長年の主従カポーはそれが崩れた時の反動がすごそうで、かなり気になりました。
この話を作ったきっかけが、ヴィルヘルムのプレイヤー評がロリコンストーカーという不名誉な称号だったので、汚名返上、名誉挽回として大人世界で供養したという…。
いよいよ不穏な状況になり、教父と共にこの世界を調整していかねばならなくなった。
黒教とは直接関りの無い事案ゆえ、関係者を巻き込むわけにいかぬと考えたフリーデは、黒教所属扱いになっているヴィルヘルムをユリアのもとに行かせることにした。
絵画世界。アリアンデル礼拝所のすぐ近くにあるフリーデの居住い。
いよいよ不穏な状況になり、教父と共にこの世界を調整していかねばならなくなった。
黒教とは直接関りの無い事案ゆえ、関係者を巻き込むわけにいかぬと考えたフリーデは、黒教所属扱いになっているヴィルヘルムをユリアのもとに行かせることにした。
「……では俺の任を解き、放逐なさるという事だろうか?」
「貴方の所為ではありません。全て私の不徳の致すところです」
「だが、この世界は…」
「解っています。火を渇望している輩を押さえ込まねばなりません」
「ならば何故…」
なおも食い下がる腹心の騎士に悲しそうに微笑むと、彼女は棚の一角から厚手の布に丁寧に包まれた物を騎士に手渡した。
「私からの餞別です」
この重み、この感触、この形。
「オーニクス…。フリーデ様、これはあまりな仕打ちではないのか…」
「ヴィルヘルム、解って下さい。貴方には感謝しきれぬ程良く仕えてもらいました。ですが情勢が変わりました。来るべき脅威に備えねばならぬのです」
「ユリアを頼りなさい。聡明な妹のこと、貴方を悪いようにはしないはずです」
「俺は…あの方のお考えとは相入れません…」
「…ヴィルヘルム…」
「だが、フリーデ様の御命令とあらば従うまでです。このヴィルヘルム、どこまでもフリーデ様のしもべ、きっと命ついえるその時までフリーデ様のものに変わりはない」
「ああ、本当にすまなく思っています。こんなに忠義を尽くしてくれる者を、拠ん所無い事情で手放さねばならないなど。…私からは餞別の品を渡しましたが、…その他に所望のものはありますか?ひとつだけ貴方の求める物を与えましょう」
騎士は暫く考えて居た。
「では…今一度改めて忠誠の儀をさせていただけるだろうか…いや、効力を成さないのは判っている。俺の個人的な忠誠のための真似事と思っていただければ」
修道女は虚を突かれたような顔をして、
「'女神の騎士の誓い'の真似事、ですか?それで良いのですか、ヴィルヘルム…?」
騎士は無言でうなづいた。
「お安い御用ですよ、ヴィルヘルム。もっと…実用的なものかと思いましたわ」
そう言いながら、背もたれのある椅子から、騎士の面前に立った。
向き合い、頭ひとつ分高いヴィルヘルムはゆっくりとかがみ立膝をつくと一礼し、さらに身体を低くし女主人の白い足の甲に接吻した。
今夜は殊更に冷える所為なのかもしれない。
やけにヴィルヘルムの唇が熱を持っているように感じた。
無骨な男であっても唇は柔らかく温かいものなのだなと思っているうちに、その唇は位置を異にしてまた足の甲に押し付けられた。
2度、3度。
優しく愛おしむような接吻が続き、気がつけばそっと男の両手がフリーデの足先を大事に包むように添えられていた。
'女神の騎士の誓い’とは違うようだが、不思議と厭な気はしなかった。
その理由は判っていた。
かつて少しだけ自分にまだ幼さが残っていた頃、膝に怪我を負った時にすぐに傷口を吸い捨ててくれた事があった。
信頼する相手ゆえ嫌悪の入る余地は無かった。
しかし今はそれとは明らかに違う状況であるが、その思い出から払いのけることはせず、静かに騎士の口元を見ていた。
接吻はあくまでも唇を置くように優しくフリーデの足首を登って来た。
脚の内側というのは外側に比べて少しばかり面倒くさい反応をするらしく、ヴィルヘルムの軽く押し付けるだけの接吻がその領域に入ると、とたんに異質な感触に変わり、見守っていたフリーデは少しひるんだ。
俗っぽい言葉で言うなら、それは愛撫と言う感触に変化したのだった。
唇のわずかな凹凸が触れるたび、体の中心に鈍い兆候が集まる。
そして身体が本能的に何かを期待しはじめているのが解った。
膝の位置に唇が到達すると、
「ああ…。少し傷が残ってしまったのだな…。あの時にしっかりと手当て出来ず、すまない…」
そう言うと、憐れみの気持ちがこもった長い接吻をした。
なんと優しい柔らかな口付けだろう。
何度も何度も白く光る小さな傷跡を愛おしんだ。
膝から染み込んでくるような感触と、時折わずかに湿った音を立てる男を見下ろしつつ思わず
「…ヴィルヘルム」
