何かを思案するような男の姿。男がふと、どこからか取り出したのは、何の変哲もない石の皿だった。
皿を取り出す一方で、男が握っていた右手をゆっくりと開く動作をすると、そこには小さな火が灯っていた。
ランタンで仄かに照らされた部屋に、もう一つ光源が増えた。
〈ぬくもりの火〉
その火は小さく柔らかな灯り。
彼女の帰りたくもない故郷とはまた別の……どこか望郷の念を思い起こせるような、揺らめく郷愁の灯火。
それは遠い世界、旅人たちの寄る辺となった篝火にも似ており、仲間たち、家族たちの中心に置かれた団欒の火の原型にも通じていた。
そして、この世界では誰も知らないはずの、異界の既に失われたとされる呪術の火。
手の中に生み出された火をただ茫然と見つめる女を余所に、男は小さな火を石の皿へと優しく落とし、ランタンをフッと息で吹き消した。
光源が減り、女はランタンで照らされていた時よりも部屋が暗くなった気がした。
コトリ
と、火の乗った皿を近くの机に置くと、小さな音が鳴った。
部屋を仄かに照らしているのは、皿に乗せられた小さな火のみ。
「安心する火だろう?」
「……」
火を見つめる女。その火をぼーっと見ていると、体に蓄積していた肉体的、精神的な疲労が溶けて無くなっていくような気がした。
不思議な火だ。
ユラユラと揺れる火。ドロドロと纏わりつく陰鬱な気分さえ、抜け落ちてゆく気がする。
「前はよく仲間たちと火を囲んだものだ……」
今は一人でいる男にも、仲間と呼ぶ人間がいたんだな、と思考の片隅で女は思った。
薄暗い部屋。火に仄かに照らされる屈強な肉体の男と金髪紅目の裸の女。
どれくらい、二人で火を見つめていたことだろうか。
男が女に触れようと手を伸ばす。男の目には、火に照らされた女の陰影が浮かび、より美しく見えた。
一方で、クレマンティーヌはすっかり落ち着きを取り戻し、この場所に安心感を覚え始めていた。
「なぁ……そろそろ、スケベしようやぁ」
男がついに耐えられなくなったのか、悪巧みを企んでいそうな卑しい顔で女に迫る。小さな火を茫洋と見つめていた女を強引にベッドに押し倒すと、そのまま女の唇を奪った。
「は、はぁ? っ、あむ……ぁふっ……」
結ばれた唇から女の吐息が漏れ、抱き合った肌が擦れ合う。触れ合う肌は温かく、自分が一人ではないと孤独感を癒し、女に安心感をもたらす。
男の厚い胸板で女の胸の柔らかい膨らみがムニュリと潰れた。
女の腰元から伸ばされた手が桃のように形の良い尻を越え、会陰をクチュクチュと弄る。
「お、おぃ……てめぇ、調子に乗ってんじゃ……」
気恥ずかしさに身じろぎする。
谷の底は再び濡れ始めてきており、女にくすぐったいような、こそばゆい快感を伝えた。
女にニの句を接がせない。
「っぁふ、んむ……」
男の口づけは、優しいようで、時に荒々しい。突き出された舌は互いに絡み合い、味蕾に僅かに甘露な味覚を伝える。女が最後に口にしたのは果物だったのだろうか?
