パルス暦三百三年。王弟アンドラゴラスの軍勢が、シンドゥラとの通謀を図ったバダフシャーン公国の首都ヘルマンドスを制圧した。
城門は破られ、堅牢な石壁は火の粉に包まれていた。
戦の音が響き渡るなか、砦の最奥に閉じこもっていたバダフシャーン公・カユーマルスは、狂ったように髪をかきむしりながら塔の上で喚き、足を滑らせて地に堕ちた。
皮肉にも王弟自らの剣でその命を奪うことすら叶わず。
「──勝利を捧げしは、剛剣の威光なり」
その報を受けたアンドラゴラスは、焼け落ちる城を見上げながら唇の端を僅かに吊り上げた。
炎に照らされた広間へ、鎖を打たれた一人の女が引き出される。
艶やかに波打つ黒髪、裳裾を引く赤紫の装束、怯えを見せぬ澄んだ双眸──それが、カユーマルスの正妃・タハミーネであった。
「お前が、タハミーネか」
アンドラゴラスが一歩、足を進めた瞬間、燃える梁が天井から崩れ落ちる。
兵が慌てて駆け寄るが、王弟は構わずその前に立ちはだかる。
「我が夫を殺しておいて、何を……!」
彼女は声を張った。だが、その言葉の先は続かなかった。
──この男は、戦場の炎そのものだ。
剣戟に晒されてなお冷めぬ鉄の体温。その眼差しは、怯えや懇願を微塵も許さぬ冷徹な金属。
「俺はパルスの王弟、アンドラゴラス。今から、お前を連れて帰る」
「帰る……? どこへ……!」
「我が居城、王都エクバターナだ」
タハミーネは目を見開いたまま後退ろうとするが、裾を踏み崩れるようにその場にしゃがみこんだ。
次の瞬間、彼女の腰を軽々と抱き上げた男の腕は、恐ろしいまでに揺るぎなかった。
「お前を、我が妻とする。カユーマルスの影に怯えることはない。男の愛とは、女の皮膚にこそ刻まれるものだ」
「やめて……触れないで!」
足をばたつかせ、身をよじる彼女に、アンドラゴラスは声を立てて笑う。
喉の奥から響くような荒々しい笑いだった。
火に焼かれるような熱情をそのままに、彼は女を抱いたまま砦を出てゆく。
背後で、バダフシャーンの象徴だった城が音を立てて崩れていった。
それはひとつの国が滅びた瞬間だった。そしてまた、ひとりの女の運命が狂気に包まれた覇王の焔に呑まれていった瞬間でもあった。
エクバターナへと向かう軍列は、燃え落ちたヘルマンドスの余燼を背に乾いた大地を行く。
移動の天幕は、広くはないが厚く重い帷が内外の視線を遮っていた。
無骨な兵たちの目が触れぬよう、その中に女は軟らかく座らされている。
否──正しくは、座らせられているというよりも監禁だった。
タハミーネは濡れた睫毛を伏せたまま、腕を抱きしめていた。
悔しさと、恐怖と、なによりも昨夜から身体に染み込んだあの熱を忘れられずに。
──この男は、本当に獣だ。
城が落ちた夜、女として初めて知ったのは、男の無慈悲な手であり、執拗な舌であり、嗅ぎ分けるような鼻先の感触だった。
服を裂かれ、胸の奥まで舐め上げられ、膝を押し開かれた。叫んでも、拒んでも、その腕はびくともしなかった。
「……震えているな」
いつの間にか、天幕の入口が僅かに開けられていた。
夜目にもくっきりと浮かぶ黄金の髪と鋭い瞳。アンドラゴラスが膝をつく音と共に中へ入ってくる。
「触れるな……っ」
タハミーネは身を退こうとした。だがその背は早くも帷の布に阻まれ、逃げ場を塞がれていた。
「女の愛など、言葉では計れぬものだ。──身体で教えてやる」
男の手が伸びる。あの夜と同じ、熱と力のこもった掌。彼女の裳の下に滑り込む指は、かつて夫さえ踏み込まなかったほど深く、意図的に淫らだった。
「っ……いや……そこは……」
下肢が勝手に震える。太腿がすり合わさる感覚が、自分の意思ではないことがわかる。
「まだ、夫を想っているのか? それとも……俺の熱が忘れられないのか?」
問いは嘲るようでもあり、慈しむようでもあった。
「ちがっ……私は……っ」
「口では何とでも言える。だがお前の奥は、さっきから濡れている」
