※この作品はR-18です。

オリ主探訪日記   作:mimick

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12.トラベルノート(ユリ編)

☆月★日 ※1

 ナザリックへの帰還。

 

 迎えにきたのはモモンガではなく、セバスだった。

 

 確か、彼は同じギルドメンバーのたっち・みーが作成したNPCだったはず。

 

 てっきりモモンガが迎えに来てくれると思っていたのだが……

 

 それとなく理由とナザリックに戻ってからの予定を確認すると、モモンガは玉座の間で俺の帰還を出迎えるために待機しており、不在となったナザリックへの同道役に彼が命じられたのだという。

 

 ちなみに、事前のモモンガとのメッセージでの相談ではNPC達の反応が予測出来ないことから、今回クレマンティーヌはエ・ランテルで留守番することになっている。

 

 久々に上級騎士の装備に腕を通したが、珍しかったのかペタペタ触られたが。

 

 

 転移ゲートを抜けると、そこはナザリック地下大墳墓。

 

 玉座へと続く大回廊だった。

 

 回廊には俺たちギルドメンバーの旗が掲げられ、奥には天使と悪魔を模し、荘厳で細部にわたる意匠が施された扉が設置されている。ゴーレムクソ野郎こと、るし★ふぁーの作品の一つだ。

 

 

 ゆっくりと扉が開かれると玉座に向かう道に仲間たちが作成したナザリックのNPC達が並び、一番奥にある玉座の位置にはモモンガがいた。

 

 神器級の装備を身に纏い、傍らにはギルド武器である絢爛たる黄金の杖。

 

 あんた、魔王かなんかかよ! 

 

 元々魔王ロールしていた身とは言え、現実になると板についてますね……

 

 

 モモンガが演技なのか大袈裟なリアクションで俺を迎え、忠誠の儀とやらが始まると守護者達が一人一人、何やら過大な言葉とともに忠誠の誓いを奏じてゆく。

 

 ナザリックに戻ったくらいで感動している様子のNPC達だったが……みんな、ちょっとオーバーアクション過ぎませんかね。

 

 

 

 忠誠の儀の後。

 

 一先ず緊張が解けると腹が減り、準備よくモモンガがNPCたちに用意させていた食事を取りながら話し合いを行った。

 

 見た目、骸骨なので食事が取れるのか疑問だったが、やっぱり食べられないらしい。

 

 自分のことは気にしないでくれと笑うが、一人だけバクバク食べているというのはかなり気不味いものだ。

 

 転移する前の世界の食事は合成食材やらで、天然物なんか滅多に食べられなかったし……

 

 何とかこの感動をモモンガとも共有できたらいいんだがなぁ。

 

 

 開口一番に話があったのは、エ・ランテルでのこと。

 

 前に俺から謝ったはずだが、モモンガはまだ気にしていたらしく、謝罪された。

 

 正直、友人が知人を殺害してしまっていたのは、悲しみとか怒りを感じるよりも、まず驚きが大きかった。それと申し訳なさ。

 

 反対に、クレマンティーヌが何者かに殺害されたのを知った時には、あぁやっぱりそうなったか、という思いの方が大きかった気がする。

 

 

 転移してきたこの世界はモンスターの脅威、人間同士の争いなどで殺伐としてるし、余所者にはドライな所もある。仲良くなった旅人や冒険者が実は盗賊で、強盗にあったとかいうオチのある話を何度か聞いたこともあるほどだ。

 

 実際、街の治安も決して良いとは言えないからな。住民としては警戒して当然なのだろう。

 

 街の中でも小物だが、物取りやら詐欺師もどきも市場にはそれなりにいるし、ちょっと裏路地に入れば黒粉とかいうヤクの密売人に中毒者だって結構いる。

 

 俺がちょろっと酒場で聞いた話では貴族やら傭兵が街娘、村娘を攫っていくことだってあるらしい。

 

 この世界には、国には生活の安全の保障なんてものも、余所者への信用だってない。

 

 

 そして話は戻るが、肝心のクレマンティーヌ自身も善人とは口が裂けても言えず、寧ろはっきりと悪人と呼べる類だ。

 

 先の騒動もそうだが、あいつは殺人を楽しんでいるフシもあったみたいだ。

 

 もしも、悪行に対する応報、業というものがあるのなら、あいつはそれを背負って然るべきなのだろう。

 

 モモンガに与えられた死は、それに対する報いでもあり、このことで、あいつも痛い目を見て少しは行動を改めるのではないかとむしろ内心期待していたりするが……

 

 ただ、俺がモモンガに申し訳ないと思ったのは、図らずもそんな役を彼に背負わせてしまったことだ。

 

 本来であれば、知り合った俺が戒めてやるべきだった。

 

 だが、その方法が暴力以外にわからなかったのも事実で、事実から目を逸らした俺は特に控えるように言うこともなかった。

 

 だから、その役を負ったモモンガに申し訳なく思うことはあっても、俺自身が恨むことなど筋違いだろう。

 

 

 人の縁と呼ばれる信頼関係、ネットワークはどこで繋がっているかなどわからない。

 

 それで不要な怨みや面倒を買ってしまう可能性だってないわけじゃない。

 

 だから、モモンガに申し訳なく思ってしまう。

 

 

 ……とまぁ、俺自身は怒ってませんよアピールしておいた。

 

 何故、彼女を庇わない? 

 

 薄情じゃないかだって? 

 

 そうなのかもなぁ……

 

 だが、アイツは悪人だし、殺されても文句も言えないような事を何度も繰り返してきていたが、今は死から蘇って生きている。

 

 もし蘇生という手段が存在しなかったら、もしかしたらこの感情は違っていたかもしれない。

 

 決して、情が無いわけではないのだから。

 

 

 ただ……この体になってから、どうにも感情が平坦になってるようで、大きな怒り、悲しみ、喜びといった感情の起伏が狭まっているように感じていた。

 

 悪行に対する忌避感も、見知った人物が死んだことへの感情の揺らぎも。

 

 俺自身も、殺人を犯したところで罪悪感など欠片も湧かなかった。

 

 この身の本質はアンデッドであり、モモンガと話をする中で、俺たちは本当に化物になってしまったのだと今更ながら実感した。

 

 

 

 その後、モモンガから転移してからの状況、下僕たちの状態について話を聞いた。

 

 これまで、大分気苦労していたみたいだ。

 

 

 ナザリックの転移から始まった異世界での生活。

 

 突然、自我を持ち動き出したNPC達の統制。

 

 近隣にある村への接触と監視。

 

 王国戦士長との邂逅と法国部隊との戦闘。

 

 冒険者モモンとしての活動。

 

 操られたシャルティアとの死闘……

 

 最近ではリザードマンの村を制圧したらしい。

 

 

 ……何かもう、やっぱり魔王でいいんじゃないですかね……? 

