「すっげぇ、いい顔してるぜ。アイシア?」
「ふぇ……?」
快感の嵐から身を引いたばかりなので、まだ思考はぼやけていた。
ただ、目の前の男が情欲で濡れた瞳でアイシアを見つめていたのはわかった。紅い瞳はもうなく、穏やかな漆黒の瞳だった。
「可愛くて綺麗で、ほんとやべぇな……」
全然綺麗じゃないと突っ込みたかった。
全身汗だくで肌はべたつくし、髪もぐちゃぐちゃだろう。腹部周辺はさっきレイフロが掻き出したもので濡れまくっている。なのに、目の前の男はそんなアイシアを綺麗だと言う。
レイフロは軽く口付けると、額を合わせてきた。
「じゃ、こっからが本番だぜ?」
「……あ……」
そう言えば、まだ全部ではない。
ただ一つ、『何』を受け入れなければならないのかわからないでいた。それと、さっきから腰辺りに感じる熱はなんだろうと下を向いたら、
「……レイフロ、さん」
「ん?」
「あ……の、これは?」
資料や造形品にあったのは知っている。
だから、肉体に『ある』のも知ってはいたが。
(何この大きいの⁉︎)
父親や兄弟親類のも見た事がないアイシアにとって、男性の『それ』は初めて目にするし、特にレイフロのは暴力的なものであった。
しかも、なんか脈打ってる、と気づいたときは思わず腰が引けた。
「くくっ‼︎ マジで見た事ねぇんだな?」
「わ、笑い事じゃないです‼︎」
「わりぃ。……で、アイシアはこれがどう言う機能もってっかわかるか?」
「……え……と……」
なんとか必死に資料の詳細を思い出そうとする。
結構前だったので引き出すのに時間は掛かったが、ところどころ出てきた。
「……たしか、男性の生殖器? って、まさか‼︎」
「せいかーい。これが今からアイシアのとこに入ります」
「む、無理無理‼︎ こんなの入りませんっ⁉︎」
「入るように準備しただろ?」
「こ、これの為……?」
子孫繁殖の為にそうまでしなくてはいけないのか。
現実逃避しながら、アイシアは何故か真面目な事を考えていた。それをレイフロもなんとなく察したのか苦笑してしてたが、
「一回くらいじゃ大抵出来んぞ?」
「あ、そうですか?……じゃなくて‼」
「はいはい。冗談で言ってねぇから」
「もう……」
「じゃ、意味は理解したとこで……いいか?」
「っ⁉︎」
ふざけた物言いから一変して、真剣な面持ちに。
また、瞳が紅く染まる。
アイシアは背中にぞくりと、何かが疾った感覚を得た。
畏怖や凶悪から来る震えとは似て異なるもの。
先程と同じ、本能的に相手を求める欲望其の物。
(そんなものが、自分自身にもあったなんて……)
性行為が本当に初めてなのに、不安と羞恥に打ち震えてしまう。
けれど、同時にこのふしだらな態度が多い吸血鬼がとても愛おしく感じていて。
ふいに、アイシアは間近にある彼の頬を両手で包み込み、そっと顔を寄せた。
『……私に愛を芽生えさせてくれて、ありがとうございます』
母国語でそう伝えた。
こんな甘やかとも言えない状況だったとしても、真剣に彼に応えたかった。共通語にしなかったのは、ほんの少しの悪戯心と気恥ずかしさからだったが。
(だって……これくらいいいでしょ?)
目の前でぽかんと口を開けてるレイフロを見ていると、さっきまでの震えはなんだったのか、堪らずおかしくなってしまう。
けれど、そう思えたのはほんの一瞬だけで、レイフロは瞬時に口端を緩めて、アイシアの照れ臭そうにしている瞳を覗き込んできた。
『俺の愛を……貴女に捧げましょう? レディ』
まさか話せるとは思わず、今度はアイシアが口を開けてしまう番だった。
しかも、『レディ』だなんて、共通語でさえ言ってくれた事がなかったのに。
いつもならすぐに拗ねがちになるアイシアだが、状況と雰囲気が、いつもらしさを狂わせる。
嬉しさが込あがり、瞳が涙で潤むのがわかった。もう溢れそうだったみたいで、レイフロが目元を緩めながら唇で拭ってくれた。
それが、合図だったかもしれない。
アイシアは頬を包んでた手を滑らせて、レイフロの首に回した。
レイフロはその緩慢な動作を待って、しっかり回されてからアイシアの華奢な身体を掻き抱く。そして、そのままゆっくりとシーツの上に、アイシアを下にして横たえた。
「……本当に辛くなったら言えよ?」
覗き込まれた紅い瞳に欲望の焔が宿れど、真祖の吸血鬼はアイシアを気遣ってくれている。
さっき彼が告げてくれたように、捧げられた愛を感じられてアイシアは胸中がとても甘やかな痺れを感じた。
「レイフロさんが……思うようにしてください」
「……おいおい。初めての女が言う台詞か、それ」
「だって、ご教授してくださるんでしょう?」
レイフロ以外知るつもりもない。
比較対象なんて必要がないほど、愛して欲しいのだ。情欲に縁がなかったアイシアでさえ、レイフロとのこれまでの行為で、少なからず芽生えてしまっていた。
レイフロにも、アイシアの言葉の意味がわかったようで、くしゃくしゃになるくらい嬉しそうに顔を緩めた。
「んじゃ、手始めとは言え、俺の最愛の女に満足してもらえるよう努めますか?」
「ふふ。お願いします」
「たーだし。……際限なくしちまったら、悪りぃな?」