いやだ、そんなことない。否定の言葉が浮かぶより先に、アンドラゴラスの指が蜜の中を確かめるように掻き混ぜた。
「ふ……ぅあ、っ」
喘ぎ声が喉を通ってこぼれる。嫌悪と屈辱が熱に変わる。恥ずかしいのに、痛いのに、──悦びのように痺れていた。
「お前の夫はきっと知らなかったんだ。ここを……こう扱えば、お前がどんな声で鳴くのかを」
そのまま押し倒される。
唇を塞がれ舌が差し込まれる。あの夜と同じように、彼女は奪われ躾けられる。かつての誇りなど、汗と蜜にまみれて溶け落ちていく。
砂漠の夜は冷たかった。だが、その天幕の中は、獣と女の熱気に満ちていた。
王都エクバターナ──パルスの心臓にして、千年を超える王統の玉座がある地。
凱旋したアンドラゴラスの軍を称える凱歌が、天を突くように鳴り響く。
金甲の兵たちが列をなし、民衆が歓喜の声を上げるなか、彼はひとりの女を連れ従えて王城に入った。
裳の裾に施された刺繍は燃え、瞳に宿る光は未だ戦火の名残を宿していた。
──タハミーネ。かつてバダフシャーンの栄華を象徴した妃は、いまや王弟の女として鎖のない囚となっていた。
「──お前が、例の女か」
王の間。蒼き天蓋の下、王座にふんぞり返ったのは、パルス第十七代国王、オスロエスである。
鋭くも艶のある双眸は、初めから女の顔ではなく、胸元や腰のくびれを舐めるように見下ろしていた。
威厳を纏ったその視線は、明らかに王弟の戦功よりも、女の評価に傾いていた。
「この女が、あのカユーマルスの妻だと?」
「御覧の通りです、兄上。愚かな主にしては、過ぎた女です」
「ふん……確かに、よく咲いた花よ」
オスロエスは玉座から立ち上がり、ゆっくりと降りてくる。その歩みは王者のそれではなく、女を値踏みする男のものだった。
「名は?」
「タハミーネ、と申します」
タハミーネは跪き、地に額を擦り付けながらも、その声音には誇りがあった。
だが──それが、かえってオスロエスの征服欲に火を点けた。
「なるほど。アンドラゴラスよ、お前が欲しがるのも分かる」
王は、女の顎に指を添える。そのまま、強引に顔を持ち上げ、唇の端に舌を這わせた。
「っ……!」
拒絶するように肩を震わせるタハミーネを、オスロエスは嘲るように微笑んで見下ろす。
「俺が確かめてやる。お前が王弟に相応しい女か、王であるこの俺が見極める必要があるだろう?」
玉座の間とは思えぬ静寂が、辺りに落ちた。アンドラゴラスが言葉を発する前に、オスロエスは命じる。
「女を俺の館へ通せ」
それは報酬の査定などではなかった。ただの、欲望だった。
──女は再び、運ばれる。今回は、炎の砦ではなく宮廷の静寂の中で。
だがそれは決して安寧ではなく、もっとも残酷な検分という名の陵辱だった。
月の光も届かぬほど深い帳が垂れた寝所──そこは、王にのみ許された静謐なる聖域であった。
だがその夜、その帳は静寂ではなく熱と喘ぎに染められていく。
タハミーネは細紐のような衣を解かれ、片膝を突かされたまま、天蓋の上から見下ろされていた。
目隠しはされていない。だが王の指が喉許に触れるたび、視線を逸らさずにはいられなかった。
「王弟に抱かれた女が、どれほどのものか……確かめるとなれば、当然だろう?」
オスロエスは笑っていた。軽薄ではない、王としての絶対的な支配の笑み──相手の尊厳ごと蕩かしにくる覇者の所作だった。
すでにタハミーネの両足は抱え上げられ、王の膝の上でまんぐり返しにされていた。
羞恥が腹の底からせり上がり、唇を噛んでも押しとどめきれなかった。
「や、やめ……やめてください……!」
「やめてほしいなら、何故、こんなにも熱い?」
王の指が、蜜に濡れた花芯をなぞる。ひたり、と音がして、そこから熱がとろりと流れる。
「ひ……っ、あ……!」
ぶるぶると脚が震える。既にアンドラゴラスに躾けられていた身体は、男の圧と指先に怯えながらも反応してしまっていた。
──やめてほしい。けれど、からだが否応なく思い出す。