 

 大変だったと話す割には、言葉は喜々としていたし。

 

 NPC達の成長が嬉しいんだと。

 

 随分と異世界を楽しんでおられるようで。

 

 

 

 特に楽しそうに話したのはNPCたちについてだが、フレーバーテキストの内容や作り出したギルドメンバーの性格に大きな影響を受けるらしい。

 

 デミウルゴスとセバスの相性の悪さを見る度に、たっちとウルベルトを思い出すという。

 

 アウラとシャルティアの喧嘩も、ぶくぶく茶釜さんとペロロンチーノのじゃれ合いに似ている。

 

 コキュートスとナーベラルは階層守護者とプレアデスという立場の違いこそあるが、普段は軽口を叩き合う程に仲が良いそうだ。

 

 それを楽しそうに話すモモンガはNPC達配下を、まるで友人の子どもと同じように見ているようだった。

 

 そして、懺悔を受けた。

 

 恥じるように、勝手にアルベドのフレーバーテキストを書き換えたこと。

 

 悔いるように、支配を受けたシャルティアをモモンガ自身が討伐し、勝手にナザリックの財を用いて復活させたこと。

 

 アルベドは設定が歪んで自身を愛するようになり、シャルティアは本当に討伐しなくてはならなかったのか、他に方法はなかったのかと後悔していると。

 

 どうやら、この世界にはワールドアイテムが存在しているらしく、シャルティアはそれの効果で支配を受けた可能性があるらしい。

 

 モモンガや俺はワールドアイテムを保持しているから対抗が出来るが、NPCたちはワールドアイテムの効果に対抗できない。

 

 今後はNPCたちにもワールドアイテムを保持させての行動を視野に入れているようだ。

 

 そして、帰還したばかりの俺にもNPCたちと会話することを薦められた。

 

 

 

 他にも愚痴のような話やら、自業自得の話、世知辛いお金の話、俺のナザリックでの立場や役職についての相談などもあった。

 

 モモンガは漆黒として稼いでいるが、ナザリックの維持費、セバスやコキュートスに回す金もまだまだ足りないようで、悩む様子は無茶苦茶なギルメン達をなんとかまとめようとしている姿と変わりなく笑った。

 

 俺のナザリックでの立ち位置としては、とりあえずナンバー2という形にして、当面は下僕たちと交流を図りつつ、モモンガと一緒にナザリックの運営に関わることになりそうだ。

 

 それと俺からは、あまりクレマンティーヌを一人待たせるのも心配なので、しばらくしたら一旦エ・ランテルに戻ることを伝えた。

 

 モモンガは気を使ってくれたのか、いずれは彼女をナザリックに招けばいいと言ってくれたが、外から来た存在をNPCたちは本当に受け入れるのだろうか? 

 

 

 夜も遅くなってしまったので、お開きとなり、話せなかった事については、翌日以降に持ち越した。

 

 会談した部屋から出るとずっと待機していたのかユリ・アルファがいて、自室へと同道してくれた。

 

 まぁ、部屋の場所とかわかるけどね。一人でも良かったんだが。

 

 

 ☆月★日

 

 軽く食事をとって、モモンガに挨拶しようと執務室へ向かうと中には、何故かアルベドとシャルティアがいた。

 

 アルベドはモモンガがナザリック不在時の名代という話だし、普段から側に仕えているようだからいいとして……

 

 シャルティアは不明だ。

 

 ただ、モモンガのことで伴侶となるのは私だ、何だと言い争っていたようだ。

 

 

 宥めつつ、そんな二人とも交流を図っていたが、クレマンティーヌのことだと思うが新たな眷属を歓迎したいとの話から、再び言い争いの種であるモモンガの妃の話へ。

 

『アインズ様を愛する許しをいただきたい』

 

『わらわもお慕いしてるでありんす!』

 

 と、張り合う二人。

 

 

 実際のところ、それは別に俺に許可を求める話ではないし、シャルティアはともかくとして、頭が良いらしいアルベドはそんなこと分かっているはず。何が目的だったのか。

 

 俺からは、そうしたいのならそうすればいいと伝えたら、二人は歓喜し、わっ、と盛り上がっていたが。

 

 

 話した感じ、モモンガはナザリックの皆のことを友人の子どものように考えている。

 

 それは俺も同意しているし、だからこそ、モモンガはアルベドやシャルティアに想われていることに葛藤があるのだろう。

 

 ただ決して悪い気はしていないようだが、どうやってモモンガを射止めるかは彼女たち次第。

 

 彼女たちには、もし将来そうなったら俺が証人になってやろうとだけ言っておいた。

 

 

 前に聞いた身の上話だが、モモンガは天涯孤独だったそうだ。

 

 俺が願うことはモモンガの孤独を埋めてあげてくれたらな、ということ。

 

 友では癒せない、異性にしか出来ないことがある。

 

 心の底で必要としているだろうもの。

 

 モモンガが本当は欲しているだろう家族を。

 

 友の俺では家族になど成れないし、俺自身成るつもりもない。

 

 それは俺の役目ではないからだ。

 

 

 ……彼女たちはまだ子どもと同じ。

 

 優れた頭脳に知識、他者を圧倒する力はあっても、多くの経験がない。

 

 たくさん悩んで欲しいものだ。

 

 

 それにしてもタブラにペロロンチーノ……

 

 とんでもないNPCを創ってくれたな! 

 

 

 ☆月★日

 

 モモンガと今後のナザリックの方針やら、現在進行中の計画など割と真面目な話をした。

 

 俺としては、モモンガの方針に異論はない。

 

 NPC達の期待が重い、何故か頭がいいと思われていると途中愚痴が入ったりもしたが……

 

 ギルドメンバーにナザリックの存在を示すため、世界にアインズ・ウール・ゴウンの名を知らしめるという目的のため、今後において重要な指針となる会議となったと思う。

 

 

 会議も終わり、自室に戻ろうとすると、奇妙な出来事があった。

 

 簡単に言ってしまえば、プレアデスの誘惑……? 

 

 それ自体は何とか回避する事ができたが、彼女らは俺がナザリックを再び離れることを危惧していたみたいだ。

 

 ユグドラシルを引退した訳では無かったとは言え、長くナザリックから離れていたのも事実。

 

 それが彼女達にも不安を与えてしまっていたようだ。

 

 

 ……ユリには少し悪いことをしたかもしれない。

 

 

 夜更け、精神的な疲労感を感じた。ふとナザリックにはバーがあることを思い出し、一杯ひっかけようと思い至った。

 

 バーの扉を開け、足を踏み入れた途端、先客たちの注目を受けた。

 

 バーにはバーテンであるキノコ頭に、デミウルゴスとコキュートスがいた。階層守護者である二人はここの常連だったらしい。

 

 何となく入りづらくなったがデミウルゴスが気を利かせてくれたのか、三人で飲むことになった。

 

 デミウルゴスの創造主であるウルベルトとの付き合いは長く、ナインズ・オウン・ゴール時代からの仲だ。ギルド内でも一、ニを争う威力を誇る魔法職であり、組んでよくプレイヤーキラーキラーをしたっけ。

 

 コキュートスの創造主である武人武御雷ともナインズ・オウン・ゴール時代から共にフィールドを駆け、競い合ったし、何度もPVPもしたなぁ。

 

 滔々と、昔の話をしていると二人の創造主の活躍を聞けて嬉しかったのか興奮していた様子。

 

 本来、NPCはギルド付きであり、フィールドで共に冒険する事はできなかった。まぁ、その分、100レベルで作成できるという措置もあったのだが……

 

 ともかく、二人は創造主と共に冒険した経験はないということだ。

 

 冒険話を伝え聞いたことはあっても、どのような世界を渡り歩いたのか、どんな敵を下してきたのかなど多くは知らなかったのだろう。

 

 子どものようにはしゃいでくれるほど興奮したのなら、話したかいがあったというものだ。

 

 

 

 ☆月★日

 

 今日はフラフラとナザリック内部を巡回してみることにした。

 

 辿り着いたのは大森林。地下空間にも関わらず樹海とも呼べる深い森が広がっている。

 

 大森林の随所にはコロッセウムや蠱毒の大穴、歪みの木々、塩の樹林、木々にのまれた村跡、底なし沼地帯などが配置され、階層守護者アウラのペットである魔獣たちによって大森林は守られている。

 

