一、
浅い眠りから浮上すると、まさに一面泥水に浸された花畑にでも寝転がっている感覚だった。あたりの色が確認出来ないということは夜明けを迎えるにはまだ早い時間のようで、どうやらわたしは横向きに背後からエーリッヒに抱かれるようにして寝ていたらしい。頬に当たる筋肉質の枕は彼の左腕だった。
日中は暑さが誇張する季節になってきたが、白露が
視界の端から辛うじて見える大きな肩が規則正しく上下に揺れるのが見える。
背部に伝わる生身肌と心拍音、股の間に割り込まれた膝、まるで逃さぬようにと蔦のように絡まるわたしと彼の足。腰を捻るように動くと臀部より少し下あたりに彼の陰毛が触れ、彼もまた裸のままわたしを抱き込んで寝ていることが分かった。
敷布の海は数センチ先で切れており、手を伸ばせば寝台横にある棚に置かれた彼の眼鏡も取れる。彼の足先もぎりぎりはみ出ていないほどの狭さではあるが、小さい体躯のわたしにはちょうどいい大きさだ。
今のわたしの地位ならばもう少し良い部屋が与えられるが、無駄に広い部屋よりも数歩進めばすぐに出入り口や浴室に行ける実用性をわたしは選んだ。
しかし今夜は、冬が来るとここは随分と寒いだろうな、と彼が眉間の皺を緩ませないままに愛煙を燻らせていたものだから、冬まで生き永らえていればその時に考えましょう、と笑いながら彼の煙草を奪って灰皿に潰した。それから彼が眼鏡を外して、わたしを寝台の敷布に押し倒すまでに時間は掛からなかっただろう。
君がまた逃げたとしても直ぐに引っ張り戻せるなら狭いベッドも悪くない、と嫌味を囁かれて背後から耳を食まれた感触がまだ残っている。
彼との肉交に慣れていない頃、年齢的にも肉体的にも成人男性を受け入れることがまだまだ難しく、正直に言えば気持ち良さよりも痛みの方が強かった。
しかしある晩、男性だった前世には絶対に味わうことのなかった射精には至らない解放という頂点、いわゆる女性的オルガスムスに到達してしまい、それでも断続的に彼から与えられる強い快感をわたしの未成熟な肉壺はしっかり離さず受け入れるものだから、わたしの脳は大混乱の末に彼を力いっぱい突き飛ばし寝台から数歩の距離にある浴室に逃げ込む選択肢を選んだのだった。あの晩のことはもう二度と思い出したくはない。
「 うう、重い…… 」
首筋にかかる吐息だけでもどうにかならないものかと、境界線など最初から無いほどにぴったりと密着した彼の肩を剥がしてみる。背後のぬくもりはわたしを抱き枕にしながらぐっすりと眠っているため呻いた声が少し漏れたが、起きるほどではないらしい。
身じろいだ拍子に腰に回されていた彼の右手が滑り落ち、わたしはようやっと敷布の海から脱出することに成功した。逃げられないと思っていた狭い寝台も、彼の腕から抜けてしまえば呆気ないものだ。
自然に漏れたのは安堵の声だったが、身体は直ぐに都合良く寒さを肌に落とす。
しかし彼に割り開かれた下腹部の
その花盛りを、例えば限界寸前まで膨隆しきった芙蓉と表現するならば、
部屋中に散らばったままの
抱き枕が無くなってしまった彼の手首あたりに床に放り投げていた大きめの枕を置いてやれば、直ぐに冷たい枕は抱き寄せられた。
近頃は遠方への査察が続き、専ら移動中の列車や車が寝床になっていると言っていた。疲れている顔は見慣れているが、それでも、なるべくわたしに見せないようにしている彼はとても可愛いのだ。
彼の寝顔を見ながら、棚からロザリオを取ろうとした手は彼の眼鏡に触れる。わたしはそのまま眼鏡をポケットに忍ばせこっそりと部屋を後にした。
二、
聖堂の色彩を飾るはずの蝋燭は幽かに蝋の匂いを燻らせているのみで、ひっそりと過ぎゆく夜の端々を見ているだけだった。
