クレマンティーヌ編⑧
あらすじ
・男さんフルト邸の様子を伺っている所、巡回の騎士に誤認逮捕され牢に入れられる。
・レイナース、同居人を牢に迎えに行く。その後、ナザリックに出立。
・男さん性懲りも無く、フルト邸に侵入。双子が行方不明だと判明。
・双子は売られたと推測。行方を追う。
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国家の大事というのは、見えないところで人知れず進んでゆくものなのだろう。それは繁栄のさなかにある帝国といえども例外ではなく、多くの帝国民は自分たちが現在、大きな流れに巻き込まれようとしているなど知る由もない。
これは帝国皇帝がナザリック地下大墳墓へと出立し、会談が行われるまでの間の一幕──
バハルス帝国の西区画。そこには奴隷市場があり、奴隷制度を採用している帝国では奴隷とは何ら珍しい存在ではなかった。
裕福な農園においては労働奴隷が働いているし、商館などある程度教養が求められる場においては知識奴隷が働いてもいる。そのような正規で労働に従事している奴隷がいる一方で、奴隷制度とは法の抜け穴を突いた人権を無視した人身売買や強制結婚、債務を盾とした搾取や束縛が横行しやすい制度でもあった。
ただ、バハルス帝国の奴隷制においては他の国と明確に異なっている点がある。
それは、奴隷の生存権が保証されており、食事を与えないといった虐待や肉体的に傷つける行為、同意のない性的行為を禁止しているという点。
帝国における奴隷契約とは、専属の雇用契約に似た形態であり、奴隷は衣食住を提供され、その代価として労働が行われる。更に、労働に対しては給金での対価も出ることになり、資金を貯めて自分を買い戻す事も可能な制度になっていた。
しかし、一方でその規則が適応されるのは帝国民やドワーフ、近隣の友好国出身の者に対してのみであり、大部分は規則の対象とはなり得ない実状もある。
例えば、エルフを多く擁するエイヴァーシャー大森林は帝国における友好国とは見られていない。大森林に点在する各集落は都市との繋がりが弱く、政治が機能していない為に抗議自体ないという実態がある。その為、見目の良いエルフは規則の適用外として性的な搾取が行われる過酷な環境に放り込まれる事が多かった。
他にも周辺の小国家、部族国家なども帝国の脅威にも、利益にもならない為、規則の対象外となっていた。
──とはいえ、帝国民と友好国、それ以外とで扱いが異なるというのは、多くの国家間での協調が取られていない現状を鑑みるに当然の事であろう。
この奴隷市場に集められた奴隷も千差万別。犯罪行為を犯した者や、借金で首が回らなくなり身売りした者。容姿に優れたエルフや他国出身の亜人種や獣人族、多種多様な種族の男女が集められていた。そして、それを買う側も。貴族や大商人の娯楽として、または労働力確保の為に、様々な目的で奴隷が売買されている。
──そして、そんな奴隷市場を物珍しそうに見て回る存在がいた。
一見するとよくいる冒険者にしか見えない。その冒険者風のラフな格好をした男の正体はナザリック地下大墳墓を支配する存在の一人であり、配下達からは御方と呼び慕われる存在。しかし、この場においてはバハルス帝国の情報収集の為に金級冒険者として潜入している密偵であり、趣味を兼ねた旅行者であった。
そんな彼がこの奴隷市場にいるのにはちょっとした理由があった──
「いや、やっぱりいないよな……そもそもが幼い子どもを買う奴なんてドクズの変態か聖人かの二択だろうしな。普通の店には並ばないよな……」
そう男は独りごちる。男は店先に出された檻に入れられた奴隷たちを横目に、歩きながら考える。男が探していたのは4歳〜6歳くらいの双子の女の子。ちなみに男が稚児趣味という性癖を持っている訳では無い。
男が彼女たちを探している理由。それは自身の中に燻るモヤモヤとした感情が何であるかを確かめる為であった。
帝都に拠点を置くワーカーチーム、フォーサイト──数日前、彼らはナザリック地下大墳墓の地を侵犯し、ナザリックに眠る財を盗み出そうとした賊として男に処断されていた。しかし一方で、男と彼らには顔見知りという繋がりがあり、彼らがナザリック地下大墳墓の地を侵犯するに至った理由もある程度は理解していた。