火の中で喘いだ夜。馬上で震えた舌。戦場の塵に濡らされた膚。そのすべてが、いま王の掌の下で再生されていく。
「舐めてほしいのか? それとも……」
そのまま、舌が割れ目を割って、蜜壺の奥へと這いずり入った。
「あ、ああぁっ……!」
声が漏れる。喉の奥が熱を持ち、息がうまく吸えない。
──この男もまた獣だ。だが弟とは違う。
アンドラゴラスの大きな根っこが剛剣なら、オスロエスは程々の大きさの根っこだが、毒の香を秘めた刃だった。
「そうだ……良い声だ。もっと啼け。王の女なら、それくらい見せてみろ」
指が、舌が、まるでひとつの楽器のように彼女を奏でていく。蕩けた蜜は音を立てて掻き回され、爪先から痙攣が走った。
「……入れるぞ」
腰に手を回されたかと思うと、次の瞬間、熱い根っこが一気に根元まで突き立てられた。
「あぁ──ッ!!」
押し広げられ、打ち込まれる。奥を叩かれ、逃げ場もなく女は王に貫かれた。
最初の一撃で、腰が抜けるほどに突かれた。それでも男は止まらない。
腰を打ちつけ、脇腹に指を食い込ませ、口づけと共に息を奪う。
「王の女は、こうして……王の膝の上で、泣き喚いて、悦ぶんだ」
「ん、んぅ、く、くる……っ、あ、だめ……!」
何度も絶頂が押し寄せ、タハミーネは身体を捩らせながらも、男にすがるようにしがみついていた。
汗が、蜜が、理性すらも全てを剥ぎ取り、ただ王に刻み込まれていく夜。
──アンドラゴラスではない、オスロエスのものとして。
王は、征服した。女の心をではない。まずは、身体を。
館に戻ったアンドラゴラスは、沈黙の帳に包まれた部屋の空気を、踏み込んだ一歩で裂いた。
──いる。あの女の匂いが、確かに残っている。
懐かしさではない。甘やかな肉の香ではない。明確に、男の汗と、交わりの残り香だ。
広げられた寝衣。胸元に刻まれた赤い痕。艶やかに乱れた髪。どれを取っても、手をつけられた証だった。
唇が笑った。だがその笑みは、憤怒の仮面に隠された殺意だった。
「……誰に抱かれた?」
絞り出すような声に、タハミーネの肩が震える。膝を折り、目を逸らしながらも、彼女は声を絞り出した。
「──陛下に……」
瞬間、空気が裂けた。
アンドラゴラスが壁を殴り、巨岩のような拳が漆喰を砕く。その音に驚いた侍女たちが外へ飛び出していく。
「兄上が、俺の女に──ッ! 人として……それでも王かッ!」
怒声は雷鳴のように響いた。寝具を薙ぎ払い、椅子を蹴り飛ばし、アンドラゴラスはそのまま王の間へと踊り込んでいった。
「──兄上ッッ!!」
オスロエスは玉座に腰を下ろし、葡萄酒の盃を手にしたまま、笑って迎えた。
「ずいぶんと物騒な顔だな。お前が奪った戦利品に、俺が興味を示しただけだ」
「戦利品……だと……?」
「女など肉だ。喰いたければ喰えばいい。お前のものだと思ったのか?」
その言葉が終わる前に、アンドラゴラスは玉座の階段を踏み越え、オスロエスの胸倉を掴み上げた。
「お前は……腐っている……!」
だが王は揺るがぬ。その眼差しは激情に囚われた弟を見下ろし、まるで手なずける猛獣にでも接するようだった。
「ならば俺を超えてみろ。……王弟よ」
アンドラゴラスは拳を振り上げ──だが次の瞬間、背後に控えていた近衛たちが一斉に剣を抜いた。
王の間に緊張が張り詰める。
「……覚えておけ。俺はお前を赦さぬ」
憤怒を噛み殺し拳を下ろしたアンドラゴラスは、ゆっくりと背を向けた。
だがその眼は、既に氷のような決意に満ちていた。
──この王は、必ず自らの手で倒す。
奪われた女。踏みにじられた誇り。燃えるような憎悪はやがて国を割る火種となる。
それが覇王の咆哮の、はじまりであった。
王宮の一隅、玉座から最も遠い場所にひっそりと建てられた離れがある。
それは王の「香の館」──寵愛を受けた女たちが、秘密裡に囲われる後宮の奥にして、公式な記録には残らぬ影の女たちの部屋であった。
その夜、タハミーネは静かに香を焚く寝台の上にいた。絹の薄衣をまとい、赤く腫れた双の乳房を晒しながら、襟元を掻き寄せる手にはわずかに震えが残る。
