不死とは祝福ではなく、呪いであることを知る。
死ぬに死ねない生は、地獄に他ならないことを彼女は知っている。
「あんたは辛くないの……?」
「不死なんでしょ?」
「これからずっと、ずーっと生き続けるんだよね?」
女がずっと気になっていた事。
なぜ、あのような地獄を経験していながらも狂うことなく前を向いていられるのか。
「あ? 何で知ってんだ……確かに俺は不死のようなものらしいが……」
誰にも言っていないはずの秘密に、少し戸惑う。
しかし、すぐに女が不死人を忌避していないことに気づき、どうでもよくなった。
「……別に辛くはないな。いずれ人類は老いと死を克服するのさ」
男が話すのは、女からしてみれば荒唐無稽なもの。
「やり方が魔法か科学か、またはそれ以外かは知らんが」
「……はぁ?」
男は女が知らない世界を知っている。
違う物を、違う未来を見ている。
経験してきた物、知識の広さには隔絶した壁があった。
「それが一体いつになるかもわからねぇけど」
「人が星と星を行き交って、宙を自由に飛び回るくらいになる頃には克服できてんじゃねーの」
いま立っている地も空一面にある星の一つ、だなんて言って伝わるのかどうかもわからない。
今立っているこの大地は丸いのだと。
丸い大地は宙に無数に浮かんでいるのだと。
それらの説明を面倒くさがった男は、頭にハテナを浮かべる女を楽しそうに見ながら言う。
「まぁ、何千、もしかしたら何万って単位の年数が必要かもしれんけどな」
「……ちょっと。ちゃんとわかるように話してよ」
割と真剣に聞いてみたのに、馬鹿にされていると感じた彼女はやや不機嫌だった。
それを鼻で笑った男は、何かを確信しているかのように話した。
実際、ここにとばされる前、地球のアーコロジーでは企業が主導して生体強化の研究が進められ、一部人間の寿命が大幅に伸びていたのは事実であるし、宙の開拓すら既に一歩踏み出していたのだから。
「いつか人間が辿り着けると考えるなら、そこまで寂しくはない」
「待てばいいんだからな」
「……」
一人完結してしまった回答。最早、女にはわけがわからなかった。
唐突に女に振り返り、男は言った。
「それに……お前は俺といてくれるんだろう?」
「……っ」
ドキリ、とした。
それは女がずっと聞きたかった言葉で、まだ伝えていないはずの意思だったから。
「は、はぁ……仕方ないよね〜」
ヤレヤレ、仕方ないなぁといったやや上から目線に男は口元を緩ませる。
男がチラリと覗いた女の瞳には、男と同じ黒く燃える環が浮かんでいた。
男にとって、不死とは呪いだ。
だけど、孤独でないなら、少しだけ楽になれるかもしれない。
「それに不死の存在なんて、探してみれば実は結構いるかもしれねーしな」
いつになったら気付くかな、と小さく呟かれた声は、女には聞こえなかった。
□
夕日の赤い光が窓の隙間から差し込む。
冒険者ギルドへ寄った帰り、外は既に夕方になっていた。
耳を澄ませば、冒険者だろう男女が階下の酒場でざわめいている声が聞こえた。
男は革の胸当てに、質素だが丈夫そうな旅服。
対して、女は体を隠すように、黒のロ―ブで体を覆っていた。
「腹が減ったな……」
「……!」
「どっかに食いに行くか」
男は階下から漂ってくるいい匂いに鼻を鳴らし、女に問いかけた。
先程まで二人は竜王国からの帰還を伝えるため、冒険者ギルドに立ち寄ってきたばかりで、腹が減っているはずであった。
「……ギルドから戻ったばかりで、疲れたんじゃない?」
「あ? 別にそんなことないが……」
男はやや怪訝そうに返した。
確かに疲れてなどいない。その程度のことで疲れてしまうほど、軟な体のつくりをしていないのだ。
「それに、今から外に出るのもダルいし〜」
「そっちの方が本音じゃないのか……」
ヤレヤレ、と女がおちゃらけた様子で言い放った言葉に、呆れ混じりに返した。
「そうだ、わたしが酒場から何か貰ってきてあげるよ」
「お前が? 何か意外だな……」
意外と気遣いのできる女だったのかと男は感心してしまった。
普段の女の様子であれば、まずやらないであろう。
むしろ、わがままを言って、メシ持って来てよとブーたれるのがよく似合う女だと傍目から思っていたから。
「たまにはね〜?」
男に向けたのは柔らかい笑み。
「宿代も出してもらってるし。いいから、座って待ってなって」
「おう、ありがとよ」
