※この作品はR-18です。

オリ主探訪日記   作:mimick

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4.クレマンティーヌ編※2ー1

 夕方、路地裏。

 

 人の目が向きにくい暗がりから、夕日で照らされ、赤い表通りが見える。

 

 表通りには、人の営みの様子が垣間見える。街の住民達は一日の仕事を終え、家路に着く時間帯。商人達は、そんな住民達を相手に一日の締めくくりとばかり、商いに精を出している。

 

 通りには、喧騒が溢れていた。街が静まるまで数時間の、短い賑わい。

 

 暗がりからそんな表通りを眺める女がいる。目深に被ったフードの奥から覗くのは、紅い瞳。

 

『イライラする』

 

『あの日から、あの男のことが頭にチラつく』

 

 女の表情は浮かない。何かを思案しているようでもあり、視線は人々の喧騒に向いているが、意識は他の事に向いていた。

 

 思案の先は、先日、イライラを治めるためにテキトーな人物を殺害しようと、目をつけた男について。

 

 実際には、イライラ解消のために襲撃したのだが、あっさり返り討ちにされたあげく、彼女の体を弄ばれてしまったのだが……

 

 

『気がつけばアイツを探している自分がいる』

 

『表通りで、酒場で、路地裏で』

 

 だが、思案の通り、男に用があるのであれば、彼の常宿に足を運べはいいのに。

 

 それが出来ないのは弄ばれた女としてのプライドか……何か切っ掛けを必要としている。

 

 

 女の身の内には、彼女でも判別できない、正体不明の感情がある。

 

『今までの自分にはなかった執着』

 

『でも、恋なんて臭いものじゃないのは確かだ』

 

 

 腕を組み、背中を建物へと預け、思案を続ける。熱の感じられない視線は表通りに向けられたまま。

 

 

 恋愛感情などというものはとうに捨てた。そんなモノに縋って生きられるほど、楽な道を辿ってきてはいないのだから。

 

『今あるのは体を弄ばれた羞恥と屈辱、そして、よくわからない期待感』

 

 無意識に自身の体を抱きしめる。

 

『なんとなく殺意はわかねーが……』

 

『この感情はあいつを殺せばなくなる?』

 

 

 不思議なこともあるものだ。

 

 プライドの高い彼女だ。好き放題にされたことへの屈辱や、責められ前後不覚となり変態プレイを受け入れてしまった羞恥はある。

 

 しかし、あれほど、無茶苦茶に体を弄ばれたのに男への殺意自体は沸いていない。

 

 何故? 

 

 彼女が気になっていたのは、感情の正体。

 

 

『よくわからない。内心では、殺してしまっては取り返しがつかなくなると訴える自分もいる……』

 

 普通であれば殺意を抱いてしかるものだが……

 

 

 彼女は表面的には頭の可笑しい狂人のように見られているが、内面的には冷静な思考を持つ一面もあった。

 

 しかし、獣に近いというか、人類最高峰の境地にまで鍛え上げられた身体には直感も備わっていた。

 

 よくわからない感情へのモヤモヤ。

 

 その感情を捨てることをしてはいけないと訴えたのが、直感だった。

 

 

 

 そして、気になっていることが、もう一つ。

 

『宿から出たあの時は、イライラは晴れていた』

 

『あの男といて初めて、身を苛むドロドロとした憎悪を吐き出せた気がする……』

 

 

 危険な任務をこなし、クソみたいな現実を生きてきたうちに、いつの間にか身の内に巣食うようになっていたドス黒い憎しみの感情。

 

 それはモンスターの屠殺や重要人物の暗殺などで役立つことはあれど、慢性的なイライラをもたらした。

 

 だが、男に抱かれた後、イライラはどうしてか、すっかり払われていた。

 

 あんなに清々しい気分は久しぶりで、灰色ばかりに見えていた視界が、目の前が急に明るくなったように感じた。

 

 それは、まるで生まれ変わったかのような気分で……

 

 しかし……

 

 

『カジットの計画は遅々として進まないし、最近では私を探す本国の奴らが嗅ぎつけたのかウロチョロしてる』

 

『クソつまらない……全てをぶち壊してやりたい……』

 

 黒い感情が首をもたげる。

 

 

『そして……いつの間にか身を苛むイライラ、憎悪ははじめから其処にあったかのだと言うかのように再燃した』

 

 

 鬱屈とした気分を晴らそうと、そこらにいる冒険者を手にかけてみたりもした。

 

 だが、気分は一向に晴れることはなかった。

 

『殺人なんかでは癒せない、苦しみ』

 

 あのなんとも言えない晴れやかな気分を味わった後では、殺人では絶対に辿り着けないと悟ってしまった。

 

 

 

『アイツに会って確かめたい』

 

『なぜ? どうして苦しみはあの時消えた?』

 

 アイツに抱かれたから? 

 

 わからない。

 

 

 どうして、あの男はこの体を蝕む憎しみを、一時でも消すことが出来た? 