口を塞がれ、足りなくなった酸素を全身へと伝えるためか、胸がドクドクと早まる鳴る音が女には聞こえた。
トラウマという意識の底に眠る、消えることのない傷。先程感じていた精神にヤスリをかけるような息苦しさとは別物の……口を塞がれたことによる息苦しさは、逆に心地よさすら感じる。
足りなくなった酸素を求め、深呼吸に混じって、息遣いがふぅふぅ、と色を帯びていった。
女がより激しい接吻を強請る。
夕方、口汚く罵り、刃物で襲いかかってきた者とは、同一人物には思えないほど女は素直になっていた。
甘え方を覚え始めた野良猫、という言葉が男の脳裏によぎる。男はクレマンティーヌが生来、警戒心が強く、他人を信じることが出来ないとみた。
それも当然かもしれない。幼少時から虐待紛いの生活を送ってきたとするのであれば、強固な警戒心を持って然るべきことだ。
そうでなければ、自身を守ることすら叶わないのだから。
そうした所が少し似ていると思う。厳しい環境で生きた野良猫は警戒心が強く、人に慣れるのには時間がかかる。
だがしかし、女には警戒心が解け始め、周りに気を回す余裕が生まれつつある気がする。
それも、この場所が安全で、少なからず安心できると見定められたことが、警戒心を解き始めた理由の根底にあるのかもしれないと男には思えた。
「ん、うぅっ……」
反対の手で、クレマンティーヌの膣口に太い指を一本差し入れた。突如として入り込んできた異物に対して、ピクピクと媚肉が蠕動する。
敏感になっている膣の感触。その、こそばゆくも、快感を伝える感覚に女は身じろぎした。
女の媚肉が挿し込まれた指に絡みつく。中は柔らかく、熱が篭っており、男の指を濡らすとともに、ジンワリと温めた。
男が集中するかのように一度、瞑目する。これより男が施そうというのはソウル/霊気の業。この世界にとばされてきた時から宿っている力の一つ。
男が試そうとしているのは、肉体のみならず、霊体すらも男の腕の中に抱き込もうという試み。
霊体への抱擁が極上の快楽を生むという知識や、いつの間にか身についていた技能を試したいという気持ちもあったが……
重要なのは、霊体を抱くということは心身ともに深く繋がり合うということ。当然、その心の内が伝わり合ってしまうこともあるだろう。
そんな技術を持って、これから女に見せようというのは、彼の女への心の配り方。男が持つ、憎からず思っている女への好意。……クレマンティーヌの見た目だけは良かったこと、男が単純だったのが幸いだった。
クレマンティーヌは肉親、兄弟の愛を知らず、異性と関係を持ったことはあっても男女の愛を知らない。
あるのは、醜い感情や鬱憤をぶつけ合うような性欲処理のための自慰行為。もしくは、自らをお姉さんと自称し、まだ年若い少年を嬲る行為だった。
男が持つ女への好意が目の前に突きつけられて初めて、存在を信じようとしない女への証明となると男は信じた。
男の好意で女が心身共に包まれた時、女は何を思い、何を感じるだろうか。
ポッカリと心に空いた穴が塞がり、虚ろな心が満たされるのか。
または、突きつけられた感情を恐怖で拒絶し、男の前に二度と姿を現さなくなるのか。
はたまた、男の虜となり、薬物中毒者のように男を求めるようになるか。
例えば、例えば……
それは、やってみなければわからないことだった。
一方で、霊体を抱くということは、肉体を抱くこととは異なり、困難が付き纏うものだ。そもそもが、そういった知識がなければスタート地点にすら辿り着くことすらできないのだから。
しかし、魂を見ることも、実際に触れることさえ、男にとって容易いことだ。
何しろ男の種族は人の型であって人ではない。ソウル/霊気という霊体に作用する業をこそ得意とする不死人である。
時にソウル/霊気を武具や身に纏わせ能力を向上させたり、集めたソウル/霊気を槍として固め撃ち出すこともある。