と呼びかけた。
我に返り姿勢を硬く直し、即座に離れてかしずく騎士。
「お許しください、フリーデ様。俺は畏れ多いことを…」
「それが貴方の望む事なのですか?」
「………」
「求めるものを与えましょう、と言ったのは私です。お続けなさい」
騎士は面を上げる事なく、また微動だにしなかった。
フリーデは椅子に座ると裾をためらいがちに上げ、傷の残る膝頭をあらわにした。
そして少し上まで裾を引き上げてみせた。
「さあ、お続けなさいヴィルヘルム。これが貴方の望みならば私は止めることはしません」
「あるじに対し恥知らずな行いをしてしまった。どうかお許しを…」
一層深く自らに罰を与えるように男は身を小さくした。
「そう…。恥じているのですか。…では、命令ならば思い悩む必要はありませんね?」
「……」
「お続けなさい。貴方がこの先どんな事をしようとしていたのかを。…命令、ですよ?」
そう言うと修道服の裾を脚の付け根まで一気に引き上げた。
白い両の脚がヴィルヘルムの目前に出現し、薄暗がりの室内で薪の焔に照らされ眩しく見えた。
「ご…御命令とあらば…。フリーデ、さま…」
予想もしなかった流れに驚きを隠せず、ひりつく喉からかすれがちに搾り出した声と共に、珍しくためらいがちに騎士は足元にひれ伏し、再び足の甲に口付けた。
僅かにその唇が震えていたのをフリーデは肌を通して知った。
この冷静沈着な騎士でも感情を波立たせる事はあるのだろうか。
およそヴィルヘルムに激情と言う言葉は似合わない。
本当に欲望という自分本位の感情が、彼にあるのか試してみようなどと思わなかったと言ったら嘘になる。
膝への接吻は迷う事なく両手が添えられ、そこよりも上へと進む予感を示唆した。
フリーデはヴィルヘルムの動きの妨げにならぬように脚を広げ、ヴィルヘルムも当然のように脚の間に割り入り内股に唇を這わせた。
短く押し殺すような吐息が思わずフリーデから漏れると、ヴィルヘルムが囁くように尋ねた。
数々の標的を死に追いやり凄惨な場面を無情に見下ろしたであろうその同じ瞳でフリーデを見上げ、
「本当に、宜しいので…?」
返事の代わりにフリーデは男の髪を優しく撫ぜた。
ヴィルヘルムは変わらず愛おしむように朴訥に内股を辿るのだが、それがあたかも焦らしの様で、フリーデの息が乱れ始める。
太腿の間の香りの源に辿り着くと、躊躇せずにその泉に吸い付いた。
鋭く息を呑み、全身が強張る修道女。
思わず髪をまさぐる手が一瞬、拒絶しようと押しもどすが、ヴィルヘルムは今度こそしっかりと修道女の両脚をすくい上げ、がっちりと抱え込んだ。
フリーデの白い脚は男の肩に掛けられ、為すすべもなかった。
「私」を護るためだけに必要とされた、しなやかだが強い腕。
その腕が、今はあるじである「私」を屈させようとしている。
それまで黒教の創始者の一人として屈した事も屈させられたことも無かった彼女は、皮肉にも一番近しいわが身を仇から護ってくれていた者に力づくで言う事を聞かせられている。
しかし不思議なことにそこに拒絶は無く、むしろ彼女は悦んで受け入れている風に見て取れた。
「ヴィル…ヴィルヘルム…」
乱れる息を隠そうともせず心を寄せる相手の名を呼んだ。
とめどなく溢れる愛液は忠実なしもべによってこぼさず吸われ、今は入り口を口唇で塞がれつつ舌で掻き出されている。
「あっ…アッぁ…はっ、んッ…ヴィル…」
別離の前に全てを覚えておこうと言うのか、ヴィルヘルムの唇と舌は執拗にひだやふくらみ、固くなっているところ柔らかいところを器用にめくり上げ、深くえぐるようになぞった。
程なくしてか細く尾をひくような啼き声と共に、大きく弓なりに身体を震わせてフリーデは唐突に果てた。
くったりと背もたれの椅子に身体を預け、玉の汗を額に浮かべて息を整えているかつてのあるじを男は忘れまじ、とじっと見つめていた。
「…俺が知っているどのフリーデ様よりも、今の貴女は愛らしい」
いつも通りの抑揚の無い口調だったが、いくらか満足げな響きがこもっていた。
フリーデの身体をそっと元に戻し、改めて非礼を詫びるため下がろうとした時、ヴィルヘルムは手を掴まれた。
「貴方の…真に求めて…いるのは…これでは…ありません...ね?」
まだ鎮まらぬたかぶりを押さえ込んでフリーデは相手を捕らえた上、威圧的な物言いをするのはさすが黒教会の創始者たる余裕と言うべきか。
「きちんと…受け取るべきものを受け取りなさい…ヴィルヘルム、貴方にはその資格が充分にあるのだから」
フリーデに許されたとはいえ、たったいま破廉恥な行いをしたことには変わらない。
それまでずっと彼女への忠義を利用して、間近で浅ましい思いを抱きながら仕えて居たという事を暴露したような行為だった。
