※この作品はR-18です。

オリ主探訪日記   作:mimick

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膨らんできたトラベルノート(2)


あらすじ
・フォーサイト断罪済み

その後のナザリックでは……

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50.ユリ編⑥☆

 ──部屋の中で存在感を放っている大きな寝台。黒を基調とした寝具の中で、裸の男と女が情事に耽っていた。

 

「んお゛っ♡ いくぅっ♡」

 

 窓のない部屋の明かりは部屋に備えられている魔道具の仄かな明かりだけ。窓の無い理由、それは此処がナザリック地下大墳墓にある至高の四十一人のプライベートルームであり、此処が地下深くに存在するからである。

 

 室内に漂っているのは濃厚な男女の情交の匂いだ。

 

 男は女──ユリ・アルファの腰を掴み、突き出された臀部に腰を打ちつけている。湿っぽい破裂音を絶え間なく部屋の中に響かせ、激しい動きで快楽を貪っていた。

 

「ほら、好きなだけイッていいぞ」

「んひっ……♡ あ゛ぁあぁっ♡ おかたさまっ♡ おかたさまっ♡ イっぐぅっ♡」

 

 ユリの喉から言葉にならない快楽に染まった嬌声があがる。接合部では、ジュプジュプと淫らな音を立てながら女陰から男根が激しく出し入れされ、白濁した男女の体液が入り混じったものが泡立ち溢れだしていた。

 

「あっ♡ あっ♡ あああぁあぁぁっ!♡♡」

「おいおい。ベッドを汚すなよ。人に注意できたものじゃないな。なぁ?」

「ごめんなさ……ごめんなさっ♡」

 

 寝台には高級そうな黒のシーツが敷かれていたが、その漆黒を汚すように熱い飛沫が男根を銜えこんだままのユリの秘裂から飛び散った。迸りは直ぐには止まらず、噴水のように勢いを増していく。ビシャビシャと噴き出す潮が、染みとなって模様を描いた。

 

 ユリは絶頂の快楽に打ち震えるように背を仰け反らせ、その白く細い喉を震わせた。

 

「あ゛……あぁっ♡ ……あぁぁ♡♡ ……きもちぃぃ♡♡♡」

 

 消え入るような声。ユリは獣のように犯され、尻を突き出すような態勢で打ち震える。艶やかな荒い息だった。男はユリの絶頂が収まるのを待ってから、再びユリの腰を掴み上げると、再び荒々しく突き入れる。

 

「反省してるのか?」

「んひぃ♡ おかたしゃま♡ まっへ♡ つらいてすっ♡ すこしやすませっ♡」

 

 絶頂を経験したばかりの身体には、その刺激は強すぎたのだろう。ユリが悲鳴をあげた。しかし、その反応に気をよくした男は、そのまま激しい抽挿を繰り返す。グジュッブジュッと湿った音が大きく響く。

 

「嬉しいの間違いだろ」

「おかたしゃまぁ♡ あっあっあっ♡♡ あぁっ!!♡♡♡」

 

 男が腰を打ちつける度にユリの丸い臀部が衝撃で震え、ユリの口からは嬌声が絞り出されるようにしてあがる。その声色には男に対する媚びや服従、愛情、独占欲といった感情がグチャグチャに入り混じっていた。

 

「だめぇ♡ おかしくなるぅっ♡♡」

 

 ユリの表情は快楽によって蕩けている。アヘアヘと息も絶え絶えになりながら、一突きされる度に火に空気が送り込まれるようにユリの男への気持ちは熱量を増していった。ユリの腰を掴む男の指に力が籠もる。その健気にも悶える姿に興奮し、男根が膨張していく。膣内でその変化を感じたユリが喜悦の声を上げた。

 

「あひっ♡ また、おおきくっ」

 

 貪欲なユリはより快楽を得ようと、自ら腰の角度を変え気持ちのよいポイントを探る。それに合わせるように男も腰を動かした。

 

「ひっ、イグイグイグイグッ……♡♡♡ だめっ♡♡ おっきいのきちゃっ♡♡♡♡」

「……っ、俺も出るっ」

 

 激しい抽挿にユリはヘッヘッと犬のように荒い息をつき、獣じみた声を上げる。だらしなく開いた口からは、ユリの唾液が顎を伝って銀色の糸のように滴り落ちた。

 

 ユリの言葉に構わず、男は一心不乱に腰を彼女の臀部に叩きつける。子宮口が男の剛直によってメタメタに叩かれ、胎の奥に溜まっていた重怠い痺れを一気に解放させた。内側から末端にかけて打ち寄せる快楽の波濤。身体を支配するその強烈な幸福感にユリは背を仰け反らせたまま硬直し、絶頂に昇りつめる。

 

「〜〜〜っ!♡♡♡ ……っ?!♡♡♡♡♡ 〜〜〜っ!♡♡♡♡♡ ……〜っ、っ!!!♡♡♡♡♡♡」

「ユリっ……!」

 

 声にならない絶叫。ユリの視線が焦点を失うように揺れる。絶頂を経たことにより、膣内の奥にクポリと空洞ができ、膣壁が激しく収縮した。その強烈な締め付けに、男はユリの子宮口に亀頭で口づけるように密着させ、自らの精液を流し込んだ。

 