果たして……ソウル/霊気の業を極めた男は、魂を肉体から無理矢理引き剥がし、己の力の一部として、吸収することすら可能とし、死人に仮初の命を与えることすら可能な化物であり、魂に関するスペシャリストであった。
薄暗く、小さな火に照らされた部屋の中。ユラユラと、男の体から青白いオーラが立ち昇る。
しかし、クレマンティーヌにその力の奔流が見えることはない。
ただ、口に出さずとも伝わり合う雰囲気とでも言えるだろうか……言葉では表現しづらい、感情を伴う波動を感じている。
クレマンティーヌに、浸透するようにして伝わる感情は彼女を慮るもの。男から伝わり、無意識へと訴えかける感情の波に心地が良くなり、無駄な力は抜けてゆく。
二人の息遣いと心臓のドクン、ドクンというシンクロする音が彼女に聞こえている。
鼓動が発する心地よい振動。
女は男の腕の中が、今は、世界で一番に安心できる場所だと本能で理解していた。
クチュクチュと、女の膣をゆっくりとかき回し、指を奥へと挿入してゆく。
指が根本まで埋まり、膣口が広がる感覚がした。
「ぅ、んっ……」
柔らかな連続した刺激の波に釣られて、感情が揺らぐ。
リラックス出来ている。心地がいい。
男は女の反応を見て、ゆっくりと愛撫を続けた。
人体の神秘。
目には見えない、精神の構造。魂を核とする霊体は互いに結びついており、感情に大きな影響を受けている。
嬉しければ、気分は高揚する。
悲しければ、気分は沈む。
感情によって精神のオーラの質は変化し、日々、同じ色をしていることはない。
男の青白いオーラが女を徐々に覆ってゆく。オーラが感情を媒介するのであるなら、彼女はもはや、男の感情の檻に囚われているのと同義だった。
人体に七つあると言われるチャクラの門。
肉体に存在する器官などではなく、霊体に関係し、正常に活動する上でのエネルギーの源となる場所。
チャクラの要所でも、オーラの色は異なる。
会陰から頭頂部に向けて存在する7つの門は、赤から青、紫へと上に昇るにつれて変化してゆく。
が、男の目には女の7つの門その全ての色がくすんでいるように見えた。
不摂生、不安、不信、慢心、そして憎悪。
あらゆる負の念を抱いた女の精神は病んでいることがまる分かりで、男は気づかれないように、ため息を小さくついた。
チャクラの第一門はちょうど男が伸ばす手の先、女の会陰辺りにある。
第一門が司るものとは、地に足をつけて現実を生きる生命力。粘り強さの証明。そして、罪、トラウマ、恐怖からの解放の象徴。
男が指を鍵状に折り、腹の内側のややザラザラとした部分を擦りあげる。と、同時に会陰を弄る手にオーラを集め、くすんだオーラを洗い流してゆく。
はぁはぁ、と女の息が熱に浮かされたかのように荒くなる。
何かに耐えるように身じろぎし、顔の方向を頻繁に変えるなど、落ち着きがなくなってきた。
「ぅ、んっ……」
焦れったい小さな快楽の波に、耐えられなくなってきたのか、女は自ら腰を回すように動かし始めた。
男が視認する会陰にある赤いオーラが鮮明になってゆく。
熱が篭り、体全体がポカポカと熱くなり、全身から玉のような汗が浮かんでいた。薄暗く判然としないが、白い肌も赤みを帯びているように見えた。
第一門から第二門へとオーラが漏れ、流れる。
臍の下。女性でいう子宮の位置にある第二門の象徴とは、マイナスの状態からの回復、変容の促進。そして、喜び、性、動き、変化など、人生を甘くするものに影響する。
子宮の位置。男の青白いオーラがくすんだオレンジ色を洗い流し、元来の夕日のように輝くオーラが顕になる。
夕日が螺旋を描き回転する。
女性が天国に昇るような快楽を受け取るために最も重要な要所。
即効性のものではないが、精神の復調は感情に作用し、身体に影響する。
そして、快感の限界値を引き上げる。
チャクラを、精神を抱きながらのセックスとは、肉体のみと比べて手間がかかる代わりに快楽の上限が高められるのだ。そして、精神的な快楽には際限すらなく、幸福感で満ちている。