「はい?」
際限なくとはどう言う事だろうか。
首を傾いでる間に、レイフロは再びアイシアの秘処に指を添えて軽くなぞる。アイシアはまたの不意打ちに息を飲む。あれだけ解したお陰か、さっきまでの震えの際にまた溢れたのか、そこはわずかに触れただけでも水音が凄かった。
「んー、上々? これなら、もう俺の挿れても悪くねぇな」
何故とは、敢えて口を挟まない方がいいだろう。
経験値はどう足掻こうが歯向かおうが、レイフロのが遙かに上なのだから。
その中に、自分以外とこうした行為をしてきたのも含まれてるだろうし。
「……まーた余計な事考えてんな?」
気付いたら、彼は両手でアイシアの頬を包んでいた。紅い瞳はそのままに、少しだけ欲情の焔が弱まっている。その瞳には、不安気な顔をしたアイシアが写り込んでいた。
「……あ……」
こんな顔をするつもりはなかったのに。
一気に萎んでしまったのではないだろうか。行為がでなく、気持ちの方が。
本当に初めてだったアイシアはそう勘違いしてしまい、レイフロの首に腕を回して抱きつくと耳元で謝罪する。
「……ごめん、なさい」
「謝んなって。大方、俺の昔のことで気に病んだのはお前だろ?」
やっぱりバレていた。
小さく頷くと、優しく髪を撫でてくれた。
「そこだけは、嘘つけねぇからな。けどよ、アイシアにあげれるものはまだ残ってるぞ?」
「……私に、ですか?」
なんだろうと、彼に向き直ってみると、レイフロはにっと口角を上げた。
「俺の最愛と、生涯の伴侶になってやれる事だ」
「……えぇっ⁉︎」
前半はさっきも言ってくれたが、後半はあまりも急ではないだろうか。
思いを通じ合えたのも、行為に及ぶのも今晩が初めてなのに。
度肝を抜かれたアイシアの唖然とした顔に、レイフロは吹き出しもせずにそっと唇を合わせた。
「……たとえ、お前が先に逝っちまっても。俺はもうお前以外受け入れるつもりはねぇよ」
「……レイ、フロさん……嬉しいですっ‼︎」
「けど、普通の男じゃなくて悪かったな?」
「……そんなこと、どうでもいいですっ」
アイシアとて『神子』と呼ばれて、格差ある生活を虐げられてきたのだ。異形種に成り果てただけの種族違いでどうこう言う人間ではない。
気持ちが通じたのか、レイフロはついばんでた唇を深いものに変えていってくれた。
「んじゃ、焦らされまくった分……激しくなんぞ?」
「……んくっ……んんっ……はぁ……は……いっ」
たしかに、相当待たせてしまっていた。
世間一般の行為について知識皆無だったアイシアにも、ゆっくり過ぎではないかと思うくらい。
それだけの気遣いに、アイシアは胸の奥がきゅっと締まる感覚を覚えた。これが、チェリルに聞いた胸キュンかもしれない。
レイフロは唇を合わせたまま、再度アイシアの秘裂に手を添えて強く揉み出した。反射でアイシアは身を捩るが、空いてる腕でレイフロに抱え込まれたので逃げようがない。
「ほぐれてはいるが……もっかいイカせた方が良さそうだなぁ」
「……んぅ……は……なん、で……」
「なんでって、アイシアは処女だろうが? 念には念入れとかねぇと、破瓜の痛みが和らがないって聞いたしよ」
「…………は、か……?」
またわからない言葉だった。
唇の隙間から言葉が漏れてたようで、レイフロは唇を離すとそっとアイシアの耳にそれを寄せた。
「処女膜が破れる時の、痛みだそうだ」
「っ⁉︎」
「結構なもんらしいから、指では破んねぇようにするよ」
と宣言すると、レイフロは耳を食んでから秘処に指を入れ始めた。
アイシアは息を飲むが、身体が強張る感じはもうなくて、段々と湧き上がる快感が全身を支配していく。
「……んっ。良い反応。この調子でいろよ?」
突き挿した指は、最初はゆっくりと抜き差ししていたのに、いつに間にか速度も本数も増やしていて、アイシアは嬌声を抑えられなかった。
「ふっ……ぁあっ⁉︎ レ……イフ、ロさ……んか、きちゃ……んぅ」
「何度でもイけよ? んで、身体で覚えな。これから数え切れねぇくらいお前とこうするんだしよ」
レイフロが数え切れないって、どれほどだろうか。
だけど、アイシアにだけ求めてくれるのは、心底嬉しかった。
やがて、指がまた増やされたところで、アイシアは絶頂を迎えさせられた。
火照る身体と若干の倦怠感が覆い被さってくるが、まだ終局ではない。
欲望の焔を灯し直したレイフロがどさっとアイシアに身体を重ねてくる。軽いリップ音を立てて顔中にキスを施し、最後に唇を幾度か重ねると瞳を覗き込んできた。
「……いくぞ?」
掠れた欲情の声に、アイシアは歓喜の溜め息が溢れた。けれど、返答出来るほどの力がなくて代わりに小さく頷く。
レイフロはそれで満足気だったようで、紅い瞳を緩める。彼はほんの少し身体を浮かせ、アイシアの秘処に先程見てしまった彼自身をあてがう。
小さな水音に腰が引けたが、更に彼がそれを念入りに蜜口に擦り付けて愛液をまとわせようとする所作に、アイシアは驚いて顔が引きつったかもしれない。
レイフロが苦笑していたから、慌てて彼の肩口に自分の顔を埋めた。恥じらうのではない、そんな表情なんて見せたくなかったから。