※この作品はR-18です。

オリ主探訪日記   作:mimick

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日記パートへ

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これ本当は去年の年末に投稿する予定だったんだけど……まぁ、間に合わなかったよね……

時系列的にはゲヘナ終了後あたりからの話。話がなかなか進みません。

修正作業、きりが無いので投稿しちゃう。




22.蒼の薔薇編※1

 王都──貴族街と平民街とを隔てる内壁にほど近く、平民街としては比較的治安の良い区域。ここには金を持った商人や文筆家、芸術など特定の分野での名士など、貴族ではないが社会的に信用を持った人物達が多く居を構えている。

 

「ねぇ、イビルアイ。前から思ってたんだけど、あなた最近少し様子がおかしくない?」

 

 そんな場所で、金の豪奢な御髪を縦にロールさせた令嬢。緑色の瞳やピンクの唇は健康な色をしており、言うなれば生命の輝きとも呼べる魅力を感じさせる女性──ラキュースは彼女の同行者に向けて言い放った。

 

「はっ? 何もおかしなところなどないだろう」

 

 そう答えたのは白い仮面を被り、フード付きの赤いローブで身を覆った小柄な人物であるイビルアイ。

 

 彼女自身は優秀なマジックキャスターであり、王国を代表するアダマンタイト級冒険者《蒼の薔薇》のメンバーでもある。

 

 そうでなければ、彼女の風貌は明らかな不審者ではあるが、王都でもある意味有名人である彼女を不審者として呼び止める者も居なかった。

 

「……さっきの冒険者に何かあるの?」

 

「!」

 

 ラキュースが気になっていたことは一つ。ここ最近、彼女の仲間であるイビルアイの様子が可笑しくなることがあったからだ。

 

 具体的にはイビルアイがとある冒険者を目にした場合、絡みに行くというくらいの行動なのだが……先程、件の冒険者に遭遇した際にも何時もの彼女とは少し異なる様子を彼女は見せていた。

 

 普段から、周囲に対して一歩引くように過ごしている彼女が、特に交流のある知り合いというわけでもない件の冒険者を目にした時にだけ、わざわざ自分から絡みに行くというのは……彼女を知っている人物からすれば大きな驚きであり違和感であった。

 

 ──そして、その違和感はつい先程も。

 

 イビルアイは件の冒険者を見つけると何処か嬉々とした足取りで躊躇うことなく近寄り、反面、やや苛立ち紛れの口調のまま冒険者に疚しいことがあるかの如く糾弾を始めたのだ。

 

「……」

 

 ラキュースから先の糾弾の理由を問われたイビルアイは、しかし……向けられた視線から顔を背け口を噤む。仮面に隠れた彼女の素顔の感情は伺えない。

 

「うーん……私にはただの冒険者にしか見えなかったけど、イビルアイが気になる何かがあるということなのかしらね」

 

 ラキュースが視線を投げる先は、冒険者がイビルアイからの糾弾を嫌がり立ち去った方角。

 

 その冒険者の男はイビルアイからの難癖を鬱陶しそうに顔を顰め、さっさと退散していったのだが……追いかければ今ならまだ見つかるだろうか。

 

「少し調べる?」

 

 と、ラキュースの内心の懸念に同じ場にいたティナが調査が必要か問いかけた。

 

 彼女もまた青の薔薇の一員であり、同じくチームの一員であるティアとは双子で彼女とは瓜二つ。かつてはラキュースの命を狙っていた暗殺者でもあったのだが、今ではこうして行動を共にする良き仲間になっていた。

 

「は? おい、お前ら何を──」

 

「ええ、お願い。あんな事件があったばかりだから……不安の芽はどんなに小さくとも摘んでおくべきだと思うわ。念の為に、ね」

 

 彼女の脳裏にあるのは先日あったばかりの災害とも呼べる大事件──王都への悪魔の襲撃。現在も悪魔に荒らされた街は復興作業中であり、流石にあんな大事件に繋がるような火種がそこらにあるはずが無いとも思いたがったが、ラキュースは調査が必要と判断した。

 

 何しろ、永きを生きるイビルアイが何かを感じ取り、気にしているのは明白なのだ。それにどういった感情が含まれているのかも、何を気にしてのことなのかもラキュースには分からなかったが。

 

「待て! 本当にそんなんじゃ……」

 

 何かを焦るかのように静止しようとするイビルアイ。そんな彼女の様子を気にすることもなく、ティナはラキュースからの指令を全うするために建物の影に消えてゆくのだった。

 

 

 □

 

 

 場所は変わって、貴族街に位置するアインドラ家本邸の一室──窓の外には蘇生魔法によって復活したガガーランとティアがリハビリのためか模擬戦を行っているようで、気合いの入った声とドゴンッ、という大槌で地面を叩く音が聞こえて来た。

 

 仮面を外したイビルアイがチラリ、と窓の外から庭を覗けば、ガガーランの大槌が綺麗に手入れされ整えられていた芝生に突き刺さっていた。

 

 それを目撃した彼女は呆れた風であったが、特に何を言うでもなかった。アインドラ家の庭師は泣いてもいい。

 

 

「それで? どうだった?」

 

 屋敷の主の娘であるラキュースが口火を切り、ティナが調査結果を報告する。

 