 

『私は……確かめたい……』

 

 あの男の何が私を逸らせるのか。

 

 どうして、こんなにもあの男が気になってしまうのか。

 

 

 女の視界に、簡素な革鎧に身を包んだ男の姿が映る。

 

『……ようやく見つけた』

 

 

 

 

 

 女がいる暗がりから見えたのは、夕日に照らされ、赤く染まった男。

 

 

 ギルドで依頼を達成させてからの帰りなのだろうか。

 

 

 視線の先。

 

 

 

 ……? 

 

 

 

 

 ふと、夕日色に染まる男の後ろ姿が、異国の騎士鎧を身に纏った姿の、靄のように白い幻影と重なる。

 

 

 周囲の人間が男に注目する様子もない。

 

 

 頭が可笑しくなったかと、女が頭を振り、もう一度見るが、ただの革鎧姿の男がいるのみだった。

 

 

 気のせい……? 

 

 

 不可思議なビジョン。

 

 

 彼女はその類のタレントは持ち合わせてはいない。

 

 

 これは何かが起こることへの暗示かと、眉を顰めながら男の後を追った。

 

 

 ……

 

 

 男をつけた先。男は人通りのない、裏道へと身を潜らせた。

 

 男の常宿への近道でもあった。

 

「お兄さん、この間はよくもやってくれたねー?」

 

 女は男に対して、背後から声をかけた。

 

「あ? あぁ、アンタこの前の……」

 

 男が見たのは、全身をマントで覆い、フードを目深に被った女の姿。

 

 女が俯き加減だった顔を上げた。

 

 隠れたフードの奥からは紅い瞳と金色の髪、歪むように吊り上がった笑みが見えていた。

 

「どうだった? 気持ちよかった? こんなかよわい女の子をレイプするなんてさ……」

 

 突然声をかけられたかと思えば、自身をレイプして気持ちよかったか、などとのたまう。

 

「変態」

 

 その罵倒には、彼女が受けた変態行為に対する非難が含まれていたのだろうか。

 

 

 一寸の間が空き、男が鼻で笑うように、フッと音を鳴らした。

 

「アンタも余裕がないとこなんて、随分可愛らしかったぜ」

 

 思い出すのは、男の腕の中で許しを乞うように喘ぎ、乱れる女の姿。

 

 目の前の強気な姿からは、想像もつかないだろう。

 

 

「あんなに乱れてたしなぁ」

 

「経験の少ない未熟マ〜ンには、さぞ辛かったんじゃないか?」

 

 挑発するように返す。

 

 

「あぁ……!? てめー、殺されてーのか……!?」

 

「おい、おい……」

 

 煽り耐性低すぎだろ……という言葉は飲み込んだ。

 

 馬鹿にされたと感じ、激昂する女。

 

 男としては、遊び程度のただの掛け合いのつもりだったのだが……

 

 この程度でキレるとは……

 

 

「しかし……できんのかぁ、アンタに。出来るもんなら、やってみるか? ん?」

 

 だが、目の前の女は忘れてはいないか? 

 

 前回、自分を襲撃した時には、手も足も出ずに気絶させられたことを。

 

 男はニヤニヤと口許を緩ませて問いかける。

 

 

「てめぇ……今日は前みたいにはいかねーぞ……!」

 

 いつでも飛びかかれるように腰を落とし、手は腰元の武器に伸ばされていた。

 

 

 ……

 

 

 短気に見える言動とは反する、冷静な精神。

 

 目的のためには、冷静に任務を遂行してゆく。もしかしたら、彼女の言動は敵を欺くためのポーズなのかもしれない。

 

 つまるところ、彼女はただの狂戦士などではないということだった。

 

 マントを投げ捨てる。

 

 中から現れたのは、以前にも見た露出度の多いビキニにも似た革製のボディアーマー。

 

 動きを阻害させないためなのか、守られている場所は限られている。

 

 そのボディアーマーには、冒険者証が括り付けられており、それはまるで、彼女が刈り取った人間狩りの証明。ハンティングトロフィーのようでもあった。

 

「アンタ、やっぱりいい体してるよなぁ」

 

 露出の多い女の装いに、男の表情はニヨニヨと明るい。

 

 女から発せられる闘気には、気にもとめていないようだ。

 

 一瞬、男のなめるような視線に体を弄ばれたことを思い出したのか、羞恥に胸を庇いかけるも……そんなことをしている場合ではないと、羞恥を怒りへと変えて構え直した。

 

「……!」

 

 警戒した様子で、スティレットを抜く。

 

 抜いたのは右手の獲物のみ。左の腰には3本のスティレットが収められたままだ。

 

「何だ、前ので懲りなかったのか?」

 

 前回、襲撃にあった際にも目の前の女はスティレットを主な武器としていた。

 

 元来、スティレットは鎧の隙間から差し込んだり、トドメとして使われた武器であったことから主武器として扱われることは少ないという認識だった。

 

 なぜなら、スティレットの形状では精々30センチほどしかなく、武器を持つ敵を相手取るには間合いが圧倒的に足りていない。

 

