※この作品はR-18です。

オリ主探訪日記   作:mimick

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42.フォーサイト編①

 此処は歌う林檎亭、バハルス帝国で活動するワーカー達が活動の拠点とする酒場兼宿屋。

 

 此処は一階は酒場で情報交換や打ち合わせをしながら食事ができ、二階から上が宿屋になっているという、よくある形式の建物だ。内装もあまり目立つところはないが、料理が美味いという一定の評価をワーカー達から得られている場所でもある。

 

 その歌う林檎亭の酒場にて、食事中の一団があった。彼らはカッツェ平原でのアンデッド討伐依頼を終え、ホームである歌う林檎亭に戻ってきたワーカーチーム、フォーサイト。

 

 彼らフォーサイトは帝国でも実力が知られた集団であり、数々のモンスター討伐実績を持つことから冒険者で言うミスリル相当の能力を有しているとも言われていた。

 

 フォーサイトのリーダーであるヘッケランはチームを統率する双剣士。金髪碧眼の男で、容姿は普通ながら自信のある態度で人を惹き付ける魅力を持っている。

 

 その彼の隣に座るイミーナは弓使いであり、フォーサイトの副リーダー。ヘッケランの恋人であり、勝気でつり目気味のハーフエルフの女性。チームでは遊撃手としての役割を担っている。

 

 法衣を纏う男性、ロバーテイクは信仰系魔法詠唱者であり、過去には上級神官の地位を持っていた。温和な顔立ちをした優しい人物で、報酬の一部を孤児院に寄付している善人だ。神殿のあり方に納得出来ず、出奔した経緯がある。

 

 そして最後の一人、アルシェは第3位階の魔法が使える天才魔法詠唱者。整った目鼻立ちに、意志の強い瞳。しかし、人形のように表情の変化に乏しい少女であった。彼女は帝過去に国魔法学院に通っていた過去があり、チームの頭脳としても頼りにされている。

 

 ──彼らは互いに足りない部分を補い合っている良いチームである。意思の疎通も問題はない。そして、今回も無事に依頼を終え、ホームである歌う林檎亭へと戻ってきた彼らは今後の予定の話し合いも兼ねて食事を取っていたのだ。

 

 料理を頼み、テーブルに全てが揃ったところでヘッケランは仲間達をぐるりと見渡し、声をかけた。

 

「さて、仕事も終えたことだし。明日から数日は完全にオフだ。俺はちょっと買い物でもしてこようと思っているが……皆はどうする?」

「私は特にやることないし、宿でゆっくりしているわ」

「私は孤児院に顔を出しに行く予定です」

「……私は妹たちと一緒にいたい」

 

 イミーナ、ロバーテイクの順で答え、最後にアルシェが答えた。アルシェが口にした妹とはウレイリカとクーデリカという双子の幼い少女たちのこと。

 

 普段、ワーカーとして危険なモンスター討伐に従事している事もあって、家族想いなアルシェは大切な妹たちと一緒にいる時間が中々取れないでいた。

 

 しかし、今回、仕事も終え、十分な報酬を受け取る事が出来た。そのため数日は妹たちと一緒にいられるということで、アルシェは表情こそ薄いものの、嬉しそうな雰囲気を出していたのだ。そんな雰囲気を感じ取ったヘッケランも優しい表情となり、アルシェに提案した。

 

「次の依頼の情報収集は俺とイミーナでやっとくから、アルシェは久しぶりに妹さん達と一緒に過ごしてやってくれよ」

「いいの?」

「ああ」

 

 頷くヘッケランに、アルシェはほころぶように笑み、ありがとうと礼を述べた。妹達と一緒に過ごせる。それがどれだけ幸せな事かを知っているアルシェは待ちきれない様子だった。

 

「……じゃあ、私は行く。皆はゆっくりご飯食べてね。何かあったら連絡して」

「ああ、またな」

「ええ、またねアルシェ」

「アルシェさん、帰りはお気をつけて」

「……またね」

 

 ヘッケランとイミーナの返事にロバーテイクも軽く手を挙げて答える。そして、アルシェは小さく手を振り返すと妹達のいる家に帰る為に歌う林檎亭から出ていった。その後ろ姿を見送りながら、イミーナが口を開く。