 ビュクビュクと熱い粘液が無防備な子宮口を穢す度に、ユリは胎の奥で熱を感じた。その熱さでまた昇りつめ、絶頂から中々降りてくることが出来ない。男根を銜えこんだままの女陰から歓喜の潮を吹き出す。

 

 男はユリと繋がっている部分から生じる、背筋を震わせるような甘美な快感を味わいながら最後の一滴まで己の欲望を吐き出し続けた。そして全ての精を吐き出し、満足するとゆっくりとユリの膣内から未だ萎え知らずの男根をズルズルと引きずりだす。ヌチャリという湿った音ともに、赤黒い男根が姿を表した。それは男とユリの混じり合った体液で覆われ、妖しくテカっていた。

 

 剛直を完全に引き抜くと、ユリは力尽きたとばかりに寝台に体を投げ出した。その顔には満足気な微笑みが浮かんでいる。

 

「っ……おかたさま、すきぃ……♡」

 

 艶やかな息遣いで自らの主人に視線を向ける。こぽっと膣から空気が抜ける音が立ち、白濁液が流れ出し始める。ぽっかりと開き、ヒクヒクと痙攣している女陰からは止まることなく男の精が流れ落ちていた。

 

「ユリ、────」

 

 男はユリの耳元で愛を囁く。行きがけに口づけをし、その身体を背後から抱きしめた。

 

「あぁ、うれしぃ……ボクもです、おかたさま……♡」

 

 そして……休む間もなく行為を再開させる。仰向けとなったユリの正面から覆いかぶさり、先ほどとは異なりゆっくりと挿し入れてゆく。そして剛直をユリの体内に納めると制止した。

 

「んっ……♡ あぁっ……♡ ボクはキスができる、このほうがすきです……♡」

 

 ユリの口から甘い吐息が漏れる。男がユリの唇を奪うと、彼女は舌を伸ばして男のそれに絡める。互いの唾液を交換し合う濃厚な口づけ。柔らかくうねる舌を絡ませ合い、互いの情欲の深さを確かめ合う。

 

 次いで男は唇を離すと今度は首筋を伝い、胸を愛撫を始めた。その大きな胸を優しく揉みほぐし、乳首を口に含むと舌で円を描くように舐る。その切ない心地よさにユリの口から吐息が漏れた。そして、ひとしきユリの反応を楽しむと、今度は強く吸い上げる。

 

「んんっ♡」

「……強かったか?」

「だ、だいじょうぶです♡ すこしおどろいただけで……」

 

 突然の強い刺激に眉根を寄せ、思わず声を上げるユリだったが、そのまま男に身を任せ、愛撫され続けると、ピクピクと身体を震わせ、すぐにまた甘い声を漏らすようになった。

 

「あっ、あふっ……♡ んんっ♡」

 

 男はユリの腰を抱きかかえるようにしながら、彼女の胸に顔を埋めた。そのまま胸の頂点を舌先で転がすようにして舐め続けると乳首はピン、と硬度を増してゆく。

 

「あぁん♡ だめです……♡ そんな♡ あかんぼうのような……♡ ううぅ♡」

 

 ユリは悶え、男の頭を掻き抱いた。そして自分の胸に押しつけるようにして強く抱きしめる。男はそれに負けじと口に含んだままの乳首を舌で転がし続けた。時折歯を立てて甘噛みするとユリの口から悲鳴のような嬌声が上がるが構わず続ける。

 

「あっ……♡ だめっ、またっ……♡」

「胸でイッたのか。気持ちよかったか?」

「は、はぃ……♡ おっぱい、きもちいいです……♡」

 

 ユリは再び絶頂を迎える。しかしそれは先ほどの身体がバラバラになるような暴力的な快楽ではなく、甘く、ゆっくりゆっくりと昇りつめてゆくような絶頂。ピクピクとユリの身体が快楽の余韻に反応し、彼女の淫らな吐息が男の髪にかかる。きゅうと膣が男根を優しく締め付けた。

 

 彼女のその甘い吐息を感じながら、男は膣に挿入した剛直の鈴口を子宮口にピタリと押し当てたまま愛撫を続ける。ユリの胸を舌で転がす度に彼女の瞳の中にある情欲の火が揺らぐ。口づけする度に情欲の火に薪をくべ熱量を上げる。

 

「あぁ……おかたさまにあいされて、しあわせ……みたされます……♡」

「……そうか。ならもう少しこのままでいようか」

 

 情欲と愛情が肥大し、焦れったいばかりの甘い刺激にユリの秘処からは淫らな液体がとめどなく溢れ出る。早く動いて欲しい。もっと愛して欲しい。たくさんイカせて欲しい。そんな欲求と快楽への期待が時と共に高まっていく。

 

「うぅ? ……で、でも、おかたさま……むねばかりで、せつない……せつないです……」

「幸せなんだろ? 満たされないのか?」

「も、もちろん、しあわせです……でも……でも……」

 

 しかし、男は執拗に愛撫を続け、唇を奪って舌を絡ませ合うのみ。肌から感じる男の体温がユリを温める。欲求と期待が高まり、しかし、齎されるのは甘い痺れと絶頂には物足りない刺激。息が荒くなり、また子宮に熱と痺れが溜まってゆく気がした。

 