とはいえ、ナザリック地下大墳墓を拠点として建国を目指す盟友や配下達にとって彼らは賊であり、策謀に巻き込まれた愚かな存在。一度領地に土足で踏み入った以上は敵でしか無い。どの道、彼らを助命する事など出来ようも無く、変える事の出来ない運命であった。
男も彼らがナザリック地下大墳墓を探索するという依頼を受けようと相談していた時には強く考え直すように言っていた。しかし、結局は依頼を受けるという判断を変える事なく、ナザリックの地を踏むことになり、ある種の責任を感じた男が自ら彼らを処断する事を望んだのだった。
──今でも男は彼らを賊として殺害した事を後悔などしていない。ただ、彼らが領地に足を踏み入れるに至った理由も知っていたことから、彼らを処断した後の事でモヤモヤと気になっている事があったのだった。
それはフォーサイトのメンバーだったアルシェに関連する事由──彼女がナザリックに侵犯した理由である、彼女が幼い妹たちとの新たな生活を迎える為には資金が必要だったという事が関係する。
アルシェが妹たちを心から大切に思っていた事は理解していた。何故なら、死の間際でも残される妹たちの事を気にしていたのだから。
罰の軽重は別として、ナザリックにおいては死が罪に対する罰に値する。フォーサイトが罰を受けるのは致し方なしと男は納得したが、一方で罪の無いアルシェの妹達たちは姉がいなくなったことで本当に生きていけるのか、というのは気がかりだったのだ。
処断した相手の家族の面倒を見る必要などないと理性では判断している。しかし、その罰の効果が何の罪も無い幼い子どもにまで波及するのは本位では無いと言うのが、モヤモヤの正体ではないかと男は自己分析していた。
だからこそ、男はアルシェの妹達の様子を確かめておこうと、彼女の生家に忍び込び込み身辺調査を行ったのだが……そこに彼女達の姿は既に無かった。
彼女達の両親は、彼女達が誘拐されたと主張しているようだが、どうにも嘘臭い。子どもが攫われたというのに心配する素振りも見られず、身の丈に合わない贅沢三昧の生活を続けていたのだから。
男は直感した──幼子達はその両親に売られたのだと。
□
「なぁ、4歳から6歳くらいの双子の女の子っていないのか?」
「……いねぇよ。そういうのは余所に聞いてくれ。ウチは真っ当な商売なんだからよ、幼子を奴隷として売る事はねぇ。それに、どういう用途なんだか知らないが、アンタに売りたいとは思えねぇな」
「そうか、邪魔したな」
男が奴隷商に尋ねると、奴隷商は顔を顰め男を嘲るように言った。やはり奴隷商と言えども、労働力にもならないような幼子を求めるような客はまともでは無いという認識はあるようだった。
そんな調子で幾つかの奴隷商に聞いてゆくも下衆を見る目で店先から追い出されるばかりだった。
(やっぱり表におくような商品にはなり得ないって事だよな。反応はあることから、裏でそういう客がいるってのは分かったが……どこの奴隷商に買われたのかも分からないし、どうしたものかな)
男がそう考えながら歩いていると何者かが自分の後をつけて来ている事に気がついた。そして、男はほくそ笑む。下衆のフリをして聞いて回った甲斐があるというもの、と。
恐らくは、市場内で双子の幼女が売られていないか聞いて回っている奴がいるという噂が広まっており、それを目障りに思った奴が出て来たのだろう。それはつまり、双子の幼女を買った奴隷商に繋がる手がかりである。
男が尾行に気づいていないフリをしつつ、徐々に人通りの少ない路地に入ってゆく。怪しまれないよう、どのような奴隷が並んでいるのかを確認しながらだ。
──そして、ついに釣り針に魚が掛かった。
「む……」
何となしに店先に並べられた奴隷達を見ていると、男は背中に何か鋭く尖った物が当てられる感触がした。恐らくはヤッパ、刃物の類であろう。
「……そのまま歩けって事か?」
しかし、背後の誰かは男に声をかける事も無く、早く行けとばかりに刃物で刺して押すように男を人気の無い裏路地の方に誘導してゆく。男は喋らない、こういう奴もいるのかと少し訝しげに思った。
「……それで、俺に何か用か? そろそろ振り返っても?」
男は背後に立つ何者かに再度問いかけた。裏路地は人通りが殆どなかった。まだ日が高い時間にもかかわらず薄暗い道は不気味に静まり返っており、表通りの喧騒からも少々遠い。
「いいよ」