案外金がないのを本当に気にしてたのかもしれないな、と快く送り出した男だった。
人気のない廊下。
女の背後には、今出て来た部屋の扉がある。
女の顔には、先程、男に見せたような柔らかい笑みなどではなく、頬を限界まで吊り上げたような下品で欲に濡れた笑みが浮かんでいた。
クレマンティーヌには企みがあった。
そして、思ったよりも大分早くチャンスが巡ってきたことにほくそ笑んでいたのである。
企て。
それは、言ってしまえば男の食事に薬を混ぜるというもの。
あぁ、胸が高鳴る、と女は意気揚々と階下の酒場に向かい、男に食わせる飯を頼んだ。
今の彼女には、周囲からかけられる男達の下衆な誘いなど、はなから耳に入っていない。
今はクズ共に構っている時間など一秒だって惜しいのだ。
しばらくして、出て来た盆を宿の人間から引っ手繰ると足早に部屋に戻る。
もちろん、薬を入れるのは忘れない。
この薬は痺れ薬と媚薬が合わさったものであり、王国の馬鹿貴族が裏で平民を拉致して奴隷に仕立てたり、調教を施す際に使用する強力な代物であった。
日中、男が冒険者ギルドで手続きしている最中、クレマンティーヌは後ろ暗い行いをしている娼館のバイヤーを脅して入手していたのだ。
奪えたのが、小さな一瓶だけなのが彼女は不満だったが。
余すことなく、男の好きなエールに注いだ。
「お待たせ〜」
「おう、待ってたぜ」
笑みを浮かべ女を迎え入れた男の様子に、女は背中がゾクゾクした。
「あ、私ちょっと用事思い出したから〜。好きに飲んで食べててよね!」
「用事? あぁ、わかった」
女は有りもしない用事があると言い、部屋から離れてタイミングを図ることにした。
□
女が部屋から離れて暫く。
男はすっかり夕飯を一人平らげ、ベッドにて休息を取っていたのだが、体の内側からこみ上げてくるモヤモヤに戸惑っていた。
(何故か異様に胸がムカムカする……)
下半身に違和感があり、男はいつの間にか勃起していたことに気づいた。
(なんでだ?)
一度、勃起していることを認識してしまうと、こみ上げてくるモヤモヤがムラムラしているのだと分かった。
今までにこんなことはあっただろうか、とただ我慢していると逆に苛立ちが募ってくる。
(なんだ? 時間がたてば治まるか……?)
静まれ俺の荒ぶる性欲! と、念じてみても、萎えてしまいそうな絵を頭に浮かべてみても一向に効果はない。
(クレマンティーヌが戻って来る前に、小便行くふりして一発ぬいてしまおうか……)
そう思い、ゴロゴロしていたベッドから立ち上がろうとした時、扉を開け入ってきた者がいる。
「くふふ……調子はどうかな〜?」
「……あ?」
ニヤニヤと笑みを浮かべるクレマンティ―ヌの様子に一瞬遅れて、体調が変化した理由、一服盛られたことを悟った。
「! てめぇ……何か盛りやがったな……!」
立ち上がり、女に掴みかかろうとするも足がもつれ膝と手をついてしまう。
「おいおい……どんな強力なの仕込んだんら……」
呂律が怪しくなるほど、男は体が痺れてきているのを自覚した。
不死人であり、強靭な肉体を持っているはずの男が立てないどころか、呂律すら怪しい。
一体どんな物を仕込んだのかと戦慄した。
「な〜んだ、最初からこうすれば良かったんじゃん」
そう、あっけらかんと話す女を尻目に、男は体重を支え切れずに床に突っ伏した。
女はよいしょっ、と息を入れて男を抱えると、ベッドへと仰向けに転がした。
「何も心配することないよ……?」
「ただ奉仕してあげるだけ」
感謝してよね、と呟く女の笑みは頬が吊り上がり、傍目にも綺麗とは言い難く、むしろ濁った目と相まって邪悪さを感じさせた。
女が纏っていた黒いローブを脱ぎ捨てる。
中から現れたのは赤い胸帯に、二の腕の半ばまで覆う手袋、片側に深いスリットの入った異国を思わせる紋様の描かれたスカート、ピッタリと肌に吸い付くような腿まであるロングブーツの姿。
深いスリットからは白い肌と黒いショーツがチラリと覗いている。
いわゆる、男が砂の魔術師シリーズと呼ぶ装備であった。
クレマンティーヌが死の淵から舞い戻った時、女の装備は半壊しており、彼女自身の血で酷い状態になっていた。
代わりにと、男が無言でこの装備を女に渡した時には、女のニヤニヤが止まらなかった。
こういうのが好きなのか、と。
女も女で、男を変態と罵倒しながら身に着けたが……
