※この作品はR-18です。

オリ主探訪日記   作:mimick

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43.膨らんできたトラベルノート(2)

☆月★日

 パッチの伝手で北市場で露店を開けるよう、世話役に話を通して貰い、市場の隅の一角を確保した。そこで商品となるアイテムを広げる。

 

 アイテムは主にインベントリの肥やしとなっていた初心者向けの装備品や装飾品になる。他にも第一位階の巻物や疲労除去ポーションなど。

 

 目玉商品は装備重量上限値が1.5倍になるハベルの指輪。荷物を大量に抱えていても移動が容易になる便利アイテムだ。後は、東の木目指輪やら吠える竜印の指輪やらも並べてみた。

 

 指輪はダメだったが、ぼちぼち商品も売れ、ホッとしている所にちょっとした知人と遭遇した。彼女はレイナース。以前、竜王国からエ・ランテルへの帰路の途中に立ち寄った帝国領の都市で顔見知りとなった帝国騎士の女だった。

 

 

 彼女に時間はあるかと問われ、食事を奢ってあげると誘われたので喜び勇んでついて行く。ついて行った先にあったのは小ぢんまりとした店だった。小さいながら紹介制をとっているらしく、そんな店に予約無しで入れるのだから少々驚く。どのような伝手なのか気になって聞いてみれば、前にモンスターに襲われている商隊を助け、その商隊の中に店主がいたらしい。

 

 奥の個室に案内され、食事と酒をご馳走になる。質は中々。ナザリックの料理と比べれば、発展途上と言わざるをえないのだろうが……帝国でも舌の肥えた上流の一部すら出向く店とあって、小さいながら店の内装にも高級感があり、料理も美味かったと思う。

 

 食事中、何故北市場で露天商などしていたのかという話になり、帝都では冒険者の仕事がなく、金が無くて困っていると笑い話をした。現状、そこまで困窮している訳ではないが、仕事の宛のない内は金を無駄に使いたくは無い。なので、飯を奢ってくれることに対しても感謝した。

 

 そのせいなのか、何なのか。彼女の自宅には使っていない部屋があり、俺に貸してくれるという。何でも前に彼女を苦しめていた呪いを緩和するアイテムを提供してくれた礼だとか。

 

 ……礼とは言うが、普通、顔見知り程度の、それも男を家にあげたりするか? まして、この世界の人は平和ボケなどしていないし、自身を守るために余所者への警戒心だって相応に強い。何やら裏がありそうな気がしたのだが……でもまぁ、これで一先ず帝都の仮拠点が出来たと考えれば気も楽になるというものだ。

 

 ちなみに、以前に彼女にあげた呪いを緩和するアイテムとは呪い噛みの指輪と言い、ゲーム中では呪死への耐性を上げる効果があったのだが、この世界では、既に受けている呪いへの抵抗力を上昇させる効果もあるようだった。そのためか、以前の彼女は受けた呪いにより、顔の半分を爛れさせ、不衛生な膿を分泌させていたのだが、今は痣のような赤い痕を残すのみとなっていた。

 

 本人はその痕すら気にして、普段も顔の半分を隠しているようだが、正直俺としては気にする程でもないと思う。この世界では傷持ちなんて幾らでもいるし、消せない傷を持っているというのも、過去の困難を乗り越えてきた証や、戦士としての経験を表しているとも取れる。

 

 ……とはいえ、彼女からしたら、持ちたくて持った傷ではない。可能なら、さっさとおさらばしたいというのは当然の心理なのだろうな。

 

 

 ☆月★日

 宿を引き払い、今日からレイナースの所にお邪魔することになった。あまり邪魔していても彼女に悪い。ある程度収入の見込める仕事が見つかったら早々に出ていくことにしよう。

 

 レイナースから貰っていた地図を頼りに家へと向かうと、そこは帝都でも一等地にある大きな屋敷だった。部屋もタダで借りるには良過ぎる部屋だった。

 

 

 初耳だったのだが、どうやら彼女は四騎士と呼ばれる皇帝直属の護衛の一人であり、帝国騎士の中でも最強に数えられる一人らしい。

 

 彼女が騎士であることは知り合った時から知っていた。当時から多数の部下持ちであったことから、それなりの立場なのだろうとは思っていた。だが、まさか帝国でもかなり高位の地位にあるとは……

 

 冒険者のランクで言えば、ミスリル級からオリハルコン級の間くらいの強さ。レベルで例えれば凡そ20レベル代。ちなみに今、俺が擬態している金級冒険者だと10レベル代という頼りなさだ。

 