「少し後を追いかけてみたけど、件の冒険者は王都から出ていくところだった。でかい背嚢を背負ってたから別の都市に移動するつもりだと思われる」

 

 冒険者には拠点を定めて家を借りたりする者もいるが、根無し草も多く条件の良い仕事を求めて彼方此方を移動する者も少なくない。

 

「……そう。直接話を聞いて反応を見るのも悪くはないと思っていたのだけど……まぁ、それは今後必要があればにしましょう。他には何か分かった?」

 

 ラキュースは接触は出来なかったという報告に少しだけ眉間に皺を寄せ、考えるような仕草をしたがティナに続きを促す。

 

「とりあえず何故あの場所にいたのか、何をしていたのかを調べた。あの冒険者はあのあたりにある屋敷の警護の依頼を受けていたみたい。実際に町の人間が、冒険者らしき人物が門番役をしてたのを目撃している。……ただ、少し不審な点がある。依頼は冒険者組合を通していなかったらしい」

 

「……組合を通しての依頼ではない……個人的な依頼ってことかしら。まったくおかしなことでもないけれど、そもそも屋敷の警護なんて冒険者に依頼することでもないしね。不審といわれれればそうかも。……その依頼元については?」

 

 ティナの集めた情報では、件の冒険者があの場にいたのはとある屋敷警護の依頼のためのようだったという。しかし、気になる点があった。

 

 ──冒険者組合を通した依頼ではない。

 

 それはつまり、帝国のワーカーのような個人依頼ということになる。では、不明の商人と冒険者との関係とは何なのか。ラキュースは訝しんだ。

 

「依頼主は他国の商人らしい。初めて聞く名前だった。警護していた屋敷にいたのは商売には関わりの薄そうな娘と、執事っぽいナイスミドル、娘の世話役と思われる侍従。屋敷の名義は娘だけど、実際の取引とか情報収集はナイスミドルがしていた。収集していた情報は魔法や魔道具関連、冒険者組合の依頼票……他にも食料品、武具、鉱物資源、多岐にわたる。ちなみに屋敷は悪魔の襲撃直前に売却契約がされてた。そして、売却の同時期に小麦を大量に買い付けてる」

 

「初めて聞く、他国の商人ね……その商人も素性が定かではないのが気になるわ。冒険者の素性は調べてある?」

 

 確かに怪しい。特に最後に付け加えるようにもたらされた情報など、物資を賄う必要のある多数の人材が背後にありますと言っているようなものだ。仮に糧食ではなく、転売目的だとしても、買い付け価格がさほど安いものではないのに転売を目的にするなど利は薄い。もしくは今後、小麦の価格が高騰することを知っての行動ということも考えられた。

 

「冒険者の登録自体はエ・ランテル。ただ、登録する前の足跡までは不明。登録後はエ・ランテルで普通の冒険者として活動してたけど、一時期、竜王国まで遠征してたらしくエ・ランテルにはいなかった」

 

「なるほど……疑うなら帝国関連だけど……ならやっぱり、あの冒険者も不明の商人も、素性として可能性があるのは帝国の騎士団関係って線かしら。ただのワーカーの線もなくはないけど、帝国の皇帝がワーカーを捨て駒としてなら兎も角、そんな役につけるとも思えないし」

 

「確かに。皇帝は冒険者やワーカーを疎んでいる節がある」

 

「竜王国への遠征を理由に、帝国に戻っていた可能性もあるわね……リ・エスティリーゼを探っていた目的に関しては……もし帝国の手先だとするなら、大方、次の戦争についての情報収集でもしてたのでしょう。情報収集も一段落して王都から撤退する段階になって悪魔の襲撃が重なったと。ついでに戦争で食料価格が高騰することがわかっているなら、小麦を大量に買い付けたというのも理由として頷けるわ」

 

「可能性はある」

 

 ……とは言っても、冒険者など基本的に根無し草。何処まで調べても正確に冒険者の出身や背後関係を洗うことなど困難。

 

 それに、暗黙的に禁止されており、発覚時には罰則があるとはいえ冒険者証を複数手に入れる方法がないわけでもない。エ・ランテルで登録した冒険者証が2つ目以降だとしたら、登録前の足取りが追えないのは当然のこと。

 

「今の王都が混乱しているのは当然バレているのでしょうね……」

 

 冒険者証の複数所持の嫌疑から帝国からの密偵ではないのかと追求してみてもよいのだが、確定的な証拠もない。のらりくらりと躱されてしまえば、余計に警戒されて逃げられるのは目に見えている。故に他に材料が足りない現段階では問い詰めるのは時期尚早としか言えない。

 

 かと言って、答えがあるかもしれない帝国や竜王国までわざわざ足を運んで調べなければならないほど、彼女達に時間的に余裕があるわけでも無いのだ。

 

「頭が痛いわ。イビルアイはどう思う?」

 

 と、ラキュースが自身が立てた渾身の予測について意見を求めるも──

 

「……さあな。私は少なくとも帝国の間諜だと疑っていたわけではないが」

 

 ラキュースの悩ましいとは言いつつも、推察に対する自信満々な表情を見て、イビルアイは呆れたように返したのだった。

 

 

 そして、ティナが入手してきた情報はもう一つある。

 