口づけが激しくなる。貪りあうように。
「ん、ふぅー……あむ、ふぅー……」
隙間から溢れる女の吐息は熱い。
気づけば、先程熱に浮かされたような顔をしていた女は、熱病でも患っているかのように紅潮しており、瞳はトロリと溶けていた。
ドクドクと全身が脈動し、下腹部が熱を持って男の剛直が欲しくて堪らない。
淫らな穴の奥深く、子宮が男を求めて泣いている。
下はすでにぐしょぐしょに濡れ、ベッドのシーツに染みさえ作る程になっていた。
堪らずに手をのばし、太い棒を握る。女が握った肉棒は熱く、中指と親指が触れる事がなかった。
ぎこちなく、棒にあてがった手を上下させ、早く欲しいことをアピールする。
しかし、男はまだ本番行為に挑むつもりばなさそうだ。
『どうして、くれないの!』
『こんなに辛いのに!』
女は熱に浮かされ意識が朦朧とし、気が狂いそうになった。
「そろそろ、だな」
男の言葉に、女の顔が期待と安堵に歪む。
が、男は女の片腕を掴み身を起こさせると、股を広げさせたまま膝立ちの格好をさせた。
再び陰部へと手を伸ばし、中指と薬指で先程よりも激しく掻き回した。簡単にはイカせないように気をつけながら。
「あっ、あっ、あっ、あっ……」
空気と水気が混じり合い、クチョクチョと薄暗い部屋に厭らしい音が鳴り響く。
「天国への片道切符だ。帰りは……まぁ、何とかなるだろ」
激しく打ち寄せる快楽の波と熱に浮かされ、思考が巧く出来ない。視界が白く染まりかけ、意味のわからない単語が、遠くで聞こえた気がした。
腰を支える男のオーラは女の全身を余すことなく包み込んでおり、秘所へと伸びる手からは一際大きなオーラが青白く輝きを放っている。
チョンチョンと、挿し入れた二本の指先にあたる子宮口の出っ張りを指の腹で押し上げては、落とす。押し上げては、落とす。何度も何度も。
女の体にブルブルと震えが走るようになり、それに合わせて微細に揺れる乳を男は凝視した。
「ぁ、ぁっ……なんか、くるっ」
「む、り……こわ、ぃ……こんなのしらないぃ……」
「大丈夫だって……多分」
女の瞳は定まらず、虚ろ。
男の言葉は、完全に余裕のなくなった女には最早、聞こえてはいまい。
男の手によって、ビクビクと小さく痙攣する女の意識は強制的にどんどん高められてゆく。
女は産まれたばかりの子鹿のようにブルブルと震え、体重を支えようと男の背に手を回し縋り付く。
「よしっ! いけっ!」
ズルンっと指の腹で子宮口を大きく刷り上げた。と、同時に貯めに貯めた膨大な輝きを放つオーラの奔流が女の第一門へと殺到し、そのまま第二門へと押し寄せる。
あまりにも強力な波動が彼女の体に衝撃を伝える。
「きゃうっ」
奔流の勢いは留まることを知らない。閉じた第三門から第七門まで一気に強引に押し開け、第七門、頭頂部から男のオーラが噴水のように噴き出そうとしている。
その時、女は既に意識がなかったが、自身の背骨に沿って、大きな蛇が螺旋を描くように昇ってゆく様を幻視した。
「あっ、あ、ぁぁぁ……」
言葉を成さない、吐息のような喘ぎ。
蛇が螺旋を描いて昇るのに、ズルズルと引きづられるようにして精神がより高次元へと引っ張り上げられる。
抗うことの出来ない、力の奔流。
頭頂部に位置する第七門からオーラが噴水のように噴き出した。
と、同時に女の目はグルンと裏返り、ビクンッと一つ大きく跳ねると脱力する。男が腰を支えているせいで、背中が弓なりに仰け反る形になっていた。
女の身体が硬直することもない。女の意識は一瞬で天国に昇ったことだろう。
……
明るく、トロリとした黄金色に輝く、蜂蜜のような心地の良い海。
クレマンティーヌの精神は穏やかに揺蕩う蜂蜜の海に浮かんでいる。
心地の良い波がクレマンティーヌに打ち寄せ、ここでは全てが満たされている気がした。
体に縛られた精神の不自由も。
身を苛む憎しみの感情やイライラも。