「……また、あのお方がいらっしゃるのですね?」
控えていた女官が低く頭を垂れる。
「はい。王命により、今宵も調香の儀が……」
調香──それは、女を香として焚き上げる夜のこと。つまりは、王が再びこの身体を試すという意味だった。
──身体だけのことならば、もうとうに馴れたはずなのに。
扉の向こうから、ふわりと甘い酒の香が流れ込む。
「……入るぞ」
低く、凍てつくような声音が、静寂を切り裂いた。
オスロエスは衣を脱ぐことすらせず、外套のまま歩み寄り、女の上に影を落とす。
「今宵も……王弟の女が、俺の香を吸う番だ」
ひたりと指が肌に落ちた。
すでに馴染んだ熱に、身体は無意識に反応する。腰が揺れる、喉が鳴る、脚が閉じきれずに軋む。
「ん……ぅ……あ、あぁ……」
浅く触れられただけで、火照るようになってしまった。
王に抱かれる日々は、肉体を壊すどころか、逆に作り変えていた。
「ここの締まりは、弟より俺に馴染んできたな」
羞恥に目を伏せたくとも、王は許さない。頬を掴み、唇を強く吸い上げ、舌をねじ込み、舌の裏まで弄びながら愛撫を重ねる。
「……兄と弟、どちらが深く、濃く、お前を抱いたか。身体で答えてみろ」
「そんな……お答え、できませ……ぅ、んあっ!」
突き上げるような一閃に、身体が跳ねる。
深く──深く抉るように入ってきた熱。ああ、また、堕とされる。
「言葉では拒んでも……お前の中は、俺の形を、もう知っている」
「ひぁ……あぁっ、そんな、ことっ……!」
腰を掴まれ、揺らされる。
突き上げと共に乳首を吸われ、蜜壺を抉られ、彼女は声を上げながら夜に沈んでゆく。
涙と蜜の混ざる音。指の間から滴る熱。
そして、確かな屈服の痕。
その夜もまた、女は玉座に屈した。
王弟アンドラゴラスの不興は、やがて王宮の水脈を濁らせはじめた。
粛清。それは表向きには政の整理、実態は王弟派に連なる者たちへの静かな追放だった。
文官は地方に飛ばされ、兵の将は交代させられ、残された者は王の顔色をうかがうしかなかった。
──玉座に牙を剥いた報い。その正義は王が握っている。
そして、動乱のなかでも女たちは静かに流れに呑まれてゆく。
そのひとりが、ナスリーン──元は交易都市シャムサールの女官出身で、タハミーネ付きの侍女として仕えていたが、今はアンドラゴラスの館に身を置いていた。
「……殿下は、お戻りになられますか」
ナスリーンは香を焚きながら、遠くを見つめていた。薄紗の衣の下、豊かな胸の谷間には汗が光り、艶やかな黒髪がうなじにまとわりついている。
その姿を見下ろしていたのは──アルスラーン、若き王太子だった。
「殿下、お身体が冷えてしまいます。……湯を、」
「いや、いい。もう少し、君と話していたい」
ナスリーンは静かに頭を垂れた。だがその瞳は、鋭く、燃えるように光を湛えている。
──これは、試み。
王弟の館に身を寄せながら、彼女は王太子に接近する機を窺っていた。
「父君のこと……お辛いのでしょう?」
その問いかけに、アルスラーンは表情を変えず、ただ小さく頷いた。
「……父は偉大だ。だが王である前に人だとも思っている」
ナスリーンは膝を寄せる。そっと裾を捲り、指先でアルスラーンの膝を撫でた。
「殿下も……男でございます。誰かに、触れられたくなる夜も──あるのでは?」
くすぶるような囁きが、耳朶を焦がした。
「……ナスリーン?」
「私は、殿下に忠を尽くしたいと、心から……そう、思っております」
そして──指先は、彼の手に重なった。
その手を胸元へと導く。柔らかな膨らみを包ませるように。
「この身のすべてを捧げて……殿下の痛みを癒やしたい」
熱が、ゆっくりと満ちていく。
アルスラーンは何も言わず、ただその胸に触れたまま目を閉じた。
まだ、それは交わりではない。
だが確かに、王太子と女の夜が──始まりかけていた。
夜の帳が下り蝋燭の灯が揺れる部屋に、二つの影が静かに寄り添っていた。