 また、この大森林にはブループラネットが作り込んだ空があり、太陽光の降り注ぐ昼と一面の星空を見渡せる夜が時間と共に移り変わる。

 

 現実となった今ではここが地下であると、わからなくなる程度には本物の自然に似ている。

 

 階層守護者はアウラとマーレ。二人はぶくぶく茶釜さんによって作られたNPCであり、それぞれ性別に反した男装、女装をしている少女と少年だ。

 

 なんと業の深い……

 

 なんだってあの姉弟はこうもぶっ飛んでいるのか……

 

 

 廃村跡でボーっと篝火にあたりながら夜空を眺めているとアウラとマーレに話しかけられた。

 

 この大森林にいるとなんとなく感傷的な気分になった気がして、二人にはこの夜空を作った時や、リアルな大森林や各種建造物を再現した時の話をした。

 

 現代では環境破壊が最早再生不可能なまでに進行していたし、本や映像などの記録ばかりで本物の自然や遺産を見たことのある人間などいないのが普通だったからな。俺も少し自然が恋しくなってたってのもあった。

 

 ブループラネットもそれは同じだった。人一倍、自然に対する興味が強く、よくこの自然を求めてフィールドを歩いて回っていた。そんな時にナザリックという拠点を手に入れて、もしかしたらブループラネットだけでも再現できたのかもしれないが、本物の自然の空気を前世で知っている俺も手伝って大森林を再現することになった。

 

 しかし、それでも苦労は大きかった。

 

 元々、4キロ四方という広大な面積を誇る階層であり、その大半が森林地帯で埋め尽くされていた。それも、ランダム生成されているとはいえ、本物の自然を知る者としては違和感を感じるフィールド。

 

 樹木や草本の種類は偏り、森林内を歩けば同じ景観が延々と続く。強力な大型の獣系モンスターはいるが、その餌となるような小型の獣系モンスターやそれ以下の動物や虫の類は皆無。食物ピラミッドが存在していないような歪な自然。

 

 当たり前だろう、制作側とていちダンジョンにそこまで詳細な設定を盛り込んで時間をかける訳にもいかないのだろうから。

 

 だから、本物の再現のためには俺たちが修整しなければならなかった。

 

 均一な地形に等間隔に木を植えたのでは規則正しくて作り物っぽさが出る。それではただの植林地でしかない。

 

 俺たちの目標は多様性があり、かつ限りなく自然に似せた森林をナザリックに再現すること。

 

 かといって、自然を全て人の手でデザインするのは困難をきわめる。

 

 だから、始めたのは森林以外の環境を整えることからだった。太陽の移り変わりに、日照時間、温度、降水に風の変化等々……膨大なデータクリスタルを投入して様々な環境条件を設計する必要があったんだ。

 

 そして多様な地形に整地し、岩を配置、土を入れた。苔を生やしてからなるべくランダムに集められるだけ集めた種を広範囲にバラ撒く。それをブループラネットが魔法で成長させた。

 

 何度も失敗し、時に植生する植物の種類が偏ったので、何度も環境を調整し、何度も物資が足りなくなってフィールドを駆け回った。虫や小動物、鳥型モンスターを導入し、また種をバラ撒き、たまにイレギュラーや災害を起こし、何世代も何世代も魔法で植生を更新させた。

 

 そうした苦労の結果、この大森林が出来たのだ。

 

 この夜空だって、大森林の修整と各種建造物の配置が終わり、変なテンションになった俺らがノリで再現すると言い出して、結局、後で地獄を見るハメになった。

 

 要はここは、俺とブループラネットの実験の場で、箱庭でもあった。

 

 アウラとマーレは興味深そうに聞いてくれたが、自身が住む場所がそうやって創られたと知り驚いてくれただろうか? 

 

 

 ☆月★日

 

 タッチが創造したNPCであるセバスとナザリックに戻って以降、全然会っていない。

 

 タッチとの付き合いも長かったし、セバスと交流しておこうと思ったのだが……

 

 モモンガが言うには、セバスは現在ナザリックの外におり、情報収集や魔法関連の品を調査しているらしい。

 

 居場所はリ・エスティリーゼの王都だ。

 

 そういえば王都にも行ったことがなかったな。

 

 何となく気が向かなかったのもあるが……魅力を感じなかったんだよな……

 

 貴族の腐敗やら、落ち目の国の中心ってことであまりいい話も聞かなかったし……

 

 だが、それもちょうどいい機会なので、モモンガに話して王都の観光と洒落込もうではないか。

 

 そろそろエ・ランテルにいるクレマンティーヌの様子も気になるしな。

 

 

 しかし、ナザリックを離れる前にやらなきゃならないことが一つ。

 

 ギルドメンバーにはそれぞれ個室が与えられているが、俺はもう一つ自身が管理していた小領域があった。

 

 種族スキルの特性上、何度死んだってデスペナを回避することができるが、それには条件があった。

 

 それは拠点を持っていることと、不死人が再生するのに重要な役割を果たす火の炉を設置し、コストを払わなければならないこと。

 

 既に一つ、篝火はエ・ランテルの墓地に作ってあるが、それだけではただの効果のない篝火だ。

 

 火の炉を設置することによって、不死人は本当の不死となり、火のネットワークを伝って、各地の篝火に転移することだって、魔法やアイテムを用いずに回復することも出来るようになる。

 

 その分、支払うコストとして定期的にソウル/魂を捧げなければならないが。今はストックがあるから良いが、その内補給の手立てを考えなければならないな。ちなみにユグドラシルでは、ソウル/魂は人間やモンスターから比較的簡単に入手できた。

 

 

 そんな火の炉が設置されていた領域は、溶岩エリアの片隅にある。

 

 ここ溶岩エリアは全体が熱で支配され、本来であれば、継続的に炎ダメージを与えるフィールドエフェクトがある。

 

 ただ、今はナザリックの維持費の関係でフィールド効果は切られており、ただひたすらに熱い場所になっているが。

 

 しかし、熱いといっても生者の生きていられるような世界ではなく、まさに地獄と呼ぶに相応しい場所ではある。

 

 溶岩の川が流れているような場所で生者が生きられるはずもないからな。

 

 

 遠くにデミウルゴスの住処である赤熱神殿が見え、溶岩の川からも少々はなれた岩場にポッカリ大きな穴が空いており、奥深くまで階段が続いている。

 

 階段を降り、立ち入りを阻むかのような大きな門を抜けると、そこは辺り一面に灰が降り積み重なり、火の熱で焼け、白く荒廃した遺跡がある。

 

 遺跡には領域を守る召喚モンスターの黒騎士達。

 

 それの更に奥。

 

 中心部には、幾年月も積み重なっただろう灰が絨毯のように敷き詰められ、足を踏み入れれば新雪のように足跡を残す。

 

 俺が火を継ぎ、薪の王のクラスを得た時の思い出深い場所の再現がここにある。

 

 

 遺跡の中心には、小さな篝火の形をした炉。

 

 火は揺らめきながらも熱を絶やすことはない。

 

 ……幸いにも、不死人の象徴たる火の炉はナザリックの転移でも消えることもなく、無事だったようだ。

 

 階層守護者であるデミウルゴスや黒騎士達には、ここに何人たりとも立ち入れないようお願いしておこう。

 

 

 ☆月★日

 

 ナザリックを一端離れることをモモンガに話したら同行者としてユリを付けられた。

 

 同行者を付けると言われた時、いらない、とは言ったんだがモモンガ自身もナザリックの外で活動する際には誰かしら付いているし、モモンガも今回は味方になってくれそうにはなかった。

 

 人選については、ある程度自衛でき、かつ人型のNPCから選ばれたようだ。

 