 乳首を執拗に弄ばれ、甘イキばかりで気が狂いそうになる。ユリはより強いオーガズムを求めて自ら腰を動かそうとしたが、男はそれを許さなかった。腰に回された男の腕にがっちりと押さえられ、と同時にユリは身体を押し潰すように抱かれて身動きがとれなかった。焦らされ続け、頭がおかしくなりそうだった。

 

「その……し、したもかわいがってほしい、です……」

「下じゃわからんな」

「おかたさま……? いえません、そんな……うぅ……おかしくなってしましますっ」

 

 とうとう耐えきれなくなり、男に懇願するユリだったが返答はない。ただユリを見つめ、嗜虐的に笑むだけ。

 

「もう少し我慢しろ」

「ど、どうして? ……いきたい……いきたい……」

「我慢した後の方が気持ちいいぞ」

「で、ですがっ……!あ、あぁっ♡」

 

 ユリの泣き言を聞きながら甘イキさせつづける。耐え難い欲求にユリは男に懇願したが、それでも許しは出ない。その目にあるのはグルグルと渦巻く欲望。体に移った男の熱で、浮かされたようにユリの理性はもう限界だった。今すぐに滅茶苦茶にして欲しかった。

 

「そんなにイキたいか?」

「いきたいっ、いきたいぃれすぅっ♡」

「すっかりエッチになっちゃったな。なぁ、ユリ」

 

 子宮口を押し潰すように当てられた亀頭がピクリと動き、子宮口が擦られたのが分かった。ゾワゾワとユリの背中に快楽がせりあがってくる。

 

「ひんっ♡」

 

 反射的にガクリ、と男の体重を物ともせずにユリの腰が反り浮き上がる。絶頂には達しなかったものの、一瞬だけ、破壊的な快楽が漏れ出したようだった。ユリは自身の中にある男の脈動を感じた。それは熱く、自身の最も深い場所に届いているのだ。女たらしめる象徴に狙いを定めているが如く。

 

「あ……あぁ……♡ もうすこし……もうすこしで……い、いきそ……♡」

「まだイカせないからな。もう少しの我慢だ」

「そ、そんなっ♡」

 

 ユリの泣き言を口を塞いで止め。ただ時間をかけて甘やかす。身体に手を這わせて性感を煽れば、可愛らしく悶えて見せた。そのトロトロに蕩けた表情を見ているだけで男根は硬度を取り戻す。

 

 ──どれだけユリが悶える様を楽しんだか。気が付けば彼女の身体は発情しきり、肌を撫でるだけでナメクジのように身体をうねらせる程になっている。

 

 

「よく我慢したな。それじゃあ望み通りイカせてやろう」

 

 暴れないように腕を押さえつけた。ピストンはしない。しかし、ギシリ、とベッドが軋むほどに子宮を押し潰すように強く体重をのせる。それだけだ。

 

「────っ、っ、っ♡♡♡♡♡」

 

 ユリの膣の奥、子宮が揺れる。それだけでユリは目の前が真っ白になり、ホワイトアウトが治まってからもチカチカするほどの絶頂に強制的に昇らされた。その破壊的な気持ちよさに眼球が焦点を失い揺れる。

 

「かわいい」

「か、はっ……〜〜〜っ♡♡♡♡♡♡」

 

 今まで散々に焦らされていた分、その快楽は凄まじく、深い深い絶頂で呼吸が止まり、ユリの全身が硬直した。白く伸びた脚の指先がガクガクと震え、足の指が開いたり閉じたりとユリの意志とは無関係に動く。ようやく得られた爆発のような快楽に、ユリが焦燥とともに抱いていた欲求と期待感は一瞬で焼かれた。

 

「おっ♡ あっ♡ あへぁぁあぁ♡♡♡♡♡」

「だらしない顔だな。もっと見せてみろ」

 

 膣がギュウと締まり、部屋の扉をノックされた子宮が剛直に対して返事するように愛おしげにきゅうと鳴いた。そして、身体の機能が壊れたように潮を吹き続け、男と彼女の下腹部を濡らす。

 

 続けて男が、グリグリと熱く滾った肉棒で子宮口をノックすると、ユリの奥深くから尋常ではない幸せが溢れだした。

 

「んほおっ♡♡♡ こえしゅごいぃれす♡♡♡♡ おかたしゃまっ♡♡♡♡♡」

 

 雌だけが得られる幸福感が全身に駆け巡る。愛情が心の器から溢れ、既に服従していたユリの身と心を更に深い隷属状態へと堕とす。その従順で、男だけに見せる淫靡な姿に興奮を覚え、コンコンとノックを続けた。

 

「んお゛っ♡ お゛っ♡ お゛っ♡ お゛っ♡」

 

 絶え間のない絶頂の嵐。ユリは数え切れないほどの絶頂を迎えていた。既にシーツには大きな水溜りができており、グシャグシャになっている。

 

「ばかになるっ♡ こわれるっ♡ もぅ……♡ もう♡ ゆるひてっ♡」

 

 ユリは涙を流しながら快楽を訴える。息も絶え絶えに許しを請うユリだったが、しかし男根で突かれる度に新たに快楽が突き抜け天壌へと追い遣られる。それが延々と繰り返された。

 