ビクリと男の身体が反応する。振り返ってもよいか尋ね、その返答に涼やかな声が背後から聞こえた為だ。その声には聞き覚えがあった。というより、背後を振り返ることなく、そのまま気づかなかった事にして逃げ出したい気持ちにすらなった。
「…………」
背後にいる人物が誰なのかはもうわかっていた。それでも間違っていたらいいな……といった心持ちで背後をゆっくりと振り返り、あぁ、と男は硬直した。ゴクリ、と唾を飲み込む音が聞こえた気がした。
背後にいたのは黒のフード付きマントで全身を覆った存在。その存在は男にとって今会うのが最も怖い人物だった。
それは男の眷属となり、不死人へと変化したクレマンティーヌ。フードを被った彼女は笑顔を浮かべてはいたものの、その男にとってはその笑顔に言い知れぬ圧力が感じられた。それはまるで笑顔の仮面のようで、その仮面の下にある感情は明らかに笑顔ではないことを予感させる。
「お、おう……久しぶり、だな、クレマンティーヌ……元気だったか……」
彼女の笑顔は変わらない。そして、男の声がけにも反応を返す事は無かった。そのままクレマンティーヌは振り返った男の鳩尾に渾身の力を込め、全力で拳を叩き込んだ。
「っ……! チッ……」
しかし、痛みに声を上げたのはクレマンティーヌの方だった。まるで鋼鉄の塊を叩いたような感触であり、逆に自分の拳を傷めたように手をブラブラと振る。
そのままクレマンティーヌは第二撃を、今度は顔に叩き込もうと拳を突き出したが、その拳は男の手の平で受け止められた。
「やめとけって……ケガするぞ……」
「……」
──のだが、クレマンティーヌはそのままの態勢で男の顔に向けてハイキックを放つ。柔らかな関節と靭やかな筋肉により繰り出されたハイキックは顔の側面、こめかみ周辺に吸い込まれるように命中し、ガッという鈍い音を立てた。
レベルの差は絶望的に大きく、クレマンティーヌのハイキックが男の肉体に対して何ら痛痒を与えることは無かったが……精神的にはどうか。男はクレマンティーヌの笑顔の奥にある怒気に怯んでいた。
「……そ、そんなに怒らなくても」
「…………怒ってないよー。ただ顔見たら無性に殴りたくなっただけー。頑張って墓場脱出して帝国まで追いかけて来たら、まさか女騎士とイチャついてるとは思わなかったわー。でも〜、私は怒ってないよ〜」
久しぶりに耳にしたクレマンティーヌの間延びした声のトーンは1オクターブほど高かった。どう考えても怒っているとしか思えず、男は表情を険しくさせた。
「…………すまん」
「あ゛? ……何か謝らなきゃいけないことしたのかなー? ちょっと聞いてみたいなぁー?」
男の謝罪に対して、今日イチの低い声が出た。
クレマンティーヌの拳を受け止めていた男の手から彼女の拳が抜け、彼女は一歩後ろに下がる。そして、手を閉じたり開いたりして、グッと握りしめた。
「その……なんだ。俺がナザリックにお前を無理矢理に放り込んだのが一つ」
「……」
クレマンティーヌは笑顔で顎をしゃくりあげ、次を促す。
「それと……その……彼女のことだろ……お前たちがいながら……他の女の所に転がり込んだっていう……」
「……」
無言のまま前蹴りがとんで来る。男はそれを避けることなく受けた。流石に衝撃を流す事も出来ず、後ろに下がるようにたたらを踏んだ。
「ふふふ……墓場の脱出にどれほど苦労したか……まぁ、アレの協力を得る為にも顔合わせが必要だったっていうのは分かるけどね。ダルかったけど。私も強くなれたし、百歩譲って、それはいいよ。でもさぁ……」
クレマンティーヌの言うアレ、というのはナザリック地下大墳墓の盟主であるモモンガのことであろう。
クレマンティーヌはそのまま背後の壁に男を押し付け、口づけすら出来そうな距離で真顔になって凄んだ。
「なに、私以外の女に飼われてんだよ。私のことを待ってると思って急いで来てみれば……どこぞの女騎士と乳繰り合ってるし? 私がどれだけ尽くしてると思ってんだ。ねぇ足りないのかな? これ以上、何を捧げればいいのかな? 言ってみろよ、今すぐ叶えてやるよ。さぁ何がお望み? 何でもしてあげるよ?」
「ま、待て……クレマンティーヌ、違うんだ。話を聞いてくれ……」
男は何とかクレマンティーヌを宥めようとするも、彼女の怒りが治まる気配は一向に無い。
「何が違うんだ。ほら言えよ。何処で誑し込んだのか知らねーけど、女騎士の家に住み込みだ? 挙げ句、デートだ? 自由が過ぎんぞ」