 それでも、正直、最強と呼ぶには不安の残る強さなのだが……意外と帝国にはそこまで強い者はいないのだろうか? よく話に聞くのは逸脱者や武王あたりなのだが、流石にもう少しレベルが上だと思うが。

 

 ……というか、上級騎士の家に居候とか大丈夫なのだろうか……実は素性がナザリック勢力だとバレてて帝国から監視されてるとかの可能性も無くはない。

 

 ただ、彼女は良い人間だ。騙しているのが申し訳無くなる。そう思えるという事は、俺にもまだ人の心が残っているという事なのだろうか。

 

 ☆月★日

 ……とうとうクレマンティーヌがナザリックから脱出したらしい。

 

 意外と時間が掛かったと言ったら怒られるだろうな。進捗については定時連絡で聞いていたが、この作戦では上手くいかないこともあったようだ。というのも、当初想定していたクレマンティーヌのレベルが不死人となったことで上昇したのか、用意していたドッペルゲンガーでは相手にならなかったのだ。

 

 あまり簡単に攻略されても、ナザリックに不都合な欺瞞情報が流布されてしまう。そのため、急遽難易度を調整するという事態になったと聞いている。

 

 脱出した後、彼女はエ・ランテルには向かわず、帝国領方面へと向かったと聞いているが……まさか、こっちまで来たりしないよな……? いや、俺が帝都にいることは奴には言っていない。それは心配ないし、誰かが漏らしたことも無い筈だ……

 

 

 それと、以前に誘われたワーカーの仕事の話を聞くため、彼らのいる踊る林檎亭に再び出向いた。

 

 話を聞いたが、結果から言えば彼らは釣られてしまった贄だった。帝国領と王国領の境辺りで未知の遺跡が発見され、近々、その遺跡調査の依頼がある、と。

 

 付き合いは無いに等しいも、顔見知りが死ぬのは忍びない。その依頼は嫌な予感がするから止めておけと忠告はしたが……

 

 

 その後、北市場にいたパッチに聞いたが、フォーサイトのメンバーであるアルシェの家には大きな借金があるみたいだ。ワーカーの仕事で儲けた金でアルシェが家と妹の二人を養っているのだとか。

 

 何でも、今回の依頼を成功させたら妹二人を連れて家を離れるという噂もある。なるほど……それが彼らが依頼を受けざるを得ない理由という訳か。ヘッケランとしてもこの依頼に嫌な予感はしているようだが、妹分を助けるためには受けざるをえないのだろう。

 

 だが……ナザリックに侵入することになれば、それを選択したのは彼ら自身。そうなれば、俺には最早どうすることも出来ない。

 

 

 …………

 ……

 ……

 

 ☆月★日

 冒険者モモンとワーカーの一団が帝都アーウィンタールから出発した。

 

 結局、俺はワーカーの依頼にも、彼らの護衛としての同行もしなかった。代わりと言っては何だが、パッチに彼らの監視を頼んである。護衛には冒険者モモンがいるが、モモンガからの情報がリアルタイムで共有されている訳でもないからな……

 

 ただ、モモンガに話し、顔見知りのワーカーのナザリックへの侵入を止められなかった手前、筋を通す為に彼らフォーサイトの対応は俺に任せて貰うように頼んだ。

 

 具体的には、彼らがナザリックへと侵入した後の対応が俺に回ってくる。彼らに慈悲を示すか、そうでないかは決めていないが……その時は転移でナザリックへと戻らなければならない。

 

 

 ☆月★日

 レイナースが口利きをしてくれたと言うので、久しぶりに帝国の冒険者組合に顔を出した。特に何も言われる事は無かったが、若干、微妙な反応だったのは何なのだろうか……

 

 それと、やはり冒険者組合にはモンスター討伐関係の仕事はない。他にソロで受けられる依頼もないため、仕方なく日雇の肉体労働の依頼を受け精を出す。仕事の内容は区画整備で取り壊し予定となった建物の解体と再利用する資材の運び出しになる。

 

 チマチマ解体していくのは初めての経験だったが、他の奴らと協力しながら作業を進めていくのは転移前の生活を思い出す。アーコロジーの環境管理をしていた時はエンジニアの仲間連中で毎日ヒーヒー言いながら仕事をこなしていた。もう、あんな生活に戻るのは勘弁だが、たまには誰かと仕事するのも悪くないもんだな。

 

 

 ☆月★日

 今日はレイナースが非番らしく、帝都を案内してくれることになった。ついでに飯も外で取ることになったのだが、俺は相変わらず金欠だ。

 

 一応、他に依頼はないか、組合で朝に確認するようにしてはいるのだが、今日の依頼はペット探しに、下水の清掃、荷運び、倉庫整理……なんでも屋かよ! ってラインナップだった。帝国の冒険者っていったい……

 

 ──という出来事があり、結局の所、金欠の状態は依然変わりない。

 

 それを愚痴としてチラリと彼女に零せば、あなたに代金の支払いなんて期待してない、と。部屋を間借りさせて貰って、寝泊まりしている間の食事も出して貰っている。今日に至っては、財布代わりにしてる革袋の中身が少し増えていたし。これってどういう意図なのだろうか……? 