 

「アルシェって妹想いよね」

「そうだな」

「家族想いなのは良いことです」

 

 イミーナの言葉にヘッケランとロバーテイクも同意する。三人にとってもアルシェのことは既に妹みたいな物だと思っている。複雑な環境に身を置いていても腐る事なく、前を向いている。アルシェは周囲に愛される素養を持った少女だった。

 

「しかし、アルシェのご両親は本当にどうしようもありませんね」

 

 ロバーテイクが眉を寄せて苦言を呈した。

 

 アルシェの家は没落した元貴族家であり、未だに没落した現実を直視出来ないアルシェの両親が貴族としての生活を続ける為に多方面に借金を重ねているのだ。そんな両親を見捨てる事が出来ないアルシェは両親の借金を返済する為に、ワーカーとして働いているという事情がある。

 

「没落した貴族ってのはそんなもんだろ。遅かれ早かれ身の破滅だ」

 

 ヘッケランが吐き捨てるように言った。ワーカーとして活動し、帝国において名が売れ始めた頃から貴族の腐敗ぶりを見てきた彼だからこそ出る言葉だ。一度堕落した奴は二度と這い上がって来る事はない。粛清が起こってからは特に酷い貴族は消えたが……

 

「貴族達は高尚なお題目を声高に叫ぶくせに、金と保身の為ならどんな事でもする」

「ヘッケランの言う通りよ。アルシェは運が悪かったのね……あんな親じゃなければ貴族として何不自由なく暮らせたでしょうに。……ま、後はあの子が、妹たちを連れて家を出る覚悟をしてくれたらねぇ……」

 

 イミーナが頬に手をついて、アルシェの今後について考える。しかし、家族想いで両親を見限る判断が中々出来ないというアルシェの性格上、それが難しいことも同時に理解していた。

 

「……ま、それはいずれアルシェが決めることさ」

「それもそうね」

「アルシェさんが妹たちを家から連れ出すなら危険な仕事は出来なくなります。アルシェさんはワーカー引退になるかもしれませんね……」

「まぁ待てよ。そこら辺の話はアルシェと相談してからだ。それに、俺らもアルシェを助ける事ができるかもしれねぇ」

 

 そうね、とイミーナが言った。三人ともアルシェの事情の事など重荷にも思っていない。むしろ、早くアルシェから相談して欲しいと思っていたくらいだった。

 

 

 ──ドアベルが鳴る。三人が食事をしていると、見慣れない集団が歌う林檎亭に入ってきた。集団は6人組で、その中にはヘッケランの顔見知りのワーカー兼露天商をしている人物もいた。彼らはフォーサイトの面々とはやや離れた場所に席をとったようだ。

 

 つい、いつもの癖でヘッケランは聞き耳を立ててしまう。他のワーカーや依頼、噂話の情報収集をすることは非常に重要な事だったからだ。噂話一つで、依頼の危険度が変わったりすることもある。ワーカーである彼らにとって情報収集は身を守る為の術でもあった。

 

 ──そうして、ヘッケランは聞き耳を立てて、どうやらその集団がチーム等を組んでいる訳では無いものの団結しており、郷里を同じくする者達であることを知った。

 

 更に聞き耳を立てて内容を整理してみると、それは近況の報告であったり、恋人が出来たとの話、仕事の話、そして、集団の内一人がつい最近帝都に来たらしく、金と仕事に困っているらしいというものだ。

 

「ヘッケラン……あまりあからさまに聞き耳を立てるものではありませんよ」

「へへ、いや、すまん」

「うわ……パッチがいるじゃない……私、アイツのこと嫌いよ。薄気味悪くて、性格最悪だし」

 

 ロバーテイクに指摘され、ヘッケランは言葉だけ反省した。しかし、気になったことをすぐにでも確認しようとするのはワーカーとしても当たり前の行動なので、あまり強く咎めることも出来なかった。

 

 そして、イミーナはその集団の中にパッチという男の姿を認めると、彼を嫌っているのか嫌そうに顔を顰めた。

 