「ああぁぁっ♡ ひぃっ♡ もうとめっ♡ ずっと、イっ……♡♡♡♡」

 

 数えきれないほどの絶頂を繰り返した。既にユリの身体は力が根こそぎ奪われたように弛緩し、身体の芯から震えていた。しかし男はお構いなしに責め続ける。男の剛直が子宮口を押し潰す度に思考が愛情に侵され、ユリは底なしの幸福感に溺れ意識を失いかける。しかし、すぐに次の絶頂によって覚醒させられてしまう。その繰り返し。

 

「たしゅけてっ……♡ たしゅけてっ……♡ おかたさまっ♡♡♡」

 

 既に潮吹きの勢いはなく、絶頂に達した瞬間にピャッと吐き出される程度になっていた。その晩、一晩中ユリは男に抱き潰され、彼女が完全に正気を失うまで痴態は続けられたのだった。

 

 □

 

 生命活動の絶えた青白い肢体を抱きしめ、その豊満な胸に顔を埋めて安らかな寝息をたてる。

 

 ユリは胸の中で眠る主人であり思い人の頭を掻き抱き、少し硬めの髪をゆっくりと優しく梳く。その手つき込められているのは慈愛だろうか。目こそ閉じてはいたが、彼女は眠ることがないようで主人の安寧の時を最も近くで守護する栄誉を賜っていた。

 

 室内には男とユリが呼吸する音しかしない。静謐な空間と言って良かった。

 

 ──どれほどの時間そうしていただろうか。男の目が薄く開く。男が起きたことを悟ったユリは穏やかな声をかけた。

 

「お目覚めですか、御方様」

「ユリ……」

 

 それに答えるかのように、男はユリの体に回した腕に力を僅かに込めた。それはもっと近くに寄れという意思表示だろうか。

 

 主の意を汲むと、ユリはより体を寄せ密着させた。種族がデュラハンであるユリの身体は死体と同じく冷たい。だが、どの場所に触れても柔らかく、昏い死の安心する香りがした。その体の感触を全身で感じようと顔を強く胸に押し付け一つ深呼吸した男に、ユリは庇護欲を満たされた微笑みの表情を向ける。

 

 その様はまるで幼い子どもが母に甘えるかのようだったが、ユリはそれを咎めたりはしなかった。むしろ、情けない姿という明確な弱み、他の誰も知らない一面を自分だけに見せてくれている事で庇護欲が満たされてゆくのを感じた。ユリは庇護欲が満たされる度に自分が必要とされていると感じる質であり、主の心の安寧を保つことこそ自身に課せられた使命であるとも思っていた。

 

「もう今日はこのままでいたい」

 

 ぽつりと男が呟く。その呟きは至近距離にいたユリだけが辛うじて聞き取れるほどの小ささだ。

 

 それはユリにとっては嬉しい言葉だったが、自身の主人がそのような事を口にするのは珍しい事だった。昨日には、ナザリック地下大墳墓に侵入した賊の掃討があった。もしや、その事で何か思うことがあったのだろうかと、心配そうに頭を抱く。

 

「どうかなされたのですか? 昨晩は少しだけ荒れておられましたが」

「……すまない。ユリをモヤモヤした感情の捌け口にしてしまった。ユリには本当に失礼な事をした……悪かった」

「お気になさらず。御方様の御心を守る為にボクがいます。ボクで宜しければ何時でもお相手させていただきます」

 

 ユリがその整端な顔を優しく綻ばせ、男が見惚れるほどに美しい微笑みを浮かべた。──自己嫌悪。身勝手にも自身のモヤモヤとした感情をぶつけたのに、ユリに全てを受け入れるような表情を向けられた男は、自分が途轍もなく情けない存在に思えてきて、もう一度ユリの胸に顔をうずめた。

 

 ユリは尚も男の髪を梳きながら、主人がその心の内を打ち明けるのを待った。彼女が急かすことなくしばらく待っていると、男は溜息をつきゆっくりと話し始める。

 

「俺は人の心が無い、化け物なのだそうだ」

 

 人の心。ユリには人の心が何を意味しているのか分からない。何故なら彼女は創造された時分から人ではないデュラハンであり、人の考えている事などわかる筈も無いのだから。

 

 この腕の中にいるユリの主人は人の形をとってはいるが、その本質は不死人と呼ばれる異形種。不死人は闇に属する生き物であり、人の姿、亡者の姿、霊体の姿と3つの形態を持っている。

 

 そんな存在が人間と異なっているのは明らかな事実であり、人間から化け物と思われるのも無理のないことだ。まして、昨日は亡者の姿で侵入者の対処に当っていたのだ。侵入者にそう思われるのも当然の事である。

 

 でも、そんな今更な事を御方が気にするだろうかとユリは疑問に思った。

 

 男がポツリポツリと語る。

 

「フォーサイトのアルシェ──俺が最初の火の炉で処断した女の子の事だが、彼女がそう言ってたんだ」

 

 人ではないのだから、人の心など持たないのは当たり前と言ってしまえばその通りだが、そんな言葉を男が求めているとは思えなかった。そもそもユリとて主が何を悩んでいるのかもまだよく分かっていないのだ。だから、ユリは静かに男の話を聞くに留めていた。

 

「何故だろうなぁ。昨日から、あの裏切られたって顔が脳裏から離れなくてな……」

 