アルスラーンは、柔らかな布団の端に座りながら目の前の女の温もりに戸惑っていた。
胸元を解かれたナスリーンは、細い指先で彼の手を握り、そのまま自らの肌へと導く。
「大丈夫。私は……怖くありませんから」
囁きは、決して強引ではなかった。
だがその言葉に含まれるものは、年若い王太子を誘うには、あまりにも熟れていた。
手のひらに包まれる豊かな乳房。熱い蕾が彼の指に硬くなり、ナスリーンは小さく肩を震わせる。
「ん……そこ……好き、なんです」
アルスラーンは息を呑んだ。
その小さな反応に、どれほどの意味があるのかすら、彼にはまだ分からない。
「触れて……いいんですね……?」
「ええ……全部、教えて差し上げます。殿下が望まれるままに」
ナスリーンの唇が彼の唇に重なり、そっと舌を押し入れてくる。初めての味。濡れた音。
指先が彼の衣を解き、さらりと裸身がさらけ出された。
「……あなたの、熱いですね。ふふ、男の方は、そういうものですか?」
恥ずかしそうに俯きながら、ナスリーンは膝を開き、ゆっくりと彼の手を自分の脚のあいだへと導いていく。
「ここ……触れて。あなたの指で、私を知ってください」
指先が、柔らかな蜜壺の裂け目をなぞった瞬間──ナスリーンの身体が跳ねる。
「や……あ、あぁ、そう……っ、上手、です……」
膝の裏を掴まれ、腰が揺れる。蜜が溢れ、彼の指を濡らす。
「大丈夫……入れて。殿下のが、ほしい……っ」
ナスリーンは自ら足を開き、震える声で告げた。
アルスラーンは唇を噛み、ゆっくりと彼女の中へ、己のポークビッツを沈めていく。
ぬるり、と包まれる感覚。狭くて、熱くて、やわらかくて──それでも受け入れてくれる。
「ああ……あなたのが、私の中で……ふ、ううん……っ」
ナスリーンは何度も彼の名を呼び、腕にしがみつきながら揺れた。
「アルスラーン様……嬉しい、嬉しいです。わたし……」
王太子としての矜持も、未熟な羞恥も、ナスリーンの甘く湿った言葉に溶かされていく。
ただ彼女が笑ってくれるのなら──自分は何度でもこの身体に溺れていいと思った。
夜はやさしく、淫らにふけていく。
そしてその裏側で女の瞳には、ほんの一瞬、計算の影が揺れていた。
──けれどそれはたしかに、やさしい嘘だった。
タハミーネが再び「香の館」に呼び出されたのは、月が中天を過ぎた深夜のことだった。
白磁の肌を浮かび上がらせる絹の装束を身にまとい、燻るような沈香がその体温に絡みついている。
部屋には王の姿はなかった。代わりに並んでいたのは──三人の若き貴族の男たち。
「……どういう、ことですか」
王命だ、と一言だけ伝えられ、タハミーネは裳を乱された。
「恐れ多いことながら……王命とあらば、逆らうこと叶いません」
一人がそう呟きながら、タハミーネの髪を解き、もう一人が頬を撫でる。
王はすでに「愛妾」としての役目を終えたと見做し、今宵は王弟派の処罰として、彼女の身体を複数の男たちに与えたのだった。
その命が意味するのは、政治的な見せしめだった。
「……お一人ずつ。礼をもって──お済ませくださいませ」
震えを押し殺しながら、タハミーネは自ら裾を落とした。
濡れた視線と形だけの微笑。それは女の矜持の最後の輝きだった。
男たちは静かに交代しながら、彼女の指を、唇を、腿を、そして──最後には、花びらを貪った。
「ん、ふ……あ、う……っ……ああ……」
押し殺した声、汗に濡れた髪。
背を反らされ、脚を開かされ、繰り返し咥えさせられ、注がれ──濁った液体は乳房を伝い、臍のくぼみに沈んだ。
彼女がそのすべてを終え、身を起こしたとき──部屋の入口にはひとりの男が佇んでいた。
──アンドラゴラス。
「……ああ。見られたか」
タハミーネはうつむく。だが王弟はその顔を掴み、ゆっくりと唇を重ねた。
「汚れてなどいない。……お前は俺の女だ。何があってもそれは変わらん」
「……アンドラゴラス様……」
涙が伝い落ちた頬に、熱い掌が触れる。