 ナーベはモモンガの冒険者時の相棒のためNG。

 

 ソリュシャンはセバスと共にナザリック外で調査の任務を受けている。

 

 エントマは一応人型ではあるが、人として世に出るには無理がある。

 

 シズはナザリック内のギミックを管理しているため、不用意に離れる訳にはいかない。

 

 ということで、残るは比較的軽い任務でカルネ村を監視しているルプスレギナとナザリックに常駐しているユリになるのだが……

 

 俺はユリを選んだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 確かにユリは、種族的特徴である首が外れるという心配はあるが、人型で戦闘もこなせるし、妥当ではある。

 

 それに、前にユリとちょっとした約束もしたからな。

 

 しかし、人選とかそれ以前に大きな心配事が一つあった。

 

 クレマンティーヌ。

 

 どこか行くなら置いてくなっていう約束。俺は同意した覚えはないけど。

 

 なので、一応、王都まで同行させる予定だったんだが……

 

 心配だったのは、悪人であるクレマンティーヌとアライメントが善であるユリの相性が良くないかもしれないこと。

 

 ひょっとしたらヤバイんじゃないかとハラハラしたが、実際に対面してみると意外なことに、奴はユリに対して特に大きな反応することはなかった。

 

 むしろ、ユリの方がクレマンティーヌに噛み付いていってるのが印象的だ。

 

 やっぱりアライメントが善と悪では相性が良くないんだろうか。

 

 

 ユリが仲間に合流し、三人、陸路でエ・ランテルから王都へと向かう。大体の旅程は徒歩で二週かからないくらい。道中、村や街がなければ野宿になることもあるだろう。

 

 モモンガからは下僕たちが心配するため日に一度はナザリックに顔を出して欲しいと言われているが、基本的にナザリックに常駐することを強制されてはいない。会議、という名目の相談会はあるものの、割と自由は効く立場──労働時間の定めの無い役員みたいなもの。

 

 ……ともあれ、徒歩では二週もかかる。ゲートの魔法を使えば都市間の移動などあっという間なのだが、それでは味気ないのも事実。

 

 道中の景色や歩みを楽しむのも遠出の醍醐味だろう、との思いで取り敢えず徒歩での移動を決めた訳だが……

 

 あいも変わらず同行する二人の仲は良くない。

 

 会った当初のような敵愾心マシマシな態度は隠れたものの、会話をすることもなく、お互いを存在しないかのように無視している。

 

 歩みよりも、気を使う方が疲れるんだが……

 

 やっぱり、最初からゲートで王都に向かった方が良かっただろうか……いや、今からでも遅くはないか……

 

 

 ……

 

☆月★日 ※2

 

 結局、王都で実行される予定の計画まであまり時間が無い事を理由に王都の近くにある衛星都市っぽい小都市の近くまでゲートで向かい、その街で宿を取って一泊。そこを日が登る前に出て、夕方前には王都に漸く辿り着く事が出来た。

 

 道中、モンスターが出てくることもなかった。

 

 ただまぁ、最短で移動したにも関わらず疲れた……だって、ずっとピリピリしてんだもん……そういうの苦手。

 

 

 リ・エスティーゼの門を抜けると舗装された広い道が王城まで続いている。

 

 しかし、一歩脇道にそれれば王都であるにも関わらず、脇道はろくに舗装もされていないようだ。

 

 遠くに見える王城や古めかしい街並みが風光明媚といえばそうだが、どこか影を感じる場所だ。

 

 前に訪れた竜王国の都市でも影を感じたが、あちらは外敵に対する不安が大きかったように思う。対して、こちらは不平、不満、不信感など抑圧された感情を多くの人から感じる気がする。

 

 俺達三人を舌なめずりして品定めしようとする者がいたり、酒瓶を持った男がわざとぶつかって来ようとしたりと、あまり治安も良くなさそうな印象だ。

 

 

 一方で、俺たちが滞在する予定の屋敷がある高級住宅街は、道も綺麗に舗装され、人の顔も明るいが……

 

 ここらへんは、治安がマシだということなのだろうか。

 

 とりあえず、ここを一先ずの拠点として今後、周辺の散策でもしてみようと思う。

 

 

 屋敷に到着後、セバスとも話したのだが、表向き俺たちはこの屋敷のガードやメイドとして働くことになる。

 

 モモンガにも相談したことだが、警備上の問題はないとしても流石に屋敷にいるのが年頃の令嬢と執事だけというのもおかしな話であるし、カモフラージュとしてメイドを雇うにしても家令がいないというのは組合にも疑念として伝わる可能性だってある。

 

 セバスとソリュシャンは帝国領地のとある商家を名乗り、王都進出のための事前調査という体で屋敷を借りているのだし、屋敷に護衛もおらず、二人だけというのはやはり不自然な気がする。

 

 まして、調査の矢面に立つセバスは、あのイケメンタッチに創造されたNPC。

 

 タッチ譲りの紳士なナイスミドルに、知らず心打たれた女性が量産されてましたなんてこともありえそうだ……

 

 とにかく目立つからな。タッチもセバスも……

 

 だが、それが役に立つ場面もある。

 

 ここでは近隣住民の余所者への信頼関係は通常皆無だが、イケメンとあからさまな善人に対しては警戒も多少は薄れるというもの。

 

 その点では、市井に紛れ込んでの調査にセバスはうってつけなのだろう。

 

 

 だが、セバスが目立つほどに、この屋敷を探ろうとする者も出るし、屋敷に違和感を感じる者も出て来るかもしれない。

 

 だから、表向きには俺とクレマンティーヌは警備として、ユリは令嬢役であるソリュシャン付きのメイドとして振る舞うことになった。

 

 屋敷に人の気配を増やすだけでも、ちょっとした違いで身分を偽っていることの違和感を隠すことができる。

 

 ただユリは別として、ガードというには俺は冒険者然としているだろうし、クレマンティーヌに関してはガラがすこぶる悪いのが気になるところだが……

 

 これでも体裁としては最低限度だとは思うが、人材不足だ。致し方ないだろう。

 

 一日の終わりに屋敷のガードとしてちょろっと周辺の散策を行ったが、特に目を引くものはなかった。

 

 なかなか良さげな酒場は見つけたがな。

 

(追記)クレマンティーヌのゲヘナでの衣装を考えていたら妙な空気になった。

 

 本当に女の考えていることはよくわからん……

 

 

 ☆月★日

 

 ところで、屋敷にはセバスとソリュシャンの二人だけ、と書いたが、屋敷に何者かの気配があることには気づいていた。

 

 セバスからは何も聞いていなかったはずだったが、聞き漏らしたのかとそれとなくソリュシャンに訊ねてみたら元々白い顔を何故か青白くして平伏された。

 

 聞けば、セバスが先日どこからか拾ってきた女を匿っているらしい。

 

 ……流石、タッチが創ったNPCである。

 

 何だか可笑しくなって笑ってしまったが、それで更に顔色を悪くしたソリュシャンには悪いことをしただろうか。

 

 

 実際、ソリュシャン自身はモモンガに伝えた方がいいのではないか、ナザリックの計画の邪魔になるかもしれないと何度も忠告したのだが、セバスが何だかんだと理由をつけて聞かなかったらしい。

 

 ソリュシャンは俺が屋敷に来たことで、流石に報告するつもりだったとか。まぁ、報告を受ける前に聞いてしまったが。

 

 とりあえず、モモンガには俺から知らせて、セバスからも話を聞いておく。

 

 青くなったまま顔色の戻らないソリュシャンを見てるのも、可哀相だからな。

 

 

 早速連絡してみたが、モモンガとの話では今はセバスの動向に注視して欲しいとのことだった。

 

 後々時間を作って、こちらに来るとも。

 

 

 王都について早々大変なことになったものだ。

 

 俺自身はまだセバスとはあまり会話も出来ていない。どんな嗜好を持っているのか、何を考えてどう行動するのか想像出来ない部分も多い。

 

 だが、ソリュシャンはセバスが裏切った可能性があると言っていたが……セバスは、あのタッチのアライメント極善NPCだぞ? 