徒歩数分の距離にある教会の扉に鍵は掛かっておらず、そしてこの時間帯ではさすがに礼拝する者も懺悔する者も居ないということは数回訪れて確認している。
大きな木製の扉を両手で押し開き、わたしは中央あたりまで歩を進めて後ろを振り向いた。昼間や夕方ならステンドグラスが見事に陽の光を借りて幻想的な色彩を降り注いでくれるはずだが、眼前には闇に隠れる
残念なことに今夜は新月で、野鳥も鳴かない
礼儀という名目で、軍帽を取り一礼をする。十字架の寝台で眠る奴に敬意を払ったわけではないことを分かってほしい。今夜が新月であったことに、わたしなりの敬意を払ったのだ。
ステンドグラスの眩暈を覚えるほどに厳かな色彩は、終息しつつあった少女であり女であることの痛みを誘発するほどに、わたしの
ベンチに腰を下ろすと、年季の入った木の軋む音に意識を傾かせて目を閉じた。外からの風は吹いておらず、無風と言っていいだろう。
己が吐き出す呼気がどうにも邪魔で白けた空気を
今あるのはターニャ・デグレチャフという肉体だけ。どう足掻いても、この
演算宝珠も軍服も、そして白銀の名を与えられるきっかけとなった勲章も、消えない硝煙と血の臭いも、すべて剥離させたとしても脳髄の中にまで押し込んだ花群は簡単に涸らすことは出来ない。
叶わないと分かっているが、それでも、幼い身体に刻まれた戦傷の縫い目を抉じ開け、更に我儘を言うならば、そのまま臓器を全て引っ張り出し、幼いながらも知ってしまった、ぼやけた情火と互いのふやけた指の絡みを奇麗さっぱり忘れてしまいたい。
裸のままベンチに寝転がり身を縮ませる。寒いわけではない、むしろ数時間ほど前まで彼の熱にわたしの花盛りがくしゃくしゃに濡れるまで受け入れていた。
習癖の指が全身を撫で上げた感触が残っているが、それよりも、行為中に背後から尻を大きな手で左右に割り開かれ時の、指先に入った力加減がやけに生々しく残っていて厄介だ。
それなのに、時折欲に負けて腰を力任せに突き上げてわたしの反応を見ながら獣の表情を剥き出す彼を、わたしの腕は全てを受け止めることは出来ない。
どうして、こうなってしまうまで放っておいてしまったのか。彼との関係を選んだのは確かにわたしの意思であった。存在Xが関わっていたとしても、それでもわたしは彼の手を取っていたはずだ。
「 エーリッヒ、貴方に抱かれるたび、わたしは自分を殺したくなる 」
すでに
部屋から勝手に持ち出してきた彼の眼鏡を握り、愛しい者の名を呼ぶ。
肉体が邪魔だと、今まで、ここまで強く精神と肉体を剥離させたいと思ったことはない。
喉から捻り出した
三、
その
雲の
こんな悪趣味をするのは存在X、奴しかいない。
深夜の教会のベンチに寝そべっていたはずの身はどこかを漂っていたが、わたしが異空間と存在Xを認めた瞬間、その者はしっかりと眼前に現れた。
五感が全て麻痺する感覚。神経に直接杭でも打たれている気分で、臓器が喉からせり上がってしまうのではいかと思うほどだ。
『 ついに愛に目覚めたか、ターニャ・デグレチャフ 』
幻映が切り替わり、いつかの彼とわたしの閨が映し出される。乱れた息と彼の腕の中でとろとろと意識を落としていく己の表情が大きく映し出されて見るに堪えない。
『 信仰心、にはまだ遠いが……それでも、愛を受け入れた貴様がここまで変わるとは、予想外だったよ 』
存在Xですら予想外の事案であるならば、わたしが足掻いたところで軌道修正は難しいのだろう。
幻映では気を失うようにして寝入ったわたしに、はっきりと、いま目の前にある幸せを噛み締めていると分かる表情で、彼はわたしの額にべったりと張り付いた髪を掻き上げながら何度も唇を押し付けている。
『 あの男を受け入れたいという貴様の願いに応えてオルガスムスを与えてやったのが良かったのか……まあいい、わたしはしばらく傍観者になろう、手出しも一切しない、せいぜい彼と共に少しでも生き永らえるんだな 』