 

 トータルで言えば、自由に出来る金はないが、帝国での生活は以外と衣食住揃って快適だ。ここに居る間は働かなくていいかもしれない。やりたい仕事も特に無いしな。そうそう。こんな快適な生活じゃ、むしろ仕事したら負けですよ。

 

 ……甘やかされ過ぎて駄目人間に拍車がかかりそうだ。

 

 

 ☆月★日

 モモン達帝国のワーカーチームがナザリック地下大墳墓入口へと到着したと報告があった。そのままワーカーチームは、ナザリックの様子をみるために地上部へとベースキャンプを設置したようだ。

 

 とはいえ、ナザリック側としては侵入するまではリアクションを起こさないと決めているので、未だ静穏を保ったまま。恐らくは明日以降となるナザリックへの侵入により、ナザリック側は彼らに対して迎撃を行う。その後、帝国への警告を示し、ナザリックは表舞台に立つことになるだろう。

 

 

 ☆月★日

 一日の様子見を経た後、焦れた帝国ワーカー勢がナザリック地下大墳墓へと侵入したと報告があった。

 

 俺もワーカーへの対処のためにナザリックへと帰還する。レイナースには冒険者組合の薬草採取の依頼で数日戻らないかもと言ってある。実際に依頼は受けるが、納品する薬草は王国領ででも買うつもりだが……

 

 既にリングオブアインズ・ウール・ゴウンは返却しているので、迎えに来て貰わなければならない。セバスに迎えを頼み、自室に転移すると待ち構えていたユリに出迎えられた。

 

 玉座の間にて侵入者たちの様子をモモンガと共に伺っていたが、全て苦労もなく狩られていった。亡骸や息のあるもの問わず、彼らはナザリック内で有効に活用されることになるのだろう。

 

 侵入したワーカーのチームの1つであるフォーサイト。彼らの対処は俺がしなくてはならなかった。

 

 彼らが未知の遺跡の調査の名目でナザリック地下大墳墓へと侵入することは事前に知っていた。当然のこと、折角知り合った人物たちをみすみす死なすには寝覚めが悪いと、彼らに警告はしていた。仮にも飯を食い、酒を酌み交わした者たちだ。俺だって、そこまで心が無い訳じゃない。

 

 だが、結局は止められなかった。ワーカーは危険な仕事を請け負う者たちだ。彼らにも事情はあったのだろうが、危険を回避出来なかった彼らが未熟で、運が無かったと言ってしまえばそれまでではある。

 

 フォーサイトも他のワーカーと同じように、ただ狩られるのを見ていることも出来た。

 

 しかし、それでも。モモンガや他の皆は気にしないだろうが、顔見知りがナザリックへと侵入してしまった手前、対処は他の誰かに任せる訳にはいかないだろう。

 

 アレらの依頼への参加を止められなかったのは俺の責任でもある。その責任を他の誰かに取らせることは出来ないし、皆へ示しがつかない。顔見知りだからと甘い対応もするつもりは無い。顔を知っているからこそ、事前の警告を無視した報いは必要だった。

 

 

 ☆月★日

 モモンガは悔やむくらいなら見逃してもよかったとは言ってくれたが、それを受け入れることは出来ない。

 

 彼らには報いが必要だったという考えに変わりはない。

 

 ただ……金の無い時に飯を奢られた一飯の恩義とも言える小さな借りは残っていた。だから慈悲として苦しむ事なく切り捨てた。亡骸はナザリックの為に有効活用されるだろうが、場に残された彼らの魂は俺が貰っていくことにしよう。

 

 彼らの裏切られたというような恐怖の顔が脳裏にこびりついている。少し不快だ。

 

 

 ☆月★日

 帝国に戻りロックブルズ邸でダラダラと過ごす。

 

 アウラとマーレがドラゴンで帝国の皇城を襲撃したせいか、皇城に詰めてレイナースがようやく帰ってきた。ただ、レイナースは眉間にシワを寄せ、雰囲気がピリピリしている。

 

 ヒモとして、一応、彼女のご機嫌伺いはしておかなければならないだろう。

 

 全く嫌になる。俺たちはこれからナザリックの仲間のため、下僕たちのために帝国を踏み台にする。俺としてはこれが最良だと思うが、彼女からしたら俺も裏切り者には違いない。面の皮が厚く生まれて初めてよかったと思った。