 

 どうせ、誰かが困っていたら助けるのは当たり前! みたいな事なんじゃないのかねとは思っていた。

 

 NPCの性格は創造主に似るって言ってたのはモモンガだ。フレーバーテキストにも何も書かれてなかったらしいし。

 

 

 その後、セバスからも事情を聞いたが、奴隷の女を屋敷に招き入れることで厄介事を抱え込む可能性が高いことは分かっていたという。それがモモンガの、ナザリックの意思にそぐわない行為であるかもしれないことも。

 

 だが、そんな自問をしつつも、心の内には人を助けるという使命感が、創造主であるタッチの意思が心を縛るのだという。

 

 それは、まるで呪いのようだと。

 

 今でも自問している。モモンガの意思を顧みずに彼女を助けたことは、果たして間違ったことだったのだろうかとも。

 

 ……どうやら、創造主に性格が似るってのもその通りらしい。

 

 

 思い返せばタッチとは何度かぶつかった事もあった。

 

 意外なことに、道理に合わないことは正面から張り合って言い合うし、自ら折れることもしない負けず嫌いで頑固者。ナインズオウンゴール時代ではグイグイ皆を引っ張ってギルドマスターをしていた過去もある。

 

 やりたいことが一致することもあったが、やることなすこと大雑把で、集団内でものらりくらりしてた俺の性格に苛ついたこともあったはずだ。

 

 ぶつかり合った時も決着をつけるのにPVPじゃ分が悪いので、結局は言い争いになって暫くユグドラシルオンラインから離れた時期もあったっけ。

 

 だが、決して心根の悪い奴でないことは分かっていたし、嫌いにもなれなかった。

 

 そんな精神を受け継いでいると分かって、何となく嬉しくなったんだ。

 

 ナザリックのトップはモモンガだから何かしらの裁定は下るだろうが、俺は受け継がれた意思から目を背けなかったことに好意を感じる。

 

 自身の良心に従うのは簡単なことではないからな。時に、周囲から孤立し、何かを犠牲にしなければならないことだってある。

 

 それにはとても勇気がいるし、自身らしさを失って欲しくないとも思う。

 

 

 とか事情を聞いていたら、さらなる波瀾が次から次へとやってくる……

 

 屋敷を訪れたのはぶくぶくに肥えた官吏とやたら態度、人相の悪い自称女の雇用主。

 

 調査の矢面に立っているのはセバスなので俺は壁際で話を伺っていただけなのだが、どうやらセバスは金で女を無理矢理攫ったという話になっているらしい。

 

 結局は金での解決に持っていかれる流れになっていたが、アレはいかんな。

 

 一度、弱みを見せたら破滅するまで利用されるやつだ。令嬢役のソリュシャンにも下卑た目線を向けていたし、下衆な発言もあった。

 

 幸いにもユリは席を外していたが、ソリュシャンでなくとも顔を見せていれば寄こせと言われていたかもしれない。

 

 クレマンティーヌも部屋の外だが……まぁ、そんなことがあればすぐに手が出ていただろうな。

 

 さて、セバスはどうするつもりだ? 

 

 

 招かれざる客が屋敷を出た後、頭を冷やして来ると屋敷を出たセバスのことが気になり尾行した。

 

 これでもナザリックの面々の中では種族の特性上、斥候として働くこともあったからな。

 

 まぁ、だいたいは魔法だったり、種族スキル、装備アイテムのゴリ押しによる強行偵察だったが。

 

 弐式炎雷みたいには流石に出来ない。アレは特殊すぎる。

 

 魔法やスキル、アイテムで各種隠蔽を行いセバスを監視していると、騎士っぽい少年と刀を持った剣士とセバスが何やら話してたが特に面白いこともなかったし割愛。

 

 その後、送られてきた暗殺者を返り討ちにし、セバスは拾った女がいた拠点を潰すことを決めたようだ。

 

 全く、モモンガの計画に害が及ぶ前に排除しなければならず、急を要するのはわかるが、一言くらいあっても良いものを……

 

 状況が悪く、迅速な対応が必要なのも理解できるが……無駄に行動力がある所も、一人で突っ走る所もタッチそっくりだ。

 

 拠点と思われる建物に突入して暫くして、建物内の気配が消えていったが、中は血の海なんだろうな。

 

 

 建物内の様子を伺っていると、モモンガからメッセージが入った。どうやらこれからこちらに来るらしい。

 

 

 屋敷に戻り、モモンガに話かけ……ってこいつパンドラズアクターだ。

 

 すげーそっくり。たまにテンション高くなるのが違和感あるけど……

 

 デミウルゴス、コキュートス、ヴィクティムなど守護者揃い踏みでセバスへの詰問を行うようだ。

 

 パンドラに関してはデミウルゴスがセバスを警戒して、モモンガに危険がないかを確認するため先行して送られてきたらしい。

 

 俺に関しては何も聞いてはいないが、ユリが俺とセバスの間の位置に立っているので、そういうことなのだろう。全くいらない心配だと思うし、もしもの際には盾になろうという考えも気に入らないのだが、言われた訳でもないしな……

 

 しかし、ヴィクティムまで連れてくるとは……

 

 聞けば、ナザリックでは借りた屋敷とはいえ、ナザリックの領分に外部の存在を招き入れたことで、セバスが裏切ったのではないかと騒然としていたようだ。

 

 俺でさえ、仮にも眷属となった奴をナザリックに連れて行くのは躊躇したからなぁ……

 

 

 まぁ、それはいいとして。今、確かめなくてはならないのは、組織の最上位にいるモモンガの命令を忠実に遂行できるのか。

 

 この場で女を殺せ、と命じたモモンガ(パンドラ)に対してセバスは躊躇いなく腕を振り切った。

 

 拳は女を貫く直前にコキュートスが止めた。

 

 それで晴れてセバスの疑惑は払拭された訳だが……セバスが本物のモモンガに直訴し、セバスと共に生きることを選んだ彼女、ツアレは今後ナザリックで働くことになるようだ。

 

 直訴した際には、セバスとデミウルゴスが言い争うことになったが……本当に仲が悪いんだな。タッチとウルベルトがどうでもいいことでよく喧嘩していたのを思い出す。

 

 それはモモンガも同じだったようだ。

 

 

 今後、セバスはプレアデスのチームリーダーから外される。以後はプレイアデスとなるリーダーを、代理としてユリが務めることになる。王都での調査も終了とし、暫くしたら屋敷も引き払うことになるだろう。

 

 

 セバスだってここまで大事になるとは思っていなかったのではないだろうか。

 

 だがまぁ、モモンガ自身も内心ではセバスを疑ってはいなかったみたいだし、セバスの在り方を否定することもしなかったのは安心した。

 

 

 それと、モモンガから教えて貰ったのだが、彼女にはセリーシア・ベイロンという妹がおり、クレマンティーヌが殺害した冒険者ニニャと同一人物である線が濃厚らしい……

 

 一応、奴にも伝えておくべきなのかねぇ? いや、今はやめておこう……

 

 全く、人の縁とはどこで繋がっているのかわからないものだ……

 

 

 あーストレス……頼む。誰か、俺に癒しをくれー! 