聞きたいことは山ほどあるはずなのに声は喉から出てはくれず、存在Xが言いたいことをべらべらと吐露しただけでわたしの異議や反論の声は無視されたらしい。
自称神を名乗る男は、少々退屈そうな顔でそう言うと、雲の幻映と共にどこかへ消えていった。
あの晩の、思考が混乱するほどの強烈な絶頂が、愛しい者からではなく憎っくき存在Xが与えたものだった、という事実に相当なショックを受けている己に殺意が沸く。
存在Xが消えた空間は用済みになったのか徐々に白けていく。無意識に宝珠に魔力を込めそうになったが、わたしの手には彼の眼鏡があるだけだった。
四、
「 また君は、こんなところで…… 」
それからどのくらい時間が経ったのかは分からない。浮上直後の意識では
軋みがひどいベンチから軽々と抱き上げられる。彼の肩にはわたしが脱ぎ捨てた軍服一式が掛けられ、宝珠も首元へと返され、手の中の眼鏡も彼の元へ戻っていた。
すっかり冷え切ってしまった身に、彼は珍しく苛立ちを隠さず舌打ちをしてため息まで吐くと、そのままわたしを抱きながら彼は何処かへ歩き出す。
彼の肩に顎を乗せて欠伸を漏らすと、夜明け直後の仄かな朝日に煌めいたステンドグラスが裸のわたしの肌に色を落としている。わたしの目に似た、澄んだ青と沈んだ蒼。それはまるで先ほどの、忌々しい存在Xと邂逅した時の色にそっくりだ。
昨夜のうちに沈んだはずの熱が、体内に残った彼の欲に反応し濁り出して沸点へと上昇していく感覚。
「 わたしを見るな、クソ野郎 」
「 どうした、ターニャ 」
「 いえ、なんでもありませんよ 」
蚊の鳴くような声は彼に聞こえてくれなかったようで、それはわたしにとって好都合に違いないが、彼の肩越しから見るステンドグラスが、わたしを逃しはしないと嘲笑っているかのように見えた。
身震いをしたのは寒いからではない。彼の腕の中で燻りはじめた熱を、傍観者と言ったはずの存在Xに見透かされた気がしただけだ。
直ぐさま、見せられた幻映の時と同じく額に彼の乾いた唇が触れ、新月の夜はとっくに過ぎ去った早朝の教会で再び露になった少女の裸体が、ターニャ・デグレチャフに戻る瞬間を迎える。
彼の足音と心地好い揺れは何処かで止まる。
正面を向くと懺悔室の古めかしい小さな扉の前だった。扉は呆気なく彼の手で開かれてしまい、そしてわたしの身も抵抗する暇も与えられないままに呆気なく狭い懺悔室の中へと押し込まれてしまった。
懺悔室とは、彼もまた、わたしと寝台を共にした次の日は、表情も手癖も饒舌になるらしい。
「 夜中に勝手に部屋を抜け出すなと何度言えば君は分かってくれる、冷たくなった枕を引き寄せる私など見たくないだろう 」
「 それは見てみたいものですね 」
狭い懺悔室は彼が椅子に座ってしまえば、わたしの居場所は彼の膝の上しかない。観念した身振りを見せてしまえばいいと単純なことだけでは済まなかったようで、わたしの腕はしっかりと彼の大きな手に掴まれてしまい膝へ座ることは許されなかった。足裏に感じる彼の太ももさえも、わざとらしく怒りを露にしている気になってしまう。
「 エーリッヒ、すまなかった、だから 」
「 君はいつもそうだ、謝れば良いと思っているのだろう 」
身を少し捻ったが、彼の顔がちょうどわたしの下腹部付近に位置したため、先の出撃時に負った傷に彼の息が吹きかかって前屈みになってしまう。
腕は早々に解放されたが、非魔導依存環境下では非力すぎるわたしの力では、猫を撫でるように彼の髪の毛をくしゃくしゃにする程度しか出来ない。それだけじゃない。昨夜の情痴だけでは物足りなかったというのか、わたしの臀部はすっぽりと彼の両の手に収まり、双丘の割れ目に沿って指が上へ下へと撫ではじめた。