意外にも防御力が高く、動きやすいとわかった今、女はこの衣装を気に入っていた。
カチャカチャと、金具を外し、ゆっくりとズボンを下ろしてゆく。
その表情は嗜虐心と欲で満ちている。
「あらら……やる気マンマンじゃん」
自由の効かない体に反して、下半身の一部は塔のように一本屹立していた。
「あ―ヒドイ匂い。ばっちいわねぇ〜」
そう蔑むが、女は汚いとも思っていないように頬ずりし、手袋を脱ぎ捨てた後、男の一物を柔らかく握り込んた。
「う、ぐぐ……」
伝わってくる冷たい感触と快楽に、男は頭が沸騰しそうだった。
スルスルと冷たい白魚のような手を上下させ、溢れる先走りと口から垂らした唾液を混ぜ、クチュクチュと泡立ててゆく。
「気持ちいいでしょ。我慢しなくていいんだよ〜」
そう声をかけられた男の顔は必死に我慢しているのか真っ赤になり、額には血管が浮かんでいる。
唇を噛んで、一物を凝視する女。
女は決心したように大きく口を開き屹立した肉棒を口腔へと収めてゆく。
ペコリと頬をヘコませ、全体が密着するようにし、舌で筋を撫でるように扱く。
「ゔ、う……」
男が呻いたのを聞き、ニンマリ、と三日月のように目を細めた笑みを浮かべる。
男が自身の口で悦んでくれていたのがわかり、とても嬉しかった。
幸福感に混じり溶けた、僅かな嗜虐心。
男の目を見て、亀頭にわざと歯を僅かにたてた。
ビクッ! と男の腰が震えた。
「我慢しないで、出しなって。……出せよ」
呻き、再び一物を咥え込み、男の様子を伺いながら責め立てていった。
ビクビクと腰が引け、自由でないはずの体が快楽に負け、反応する。
「ゔ、ぐぅっ……」
苦しむような呻きをあげて、女の口腔内へとビュルルルッ! と、尋常ではない量の精を放った。
ごほっ、ごほっ、と咳き込む女。
女の口から細かい白い精子が飛び散り、ベッドに散らばった。
咽たのが治まると、女は口に残った精を舌で集め、ゴクリと呑み込んだ。
「うえ、マズっ……」
苦く、生臭い。
喉にへばりつくように絡みながら、胃へと流れ落ちてゆくのを想像した。
男の精が私の一部になっている、と考えると喜悦を抑えきれなかった。
男の精を収めた腹を愛しげに撫でると……
「あ―……ホント、ヒドイ匂い」
男を蔑み、熱い情欲の宿った冷たい目をむける。
手にも、口元にも、淫靡な白くベタつく何かがついていた。
「……でも、嫌いじゃないよ……?」
クレマンティーヌは愛おしげに未だ萎えない一物の亀頭にチュッ、とキスを降らせた。
胸帯を外し、続けて、スカート、ロングブーツと順に脱ぎ捨ててゆくと、黒い上下の下着、黒のニーソックス姿になる。
男にはある意味、馴染み深い格好かもしれない。
肌面積の多いその姿を見て、男の一物が一層硬直する。
女豹のように男に跨がると、女は男の服を焦らすように脱がせてゆく。
胸当ては、既に外してあったようで、ボタンのついたシャツ、肌着──と男の羞恥心を煽るように剥いていった。
一通り剥き終わり、裸の男。
女は豊満な胸を胸板で押し潰し、男の唇を吸った。
チウ、チウと小さな音が聞こえた。
肌に感じる男の体温は高く、股ぐらに当たる棒から感じる熱に女は興奮した。
女は男の上に寝そべり、自身の秘所へと押し付けるように、手で棒を撫でた。
サワサワ、と手で優しく触れてみれば、蜜を滲ませシミを作ったショーツにグリグリと押し当ててみたりする。
男が呻く。
一方の女に浮かぶ笑みは小悪魔のよう。
「ねぇ、入れたい?」
男の熱の籠もった視線に問いかけるも──
「ダーメ」
自らその期待を裏切った。
荒い息をつき、欲望に満ちた赤ら、ニヤケ顔。
ドキドキで胸がはち切れそうなのを隠し、女は男の顔の上に立ち、ゆっくりと腰を降ろす。
ムッチリとした桃が、男の顔を包み込む。
ショ―ツからはクラクラと理性を引き千切られるような女の匂い。
もしも男の体が自由であったのなら、今すぐに押し倒して、精が尽き果てるまで犯し抜いたことだろう。
「う、ぅ……」
熱い吐息を感じ、女は羞恥を感じた。
「ちょっとやり過ぎたかも……」
と、言いつも腰を退かせることはない。
クニクニと腰を軽く揺すり、男の顔を柔らかい尻でローラーするように押し付けた。
ますます息が荒くなった気がして、女は内心ホッとした。
チラリ、と目に止まったのは脱力した男の四肢の内、一際存在感を示すモノ。
「また気持ちよくしてあげるから……」