 しかし、この目の前の女は持ち前の敏捷を活かして懐に潜り込み、急所に一突き、という暗殺者のような戦い方を好んでいた。

 

 また、男は知る由もないが、女が持つスティレットには魔法が込められていた。突き刺した際に魔法を発動させることで、内側から炎撃や雷撃を食らわせ、一撃の破壊力を補っていた。

 

 

 一方の男。

 

「よし……今日は俺も同じ武器で相手してやろうじゃないか」

 

 そういって、どこからが取り出したのは2つの装備。

 

 

 右手には、女が持つ獲物と同じくらいの長さのスティレット。

 

 左手には、小さめのラウンドシールドを持った。

 

 

「ナメてんのか、テメェ……!」

 

 ギリッと歯を食いしばる音が聞こえる。

 

 前回は間合いに優るロングソードで相手取った。しかし、今回は盾こそあるものの、同じスティレットで勝負するという。

 

 男の主武器は腰に帯びたロングソードだろう。使い慣れていない武器を構える姿に手加減のつもりなのか、と屈辱を覚える。

 

「おいおい、アンタこそ俺をナメてんじゃねーか?」

 

 男は自らの技量に絶対の自信を持っているようだ。

 

 来いよ、とスティレットを持つ手でクイクイと指で招く。

 

「クソがッ」

 

 走る。

 

 姿勢を低く。

 

 その姿はまるで疾走し、駆ける獣のようだ。

 

 勢いそのまま、下から突き上げるようにして男に右腕の突きをお見舞いする。

 

 対する男は右半身を前に出したスタンス。

 

 左手のラウンドシールドは心臓を守る位置にあり、反対の手にあるスティレットは軽く握られ刃先は少し下に構えられていた。

 

 

 カチッ! 

 

 

 スティレットの刃が合わさり金属音が鳴った。

 

 男が突き上げられた刃に対して、篭手を引っくり返すようにして刃先を円に回し、刃を絡める。

 

 脇に反らされた刃に、突きが失敗したことを悟った女。

 

 咄嗟に左手を地面につき、軽業師のような身のこなしで、斧を振り下ろすように右脚で蹴りを浴びせた。

 

 

 ガンッ、とただの蹴りとは思えないような音が響く。

 

 

 振り下ろされた脚の先には、ラウンドシールドが構えられ、衝撃を受け止めていた。

 

 巌のように、ビクリとも動かない男の体。

 

 体勢の不利から、蹴りの反動を利用して体を捻るようにして飛び退った。

 

 

 男の正面。

 

 女は猫のようにしなやかな体勢で着地し、四肢を地面につけた。

 

「アンタ、やっぱり猫みたいな動きするよな」

 

「……」

 

 女が応えることはない。

 

 再び、男の懐へと潜り込まんと、四肢に力を込め、跳躍した。

 

 ヒュッ! 

 

 ヒュッ! 

 

 ヒュッ! 

 

 と、勢いを殺すことなく、正面からの一点突破、隠すように抜かれた左手のスティレットによる下からの突き上げの急襲。

 

 左右から刺突を阻む腕を狙うように、連続して突く。

 

 間、攻撃の隙間を埋めるようにして、左右から蹴撃を浴びせるも、突きは全て男の手に持つスティレットで勢いを削ぐようにいなされ、蹴りは躱されるか、常に盾で受け止められた。

 

 

 転がるようにして、男の背後に回ろうとするも、右脚を起点として身を回転させる男は背を見せることはない。

 

 

 女が牽制のために突き出した刃に、男の刃がガチリと、噛み合う。

 

 

 十字に象られたスティレット。

 

 男は女の獲物の上から交差させるようにガードまで刃先を差し込み、女が武器を手放さないギリギリの力加減で手首を回転させた。

 

 

 伸ばされた腕から伝わる急な圧力によって、体勢が崩れタタラを踏む。

 

 

 瞬間。

 

 噛み合わせられた刃同士が解けた。

 

 

 ボッ! 

 

 

 風を切る男の突き。

 

 右脚で大きく踏み込み、体を沈ませるような体勢で腕を、女の瞬きの刹那に伸ばす。

 

 女には一瞬にして、間を詰められたように思えただろう。

 

 しかし、男の狙いは甘く、命を奪うつもりなど端からない。女の頬に一筋の赤い線が走った。

 

 女が頬の熱に気がついた時には、沈めた男の体勢は既に戻っていた。

 

 

 苦々しい表情で、大きく後退する。

 

 

 手加減された一撃は、女のプライドを酷く傷つけた。

 

「すかしやがって、クソッ! 今にその余裕消してやるよ!」

 

 

 〈不落要塞〉

 

 〈流水加速〉

 

 〈疾風走破〉

 

 〈超回避〉

 

 〈能力向上〉

 

 〈能力超向上〉

 

 

 武技と呼ばれる、精神力を使用して身体能力を強化する技術。

 

 一度に複数もの武技を重ねがけ出来るものは、近隣諸国広しと言えども限られてくる。

 

 女は正しく、天才的な才能を持った戦士だった。

 

 

 もしも、ゲームのようにステータスを確認することが出来ていたのなら、数値が跳ね上がっていたことがわかっただろう。

 

 その領域はもはや、人類最高峰。並び立つ者がいない程の強度にある。

 

 

 女が先程とは比べ物にならないほどの速度で肉薄する。

 

 その速度に男は動きを見極めるように目を細めた。

 

 

 縦横無尽に駆け回る。

 

「……っ!」

 

 上下左右から雨霰のように刺突が繰り出される。

 

「むぅっ……!」

 

 が、女の動きは見えている。

 

 嵐のような剣弾に、右腕のスティレットで次々に弾くように防いでゆく。

 

 

「おらぁっ!」

 

 渾身の力が込められた回し蹴り。

 

 

 ガゴンッ! 