全ての負の淀みが抜け落ちた。
蜂蜜の海は甘く、ジワリと優しい痺れが走り、精神に沁み渡るようで。
疲弊した心を優しく労るように癒やしてゆく。
これ以上の場所は、ないように思える。
どれほど、そうしていたか……
ふと、気づく。
ここには男がいないことに。
男はここが天国と言っていた。
なるほど、と女は納得する。
ここには苦しみがない。
全てが優しく、精神は自由だ。
しかし、男は言っていた。
女だけが辿り着ける場所があるとも。
ここがそうであるなら、こんな心地がいい場所なのに……と。
クレマンティーヌは男と心地よさを共有出来ていないことを残念に思った。
それは、精神の変容。
以前、男と出会う前には考えることすらしなかったこと。
どうやら、女は想像以上に男に心を許してしまっているらしい。
思えば、男との出会いは最悪であった。
イライラを解消するために殺害を目論むも、敢え無く、返り討ち。
果てには、お仕置きとばかりにレイプされ、男女が混じり合う苦しみすら感じさせる快楽を体に覚えさせられた。
その後、奇妙な男から逃げた女を待っていたのは以前のイライラや憎悪、孤独感。
そして……今はここに至って、側に男がいないことを寂しく思っている。
レイプする男も男だが、なんとも勝手な女だ。
あぁ、認めるしかない。
今、私は彼を必要としている。
逸るような焦り……この感情が何なのかはわからないが……
一人では、もういたくない。
戻らなければ……
心の穴は、塞がる。
情を溜め込むために。
それは良いことだったのか、完全な器となった心は彼女を苦しめるだろうことは間違いない。
……
金糸のような髪が、汗で肌に張り付いている。
脱力し、焦点はまだ定まらないようでフラフラしている。
意識はなく、ここではない、どこかを見ているかのようだ。
しかし……徐々に女の赤い瞳に理性の色が戻りつつある。
ピクリ、と反応を示す。
完全に意識が戻ってくると、女は男の胡座の上で子どものように抱っこされる形になっていることを認識した。
体を互いに向け合わせた形の対面座位。
男は女が戻ってくるまで、女の体を弄っていたらしい。
女の大きな胸にポツリと主張している乳首が唾液でか、ヌラヌラと光を反射している。
まだ発熱し、疲労感のある体。
脱力したまま、自由に動くことのない四肢。
しかし、意識は先程よりもはっきりとしている。
お尻に当たる熱い棒の感触がやけにくすぐったく感じた。
胸が何故か締めつけられるように苦しい。
これも身体が孕む熱のせいか。
女は自身の感情を理解しないまま、ノロノロと男の頭を掻き抱いた。
ジワリと広がる胸のウチの温かさ。
男が見ることの叶わなかった、女が無意識に浮かべた笑みは美しかった。
「どうだったよ? 天国の居心地は」
「悪くないけど……少し物足りないかな〜」
そうかよ、と男が返す。
「戻ってきたことだし、続きいくぜ?」
「はいはい……どーぞ……」
男はいつでも次の段階に進めるようにと、準備は万端だ。
性行への期待感は更なる興奮をもたらす。
女の膝裏から腕を回し、腰を掴み、腕力だけで持ち上げた。
秘所へと男の剛直をあてがう。
男が腕の力を抜けば、そのまま奥まで突き刺さるだろう体勢。
ハァー……ハァー……
男からもたらされる狂おしいほどの快楽がいつ来るのかと、胸がドクドクと高鳴る。
粘膜同士の接触が、どんな快楽を生み出すのかを二人は知っている。
女も、今までにないくらい顔が紅潮しているのがわかった。
顔面から火を吹きそうなくらい、熱かったのだから。
女の秘所からは液が溢れ、涎を垂らしているかのようだ。
穴に狙いを定め、腕の力をゆっくりと抜くと、重力に引きづられ太く熱い槍が、ズブズブと奥にまで一気に突き刺さった。
子宮が衝突した衝撃でヘコむも、ドロドロに溶かされた体は痛みを感じることはなく、ただ苛烈な快楽を伝える。
「うっ、ううぅぅぅ〜……」
掠れ、消え行く声。