 男の珍しい物憂げな姿に、ユリは心配げにしつつもその姿を自然と受け入れられていた。

 

 至高の四十一人というナザリック地下大墳墓や、ユリたち配下を造り上げた創造主達──神の如き存在でも、当然心はあるし傷つきもする。そんな単純だが、当たり前の事につい最近まで気づけていなかった。ユリはずっと創造主は完璧な存在だと思いこんでいたのだから。

 

 ただ考えてみれば、完璧な存在に仕えるなんて下僕からすれば虚しくなるだけなのではないだろうかと、ふと思うことがあった。完璧であるという事は単一で完成されているという事。それでは下僕など置物以外に存在価値が無いのだから。

 

 だから、ユリは不敬ながら腕の中の創造主が本当の意味で完璧では無い事に感謝した。完璧でないからこそ、こうして守り癒やす事ができるし、求められる。歓心を買って自分が創られた意味を、存在価値を示す事が出来るのだから。

 

「彼らとは知り合いだったとは聞いていますが、付き合いは長かったのですか?」

「いや、付き合いは長くない。俺がこの世界に来た時、カッツェ平野を探索しに行ってな。そこで彼らがスケリトルドラゴンから襲われているのを助けたのが縁だったが……再会したのは、つい最近。帝都に入ってからだ」

 

 男が思い出しながら話す。その時の事を懐かしむ男の姿を見て、ユリは少し安堵したかのように微笑んだ。そこに男の負の感情は見られなかったからだ。

 

「そうだったのですね」

「ただ、あいつらには助けられたお礼に酒でもって、一度だけ奢られたことがあった。あの時は俺が召喚した不死人のパッチもいて、酷いイジられ方もしたが楽しかったなぁ」

 

 ユリはパッチという男と直接会って話をした事はない。ただ、直に会ったことのあるクレマンティーヌからその存在の事を聞いてはいた。曰く、嫌らしい笑みをする、捻くれ者の禿と。自身の愛する人をイジったと聞いて、ユリの中のパッチの株が急降下した。

 

 そして、男が自分のいない場所で、自分の知らない顔を見せている。自分の知らない者たちに笑みを見せていると思うとユリは少しだけ妬けてきた。でも、こんな風に弱っている姿を見せてくれるのも、御方の御心を守れるのもボクだけだと思い直して、醜い嫉妬と独占欲の感情を何とか抑える。

 

 話している内に少しだけ男の顔色が明るくなる。男の気分が少しでもよくなるならこの嫉妬心を煽られる話題も決して無駄ではないとユリには思えた。ただ、嫉妬している事くらいは彼女も知っておいて欲しかったのだろう。

 

「……ボクの知らない御方様を見られるなんて、彼らに少し妬いてしまいます」

「重いなぁ、ユリは」

 

 誂うように言われた言葉に少しだけユリはショックを受けた。重い女だと思われて敬遠されないか不安になったからだ。だが、ユリの腰に回された腕に力が入ったことで、言葉にそんな意図がないことを悟った。

 

「……さっき話したアルシェは看破の魔眼を持っていてな。驚くべき事に、俺の魔力量と使用可能な魔法の階位まで最初から看破していた。この世界に来て最初期に彼女に指摘されなかったら俺は魔力を隠蔽するのが遅れていた。そういう意味では彼女は恩人とも言えるのかもしれないな。……ただ、魔力が怖ろしいとかで随分怯えられてなぁ」

 

 男がクツクツと笑った。ユリは男に意地の悪い面がある事を知っていたので、怖がるのを楽しんでいたのだろうなと……其処だけは趣味の悪さに何とも言えない呆れの感情を滲ませた。

 

「タレントと呼ばれるものですか……確かに秘匿が遅れていたら大事になっていたかもしれませんね。この世界には厄介な者たちもいるようですし」

 

 タレントとはこの世界特有の異能で、例えば、アルシェの看破の魔眼は、魔力の大きさや流れを見ることの出来る能力だった。そのおかげで、男の持つ魔力が桁外れに多い事を見抜けたのだ。

 

 そして、戦士職の俺でアレなら、魔法職のモモンガを見たらどうなっていたんだろうな、とふと男はあり得たかもしれない未来を想像した。

 

「そうだな……向こうは怖ろしがっていただけなんだろうが、そういう意味では確かに借りと言えるかもな」

 

 この世界には厄介な者たちも多い。竜王と呼ばれる存在や、法国のようなユグドラシルプレイヤーの子孫に当たる者たちだ。魔力を隠蔽する前に彼らと遭遇し、看破されなかったのは幸いと言えた。

 

 少しだけ黙り込み、考え込んだ男だったが、暫くすると思い出したように話を再開させた。

 

「フォーサイトのヘッケランは探索者の才能があって仲間思いのヤツだった。イミーナは確かヘッケランの恋人でな、あれが無ければ結婚も視野に入れていたと聞く。……全く馬鹿なマネをしたものだ、本当に」

 

 あんな依頼さえ受けなければ一緒になる未来もあっただろうに、と男が呟く。

 

 ユリとしても、将来を誓いあった男女が結ばれないまま死んだという話は少し複雑な気分になる。ただ、それはどうしようも無いことでもある。なぜなら、彼らはナザリックの地に土足で踏み入るという禁を犯したのだから。そして、それに対する死という罰は、目の前の主を含め、至高の存在が定めた法だ。

