※この作品はR-18です。

罪の向こう、愛の絆   作:千野 伊織

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★『罪の向こう、愛の絆』はpixivにsukechanの作者名でも私が投稿しております★

今回(10)主な登場人物は、マダラ、柱間、扉間、OC:芙蓉の親友・千手樹です。

里の長・火影になった柱間。
そして、ついにマダラは里を去ることを決めます。(原作の場面を一部引用)

マダラに捨てられ、ひとり残された芙蓉はこれからどうするのか・・・
樹はついに芙蓉への想いが溢れてしまい・・・

誰もマダラが里を去ったことを気にしない中、扉間だけは疑念をもち、芙蓉に対しても疑惑の目を向けます。
マダラの好物・いなり寿司も登場します(笑)



(10)結実と決別

芙蓉が女学校での仕事を終え家に帰ると、この日もまた置手紙が置いてあった。

『一~二日留守にする。用心して過ごせ。』

置手紙には撫子が生けられた一輪挿しが置いてある。

マダラの繊細な心遣いが嬉しくもあり、寂しくもある。

暑さの残る九月。

最近、里の代表や里の名前を決めるという話が聞こえてくる。もうすぐ里の大枠が完成する。

だが最近、マダラはすべき事があると言い、うちはの領地や各地に頻繁に出掛けては、一人で何かを調べているようだった。何について調べているのかは教えてはくれない。

芙蓉は一人で家に居る寂しさを紛らわそうと、買物に出掛けた。あいにく樹は柱間の秘書として火の国の大名の所に使いに行ってしまっている。

 

芙蓉はうろこ雲が浮かぶ空に手を伸ばし、深呼吸をする。

「きっとマダラさまには何か考えがあっての行動なんだわ。絶対、大丈夫。」

帰宅し夕食の準備をする。一人分の食事は作り甲斐も無いし、面倒にも感じる。食卓に少ないおかずを並べ、芙蓉は食事を始めた。

人間とは本当に都合が良い生き物であると芙蓉は思う。

こんな時に昔、仏間・柱間・扉間・椿と共に食卓を囲んでいた頃のことを思い出すなんて…。

食事を終えて縁側から夜空を見上げると、上弦の月が浮かんでいた。

「マダラさまは今頃、どこでこの月を見てるのかな…次の満月は一緒に月見酒、したいなぁ…」

 

◆

 

芙蓉は急いで玄関で靴を脱ぎ揃えることもなく家に入る。

廊下を走る芙蓉の足音に、マダラが何事かと自室の扉を開けて顔を出す。

「マダラさま!里の長になるんですか⁉」

「…推薦されてるだけだ。まだなるとは決まってない。」

「里の長を決める投票があると今日学校で聞いて、それでマダラさまも候補のお一人だって聞いて、私、嬉しくて!」

芙蓉は息を切らしながら嬉しそうにマダラの顔を見た。

「おそらく俺は選ばれない。」

「そんなことないですよ。だって…」

「お前に何が解る。忍についても、うちはについても何も知らねぇくせに。」

芙蓉はいつもと違う様子のマダラに戸惑う。

「す、すみません…そうですね。ごめんなさい。」

先ほどまでの浮かれた気分は一気に消え去り、芙蓉は沈んだ表情でマダラの部屋をあとにしようとした。

「…悪かった。言い過ぎた。」

「そんなことありません。マダラさまの仰る通りです。勝手に浮かれてしまって、すみません…」

芙蓉はマダラに背を向けたまま、小声で返した。

マダラは立ち上がり、芙蓉を後ろから抱きしめた。

「里を作った立役者は柱間のほうだ。それに…扉間は、うちはを危険因子とみなし信用していない。俺は長になれなくてもいいんだ。ただ、柱間が長になり、千手一族と扉間が里の運営の主導権を握ればうちは一族は間違いなく排除されていく。それを危惧しているんだ。」

