※下品です。
「美樹さやか、ちょっといいかしら」
「へ? あたし?」
不愛想で付き合いが悪くてしかしちょっと目を奪われるクール系美少女にさやかが呼び出されたのは、ある日の放課後であった。
折しも親友のまどかは委員会の会議とやらに出席し、また同じく親友の仁美もお花のお稽古とやらに行ってしまい、暇を持て余していたところである。
あたしの友達とあんたは友達だけど、あんたとあたしは別に友達じゃないという微妙な関係ではあるものの、友達の友達で、同じ魔法少女として共闘もすれば、いくらか交流もあるというものだ。
とはいえ魔法少女関連くらいでしか話題がないのもあっててっきりそのことかと思ってほいほいとついていけば、見晴らしのいい屋上で暁美ほむらはこう切り出したのであった。
「ええと…………この無能」
「は?」
おもむろに突然に人を罵倒したかと思えば、ほむらはさやかなど一瞥もせずにスマホを見ながら続けた。
「才能がない。センスもない。感性だけで突っ込むから戦術を学習しないしまわりもフォローが大変よ」
「ぐふっ」
「飛び跳ねて切り込むくらいしか能がないのに、後ろのことをまったく気にしないからまどかや巴マミが援護しづらくなって結局あなたのほうに合わせるしかなくって最悪よ」
「あべばっ」
「魔法少女としての素質ならあなたよりずっと下の私にさえフォローされて恥ずかしくないのかしら」
「げるぐぐっ」
「唯一得意な回復魔法も、結局突っ込んでケガして自分に使うゾンビ戦法しかできない上にソウルジェムを無駄に濁らせる回復役の面汚し」
「ぐへぇっ」
「美樹さやか、あなたってほんと美樹さやか」
「五七五調であたしの名前を悪口みたいに!」
流れるようにボロクソにこき下ろして満足したのか、なぜかこの不愛想クール美少女はドヤ顔をさやかに向けてきた。
「どうかしら美樹さやか?」
「どうかしらも何もあたしのこころはボロボロだけど!?」
「それは……つまりよかったということかしら?」
「なにをどうしたらなにがどうなったのよあんたの中で!?」
さやかのしごく真っ当な反論に、この顔面だけは美少女をしているクソ女は、まるで不可解で仕方がないというような顔でさやかをまじまじと見つめてくる。
「おかしいわね……体調でも悪いのかしら?」
「おかしいのはあんたの頭よ」
「あなたは『メスガキ』が好きなのではなかったの?」
「なんて???」
いろんな意味の「なんて???」がさやかの頭の中を駆け巡った。
暁美ほむらが『メスガキ』などという悪いインターネットに毒されたようなワードを吐くことも「なんて???」であったし、あんたその顔で大真面目に『メスガキ』とか言うのという「なんて???」であったし、さやかが『メスガキ』好きであるというのもどこ情報か知らないが「なんて???」としか言えなかった。
しかしどう聞き返そうとも暁美ほむら『メスガキ』発言は逃れ得ぬ事実であった。
「統計上、美樹さやかが『メスガキ』に性的興奮を覚えることがわかっているのよ」
「なんの統計よなんの。訴えるわよ。そして勝つわよそんなバカみたいな言いがかり」
「あなたが杏子に生意気な絡まれ方をした後と、百江なぎさに生意気な絡まれ方をした後は自慰行為の回数と強度が上昇していると数字に出ているわ」
「弁護士を呼べェーッ! その前に警察!? なに調べてんのよあんた!?」
言い逃れできない数字にうろたえるさやかだったが、ほむらはあくまで冷静にスマホを操作して統計データとやらを表示させながら続けた。
「これはまどかと楽しくおしゃべりした後や、志筑仁美と放課後を過ごした後といった日常と比べたときだけでなく、巴マミの豊満な肉体に目を奪われた後の自慰よりも激しいことがわかっているのよ」
「マミさんはこちらも抜かなきゃ実際無作法だから仕方ないし……」
「このグラフによれば」
「クラスメイトにオナニー事情をお手製グラフにされる気持ちとか考えたことある?」
「あるわけないでしょう?」
「『なに言ってんだこいつ?』はあたしのセリフよ!!」
カラフルで見やすい円グラフでズリネタにした相手の比率を示された女子中学生の気持ちなぞ知りたくはなかった。というか我が身に降りかかった今でもさやかは自分がどんな気持ちになればいいのかわからなかった。