「だ、だから話を……レイナースは皇帝直属の騎士で、帝国内部の情報を集めるのに効率が……」
「ね゛ぇー……脳味噌に蛆虫でも湧いてたりするー? 私の前で他の女の名前を出すんじゃねぇよ」
そう言ってクレマンティーヌは男の鳩尾に膝蹴りを叩き込んだ。良いところにクリティカルヒットしたのか一瞬、男の息がつまった。
「ぐっ……」
「あなたが牢に入ってるのを知らせたの、誰だと思ってるのかなー? 伝手もない、人望もない、特定の組織、後ろ盾になる派閥に与してる訳でもないあの女に情報が集まってくる訳ねぇだろ。それにあの女に頼らなくても帝国上層への伝手なんてお尋ね者の私だって持ってるっつーの。うん、あの女、邪魔だね。殺っちゃおっかー。いいよね?」
曰く、レイナースに男が留置所に入れられていると匿名で伝えたのは彼女自身であったらしい。
そう話すクレマンティーヌは男の首にガントレットの鋭い爪の付いた指先を這わせ、徐々にその首を締めてゆく。男は抵抗をせず、されるがままだった。
「彼女に匿名の情報を入れてくれたのは助かった……だが、彼女にも事情が……それに、彼女を見れば……皇帝の動きもわかる……今彼女がいなくなれば……皇帝は警戒を強めて……情報が表に出てこなくなるかもしれない……だから……」
「……ふーん。あの女を庇うんだ? 絆されちゃったの? あの醜女に汚された身体と心……私で上書きしなきゃね」
狂気を孕んだ赤にも見える紫の瞳には、ダークリングの円環が燃えていた。クレマンティーヌは男に抱き着くように密着すると籠手の鋭い爪で男の服の背中側を引っ掻くように裂いた。そのまま服の中に手を入れ、男の身体に爪を立てて引っ掻く。
しかし、服はズタズタになろうとも男の肌には傷一つつけることは出来なかった。それがまたクレマンティーヌを苛立たせる。
ならば、と。男の前に座り込むと男のズボンをずらし、男の一物に口づけした。
「男は下半身に脳があるって言うしね。何も考えられないようにしてあげる」
そう言ってクレマンティーヌは男の一物を丁寧に舐った。丹念にゆっくりと舐っていく。舌で裏の筋をくすぐったり、口に含んで輪口から汁を吸い出すように口を窄める。すると、男の一物は直ぐに屹立し、その存在感を増した。
「待てっ……こんな所で……! お前には本当に悪かったと……!」
羞恥のせいか焦りを感じさせつつ、口では止めろと言う。しかし、クレマンティーヌが苛立っている事を忘れ、未知のシチュエーションに若干の興奮さえしていた。
そんな状況で言い放たれた全く心の籠もっていない謝意に、クレマンティーヌはコメカミに青筋を浮かせ、苛立ちの込められた視線を向ける。
「っ……少しも悪いと思って無い癖に。ご褒美じゃねーんだよ!」
クレマンティーヌは男の一物を口から離すと、亀頭に歯を立てて噛んだ。ビクリと剛直が刺激に反応した。
「……いっ! それ、やめっ」
男は鋭い刺激に顔を顰め、腰を引いた。クレマンティーヌは男に対して怒りをぶつけるかのように、再びその一物を口に含むと激しく顔を前後に動かした。そして、男の玉を左右交互に口で吸ったり、口に含んで軽く噛んでみたり、舌を器用に使って揉みしだいてゆく。その度に、快感と激痛が男を襲った。
「っ……う、あっ……」
「私はあの墓場で一人で頑張ってたのに……! 頑張って抜け出して、やっと会えると思ったら……あなたは私の事なんて少しも待ってくれて無かったねー……!」
クレマンティーヌは言葉で、口淫で、怒りと悲しみをぶつけて男の身体と心を責め立てる。それはもはや男にとっては快楽と激痛を両立させた拷問のようでもあった。
「わ、悪かったっ……本当にっ……」
「なら、あの女殺すの許して」
「だ、駄目だ、ぐうっ!」
妙な汗を流しながらクレマンティーヌの責めを耐えていたが……とうとう耐えきれずに、ビュルビュルと大量の白濁液がクレマンティーヌの口内に吐き出された。
その白濁液はすぐには飲み込まれずに彼女の口内に留まり、漏れた少量の白濁液が彼女の顎を伝って地面にポタポタと零れ落ちる。
それからもう一度、未だ萎えることを知らない剛直に口をつけると、まだ許していないという意志表示の為にわざと歯を立てて男に痛みを感じさせ……先端に残ったモノをもジュルと音を立てて吸いつくすと、ゴクリと喉を鳴らして飲み干したのだった。