 

「アルシェは幼い二人の妹がいると聞いていたな……親が作った借金を彼女が返済していて、今回の依頼が終わったら妹二人を連れて親元を離れるつもりだったらしい。ロバーデイクは善良な神官で孤児院に依頼で稼いだ金を寄付していると聞いた。……あいつらは盗人ではあったが、根は悪い奴らじゃなかったんだろう」

 

 たった一つの選択が運命を左右する。盗人に相応しい末路だったとは言え、残された二人の妹は可愛そうだな、とユリは思う。借金を作るような親だ。今後、まともな教育を受けることなど出来ないだろう、と。

 

「知り合いとして遺跡探索の依頼は受けるなって忠告したんだがな……あいつらはアルシェには金が必要だって言って結局選択肢を間違えた。その結果があのざまだ」

 

 依頼への参加を引き留める事が出来なかったと責任を感じた主は、彼らが遺跡の侵入した際には自ら彼らを処断することを決めていたのだという。

 

 つまりは、忠告を無視した上、自らの愚行に対する始末をも主につけさせたのだ。ユリはナザリックでは温厚として知られていたが、主の手を煩わせ、無用な心労を強いたという点で眉を顰める。

 

「……もしや、御方様は彼らを始末した事に罪悪感を感じていたのですか……?」

 

 ユリは話の流れから男が、侵入者達に情けをかけているのかと考えた。多少なりとも親交のあった人間に対して、その手自ら死を与えたことで、罪悪感を感じているのではないかと。

 

「罪悪感か……どうだろうな。確かに俺は彼らを始末する事に対して多少やり辛いとは思ったが、もしかしたらこれは遣る瀬無さなのかもしれないな」

「遣る瀬無さ、ですか?」

「あぁ、彼らの事情を知りながら、処断しなければならなかったからな。知り合いだからと、甘い顔をする訳にもいかなかった」

 

 ただ、その考えは否定された。

 

 人を殺めるのはこれが初めてでは無かった。好き好んで行う訳ではなかったが、必要とあれば忌避する事は無い。それは今回も同じ。ただ違っていたのは、殺めたのが多少なりとも交流があった人物たちであったということ。

 

 出来る事ならば切りたくはなかった筈だが、しかし、いざ切ってみればどうという感慨もない。俺は心が壊れているのかと混乱したと話す。

 

「御方様のご慈悲を無視して選択したことです。事情を知っていようが、御方様が気にすることはないと思われます。むしろ、ボクは彼らが御方様を悩ませたことに怒りを覚えます」

 

 やや強い口調に男はユリの背に回した腕に少し力を込めた。

 

「ありがとう。だが、もう大丈夫だ。ユリの胸の中で寝たらモヤモヤした気分は殆ど晴れた」

「……ボクは特に何も出来ていないのですが。でも御方様のお役に立てたのなら良かったです」

 

 ユリの釈然としていない様子に男は苦笑した。

 

「話は戻るが、彼女の言う通りなんだろうなってな。俺は人の心のない、化け物だ。人間に仲間意識は無い。姿、形は似ていても、やはり不死人と人間は別の存在なのだと改めて思い知った。これまで人の姿を取ることが多かったからな。俺は自分がまだ人なんだと無意識に思い込んでいたのかもしれない」

「御方様……?」

 

 自分を人間だと思い込む。何気ないその言葉に少なくない衝撃をユリは覚えた。そして気づいた。主人が自身は何者であるのかというアイデンティティの問題を抱えており、不死人としての本能に目を背けていたことに。

 

 ユリにはそれがクレマンティーヌが言っていた傷のように思えた。薪の王という贄になった自身を無力で矮小な人間と思い込み、偉大な昏い魂の欲求に蓋をしていたのだと。そう思うとユリは悲しみで胸が張り裂けそうになった。

 

「……心配させたならすまない。要はこの世界に来て少し自分の変化に臆病になっていたんだ。今の自分は目的の為ならどれほどの犠牲も厭わないエゴイストになっているのではないかってな」

「エゴイストでいいのです……! この世界は至高の御方々の手の中にあるのですから。全ては御方様の思いのままにされてよいのです……!」

 

 男は自分のその曖昧とした気持ちをユリに打ち明けた。

 

「そう、か? ……でも、こうしてユリと共にいて分かった。俺はエゴイストだが、感情や共感能力を失った訳では無い。人外の化け物でも()()()()を大事に想う気持ちにズレは無かった。だから、()()()()がいれば俺は自分を保てる」

 

 ユリの眉がピクリと動いた。どうしても気になる部分があったのだ。

 

「それは良かったです。でも、その……思いのままにとは言いましたが……お前、()()……ですか」

「ユリ……?」

「あの……そういえば、御方様にお聞きしたいことがあったのです」

 

 急激な雰囲気の変化。若干声のトーンを落とした低い声でユリが言う。その言葉に不満の感情が込められているような雰囲気を本能的に感じ取った男の背中に冷や汗が流れる。男は反射的に身動ぎし、ユリの腕の中から逃れようとしたのだが、彼女の腕には力がこもっており背中に回された腕は中々外れなかった。

 