 

 

☆月★日 ※3

 

 屋敷の警備くらいしかすることがない。

 

 稀にセバスと約束のある来客があるくらいで、俺はただ取り次ぐだけの簡単な仕事。

 

 ユリに関しては弾き払うことになった屋敷の片付けや備品の回収、整理。

 

 クレマンティーヌについては、やたらベタベタしてくるし、少し面倒くさい。

 

 

 仕事が楽なのはいいが、暇だなぁ。

 

 たまにはって、剣の手入れしたり、鍛錬したりもしてみたが……

 

 仕事中に酒飲んだら怒られるかな? 

 

 いや、結局、飲まんかったけど、時間見つけて酒場行くとかは別にいいよね? 

 

 ……

 

 クレマンティーヌとユリのガードキツくて行けんわ! 

 

 どこに行った、自由! 

 

 てか、こんな時だけコンビネーション見せんなや! 

 

 

 ☆月★日

 

 やばい、やばい笑

 

 アイツら目を離した隙に殴り合いしようとしてたわ。

 

 仲悪すぎでしょう? 

 

 ユリがガチギレしてて、決闘ふっかけてたんだが、何とか宥めてその場を治めることができた……

 

 しかし、本当に驚いたな。やまいこさんのNPCとはいえ、脳筋部分まで似なくてもいいだろうに……

 

 本当、殴ってから考えるとかはやめてくれよ……

 

 

 他にも、王都の冒険者組合にどんな依頼があるのか見に行ったら、いつだったか難癖つけられた仮面のチンチクリンやらもいたし、跡追いかけられて面倒くさいことになった。

 

 チンチクリンは妙なこと言ってて意味わからんし、今日は厄日か。

 

 

 俺の寿命がストレスがマッハ。内緒で酒場に行って、発散してきた。

 

 

 ☆月★日

 

 今日はモモンガからセバスのアフターケアを頼まれていたこともあり、一日、表向き護衛として行動を共にすることにした。

 

 昨日、デミウルゴスから依頼された牧場? で使う小麦の買い出しと共に、一日かけて各所にあいさつ回りする手筈だ。

 

 ユリはプレイアデスのリーダー代理として任務の打ち合わせ。

 

 クレマンティーヌには……ツアレがいた店の裏にいるという八本指を探るという体で、少し外出させた……が、実際には屋敷を外から監視させている。

 

 昨日、注意すべきだと言われたのだ。ああいった裏の連中は拠点が一つ潰されたくらいで諦めることはない。

 

 すぐに報復に来ると。

 

 それには俺も同意した。

 

 だったら警備として屋敷に残せばいいという話なのだが、起きるかもしれない襲撃を一度撃退したとしても意味がない。

 

 根本から解決しないことには。

 

 それに屋敷を血の海にするのは簡単だ。しかし、それでは大きな騒動になって目立ってしまうし、せっかく王都で築いたセバスの信用が崩れてしまう恐れだってある。

 

 それでは次にセバスが表で活動するかもしれない時に支障が出かねないし、ナザリックの損失にもなる。

 

 なので、言葉は悪いが囮として、屋敷にはツアレだけを残している。

 

 無論、彼女の生命が危機に陥った際には、影に潜ませたシャドウデーモンが身を守る手筈は整えてある。

 

 これも敵方の本拠地を突き止め、一網打尽にできる機会を作るため。

 

 セバスと彼女には敵方が押し入る可能性が高いことを黙っていて悪いが、協力して貰おう。

 

 タッチも善人のせいか甘かったからなぁ……他人が悪意を持って行動することを知っていても理解できないのだ。それで詰めを誤ることもあったし。

 

 

 挨拶回りの道中、セバスから拾ってきた女の身の上を聞いた。

 

 曰く、路地裏で袋詰め、ボロボロの状態で打ち捨てられて廃棄される寸前だったのを生きたい、と言われ助けたらしい。

 

 元々は王国のとある村出身らしいのだが、13の時に貴族の妾として攫われ、散々弄ばれた後に質の悪い娼館に売り飛ばされた過去があるようだ。

 

 そこで、なんとも筆舌に尽くしがたい経験をしてきた。

 

 で、身も心もボロボロになって生死の境を彷徨い、殺される寸前にセバスに救われた、と。

 

 ……あれは、依存してんだろうなぁ。

 

 セバスに殺されようかって時にも、セバスに殺されるなら本望って顔してたしな。

 

 

 この人は私を助けてくれた。

 

 この人は私を見てくれる。

 

 この人の側は居心地がいい。

 

 この人は私の唯一の味方。

 

 この人がいない生活は考えたくない。

 

 この人に嫌われることが怖い。

 

 この人に見捨てられるのが怖い。

 

 嫌われる、捨てられるくらいなら、この人の手で死にたい。

 

 

 セバスは覚悟すべきだろう。抑圧され、深く傷ついた精神というのは並大抵の努力では癒されることはない。

 

 彼女は言うなれば継ぎ接ぎの心。

 

 きっと恐怖で夜も眠れないし、ふとした時に過去を思い出しパニックになるだろう。狂気に駆られ、自身を捨てたくなる衝動もあるかもしれない。

 

 まして、多感な時期を妾として過ごし、娼婦として多くの男の劣情や欲望のはけ口となり地獄を見たというならば、精神に歪みがないなど俺は信じられない。

 

 セバスはそれを支えなければならないのだ。もしくは、彼女を重荷と見捨て、自らの手で葬るか。

 

 それを選択しなければならないのが拾った者の責務だろう。

 

 

 

 さて、小麦を仕入れ、引き払う予定の屋敷に戻ると案の定もぬけの殻。応接間のテーブルには、八本指の仕業と思われる招待状があった。

 

 これよりナザリックから人員を集めて、八本指なる組織を掌握、副次的にツアレを救出するようだが、そこらはNPC達に任せようか。

 

 俺らは、ちょっと別行動といこう。

 

 

☆月★日 ※4

 

 これもクレマンティーヌからの情報なのだが、王国は身に巣食う犯罪組織である八本指の討伐に乗り出すらしい。

 

 一体どこからそんな情報仕入れて来たのか。当然の如くそういう情報は秘匿されているだろうし。

 

 一方、モモンガからも漆黒を王国の英雄へと登らせるための作戦であるゲヘナについては聞いている。

 

 だが、ゲヘナと平行して王国側が八本指の討伐に乗り出すということは……

 

 これは偶然ではないだろう。

 

 つまりは、ナザリックが王国の一部と繋がっていることを意味している。

 

 それも兵や冒険者を動員することのできる上層部。加えて、そいつはゲヘナで生じる王国側の損害を無視、もしくは気にも止めない性格である可能性がある。

 

 普通に考えれば異常。

 

 ナザリックが王国側と通じていることまでは知らなかったが、通じているとすれば作戦の責任者であるデミウルゴスしかいない。

 

 あのデミウルゴスが人間と取引……

 

 本来のゲヘナは王国側と連携する予定はなかったはず。

 

 人間を同列の存在に見ていないデミウルゴスが連携を良しとする相手とは一体……

 

 実はその組んだ相手は人間じゃなくて、異業種でした、とかってオチじゃないのかね。

 

 

 と、まぁ……これからゲヘナが開始する訳だが、俺は何の役として舞台に立てるのだろうかと作戦を聞いた時から考えていたんだ。

 

 モモンガは主役。

 

 デミウルゴスは脚本兼ヴィラン。

 

 その他、階層守護者達は各拠点の制圧。

 

 プレイアデスはデミウルゴスの配下として。

 