前後の緩慢な愛撫に下腹部は逃げられるはずもなく、前衛ではねっとりとした舌が足の付け根と肉の間隙に差し込まれ彼の吐息と舌先が冷えきったわたしの肌の上で遊びはじめた。
後衛では昨夜一番に開かれた箇所が花弁を指で開いていくかのようにまだまだ淡い色の肉が暴かれて、悲鳴をあげる暇さえ与えられずに、いとも簡単に彼の指が小さな秘部に到達した。難なく彼の指が遠慮なく滑り入ってくる。
「 あ、ぅあ、ん、や、だっ、エーリ、ひ 」
反射的に背中が反り、膝が痙攣して徐々に身が崩れていく。彼の肩を掴んで手を止めてもらおうと耳の下あたりに接唇を寄せてみたものの彼は顔を少し上げて無防備になっていたわたしの乳首に歯を立てた。痛みは一瞬だけで後は飴を舌先で転がすように、右の乳首ばかりを
甘噛みされるたびに腰が跳ね、彼の指が小さいながらもしっかりと主張をしている陰核へと触れる。まだまだ未成熟な実はしっかりと花びらに包まれてはいるが、くねくねと動き回る指からはいくら腰を捻っても逃げられない。
「 ひっ、あ、ぁ、や、やだっ、そ、れ、いゃ、ゃあ 」
「 ターニャ、顔を上げなさい 」
顎を取られ軽く互いの唇が触れる。懺悔室の小窓の方へと顔を向けると、まだ人影は確認出来ないがこんな簡素な箱の中では情事の声などすぐに気づかれてしまうだろう。上擦る声をなんとか抑えるも、彼の舌も指も動きは止まってはくれず、下唇を噛み締めるしかない。
耳に入っきた物音に小窓から外に目を向けると木製のドアが静かに開かれ、彼の手も止まってくれた。
早朝のステンドグラスの美しい光に照らされた男女が中へ入ってくると、昨夜のわたしと同じように中央で止まる。見慣れたシルエットの二人がゆっくりと向き合って何かを話し始めた。
「 ぁ、う……ヴァイス、中尉、と、セレブリャ、コ、フ、しょ、尉 」
会話は聞こえないものの語尾は柔らかく伸びて辺りに響いている。二人がそういった仲であることはわたしは知らなかったが、もしかしたら大隊メンバーの中では周知の仲かもしれない。数少ない女性士官を射止めたのが、あの大隊で一番の真面目で酒癖が悪い男だとはわたしにも想像出来なかった事案だ。
互いの腰に手を回し、目はけして離れずにいる。中尉が何かを言ながら指輪らしきものを差し出し、その言葉に少尉が頷いてキスが交わされた。
ちょうど外から時刻を知らせる鐘が鳴り、その音に驚いた鳥が飛び立っていく。最高のシチュエーションと言っていいだろう。
どうやらわたしは、家族や友人もいない、ましてや牧師もいないたった二人の結婚式の、部下二人が結ばれる瞬間に遭遇してしまったようだった。
戦争終結の兆しはまだ見えず、出撃任務の繰り返しで彼方此方に召集されている身では無事に還れる可能性の方が圧倒的に低い。わたしが直接鍛え上げた人的資源らが無駄死になど絶対に許さないが、中尉も少尉も、今まで以上に護りたい者が傍らにいながら戦うことの辛さを抱えながら出撃することになる。そう考えると、上官であるわたしは二人の関係を知らないままが良かったかもしれない。
愛など、知りたくはなかった。青鈍色のまぐわいなど、とてもじゃないがわたしには上塗りなどできない。
婚約指輪が少尉の右の薬指にゆっくりと嵌められる、と思いきや、中尉の下調べ不足だったのか少尉の薬指には入らなかったようだ。それでも少尉の横顔は、わたしが見たことのない表情を見せ、自己嫌悪に浸ろうとしている中尉を宥めると小指に婚約指輪を嵌めた。
「 二人とも、君の部下だったな 」
「 ええ、優秀な部下で、わたしの手に余るぐらいで、んぁ、っ 」
いくら肩を掴んでやめてくれと訴えても手を止めてくれなかった彼の愛撫が、二人のおかげで中断していたのにすぐに再開されてしまった。油断していたわたしの中にニ本目の指が滑り込み襞を押し拡げるような動きをする。