奥にまで響く、もたらされた衝撃と快楽は、女の意識を一瞬にして狩り取ろうとした……
が、しかし、真っ直ぐに伸ばされた足は硬直に震え、背骨は軋みをあげるくらいに仰け反っているのに対して彼女の意識がトブことはない。
女は確かに絶頂を迎えた。
ただ、女の快楽に耐えられる上限が引き上げられただけのこと。
男は剛直がキツく締め付けられ、奥へ奥へと引き込まれるような膣の感触を感じていた。
「す、すっごいの、きたぁ……」
男とようやく繋がれたことで、クレマンティーヌの心に何かが生まれ、満ちてゆく。得体の知れない、温かく、ドロドロとした抗い難いモノ、色に例えるなら様々な色が混じり合ってできた黒。
虚ろだった心の穴は塞がれ、もはや溢れることの叶わない、人間を人間たらしめるモノ。
ピクピクと痙攣する身体。
女が目を瞑り、余すことなく快楽を享受する。頭から足の指先までピンッと硬直させていた身体からゆっくりと力が抜けてゆく。
「おっ? 意識トバなかったな」
「ふ、ふんっ……この……クレマンティーヌ様を……舐めるなっての」
口では虚勢を張っている。しかし、息遣いから察するに余裕があるというわけでもない。
「なら少し強くしても大丈夫だな」
「ぁ……? ちょっ、まっ……」
抵抗のためかペタペタと腕を男に押し付けるも、脱力し、上手く力が入らない。
オーラを再び纏う男。
「ちょっ……なんか、でて……」
オーラが女を包み込んでゆく。
伝わるのは、女を求め、荒れ狂う獣のような情動。
女がオーラを見えていることなど気にも留めていない。
男が荒々しく、まるでモノでも扱うように女の腰を掴み上下させ始める。
ズチュッ
ズチュッ
乱暴な扱き。女に対して、なんの配慮も感じさせず、拳のような鬼頭が子宮口をゴツゴツとノックする。
強すぎる快楽の波に、女は身を硬直させ、ただ歯を食いしばって耐えるしかない。まるで、嵐が過ぎ去るのを待つかのように。
「ったく、どんだけ待ったと思ってやがんだっ」
一発目、イクぞっ
という、声とともに男の一物が大きく脈動し、膨らんだ。
「……っ!」
女が広げられた膣の感覚に目を見開き、女の膣には一寸の隙間もなく、ミチミチに肉棒が詰まっている。
ドムッ
と、いうかのような勢いで男は射精を迎えた。
「ぁっ、いっ、くぅぅぅ〜……」
ビチビチとした活きのいい精子が女の膣の中で暴れまわる。
子宮口からは外れていたようで、子宮がヒリつき、灼けつくような熱さまでは感じなかったが、ジワリと浸透するような熱が広がっていく。
また、男の射精の衝撃は確かに女の子宮を揺らした。その快楽の大きさは計り知れない。
「ぁ、ぁ、ぁ……」
ビクビクと震える細い腰。
肉棒を柔らかく包み込む襞が、ヒクヒクと蠢く。
まるでもっと精を寄越せとでもいうかのように。
激しいピストン運動からの射精。大きな絶頂から脱力し、息も絶え絶えとなる女。さっきまでの虚勢もあっさり消え失せ、焦点があっているかも怪しい。
トロトロに融けた表情、ポッカリと空けられた口から涎が垂れ落ちる。
が、やはり気絶することは叶わない。
暴力的にまで押し寄せる、快楽の津波。ちっぽけな人間では抵抗などできようもない。ただただ、襲い来る快楽に耐え、身を持って受け止めるしかない。
気絶出来たとしたなら、どれほど楽だったろうか。
ここは正しく、快楽の地獄。
天国とは正反対の、強すぎる快楽が苦しみとなって身を苛む。しかし、何故か惹きつけてやまない、彼女自身が選んだ地獄。
あまりの責め苦に涙が溢れてくる。
「う、う、うぅぅ……」
「おーい、無事かー」
初めてがそうだったように、ペチペチと顔を軽く叩く。
ハラの奥に満たされた射精の感覚が強すぎたのか、呻くばかりの女。
「し、ぬ、しん、じゃうぅ……」
「いや、殺さねぇよ……」
「や、やさしふ……やさしふ、しへぇ……」
何とか話すことが出来る程の意識は保っているようだ。
男の声をちゃんと聞いているかどうかは……怪しい。