「そ、そうか……どうした……?」

 

 取り繕う男の瞳を至近距離で見つめると、ユリは目を細め言った。

 

「御方様……現在は帝国のどちらを拠点とされているのでしたか?」

 

 男が息を呑んだ。ユリの口調は丁寧だ。しかし、チラリと伺ったその目は全然笑ってなどいなかった。視線を外そうにも外せない。まるで蛇に睨まれた蛙のようだ。美人は怒ると怖いと言うが、実際怒ったユリ程怖いものはないと男は思う。

 

「帝国騎士上層の、その、四騎士と縁があって、そこに……」

「はあ、確かレイナース殿でしたか。そういえば以前寝言でも言っていましたね。流石、御方様……懐に潜り込むのが大変お上手だと思います。何を動揺しているのですか?」

「動揺など……でも、なぜ……?」

 

 知っているのか、という言葉は出て来なかった。フフフ、と妖艶にも思える笑みを浮かべるユリに男は、その大きな身を縮こまらせるしかない。ユリの笑みが深まる。その圧力のある笑みは、まるで子どもがした悪戯を母親に白状した時に浮かべるようなものにも思える。

 

 実際には浮気した男と、それを問い詰める女の図ではあるのだが。

 

「なぜ、とは? まさか御方様が無駄な事をするとは思いません。これもナザリックの未来の為には必要なことと思っています。そうですよね?」

「は、はい……」

 

 その返事に納得したように、ユリは首を縦にふる。ユリの灰色の瞳は猛禽に似た雰囲気を有しており、男はその鋭い爪に捕らえられたネズミのような気分を味わっていた。その美貌を持って問い詰められれば、抵抗したくとも男は諾と答えるしか道はない。

 

「ですが……まさか御方様が本気になるような事は万に一つも無いとは思いますが……ボク──ついでに彼女もいるのですから、火遊びはほどほどにお願いしますね?」

 

 正直なところ、想い人が知らない内に他の女のところに転がり込み、寝食を共にしているなどと、シャドウデーモンからの報告で知った時は気が狂いそうになった。

 

 ……だが、正妃を目指す身としては、そんな些事で一々爆発していては話にならない。それよりも知らされず隠されていたことの方が大問題だと思った。

 

「ボクは御方様の側付き……側近なのに、御身の身の回りの情報をいただけなかったのは大変悲しいことです。だから、今度何かある時は()()お知らせいただけると……いいえ、何事も、全てボクにご相談いただいて構いません」

 

 ニコリと笑みを作ると、男は面白いくらいに震えた。

 

 レイナース何某という、女絡みの問題は今後面倒な事になるかもしれない。まして、()()()が本気で惚れでもしたら……男は拒むことが出来ない。其れを懸念するユリは、男に対して釘を刺した。

 

「は、はい……」

 

 男の表情が何かを言いたげに、困ったようなものに変わる。その表情の変化に、ユリは覚えがあった。それは男が何か不満に思う事があるが言うのに躊躇っている、という時によくする目だった。ユリは目を細める。これはもう駄目かもしれないなと思いながらも再度釘を刺すことにした。

 

「それと残念ながらボクはあまり帝都には行けませんが……クレマンティーヌはその内、顔を見せると思います。その時は、刺されないようにお気をつけくださいね?」

 

 男の表情が強張る。

 

「──ふふ……では、ボクは御方様のせいで大変に傷つきましたので、その心の傷を癒すためにまた御方様の精を──ご寵愛を頂きたく存じます」

「え……? あんなにやったのに……」

 

 男は戦慄した。

 

「はい? 何か問題でも?」

「い、いえ……」

 

 男はユリから目をそらした。ユリの灰色の瞳は一見すると情欲と冷静さが混在しているように見えたが……しかし、男にはわかっていた。

 

「御方様の隣はボクで埋まっていますから。誰にも渡しません」

 

 これはバチバチに嫉妬に狂っている目だと。

 

 □

 

 帝城は蜂の巣を突いたように大きな騒ぎになっていた。皇帝の居城たるこの場がその様なことになっていたのも、バハルス帝国が王国領に存在する未探索の遺跡に秘密裏にワーカーを派遣していた事が原因にある。

 

 ──筆頭宮廷魔術師フールーダを通してバハルス帝国に齎された情報。

 

 その内容。王国領辺境に新たに存在が確認された遺跡。その遺跡が未だ探索されていないという事実。そして、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフを法国の刺客から救ったという存在、アインズ・ウール・ゴウンがその遺跡を拠点としているというもの。

 

 齎された情報を元に、皇帝は裏から手を回すことにした。有事の際に切り捨てが可能な、とある貴族に遺跡に財宝が眠っているとの情報を流し……ワーカーを派遣させることで拠点としている墳墓を調査するよう仕向け、ひいてはアインズ・ウール・ゴウンの反応を確かめるつもりであったのだ。

 

 しかし、派遣されたワーカーは全滅。その報せを聞いた直後に、アインズ・ウール・ゴウンの使者が巨大な黄金色のドラゴンを引き連れて帝城を襲撃した。

 

 曰く、アインズ・ウール・ゴウンの領地にワーカーという盗人を仕向け、土足で踏み入らせた皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスに対して謝罪を要求する。でなければ帝国を滅ぼすと。

 