 

 

 ☆月★日

 情報収集を兼ねて不死人たちと酒盛りをした。

 

 先日の皇城襲撃……というか皇城にドラゴンが降り立ち、その日に騎士が大勢亡くなった件は相当な噂になっているようで、市民も気にしているようだ。といっても、当然のことながら箝口令が敷かれており、皇城で何が起こったのか知っている者は少ない。

 

 俺もレイナースの普段の態度との違いからそれとなく聞いてみたが、口を噤んで内容を話す事は無かった。彼女もそれ以上聞いて欲しくなさそうだったので、その話は打ち切ったのだが……

 

 その内、数日間家を開けることになるらしい。理由は言わなかったが、皇帝に随行してナザリックに向かうということだろう。

 

 話は変わり、不死人たちから聞いたのだが、皇城内ではレイナースに男が出来たと噂になっているそうだ。その男の正体が皇城襲撃犯の仲間で、ナザリック地下大墳墓を支配する者の一人であるなど思いも寄るまい。そして、その実うだつの上がらない冒険者で、今は殆ど無職をしているなど、もっと考えもしないだろう。現実は残酷だ。

 

 

 フォーサイトの話を書き留める。

 

 彼らはナザリックに盗みに入り、死という罰を受けることになったが、今その魂は俺の元にある。……のだが、俺はそれの扱いに迷っていた。何故彼らの魂をナザリック外に持ち出すことにしたのか。それにはやはり小さくとも罪悪感があったということなのだろう。

 

 魂さえあれば復活は容易いのだが、今のところ彼らを蘇生させる予定はない。復活させた所でまた敵対するだけだろうし……ただ、あの時、アルシェに言われたことがずっと気になっていた。幼い二人の妹が自分の帰りを待っているのだと。

 

 

 ☆月★日

 そんなこんなで、暇を持て余していた俺は、とりあえずアルシェの妹たちの様子を知るため、フルト邸を見に行くことにした。

 

 聞けば、彼女の家には複雑な事情があったようで、やはりアルシェは妹二人を連れて引っ越すつもりでいたらしい。まぁ、それもナザリック侵入で全て御破算になった訳だが……

 

 アルシェ・イーブ・リイル・フルト。フルト、というのは元は帝国貴族の家だったらしく、現在の皇帝の貴族粛清で取り潰しにあったのだとか。しかしながら、フルトの当主は貴族としての贅沢な暮らしが忘れられず彼方此方に借金をこさえていたと不死人たち(主にパッチ)から聞いていた。

 

 実質的に家の家計を支えていたのはアルシェだったようで、ワーカーの報酬は全て借金の返済に回されていたが、彼女の両親はそれでも借金を止めなかったのだという。そんな両親に諦めをつけ、遺跡(ナザリック)探索の報酬とそこで得た発掘品を元手に、妹を家から連れ出し、新たな生活に踏み出そうとしていた矢先だったとう訳だ。

 

 そして、ここからが大変な目にあったという話なのだが……どうやら巡回の騎士に家の様子をコッソリ伺っていたのを見られたらしく、捕まってしまった。何故、完全不可知化を使っていなかったのか……

 

 逃げてもよかったのだが、顔を見られてしまっていたので、お尋ね者になるよりは多少マシと思い捕まった。なので、今は牢の中で日記を書いている。剣は取られてしまったが、日記はインベントリに入っているからな。

 

 それにしても初めてのはずなのに、牢の中は何か既視感がある……天井から鍵が落ちてきたりしないだろうか。影の中で怒っているシャドウデーモンを宥めるのが大変だ。

 

 

 ☆月★日

 レイナースにしこたま嫌味を言われ、帰って来なくて心配したと怒られた。

 

 当然のことながら天井から鍵が降ってくることもなく、牢の中で大人しく寝て過ごしていたら表情を無にした彼女が迎えに来てくれたのだ。

 

 安易に寝泊まりしている場所と、彼女の名前を出したのはやはりマズかったかもしれない。取り調べで俺が殆ど無職だとは騎士にバレてる訳だし、彼女の方は図体のデカいペット(ヒト? ♂)を飼っているいることも知られてしまった訳だ。

 

 もう少し牢で大人しく寝てても良かったかもしれない。出ようと思えば看守を操って何時でも出れた訳だし。

 

 

 レイナースにはフルト邸の周囲にいた理由を正直に話した。知り合いのワーカーが行方不明で、その妹がどうしているか気になったと。彼女はまだ不機嫌な様子ではあったがなんとか一定の理解を得た。彼女は非常に理性的な女性だと思う。素晴らしい。

 

 しかし、その時に彼女から聞いたのだが、どうやらフルト邸からは双子の少女が誘拐されていたらしい。

 

 巡回の騎士が俺のことを嫌に疑う訳だ。理由を何度いちから説明しても、お前が犯人だろうとの一点張りで信じて貰えないんだからな。犯人は現場に戻るとも聞くし、俺のことを誘拐犯だとでも思っていたのか? 