 

 

 難なく受け止めることは出来たものの、受け止めたラウンドシールドを持つ腕は僅かに痺れていた。

 

 受け止めた腕の痺れに、一瞬意識を向けた。

 

 

 その刹那に潜り込んだ。しかし、実際に届くことはない判断し、弾き漏らした女の一撃が男の顔に迫る。

 

 

 ……が、腕は既に伸び切っている。

 

 

 やはりその刺突は男の判断通りに届くことはなく、男に傷をつけるまでには至らない。

 

 

「マジックアキュムレート、ファイアーボールッ……!」

 

 

 ニヤリと笑い、スティレットに込められた魔法を発動させる言葉。

 

 突き出され、目一杯伸ばされた腕の先。握られたスティレットの先端に赤く輝く光が発生し……

 

 男の顔を僅かに照らす。

 

 歪んだ笑みが向けられた先には、驚くような表情の男。

 

 

 だが……

 

 

 

 ダァンッ!! 

 

 

 

 男の顔の目前まで迫ったスティレットは大きく弧を描いて飛んでいった。

 

「なかなか惜しい一撃だったぞ」

 

 同時にスティレットを握っていた腕は弾かれ、高く手を上げる形になっている。

 

 

 パリィ。

 

 

 スキルではない、男の持つ技術。

 

 

 男はスティレットの先端から魔法が発動すると判断するやいなや、左手のラウンドシールドで素早く弾いたのだ。

 

 果たして、パリィは成功した。女の獲物を弾き、顔を狙っていた魔法を無効化することができた。

 

 

 完璧に不意を突いたはずの一撃を弾かれ、目を見開き驚愕の表情をする女を余所に、男の思考にあるのは殺してしまうような追撃はマズイというもの。

 

 

 もしかしたら、自身を傷つけたかもしれない存在に対して反射的に体が動いていた。

 

 スティレットで突くことは何とか堪える。姿勢を崩したまま、修正出来ていない女に対して、男は前蹴りを浴びせた。

 

「ぐぅっ……!」

 

 手加減をやや忘れて。

 

 

 ドッ! 

 

 

 ……ドゴンッ! 

 

 

 崩された体勢のまま、手加減抜き気味の前蹴りを食らったことで、勢いを殺すことも出来なかった。

 

 前蹴りの直撃した女は後方に勢い良く吹き飛び、路地裏の奥、角に当たる建物に背中から衝突した。

 

 辺りにはモウモウと砂埃がたつ。

 

 砂埃が晴れると、そこにはガラガラと崩れたレンガ造りの建物に埋まるようにして、昏倒する女の姿。

 

「やべっ」

 

 急ぎ、女の獲物を拾い、女に不可知化の魔法をかけると、回収。路地裏をあとにする。

 

 あとに残ったのは、崩れたレンガのみだった。

 

 

 

 ……

 

 

 

 意識がゆっくりと覚醒してゆく。

 

 目が覚めると、そこはいつか見たような石造りの部屋。案の定、部屋には簡素なクローゼットに机、椅子くらいしか置かれていない。

 

 そこは、あの男が泊まっている宿の一室だった。部屋にはランタンが置かれ比較的明るいが、窓から見える外は真っ暗だ。

 

 

 腕は前と同じように頭上で繋がれ、足は揃えられて拘束されていた。満足に起き上がることすら出来ない。

 

 

 意識が徐々に覚醒し、何があったかを回想する。

 

『私は確か……』

 

 不意を突いたはずの一撃は、男の持つ盾により弾かれ、回避する間もなく蹴りで吹き飛んだはずだ。

 

 そして、背中から壁に激突して.

 

 

 と、背中を意識するも痛みなどはなかった。

 

 

 辺りをキョロキョロと見回すと、机の上には空になったポーションの瓶が置かれていた。

 

 無駄に装飾がなされ、高級感のあるものだ。

 

 

 既に空になっていることから、気に留めることはそれほどなかったが、満たされた液体を見れば驚いていたかもしれない。

 

 なにしろ、満たされていたはずの液体は赤色であり、それは彼女の故郷にも伝説として伝わるプレイヤーの遺物なのだから。

 

 

 ガチャリ、と部屋の扉が開いた。

 

「あぁ、目が覚めたか。体の調子はどうだ?」

 

「全く……骨は折れてないようだったが、打撲で痛々しかったぞ」

 

 強化していたのが幸いだったな……と、男はそうは言うが、傷を作ったのは男の一撃によるものだ。女が男の挑発に乗ってやり始めたことではあったが。

 

 

「チッ」

 

 舌打ちする女。

 

 元々、男と話をするつもりではあったが、どうにも居心地が悪い。

 

 先程まで戦っていた男の前で、無防備に拘束されているせいだろうか? 

