今回(9)主な登場人物は、マダラ、柱間、扉間、OC:芙蓉の親友・千手樹です。
マダラとの関係に反対する樹。
しかし芙蓉にマダラと住む家に招かれ、マダラの意外な一面を知ります。
芙蓉は女学校で教師を始めます。そしてついに、扉間と対峙することに・・・
一方、身を引く覚悟で芙蓉をデートに誘った柱間は・・・
全てが順調な里づくり。
いよいよ里の代表、そして里の名前を決めることに。(原作の場面を一部引用)
しかし、マダラは・・・
4人それぞれの、わだかまり。
今年植えられたばかりの紫陽花が咲いている。
梅雨に入ったのだろうか。雨の日が続き、建設ラッシュのスピードも一時的に緩やかになっているように見える。
傘を差して行き交う人のなか、樹は紫色の和紙が張られた傘を差し歩いていた。
「緊張するなぁ…。あぁ、何しゃべろう。」
この日樹は芙蓉に招待され、マダラの家に向かっていた。
片手には、芙蓉の好きなおはぎが並ぶ箱が入った風呂敷包みを下げている。
ふと足を止めて次から次へと雨が落ちてくる空を見上げた。
マダラと二人で暮らしている芙蓉の姿を想像するだけで、心配と不安、そして嫉妬で胸が苦しくなり、足取りまで重くなる。
なぜ自分は男に生まれて芙蓉に出会えなかったんだろう…
芙蓉に初めて出会った時から、何度も何度も考えてきたことを、また考えてしまう。
「樹ちゃん、いらっしゃい!雨の中来てくれてありがとう。濡れたでしょ?」
芙蓉は手拭いで樹の肩や腕、脚の水滴を拭いた。
樹は芙蓉に触れられて緊張している胸が更にドキドキする。
「あ、ありがとう!あ、これ、芙蓉の好きな蝶屋のおはぎだよ。玄関先でごめん。」
「わぁ!嬉しいありがとう!蝶屋、里にも出来たんだね。今度一緒にお茶しに行こう?」
「うん!」
「おう。お前が樹か。よく来たな。まぁ上がれ。」
・・・うわっ!いきなり本人出てきたよ・・・
マダラが廊下を歩いてやってくる。
「初めまして。千手樹です。お招き頂きましてありがとうございます。」
樹は芙蓉の話で聞いていた通り、背の高い美人だった。
だが思っていたよりもしっかりした性格に見える。意志の強そうな切れ長の青い目と面長の凛々しい顔、スッと伸びた背筋の姿は、まるで男装の麗人のようでもある。
「マダラさま。樹ちゃんがおはぎを持って来てくれましたよ。」
「樹。感謝する。」
マダラの後ろを芙蓉と並んで歩き、部屋に入る。
客間の座卓の上に芙蓉の作った色鮮やかな料理がずらりと並んでいる様に、樹が驚く。
「うふふ。樹ちゃんが来るのが嬉しくて、つい張り切っちゃった。里が出来て色んな所から色んな食材が集まるから、料理するのも楽しくなったしね。」
「と言っても作り過ぎだろが、これは。…樹、沢山食ってくれ。」
「は、はい。」
芙蓉はマダラの隣りではなく、樹の隣りに座った。樹の顔を見てニッコリする。
「…マダラさまの隣りに座らなくていいの?」
樹が小声で訊く。
「…うん。樹ちゃんの隣りに居たいから。」
そう言って芙蓉は微笑み、樹のぐい呑みに酒を注ぐ。
「そう言えば、樹ちゃんとお酒を飲むのは初めてだね!」
「あ、そうだね!外じゃお酒飲めないしね。」
二人が楽しそうに会話し始めたのを見て、マダラが咳払いする。
「お前たち、俺が居ること忘れてるだろ。」
「あら。マダラさまが拗ねちゃった。すみません。でも今日は樹ちゃんが主役ですよ。」
・・・そ、そうなのっ?俺だと思ってた・・・
マダラは焦りつつ酒を飲み干す。
「樹ちゃん。気にしないでね。マダラさますぐ拗ねるから。」
「おい!なんだそれ!変なこと言うな。」
マダラが文句を言いながらさっそく好物のいなりを口に運ぶ。
「芙蓉の作ったいなりは絶品だぞ。お前も食え。」