 

 いや。あまり職務に熱心そうな騎士には見えなかったし、もしかしたら、さっさと犯人を捕まえたことにしたかったのかもしれない。レイナースが来てくれなかったら、犯人に仕立てられていた可能性もある。この件については、レイナースの身の回りの状況が落ち着いたら、彼女の方でも調べてみるそうだ。

 

 

 ☆月★日

 昨日、レイナースからは、くれぐれも捕まるような真似はするなと言われていたが……どうにも誘拐の話が気になり、フルト邸に潜入してみた。勿論のこと、今回は誰かに見られるようなヘマはしていない。

 

 完全不可知化の魔法を自身にかけ、邸宅内を探索する。中は静かで使用人が働いている気配も、館の主人の気配もない。出かけているのだろう。

 

 邸宅内のそこらに美術品や絵が飾られていたが、それらには埃や細かなゴミが被っていた。あまり掃除が行き届いているとは言えない。

 

 探索している内に双子が普段過ごしていたと思われる部屋を見つけた。部屋内は幼い子どものものとは思えないほどにシンプルだった。ベッド、机と椅子、本棚、クローゼット。子どもが遊ぶような玩具の類いは殆どない。机の上には双子が描いたと思われる三姉妹の絵が2枚置かれてあった。

 

 

 そもそもレイナースから聞いた話では娘は誘拐されたという話であったが、よくよく聞いてみれば誘拐だと主張しているのは父親のようだ。曰く、私用で外出から帰ると家にいなかった。家に誘拐犯が押し入ったに違いない、犯人の狙いはフルト家の財産に違いない、と。

 

 その前に幼子を家に放置するなよと言いたいが……貴族という生き物は、使用人に全て任せ切りで、子育てなんてした事はないのだろう。フォーサイトが心配する訳だ……

 

 事の真相を調査し、犯人を捕まえるのは社会の秩序を守っている帝都騎士団の治安部隊の役割なのだが、件の皇城襲撃のせいで未だに混乱しているらしく、調査は進んでいないようだ。

 

 それに双子の父親に心当たりを聞いても知らん、さっさと探し出せ、探すのはお前たちの仕事だ、と言うばかりなのだとか。なら、誘拐犯から連絡はないのかという話だが、それもないらしい。そしたら今度はフルトの名を汚すのが誘拐犯の目的なんだとか言い出すらしい。

 

 

 その後も邸宅内を見て回っていたが、没落貴族にしては贅沢を繰り返していた様子が見て取れる。借りた金はこの贅沢に消えたのだろう。

 

 物音がし、外出から戻った当主と夫人の会話が聞こえてきた。双子の父親と思われる当主はアルシェのことを金蔓、役立たずと呼んで憚らず、夫人も困ったような顔をするばかりで庇うことはなかった。

 

 誘拐されたという娘二人を心配するような素振りもないことから、どうにも胡散臭い。此方に気づくこともなく次はどんな美術品を買うかなどと熱心に話しているが、当然の事ながら、この家にそんな金があるとは思えない。にも関わらず、手元に相当の金があるかのように振る舞っている。

 

 

 ……恐らくは、このクズの身勝手な理由で幼い娘二人は身を売られたのだろう。胸くそ悪い。俺だってそこそこクズだと思っているが、自分の子を売るようなマネだけはしない。

 

 その場で殺めてやろうかと思ったが、俺がそうする義理もないと思い直した。こういう手合いは何もしなくても地獄に落ちてゆくものだ。……二人の娘だけは探しておいておこう。

 

 

 少しレイナースと話をした後、出かけてゆく彼女を使用人とともに玄関で見送る。帰ってくるのは何日後になるか、まだわからないそうだ。

 

 

 ☆月★日

 暇だったから、双子が売られたかもしれない先である奴隷市場を宛もなく歩いて回る。

 

 だが、当然のことながら幼子を表立って売るような奴隷商はいない。表の奴隷市場で歩き回っているだけでは双子も見つからなければ、手掛かりだって掴める筈もない。

 

 聞いた話では、帝国には奴隷制度はあるが帝国民は奴隷にはなれないらしく、帝国内にいる奴隷は王国、法国を除いた他国のヒト種、エルフといった亜人種が殆どらしい。

 