「気分が晴れるまで続けるから。今日から私のペット兼奴隷に決定ー」
□
そんな、傍目には奴隷に性欲処理をさせているようにも見える二人を、コソコソと伺う人影があった。
その男たちはこの奴隷市場の裏側を差配している集団に所属する者たちだった。属していると言っても、奴隷売買に直接関わって表では紹介出来ないような商品の斡旋を行う、といった仕事ではなく……警備に必要な人手に駆り出されるくらいの小物であった。
最近はこうして、人気の無い路地裏に奴隷を連れ込んでつまみ食いしている馬鹿を脅し、お溢れを掠め取る事をちょっとした楽しみにしている程度の小心者でもある。
そういう意味では今回もいつもと同じで、奴隷の主を人数任せに脅して、自分たちの気が済むまで奴隷を借りてゆく。そのはずだったのだ。
「……やっと終わったか。それじゃ俺らもお溢れを預かりに行こうぜ」
「おう」
「そうだな。……へへ、楽しみだぜ」
「しかし、なかなか口ですんのが上手そうな奴隷じゃねぇか。あれは相当仕込まれてきたと見た」
そんな男たちの下卑た会話をしつつ、男たちは彼らの元に歩みを進めるのだった。
「よぉ、兄さん。そっちのは買ったばっかの奴隷だろ? ちょっと俺らにも貸してくれや」
男たちが、奴隷主と、その奴隷と思われる全身をマントで覆った女に声をかけた。女はちょうど主人の一物の掃除を終えた所であった。
女が男たちに視線を向ける。近くに来てようやく容姿が見えたが、その女は肩ほどの金髪に赤紫色の瞳をした少し目つきの悪い顔……不機嫌そうにも見える顔をしていた。とても若い、という訳では無さそうだったが美人の部類だろう。女が口から溢れたであろう精液を舌で舐め取る。その赤くうねる舌が淫媚に見えた。
「奴隷だって。貸し出していいかなー?」
「……やめてくれ」
二人が何事かを小声で話していたが、その内容はガヤガヤと仲間内で会話をしていた男たちには聞こえなかった。
何故なら、男たちの頭の中は既に女をどのように陵辱するかという妄想と期待で満ちており、正常な思考を有していなかったからだ。男たちは顔をニヤケさせ、歯並びの悪さを露出させなから笑う。それを見た女が身を引いて恐れに表情を歪ませた。
「な? 少しだけアッチ行っててくれたら、すぐに済ませるからよ」
「なかなかイイ女じゃねぇか。利口な兄さんは俺たちの言う事、聞くよな?」
「ここらは俺らのシマだからよぉ。ちゃんと話は聞いといた方がいいぜ」
「俺らは善良な方よ? 中には連れ去ったまま返さねえ奴もいるからな。兄さんもこんな路地裏に入るなんざ、馬鹿なことをしたな」
「ま、一つ学んだと思って諦めるんだな」
「──おい、聞こえてんのか。さっさとアッチ行ってろや。死にてえのか?」
ガヤガヤと勝手な事を喚き、ニヤニヤと嗜虐的な笑みを浮かべる。その内の一人のチンピラがなかなか女奴隷を差し出そうとしない奴隷主の様子に焦れ、股間にテントを作りながら女奴隷に触れようと近づこうとした。
そうして近づいたチンピラは、目の前の二人が何の話をしているのかがようやく聞こえるようになった。
「──そういえばさぁ、墓場にワーカー共が侵入したらしいじゃん。その内の何人かを切ったって聞いたよー。あーあ……私もその場面見たかったなー?」
女奴隷が奴隷主に対し、嗤いかける。その目は奴隷が主人に向けるようなものでは無い。奴隷商の用心棒の真似事をしていたのだ。チンピラは奴隷がどんな卑屈な態度を取るのか、どれほど絶望で光の失った目をしているのかをよく知っている。
そして、チンピラは勘違いしていた事にここでようやく気づいた。
「──わかるでしょ? 私が何を見たいのか。じゃないと許さないから」
女からの圧力で隣りにいた奴隷主だと思われていた屈強な男が困ったように眉を下げ、その背を僅かに丸める。チンピラの目にはどちらかと言えば、隣りの男の方が奴隷の気質を持っているように思えた。
「……まぁ、どっちでもいいか。奴隷でも、奴隷じゃなくても、その女には俺たちの相手をして貰うんだからよ」
「キッショ……テメー、息クセーんだよ。つーか、それ以上近づいたら死んじゃうよ?」
「あ?」
青白い光が一瞬だけ煌めき──女を捕まえようと手を伸ばしていたチンピラの腕がボトリと地面に音を立てて落ちた。
「あ? 俺の腕……あ? え?」
チンピラは遅れてやって来た痛みを自覚し、絶叫を上げ──ようとしたが混乱とショックでハクハクと口を開いては閉じるばかり。チンピラの絶叫が路地裏に響く事は無かった。