 未だ子どもにしか見えない二人のダークエルフはアインズ・ウール・ゴウンから遣された使者であり、その二人のダークエルフは本気であるという示威行為の為に、騎士団、特に近衛隊と皇室空護兵団に甚大な被害を与えて去っていったのだった。

 

 

「全く大変な事になったもんだな」

 

 そう明け透けに言い放った大男──雷光、帝国四騎士筆頭バジウッド・ペシュメルはレイナースの同僚に当たる人物。裏路地の平民の出ではあるが、皇帝への高い忠誠心を持ち、その裏表の無い言動が皇帝に好まれて重用されていた。

 

「そうですね。ナザミも安否は不明です。恐らく亡くなったのでしょうが……」

「だろうな」

 

 そう応えるのは同じくレイナースの同僚である激風、ニンブル・アーク・デイル・アノック。帝国内においては伯爵位を与えられており、剣の腕に性格、容姿と多くの面で優れ、皇帝の信任も厚い人物。

 

 彼の言うナザミとは四騎士の一人であった人物で、先のダークエルフ襲撃で行方不明になっていた。ただ、ダークエルフの使用した地割れの魔法により、地の底に落ちていったのを多くの者が目撃していたので、助かる見込みはないと判断されていた。

 

「近い内に陛下自ら釈明する為に出立するみたいだな。陛下も大分驚いてた様子だったが……」

「誰が予想出来るというのですか……送り出したワーカーのパーティが全滅し、報復が来るなど。しかも陛下の策謀だったと皆の前で暴露されるなんて思考の慮外ですよ」

「全くな。でもまぁ……なるようになんだろ! 陛下の事だ。礼の品も大量に用意してるみたいだし、そのまま取り込みにかかっても何らおかしなことじゃねぇ。あれがあってから、本気になったみたいだしな」

「……そうですね。人心掌握は陛下の得意分野ですから。私たちは何があってもただ皇帝陛下をお守りし、その覇道をお支えするだけです」

 

 皇帝は今回の事件に対して、ワーカーを送り込んだ貴族にその責任の所在を求めた。貴族は既に捕らえられており、処刑した後、その首を土産に釈明に赴く。曰く、帝国が送り出したワーカーは皇帝の意を勘違いした貴族が勝手にしたことだと。その首と謝礼を持って謝罪となすつもりだった。

 

「ま、そうだな。……しかし、アインズ・ウール・ゴウンか。どんな奴なんだろうな」

「……少なくともあのダークエルフを従える存在です。かなり手強い人物である事が予想できます」

 

 アインズ・ウール・ゴウン。その部下である二人のダークエルフは怖ろしい魔法詠唱者であった。それにドラゴンを従えているというのも非常に厄介だ。仮にドラゴンに相対するとしたら軍団規模で事に当たらなければならない。勝てる勝てないの判断は別として、敵対は相当な被害を生むことになる。

 

 それでは、たとえ逸脱者フールーダ・パラダインが帝国にいるとはいえ、油断など出来ようもない。

 

「何かがあれば四人、いや……今は三人で陛下をお守りしなくちゃいけねぇ。その時は頼むぜ、レイナースさんよ」

 

 バジウッドがそれまでこの場にいながらも発言一つしなかった存在に言葉をかける。その存在こそ、四騎士レイナースであった。

 

 家では柔らかな表情を同居人に向ける彼女も、職場では鉄面皮。同僚といえど向ける視線は冷たく、関心の欠片もない。

 

「……契約分はしっかり仕事はしますわ。ただ、危ない時は自分の身を優先します。それは陛下も了承済みだという事は覚えておいてください」

「かぁ……アンタは変わらねぇな。せっかく呪いが半分解けたんだ。態度ももう少し柔らかくなってもいいんじゃねぇか?」

「……これは解けた訳ではありませんわ」

 

 バジウッドの軽口に、レイナースは素っ気なく返す。その返しにニンブルが苦笑いを溢した。それがレイナースのいつものスタンスであった。

 

「そういや噂聞いたぜぇ?」

「? なんですか」

 

 髭面のオッサンがニヤニヤと頬を緩ませる。その態度に訝しげにレイナースは聞き返した。

 

「アンタ、こないだ男とデートしてたらしいじゃねーか。しかも腕まで組んでよ。帝都内を警邏してた騎士が目撃してたんだよ」

「……」

 

 レイナースはバジウッドに極寒の視線を向けた。それは完全に感情の消えた能面のような表情であった。それを見たニンブルは緊張で表情筋を硬直させた。

 

「バ、バジウット卿……!」

「これだからデリカシーのない髭面男は……」

 

 レイナースの声は低く、明らかな軽蔑の念が込められていた。その言葉の裏にある意味とは、お前には関係ねーだろ、に他ならない。

 

「バジウッド卿……! あなた奥方が何人もいてその言は無いでしょう……それを奥方に聞いてみたらどうですか? 叱られるに決まっています」

「へぇへぇ」

 

 バジウッドはおどけた様子で肩をすくめる。その様子にレイナースは小さく舌打ちすると、同僚を無視して一人その場を離れようとした。

 

 数日後には件のアインズ・ウール・ゴウンの拠点である墳墓へと出立しなければならない。それまでに準備しておかなければならないことは沢山あるのだから。






 
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