すると、女は男の顔に跨ったまま肉棒を口でイジり始めた。
重力で垂れ下がった金糸のような髪を掻き上げ、耳へとかける。
ふぅ、ふぅと女の熱い吐息と怒張から発している熱が溶け合うように混ざり合っていった。
女は屹立した肉棒を慈しむように、キスの雨を降らせ、先程の射精の汚れを丁寧に舐め取った。
白魚のような手は、我慢汁を亀頭に馴染ませ、カリ首に沿って一周させるように動く。
一通り、肉棒を舌で綺麗に掃除した後、薄く口を開いて亀頭からゆっくりと、ゆっくりと呑み込んでゆく。
「ん、むっ……」
男の一物は大きく、全てが口内に収まることはない。
しかし、女は少しでも多く、とばかりに押し込んでいった。
苦しい……
口いっぱいに肉棒を頬張っていると、何故か最初に無理矢理レイプされた時のことを思い出した。
口いっぱいに頬張って、犯されている気分にでもなったのだろうか。
ふと、そんなことを考えるも、女の胸の内にある黒い情念がチロリと燻る。
溺れたい。
無茶苦茶にしたいし、されたい。
荒れ狂う波で、身体がバラバラになるような。
精神が千々に乱れるような。
いつかの精神が可笑しくなってしまいそうなセックスを思い出し、ジワリ、とショーツのシミの面積が増えた。
昂ぶり、女はそんな気持ちをぶつけるように激しく扱いた。
それだけでも、女の気分は天にも登るように、幸せであった。
今はただ、無抵抗な男を好きに嬲るのに夢中で、燻り続ける無意識に幸福感の布を被せて。
故に、夢中で肉棒を愛でた。
「ヤバ……ハマりそう……」
新たに玉袋にも手をのばして、優しく揉んだり、キスしたり、咥えてみたりした。
尻の方には……男が本気で怒りそうだったので止めた。
媚薬を飲ませられ、感度の増した身体で耐え続けたのは凄まじい精神力だった。
しかし、それでも快楽の波にはなかなか逆らえず、ビューッ、と勢い良く精を吐き出してしまうのだった。
「ん、んっ……!」
口腔内にドロドロと粘性の高い液体が注ぎ込まれてゆく。
「あー」
それを、舌の上で転がす。
口で息を吸い、鼻から吐けば、生臭い匂い。
ゆっくりと嚥下してゆけば、タンのように喉に絡み、食道の壁面にへばり付きながら垂れ落ちていっていることだろう。
「まだ残ってるよね?」
女は再び亀頭に口づけすると、チュ〜っ、と中に残っていた精子を絞り尽くした。
その感覚に男は得も言われぬ心地よさと、僅かな体の強張り、魂さえも吸われてゆくように感じた。
堕落してしまいそうなくらいに。
「私ってば結構、尽くす女ってかんじじゃない?」
女の甘い香りと精液の匂いが混じり合った息で話す。
普通、好いた男がいたとしてもここまでしてやるだろうか。
口につけるのでさえ、嫌がる女は多いのに、と思う。
「く、ふふっ……ねぇ、どんな気持ち?」
男の目を見つめ、頬まで笑みを吊り上げて問う。
今、男は女の支配下にあった。
「自分より弱い女に犯されるのって」
本来であれば、男の方が女よりも何倍ではきかないくらいに強いはずだった。
強者であるはずの男が、弱者である女のなすがままになり犯されているなど、屈辱を感じずにいられるだろうか。
それとも、このまま快楽に敗北し、与えられる刺激に流されてしまうのか。
女としてはどちらでも良かったが……
「このまま私が飼ってあげても全然いいよ……」
耳元で囁かれたのは、とても優しい声だった。
男がもしも堕落を望むなら、そんな未来もあるだろう。
そして、二人で淫滔の日々に耽るのだ。
「あぁ……もう無理」
ブルリ、と背中が震えた。
幸福な未来の妄想に、興奮が抑えられない。
男の下腹部の上で膝立ちになり、握り締めた肉棒を、ショーツがずらされ露わになった割れ目へと導く。
「っ!」
男を見つめ、荒い吐息。
ゆっくりと女の体内へと、男根が収められていった。
男根は熱く、まるで赤熱した鉄の棒を突っ込んでいるようだった。
しかし、男女の間にあるのは苦しみなどではなく、互いの熱を共有し、溶け合ってゆくどうしようもないほどの心地良さ。
男の熱にうなされような吐息に、女は胸が苦しくなり、キュッと抱き締めるように、男根を締め付けた。
「ぁ、ぅ…… 」
女が我慢出来ぬまま気をやってしまい、背が小さく震えた。
「……ねぇ、好きって言って?」
男に密着し、顔を見ながら腰を前後に揺らし始める。
だが、男は動けない。
「言えよ……」
不機嫌な様子で、女は無理矢理に手で『ス』『キ』の口の形を作った。