「いただきます。…うん、すっごく美味しいね。芙蓉の作るものは何でも美味しいけど、これはかなり美味しい。これもお店で出せる!里の名物になっちゃうかもよ?」
・・・あ、本当に出た。『店で出せる』発言・・・
「もう!樹ちゃったら褒め過ぎだよ~。ありがとう。樹ちゃんも沢山食べてね。樹ちゃんの好きな南瓜の従妹煮も作ってるからね。」
「…あの、マダラさまは好きな食べ物は何ですか?」
樹はマダラとの話の糸口が見えず、思いついたことをとりあえず言ってみた。
「・・・・。」
・・・あ、黙った。なんかまずいこと言ったかな。・・・
「マダラさまの好物はね、それ。今食べている、いなり寿司だよ。」
「なんか、可愛い。」
思わず樹は思ったことをそのまま言ってしまった。
「でしょ⁉可愛いよね。顔に似合わず。」
「顔に似合わずは余計だ!てか、その可愛いってホントになんだよ!俺を誰だと思ってるんだ。…ったく。」
芙蓉と樹は顔を見合わせてクスクス笑う。
「…いえいえ、そのギャップが良い感じですよ。ほら、忍には意外性も大切だって言うじゃないですか。」
「そんな意外性で戦に勝てるか!」
あはははは!
二人が大笑いし場の空気が一気に和む。話が弾みはじめた。
「あの、芙蓉がうちはで教師をしていた時のこと、教えて貰えませんか?」
「ああいいぞ。芙蓉はな、“最強”の教師だったんだ。だよな?」
酒が入ったマダラが、楽しそうに芙蓉に同意を求める。
「もう。子供たちの言葉を鵜呑みにして…」
「最強?なにそれ?」
「芙蓉は最強の忍の俺に対抗できる、唯一の教師だったんだ。」
そこからマダラの話が始まった。
芙蓉が教師をしたいと言い出した時の話、教師初日の話、子供たちとの関係、そして頭脳明晰で素晴らしい指導ぶりだったことを樹に語った。
目を輝かせて話すその様子は、心から嬉しそうだった。
樹はそのマダラの話を聞きながら、マダラがどれだけしっかりと芙蓉の事を見ていて、理解
していたのかを実感し、嬉しかった。
・・・この人は、本当に芙蓉のことが好きなんだ…私と同じくらい、芙蓉の良い所、よく解ってんじゃん・・・
「芙蓉…本当に良かったね。芙蓉のことを、これだけしっかり解ってくれている男性(ひと)に出会えて。」
マダラの話が終わり、樹は芙蓉を見て微笑みながら言った。
「うん。ありがとう。樹ちゃん。」
「マダラさまも!こんな超美人で、スタイルも良くて、色白で、優しくて頭が良くて、料理が上手くて、剣術も上手くて、歌も書も絵も上手くて…世界で一番素敵な芙蓉と出逢えて良かったですね!」
樹は少し涙ぐんでマダラに微笑みかけた。
「・・・ああ。そうだな。ありがとう。樹。」
マダラも少し笑顔になって樹に答えた。とても優しい笑顔だった。
「これ、なんかいなりに似てないか?中、酢飯じゃないよな?」
「「言うと思った~笑。」」
この時マダラは黄粉のかかったおはぎを初めて食べた。
マダラの問いに、二人は声を揃えて笑って答えた。
◆
樹は書類の整理をしながらブツブツと呟く。
「なーんで私が柱間なんかの秘書をやらなきゃいけないのよ!もう芙蓉と婚約解消したんだしさ。私じゃなくても他のくノ一でいいでしょ!」
「ん?どうした、樹。一人で何をブツブツ言ってるのだ?火の国へ持って行く書類は纏めてくれたか?」
「あーはいはい。出来てますよ。」
不機嫌そうに書類を柱間に手渡す。
「なんだか今日は機嫌が悪いようだのう。どした?俺で良かったら相談に乗るぞ!」
樹は柱間に直々に頼まれ柱間の秘書になった。
断りたかったが両親が大喜びして絶対に断るなと迫られ、しかたなく今ここに居る。
・・・私から芙蓉のことが聞きたいんでしょ?魂胆見え見えだっつーの。未練がましい奴!・・・
「なんでもありませーん!あの、もう仕事も全部終わりましたし終業時間なので帰ってもいいですかー?」