聖女を守る騎士どころか、汚らわしい下僕のおのれを罰そうという兆しすら見せぬフリーデの真意を測りかねた。
「フリーデ様…ご自分が何を仰っているのか、お判りか?」
「ええ、私が言葉を違える訳が無いでしょう。貴方が欲しいものはもう解っているつもりですよヴィルヘルム。それとも、これもまた命令しなくてはならないのかしら…ね?貴方は…すでに貴方は、聖女付きの騎士ではないのですよ?つい今しがた、他ならぬ私が任を解いたのを忘れたのですか」
ヴィルヘルムはいまやどこにも所属しない一介の騎士で、確かにフリーデと対等の立場となっている。
手を掴まれたまま騎士は、諭された子供のように正直に答えた。
「俺は…任を解かれてもフリーデ様の騎士でありたい。生涯忘れたくないのだ。だから…忘れぬよう、最後にもう一度貴女に触れたかった」
「私も忘れたくない、もう一度触れて欲しかったと…言ったら…?」
思いもよらない場面で、叶うならばと長年欲しかった言葉を聞かされた。だが苦しげに、
「お願いだ。あまり俺を…煽らないでくれ…。貴女を壊したくない」
フリーデから視線を大層な努力で引き剥がし、寒々とした青い部屋隅に目をやる。
「私も最後にあなたのあるじとしてこれまでの恩義に報いてやりたいのです。いえ、そうではないわね。そうじゃないわ…」
対等な立場に立った者への物言いとして適切でないと思ったのか、かつてのあるじは言い直した。
「貴方の事を忘れぬよう、私にも記憶を施して欲しいのです。その…こ、壊れてしまうほどに強く…」
黒教会の創始者ではない年相応の女性の恥じらいが言葉の端に初めて姿を見せた。
暫くのあいだ目の前の修道女を凝視し何事かを考えていたが、ヴィルヘルムはフリーデの腰を荒っぽく抱き寄せる事でその答えを示した。
契約の口づけではない、あふれる感情のままの口づけをしようとゆっくり顔を近づけると、フリーデから唇を押し付けてきた。
柔らかな唇 と 引き締まった唇
甘い匂い と 荒々しい雄の匂い
美しい瞳 と 精悍な黒い瞳
恥じらいと興奮に染まった耳朶 と 歓喜に染まった凛々しい耳…
長い時間を経てやっとお互いの唇に辿り着いた喜びを味わった。
何度も何度も幻でない事を確かめるように。
互いに口づけを断続的に交わしながら、己の身に着けていたものをもどかしく脱ぎ捨て肌と肌を合わせた。
ヴィルヘルムの自身は禁欲を厳重に強いていたため、石のようであった。
「フリーデ様…後悔なさらぬか…?今ならまだ―――」
「ならば、私の気持ちが変わらぬうちに頼みます…。貴方は私の大事な人―――」
「貴女を壊してしまうやもしれぬぞ…。フリーデ様...いや、フリーデ」
「ええ、本望だわ…ヴィルヘルム。…早く来て、愛しい人」
フリーデの中は口戯で充分に潤って、すんなりと入る事が出来た。
それでも硬いものが押し入れば相当苦しい。
そんなフリーデの顔を見ながら己が侵入する様は、それまで主従関係だった当人としては大変に背徳的な光景であった。
約定の鎖につながれ、理性の檻に押し込められていた野獣の戒めがひとたび解き放たれると、もう制御できなかった。
「んっ、あっ、んっ、んっ、んんっ、く…ウンっ、はっ…」
声を出すつもりがなくても、すばやく突き上げられ中の深い場所に当たればその勢いで息とともに声が出てしまう。
短い間隔で小さな喘ぎ声がつづき、角度を変えられるたびに鈍い痛みの快感が体中をめぐる。
フリーデの白い足は筋肉質の獣の腰に絡みつき、欲しがった。
まるで黒い獣が白い獲物を咥えて全力疾走してるようにみえただろう。
しっかり振り落とされまいとヴィルヘルムの首にしがみついていたフリーデは、あえぎながら快感に霞む頭の隅でヴィルヘルムの激情の凄まじさを思い知った。
けれどもその激しさは、かねてより自分が待ち望んでいたものであり、心底嬉しく思った。
「フリーデ…エルフリーデ…俺の…」
腹のそこから搾り出すような深い声でヴィルヘルムは女神の名を呼んだ。
長年の禁欲から最初の到達にさほど時間が掛からなかった。
体中を貫く快感が先端で爆発した時、くぐもった獣の唸り声と共に交わりの場所から白い液体が溢れだした。
脈動しているが、硬さは衰えない。そのまま休まず再びフリーデを貪った。
絵画世界の夜は長い。
刻一刻と破滅の道を進む運命にあるこの世界の、ほんの一時の悦びの時間を味わう幸せがあったとて、誰が責められようか。
吹雪のとばりは厚く2人を覆い、長いサーガの織り目に隠された。
ヴィルヘルムは絵画世界からついに出ることは無かった。
だが、二度とフリーデの前には姿を現さず、彼女の身を見えぬ場所より常に護る陰となり、彼女を生涯慕った。
- END -