「まぁ、その気持ちは分かるが、あいつは情報通だからな。ある程度、繋がりを持っておくのは悪い事じゃ無い。……ん?」

 

 ヘッケランはそこまで言って、集団の内の一人を見て小首を傾げた。どこか見覚えがある気がしたからだ。しかし、どこで見たのか、それが思い出せない。

 

「どうかしましたか? ヘッケラン」

「……いや、どこかで見たことある奴がいるんだよ。どこだったかな……」

「どれよ?」

 

 ヘッケランはイミーナに答える様に、左から何番目の男と伝える。そして、暫く記憶を辿っていると何処で会ったのかを思い出した。

 

「そうだ、思い出した。前にカッツェ平野で助けてくれた旦那だ。確かスケリトルドラゴンに追っかけられた時があっただろ」

「え、あぁ! あの時の? 帝都に来てたの?」

「あぁ、間違いありませんね。あの剣の腕……というか剣の鞘で骨を粉砕した腕力は見事なものでしたね……」

「ちょっと行ってくるわ」

 

 それは以前にカッツェ平野でエルダーリッチ兵団の討伐依頼を受けた時の事だ。エルダーリッチやその配下のスケルトンウォリアー、スケルトンメイジの掃討を何とか完了し、ヴァディス自由都市に戻ろうかという時に運悪くスケリトルドラゴンに遭遇してしまったのだ。

 

 難度こそ48と、エルダーリッチの難度66よりも低いモンスターではあるが、魔法の無効化能力を持っておりアルシェは戦力外になってしまい、只でさえミスリル冒険者のチームで何とか戦えるという相手に依頼で疲弊している最悪のタイミングで襲われたのだ。

 

 そんな時に偶々、カッツェ平野を調査していたという冒険者の旦那に助けてもらったという経緯があった。

 

 ヘッケランはやおら立ち上がると、その一団の所に向って行く。接近してくるヘッケランに気がついたのか、パッチがいち早く気づき視線を向けて来た。

 

 面倒くさい奴が来たな、とでも言いたげにパッチはヘッケランに対して嫌そうな顔を向けて来ていた……パッチ視点、ヘッケランは優秀なワーカーではあるが、知りたがりというか秘密を詮索して来る悪癖があり煩わしい一面があった。

 

 残念ながらパッチが願っていただろうコッチに来るなという思いも虚しく、ヘッケランは歩みを止めることもなくテーブルへと辿り着く。パッチは諦めて相手をしてやることにした。

 

「よぉ、ヘッケラン。また人の詮索か?」

「どうも。別に知った顔があったから、挨拶がてら話しに来ただけさ」

 

 ヘッケランの言に、パッチが不可解に思い眉を顰める。彼からすればヘッケランは顔を合わせれば挨拶くらいはするが、態々、長話するような仲では無い。精々が情報のやり取りくらいだからだ。では、誰が目当てなのだと注目していると……

 

「旦那、久方ぶりだな。俺の事覚えてるか?」

「ん……? いや、すまない、何処かで会ったか?」

「オイオイ、そりゃないぜ旦那! カッツェ平野でスケリトルドラゴンに追っかけられた時、俺らを助けてくれたろう!」

 

 声をかけられたのは集団の中にいたヘッケランが旦那と呼んだ一人の男。だが、当の本人──スケリトルドラゴンに追っかけられた時と言われても、旦那と呼ばれた男はヘッケランの事をさっぱり思い出すことが出来なかった。しかし、徐にメモ帳の束みたいな帳面を捲りだし内容を確かめると、あぁ、と得心しだした。

 

「……なんだ、あんたら顔見知りだったのか?」

「前にカッツェ平野に観光しに行った時にな。そう言えば数人モンスターに襲われていたのを助けた覚えがある」

「観光って……変わってんなぁ、旦那。カッツェ平野は観光するような場所じゃないと思うんだが……」

 

 パッチは内心で頭を抱えた。ヘッケランは口車に乗せるのが上手い奴なのだ。心配なのは同席している男──自身の召喚主であり自分達不死人の王が彼の話に乗せられて、不審に思われるような事を言い出さないかだ。

