とある住宅街にて大規模な火災が発生したとの通報を受けて出場した俺達の目の前には、それはもう凄惨な光景が広がっていた……
昔何処かで地獄の中には焦熱地獄と言うものがあると聞いた覚えがある、それがもし実在すると言うならばきっとこの現場のような場所なのだろうとふと思うほどに、炎が勢いよく燃え広がり次々と家屋を飲み込んでいく
その光景を見た近隣の住人達の悲痛な叫びと地元の消防団や消防隊員達の怒号が辺りに響き渡り、それが地域住民の不安と恐怖をより一層掻き立て更なる混乱を呼び寄せていた
俺達ハイパーレスキューが必死になって救助活動をしている時、1組の夫婦が俺達に泣きついて来た。娘の姿が何処にもに当たらない、もしかしたら家に取り残されるかもしれないと……
俺達は急いでその夫婦の家に向かう、現場に到着してみれば確かに2階の窓から助けを求める中学生くらいの少女の姿が見えた。俺達はすぐにその家に突入したわけだが、思った以上に火の回りが早く急いで救助しなければ俺達もこの燃え盛る家の下敷きになってしまう……
その考えが俺の中に焦りを生み出し冷静な判断力を奪い去ってしまう……、俺は勢いよく走り出し2階へと続く階段を見つけそれを駆け上っていたその時だった
「天井が崩れるぞっ!下れ南っ!!!」
隊長の声に気付くが、どうやら遅かったようだ……
天井が焼け落ち俺はその下敷きになってしまったのだ、更に運が悪い事に崩落した天井の一部である火の点いた木材が呼吸器のアイピースを突き破り、俺の右目へと突き刺さったのである
それから先の事は覚えていない……、恐らく痛みに耐えきれず気絶してしまったのであろう、気が付いた時には病院のベッドの上だった……
俺の容態については、下敷きになった後すぐに救助された為一命を取り留め、後遺症も残らないそうだ。……右目以外はだが……
やはりと言うべきか……、俺の右目は完全にダメになってしまったらしい……
右目を失ったのもショックだったが、その後に知らされた話の内容がそれ以上にショックでしばらくの間病室で放心していた
結局、あの少女は助ける事が出来なかったそうだ……、俺を救助した後隊長の判断で撤退したんだとか……これ以上二次災害を発生させる訳にもいかないから妥当な判断だと思う……、思うのだが……
階段の上の天井が崩れ、階段を塞いでしまった以上どの道助けには行けなかっただろうと言われたが、俺はどうしても考えてしまうのだ……、あの時俺がヘマしなければ、もしかしたらあの娘を助ける事が出来たのかもしれない、と……
放心状態から戻った俺は自分の情けなさと、あの娘に対しての申し訳なさに泣いた。悔やんで悔やんで悔やみ抜いて……、でもいくら悔やんでも悔み切れず更に涙を流した
あの娘は俺のせいで助からなかった……、俺のせいで見殺しにされた……、あの娘は……、春雨 望さんは俺が殺したんだ……
「悟、光太郎は大丈夫なのか……?」
戦治郎がハコの診察台の上で眠る光太郎を心配そうに見つめながら俺に尋ねてくる、春雨 望と言う言葉を聞いた瞬間に右目を押さえながら絶叫し、地面に倒れもがき苦しむ光太郎の姿を見れば誰だって心配するだろうな……
このままでは不味いと思って戦治郎達に取り押さえてもらって、よく効く薬を注射して今は眠ってもらっているわけだが……
「光太郎さん、一体どうしちゃったんだろ……?」
「確かさっきの駆逐棲姫の名前を聞いた途端こうなったみたいだけど……」
陽炎と天津風が光太郎の事を心配しながらも先程の出来事を不思議がっている、事情を知らん奴からしたら不思議で仕方ないだろうよ……。当事者の俺からしたらあの名前を聞きゃぁああなるのも仕方ないと思えるがね……
「確か……、春雨 望でしたか……」
「そういや悟さんや通さんもその名前に反応してたが、何か知ってるのか?」
「藤吉もさっき反応してたな、何か関係あんのか?」
不知火の言葉に木曾と摩耶が反応し、俺と通、それと藤吉に問い掛けてくる
「流石にこうなると話さないわけにはいかねぇなぁ……」
通の方を見ると俺に頷きかけてくる、それを確認したところで俺はこうなってしまった理由について話し始めるのだった……
光太郎がとある住宅街での大規模火災で救助活動をしていた時に天井の崩落に巻き込まれて右目を失った事、それが原因で撤退する事になって要救助者を助けられなかった事、光太郎がその要救助者を助けられなかった事を自分が原因で見殺しにしてしまったと思い今でも悔んでいる事、そして……
「その要救助者だった女の子ってのが、春雨 望だったってわけなんだわぁ……」
ここにいる全員が沈黙する、これで光太郎がああなっちまった理由については納得してもらえるだろう
「この火災は放火が原因で起こった事件でした、その当時私は刑事だったのでこの事件の捜査に参加、実行犯と関係者の逮捕にも関わりましたね。彼女の名前はその事件の捜査をしている時に知りました」
「放火っ!?住宅街で放火とかどう考えてもエライ事になるのが目に見えとるやろっ!犯人は何考えとったんやっ?!」