「あはっ……私もすき……」
口づけた。
離れた二人の間には透明な糸の橋がかかっており、女の目尻はトロリと垂れ下がっていた。
腰の揺れが大きくなってゆく。
「んっ、あ、はぁっ……」
接合部からはクチクチ、と水気を帯びた粘着音が聞こえる。
「いいから、いつでもイッて」
ギシギシとベッドが軋む。
しかし、そんな耳障りな音も雰囲気を盛り上げるための効果音にしかならない。
「さっきね、アンタの弱点見つけちゃった」
イタズラを思いついた、とでも言うような表情をした。
「裏のトコと、全体をギュ〜ッてされることでしょ」
女は手淫での、男の僅かな反応を見逃さなかった。
戦闘者としての面目躍如か。観察眼に優れた彼女は、男はカリ首よりも裏スジに、先端部よりも根本の方を好むのを見抜いていた。
「あと……ワキが好きでしょ」
「……!」
ギュッと包み込んで、絞るように裏スジを撫で上げた。
ビクリと腰が震えた。
男は内心、驚愕していた。
当然、女に話した覚えなどない。
「かわった性癖だよね?」
ニヤニヤと追い詰めてゆく。
「変態」
男の力の入らない両手を掴み、豊満な胸に押し付けた。
男の目に浮かんでいるのは疑問。
「なんで分かったかって? だって、あんたがイク時って腕を上げさせたり、縛ったりするじゃん」
「見たがるし」
「そんだけ見てたらわかるよ」
だって女だから、と続けた。
「女ってそういう視線に敏感なの知らないの?」
そう話す女の目元は優しかった。
一方で、快楽を生み出す腰つきは止まらない。
「でも、いいよ……私があんたの全部を受け止めるから……」
男としては先程からドギマギさせられっぱなしであった。
自分でさえ把握していなかった弱点を、誰にも言っていない性癖を悟られた。
そして、男は気づいた。
女が意外と自分のことを見ていたことを。
「はぁ、はぁ……限界……? いいんだよ……」
男としては、やはり女のいいようにされているというのはやや屈辱でもあり、必死に耐えている所であった。
だが、それさえもお見通しらしい。
クレマンティーヌが腕をゆっくりと上げ、後頭部で両手で互いの肘を掴んで組んだ。
「こうしてると、何だかあんたに服従しちゃってるみたい……」
綺麗に手入れされ、ツルリとしたワキ。
ピンと伸ばされた背と緩やかな曲線を描く腰。
胸を張り、ツン、と上向きになった乳房。
男は以前に性欲の処理のために、娼婦を抱こうとも考えたが、一度試してからは止めていた。
そこらの商売女では、処理をしていないことがほとんどで、それを見てしまった男は萎えてしまい相当に気が滅入っていたのである。
欲望に駆られ、男は鼻息荒く、それを血走った目で凝視した。
「あ、はっ」
男の興奮が一気に進んだのがわかり、思わず笑みが溢れた。
「……っ」
「逃さないんだから」
興奮しすぎて、我慢が効かず射精が近くなったのを察知し、女は丁寧に、丁寧に男を攻めたてた。
剛直を、女の深くまで包み込み、下腹部に力を込めギュ〜ッと締め上げる。
締め上げたまま、裏スジで滑らせるように上下にスライドさせた。
男が呻く。
女がその苦しむような呻きを聞き、愛おしげに顔を見た。
「いいよ、いっぱい中に出して……」
射精が近いと予感し、一番深いところまで一物を包み込むと子宮口に亀頭がピッタリ吸い付く。
「あ、ぅ、っ……」
その感覚に女は敢え無く、絶頂を迎えた。
と、同時に……
ビュ―ッ! ビュッ、ビュッ
と、精嚢を絞るように、大量の精液が放出され、男も深い絶頂を味わった。
「ん、は、ああぁ、ぁ」
子宮に流れ込んでくる熱い精子。
一物が脈動する度に精が放たれ、女のハラは子種を呑み込んでいった。
互いの熱も、想いすら溶け合い、一つになっていくような快楽の心地良さよ。
身を包む幸福感の中、女は更に一段大きな絶頂に到達した。
「……! ……っ! ……ぁ、っ」
ビクリ、ビクリと背が跳ね、女の腰が快楽の波に合わせてカクッ、カクッと揺すられる。
繋がったまま姿勢を保てなくなり、男の厚い胸板の上に身を倒した。
ムニュリ、と大きな膨らみが形を変える。
繋がり合っている場所は、白く濁り、今もなお逞しい男根をキュウキュウと愛おしげに抱き締めていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