 そして、俺は……

 

 

 正直、やることねぇじゃん? 笑

 

 

 なんで、アルバイトでもしてようかなぁって。

 

 王国側の八本指討伐には一定ランク以上の者しか声がかからないだろうから参加するのは無理だとして……だが、いざゲヘナが始まってしまえば王国は大混乱に陥る。

 

 そしたら木っ端冒険者の手だって借りたくなるだろうしな。飛び込みでの参加だ。

 

 それを言ったらクレマンティーヌは明らかに不満気だったが。

 

 

……

 

 

 王都の中、住宅地や店通りを大きく囲むように炎の壁が立ち昇る。

 

 ゲヘナが始まる際の合図だ。

 

 どこからともなく悪魔が現れ、街中に様々な人間の悲鳴が木霊する。

 

 

 アダマンタイト級冒険者が指揮を取り、冒険者達や兵が怒号を発して悪魔に切りかかる。彼らは悪魔たちの隙を作り出して民間人を避難させてゆく。

 

 俺たちは冒険者たちに紛れ込み、悪魔を切り捨てては、地獄へと送り返す手伝いをしている。

 

 街中が混乱の中にあるので、正体不明の存在が一人や二人いたところで誰も気に留めることはなかった。

 

 皆が作戦の遂行に命懸けだった。

 

 

 そんな悪魔相手に切った張ったする俺は、旅の装束を身に纏った神官モドキ。

 

 随伴するクレマンティーヌも修道服を着て、物騒な大鎌を携えている。腰には刃のない柄がもう一本。

 

 今の彼女はフリーデと名乗る、修道女モドキだ。

 

 ……修道女と言えば彼女しか浮かばなかったんだ。

 

 フリーデと名乗るように言った時は怖かったなぁ笑

 

 誰? だなんて……

 

 でも、奴も実質コスプレだってのに、意外とノリが良いみたいだし口調まで変えていた。

 

 流石に、ここまでクレマンティーヌの普段とかけ離れていたら、身バレも心配ないよな……? 

 

 

 

 と、まぁ、正体を隠しつつ作戦に参加した訳だが。

 

 街の中心を目指して、道中で怪我人を見つければ、世にも珍しい火の癒しを。

 

 動きの悪い冒険者がいれば、生命湧きを。

 

 敵には鉄の剣と浄火の炎を。

 

 悪魔には煉獄の火がよく似合う……

 

 

 あ、寒い寒い。危険だ、妄言はやめておこう。

 

 

 気がつけば、俺らの後背には多くの兵や冒険者たち。彼ら戦士たちと共に街を囲む炎の中心へと歩を進めてゆく。

 

 中心部に近づくたびに微妙に悪魔たちのレベルが上がっているらしく、集まった冒険者たちではなかなか太刀打ち出来ないらしい。

 

 彼らの中にはミスリル級やら高位の冒険者もいるはずなんだがな……

 

 道中、悪魔側にいるユリとクレマンティーヌがかち合い、挑発し合うし……挙げ句、やり合う気マンマンだし。先に行けって何のフラグですか? 

 

 

 本当に勘弁して。

 

 

 ちなみに、街の中心部近くにいたのは、俺やモモンガからしたら雑魚ばかり。鱗の悪魔に朱眼の悪魔、魂食の悪魔などなど、レベルで言えば15〜20くらいか。それに加えて最下級の悪魔がわんさかいた。

 

 俺としては弱いモンスターやらを魔法でちまちま倒して回るのは流石にダルかったし、あんまり無双して注目されるのも嫌だったんだが……

 

 そういう意味では、街を仕切る炎の内側に突入する前、事前に召喚しておいた傭兵が戦力になったし、雑魚の相手を任せられたのは良かったな。多少楽出来たし。

 

 ちなみに俺の召喚スキルはストック可能な経験値を消費する傭兵ガチャみたいなものだけど、結果はまぁ、そこそこ。

 

 喚び出したのは一応ネームドのキャラクターのパッチに、不死人(亡者状態)が4体…………いや、これ実はハズレじゃね? 

 

 この世界に来てから初めて使ったスキルだったが、召喚されたのはどいつもこいつも俺が不死人のクラススキルを取った時のワールドにいた奴らのようで、パッチなんかは顔見知りの体で何となく馴れ馴れしい。

 

 しかも、召喚した場所の近くに偶々転がってた死体を依代にしたのか、全員霊体では無くなっている。はい……事前に調べておくべきでした。モモンガにも言われてたのに。

 

 そんで、パッチ以外の傭兵は亡者状態のため、顔がほとんどミイラだ。このままでは人間に見られたらアウトなので、装備で顔を隠させ、冒険者に扮装させる事にしたら怪しい集団になってしまったけど……まぁ、仕方ない。

 

 ついでに、カモフラージュとして冒険者証をクレマンティーヌのコレクションから一部拝借し、流用してある。

 

 

 そんなこんなで、人がいれば救助し、悪魔をやっつけながら進んでゆき……中心部辺りにいた悪魔たちを指揮していたアビスデーモンがいた。

 

 アビスデーモンと言えば、憤怒の悪魔やらと同格か、やや下がるくらいのはずだから、現地の人間にはまず対抗出来ないレベルのモンスターで間違いない。それも魔神とか呼ばれても可笑しくはないレベルの。

 

 当初はアビスデーモンはゲヘナに参加する予定はなかったらしいんだが、ゲヘナ作戦に一部修整が入ったらしく、投入が決まった……というのを、当のアビスデーモンからのメッセージで知った。

 

 ……おそらく、俺の見せ場がないってんでデミウルゴスが調整したんだろう。

 

 アビスデーモンも抜擢された事で大分意気込んでみたいだ。場を盛り上げる為なのか人間煽りまくってたし。

 

 ……ただ困ったのは、俺が目立つ事に消極的でいたら、焦り出したのかまたメッセージを飛ばして来た事か。

 

 曰く、何か私に失態がありましたでしょうかとか、気分が乗らないようですが如何されましたかとか。喜んで踏み台となりますので、遠慮なくやっちゃってください。御方の為、私も全力でお役目を勤めさせて頂きます。だってさ……

 

 そんなん言われたら、真面目にやるしかないやん……そのまま、なぁなぁで済ませたらデミウルゴスの激怒がアビスデーモンに向くのは必定。それが容易に予測出来たのか、何か背後に悲壮感出てたもんな……

 

 だから、アビスデーモンも宣言通りに人間の精神破壊させんのに全力だ。ドン底に叩き落として絶望させて、無理矢理にでも『悪魔を調服する聖職者』みたいな場面に持って行こうとするからオチをつけるのに苦労した……

 

 そこで、最古図書館の禁止エリアにあったウルベルト著『雰囲気の有る言葉集vol.2』が役に立った。ウルベルト、喜んでいいぞ……お前の黒歴史集はちゃんと現実で役に立った。

 

 あー、ほんと、顔隠してて良かったわ……

 

 

 ゲヘナも終盤。アビスデーモンを倒して作戦終了、といけば良かったんだがなぁ……

 

 ソリュシャンからメッセージで連絡があり、ユリとクレマンティーヌの戦闘を止めに戻ればユリはガチになってるし、クレマンティーヌはボコボコだし……

 

 

 もう、本当にやめてよね……

 

 

 

☆月★日 ※5

 

 瓦礫の撤去など、街の復興が早くも始まっている。

 

 こんな王都でも優秀な為政者がいたもんだ。

 

 

 本来であれば、ゲヘナの終了とともにナザリック勢は王都から撤退する予定だった。しかし、俺は未だ王都からは出立していない。

 