「 く、ぅあ、んっ、動かさ、なぃ、でっ、 」
ついに耐え切れなくなった身が膝から崩れ落ちたが、簡単に彼の腕から逃げられるはずもなく、裸のわたしとは対照的に襟元すら着崩さない彼の、窮屈そうにしている熱芯を布越しに押し付けられてしまう。この、そそり勃つ肉芯でわたしの奥を再び堪能する準備が出来たということだろう。
中尉と少尉は懺悔室のわたしと彼には気づかなかったようで、もう一度キスを交わしたのを最後に二人は教会を足並み揃えて出ていってしまう。気づかれたくない唇が喉から溢れでそうになる声を殺してくれたが、二人が教会の中に燻らせてしまった密と蜜を此処へ置いていかないでくれと咄嗟に伸ばした手は呆気なく懺悔室の壁に阻まれる。
「 何処へ逃げるつもりだったんだ、ターニャ 」
わたしが二人の方にばかり意識を傾かせていたせいか、扉が閉まったのを合図に彼の指が二本とも中から引き抜かれた。しっとりとした体液が絡んでいて、そのまま彼は指に舌を這わせて舐める。ある程度舐めると、今度はわたしの唇を抉じ開け舌と絡ませた。二本の指の間隙に舌が挟まれてまるで舌先から舌根まで愛撫されている気分だ。
こんな場所で、彼は本当に最後までするつもりなのだろうか。存在Xに幻映で観せられた己の蕩けきったなかなか顔が頭から離れてくれず彼の指をやや強めに噛むと、しとどにぬれた指は口腔から引き抜かれた。股の間からベルトを解く音が聞こえ勢いよく彼のものが下着から出てくると、腰を掴まれ上下に数回、 太腿と恥丘に擦りつけられた。
「 逃げる場所など……むしろ、わたしは帰る場所が欲しいくらいです 」
行為が終わるたびに夜な夜などこかへ出かけるわたしが、ある日忽然と消えてしまうのではないかと彼は要らぬ心配をしているのだ。
存在Xの手中で踊らされている限り、わたしがいくら軍服を脱ごうとも、彼との関係に沈もうとも、ターニャ・デグレチャフを辞めることは出来ない。 存在Xが提唱した彼とわたしの裂隙で生まれた愛という代物はいくら掌から投げ捨てようとも、すぐに手元に戻ってきてしまうのだから。
互いの体液が舌上で混じり合い口端からとろりと粘り気を持って滴り落ちる。それがわたしの中から溢れ出た愛液なのかそれとも彼の唾液なのか、もう分からない。今になってはどうでもいいことだろう。
「 では、わたしが君の帰る場所……そうだな、墓場にでもなろう、何処へ行こうとも、必ず帰ってきてくれ、ターニャ 」
狭い懺悔室の、たった二人だけの素っ気ない誓いの言葉。一足先に教会を出て行った二人とは同じであって同じではない。
彼はポケットから何かを取り出すと、それをわたしの首へと掛ける。見なくても分かる冷たい無機質な肌触りは、わざと部屋に置いてきたロザリオだった。
「 ええ、考えておきましょう 」
彼のもとへ還れば、わたしという精神とターニャ・デグレチャフという肉体があるべき形へと留めてくれるのだろうか。いや、彼は墓場と口にしたのだ。
あとは繋がるのを待つばかりの彼の熱芯へ、自らの花盛りの入り口へぴったりと這わせた。
「 貴方のここで、わたしを殺してください、そしてまた、わたしは、貴方の中から、還ってきてみせますよ、エーリッヒ 」
欲しかった言葉だったのか、そうではなかったのか、しっとりと湿気が漂いはじめた懺悔室には似つかわしくない、彼は口元だけを上げた笑みを見せると、わたしの腰をゆっくり落としていく。解けきった花盛には難なく熱芯が入っていくと、 隙間なく襞に絡まれてぴったりと収まってしまった彼の熱芯が脈打つ感覚に、腹部の皮膚越しに手を添えたみたが、すぐに律動が開始されてしまったわたしは声を抑えることしか出来なかった。