男が放精し荒い息となっているのを見た彼女は──紅潮したニヤケ顔のまま。
「かわいい……」
「もっと……」
「たくさん絞りとってあげるね……」
「私しか見えないようにしてあげるから……」
トロリ、と果てない色欲に濁った瞳。
ますます欲望を滾らせ、狂ったように男を求め続けた。
薬の効果は思いの他、強かった。
女が知識のないまま、一滴でよい所を一瓶まるごと使ったせいか。
効果がそれ以上に強まることなく長く続き、薬の副作用で心臓が止まってしまわなかったのは不幸中の幸いだっただろう。
それから……
責められた男が一度射精する度に、女も一緒に幸福感を伴う絶頂を迎えた。
女は今までの鬱憤、溜め込んだドス黒い感情のままに、全て消費しきるまで男を愛で、イキ、イカせ続けた。
あとに残ったのは、なんとなくゲッソリした男と、男の上で眠るとても満足そうな表情の女だった。
□
深夜。
静かな月のない夜。
部屋の中には照らす光もなく、ただ暗闇がある。
女の狂乱は収まり、心地良い疲れからか穏やかな寝息を立てていた。
寝ていた男の意識が不意に覚醒し、男の腕がピクリと動いた。
腕には大分感覚が戻っていた。
感覚の戻りの遅さを鑑みるに、後遺症が残る量の薬物を盛られたのではないかと男は考えていた。
この女にそのつもりがあったかどうかはわからないが……文句どころか、キツイお仕置きが必要なレベルである。
男は震える腕を伸ばし、広がる黒い波紋の中から『女神の祝福』と呼ばれる貴重な聖水を取り出すと、一気に呷った。
どこかの世界では太陽の娘グウィネヴィアが聖別したものとされる希少価値の高い代物である。
体力、気力、状態異常などを完全な状態に回復させる。
ありがた〜い、聖水である。
とはいえ、絞り取られた精が戻ってくるわけではない。
少し寝たことで休めたが、残弾は無理をして一発か二発といったところだ。
男の体から僅かに光が漏れ、体調が一気に回復する。
隣で眠る女を見た。
実に幸せそうな寝顔である。
その呑気な寝顔に男は少しイラッとし、受けた屈辱を10倍返ししてやろうと心に決めた。
横向きに寝る女の後ろから、男が胸と股に手を伸ばし愛撫する。
「ぁっ……うぅ、ん……」
よほど深く眠っていたのか、警戒心をなくすほどに心許していたのか。
「ん、なぁに……?」
胸と下腹部のこそばゆい感触に、徐々に覚醒してゆく。
「さっきはよくもやってくれたな」
女の背後から低い声が聞こえた。
「ぁ、あれ? 動けるようになったの?」
お陰さまでな、という声音には確かに怒気が混じっていた。
女は体を反転させて振り向こうとしたが、後ろから抱きつかれており出来なかった。
「お前……どんな薬使ったのか知らんが……俺じゃなきゃ死んでたぞ」
「そ、そうなの? でも、大丈夫だったんだから……」
男の怒気を感じてか、やや萎縮する女。
男は胸を愛撫し、精液と愛液が混じり白濁したままの秘所をくちゅくちゅと弄るのは止めない。
「ちょっ、あっ、あっ、あっ……」
胸の先端をクリクリと捏ねられ、膣には太い指がグイッと差し込まれた。
声が漏れる。
「さっきので……私がどんだけあんたを好きかわかったよね……?」
「ね、だから……許して……?」
女にはやや似合わない許しを乞う哀願。
「薬を盛ったとか、他の奴だったら死んでたとか、この際どうでもいい……」
「なら……」
「ただ、やり過ぎはよくねぇよな……!」
怒気に怯えを含みながらも、女の顔は再び発情して赤く、もたらされる感覚に早くも目はトロンと溶けて始めていた。
口元からは唾液が垂れたのか、透明な線が男には見えている。
「おいっ、反省してんのかっ」
「し、してるってばぁっ」
乳首を強めに抓った。
「い、いたっ」
顔を無理矢理に向けさせ口づけた。
痛みを訴える声はモゴモゴと消えていった。
愛撫の手が激しく動き、チャチャチャチャッと湿っぽい音が大きく鳴っている。
「……っ! ……っ! ……っ! う、ぁっ!」
もう一度、乳首を弱めに抓ると女がビクリと痙攣し、すぐに脱力した。
「お前はちょっとやり過ぎるきらいがある」
闇の中、男の声だけが響き、女は男の顔色を伺うことはできない。
「教育の時間だ」
荒い息をつき、余韻に浸る女にはそれが死の宣告にも、激しさを伴う愛の施しの始まりにも聞こえた。
片腕で女の膝裏を抱え、背後から万全の状態となった剛直をグッと挿し入れる。