その間にも切り落とされた腕の先からはボタボタと血が零れ落ち続け、地面を赤で濡らしてゆく。
そして、チンピラが無くなった腕を呆然と見つめていた次の瞬間には視界が地面に落ちてゆく。遠くで仲間の三人が此方を見て立ち尽くしていた──というのが憐れなチンピラの最後の記憶であった。
残った男達からすれば何が起こったのか分からなかった。奴隷主である男の横を通り過ぎようとしたら、いつの間にか仲間の腕が地面に落ち、その次の瞬間には首が胴体から離れて地面に転がるところだったのだから。
奴隷主の男はさっきも、今も、剣を手にしている様子はない。だが、いくら何でも何が起こったのかくらいは理解した。
「ヒィィィッ……!! 殺しだ!! こいつやりやがった!!」
「こ、この野郎! 俺らに手を出してタダで済むと思うなよ!」
「や、やべえ! こいつやべぇ!」
奴隷市を縄張りとするゴロツキたちは恐怖に顔を引き攣らせながら、腰からショートソードを抜き放ち、目の前の二人に剣先を向ける。
一応のこと暴力の世界に見を置いているとは言え、本職の冒険者や騎士連中には及ばないことを彼らは知っていた。そしてその中には頭のネジを数本無くしているような輩がいる事も……目の前の二人はその類だという事に男達はようやく気づいた。
「んー? そっちが先に手を出そうとしてきたんだよー? 私は正当防衛をしただけ。何勘違いしてんの?」
女がゴロツキたちを馬鹿にするように言った。
「こっ、このアマ……!!」
ゴロツキ達も流石にその物言いには顔を顰めた。そして女は隣に立つ冒険者風の男に科を作り、媚びた視線を向けた。
「ねぇー? あいつら私のこと犯そうとしてたみたいだよ。どうするー……? もしも私が無理矢理犯されるような事になったら……アンアンって……あなた以外のモノで感じて喘いじゃうのかなー?何度も何度も犯されて、あなた以外に屈服しちゃうのかなー?」
女のその言葉で、冒険者風の男の中で嫉妬という狂気が膨れ上がる。
「あ、ああぁ……」
「ひぃっ」
「ゆ、ゆるしてっ」
ゴロツキ達はその男からの人を殺せそうな視線で、身体の自由を奪われる程の恐怖を感じていた。
「……お前は俺の女だ」
「ふふ……お前じゃ無いよねー? ご主人様って呼びなよ」
恐るべき殺気を放つ男に女はあくまで強気だった。そして、そんな男の暴力性を目の当たりにしても恐怖する事は無い。それよりもむしろ、恋する乙女のような表情をしていたくらいだった。
「あはっ……♡ でも、私の事でそんな簡単に理性がとんじゃうんだー。ほんと、可愛い」
女がニヨニヨと頬を緩め、笑みを溢した。それからゴロツキ達に対しては酷薄な笑みでもって、男に命令した。
「ねぇ……アイツら殺して。墓場でワーカーをヤったみたいにさ。私に見せてよ」
□
人気の無い路地裏に濃い血の匂いが充満していた。
石壁にはべっとりと血が張り付き、黒く変色しているように見える。そして、地面に転がるのは首の無い4体の遺体。その首からは今もダクダクと血が流れ、地面を汚している。
「久しぶりに見たけど、プレイヤーの力って本当に凄いよねー……でも、遊ばないですぐにヤッちゃったんだね。あの青い剣と矢は魔術なのかな? それはまだ教えて貰ってないよね。あの白い霧の魔術は氷結の効果があるの?」
クレマンティーヌは男の圧倒的な暴力に、頰を上気させた顔で褒め称えた。
「すぐ終わっちゃったね……もうちょっとくらい頑張って欲しかったかなー。あの程度じゃ私は全然満足できないよー」
その一方で、一瞬で戦闘が終わってしまったゴロツキ達の不甲斐無さを愚痴る。
「……それにしても、随分汚しちゃったみたいだけど? どうするの、これ。逃げる?」
路地裏の一部は血溜まりになっている上に、首のない遺体が4体だ。この惨状が見つかれば大騒ぎになる事は確定だろう。
「仕方ない……行け」
少しだけ悩むように男が虚空に生まれた黒い空間から4つの青白い玉を取り出した。すると4つの玉はゆっくりフワフワと宙を舞い、首の無い肉体に溶け込むように入ってゆく。
ジワジワと、4つの玉が肉体に完全に染み込んで消える。すると今度はその死体と首、散らばった血が意思を持つように集まりだし、グズグズの黒い泥となって人の形を取り始めた。