 つまりは、仮に双子が現在奴隷商のもとにおり、客に売られるとしても、表には出て来づらいと言う事だ。それにもしかしたら、既に身柄は何処ぞに渡っている可能性だってある。

 

 

 どうしたものかと思案していたのだが……そこで、クレマンティーヌと遭遇した。してしまった。ナザリックを出て帝国方面に向かったとは聞いていたが、すっかり忘れていた。

 

 通りを行き交う人の群れの中、此方に意識を向け近づいて来ている存在がいることは分かっていた。背後から忍び寄ってきた影に刃物らしき物を突きつけられ、背を押されるままに人のいない路地裏へと移動した。

 

 最初は売られた筈の双子を知る者かと期待したが、背後からかけられた声で誰なのか直ぐに分かってしまい……俺の緊張感は否が応にも急上昇していった。

 

 路地裏に移動した後、振り返りざまに腹パンを食らい、クレマンティーヌからの嫌味をただただ受け入れた。

 

 静かだが怒りのせいで笑みすら浮かべている彼女からの非難を聞き、たまに飛んでくる拳を受け、如何にも反省しているといった態度を貫いた。反論? 言い訳? そんなの火に油を注ぐ行為に決まっている。俺には無理だった。

 

 ナザリックからの脱出で彼女用に用意していた武器類は全て俺の私物ではあったが、そんなこと今更言ったとしても怒りは収まらないだろう。俺だって出来る限りの助力はしたつもりなんだよ……今日一日はご機嫌伺いになった。

 

 

 ☆月★日

 昨日はロックブルズ邸に帰れなかった。言伝もせずに帰らなかったロックブルズ邸に戻ると、俺に一言物申すために待ち構えていただろう年老いた使用人に見つかったが、怪我こそないものの衣服が彼方此方破けているのが分かると一転して心配された。善良な人たちだ。

 

 ……ただ、彼らのボヤキには辟易した。クドクド冒険者などという不安定な仕事は止めなさいとか、安定した騎士団の試験を受けなさいとか、たかが喧嘩でそんな情けない格好になるなど嘆かわしい、お嬢様は幼い頃から魔獣討伐をしてたのに、お嬢様が欲しければ相応しい男になりなさいだとか……

 

 本当に俺に何を期待していらっしゃる? 

 

 ところで、クレマンティーヌに俺の居場所をチクったのはパッチのようだ。俺は一応、主なんだが? あの野郎……今度、露天の冷やかしに行って商売の邪魔してやる。もしくは商品が盗品とか死体漁りした物ばかりだってリークしてやろうか。

 

 当のクレマンティーヌだが、今は双子の売られた先を調べさせている。何でも帝国には以前のちょっとした伝手が残っているのだとか。俺も同行しようかと言ったのだが、どうにも俺には会わせたくない連中のようだ。クレマンティーヌなら危険はないだろうが、会わせたくないって、いったいどんな奴らなんだ……

 

 

 それと、帝国を出立した団体がナザリック近くに到達し、使者がナザリックに招かれるということで、話を聞いておくために俺も一応ナザリックにいる事になった。

 

 帝国代表である皇帝との話は主にモモンガがし、俺は別室でモニター越しに会談の内容を聞いていたのだが、狙い通り帝国はナザリックとの同盟を望み、ナザリックはそれを受諾。結果としてナザリック、いや、魔導国は国としての後ろ盾を拍子抜けするほど簡単に得ることが出来た。

 

 会談の後、モモンガは皇帝を接待に誘ったのだが、どうにも予定があるとかで断られ、直ぐに帰ってしまったようだ。実際にはモモンガの見た目とか、ナザリックのヤバさにビビってたってのがあるんだろうが。

 

 

 それとは別に、レイナースの様子も見ていたのだが……

 

 彼女は何が気に入らないのか、歓待役のプレアデス……特に初対面の筈のユリを睨みつけるように見ており、隠れて何度か舌打ちもしていた。……恐らくだが、ユリの美貌に嫉妬していたんじゃないかと思う。結構、嫉妬深い性格のようだし。

 

 一方、俺が彼女の家に身を寄せているという情報を持っているだろうユリも表面的には表情を取り繕っていたが、冷めた目で彼女を見ており、歓待するような空気は彼女たちの間にはなさそうだった。

 

 他のプレアデスもユリの纏う空気に当てられたのかどこか緊張しているように見えた。ユリ、俺を出迎えに来てくれた時は笑顔だったのに……なんか胸が苦しい……怖くなってきた。

 

 

 ☆月★日

 一日ナザリックに滞在し、モモンガと今後のことを打ち合わせした。頭のいいデミウルゴスやアルベドに任せておけば大事ないのは確かだろうが、先が中々見通せないのは少々ストレスだ。このまま何事もなく上手く魔導国の建国が果たせればいいんだが……