 

「旦那は帝都にはいつ来たんだ?」

「帝都に着いたのは二日前だな。帝都は活気があって良い街だな」

 

 そら来た、質問攻めにするつもりか、とパッチが警戒する。テーブルに座る他の男たちもパッチが警戒しているとあって目を細めた。

 

「おい、ヘッケラン。今、俺たちは大事な話をしてんだよ。遠慮してくれや」

 

 そう突き放すように言い放ち、シッシッと、あっちに行けという仕草をした。しかし──

 

「金の稼げる仕事のこととかか?」

「チッ……てめぇ」

「わりぃ、わりぃ! どうにも話の内容が聞こえて来ちまってよ!」

「……どういうつもりだ、ヘッケラン」

「オイオイ、そんなおっかねぇ顔すんなって。でも、珍しいな、アンタが熱くなるなんてよ」

 

 ヘッケランは立ち去る事も無く、むしろ挑発するように盗み聞きした内容を口にする──すると、パッチが不快な感情を隠さずに、低い声でその意図を問い詰めた。

 

 それに対して、ヘッケランは両手を軽く挙げながら軽い調子で応えるに留まる。段々と両者の間に不穏な空気が流れ始め……流石に男が仲裁に入ろうとするが──

 

「はーい! ちょっと、ごめんねー! ウチのヘッケランが失礼したみたいで。旦那もお久しぶり」

「大変失礼いたしました。リーダーが申し訳ありません。ヘッケラン、今回はあなたが全面的に悪いですよ。遅くなりましたが、お久しぶりです。あの時は助けていただいて本当に助かりました」

 

 イミーナとロバーテイクが先に間に割って入り謝罪した。ヘッケランはバツの悪そうな顔をしたまま、何かを言いかけたが……そのまま口を閉ざす事にしたようだ。

 

 そんなヘッケランの内心を見抜いているのか、イミーナはニヤニヤとした笑みを浮かべ、ロバーテイクはやれやれといった表情を顕にさせていた。

 

「……チッ……もういいから行け。話の邪魔だ」

「まぁ、そう言うなよ。お前達には言いたい事も言ったし、聞きたい事も聞けた。あと話してないのは金策くらいだろ。何か金になりそうな話があれば他にも聞いてみたいんだが」

「っ、アンタなぁ……」

 

 パッチが口元を引くつかせて男を睨むも、男はどこ吹く風といった様子を崩さない。イミーナとロバーテイクは視線のみで頷き合い、男から振られた話に乗ることにした。

 

「まぁまぁ。ヘッケランじゃないけど旦那の話には私も興味があるよ。金策ってなら、私らも相談に乗れるかもしれないし」

「私もです。それに以前、助けられた際に礼に酒を奢るという話もしていましたので。私は飲めませんが、一杯いかがですか」

「おぉ、そうだ! 旦那には奢らせて貰うからよ、ちょっと金が必要な事情って奴を聞かせて貰いたいな」

 

 パッチがやってしまったと、目頭を押さえた。イミーナとロバーテイクは只、ヘッケランを引き留めに来たのでは無い。むしろヘッケランが妙に気にしている旦那という男について調べる為に加勢に来ていたのだ。

 

「もう知らねぇからな」

 

 パッチは諦めたようにため息をついたのだった。

 

 □

 

「ヒィー、ヒー、ヒー!」

「ウヒャッ、ハーヒャヒャヒャヒャッ!」

「ハヒッ、プッ、クフ……」

「……」

 

 歌う林檎亭の酒場に大きな笑い声が木霊した。バカ笑いを続けているのはフォーサイトの三人組。アルシェ以外のヘッケラン、イミーナ、ロバーテイク。誰も彼も下品な笑い声を上げ、さも愉快だというように腹を抱えていた。

 

「何だよ、旦那。アンタ、金が無いのに困って同郷のヤツに無心してたってのかよ!」

「スケリトルドラゴンを単独で倒せるほどの実力者が、明日の生活する金の心配をしてるなんてね」

「そうですね……あれほどの腕なら引く手あまたでしょうに。資金だって稼ぐ手段は幾らでもあると思いますが」

 