一気に媚肉を掻き分けてゆき、根本まで包み込んだ。亀頭は最奥に位置する子宮口に直撃した。
「あっ、ぁぅぅ……」
半開きの口をパクパクと開き閉じ、唐突に訪れた強い快感に悶絶する。
男が動き出す。
「ま、待って、待って……」
動きを阻害するように手で男の腰を抑えようとするも、効果は薄い。
女の足を持つ手で茂みに隠れた豆を探し出し、優しく円を描くように愛撫した。
「あ、ぁっ! 一緒にしちゃだめぇっ」
「ぃ、っくぅ〜……」
乳首、陰核、膣の三点を同時に責められたことで、敢え無くビクビクと絶頂を迎え、女は白目を剥きかけ、背が弓なりにしなった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
脱力。
荒い息だけが暗闇に溶けてゆく。
剛直を亀頭の先端が膣口に着く位置まで引き、陰核を指でグリグリとしつこく嬲り続ける。
無理矢理に絶頂へと高められてゆく。
「ひっ、ひぃ……ちょっと、やすませ、てぇっ」
陰核を嬲られパンッと弾けるような絶頂と同時に、待ち構えていた肉棒を挿入した。
「お゛、おほぉ……」
絶頂で硬直した体に、割って入る大きな衝撃が更なる快楽を呼び込み、
一足飛びに絶頂が一段高められる。
グググッ……と、ともすれば千切られそうな力で剛直を絞め上げ、男は強烈な締め付けに呻く。
一方で、女の口からは腹の底から呻くような、獣の唸り声に似た喘ぎ声が出た。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
喉からはヒューヒューと掠れた音が混じり、肩で息をし、意識には霞がかかってきていた。
「あ……またぁ……?」
男は再び剛直を膣口まで引き、執拗に陰核を嬲り始めた。
「ひっ、ぐぅっ〜」
そして、陰核で小さな絶頂を迎えると同時に突き込み、子宮を大きく揺らすのだ。
「こえ、らめぇ、ぇ」
何度も。
「ひいぃ〜、あたまっ、ばかになるぅ〜」
何度も、何度も。
「し、ぬっ、じぬぅ〜」
何度も、何度も、何度も繰り返した。
それはまるでイキ癖を強制し調教するかのようでもあり、出来の悪いペットへの躾のように何度も繰り返された。
男の体温と、力強い手の感触と、剛直の形を教え込むために。
クレマンティーヌの体に、男という存在を刻み込んでいった。
「もぉ、やだぁ……」
ガクガクと体の芯から震え、治まる気配がない。
何度も繰り返され、実際に大きな絶頂を味わう度に意識が飛び、今も意識が朦朧としている女はうわ言のように呟く。
目尻からハラハラと涙が溢れる。
「なんで……ふつうに……ふつうに、してくれないの……」
「なんかむなしくなる……」
女は男の手を振り解き、一人丸くなってしまった。
「お、おい……これは一応、お仕置きなんだが?」
そうだ。
夢中で責め続けていたことで、既に男も忘れていたが、もともとは女のやり過ぎを諌めるための教育の一貫のつもりだった。
「やだ」
女は退行したかのように、幼げな口調で返す。
「いや、だから……」
困る、男。
「やだぁっ!」
「わ、悪かったよ……ちょっと、やり過ぎたよな」
暗闇でも昼のように行動できる男は、女の頬が濡れていたのを見てしまった。
涙を見てしまった男には、もうどうすることも出来なかった。
確かに、やり過ぎた。快楽は暴力にもなる。それを行った男では女の暴走を諌めるなどそもそも出来ないだろう。
「だから、こっち来いって……」
ベッドの端で丸くなっている女の腕を引っ張った。
「やさしくする……?」
ドンッ! と、心臓が一瞬大きく高鳴った。
上目遣いに、幼げな口調。
涙に濡れた目元。
男は自分でもよくわからない何かが胸に突き刺さったのを感じた。
女の上に覆いかぶさる。
女は暗闇で何も見えていないだろうが、男からは女の表情も丸見えであった。
蕩けた目元、疲れを滲ませた愛しげな微笑みを。
「やさしくする」
頬を涙で濡らし、普段の人を小馬鹿にしたような調子は成りを潜め、ただ男の愛を余すことなく受け入れようと待っている女がいた。
互いに息のかかる距離。
だんだんと距離は近づいてゆき、どちらからともなく口づけた。
舌と舌が絡み合い、互いに通じ合っていると思った。
二人の両手は女の顔の側でガッチリと繋がれており、傍目には女を無理矢理押さえつけているようにも見える。
普通にしてりゃ、真っ当な美人なんだけどなぁ──と男は整った顔立ちを見て思う。