 

 モゾモゾと体をくねらせる。体の調子は悪くないが、何故か力が上手く入らない。

 

 女が身をくねらせ、豊かな胸が強調されたことで、男の表情はニヨリと和らいだ。

 

 

 眼福、眼福、と。

 

 

 女は知る由もないが、括られた両腕にはステータスダウンの腕輪が嵌められている。

 

 それは、ステータス半減と引き換えに耐性全般が特大上昇する代物で、たまたま手持ちにあった物だ。

 

 女の力が上手く入らないのも、腕輪のせいでステータスが半減したせいだった。

 

 

「……てめぇ、本当に一体なにもんだ。この私が一度ならず、二度までも……」

 

「んあ? なにもんって……ただの冒険者だが。多少できるみたいだが、アンタはそんな大層な奴だったのか?」

 

「……」

 

 ショックを受けたように黙る女。

 絶対にただの冒険者などではない、と彼女は思った。

 

 彼女は人類最高峰の強さを持っていることを誇示していたのだから。

 

 

「それで、今日は何のようだ? ただ抱かれに来たわけでもねぇんだろ」

 

「……あぁ? 誰がレイプ野郎何かに用があるかよ」

 

 ニヤニヤと尋ねる男の中では既に女を抱くことは決定事項らしい。

 

 女も女で、男といることで自分が持つイライラや憎しみを晴らしに来たなど言える訳がない。

 

 それではまるで、自分から抱かれに来たと言っているようなものではないか。

 

 

「まぁ、いい……用事については追々聞くとすっか」

 

「幸い、夜は長ぇんだからな」

 

「……」

 

 既に宿の外は日が落ち、電気のない世界の住人達は夢の世界にいる。

 

 起きているのはそれこそ、夜の営みに励む男女か酔っ払いばかりの酒場くらいだろう。

 

 女は男を直視できず、顔を背けた。また男に侵される未来を悟り羞恥心を覚えたか。

 

 

 一方、男は手づから、女が身にまとうボディアーマーを剥がしにかかる。

 

 シミなどない白い肌に、面積の小さい布に隠された豊満な胸を現わにしつつ、黒のニーハイと下着のみの姿にする。

 

 女は赤い瞳で男を睨むが、剥いてゆく途中、女に抵抗らしい抵抗はなかった。

 

 

「イイ景色だ」

 

「……変態が……」

 

 

 羞恥心。

 

 

 元々、体を隠すほどの装備ではなかったが、それでも急所は保護していたアーマーを脱がされては、心もとなくなる。

 

 女は男にほとんど裸になった姿を見られ、恥ずかしくなった。以前の行為を無意識に思い出してしまったのか、キュウッとお腹が切なくなった。

 

 

 あの責め苦のような快楽がまた……

 

 徐々に体の芯には熱が灯り始める兆しがある。

 

 

 羞恥に抵抗を覚える思考に対して、素直に反応する体。体はこれからの行為に、期待を示していた。

 

『人の気も知らねーで、スケベな顔をしているのがムカつく』

 

 女の視線の先にいるのは、ニヨニヨと自身の裸体を眺める男。

 

 

 ムカつく……が、不思議と生理的な嫌悪感はない。

 

 男が指先で白い肌を撫で上げる。

 

 ススッと肌を撫でられ、ビクリっ反応した。体の奥からゾクリとする震えが走った。

 

 

『焦らしてるつもりかよ、クソッ……』

 

 夜は長い。

 

 そして、体は正直なものだ。

 

 男は恥ずかしがる女と、これからの夜に思いを馳せ、笑みを深めた。

 

 

 ……

 

 

 胸を覆う、面積の小さな黒い肌着は既にはだけられ、女の大きな母性の塊を剥き出しにしていた。

 

 男の大きな手が、女の豊満な胸に沈み込む。手のひらに感じる突起が、僅かに手の表皮を擽る。

 

 

 やわやわ、と何度も揉みしだく。

 

 

 母性の塊をもみくちゃにされる感覚。自然と女の鼓動が早まってゆく。

 

 

 その感触は、遠い遠い過去に味わったプリンのような柔らかさを男に思い起こさせた。ピンクの膨らみに口をつければ、実際に女の汗を含んでおり、甘いかもしれないという妄想が浮かぶ。

 

 男はその衝動に耐えきれず、ピンクの膨らみに吸い付く。

 

 

 ジュッ、ジュルッ

 

 

 ツンツンと舌で胸の頂点を刺激し、刺激により勃起した乳首を舌で巻くように吸い上げてゆく。

 

 

「っ……」

 

 声が出てしまわないように耐えた。

 

 