 金稼ぎが下手クソってレベルじゃねーぞ! と、彼らは酒に酔ったように、顔を赤くさせ、腹を抱えて笑い転げていた。そんな三人を見て、男は早速後悔してきており不快そうに顔を歪めた。その心情を推し量るのは容易い。コイツら、何とデリカシーのない連中だろうか、と。

 

 確かに男──スケリトルドラゴンを倒した実力からして、金を稼ぐのに困る事は無いだろう。

 

 ……しかし、それはあくまでも帝国の外での話。この帝都では冒険者の仕事に有りつけない、とある事情があったのだ。それで男は本当に困っていたのに。

 

「……あぁ、実力についてはあんまり知られてねぇんだ。馬鹿みてぇな話だが、あのモンスター倒した、このモンスター倒したって一々組合に連絡すんのを面倒臭がってるらしいからな、この人は」

「……まぁ、ソロでスケリトルドラゴンブッ殺したって報告されても組合としても疑うだけだろうしなぁ。それを証明するもんもなけりゃ言うだけ無駄だ」

「そのせいで、このダンナは万年金級。この人もこの人で、有名になることも、一所に拘束されんのも嫌みたいだしな」

「……別に絶対に嫌という訳じゃないが」 

「いや、アンタには無理だろ」

 

 どう考えても、と。男の言い訳に対してパッチが即座に突っ込みを入れた。それに対して男は心外だとばかりに、ムッと不機嫌な表情をする。

 

「あー、たまにいるよな。彼方此方に移動して拠点が定まらない奴。たまに連絡取ろうと思っても掴まりゃしねぇ。そういう奴に限っていつの間にか死んでたりもするしな……大抵は拠点定めて依頼をこなすってもんだが」

 

 ヘッケランの言葉に男を除く全員が頷く。普通は拠点を構え、腰を据えてモンスター討伐依頼に向かうものだと。都市から都市へ、村やら森やら彼方此方に渡り鳥のように足を運ぶのは一般的な冒険者のする事ではない。変人の部類に他ならないと。

 

 反対に、男からすればモンスター討伐専門のどこが冒険者なのだという意識を持っていた。冒険者なら彼方此方、旅して回るものだろう、と。しかし、その認識はこの世界においては極少数のものであった。

 

 そして、イミーナが男に単純な質問を投げかけた。何で拠点を定めないのかと。その質問に対して男は口をつぐんだ。何故なら、ここで知らない土地を見る為だとか、この未知に溢れた異世界を満喫したいからだとか答えようものなら、道楽だと更に呆れられることは目に見えていたからだ。

 

 ……そして、口をつぐんだ事で逆にヘッケランに目を細められている男に、パッチはリスク管理を優先……意趣返しの意も込めて手助けを出す事にした。

 

 パッチが悪い人相を更に歪めて言う。

 

「……此処だけの話、この人が彼方此方に移動してる理由だがな、そこで作った女から所帯持つように毎回圧力掛けられてんのさ。要は自業自得で街から街へ逃げて回ってるってワケだ」

「サイッテー!!」

「おい! 平然と嘘をつくな!」

 

 イミーナが酒で赤らめた顔をくしゃくしゃにしてブーイングを飛ばした。男は飛んできた唾の飛沫を嫌そうに避ける。

 

「ウヒッ、ヒャーヒャッヒャッヒャッ!」

「逃げられた女性が可哀想ですね……手を出したのは普通の商売女では無いと言う事なのでしょうか。だとしたら相当な遊び人ですよ……」

 

 イミーナは既に出来上がっているのか酔っ払っており、もはや箸が転がっても笑いそうなほど。ハーフエルフの精神年齢は見た目では分からないが、彼女の場合は相応に低そうだった。

 

 反対に、酒を飲んでいない冷静なロバーテイクはこれ迄いったいどれだけ女性を裏切って、落胆させて来たのかと呆れ気味だ。危険の多い冒険者やワーカーという仕事柄、性欲の発散には商売女に相手して貰う方が手っ取り早く、商売女は本気になどならない為、後腐れない。それを態々、素人捕まえて相手させるとは……