ややして、黒い泥の成形がおさまると、はたしてそこには4体の新しい人間が立っていた。男はその4人に何事かを命令し、彼らは男に跪き騎士の礼をし終えると足早に駆けて行く。心なしか彼らの足取りは軽いように見えた。
「何あれ?」
「……ナザリックにいた不死人の配下だ。霊体で肉体が無かったから与えたんだ」
「ふーん……」
霊体の受肉という一連の出来事を見ていたものの、クレマンティーヌはどうでも良さ気な雰囲気を醸し出して返事をした。
「……それでな、ご……ご、主人、様……」
「くふっ……なぁにー?」
男のたどたどしい演技に吹きそうになったが、クレマンティーヌは何とかそれを耐え、男に何用かを尋ねた。それに対して、男は弱ったようにクレマンティーヌの下手に出て答えた。
「頼む……治まらないんだ……」
「あれれー、人殺して興奮しちゃった? 私と同類だったのかなー?」
「違う! お前が、変な事言ったからだっ……!」
クレマンティーヌは気づいていたものの、男の股間はずっと大きなテントを張ったままだった。彼女は男の嫉妬心を煽り、それを分かっている癖に惚けるようにからかった。
「お前?」
「……ご、主人様が……変な事、言うから……です」
「ふーん……でもさ、私今ちょっと機嫌が悪いんだよねー。あのさぁ……自分のした事、本当にわかってる?」
男は声を荒げている訳ではなかったが、欲望で煮え滾った、血走った目でクレマンティーヌを見ていた。クレマンティーヌは髪を指でクルクルと弄び、気の無い返事をする。
先程までとは纏っている雰囲気の質が明らかに変わっている。そのネットリと絡みつくような男の視線にクレマンティーヌは背をブルリと震わせた。
「うっ……俺が悪かったっ。頼む、許してくれっ」
衝動を堪えきれない様子の男がクレマンティーヌの腕を強引に掴んだ。その様は女々しい男が女に縋る図にも似ていた。
「っ、必死なのウケるー。つーかご主人様に手、出してんじゃねーよ。ペットの癖に」
「……っ!」
「あーあ、眷属、もうやめよっかなー」
その冷たい視線と突き放すような一言に男の理性はブチ切れた。胸の内で渦巻く欲望と不安、あまりの興奮でグルグルと視界が揺れている気がした。
「お前っ……!」
男は息荒くクレマンティーヌの唇を問答無用で奪うと、彼女を覆っていたマントの前部を開いた。そこから現れるのは冒険者プレートのトロフィーが張り付けられた革製の胸当て。それに手を掛け、零れ落ちそうな大きな乳房を保護している胸当てを乱暴に剥ぐと、彼女の柔らかな乳房を鷲掴みにした。
突然の事に驚いたクレマンティーヌは、始めこそ目を白黒させていたが、すぐにその目を愉悦の色で染めた。
「サイテー……また私のこと無理矢理犯すつもりなんだ?」
クレマンティーヌは男の首に腕を回し、自分の方に引き寄せて、耳元で囁いた。クズ、クズ、クズ、と。
クレマンティーヌの罵倒に男の思考がドロリ、と溶ける。そのまま鼻息荒く2人は唇を重ね、欲望のままに舌を絡ませ合った。
そして、男はクレマンティーヌを壁面に押し付けると、彼女の両脚の膝裏に腕を通して前抱きにした。所謂、駅弁と言われる態勢。その態勢のままクレマンティーヌの臀部を鷲掴みにし、下腹部を覆った黒のショートパンツの股部分に指を引っ掛け……ビリィッと引き裂いた。
「あっ、ちょっ……んんっ……!」
クレマンティーヌが抗議するように絡ませていた舌を離す。こんな野外で秘部を曝け出すとは流石に思わなかったらしく、軽く赤面していた。しかし、男はクレマンティーヌが二の句を継げないよう、抵抗されようともその口を何度も塞ぐのだった。
男はショートパンツの下にあるショーツのクロッチを避けるとクレマンティーヌの秘所に剛直をあてがう。指先で触れれば、彼女も口淫や男の暴力を見たことで興奮していたのか、そこは既に十分に濡れていているようだった。
そして、剛直を秘所にあてがったまま、両腕で支えているクレマンティーヌの身体をゆっくりと下ろしてゆく。ズブズブと男のモノがクレマンティーヌの熱い膣内に侵入する。
「ぐ、うぅっ……!」
「んあぁっ……♡ こんな所で無理矢理、挿れられちゃっ、た……また人が、来たらっ……どうするつもりぃっ……?」
「もうどうでもいいっ。誰か来たら……また始末するっ……」
その言葉を聞いたクレマンティーヌの口が三日月のように弧を描いた。男が腰を動かし始めると、ヌチ、と水気を帯びた音がした。