通の言葉を聞いた龍驤が犯人に対して怒りを露わにする、だが龍驤……、怒りをぶつけるべき相手が違ぇぞ……
「実行犯はそうなる事は分かっていたんです、分かっていながらやった……いえ、やらされたと言いましょう……」
「通さん、それは一体どういう事でしょうか……?」
通の言葉を怪訝に思い質問する神通
「こっから先は俺が話す、いいよなぁ?」
通に確認を取ると、通は静かに頷いた。まあダメだと言われても言うつもりだったんだがな
「この放火事件は計画的犯行だったんだよなぁ、ターゲットは住宅街の中にある伊藤診療所……、俺が私立の総合病院から独立して始めた診療所だったんだからなぁ……」
全員の表情が驚愕の色に染まる、まあこんなの誰も予想出来ねぇだろうよ
俺の診療所が狙われた理由、それは総合病院での騒動が原因だった
そこの院長が跡継ぎを探し育てる為に自分の娘を結婚させようとしたわけだが、その候補に俺と先輩の医師が挙げられたのだ
最初は幹部連中がこぞって自分の子供を推薦していたが、人を見る目がある院長が全てバッサリと斬り捨てたのだ。その結果俺と先輩が祭り上げられる事になってしまったわけなんだが……
「そしたら幹部連中が俺派と先輩派に分かれて派閥争いなんか始めちまったわけよぉ、そんで俺派の連中は殆どが腹黒い奴ばっかでなぁ……、俺が院長の娘と結婚したら自分達が俺の面倒見てやったんだから言う事聞けってな具合で、裏で俺を操って好き勝手しようと企んでたみたいだぜぇ?まあ付き合いきれなくなった俺が辞表出して独立したから話はパァになったんだがなぁ」
「ん?俺は義姉さんからは悟が義姉さんの気持ちに気付いてたから、独立して手ぇ引いてくれたって聞いたんだが?」
戦治郎のばぁたれ!!!余計な事言うなっ!!!
「戦治郎さんのお義姉さん……?それって……」
「悟の先輩ってのは俺の実兄、長門 命(ながと みこと)兄さんの事なんだわ、そんで院長さんの娘さんが兄さんと結婚したから俺の義姉さんってわけ」
不思議がる姉様に説明する戦治郎、命さんには本当に世話になったっけな……、おかげで今でも頭上がんねぇ……
因みに戦治郎が言っていたのは半分正解、本当は両想いだったんだよなぁ……、幹部連中が気に入らなかった事と、命さんには恩があるからってのが重なった結果が独立だったわけだ
「話戻すぞぉ、その結果俺は老害幹部共から逆恨みされて診療所に火ぃ点けられたってわけだぁ。放火の実行犯ってのは幹部共の駒だったから奴らに逆らえず嫌々やらされたってところだわぁ」
「そんな……、酷過ぎます……」
「そのような下郎がいたとは……」
阿武隈と瑞穂がそんな事をこぼす……、皆も俺に同情の視線を送ってくるが正直やめてもらいたいものだ……。つか、瑞穂の顔が怖ぇんだが……
光太郎の奴は自分が原因で望を死なせたと思っているようだが、あの火災が発生した原因は俺にあるわけだ、お前の右目を失ったのも俺のせい……、つまり本当に悪いのは俺の方なんだ……
「そういや、藤吉が反応してたのは何だったんだ?」
この流れをぶった切って輝が藤吉に問いかける、そういや藤吉も反応していたっけか……、こいつに関しては俺も全く予想が付かないんだが……
「は、春雨さんとは……、ちゅちゅ中学校でい、一緒のクラスだったこ、事があるんです……。い、い、いじめられていた僕にもや、優しくしてくれる子でした……。でででももしぼ、僕と関わっていたのが原因でい、い、いじめられたら可哀想だとお、思って……。だ、だからぼぼ僕はそれからひ、ひ、ひ、引き籠りになってあ、あの娘とかか関わらないようにしようとお、思ったんです……」
成程、そういう繋がりだったわけか……、望の為に引き籠りとは藤吉らしいがもうちょい別の方法もあったんじゃないかとは思うんだが……
「よっし!暗い話はここまで!終わり終わり!」
パンパンと手を叩きながらそう叫ぶ戦治郎
「取り敢えず光太郎達と望ちゃんの関係は分かった、大人の面倒事に巻き込まれて亡くなった望ちゃんはこっちの世界でもクッソ面倒な事に巻き込まれちまったわけだ……」
戦治郎はそこで1度言葉を区切り息を大量に吸い込む
「おめぇらっ!!!春雨 望を助けたいかっ!!?」
\応っ!/
「あい分かった!これより長門屋海賊団は『春雨 望救出作戦』を開始するっ!!!」
\応っ!!/
「気合入れていくぞおおおぉぉぉっ!!!」
\おおおぉぉぉっ!!!/
全員が右腕を天高く掲げ声を上げる、どうやら全員の心に火が点いたようだ……。俺は火は嫌いだがこういう火は嫌いじゃねぇぜ……っ!
「皆さん……、ありがとうございます……っ!」
この光景を見た神風は、目尻に涙を浮かべながら感謝の言葉を口にする
「その言葉は成功してからにしてくれ、神風」
さて、このあたりでやるべき事は決まった……
俺達は春雨 望救出作戦に必要になるであろう拠点を確保する為に、プリンス・エドワード諸島へ急行するのであった