マダラは静かに、冷静な口調で芙蓉の耳元で話した。

芙蓉は扉間の名前が出たことに更なる不安を感じる。扉間ならやりかねない。

「うちは一族の皆さんは、その事ご存知なのでしょうか?」

「いや。まだ直属の部下にしか話していない。それに平和に浸っている一族の者たちに、今そんなことを言っても誰も信じないだろう。」

でもなぜ扉間は、平和協定を結んだにも関わらず、そんなにもうちは一族を目の敵にするのだろうかと芙蓉は苦しく思った。

そして、忍について無知である自分と無力さに悲しくなる。

「私・・・何もできなくて・・・ごめんなさい。」

「お前が謝ることじゃないだろ。こうして俺の傍に居てくれればそれでいい。今、俺はうちはを救う手立ては無いか探している所だ。お前には寂しい思いをさせるが、こうしていつもお前が待っていてくれると思うと、希望が湧いてくるんだぜ?」

二人は向き合い、しっかりと抱き合った。芙蓉は目を閉じて思う。

・・・たとえ全世界がマダラさまの敵になっても、私は絶対に味方だから・・・

 

◆

「号外だよ!号外!火影は柱間に決定!里の名前は木ノ葉が隠れの里に決定だー!」

 

一週間前、里に住む忍と一般市民による、長の候補者への投票が行われた。

その結果をもとに火の国との会談、そして里の上役たちによる話合により柱間が里の長・火影に決定した。

里じゅうが柱間が火影になる事を歓迎し、歓喜で溢れかえる。そこには千手の者と共に喜ぶうちは一族の姿もあった。

次の日、さっそく岩壁に柱間の顔岩を掘る作業が始まった。

誰も落選したマダラに目をやる者も、声をかける者も居なかった。

 

冷たくなってきた晩秋の風が芙蓉の頬をかすめてゆく。

降ろした髪がさらさらと顔にまとわりつくのを手で押さえながら、芙蓉は柱間の顔岩を見上げている。

マダラは相変わらず、家を空けることが多かった。

女学校では柱間が火影に決まってから生徒たちが色めく雰囲気が加速するとともに、芙蓉への言われなき中傷も増えていた。

今日はようやく樹に会える日だ。

しかし、芙蓉はいま樹の顔を見たら泣きだしてしまいそうだった。

「芙蓉―!お待たせー!」

顔岩を見上げていると、間から樹が大きく手を振りながら走って向かって来る。芙蓉も樹の方へと駆け寄った。

「樹ちゃん!」

泣くまいと思っていたものの、樹に抱き着くと、自然と涙が溢れてきた。

「ごめんね…笑顔で会わなきゃって思ってたのに、私…」

「隠そうとしても無駄!私には芙蓉の顔見たらすぐ、どんなことがあったかくらい分かるんだからね。」

「ふふっ。さすが…くノ一最強の樹ちゃんだね。」

芙蓉が泣きながら笑顔を作る。

・・・くノ一だからじゃないよ。私は芙蓉の事、心から愛してるからだよ・・・

 

二人は公園の東屋に入って向かい合って座った。芙蓉は樹にマダラの状況や自分の気持ち、学校で中傷されることが増えたことなどを正直に話した。樹は話を遮ることなく、うんうんと芙蓉の話をじっくり聞いている。そして一通り聞き終わると話し始めた。

「正直私も最初はうちは一族の事は信用できなかったし、ほら、マダラと芙蓉の事も認められなかったよ。でも実際にマダラと何度も会って話したり、あとは仕事でうちは一族の人と一緒に働いてると、悪い人たちじゃないって解ったんだ。愛の千手なんていうけどさ、うちは一族の方がよっぽど親切な人が多い気がするし。きっとまだうちは一族やマダラの良さが里の人たちに知られてないだけなんだよ。これから一緒に暮らしていくうちに、必ず本当の意味の和解ができる気がする。」

「そうだよね・・・扉間さまと同じ意見の人ばっかりじゃないよね。樹ちゃんみたいな忍の人も沢山居るはずだよね。」

樹は大きく頷いてから話を続ける。

「それと学校での中傷の件。単なる嫉妬じゃない所が辛いよね。さっきの話と同じく、うちは一族のことを良く思ってない生徒や保護者が多いんだよ。だって千手設立の完全なる千手の学校だからね。柱間と婚約破棄してマダラと暮らして居る芙蓉の事を良く思わない人が多いんだろうね。」