 

 それはそうと、モモンガはコキュートスの提案で、今後は魔導王を名乗ることにした。そこまでは良かったのだが、ナザリックの皆の間でモモンガが魔導王なら俺は……? という話にもなりかけたが、俺にそういった称号は重荷すぎる。今はその時ではないと最終的に何とか話を有耶無耶にすることが出来たが……

 

 その話の途中、やはり薪の王という名称が出たが、脇に控えていたユリがその名称は俺には相応しくない、侮られかねないと反論し周囲が同意していたのが印象的だった。まぁ、確かに薪の王様ってのは皮肉めいてるし、何か凄い燃えそうな印象あるものな。そこまで反対する? とは思ったが……

 

 続けてユリは騎士王はどうかとも言っていた。多分、最初の火の炉にいる騎士型モンスター達の主というところからきていると思うのだが、そんな大層な呼び名は気が重い……

 

 他にもモモンガが不死の王と呼ばれるのに対して、俺は闇の王という名称が相応しいのではないかという意見もあった。だが、俺の何処にそんな要素があると? 実は根暗だとでも言いたいのか? 

 

 他に挙げられたのはコキュートスの推す陰の太陽。陰日向にナザリックを照らす、ナザリックの精神的主柱としての意味があったようだが……それではあのグウィンドリンの二番煎じだしな……

 

 まぁどの道、俺には魔導王のような大それた呼び名はいらんよな。

 

 

 ☆月★日

 冒険者の依頼から帰ったという体で帝国の拠点(ロックブルズ邸)に戻り、クレマンティーヌに調査の報告を聞く。双子の行方は案外簡単に判明した。双子のいる居場所はズーラーノーンの下部組織、通称邪教教団にいるらしい。クレマンティーヌ曰く、取り合えず命に別状はないようだ。

 

 あまり話したがらないクレマンティーヌを詰問してみれば、邪教教団には高位の帝国貴族も多く出入りしており、そこでの正装が骸骨の仮面に全裸という頭イッちゃってんじゃねーのというヤバイ連中らしい。

 

 こいつらは不老不死のために若い魂を邪神に捧げるという名目で生贄にしているらしい。双子も生贄の儀式に使うということで奴隷商から仕入れた経緯があるそうだ。

 

 取り合えず、無事ならいいのだが……邪教教団に伝手のあったクレマンティーヌが一先ず双子を生贄にすることは止めているらしい。

 

 何故、邪神教団のことを言いたがらなかったのか聞いてみたら、元々は帝国貴族の弱みを握り洗脳するために作られた組織らしく、教団の教えなどは出鱈目ばかりで作られているのだという。仮面に全裸というのも、羞恥心を共有することで結束と秘匿性を持たせるためなのだとか。

 

 要は、そんな頭のおかしい集団を作った、主犯の一人と思われたくなかったということなのだろう。

 

 

 ☆月★日

 実のところ、ユリのあの無表情を見た時から漠然とした不安がある。

 

 それはもしかしたら時限式の爆弾を抱えてしまっているかのような……今のところクレマンティーヌとは何だかんだ一定の距離を保ちつつ上手くやっているようだが……レイナースとも、ってなったら……? 

 

 ……こわひ。

 

 この事を誰かに相談しようにも、出来ない。仮にモモンガに相談しようものなら、どんな反応を返されるか分かったものじゃない。ユリを悲しませていると知られたら、俺は、まず間違い無くブチ切れられるだろうし……

 

 と、悩んでいたら今日の世話役であるセバスに違和感を悟られたのか、なんやかんやで洗い浚い話してしまっていた……

 

 そのセバスが言うには力や魅力のある人物が異性を惹き付けるのはごく自然なことで、それが男ならば種の生存本能として多くの女性と肉体関係を持とうとしてしまうのは致し方無いことだと。まして、王や英雄と呼ばれる存在ならば、それが普通だど。

 

 逆に女性としては優れた遺伝子を取り入れ、子を残してゆくには他のライバルは少ないほうが良い。だから嫉妬したりライバルを排除しようとするのも致し方ない事であると。

 

 だから、ハーレムを望むのであれば、男性は並外れた甲斐性を持たなければならない。もしも女性が悲しんでいるなら男はその悲しみや不安を拭うべきだし、女性に真摯に尽くし、気づかう努力が必要になるのだそうだ。

 

 な、なるほど……流石、タッチに創られただけあって紳士的だ……言ってることはアレだが、非常に参考にはなる。本人は畏れ多いとか言うかもしれないが、こと男女の関係についてなら先生と呼んでもいいかもしれない。

 