ゆっくりと穴にあてがった剛直を押し進めてゆく。
ゆっくりと進めた先には子宮口があり、チュクリと、亀頭と優しいキスをした。
「ぁ……はぁはぁ……」
やわやわと包み込む媚肉。
荒々しいセックスでは感じられない、ホッとするような温もりを感じ合った。
女は自身の中にある、太く熱い存在感に胸がキュウと締め付けられると共に、安心感を覚える。
ただ、ここにいてくれるだけで、こんなにも心地よい。
男の腕の中にいて、優しく抱かれているだけで今の自分は幸福なのだと実感できた。
「動くぞ」
始めはゆっくりと、そして徐々にトントントン、とリズミカルに子宮の入り口をノックする。
「あっ、あっ、あっ……」
その度に女の口からは悦びの声が溢れ出る。
時には、角度をつけてお腹側を強く擦り付け、細かくブルブルと震える反応する女。
「あ、あぁぁ!」
何度目かのピストンの後、女は腰を浮かせて潮を吹いた。
男の腹がビシャビシャに濡れたのにも気にせず、喪失感を埋めるように再び抜けてしまった剛直を挿し入れた。
「ぐ、ぐぅ」
男が呻く。
射精感がどんどんと高まって来ていた。
男の眼下には、快楽を余すことなく受け入れているトロリと溶けた表情の女。
目元は垂れ下がり、口は半開きに熱い吐息を零している。
今、この場、女は誰よりも愛おしい男に身も心も託していた。
「いきそう……?」
女は握られた手を優しく解き、男の首に回した。
「きて……」
男の腰に女の足がかけられ、逃さないとでも言うかのように固定される。
ギシギシと軋むベッド。
荒々しくなってゆく、前後運動。
引き抜いた反動で女の腰は浮き、激しい挿入で深くまで一気に到達し、子宮を圧迫する。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
強い快楽に息も荒くなってゆき、女は目を瞑り眉間を寄せた苦悶の表情を浮かべた。
粘膜の接触からもたらされる、精神が攫われそうな快感の波。
高まってゆくオーガズム。
「すき、すきっ……あいしてるのっ」
限界が近い。どちらからともなく、荒々しく、互いに貪るようにキスした。
「もう、わたしをおいていかないでっ」
ここにきて、女はようやく素直になれたのだ。
「あ、あああああああっ!!」
一番と深いところで、二人は絶頂を迎えた。
子宮口へとドクドクと精液が注ぎ込まれ、虚無だった場所がだんだんと埋められてゆく実感がある。
女は再び満たされてゆく。
孤独も、不安も、喪失感も。
何ものにも変え難い幸福感に──全ての負の感情が塗り変えられ、ここには異性を愛しく思うただの女がいた。
事後、穏やかな雰囲気の中、女は男の胸に頬を乗せる。
「私、かわいい?」
「好き?」
女にとって始めての経験だった。
理解者がいるということも、心地よい男女の交わりも、満たされたような温かい幸福感も。
全てが男からもたらされた。
だからこそ、女は男を手元に置いておくためにあれこれと手を尽くしたが上手くいかず、結局はなるようにしかならないと諦めが強い。
それよりは、私がついていた方が手っ取り早い、と。
有り体に言って、彼女は溺れていた。
およそ20数年生きてきた中で、初めての恋愛感情を伴う存在に。
「……あんたが誰と寝たって私は止められないけど……」
「相手の女は絶対に殺すから……」
だから、彼女は自分から男を奪おうとする存在を許せない。
そう言い放った彼女の顔は無表情であり……
男はそんな決意を聞き、ただ口の端を引き攣らせることしか出来なかった。
□
そんな、部屋での痴体を遠く離れた場所から覗いてしまった者達がいた。
(すいません、***さん!)
アインズはすぐに悟った。
だが、すぐに映った像を元の鏡に戻そうとして出来なかったのは、アインズの手から奪い、食い入るように見続ける者がいたからだ。
至高の41人疑惑のある存在を確かめようとし、図らずも、男女の痴態を目撃してしまったモモンガこと、アインズ・ウール・ゴウンは頭を抱えた。
頭を抱える骸骨の側には、内股で下をしとどに濡らし、鼻息荒く、ギラギラとした目でアインズを見る二体の人外。
アルベドとシャルティア。
いや、火花を散らして互いに張り合う表情は正に、ゴリラ女とヤツメウナギのよう。
(そして、助けて!)
アインズの心の叫びは届かない。
タイミングも悪かったが、盗み見ようとした、彼の完全な自業自得であった。