女を胡座の上から退かし、ベッドにゴロンと転がすも、女は脱力したままでハァハァと荒い息をつくばかりだ。
困ったもんだ、と男は溜息を一つ。
仰向けに寝そべる女を、コロンと転がし、腰を掴んで膝立ちの形にさせる。赤みを帯びた白い尻が男に向けて、突き出される。
肌はリンゴのように紅潮して見え、全身からは汗が吹き出ている。
細い腰から続く、丸い大きめの桃。
「やさしふ……やさし、ふ……」
モゴモゴと、女が枕に顔を突っ込み何かを言っているが、男は何も聞こえなかったことにした。
剛直を女の背後から突き入れる。
「あ、ああぁぁぁ……」
ピストンを繰り返す度に……
パチュッ
パチュッ
パチュッ
と、湿った肉同士を打ち付ける音が部屋に響き、女の喘ぎ声は枕に圧迫され、掻き消えていった。
ビクビクッ
と、腰が震え、ヘコヘコと上下する。
今、女がどんな表情をしているのかは男の位置からは見えなかった。
ドロドロに溶けた顔をしているのか。
快楽の苦痛で歪んでいるのか。
はたまた、白目を剥いて意識をトバしているのか。
ただ、キュッと剛直を締め付けたことを鑑みるに、淫らに堕ちた体はまたイッたようだ。
しかし、女の限界は近いのかもしれない。剛直を締め付ける膣の力は段々と弱まってきている。
男としてはやわやわと抱き締めてくる膣の感触も嫌ではなかったが、男はニヤニヤと嗤い少し遊ぶことにした。
女にもその感情が伝わったのか、ワタワタと逃げ出そうと動いた……が腰を掴まれ、逃げられるわけもない。
剛直で腹の下を圧迫するように扱き、抜くときは下腹部に力を込めて肉棒を膨張させ、女の下腹部に強く擦り付けるように一気に引き抜く。
「んお゛、お゛お゛ぉぉぉ……」
引き抜く度に腰は痙攣を続け、快楽の波に合わせるよう、ヘコヘコと動き出す。
くぐもった、喘ぎ声。
下腹部に力が込められる度に、剛直が一回りが膨張し、女は内臓が引き釣りだされるような快楽を味わっていることだろう。
何度目かの抽出。
女の腰がムズムズと微かに揺れ動く。
そろそろか、と突き入れた剛直を力を込めて引き抜く。
僅かにザラつく膣壁が剛直のカリに引っ掻かれるように接触し、ズルリと擦られた。
と、同時に女の股から透明な液体がプシャアー! と飛び散り、ブルブルと丸い尻が震えた。
噴き出した潮で、ベッドがビチャビチャに濡れ、それを狙っていたはずの男はペチンッと未だ震えたままの尻を叩いたのだった。
思いの外力が籠もっていたのかもしれない。女の臀部には大きな紅葉が咲いていた。
女は既にアヘアヘと何を言っているのかわからない。だが、責めはいつまでも続いた。
力が入らず、脱力したままの四肢。
腕は投げ出され、顔を枕に突っ伏したまま、尻だけを突き出している。
それでも、腰を掴み、責めようとするも……
「もぉ、いっはい……いっはい……らからぁ……」
「むい……らからぁ〜……」
突っ伏した枕から、泣き言のような、くぐもった声が聞えた。
「仕方ねぇ……こんくらいにしとくか……」
コロンと女を仰向けにひっくり返す。
女の、クレマンティーヌの瞳は泣き腫らしたかのように充血し、実際に受け止めきれないほどの快楽を受けた苦痛でべそをかいていたようだ。
「よく頑張ったな」
もう少しだからよ、と口づけた。
トロトロに融けた表情、目尻に滲む涙を見て、少しだけ罪悪感を感じるとともに、男は終わりを惜しんだ。
足を大きく開かせる。
太い剛直を咥え込んでいた女の秘部は赤く充血し、男の精液と女の愛液が混じり合い、ドロドロに白く濁っていた。
「これで終わりだからよ、気張れっ!」
腰を抱え、一気に奥まで突き込む。子宮に剛直が直撃し、男と女は深い場所で繋がっている。
クポンと子宮口が亀頭を咥え込んだ。
何度目かもわからない絶頂。
パクパクと音のない喘ぎ、女は不足した酸素を求めている。
二人の心に満ちているのは温かく、黒い、ドロドロとした多くの情。または互いを思い合う、愛情と呼ばれるものか。