「ああ。ご苦労だったな。ん、この資料良く出来ておるな!さすが優秀ぞ。じゃ、明日もヨロシク。…あ…そのぉ…最近、芙蓉は元気か?」
・・・ほーら、来た・・・
「最近会ってませんので。彼女もうちの学校で教師を始めて忙しいですから。」
嘘だ。先日マダラと芙蓉の住む家に招かれて行ってきた。
樹はマダラが芙蓉の事を心から愛していることを知り、芙蓉のとても幸せそうな顔を見て以来、二人の関係に賛成している。
「そうか…じゃあ明日にでも学校を覗いてみるかな。」
「個人的な用事で職場に押し掛けるのは芙蓉に迷惑になると思いますけど?」
「いや、違う、その…俺は芙蓉の仕事ぶりを確認するだけで…」
全然誤魔化しきれていない。
「芙蓉の仕事が信用できないんですかぁ⁉あり得ないし…あ。芙蓉の仕事ももう直ぐ落ち着くだろうし、そろそろ結婚するんじゃないですかねー。あの二人。」
樹は嫌味を込めて言った。本当はもう柱間に敵対心を持つ必要は無いのだが、自分を利用して芙蓉の情報を得ようとしているところが気に入らない。
「け、結婚⁉」
「マダラさんと芙蓉、お似合いですよねぇ。美男美女で。」
「二人は結婚するのか!」
「知りません。ただそんな風に思うだけです。…もう、いい加減諦めたらどうですか?」
「・・・・・・・。」
柱間はずうーーんと、かなり落ち込んでいる。
「あの!学校でそういう話、芙蓉にしないでくださいね。公私混同禁止ですから!」
「わ、分っておるぞ…大丈夫ぞ…」
「ならいいですけど。これ以上芙蓉を困らせたら私、いくら柱間様でも、許さないんで。失礼します。」
そう言い放って樹は帰って行った。
◆
真っ白な半袖ブラウスの襟元に紺色のリボンを結び、萌黄色のスカートを履き、編み上げの革靴を履いた少女たちが、まだ木の香りが残る校舎を行き交う。
里に移転した女学校は、これを機に新しい制服に変わっていた。
楽しそうな少女たちの笑い声が、平和を象徴する鐘の音のごとく響きわたる。
「芙蓉先生、数学で解らない所があるのですが。今質問いいですか?」
「いいですよ。…ああ。この問題はね、まず分数から解いていきます。次に…」
芙蓉が女学校で教師を始めて、もうすぐ二ヶ月が経とうとしている。
数学の質問をしてきた生徒に、廊下で教えている時だった。
見覚えのある、いや忘れることのできない銀髪が目に入ってきた。
扉間が校長とくノ一専門教科の教師、三人で何かを話しながら歩いてくる。
「芙蓉先生、どうかしました?…あっ!扉間様だ!!相変わらずカッコいいなぁ~!」
芙蓉が生徒のノートに視線を戻し説明を再開する前に、生徒が扉間の存在に気が付き浮かれ始めた。
廊下に居る少女たちも扉間の登場に色めきだつ。
どうやら扉間は女子生徒たちから人気があるようだ。
そんな少女たちなど気にも留めず、扉間は話を続けながらこちらへ近づいてくる。
芙蓉は心が苦しくなる感覚を必死に堪え、扉間に会釈をした。
扉間はすれ違いざまに芙蓉を一瞬見たが、何も言わずに通り過ぎて行った。
まだ芙蓉の心臓はバクバクと音を立てている。
「もう扉間様、行っちゃいましたけど…?」
頭を下げ続けている芙蓉に向かって生徒が不思議そうに言った。
「あ、ごめんなさい。えっと、それでさっきの問題の続きね…」
「あ、もう大丈夫です。解りました。…あの、所で芙蓉先生って以前、扉間様の許嫁だったんですよね?私の姉が先生の後輩なんです。ていうか今も先生の入学式の話、この学校では伝説ですよ。なんで許嫁を解消しちゃったんですか?」
この年頃の少女は好奇心旺盛で、特に恋愛話は大好物だ。遠慮することもなく、芙蓉に直球で質問する。芙蓉はたじろいだ。
「わ、私が扉間さまと、柱間さまに振られたんです。それ以上は秘密です。」
「へー!先生みたいな超美人を振るなんて理由が気になるぅ!あ、でもそのお陰でこの学校の生徒、柱間様と扉間様の妻の座を狙ってる子、大勢いるんですよ。」