「──それと、ボス。噂の聖者が最後に目撃されたのは、高級住宅街のあのすぐ近くらしい」

 

「え……それは本当なの!?」

 

 黙ったままのイビルアイに、この話は終わりと判断したのか、そういえばとティナはたまたま手に入れることの出来た情報を伝えた。その情報にラキュースは喜びを表すかのように飛びつく。

 

 聖者──それは先日の悪魔襲来の事件で活躍したと噂されている聖職者のことだ。

 

 何故ラキュースが聖者の情報に飛びついたのか。ラキュースはあの日からずっと、その聖者の行方を探していたのだから。

 

「そう……そうだったのね、イビルアイ。もしかして、あなたも私が聖者様を探していると知って、怪しい人物がいないか気にかけていてくれてたんじゃ?」

 

「はぁ……知らん……どうしてそうなる。そもそも何だ。その聖者とやらは」

 

「あ、あら……なんだ、これも違ったのね……」

 

 勘違いしていたと悟ったのかワタワタと手を振り、顔を赤らめた。

 

 仕切り直すように、ラキュースは咳払いを一つ。

 

「聖者様──あの大事件で悪魔の大群を払った高位の神官戦士よ。漆黒のモモンに並ぶ戦果をあげて、存在が知られるようになった方」

 

「ふん……そんなのがあの時いたのか」

 

 対してまるで知らなかった、まぁ興味もないが、というようにイビルアイは呟く。

 

 

「なら、あなたは本当に、あの冒険者の何を気にしてたというのよ?」

 

「…………」

 

「イビルアイ」

 

 ラキュースからの不満を含む強い視線に、イビルアイはため息をつく。彼女達、青の薔薇のリーダーであるラキュースは、普段と異なるイビルアイの様子に、本心からを彼女を心配しているのだとイビルアイには分かっていたから。彼女もそこまでされては沈黙を破るしかなかった。

 

「ハァ…………わたしはただ、あの時の冒険者の男の顔を見ると妙に胸が騒ぐような気がしてしまってな。それだけだ、本当に気にするな」

 

「……恋」

 

「な!? ばっ、ばかな! ありえない! それなら私はモモン様の方がっ」

 

「へぇ?」

 

「冗談」

 

「くっ……お前ら……と、とにかく! お前たちが気にするようなことは何もない……私だって、あの顔を見るまでは昔のことなど忘れていたんだからな」

 

「昔?」

 

「やっぱり前に会ったことがあって、向こうが忘れてるとか?」

 

「恋などというものではないことは確かだからなっ! ……あの男の顔は、昔の私の先生と……気味が悪いくらいに瓜二つだったのでな……」

 

 それはただの他人の空似では? と、互いに目を合わせた後に訝しげにイビルアイを見るラキュースとティナ。世の中には似ている人が3人はいるという話もあるし、誰かと見間違うことだってあるだろうに。

 

 というか、単に顔が似ているだけで、どうしてそんなに過剰に反応するのかと不思議にさえ思った。いや、その冒険者の顔に、昔の消えかけの記憶が呼び覚まされるほどの衝撃があれば、その反応もまたあり得るのだろうか、と。

 

 百年どころか、まだ二十年も生きていない若い娘には、イビルアイの複雑な感情に共感する事は出来なかった。

 

「はぁ……なら何かの事件の種火を懸念してるって訳じゃなかったのね」

 

「……そういうことだ」

 

 心配して損したわ、と零し場の空気が弛緩した。

 

 

「──……あぁ、それにしても聖者様のお顔を拝見出来なかったのが心から悔やまれるわ……顔さえわかれば探すことも多少は楽になるのに」

 

 弛緩した空気のままラキュースが愚痴のように零す。どうやらイビルアイの知らぬ間に、彼女はその聖者とやらに相当入れ込んでいたらしい。

 

「……なんだ、お前たちはその聖者とやらの顔を確認していないのか?」

 

「聖者は常にフードを目深に被ってた。確認はしてない」

 

「やはり聖者様と呼ばれるくらいなのだから、経験豊かなおじ様なのかしら? でも、声はそこまでお年を召しているようでもなかったし……」

 

 一方、それを聞くイビルアイの胸のうちにはどうしても拭いきれない不安感のような、大切な何かを見落としているような、形容し難い予感が残った。

 

 何かを思案したまま、無言になってしまったイビルアイ。そこで彼女たちの会話は一端途切れたのだったが。

 

 

「──そういえば、イビルアイの先生はあの冒険者に似た顔をしていたのよね……イビルアイの先生といえば……聖者様もイビルアイみたいに大地系のエレメンタリストに似た魔法を幾つも使っていたのよ。ねぇ、ティナ?」

 

「使ってた。結晶の魔法」

 

「…………なんだと?」 

 

 それはまるで到底信じられない事実を聞いたかのように。イビルアイは眉を吊り上げて聞き返した。

 

「結晶の魔法だと……? ありえん……お前たちが見たのは似ている何か他の魔法だったのではないか?」

 

「そうなのかしら? ……水晶騎士槍に結晶散弾……イビルアイの魔法によく似ていたと思うのだけど。あなたは見なかった? 王都の空から結晶が降り注ぐのを」

 

「なっ…………いや、私たちがヤルダバオトと対峙していた広場ではそんな結晶など降らなかった」

 