 だがまぁ、浮気はクズの所業という概念が頭にあるのか、どうにも三股してる俺が紳士になれるなどとは思えない。……というか、セバスがハーレム肯定派なことを考えたら、普通に変態紳士の方だろう。

 

 

 それはそうと、この数日の間にナザリックへの遠征からレイナースが帰還していた。

 

 気丈に振る舞うも何処か緊迫感漂う様子のレイナースを心配していたが、数日たった今では仕事に精力的になり、普段の調子に戻りつつあるように見える。彼女が言うには、俺の事で近い内に話があるとのことだったが……嫌な予感しかしない。

 

 

 ☆月★日

 屋敷に俺宛の手紙が届いていたらしく、中身を確認するとそれはクレマンティーヌからのものだった。曰く、一応伝えておく情報があるとか。

 

 手紙で指定された場所に行くとクレマンティーヌがいて、この日に会合があるらしい。そして、邪教教団を管理している者(教祖)と会って欲しいと言われ、会合に潜入することになった。

 

 そして会合でクレマンティーヌに亡者の姿になれと言われ邪神の化身として紹介された。どういうことだよ……

 

 それからクレマンティーヌの指示するままに教祖を不死人化させて俺の支配下にし、会合に出席していた全裸の貴族の爺婆には不死を餌に祀り上げられる……というか不死人化のこと何でクレマンティーヌが知ってんだよ。

 

 それと……生贄になる筈だった双子を渡された。いや、渡されても困るよ。所望されていたとか言われても、そんな覚えないし……

 

 この双子どうすんだよ……年の割には利発で、非常に可愛らしいとは思うが……誰が育てんだ。俺、育てられないぞ? 

 

 異形種ばかりのナザリックを頼る? 孤児院を設立する予定があるとはいえ、忙しいユリを頼る? クレマンティーヌは預けるのが怖いから無理だ。レイナースなんて帝国騎士のエリートだぞ……言える訳がない。となると、押し付けられる存在なんて一つしかないじゃねえか……

 

 

 俺は4つの魂に霊体の姿を取れるだけの一時の力を与え、霊体を得て困惑するフォーサイトに伝えた──アルシェの妹を助けたくはないか、と。

 

 これは契約だ。俺が双子を助けてやる謂れはない。ただ、俺にはフォーサイトに困っている時に飯を奢られたとしう小さな借りがある(苦しい)。だから、助けたければ、契約書にサインしろと迫った。

 

 この契約自体は俺が考えついたものではないが、クレマンティーヌからしたら甘過ぎる程の、メリットしかないものだと宣う。世の中には助けという、手すら差し伸べられることのない者が沢山いる。それに比べたらホンの少しの不自由くらい何ほどのものか、と。

 

 手を取るだけで得られる確かな力。それは破格の報酬。まして主へと仕える栄誉を賜ることを拒否するのであれば、それこそ力を持つべきでは無い、価値の無い者だと。

 

 ……そう話すクレマンティーヌの目は据わっていた。モノホンのガチだった。

 

 

 …………

 ……

 

 

 ☆月★日

 ここ数日は平和だったが、今日は帝都が少し騒がしい日となった。やはり、自身の欲のため、子を売った報いは受けるものなのだろう。フルト邸には事件の裏を取った騎士が押し入り、当主と夫人を連行していったのだ。

 

 彼らの罪状は禁止されている帝国民の奴隷売買。皇帝に対し日頃から暴言を吐いていた不敬罪。それから金品を騙し取る、借金を返さないなどの詐欺罪。他、諸々。自業自得。もう彼らがフルト邸に戻ることも、贅沢な暮らしをすることはないだろう。

 

 ただ騎士は双子の行方も追っていたようだが、まだ見つかってはいないようだ。……ただ、ごく最近のことだが、帝都から遠く離れたカルネ村に男女の四人組と双子の女児が滞在するようになったらしい。

 

 

 ここ最近はずっとレイナースの様子がおかしかった。

 

 まず帝城から帰ってくるのが連日遅くなり、会う機会が減った。そのせいか、会話や目を合わせる事も少なくなった。たまに会話する機会があっても反応も良くなく、すぐに逃げるようにして部屋に戻ってしまう。夜に部屋を訪ねて来る事もなくなっていた。

 

 今日、その事で彼女と話をした。彼女は俺が素性だとかをいつまでも話さない事を気にしていたらしい。……俺は彼女にナザリックに所属していると言えなかった。……いや、彼女が受け入れてくれるとは思えなくて、俺が言えなかっただけだ。臆病者と言われた。まさにその通りだった。

 

 明日は帝城に呼ばれている。それが終わったら、この居心地の良かった家から出て行こうと思う。

 

 

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