生徒はそう言って、扉間の通り過ぎた廊下で未だ色めきだっている生徒たちを見回した。
「そ、そうなんですね…じゃあ、私も皆さんが素敵な女性になれるようにしっかり指導しないとね。」
「そんなことより、扉間様と柱間様の好きな女性のタイプとか教えて下さい!あ、ちなみに私は扉間派です。ウフフッ。」
「…そ、そういうことは教えられません。恋愛もいいけど、勉強もしっかりね。」
「ハァーイ。ありがとうございましたぁ。失礼しまーす。」
「言葉遣いもね!」
芙蓉の注意を無視するように生徒は小走りで教室へ戻っていった。
薄々感じては居たが、ここではやはり自分の許嫁の件を知っている生徒が殆どのようだ。
そしてしかも、それが少女たちにある意味希望を与えていたとは、複雑な気持になる。そして扉間が生徒たちから人気があることにも、どこか不安を覚える。
仕事を始めるにあたって覚悟はしていたが、女学校で扉間と顔を合わせるなんて…
まだ少し動揺が収まっていない。
「気にしない。気にしない…」
自分にそう言い聞かせながら、芙蓉は荷物をまとめ職員室から出て、校門まで歩く。
ふと昔、週に何度も柱間と扉間が交代で迎えに来てくれていた事を思い出し、立ち止まる。
「扉間様、カッコ良かったよね!今度はいつ来てくれるかな?」「ていうか先生として毎日来てほしいよね」「あ~お話してみたいなぁ」「あのクールな所がいいよねぇ」
少し離れた所で生徒たちが話す声が聞こえてきた。
「扉間様に手紙渡してた子何人かいたよね?いいなぁ私も渡せばよかった」
それを聞いて思わず芙蓉は声を出してしまいそうになった。
一度目をつぶり深呼吸をする。急いで走って校門を抜け、マダラと住む家を目指して走りだした。
夕顔が咲く緩い坂道を下り、ノウゼンカズラの絡むあの家を曲がれば家に着く。
息を切らし、額から伝う汗を拭う。一瞬、ノウゼンカズラの花に目をやったその時だった。
「きゃっ!・・・あっ、す、すみませんっ」
ぶつかりそうになった瞬間、その人物は芙蓉の両腕を持って受け止めた。
恐る恐る顔を見上げると、そこに居たのは、扉間だった。
「・・・・・!」
「感知でお前が走ってくるのが分かったから、受け止めた。」
「な、なぜ、こんな所に居らっしゃるのですか・・・」
「今日女学校へ行っていた用件で、うちはのスパイ部門担当者に話をしに行っていたのだ。ここを通ったのは偶然だ。」
扉間はそう言うと芙蓉から腕を離しその場を後にしようとしたが、二歩前に出たところで、立ち止まった。
「お前には謝罪してもしきれないことをした。許してほしいとは思っていない。」
芙蓉の顔を見ずにそう言うと、再び歩き出そうとした。
「あの・・・」
扉間が立ち止まる。
「なぜ・・・あのようなことを、したのですか?・・・」
芙蓉は思わず、これまでずっと考え続けてきた疑問を口にしてしまった。
扉間は振り返り、一度目線を地面に落とした後、芙蓉の顔を見て答える。
「お前は兄者とも俺とも結婚したくないと言った。お前が兄者でも、俺でもない誰かのものになるくらいなら、消えてほしいと思った。」
「・・・・。」
「俺は、お前を恨んだ。恨むべきは、自分自身だったのにな・・・」
「扉間さま・・・」
芙蓉は、千手の家で柱間と扉間と過ごした日々を思い出した。
扉間は常に兄を支え、一族の為、領地の市民の為、一生懸命働き、数多の戦で戦っていた。忍のことを知ることを禁じられていたとはいえ、芙蓉もその事はよく解っていた。
そんな生活の中できっと、扉間は自分の感情を閉じ込めてきたのだろう。それが自分の軽率な発言のせいで扉間を悪い方向へ向かわせたのかもしれない。
扉間の苦しみが少し想像できたとたん、芙蓉は急に寂しい気持になった。