 というのも、デミウルゴスから報告があったからだ。

 

 今回、ゲヘナにおいて王国側の協力者である人物。王女であるラナー姫より拝謁の申し出があると。

 

 デミウルゴス曰く、このラナー姫は頭が相当キレる人物のようで、自身の大切な物を守り、目的を果たすためであれば、王国の民を売る事など躊躇なく実行するような外道らしい。

 

 本来、俺やモモンガがそんな危険人物に会うなど、ナザリックの配下的に勧めることはしないはずなのだが、最終的にデミウルゴスは俺に判断を求めてきた。

 

 ということは、拝謁に応じることで得られる何かのメリットが俺にあるか、デミウルゴスに何かしらの策があるということなのだろう。

 

 デミウルゴスの思惑が何であるかは俺にはさっぱりわからないが、流石に罠であることはないはず。

 

 拝謁の申し出を了解し、しかし、拝謁の申し出がナザリックの代表代理としてではなく、ゲヘナに参戦した聖職者に対してであったのは意外だったが。

 

 

 

 聖職者としての顔合わせということもあり、俺が王城へと出向く形になる。

 

 迎えに来た案内人は騎士のようで、何処かで見たことがあると思ったら以前セバスを尾行した際に一緒にいた少年だった。クライムと言ったが、こちらからは特に話すこともなかった。

 

 王城。あまり目立つことのない場所にある一室で会見は行われた。

 

 金糸のような輝く髪に、大きな青い目。外見は可愛らしいという言葉が似合うお姫様だった。こんな人物が本当にゲヘナの協力者とは思えず、内心、即刻帰りたくなったが何とか耐える。

 

 しばらく目を合わせて沈黙が続き、どちらから口を開くのか互いに伺っていると、最初に口を開いたのはラナー姫からだった。

 

 どうやら、要件自体はゲヘナでの救助の礼らしい。ゲヘナに協力してた身で何を言うかと思ったが、後ろに控えるクライムがエッライ、キラキラした目で此方を見ていたので何も言えなかった。

 

 その後もあたり障りのない会話があり、いくつか説法を求められたりもしたが、そういうのは本職の人にお願いします。まじで。まぁ、何とか誤魔化せたんだけどさ……

 

 

 ちょっとモモンガにも相談したいし、一度ナザリックに戻ろう。ユリも着いてくるらしいから、クレマンティーヌには留守番を頼んだ。

 

 ……奴は俺がナザリックに行くことをあまり良く思っていなかったみたいだが、今日は何も言わなかった。

 

 何かの前兆みたいで怖い。

 

 

 

(追記)悪いことでは決してないのだが、これはもしかしたらナザリックで騒ぎになるのではないだろうか……

 

 まぁ……良い思いをしたといえば、そうなのだが。

 

 廊下で会ったユリには何も言われずに逃げられるし、怒ってた? 少しやり過ぎたかな? 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

☆月★日

 

 ナザリックから屋敷へと戻り、屋敷から王都を出なければならない。

 

 このリ・エスティリーゼでは都市への出入りを厳格に管理しているわけではない。

 

 俺たちがそこまで気を使う必要はないのかもしれないが、どこに人の目があるかもわからないからな。 

 

 

 屋敷の外には何処かで見た冒険者たち。遭遇したのは確か、ゲヘナの中心地で苦戦していた所だったか。

 

 金髪縦ロールのお嬢様風だが、身の丈ほどの夜空色の大剣を背負っている女性。忍者のような装いで、露出の多い格好をしている女性。そして、仮面のチンチクリン……? 

 

 

 旅を急ぐ、という名目で半ば逃げるようにして王都を出てきてしまった。何でか尾行して来てるのもいるし……

 

 まだ全然王都観光出来てないのに……

 

 

……

 

 

 急に決めたことだったんで、クレマンティーヌとユリとは別口で王都を出ることになった。とりあえず、篝火のあるエ・ランテルに向かい、その途中でクレマンティーヌとユリの二人と合流した。

 

 エ・ランテル近郊。カッツェ平原の近く、ところどころに石垣が積み重ねられているが、家や建物はなく、丈の低い草で一面覆われた広い平地がある。昔はここにも人が暮らしていた村があったのかもしれない。

 

 夕日が世界を橙に染め、これから野営するかという際にナザリックに戻るという提案がユリからあった。しかし、それではクレマンティーヌを残していかなければならなくなるし、せっかく歩いた達成感が無くなってしまう気がした。

 

 ナザリックへの帰還を嫌そうにするクレマンティーヌに、そんな彼女に反発するユリ。二人が野営するか、帰還するかの言い争いを始めたが──日が沈みかけても決着はつきそうもなかったため、言い争いを打ち切って野営の準備を始めた。

 

 

 

 オレは天幕の設営、クレマンティーヌは周囲の警戒、ユリは料理の担当だ。

 

 俺はこっちに来てから何故か料理が上手く作れなくなっているし、今まで一人でいた時は街で買った食料を食べていた。当然、街にいる時は外食ばかりだったし、クレマンティーヌも多少は作れるらしいが得意でもないらしい。

 

 ユリはレベルこそ1だがコックの職業を持っているからな。料理バフこそ、あってないようなものだが、ユリの料理は普通に美味かった。

 

 ちなみに寝場所は結局、近くに人がいないことを確認してグリーンシークレットハウスを使うことになった。ちゃんと天幕も設営して、内側も整えたのに。ユリ的には至高の御方が野宿するのはNGらしい。

 

 

 たまたま草の生えていない土が剥き出しとなった場所を見つけ、そこで篝火を焚いた。

 

 篝火が赤くあたりを照らし、薪が爆ぜるパチパチという音とどこからか虫の鳴き声が聞こえてくる。

 

 

 クレマンティーヌとユリはやや離れた場所で会話の内容こそわからないが、何かを話しているようだ。

 

 傍目、クレマンティーヌがユリをからかい、ユリがクレマンティーヌに動揺しつつ反発しているように見えた。

 

 ただそこには、以前のような殺伐とした空気はない。

 

 俺が知らない内に、いつの間にか仲良くなって──いや、アレはマウントの掛け合いか。殺伐としてないだけで、特に仲は良くなってなさそうだ。

 

 

 仰向けになって空を見れば、この世界に来てからもう何度もみた夜空。

 

 転生する前には眺めていても特に何も思わなかった。

 

 転生してからは、空が見えなくなって何か大事な物が失われたようにショックを受けた。

 

 転移してきてからは、またよく空を眺めるようになった。

 

 広い空を見るたびに、自分の小ささが嫌でもわかるような気がする。

 

 フラフラと生きていることの気楽さ、鎮まってゆく感情、そして少しの寂しさを感じてしまう。

 

 どうしても、ため息が出てしまう。

 

 遠いところに来てしまった。

 

 何となく感傷に浸り、思い起こすのは友人だったブループラネット。

 

 この本物の空を見せてやりたかったと心から思う。

 

 もし、この手にあるワールドアイテムの力と不死人のスキルでアイツを呼んでやることができるのなら……

 

 だけど、アイツはもういない。現実はそんなに甘くはないことを知っている。

 

 だが、もしもそんなことが出来たのなら。

 

 

 

 なんとなく俺は白いサイン蝋石で自分の名前を地面に書き込んだ。

 

 しばらく待ってみても何も起こらず、ただやはりと落胆した。

 

 地面に残ったのは金色の文字だけなのが、奇跡など存在しないと言っているかのように感じられたからだ。

 

 寂しさを感じる。

 

 今はもう宙の彼方にいるはずの両親に、無性に会いたくなった。

 

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