「俺は明朝より遠征へ出る。……その前に、こうして触れておきたかった」
ただの慰めではなかった。
彼の言葉は、すべてを背負った男の別れだった。
もう二度と、この指で触れられぬかもしれない。
そう覚悟してなお、彼は女の腰を抱き寄せた。
交わりはなかった。ただ唇と額を寄せ合い、互いの体温を記憶に焼きつけるように──。
──夜は、またも静かに明けていった。
暁の鐘が鳴るより前、王城の中庭には既に処刑の壇が組まれていた。
重い空気が漂い、沈香の香が焚かれていたのは、血の臭いを紛らわすためである。
空には雲ひとつなく、それがまた、冷酷な審判を映し出す舞台としての空白を際立たせていた。
壇上に引き出されたのは、かつてアンドラゴラスに仕えた三人の義弟たち──剛直な衛士長、若き書記官、そして軍律の補佐役。
彼らは決して罪を犯したわけではない。ただ「王弟の腹心」であった、それだけで死が命じられた。
中庭の高座では、オスロエスが琥珀色の葡萄酒を片手にその光景を見下ろしていた。
「粛清とは時に必要なものだ。血は、王統の錆を落とす」
その言葉に頷いた者は誰一人いない。
王弟は戦地にあり、もはや止める者はいない。
王太子アルスラーンは黙して立ち、目を伏せたまま拳を握っていた。
──まだ、今は動けない。
だが、この記憶は、生涯忘れることはないだろう。
そして──香の館の奥。
タハミーネは天幕の隙間から、その光景を見つめていた。
「……死なせるべきでは、ありませんでした」
声に出しても誰の耳にも届かぬ。
けれどその手は、まだ夜の名残を帯びたまま、胸元をぎゅっと握り締めていた。
──わたしを抱いたその夜、彼らはひとりずつ、私に別れを告げた。
ひとりは、手の甲に口づけを。ひとりは、髪を梳きながら。
そして最後のひとりは、咥えたまま、涙を流していた。
「せめて、覚えていてほしい……僕たちが、どれほどあなたを想っていたか」
その囁きが処刑太鼓の音と共に遠ざかっていく。
──首が跳ねた。
赤い飛沫が、朝日に混ざった。
香の館に戻ったタハミーネは、天幕の中でひとり、誰のものでもない匂いに抱かれて、身を横たえた。
股間からこぼれ落ちた精の感触と、耳の奥に残る嗚咽の声。
それは夜の営みではなく──別れの奉仕だった。
王は王弟の女を穢すことで、忠臣たちの尊厳すらも玩具にしたのだ。
涙は流れない。
もう、泣いてはいけない。
泣く女は、王の好みではないから。
──私は、まだ生かされている。
それがこの国の王宮で、女に与えられた唯一の真実だった。
ルシタニアとの開戦が目前に迫るなか、王都エクバターナは一時の静けさに包まれていた。
だがその静けさは決して平穏ではなかった。血が洗い流されただけの虚構の安息──その中で、若き王太子アルスラーンは密やかに、ある女の胸元に顔を埋めていた。
「……殿下、そんなに強く抱かれては……っ、息が……」
彼の腕に包まれているのは、例の侍女──ナスリーン。
いまや彼女は誰も知らぬ私的な寝所を与えられ、夜ごと王太子に肌を寄せていた。
「ナスリーン……こうしていると、戦や血の匂いを忘れられる」
呟く声は少年のそれでありながら、女の身体を包む腕には、確かに男の熱が宿っていた。
「ならば……どうぞ、忘れてください。今だけは、私を……女として抱いて」
ナスリーンは仰向けのまま裾をゆるりとほどき、白い腿を晒した。
アルスラーンの指が、慎重に、そして確信を持ってそのなかへ滑り込んでいく。
「は……ぁ、ん……優しいですね……」
濡れた花びらを、唇で啄ばむように愛撫しながら、彼はまだ拙い動きのままナスリーンの身体を咲かせていく。
「……ナスリーン、好きだ」
その言葉に、ナスリーンは小さく目を伏せた。
──任務を忘れるな。そう心で繰り返しながら、それでも彼女の太腿は自ら男の腰を受け入れていた。
ゆっくりと、彼のポークビッツが沈んでいく。
膣壁がきゅっと収縮し、ナスリーンの口から甘い喘ぎがこぼれる。
「んっ、ん、あぁ……奥まで、きて……っ」