「でも私は、扉間さまには感謝しているんです。扉間さまがうちは領地に行かせてくれなかったら、マダラさまには出逢えなかったんですもの…」
芙蓉は困ったような笑顔で言った。
芙蓉は扉間をフォローするつもりで言ったのだが、扉間には、どんな厳しい言葉で責め立てられるよりも、それは胸を切り裂くような辛い言葉だった。
「・・・・・。」
「正直、私を殺そうとしていた貴方とこうして面と向かっているのは怖いです。許せない気持もあります。でも、ちゃんと理由が聞けて良かった・・・失礼します。」
芙蓉は一礼して扉間に背を向け歩き出した。
扉間はただ黙って、その背中を見送るしかなかった。
扉間は家に帰り、今日女学校で生徒たち数人から渡された手紙を順に開いて読んでいく。
読んだからと言って返事をするわけではないし、まして女生徒たちを女として見る事など決して無い。
扉間にとって、今でも女は芙蓉一人だった。
芙蓉に優しく出来なかったどころか、殺そうとしてしまった自責の念だろうか。
扉間はまだ少女である生徒たちが勇気を出して自分に渡してきた手紙を、読まずに無下に捨ててしまう事はできなかった。
だが手紙を読みながらも、先ほどの芙蓉の言葉が頭の中でずっと繰り返されている。
『 扉間さまには感謝しているんです 』
芙蓉がマダラと恋仲になり一緒に住んでいる事は、芙蓉が里に越してきた時にうちは一族の者から聞いた。その時の驚きと苦しい気持は今でも何度も思い出す。
しかし先ほど芙蓉に『感謝している』と言われた事は何より辛い事だった。
扉間の考えでは、マダラと芙蓉が対面すれば、千手を恨むマダラは芙蓉を殺すと思っていた。
それなのに・・・よりによって愛し合うようになるとは。
こんなことなら、己の手で芙蓉を殺したほうがマシだった。
気が付くとまた悪い方向へ考えが向く。
頭を振って我に返ろうとした。
「いや…マダラと芙蓉が出会って愛し合っている事こそ、俺への最大の罰だな。」
そんな扉間の苦悩など知る由もなく、少女たちの言葉は情熱的で可愛らしい物ばかりだった。
これまでいったい何度見てきただろう。
扉間は庭の芙蓉の木をまた、見つめた。
今年も変わらず美しい花を無数に咲かせている。
◆
軒先の風鈴が涼やかに鳴り、その向こう側には入道雲と青空が広がっている。
セミの声も聞こえ、店の前には向日葵が太陽に向かって咲いている。虫取り網を持った少年達が笑いながら店先を通り過ぎた。
「こうして二人でデートするなんて、久しぶりだのう!」
山盛りのかき氷を目の前に、柱間が満面の笑顔で言う。
「で、デートだなんて…。私はそんなつもりでは…。」
芙蓉はみつ豆につけようとしていた手を止めた。
「マダラに怒られるか?ちゃんと芙蓉を借りると断ってあるぞ。」
そう言って嬉しそうにかき氷を口に運ぶ。
柱間は樹に芙蓉とマダラがもうすぐ結婚するのではないかと言われ、とてつもなく焦った。
だが芙蓉がマダラと暮らしたいと言って千手領地に帰って来なかった時から、柱間は芙蓉を諦めなけらばならなくなる日が来ることを半分は覚悟していた。
しかし扉間の謀のために二人が引き裂かれたまま、本当に別れてしまうのは悲しかった。
せめて最後に二人で思い出を作りたいと思い、マダラに許可を得て芙蓉をデートに誘ったのだった。
・・・マダラは本当に良い奴だ。マダラになら芙蓉を任せられる。それに・・・
「で、でも、こんな所をうちの生徒に見られたら学校で大変なことになります。柱間さまはうちの学校でのご自分と扉間さまの人気ぶりをご存知ですか?皆、なんとかお二人の妻になれないかと色めきだっていますよ。私がお二人の許嫁だったことも学校で知らない者はいませんし、嫉妬されることもあります…」