 空から結晶が降り注いだという言葉に彼女は表情を険しくする。

 

「それに、水晶騎士槍に結晶散弾だと? 私と同じ魔法であることはありえない。私の結晶魔法は昔、先生が使ってた魔法を参考に、私が編み出したもの。それに私はこれまで、誰にも結晶魔法を伝授したことなどないのだからな」

 

 イビルアイが強く否定する。その様子にラキュースは驚き、目を丸くする。

 

 属性が限定されるエレメンタリストの中でも大地属性に特化し、さらに結晶に特化させた魔法詠唱者など、イビルアイは自分以外、これまで永く生きてきたが聞いたことも無かった。

 

 元々エレメンタリストは希少であり、そこから更に属性を絞ろうとする存在など更に少ない。それに水晶騎士槍や結晶散弾などは手本はあれど、彼女が苦労して編み出した魔法だったのだから。気難しい彼女が、同じ水晶特化のエレメンタリストだからと技を伝授などする訳が無かった。

 

「そ、そう? ……まぁ、聖者様は火や雷とか大地系以外の魔法も得意としてたみたいだし、ならやっぱり何か他の似た魔法だったのかもしれないわね」

 

「火や雷の魔法……」

 

「結晶魔法にも種類があるってことなのかしら……でも、聖者様のお使いになっていた水晶騎士槍や結晶散弾に似た魔法は威力も発動速度も実践的だったし、使いどころも、それはもうお見事だったわ。思えばやっぱりイビルアイの結晶魔法とは少し違ったかもしれないけど、勝るとも劣らない完成度だったわよ。それに加えて高位の信仰系魔法だって修めていたんだから! 本当にすごかったんだから!」

 

「超強力。神官の癖に一流の魔法使いでもある」

 

 そんな二人の言葉を聞いているのかいないのか、イビルアイは暫く思考が停止したかのように立ち尽くしていたが、今度はブツブツと独り言を呟きながら部屋の中を落ち着きなく歩き回り思考をまとめようとする。

 

「火と雷に、結晶、信仰系魔法まで……? 先生の得意だった属性ばかりだ……あの冒険者の顔が先生に似てるかと思えば、今度は聖者とやらがまさか……先生に似た魔法を……? もしや……先生の魔法の継承者がこの地にいたとでもいうのか……? なら、あの冒険者の正体は……あ、いや、だが、そんな偶然、現実にあるわけが……」

 

「結晶魔法の使い手が極々限られてるっていうのなら、むしろ聖者様はその先生の子孫の方か、その縁者とでも考えた方がしっくりくるわね。どうかしら? その可能性はあると私は思うのだけど」

 

「!?」

 

 ブツブツと呟かれる独り言を聞いていたラキュースがテーブルに肘をつけ、したり顔で言った。

 

 その言葉にイビルアイの動きが再び止まった。

 

「流石にイビルアイの動揺っぷりに草」

 

 呆然とする彼女に対して、ティナがその言葉とは正反対に無表情で言う。

 

「ぇ、あぅ……だ、だが! 先生は……先生は出会った時からゴーストだったんだぞっ……! そんな先生に子孫がいたなんてっ」

 

「……それどうツッコんだらいいの?」

 

 イビルアイの口から出たのは、思わず失笑を誘うような荒唐無稽としか言えない言葉だった。

 

「……まぁ、一端落ち着きましょうか。イビルアイの話が本当なら、生前に子どもがいたってことなんでしょ」

 

「ぇ……だ、だが、そんなこと先生は一度だって……」

 

 言ってなかったはずだ、と小さく呟く。

 

「重症」

 

「イビルアイは昔のこと、あまり教えてくれないから興味があるわ。その先生のこと、ぜひ聞かせて欲しいのだけど」

 

「それは…………いや……わかった。だが、お前もその聖者とやらが悪魔と戦っていた時に使った魔法が、どんなものだったか詳しく聞かせろ。……それが話す条件だ」

 

 イビルアイの中では過去の先生と、悪魔達の襲撃の際に活躍したという聖者、先の妙に胸を騒がせる冒険者の顔が全て重なるように想像された。

 

 そんなことを彼女が想像していることに感づいたのか──

 

「ええ、いいわ。……まぁ、あなたが恐らく懸念しているように、さっきの帝国の紐付きらしき冒険者が、あの聖者様と同一人物とは私はどうしても思えないのだけど。……それじゃあ、イビルアイの昔話は長くなるでしょうから、話は私からね」

 

 ラキュースの言葉にはどこか棘が含まれているように感じたのか、イビルアイは訝し気に片眉を吊り上げて彼女を見る。

 

 つまりは、ラキュースは彼女が想像している内容には否定的なようで、彼女の中の聖者の像はもっと崇高で、神聖なものなのかもしれない。それでは確かに、帝国の紐付き疑惑のある冒険者とは結びつかないだろう。

 

「イビルアイの昔話なんて、そうそう聞けるものじゃないもの。後でたっぷり聞かせてもらいましょうか」

 

 そうして、イタズラっぽく笑ったラキュースはあの日のことを思い出すように語りだした──

 

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 人間達の雄叫びが響いている。

 