 プリプリに勃起した乳首を舐められ、女には得も言われぬ快感が走るとともに、体が発情してゆく。

 

 味は残念ながら男の期待したものではなかったが、女から滲む汗は僅かに甘みを含んでいた。

 

 女が汗臭いということはない。むしろ、香水も付けている様子はなさそうなのに、不思議なくらい甘い香りがする。

 

 

 女が持つ、特有の香り。

 

 

「何だお前、水浴びでもしてきたのか?」

 

「……」

 

 鼻息が荒いまま、女は顔を背け、問いに応えることはなかった。

 

 ただ、もしかしたら抱かれるかもしれないとわかっていて汗臭いままで会うことは憚られただけだ。

 

 そのことを察せばいいのに、わざわざ口に出した男に少しイラッとした。

 

 

 

 

 時に右、時に左と、どちらか一方に偏らないように繰り返し、相互に胸をしゃぶり、突起を舌で嬲り可愛がる。

 

 

 舌で触れられる度に、もどかしい刺激が走るのか、女の体はモゾモゾと動き、体の芯に着々と熱は篭ってきている。段々と気分が高まってきたせいだろう。

 

 

 ジュルゥゥッ! 

 

 

 一際大きく、胸の突起を中心に吸い上げ……女がビクリと反応し、唇を噛みしめる。

 

 

 ポンッ

 

 

 吸った勢いのまま、顔を上げれば、そこにはピンッと立った乳首が男の唾液にヌラヌラと濡れて、存在感を示している。

 

 はぁ、はぁと息の荒い女の顔を覗けば、男に好き勝手に吸われ、次々と形を変える胸の様子を見ていた女と目が合った。

 

 

 フイと男から目を背ける女。

 

 

「なんだ、可愛い奴だな」

 

「……ぅるせぇ」

 

 その言葉は果たして聞こえたかどうか怪しいほど、微かなものだった。

 

 

 男が身を起こし、女の股を覆う黒い下着を剥く。

 

 現れたのはムアッと蒸れた女の秘部。そこからは発情した雌の匂いが漂う。

 

 

 脚をM時に強引に開かせ、股を覗いた。

 

 

 僅かに赤みを帯びてきた白い肌から続く、恥丘には薄い金色の草原。

 

 その下には多分に水分を含んだ谷が存在している。

 

 

「この、変態やろぉ……」

 

 あまりの羞恥に、目を白黒させ、力ない罵倒が囁かれる。声音には甘いものが滲んでいた。

 

 

 女は男の様子をチラチラと伺っているようで、男はその様子を知りながら、ゆっくりと、ゆっくりと秘部へと顔を近づけてゆく。

 

 まるで、女の羞恥心を煽るように。

 

 フゥーと息のかかる距離。

 

 

 女は男の吐息にこそばゆい思いをし、知らず、ドクドクと期待で胸が高鳴っている。

 

 

 パクリと女の秘所へと食いつき、舌でクリトリスを上下に舐め上げる。

 

 

 ビクンッ! 

 

 

 と、急にもたらされた刺激で腰が小さく跳ねた。

 

 女が無意識に期待していたモノの一つだった。

 

 

 自由にならない体のまま、延々とクリトリスを嬲られ、与えられ続け、甘く走る痺れを甘受させられること。

 

 それは一種の地獄でもあり天国でもあった。快楽で身を満たされる天国のような地獄。身を苛まれる地獄のような天国。

 

 

 嫌な気はしなかった。

 

 

 何度も、何度も丁寧に舌で優しく嬲ってはチュウチュウと吸う。

 

 

 ヒクヒクと腰が動きかけ、前のように荒々しいものではないのが、どこかもどかしい。

 

 

 前は、もっと下品な音をたてるくらい荒々しく吸ってくれたのに、と。

 

 

「そういや、アンタ名前は?」

 

 女の脚を大きく開かせ、顔を股に突っ込んだまま男は問うた。

 

 こんな状態で名前を問うことに驚くべきか、それともこの状況になるまで名前を知らなかったことに呆れるべきか。

 

 

「は、はぁ……? 何で……アンタに……教えなきゃ……いけない、ワケ……」

 

 

 ジ、ジュズズズゥゥ! 

 

 

 女が内心で欲していた下品な音をたてての荒々しい吸引。

 

「あ、ぁぁっ!」

 

 甘い嬌声が響き、顔を羞恥に染めた。

 

 その行為一度で、女の腰はビクビクと腰砕けになった。

 

 

「名前は?」

 

「言う、言うからぁ……」

 

 モゾモゾと身をくねらせ、秘部から全身に走る甘い刺激に耐える。

 

 彼女の名前はクレマンティーヌ。

 

 

「そうか、クレマンティーヌって言うのか」

 

 いつの間にか身を乗り出した男。

 

 

 クレマンティーヌは男の顔を初めて至近距離からマジマジと見た。初めて知ったが、男の瞳には黒く燃える環のような虹彩があった。

 

 

 燃える環のような虹彩は黒く揺れ動き、同じ形をすることがない。

 

 