「そうなのか?知らなかったぞ。モテているとは嬉しいぞ!ワハハハ。だが芙蓉が嫉妬されて意地悪などされては困るのう。もし今日のデートを見られて生徒から意地悪されるようなことがあれば、俺が注意しに行く!だから大丈夫だ。」
・・・全然大丈夫じゃないんだけど・・・
芙蓉はうな垂れた。
「柱間さまこそ、お忙しい中、こんなことをしていて大丈夫なんですか?」
「俺にとっては仕事と同じくらい大切な時間だ。芙蓉の顔を見るだけで元気が出るしな!」
相変わらずお人好しで優しい柱間に、芙蓉は思わず微笑んだ。
この性格と優しさに、これまでどれだけ救われてきただろう。
あの家で幸せに暮らせてきたのも、柱間が居てくれたからだった。そう思うと、芙蓉の胸は罪悪感で締め付けられた。
…ザーーーー…
いつの間にか外は夕立が降りだしていた。涼しい空気が窓から流れてくる。
「柱間さま、私、ごめんなさい・・・」
「そんな顔をするな。今日は楽しくデートすることが目的ぞ。向こうの空は明るい。夕立も時期通り過ぎるだろう。そうしたら外も涼しくなるし少し外を歩かないか?」
「はい・・・」
三十分もしないうちに雨は上がり、まだ太陽は雲に隠れているものの、雲の隙間から青空が見えていた。
二人は店を出て、柳の植えてある小川の遊歩道を歩き始めた。
「この遊歩道はなぁ、恋人たちがこうして仲良く肩を並べ、愛を語らいながら歩ける場所を作りたくて俺が作ったのだ。実は完成したら、芙蓉と一緒に歩きたかったんだ。」
「…綺麗な遊歩道ですね。きっと沢山の恋人たちが、これからここを歩くんでしょうね。」
「長かった戦で数えきれない恋人たちが引き裂かれた…もうそんな悲しい別れが無いように、俺はここに願掛けしている。」
芙蓉は昔のように柱間の三歩斜め後ろを歩いていたが、早歩きで柱間に並んでみた。
「引き裂かれた恋人たちも、また巡り合って、こうして並んで歩いてほしいですね。」
芙蓉は少し寂しげな笑顔で柱間に言った。
その笑顔を見て柱間の決心が揺らぎそうになる。
「芙蓉・・・本当にもう、やり直せないか?」
「私、仏間さまが亡くなってから、ずっと妄想してる事があるんです。私の母と仏間さまが結婚して、柱間さま、扉間さま、瓦間さま、板間さま、そして末っ子に私が産まれていたら良かったのになって…。柱間さまも、扉間さまも私の優しいお兄ちゃんで、私が彼氏を連れ来たら反対して、でも最後は認めてくれたりして…そんな楽しい毎日を妄想していました。許嫁、失格ですよね…本当に。」
「芙蓉・・・」
「私は、マダラさまのことを心から愛しています。」
夕立で冷えた空気の風がひらりと柳の枝を揺らしていく。
それと同時に芙蓉の長い髪もさらさらと靡いている。
「分った…俺は引き下がることとしよう。マダラは俺の真の友であり、本当に優しい男だ。そしてこれから里を代表して背負っていく者だ。しっかり支えてやってくれ。」
「柱間さま・・・ありがとうございます。」
これが最初で最後。
二人は片を並べて遊歩道の端までゆっくりと歩いて行った。
◆
「覚えているか…ガキの頃にここで話したこと。」
「ああ・・・」
柱間がマダラに訊く。二人は子供の頃に夢を語り合い、共に修行をした崖の頂上に立ち、ただの森だった場所から始まり、めざましい発展を続けている里を見渡す。
「アレはただの夢の話だと思っていた…掴もうと思えばできないことは無かったってのに、俺は…」
「これから夢が現実になる。」
柱間は大きく息を吸い、思い切ったように続ける。
「…火の国を守る影の忍の長…名を火影!どうだ?」
「何だそれ?」
「火の国から里の代表を決めるよう要請があったんだ。お前に里の長をやってほしいと思っている・・・火影を。」
「・・・!」
マダラは柱間の思いもよらない言葉に驚いた。
「もうお前に兄弟はいないが…この里の忍たちは皆お前の兄弟だと思ってほしい。しっかりと見守ってほしんだ。皆を、この里を…」