 日が落ち、闇が世界を支配したリ・エスティリーゼ市街地。その市街地を囲むように高い炎の壁が立ち上がっており、それはまるで弱者や臆病な者の立ち入りを拒むかのように存在していた。闇夜を照らす炎は不吉な明かりを放ち、見るもの全てに不安や怖れといったネガティブな感情を抱かせる。

 

「ハ、アアァァァッー!!」

 

「忍法 爆炎陣」

 

 夜色の大剣が星が瞬くような軌跡を描いて悪魔を両断し、印を組んで放たれた火遁の術が炎の奔流とともに雑魚を一掃した。

 

 夜色の大剣を振るうのはラキュース。ニンジャのクラススキルを操っていたのは同じく青の薔薇のメンバーであるティナ。

 

 彼女達は平民が多くを占める兵士達や有志の冒険者達とともに炎の壁の向こう側に侵入、王都を襲撃した悪魔に対して抵抗していた。

 

 

 ──同日、元々青の薔薇は王国の裏組織である八本指の拠点を同時多発的に襲撃することで、裏組織の活動に致命的なダメージを与える作戦を決行する予定にあった。

 

 思えば、作戦自体はただそれだけで、表面的には大きな騒動にはならずに事が済むはずだったのだ。

 

 ……しかし、このように悪魔の集団が王都を襲撃されるような絶望的な事態に発展してしまったのは、その八本指らが自らでは取り扱えないような危険な代物まで収集し、王国内に持ち込んでいたことが原因にあると、王女であるラナーや魔神王ヤルダバオトに遭遇したイビルアイ達は知っていた。

 

 ヤルダバオトが回収しようとしているアイテム──それが八本指が収集していた魔道具らしい。ヤルダバオトが王都に炎の壁を作り出すことになり、数多の悪魔を呼び出して、この地獄を生み出した破滅の呼び笛であると。

 

 

 それら魔道具を切っ掛けとして起こった悪魔の襲撃──突如として王都に発生した炎の壁は人を焼くことも、内部への人の侵入を遮ることもなかった。だがしかし、現実として内部から炎の壁を越えて出て来る者は市街地の人口に対して多くはない。

 

 炎の壁が出現してからそれ程時もたっていない現在、壁の内側にある市街地にはまだまだ多くの人が取り残されているはずであり、呼び出された悪魔による脅威に曝されたままになっていると炎の壁の外側では予測されていた。

 

 そんな取り残された人々を救い出す為に、また炎の壁や悪魔の襲来という事態を治める為、アダマンタイト級冒険者、蒼の薔薇のメンバー達は勇壮な冒険者達、王国戦士長に鍛えられた兵士や衛士の精鋭達を率いて炎の壁の向こう側へと挑むことになったのだ。

 

 当初、蒼の薔薇のリーダーであるラキュースなどは、この出来事が物語にありがちな『主人公』が『英雄』への階梯を登るための『試練』になぞらえるように捉え、またそれを自身に当てはめる様を想像し不謹慎ながら奇妙な興奮と緊張感さえ覚えていたほどだ。

 

 他の冒険者達や兵士達も、多かれ少なかれまだ見ぬ敵に対して絶対に打ち勝つのだと自信を漲らせ、人々を救い出すと奮起していた。

 

 ラキュースは皆で力を合わせれば何とかなる。例え強大な力を持つというヤルダバオトが現れたとしても、此方には既に一度退けた実績のある漆黒の英雄モモンがいるのだと。他の冒険者や兵士、衛士の者達も彼らアダマンタイト級冒険者達に着いていけば大丈夫、との甘い気持ちが何処かにあった。

 

 そして、最悪、ラキュースさえ生き残っていれば復帰する芽はある、と皆どこかで楽観視さえしていた。

 

 それはリ・エスティーゼが周辺諸国に囲まれた、肥沃な大地を擁する恵まれた国であり、これまで外敵と呼べる者が少なく、絶望を知らない。危機感がこれまで感じられなかったがゆえの国民全体が持つ心理であったのかもしれない。

 

 

 ──そうして彼女達が意気軒昂として炎の壁の向こうに侵入した、その先の光景は。

 

 そこには人の心を容易く抉る暴虐や理不尽な蹂躙で満ちており、彼女達の考えの甘さを露呈させ、慢心をいとも容易く打ち砕いた。

 

 地獄において、物語の中のような輝かしい勇者など存在せず、また、現実はそれが彼女達自身ではないことを容赦なく突きつける。

 

 それに気づけなかった者から、生へと執着できなかった者から早々と死んでゆく。そこは必死に足掻く者だけが生きながらえることができる場所だったのだ。

 

 

 □

 

 

 大隊規模の戦力を結集させ、悪魔の攻勢に対して迎撃する。逃げ遅れた民衆を救出するためにラキュースとティナが炎の壁を越えた時には……そこには既に見慣れたはずの町並みはなかった。

 

 炎の壁の付近には悪魔──下等の魔鬼が徘徊している程度であり、人影もほぼなく静か過ぎる程だったが、中心部に近づくにつれて悪魔が襲撃した当初に起きた混乱の残滓が垣間見えた。

 

 そこには苛烈に人が追い立てられ、場が暴力によって支配された跡がある。まるで人が獲物となり、狩りが行われたかのような──悪魔の狩猟場だった。

 

