事か……

 

「……何があったんだ?」

 

戦治郎が真面目な顔で神風さんに問う、こいつがこんな表情してるって事は大方予想は付いてるんだろうが、念の為神風さんの口から聞きたいってところだろうな……

 

「あの泊地は、艦娘に深海棲艦の身体パーツを移植したり、艦娘や捕獲した深海棲艦をモルモットにして薬の実験なんかをやっていたのよ……」

 

話を聞いていた皆に緊張が走る、まさかこんなにも早くあの件の犯人に辿り着けるとは思ってもいなかったわ……

 

「こんなところに望を連れて行ったら間違いなく実験台にされてしまう、私はそう思って望を匿っていたの……、結局見つかって連れて行かれてああなっちゃったんだけどね……。それが本当に悔しくて悲しくて……、だから私は助けを呼ぶ為に加賀さん達に協力してもらって泊地を脱走して来たんだけど……、結果はこの通り……、泊地の提督の駒にされた望に追われてここに辿り着いたのよ……」

 

そう語る神風さんの目に涙が浮かぶ……、友達がそんな事されたら泣きたくもなるわな……、これは何としてでも助けてあげないと……

 

「あんがとよ神風、よく話してくれた……。おめぇら、今の話聞いたよな?」

 

戦治郎が皆の方を見回しながら問う、皆は強い意志を宿した瞳で戦治郎を見つめながら一斉に頷く

 

「よっしゃ!って事でえ~……、神風?望ちゃんとやらのフルネームって分かるか?俺達と同じ境遇ってんなら苗字があるはずだから、そこ教えてもらってもOK?」

 

他の皆はそんなのどうでもいいだろうと内心思っているかもしれないが、俺だけはどうしてもその娘の名前が気になって仕方がなかった為しっかりと耳を傾ける。何故あの娘の名前が出る度に右目が疼くのか……、それが知りたかったのだ

 

「え~っと……確か……、春雨、春雨 望があの娘のフルネームです」

 

「何ぃっ!?」「何とっ!?」「……えっ?」

 

悟と通、そして何故か藤吉までもがその名前に反応した

 

そして俺は……

 

「があああぁぁぁっ!!!くあぁ……っ!あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ーーーっ!!!」

 

疼きを通り越し、まるで炎が燃え盛る木材を突き刺したかの様な激しい痛みが俺の右目に襲い掛かる。俺は右目を押さえながら絶叫し倒れ込んでしまった……

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