マダラは何かを考え込むように里のほうを見ながら柱間の言葉を聞いていた。
「うちはの兄弟すら守れなかったこの俺に…」
そう言って目を閉じる。
「弱気になっている暇なんてないぞ!うちはに千手は勿論として、猿飛一族も志村一族も仲間に入りたいそうだからな。」
驚いたマダラは顔を上げて柱間を見た。
「嘘だろ…ホントかよそれ!」
驚きの中にも、喜びがにじみ出る。
「その他にもまだまだ…この里はどんどん大きくなるぞ!」
マダラの心の中に希望の光が広がっていくように感じた。
「そろそろ里の名前も決めないとな。何か案あるか?」
その時、一枚の落ち葉がマダラの前に飛んできた。マダラはそれを手に取る。
葉の中央には丸く穴が開いている。
マダラはおもむろにその穴から里を眺めてみた。
その小さな穴から見る里は、より大きく、広く、頼もしいものに見えた気がした。
「木ノ葉…隠れの里…ってのはどうだ?」
「‥‥単純ぞ…見たままぞ‥‥なんの捻りもないぞ‥‥」
柱間はマダラの案に期待していただけに、安直な答えに必要以上にずう~んと落ち込む。
「火影とどう違うんだゴラァ!!てかまだ治ってねーのか、その落ち込み癖!!」
柱間はハハハと笑って見せた。
長い時間がかかったが、ようやく二人は昔の仲に戻れた気がした。
「火影ってのは里にずっと居て皆を見守る役目ってことか?」
「それもあるがそういう意味だけじゃない。これから里づくりが本格化するにあたって火影も忙しくなる…」
柱間は一歩前に出て両手を大きく広げる。
「だから、お前のデカイ顔をこの足元の岩壁に彫る!この里の象徴ぞ!」
「・・・冗談だろ・・・」
マダラは正直、柱間の意見に若干引き、苦笑いするしかない。
「顔が厳つ過ぎるから若干手は加えるけどな!」
「てめぇなぁ…」
「芙蓉の事も!頼んだぞ。」
「…柱間、お前やっぱり芙蓉のこと…」
「こんな所でなに油売ってる!火の国の大名たちがもうすぐ会談に来る頃だぞ!」
扉間が急いだ様子で二人の後ろに現れ、大声で声をかけてきた。
「…扉間か…」
マダラと扉間の目が合う。
互いに口には出さないが、互いに対して思っている事は同じだと二人とも確信していた。
◆
「火影だと⁉何を勝手なことを!」
柱間と扉間は千手の指令室に居た。扉間が柱間に強く反論している。
「マダラを里の長の候補として推薦するまではいい…だが決定は火の国と里の民意を聞きつつ、上役と相談して決める!もう父上の時とは違う!」
「…しかし…」
「そして、うちはマダラが長に選ばれることはまずない。皆解っている…里を作った立役者は兄者のほうだと…それは…うちはの者たちまで言っている事だ。」
柱間は腕を組み、扉間の言葉に返す言葉を考える。柱間の言葉を待たずに扉間が続ける。
「それに…兄者はうちはの噂を知らないのか?」
「・・・?」
「奴らの瞳力は憎しみの強い者ほど強く顕れる…写輪眼がそうだ。何をしでかすか分らぬ連中だ…これからの里にとって…」
「そういう言い方はよせ!扉間!」
柱間は扉間を強くたしなめた。
ミシッ・・・・
柱間の背後の窓の外から音が聞こえた気がした。柱間は立ち上がり窓を開ける。
「ここに誰か居たような気がしたぞ。扉間、お前なら解るだろ。」
「いや…今はチャクラを練っていない…話を逸らすな兄者!」
扉間は苛立った様子で柱間に話を続けるよう促す。
「!」
柱間が窓を閉めようとした時、瓦の上に見覚えのある木の葉が落ちていた。
手に取ってみる。
中央に丸く穴の開いた木の葉。
「・・・・!」
ふいに風が吹き、木の葉はハラリと砕けて散ってしまった。
「これからは民主的な運営をやっていく…異議はあるか?」
柱間の様子に気づかない扉間が念を押した。
「・・・・・・いや・・・それでいい。」