 そして今も──何処かに隠れていた家族がいたのか、隠れていた者達がとうとう悪魔達に見つけられ何処かへと連れて行こうとされているのを彼女たちは目撃した。女は悪魔に髪を掴まれて引きずられ、伴侶を助けようとした男は反抗の意思を折るかの如く嬲られる。

 

 それを見ていた子どもが怯え、パニックを起こして火がついたように泣き喚くと、悪魔が嗜虐的な笑みで蹴飛ばしていた。

 

 ──見知ったはずの街が、現実のものとは思えない知らない街に変貌していた。昨日までは人の喧騒が耳に痛いくらいに賑やかであったのに。街のそこかしこで人の日常が営まれていたのに。こんな狂気や不安が渦巻くような場所ではなかったのに。

 

 煉瓦が積まれ、漆喰で整えられていた家々は大穴が空いて、内部の梁を曝け出している。

 

 所々、赤く見えるのは血だろうか。まるで大量の絵の具をぶちまけたかのように、べったりと真新しい血溜まりの痕がいくつもあった。

 

 街の至るところで火事が起きているらしく、人間の悲鳴と怒号が籠もった叫び声が響く。もしかしたら最前線にいるチームのどれかが既に悪魔と戦闘状態にでもなっているのかもしれない。

 

 街に充満するように漂っている臭いには木材だけでは無い何かが燃えた異臭や、悪魔が放つ硫黄にも似た腐敗臭が含まれており、生理的な不快感を齎した。

 

 現に、悪魔には火と闇の属性の魔法や種族スキルを用いる者が多く、この戦場で見かけた地獄の猟犬や上位地獄の猟犬などは実際に口から火を吹く。彼らが火事の原因と思われた。

 

 そんな不安や恐怖をかきたてられる地獄では、召喚された悪魔たちがどうやら町の住民を王都ではない場所へと連れ去っていくようだ。まるで、我ら悪魔を招いた対価だとばかりに、税を徴収するか如く何処へともしれない場所へと。連れ去られた人は……その先には何が待っているのだろうか。ただ、ろくな場所ではないことは想像にかたくない。

 

 そんな現実を直視してしまえば、先を急ぎたいという焦りや、どうしてこんなことになってしまったんだという衛士や冒険者達の絶望する気持ちがラキュースにもよくわかった。

 

 まして、彼ら自身の生まれ育った場所でもある平民街や下町がその騒動の中心であるならば、平常心でいるなど不可能だろう。

 

「ぅ、ぐっ……! あなたたち、無理して突出しないようにっ……!」

 

「す、すまねぇっ」

 

「大丈夫……炎の壁の中心部には少しずつだけど確かに近づいているわ。防衛ラインを維持しつつ、焦らずにいきましょう!」

 

 焦りから突出していた衛士の一人を狙っていたのか、ラキュースが地獄の猟犬からの攻撃を庇うと共に素早く切り捨てる。それに衛士が謝意を示した。

 

 

 

 彼女達、蒼の薔薇や冒険者たちの役割は、衛士や神殿、魔術師組合などで構成された後方支援部隊を防衛ラインとして、複数のチームを組んで敵本陣である炎の壁の中心に向かって突撃を繰り返し、道中の悪魔を駆逐することで前線を押し上げることにある。

 

 一方、防衛ラインでは最前線を攻める冒険者のチームが撤退したことで前線から引っ張って来た悪魔の迎撃も兼ねており、冒険者達が回復し再出撃するまでの間、彼らの代わりに悪魔と戦い、防衛ラインを維持する役割が求められていた。

 

「ボス。この先、悪魔の群れは暫くいない。他のチームに引き付けられているのかもしれない」

 

 先行して、この先にある通りの様子を探ってきたティナが何処からともなく現れる。

 

 ティナが偵察によって得た情報によれば幸運なことにこの先、街の中心部に向かってラインを押し進めるにあたって大規模な悪魔の集団は暫くいないらしい。

 

 今は一刻も早く悪魔が探し求めているという魔道具を確保し、事態を悪化させないよう、これ以上悪魔が暴れ回る事を防がなければならなかった。今の彼女達が最優先しなければならないのは事態の終息と言う事になる。

 

 こんな地獄を私達は誰も望んではいない。こんな光景をそのままにしていてはいけない。昨日までの人の営みを取り戻さなければならないのだから──

 

「聞いた!? 細心の注意を払いながら、中心部に向かうわよ! 道中、救助できる者は可能な限り救出していく! 退路は常に確保するように気をつけて!」

 

「おう!」

 

「行くわよ!」

 

 そして優先度は最上ではないが、彼女達は取り残された住民がいれば出来る限り救出する任務も果たしていかなければならないのだ。

 

 これまで炎の壁に比較的近い区域では悪魔から隠れていた救助者もそれなりの数がいたのだが、しかし、中心部に近づくにつれて明らかに救助者の数は少なくなっている。

 

 その事実を彼女達は確かに感じていたものの、誰も口に出すことはしなかった。

 

 それは、ここが正に地獄に近しい場所だということを皆が理解していたから。

 

 この場にいる誰もが、内心では不安を抱えている。中には知り合いや友人、恋人、両親、伴侶や子どもが巻き込まれた者もいたはずだ。助け出したい、無事でいて欲しいという思いを途切れさせるような言動はできなかった。