アルスラーンは初めて、女の中で腰を動かす。
熱く、濡れて、吸い寄せられる蜜壺に導かれながら、徐々に男の律動を覚えていく。
「ナスリーン……君を、誰にも渡したくない」
「……ええ、殿下だけのもの。わたしは、殿下の……蜜壺です」
ぬちゅ、ぬちゅ、と淫靡な水音。
指を絡め合いながら、蜜に溺れるふたりの影は、誰にも知られることのない王と女の誓いを肌で交わしていた。
だが──その館の軒下には、風に乗って忍び寄る気配があった。
香を纏い、かつて王弟の女だった一人の女が、静かに扉の前に立っていた。
──タハミーネ。
その瞳には、快楽の余韻に身を任せる王太子の声と蜜の香を纏う女の吐息が、確かに映っていた。
「おいたわしや、殿下……」
月が高く昇るころ、香の館の裏庭にて──ふたつの影が静かに対面していた。
一人は透けるような白装束を身にまといながらも、凛とした気配を纏う女。
もう一人は長衣に身を包み、伏し目がちに佇む黒髪の侍女。
タハミーネとナスリーン。
かつて王弟に愛され、王に蹂躙された女と、いま王太子の傍で蜜に濡れる女。
「初めましてでは、ございませんね」
ナスリーンが、低く微笑む。
その声音には礼節があったが、わずかに滲む自負が隠しきれていない。
「ええ。香の帳の奥、貴女の声は何度も、壁越しに届いておりました」
タハミーネもまた微笑で返した。静かだが、張り詰めた絹のような緊張が、互いのまなざしに絡みつく。
「殿下は……お優しい方です。あの方の純真は、貴女のような……焔に焼かれた女には、重すぎるのではなくて?」
「──その“純真”を、舌と腰で穢しているのは誰かしら?」
ぴたり、と風が止まった。
沈香の香がすっと流れ、二人の距離が一歩だけ縮まる。
「私は、殿下に癒しを与えています」
「私は、殿下に傷を教えました。癒しは甘美だが──傷は血の味を知る」
互いの唇が、吐息が、指先が、まるで見えぬ剣を抜き交わしていた。
「……いずれ、殿下が選ばれることでしょう。誰の香を、寝具に残すのかを」
ナスリーンは深く一礼し、夜闇へと消えた。
タハミーネは残された香の余韻の中、掌を見つめていた。
──その指が、王弟に重ねられ、王に貫かれ、──そしていま、王太子のものに触れられる日を夢想したのは、決して年上の女としての欲ではなかった。
それは王に敗れ、王弟に捨てられ、なお生き延びた女の矜持だった。
「……私もまた王の傍にいた女。忘れないで、殿下──」
王宮の東翼にある書庫──静寂を愛する若き王太子アルスラーンの、密やかな休息の場であった。
幾千の巻物と、整然と並ぶ銅版の書架。
昼下がりの光が薄く差し込むその一角に、いま彼はひとりではなかった。
「……ここで、ですか?」
控えめに囁いたのはナスリーン。
背には書棚、前には王太子。やや乱れた文官装束のまま、彼女はまるで捕らわれた書の一節のように、彼の指に綴られていた。
「人目を気にして隠れるより、誰にも見せられぬものを君が持っていると知ってほしい」
アルスラーンの声音は、かつての少年のそれではなかった。
熱を含み、決意を孕み、女を選び取った男のものだった。
裾を掻き上げられたナスリーンの太腿には、すでに彼の掌の熱が広がっている。
指先が割れ目を撫で、舌が乳房を吸う。
ナスリーンは抗う素振りもせず、ただ静かに喘ぎを重ねた。
「……今日の殿下は、いつもより……」
「タハミーネと会っただろう?」
ぴたり、と女の呼吸が止まる。
だが王太子はそのまま、蜜壺に指を沈めた。
「彼女は、僕に傷を教えると言った。ならば、君は……癒しではなく、なんだ?」
ぬちゅ……ぬちゅ……と濡れた音が書架の隙間に反響する。
「わ、私は……殿下に、愛されたい……っ。癒すだけじゃなく……私も、殿下の熱に、焦がれていたい……っ!」
アルスラーンはそのまま彼女を抱き上げ、膝の上に座らせる。
蜜に濡れきった膣口が、彼のポークビッツをゆっくりと咥え込んでいく。