「ンッ……クズっ♡ っ、ほんとーに、最低っ♡ 死んだほうがっ、マシっ♡ ねぇっ? ンッ……♡ 誰が私以外にっ、本当のあなたを受け入れられる、のっ♡」
「あ、ああぁ……」
耳元で囁かれた脳を灼く喘ぎ声と罵倒、そして抗い難い甘言。男の腰の動きがどんどん荒々しくなっていった。
「ユリちゃんにもっ、あの女騎士にもっ……あなたが実は性犯罪者だってさぁ、バラしちゃおっかっ?」
クレマンティーヌを男と壁とで挟み込むようにして抱き合った。クレマンティーヌが男の耳元でそう囁くと背筋がゾクゾクした。
クレマンティーヌの尻肉に指を食い込ませながら、快楽を生み出す柔らかな肉穴で剛直をしごく。
「んっ……はぁっ……♡ うっ……♡」
剛直が奥を抉り、子宮口が潰される。男の首に腕をかけ、口づけを強請った。身体の自由を男に委ね、ただ与えられる感覚に集中した。クレマンティーヌの息が荒くなってゆき、艶のある声を漏れる。
密着したクレマンティーヌから漂う甘い香り、男の安心感を齎す匂いが互いの本能を刺激して、思考を狂わせた。彼女は、その匂いをより強く感じようと男の首筋に顔を埋め、強く噛み付いてマーキングを残そうとした。
「っ……あっ♡ ……んんっ♡ はぁっ♡」
男はクレマンティーヌの身体を貪る様に腰を打ちつけ、その豊満な胸を自身の胸板で潰した。
その激しい動きに、二人の結合部からはグチュグチュと卑猥な水音がして、それがまた二人の情欲の炎に油を注ぐ。
対して、クレマンティーヌは男の身体にしがみつき、身体の奥底から溢れて来る快楽と幸福感を味わった。
「あっ、あっ、ああっ♡ 久しぶりのっ♡ キモチよすぎっ♡ 頭おかしくなりそうっ……♡」
男がクレマンティーヌの秘所に剛直を突き込むと、彼女もとうとう快感を貪るように腰をヘコヘコと動かし始めた。その肉穴には男の一物がズッポリとはまっており、抽送の度にジュブジュブと淫らな水音を立てる。
クレマンティーヌの嬌声が人気の無い路地裏に響き渡った。未だに人通りは無いが、一本、もしくは二本向こうの通りでは多くの人の往来がある。ガヤガヤという人の喧騒が遠くから聞こえて来るほどには賑わっているのだろう。
「ううぅっ……イクっ……私を一番愛してるって言えっ♡♡♡」
クレマンティーヌの膣内が痙攣し始め、男の剛直から精を搾り取らんと蠢く。その中、男は彼女の臀部を鷲掴みにすると、より深くまで押し込んだ。
「────」
「〜ッ♡♡♡ んんっ……♡ ふぁっ♡ あっ……♡」
男がクレマンティーヌの耳元で囁く。その言葉に、クレマンティーヌは身体に流れる快楽に身体を震わせ、官能的にくねらせる。
男の剛直によって膣内が凌辱され、逃げられないように最奥まで捻じ込まれていた。その責め立てに、クレマンティーヌの思考回路が焼き切れてゆく。
「私も、────」
背に回した腕の力を強める。そして男の耳元で甘く切なげな声で愛の言葉を返した。
「ん、あああぁぁっ……っ、っ♡♡♡♡」
子宮口にカリ首が引っ掛かり、クレマンティーヌが落ち着きなく身悶えする。そして、奥をトントン、と刺激するようにクレマンティーヌの身体を揺すってやると、彼女はそのカモシカのような脚を伸ばして絶頂に達した。
紅く染めた顔の表情を蕩けさせ、男にしがみつく身体を小刻みに痙攣させる。
剛直を深く咥え込んだクレマンティーヌの膣内はキツく収縮しており、その肉穴にある襞の一つ一つがまるで別の生き物かのように、ギュウギュウと剛直からザーメンを搾り取ろうと蠢いていた。
「うあぁっ……」
その蠢くように締め付けてくる膣に、堪らずに男もクレマンティーヌの肉穴に精を放った。魂までもが引き抜かれるかのように錯覚させる強烈な放精感だった。
ドクドクと精が流し込まれ、クレマンティーヌは膣奥から広がってゆく熱い感覚に快感を覚える。それから男にキスを求めるように唇を突き出した。
「はぁっ……♡ はぁっ……♡ もっとぉ……♡ もっとちょうらぃ……♡」
「もう一回……もう一回だけしたらお前の隠れ家に行く……」
男の首に回した腕に力を込め、クレマンティーヌは男に口づけする。彼女の表情は完全に雌のものへと変貌し、ただ快樂を求める獣と化したかのようだった。
「んっ……んちゅ……♡」
そうして──二人はここが路地裏であることなど気に留めることなく、互いに快楽を求めて再び腰を動かし始めるのだった。