 

 ただでさえ、自身の身の安全など皆無に等しいのに。大切な存在を救い出そうとこんな場所にいるのに、もう駄目かもしれない、手遅れかもしれないという気持ちを認識してしまえば、もう戦えなくなってしまう。

 

 もしもそうなれば──周囲の足を引っ張るだけの存在に成り果て、自身が悪魔の餌食になるのならまだしも、周囲の緊張まで緩ませてしまえば作戦の成功の確率さえ下がってしまうのだから。

 

 

 □

 

 

 炎の壁の内側に侵入し、街路を進んでゆく。

 

 中心部に向かって侵攻している冒険者組には後方支援を主とする本隊が支援しているチームが複数いる。そのどの冒険者組の侵攻のルートも街の中心部にある広場──炎の壁の中心地に続いている。

 

 ラキュース達も犠牲者を何人か出しながらも、侵攻チームとして平民街にある迷路のような細い小道から尖兵の悪魔を駆逐しつつ、戦闘の前線を押し進めてきた。

 

 そうして、とうとう広場に続く大通りにまで防衛ラインを押し上げる事が出来たのだが、その先には大小様々な形をした強力な悪魔の一団──魂食の悪魔や朱眼の悪魔、極小悪魔の群集体、地獄の猟犬に上位地獄の猟犬などがひしめき合い、侵入者が足を踏み入れてくるのを待ち構えていた。

 

「くっ……中心に近づくにつれて、悪魔が強くなってきてる」

 

 それは明らかにこれ迄の散発的な戦闘とは異なる、大規模なものとなることが予測された。

 

 その一団の奥の奥、禍々しい黒い角の生えた牛頭の頭蓋の頭部に、大柄で隆々とした肉体には高位の存在を思わせる黒翼の、巨大な斧槍を持った悪魔がいた。

 

 他の悪魔とは明らかに雰囲気も放っている威圧感も段違いであり、一団を指揮していると思われる高位の悪魔がラキュース達の動きを見据えていた。

 

「ここを通らなければ中心部に辿り着くのに時間が掛かり過ぎるというのに」

 

 周回して中心部に着くことのできるルートが無い訳ではない。しかし、それには曲がりくねった小道を経由しなければならないし、道中にどんな危険が待ち構えているのかもわからない。

 

 本隊を含めた大集団で小道を通過するなど、奇襲に遭遇した場合の被害が大きくなりすぎて任務の失敗に直結しかねない。

 

「ボス、焦って進むのは危険」

 

「分かってるっ…………王国軍が作戦に参加していてくれてたら強行できたのに……!」

 

 本来であれば自国が敵襲にあっているのだから将官や騎士がこの場の指揮をとっているはずなのだが、そのような存在はこの場にはいない。皆、悪魔の脅威に恐れを成して逃げ出したのだ。

 

 そして、戦士長やそれに付随する兵団も王や王族の警護の任があるため、おいそれと戦場で指揮することは叶わない。

 

 この場にいるのは平民の冒険者や魔術師、神殿関係者や末端の兵たちだけ。国の上層部たる貴族は足元で起きている大事件に気づかないフリをして、無関係を装ったまま。自身の地位が揺らいでいるのにも関わらず、自らの保身に走り、人の上に立つ責務を果たそうという気概もない──この国の上層部の多くはどうしようもなく腐敗していた。

 

 せめて、蒼の薔薇のメンバーが全員この場に揃っていたらという考えが、ラキュースにはどうしても頭から抜けることはなかったが、それはもうどうしようもないことだ。

 

 皆、作戦を支えるために駆り出されている。最大の戦力であるイビルアイは敵の首魁ヤルダバオトの撃退に当たっている漆黒のモモンの補佐、ガガーランとティアに関しては先日のヤルダバオト戦で死亡してから蘇生したばかりで、力の多くを失ったままだ。彼女たちが前線での戦闘に参加することはできず、後方支援チームの護衛や防衛ラインを前進させるための指揮に回っていた。

 

 作戦を支えるためとはいえ、現状、蒼の薔薇としての戦力は半減とも言えないほどに分散されていたのだ。蒼の薔薇のメンバー全員が作戦中に集結することはないだろう。

 

「ラキュース殿! 本隊から国王様や戦士長の兵団が作戦に参入されたという情報があったようだ!」

 

 重要な情報の共有のため、本体から遣わされた伝令があった。これは戦力がまるで足りていない人間側にとって朗報ともなる情報だった。

 

「本当っ!? ……っ、だけど、兵団が前線にまで出張ってくるには、まだ時間がかかるわね」

 

 

「ならば、ここは私の出番という訳かな?」

 

 

 突如として聞こえてきたのは低い男性の声だった。

 

 ラキュース達が声のした方向に振り向くと、建物の屋根から黒に金縁があしらわれた全身鎧を身に纏った偉丈夫、ラキュース達と同じアダマンタイト級冒険者である漆黒のモモンが美姫ナーベを伴い飛び降りてくる所であった。

 

「モモンさん!!」

 

 ラキュースが軽く見上げるほどの高身長、全身鎧を身に纏い、その身長ほどもある大剣を片腕に一本ずつ装備し振るうという人間離れした怪力の持ち主こそが、現在、最も新しい英雄と目される漆黒のモモンであった。