 瞳の黒い環の中に映る彼女自身を見ていると、魂が囚われているかのように錯覚してくる。

 

 

 深い、深い闇の深淵を思わせる、もし吸い込まれれば戻ってこれないような瞳。

 

 

 クレマンティーヌは直感で、この男は自分と同じく地獄を知っているのだと感じた。

 

 

 いや、もしかしたらそれ以上の……

 

 

 

 

 暗い瞳が女を見つめている。

 

 

 

 

 不意に、何を思ったのか、男は金色に輝くクレマンティーヌの髪を指で梳き、優しく頭を撫でた。

 

 男の手は温かった。

 

 

「はっ? ばっ、やめっ……!」

 

 頭を撫でられたなど、いつ以来か。

 

 そして、誰かに優しくされたことも。

 

 

 

 頭を撫でられたことを切っ掛けとしてか、突如として記憶が蘇ってゆく。

 

 彼女の意識の向かう先は、記憶の遥か彼方。

 

 クレマンティーヌがまだ子どもで、世界の厳しさなど何も知らなかった頃。

 

 

 記憶にあるのは、彼女の両親と兄らしき人物の後ろ姿。表情は……影になっていて見えない。

 

 血の繋がった人物の幻影がこちらを見つめている。

 

 

 

 感じる視線が息苦しく感じて、呼吸が出来ていない気がする。

 

 

 

 思えばあの頃は、まだ皆が私に優しくしてくれていて……? 

 

 ……いや、そんなこと実際にあったためしがあっただろうか……

 

 

 私の心の拠り所とは、僅かな友人のみ。

 

 しかし、その友人も昔すでに……

 

 

 心にズシリと重くのしかかる負荷。

 

 

 再び蘇るのは両親が私に向けて手を振り上げる瞬間とこちらを見つめる冷ややかな兄の目。

 

 

 全身が水中に沈んでいるかのような圧迫感と体の動きを阻害されるような抵抗。気分は沈んでゆき、ドッドッと早鐘のようになる心臓の動悸が痛みを発している。

 

 

 彼女自身、避け、知らず知らずの内に考えようとはしなかった事。

 

 

 私には何もない。

 

 辛いときに縋るべきモノも。

 

 核となる確固たる信念すら崩れ落ち……

 

 

 私の心にはぽっかりと穴が空いていて、何か大切なものが常に垂れ流されている気がする。

 

 私は何のために生き長らえている? 

 

 耐え難き、孤独感。

 

 

 そのことに、どうしようもない不安と恐怖を感じる。

 

 

 混濁した記憶を認識するとともに、抑えられない恐怖に気が動転してしまう。

 

 

「……や、やめ! わ、たしをみるなぁ!」

 

 

 凍えているかのように、震える体。

 

 

 自覚したトラウマ。その切っ掛けとなった優しい手つきに、心が耐えられずに絶叫する。

 

 

 

 私に優しくしないで欲しい。

 

 優しくされては、今度こそ心が壊れてしまうから。

 

 

 

 過去の記憶のリフレイン。

 

 流れる。

 

 流れてゆく……

 

 走馬灯のような映像。

 

 

 どうしても忘れられずに、彼女を縛り付けるもの。

 

 それは彼女がいつか憧れた景色であり、現実にあったトラウマでもあった。

 

「ぅ、ぅああぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 ……

 

 

 

 熱も冷め、無味乾燥とした部屋が、彼女には灰色に映っている。

 

「落ち着いたかよ」

 

「……もう、いい」

 

 男は突然絶叫し、暴れ始めたクレマンティーヌに驚き、落ち着くまでキツく抱きしめた。

 

 

 腕輪はつけたままではあるが、腕を括っていた手枷は既に外してある。

 

 

 何かに耐えかねるように狂乱していたクレマンティーヌが落ち着くまで抱きしめ続け、男の背中には彼女が力一杯引っ掻いたせいで、赤い線が幾筋も走っていた。

 

 更には肩口には噛み付いたのか、歯型がいくつもあった。

 

 

 ステータスが半減した状態でこれとは……腕輪をしていなかったら酷かったかもしれないと男は思った。

 

 

「……お前、なんかあったのか?」

 

「うるせぇ……テメーには……関係ねーだろ……」

 

 返す言葉は弱々しい。

 

 

 クレマンティーヌの顔に浮かぶのは泣き喚いたことへの肉体的、精神的な疲労感か。または、トラウマを刺激され無様な醜態を男に見せたことへの遣る瀬無さか。

 

 男がクレマンティーヌに話を切り込むも、彼女の表情は浮かない。陰鬱なものだ。

 

 

「性格歪んでるし、精神不安定なのな……」

 

「ぅ、るせぇ……知るか、よ……」

 

 男からしたらクレマンティーヌの在り方はよくわからないものだった。

 

 通り魔などといった犯罪で、彼女がいったい何をしたいのかも。

 

 短い時間話した限りでは、内面と言動が釣り合っていないようにすら感じる。

 

 

 まぁ、それはいいとしても……頭を撫でたくらいで精神崩壊しかけるなど、どうみても異常でしかない。

 