「あ、あぁぁ……また……っ、こんなに……入って、っ、ふっ……!」
座位で重なり、ぬちゃぬちゃと奥を穿たれながら、ナスリーンは彼の首にしがみつく。
「君がほしい。……他の誰のものにも、ならないで」
「ええ……殿下だけの、蜜壺……ですから……っ」
王太子の律動は次第に深くなり、重なる蜜音と共に、快楽と愛情と独占が、ふたりの身体に刻み込まれていった。
──けれどそのとき、書架の影にふと、誰かの気配が過ったことに、ふたりは気づかなかった。
その視線は、甘く絡み合う二人の影を、静かに見つめていた。
香の館──それは王に抱かれた女たちが、夜毎に衣を脱ぎ、命じられれば乳を、唇を、蜜壺を差し出す場。
だが今宵のその帳には、香だけが揺れていた。
女はひとり。肌を晒すでもなく、膝を抱えて座っていた。
タハミーネ。かつてバダフシャーン公の妃、のち王弟の女、そして王に蹂躙され、今なお存在を許されている女。
彼女は静かに香を手に取り、炭に乗せた。
紫煙がゆるやかに昇り、夜を包む。記憶が、熱と共に甦る。
──あの夜、初めてアンドラゴラスに剥がされた衣。
──あの夜、玉座の上でオスロエスに啼かされた声。
──そして今宵、王太子の腰に跨る侍女の喘ぎ──。
「……わたくしは王に抱かれました。弟に貫かれました。幾人もの忠臣に泣きながら舌を這われました」
呟きは誰にも届かない。
それでもタハミーネは膝を開く。誰もいない帳の中、指先で、自らの花びらに触れた。
ぬち……と蜜の感触が蘇る。
抗えなかった。受け入れることしかできなかった。
けれど──それでも。
「私は……まだ、愛されたい」
愛された記憶ではなく、誰かの心に咲くいまを欲していた。
「もし……あの方が、私を女として見てくださるのなら」
タハミーネは自らの指で花芯を割り、蜜を掬い上げた。
「この身を、ふたたび王に捧げてもいい。──たとえそれが、父と子を繋ぐ禁じられた快楽でも」
王太子アルスラーン。その名を胸に刻んだとき、彼女は初めて自らの身体を慰める指に、快楽とは違う涙を落とした。
香が燃える。蜜が滴る。
誰にも見られぬひとりの夜。
それでも、女は愛される覚悟を、身を震わせながら灯したのだった。
静寂の帳に、くぐもった水音が微かに響いていた。
それは衣擦れでも、涙でもない。女がひとり、己の指で蜜を掬い、熱に溺れようとしている音。
タハミーネは膝を割り、白絹の中で自らの割れ目を撫でていた。
「はぁ……ん……こんな、指先だけで……」
それは慰めではなく、記憶を呼び起こす儀式だった。
──アンドラゴラスに押し倒され、太腿を割られた夜。
──オスロエスの膝上で、舌を絡められながら蜜壺を貫かれた朝。
──そして、忠臣たちが涙ながらに唇で啜っていった別離の夜伽。
「忘れたいのに……奥が、疼く……あの熱を、知ってしまったから……」
第二関節まで沈ませた指を、ゆっくりと引き抜く。指の腹が膣壁を擦るたび、腰が跳ね、蜜が溢れる。
「はっ……んぅ、あ、ああっ……!」
もう片方の手が乳房を揉む。乳首を摘まんで捻れば快楽の回路が開き、花芯がより敏感に震えた。
「誰か、来て……いえ……誰にも見られたくない……でも……っ」
矛盾する欲望。女であることを証明されたい。でも誰にも奪わせたくない。
その先に思い描くのは──アルスラーンの指。彼の唇。
まだ一度も触れられていないはずなのに、想像だけで濡れるほどに、心が熱を帯びている。
「殿下……殿下……」
名を喘ぎながら、膝を開いたまま、二本目の指を奥へ差し入れる。
「ふぁ……あぁっ、ああ……もう、だめ……っ」
蜜壺の奥が収縮し、腰が浮く。
背筋を反らせ、喉を震わせながら、女はひとり絶頂へと駆け抜けた。
ぶるぶると膝が震え、指先がじゅくじゅくと蜜に濡れたまま、彼女は静かに横たわる。
──愛されたい。今度こそ、貫かれたい。
心も、身体も、王のものとして。
香が燃え尽きる寸前、タハミーネは己の蜜の香とともに、その夜、女として生まれ変わる誓いを立てていた。