女の、自身に向けて体を倒し、男に体を包まれたことによる安心感と独占欲。
男の、女を自分のものにし、めちゃくちゃに壊してやりたいという衝動に似た征服欲と支配欲。
「ぅあ、ああぁぁぁぁ〜……」
艷やかで、媚びを含んだ嬌声。
意識がとびそうで、とばない。与えられる快楽は何度も彼女を絶頂に押し上げているのに、果てがない。
既に何度もピストンを行い、激しく腰が打ち付けられビクンッビクンッと痙攣を起こしている。
だが、女の限界はもうすぐだ。
男の太い腕がクレマンティーヌの頭を掻き抱き、金色に輝く髪を乱す。
女の腕も男の首に回され、必死に縋り付く様は吹き飛びそうな意識を繋ぎ止める楔とするかのようだ。
「あっ、あっ、あっ……すっごぃの、くるぅ」
「あぁ、俺もイクぞっ」
上から押し付けるような、大きなグラインド。男の体が女に落ちる度に振動で胸が弾み、厚い胸板に押し潰される。
二人の体は熱を共有しているかのように、熱い。
「まっへ、まっへ……イッちゃうっ! いっしょ、いっしょがいぃ〜」
「なら、我慢しろやっ」
ネッチ、ネッチと子宮口がノックされ、女を壊すつもりで責め立てる。
何度も責められ、クタクタにほぐされた子宮。
男も強烈な快楽に歯を食い縛るようにして耐え、ドンッ! と一際熱を放つ剛直を奥へと突き刺した。
「ああぁっ! だ、め、イッ、くぅ〜っ……!」
男も剛直を締めつける強烈な快楽に呻き、ドクドクと熱い精液が子宮に流し込まれてゆく。
ビチビチと熱い精子が蹂躙せんと、ハラの中で暴れまわる感覚に連続で絶頂を迎える。
子宮壁に熱い精子が張り付き、ハラが灼けつくようだ。
こんなのを知ったらもう、他に満足を得ることも、忘れることも叶わないだろう。
女としての最上の悦び。
この男とのセックス。
「ぃ、イクの、とまらな、いぃ〜」
男にしがみつき、泣き笑いのように、アヘアヘと喘ぐクレマンティーヌ。
男の感情が女に流れてゆく。
女を愛しく思う気持ち。
ジワリと疲労した心身に染み渡り、満たされる。
男が女を強く抱き締め、荒く呼吸を続ける口を塞いだ。
女を征服された悦び。
女を蹂躙された悦び。
満たされた心。
「ぁ、ぁ……こぇ、し、あわへ……」
強大な快楽と幸福感。女は今度こそ、意識を空の彼方に飛ばした。
……
甘い雰囲気を残した、優しい火に仄かに照らされた部屋。
事後、クレマンティーヌを抱き締め寝ていると、彼女は疲れはあるが不思議な程に安らかな表情で独白する。
いつも何に対してか、わからないけどイライラしていた。今にも気が狂ってしまいそうだった。
親、兄弟、同族、信仰
全て、私を満たすことのなかったもの。
アイツらは正しく狂ってた。
こんなクソみたいな世界で生きて行くには、狂うしかなかったんだってわかってる。
きっと……そんな中で育ったから私も狂ってしまった。
だけど……冷静で、狂いきれていない自分もいた。
苦しかった……
今のお前は狂ってなんざ、いねーよ。
それ着けとけ。お守りだ。
渡したのは地味な首飾りの装飾品。赤い石の台座には革紐が通され、装飾品からは魔力を感じる。マジックアイテムだ。もしも、売るのであれば大量の金貨に替えられるだろうが……
クレマンティーヌはそれをとても大切な物であるかのように扱い、胸に抱いて眠る。
男の腕の中で子どものように。
そうか……私はずっと救いを求めていたのかもしれない……
こんな気持ち初めてだった。
……
目が覚めると、男の腕の中。
これは何だ?
そっと男に触れる度に感じる、胸の中の温かい感情。
それをどうしたらいいのか、わからなくて……
初めて知った、男の話していた愛を失うのが怖くて、私は……
私は自分のことが大事だ。
手放したくはないが、手放されるのは……もっと嫌だ。
──痛い
思えば馬鹿なことに……いっそ、失くしてしまうなら私から手放した方が楽なんじゃないかと思ったんだ。