 

 ラキュース自身はその活躍を直接目にしたことはなく、ヤルダバオトと戦い、その雄姿を実際に目撃したというイビルアイを疑っているわけではないが、どうにも話に聞くその強さが現実離れしすぎていて、素直に尊敬の目を向けることがラキュースには出来ないでいた。

 

 だがしかし、その強さが本物であるというのであれば、これほど心強い味方など他にはいないだろう。

 

 それに加えて、美姫ナーベは接近戦をこなしながらも第三位階までの魔法を操ることのできる天才的な魔法詠唱者と聞いている。しかも、彼女の操る魔法は他の魔術師が放つ同位階の魔法と比べると威力が高いという話も聞いていた。味方として不足はないだろう。

 

「お困りのようだな。ルートを塞いでいるのはあの集団か」

 

「……」

 

 モモンがラキュースに対して鷹揚に話しかけてきたのに対して、ナーベは周囲を警戒しているのか、視線を鋭くしてラキュース達を睨みつけた。

 

 冒険者組合で聞いた話では、美姫ナーベは大の男嫌いで、お淑やかな見た目に反してナンパしただけの男を叩きのめしたり、ラキュースが発したこともないような言葉で罵倒する過激なところがあるらしい。

 

 まぁ、それすらも冒険者達に人気が出る理由になってしまうのだから、美人というのは得なものだ。ナーベとしては、男に言い寄られて面倒なだけなのだろうが。

 

「あの塞がれている大通りの先に、目標の広場があります。おそらく、そこに悪魔たちの本隊もいるはず」

 

「──それに、あいつらを排除して通りを私たちで占拠できれば、最前線に近い場所に本隊の拠点を置くことが出来るな」

 

「イビルアイ!」

 

 彼らに同行していたイビルアイもまた、ラキュース達の側に降り立つ。

 

 この地獄ともいえる戦場の最中で、蒼の薔薇の仲間に出会えたことに彼女は僅かな間、その再会と彼女の無事を喜んだ。

 

「ふむ、そうですか……ヤルダバオトは近い、と。……ならば、私が鋒矢の先端となって、あの集団を切り裂き、大通りを制圧する助けとなろう」

 

「それはとても助かります……!」

 

「……ただし。ラキュース殿もわかっているとは思うが、私の目標は魔皇ヤルダバオトだ。ここで最後まで共に戦うことは出来ない。申し訳ないが、私たちは先を急がせてもらう」

 

「っ、勿論、わかっています。ここの制圧は私たちで何とかしましょう。モモンさんたちは先へお願いします」

 

 時は悪魔たちが襲撃してから、それなりの時間が過ぎている。未だ悪魔たちが王都を去っていないということは、まだ目的のアイテムが見つかっていない可能性もあるが、それを期待して待っていては被害を更に増やすだけだろう。

 

 ここには自らの力で事態の収束を図るために来ているのだ。彼女たちは悪魔の襲撃に恐れを成して城に引きこもっている貴族たちとは違う。嵐が去るのを待ち、自分に都合のよい未来が訪れることを期待しているのでは、自らの意思を貫くことなどできないままだ。

 

 

 

「では、ゆくぞ。私に続けっ!!」

 

 勇ましい声とともに、漆黒の鎧が駆けてゆく。

 

 あとに続くのは、美姫ナーベに青の薔薇のメンバーであるラキュースにイビルアイ、ティナ。そして、ラキュースとともに悪魔を駆逐してきた冒険者の面々。

 

「はあっ!!」

 

 モモンが先ほど口にしたように自らが鋒矢の先端となって敵陣へと吶喊する。振るわれる大剣はいとも容易く悪魔たちを切り裂いてゆき、イビルアイが目撃したという英雄としての姿がそこにはあった。

 

 それに続くようにしてモモンの相棒であるナーベが第三位階の魔法である《ライトニング/雷撃》を放ち、複数の悪魔を貫く。貫かれた悪魔は身体から煙を立ち昇らせ、その場に倒れこむ。

 

「ラキュース! この場は任せたぞ!」

 

「ええっ! あなたも気を付けて!」

 

《マキシマイズマジック/魔法最強化》

 

《シャードバックショット/結晶散弾》

 

 イビルアイが置き土産とばかりに威力が最大まで引き上げられた水晶の散弾を打ち出し、広範囲にまき散らした。打ち出された拳ほどの大きさの水晶の散弾は悪魔を強かに痛打し、時にその身を抉った。

 

 そして──

 

 モモン達三人、人間側の切り札とも呼べる三人は振り返ることもなく悪魔の集団を抜けてゆく。悪魔たちが彼らの跡を追わせないようにするのは、ラキュース達、残った者たちの役目だった。

 

「っ、《不動金縛りの術》!」

 

 ティナが忍術を用いて、モモン達を追おうとしていた悪魔たちの動きを止め──

 

「はあああぁぁぁぁぁ!! 《ダークブレードメガインパクト/暗黒刃超弩級衝撃波》!!」

 

 その隙にラキュースが魔剣キリネイラムから衝撃波を放ち、不意を打つことに成功。モモン達をヤルダバオトが待ち構えるだろう中心部に送り出たのだった。

 

 

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