フォントにまで気を遣ったグラフの美しさが示すさやかのチンポ事情が、さやかのメンタルを打ちのめした。
「コンスタントに使用されている巴マミのセックスシンボリティは頷けるものがあるとして」
「使用とか言わないでよ生々しい」
「乳房のサイズに如実に反応するだけに、杏子と百江なぎさへの反応は単純なロリコンとは思えないわ」
「巨乳好きとロリコンが同居しててもいいじゃないっていうかあたしの性癖を分析するな!?」
「そこで出てきたのが『生意気な絡まれ方』よ。同じ対象でも、会話内容などからその後の自慰内容の変化がうかがえたわ」
「いろいろ突っ込みたいけどまずどうやって調べたのよあんた? プライバシー侵害も甚だしいわよちょっと」
「まどかに聞いたら『さやかちゃんメスガキ好きだもんね』と」
「ちょっと親友との仲にヒビいれようとするのやめて」
そもそもさやかの性癖に最初に刺さったのはまどかの小生意気な感じのえへへ笑いだったのだが、幼馴染は普通に近すぎて抜けなかったのである。そう言いながら普通に抜いたが。
「そもそも杏子はメスガキじゃないでしょ」
「それはそうね」
解釈は大事だ。佐倉杏子は生意気ではあるが、メスガキとは違うとさやかは考えていた。
それはそれとしてメスガキ杏子妄想は大変はかどるので
「そしてこのグラフのここを見なさい」
「……暁美ほむらって書いてあるわね」
「私だけ使用回数が低いわ」
「使用回数いうな生々しい……でもそうね。意外と。我がことながら数字で見ると結構意外な感じになるのね」
「上条恭介よりも低いどころか、むしろ魔法少女少年島風コスプレ上条恭介妄想が割と上位に来ている中で私が断然最下位なのは納得がいかないわ」
「いやほんとマジでどこ調べのそれ?? なんであたしの下半身事情にあたしより詳しいのよあんたは」
「まどかに聞いたら『さやかちゃんって声大きいよね』と」
「本格的に親友との関係考えさせるのやめて」
さやかが真剣に悩み始める中、ほむらはキワキワのぐるぐるおめめで自論を展開した。
「そこで私は考えたわ」
「人はなぜ考えるという罪を犯してしまったのか」
「『メスガキ』属性を付与すればチンポにダイレクトアタックできるのではないかと」
「急にずのうしすう下げるのやめてもろて」
要はそういうことであった。
『メスガキ』になれば、えー、まあ、その、ある種の「好感度」的なものが上昇すると考えて、暁美ほむらはあの流れるような罵倒を繰り出してきたと、そういうことらしかった。
いまさらぼかしても何の意味もないが。
「あー、なんていうかさ。あんた、『メスガキ』っていうのを致命的に勘違いしてると思う」
「そんなことは…………薄々とまあ、察していたわ」
「その時点でやめてほしかった……」
おそらくだが、生意気な女児がバカにしてくる、というようなテンプレートを切り抜いて、雑に「罵倒すればいい」とでも考えたのだろう。
なにしろ不愛想クール美少女であるところの暁美ほむらだから、それはそれでそういう人種には需要があったかもしれないが、さやかは別にマゾではなかった。罵倒されているときはだんだん気持ちよくなっていたが、それはそれとしてさやかは別にマゾではなかったから耐えられた。
しかしそれは『メスガキ』ではなかった。
下手をすれば、普段のつんけんした態度のほうがまだ『メスガキ』みがあったといっていい。
「大体さ、なんだって急にこんなことしたのよ」
「……それは……」
「なによ? 本当に恭介より下だったのが嫌だとでも……」
「わ、私ばかりっ」
「へっ」
暁美ほむらは踵を返しながら、消え去りそうな声でこうつぶやいたのだった。
「私の方ばかりなのは……不公平だわ」
「それって……ちょっと! ほむら! 待ちなさいよ!」
追いかけて階段を見下ろしても、そこに不愛想クール美少女の背中も、赤く染まった耳も、見えはしなかった。
さやかは残された言葉を、何度も何度もその場で繰り返しては、呆然とたたずんでいた。
私の方ばかり。
それは、つまり、そういうことなのだろうか。
ほむらの方ばかりが、さやかを想っているのは、という、そういう意味だったのだろうか。
なんだか口の端が勝手にによによと持ち上がってくるのを抑えながら、さやかは軽い足取りで階段を駆け下りていくのだった。