 男はクレマンティーヌが何かトラウマを抱えていることを悟った。

 

 

 そして、それを図らずも彼自身が刺激してしまったことも。

 

 

「まぁ聞けって。体を合わせた仲じゃねぇか。話してみろよ」

 

 男の黒く燃える環が浮かぶ瞳には、表情の抜け落ちた、虚ろなクレマンティーヌが映っていた。

 

 

 

 

 それから、クレマンティーヌはぽつりぽつりと話始めた。

 

 曰く、家族の愛が全て兄に向いていたこと

 

 曰く、兄と比較されてきたこと

 

 曰く、幼い頃にまわされたこと

 

 曰く、拷問、人殺し、虐待、友人の死、誰も助けてくれなかった事……出るわ出るわトラウマの種のパレード。

 

 こいつの過去は一体どうなってるんだ? と思う。

 

 

「そうか」

 

 男はクレマンティーヌの話を聞き、同情しかけた。トラウマになり得る原因など幾らでもあったように思う。

 

 しかし、クレマンティーヌが欲しているのは、そんな安い同情などではない。

 

 

「……そんなの、嘘に決まってんだろ」

 

 多少、気分が落ち着いてきたのか、フンッと鼻を鳴らして、嘘だとのたまう。

 

 どこまでが本当で、どこからが嘘なのかは男には判別できなかったが、クレマンティーヌが暗いものを抱えている事は確かのようだった。

 

 

 

 

 虚ろなクレマンティーヌの心の内。

 

 クレマンティーヌは自問自答する。

 

 彼女はこの世の生き地獄に疲弊していた。

 

 

 

『欲しい……』

 

 何を? 

 

『わからない。小さい頃から、私には何かが欠如していた』

 

 何が苦しい? 

 

『ぽっかりと空いた胸の内』

 

 なら、どうしたらいい? 

 

『それを埋める「何か」が欲しい……』

 

 もう、耐えられない。

 

『欲しい、欲しい、欲しい……苦しい……』

 

 近くにソレがある気がする。だけど……

 

『どうしても欲しいものが、目の前にあるのに手に入らない時のような気持ち……』

 

 いっそ狂ってしまえたら楽になるのだろうか……

 

 息苦しくて.

 

『気が狂いそうだ』

 

 

 

 ……

 

 

 

「そんなこと、どうでもいいから……早く、続きを……」

 

 狂気が見え隠れした、どこか影のある女。男との行為自体を拒んでいるようには見えないが、どちらかといえば自暴自棄になっている印象がある。

 

 そんなクレマンティーヌの様子に、男は『こんな鬱陶しい感情、全てを忘れさせて欲しい』という意を汲み取れていただろうか。

 

 

 そして一つ、男は決意する。

 

「よし……テメーには俺の愛をくれてやる」

 

 どこか戯けた調子で言う。

 

 男は気でも触れたのか、おかしな事を宣った。

 

 

「はぁ? 愛? 笑わせんなよ……そんな詐欺に引っかかるやつは、頭の緩い、馬鹿な女だけだ……」

 

『それは昔の期待していた自分だ』

 

 クレマンティーヌは男が馬鹿な事を言い出したことを嘲笑した。

 

 

 彼女の故郷でさえ、そうだった。救いすらない神の愛だとか。そんなわけのわからないナニカに身を捧げるなんて、もはや真っ平ゴメンだった。

 

 親の愛? 兄の親愛? 異性からの愛? 全て嘘。……嘘! そんなものはなく、偽物ばかりが蔓延っている。

 

 

「んだぁ? お前、信じてねぇな?」

 

 男はニヤリと口許を釣り上げた。

 

「まぁ、愛はちょっと言い過ぎたかもな……だがまぁ、世の中にはお前の知らない世界がいくらでもあるのさ」

 

 

 瞑目し、男が言う。

 

「そこには心地のいい『快楽』に溢れた場所もあるらしいぜ」

 

 俺もよくは知らんがな、と続け、そこは女だけが辿り着ける境地らしい、とも。

 

 

「これはちょっとした疑問なんだが……」

 

「もしも……お前が愛を知らねぇってんなら……この先、愛に触れた時、お前はどうなるんだ?」

 

 きっと今のままではいられないんじゃないか? 

 

 ぽっかりと空いた胸の虚が、ソレで埋まるとしたら……

 

 クレマンティーヌは何になる? 

 

 

 

 男は再びクレマンティーヌの股グラへと座り込んだ。

 

 彼女の秘所は先程までは、男の舌で優しく嬲られ続け、厭らしい汁を溢れさせていたのだが……

 

 しかし、今は湿り気も少なく、貝も閉じかけている。クレマンティーヌのトラウマが刺激され、気分が沈んでしまった影響だろう。

 

 

 

 まぁ、やり直しだろう。

 

 雰囲気作りも、体のことも。

 

 まずは彼女の沈んだ気分を晴らすのが先決だろう、とどうしたらリラックス出来るかを男は思案するのだった。

 

 

 

 

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