 

「……裏稼業の頭のイカれた女に、お偉いさんとこの侍女。あぁそうそう、さる高名な女騎士様に手出したこともあるって聞くなぁ」

「おまっ、何処でそんな話をっ……」

「えぇ?? 否定しないの?? うわぁ……ダンナ、見かけによらず……」

「逆に凄えな旦那……」

 

 ヘッケランなどは逆に男として尊敬の域に入っているかもしれない。何しろ女性の属性に共通性が見出だせず、女選びに節操が無いように思えたのだから。いや、地位が高かったり、危険のある相手を選んでいる当たりスリルを楽しんでいる節があるようにも思えた。どう考えてもそれは、自分の首を絞める行為にしか思えなかった。

 

「しかもだぜ……」

「おい待て」

「色々とやり過ぎたんだろうな。とうとう冒険者組合からは犯罪者扱いときた。何処から手が回ったのか知らねぇが、依頼が受けられねぇんだと」

「うわぁ……それでか」

「旦那、それは自業自得なのよ」

「今は自身が仕出かしてきた事を省みる時期が訪れているのでしょうね……」

 

 これで印象操作は万全とばかりにパッチは言葉を並べ立てると、フォーサイトの面々がハァ、と呆れのため息をついた。どうやらヘッケランの知りたがりの性分は満たせたらしい。

 

 これで、男の印象は実力はあるが女選びにスリルを求めてしまい、普段の生活まで行き詰まってしまった仕様もない人。パッチは自身の王を踏み絵にする事で、王自身の素性と自分たち不死人の秘密を探られる事を避けた。

 

 勝手に踏み絵にされた男は……全てが嘘では無いというあたり、何も否定出来なかった。

 

 そして、話は最初の金欠の話に帰順する。

 

「……なぁ、旦那。ここだけの話、ちょうど良さ気な仕事があるんだが」

 

 一頻り笑ったヘッケランは男に対して、ここだけの話だと前置きをしてから話し始めようとする。内容は金に困っているなら、自分達の仕事を手伝ってみないかという勧誘だ。勿論、その仕事とはワーカーとしての仕事。ワーカーの仕事は冒険者とは違い、ギルドを通さずに請け負われる。そこにはギルドでも取り扱わないような危険な依頼も含まれており、報酬額も高い。

 

「ちょ、ちょっと、ヘッケラン。アレに誘うの?」

「なんだよ、反対か? 念の為ってやつだよ。旦那も金に困ってるみたいだしな」

 

 実力的にはイミーナも反対はない。男はスケリトル・ドラゴンを単独で討伐可能であり、足手まといになるような人物では無いと分かっていた。人物評に少し難はあるかもしれないが、自分とアルシェはその対象にならないとは分かっていた。だが……

 

「それはそうでしょうけど! そもそもアンタ、いくら何でも旦那誘う前にアタシ達に相談くらいするべきでしょ!」

「依頼まで日にちもねぇ。話をまとめるなら早いほうがいいだろ?」

「アンタねぇ……!」

「イミーナさん! ま、まぁまぁ、落ち着いて。ヘッケランにも彼の話を聞いて思うところがあったのでしょうし……しかし、どのみちアルシェさんには一言相談しなければなりません」

 

 アルシェは此処にはいないフォーサイトの頭脳担当だ。今は家族の元に帰っているが、彼女抜きに物事を決めるのはチームの意思決定の道理に反する。ヘッケランはバツが悪そうに頭を描いた。

 

「ぐ……それもそうか。すまねぇなダンナ、この話はまた後日ってことで……」

「ちょっと聞いてるの、ヘッケラン! だいたいアンタは──」

「イミーナさん、落ち着いて、落ち着いて……」

 

 男を置いてきぼりに、何やら喧嘩し始めたフォーサイトの面々。

 

 それを眺めつつ、パッチから事前に提案されていた北市場で不用品を売るという金策計画。露天に並べるアイテムは何がいいか……そして、友人であり既に帝国に入っている筈のモモンガはどこで何をしているかなど、頭に思い浮かべるのだった。

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