「うん…それは自分でも解ってるつもり。教師は続けたいけど、私があの学校に相応しくない人間なら、辞めた方が良いのかなって思うこともあるの。」

「それも悔しいよね。何も悪いことしてないのにさ。でも、芙蓉が無駄に傷つけられるのも間違っているし、別の学校に移るとか考えた方が良いのかもしれないね。まぁそれには柱間と話さなきゃならないだろうけど…」

樹は悔しそうに地面を見つめる。芙蓉もその目線の先を一緒に見つめる。

視線の先には寒さに負けまいと黄色いタンポポが地面に張り付くようにして咲いていた。

芙蓉はそのタンポポを見て決心し、樹に言う。

「私、やっぱり負けたくない。たぶんいま女学校以外で働ける学校は無いだろうし、せっかく叶えた夢だもん。もうちょっと頑張ってみる!」

「無理しちゃダメだよ?私にも力になれることが無いか考えてみるから。」

「ありがとう。樹ちゃん…本当に大好き!」

いつものように芙蓉が樹に抱き着く。

樹はこのまま芙蓉をさらってしまいたい気持になる。

二人だけで、誰も知らない場所へ行きたい。忍なんて里なんて関係ない場所へ…

樹は言葉にできない気持を伝えるように、強く芙蓉を抱きしめた。

 

◆

 

ボウボウ、パチパチ・・・

松明の音と光だけがその世界を支配している。

柱間とマダラは、うちは領地と里の境にある南賀ノ神社の地下に居た。

「これはうちはに代々伝わる石碑…他族に見せたことは一度も無い。解読するには特別な瞳力が必要な読み物だ。」

二人の前には松明に照らしだされた石碑がある。

「今俺が解読出来る所までにはこう書いてある。“一つの神が安定を求め陰と陽に分極した。相反する二つは作用し合い森羅万象を得る“…これは全てに当てはまる道理だ。」

マダラは火影の服を纏う柱間を見つめて話し続ける。

「つまり相反する二つの力が協力することで本当の幸せがあると謳っている…だが…別のとらえ方もできる。」

「・・・?」

「柱間、俺が何も知らないと思うか?」

柱間はマダラの問いに視線を落し、少し黙り込む。

「…扉間のことは俺に任せてくれ!」

柱間はマダラの言わんとしていることは解っていた。

「…お前なしではやれない…火影の右腕として、兄弟として共に協力してくれ!…いずれ民もお前の良さに気づく。その時二代目の火影として…」

「お前のあと、おそらくあの扉間が火影となるだろう…そうなればうちははいずれ消されてゆく…」

柱間は反論しようと口を開くが、マダラが再び遮り話を続ける。

「それが分かっていて里を出るよううちはの他の者に声をかけたが…誰一人俺についてくる者は居ないようだ。」

マダラは石碑に視線をやり、更に言葉を続ける。

「弟も守れなかった…一族を守ると弟と交わした約束も守れそうにない…守りたい同族からも信用されていない…」

柱間はついに大声を出してマダラの話を遮って言う。

「そんなことは無い!皆、直ぐに…」

「あの時…お前に『弟を殺せ』と断言すべきだったのかもな…」

「・・・!」

「お前は俺を兄弟と言う…だが里の為にどちらを切れる?」

「・・・・・」

「…俺はお前のことを良く解っているつもりだ。これ以上は無理だ…俺は里を出て行く。」

柱間はマダラの考えていることがだんだんと解らなくなり、かける言葉が見つからない。

「俺は別の道を見つけた!」

マダラは笑みを見せ、手を広げる。

「…腑を見せ合ったからこそ見えた…協力とはいわば静かな争いでしかない。」

柱間も大きくマダラに手を広げて反論する。

「そんなことは無い!俺がそうさせん!」

その言葉を跳ね返す様にマダラは柱間に背を向けながら言う。

「現実をどう捉えるかだ柱間…ただ、卑屈なのはヤメにしよう…」

マダラの背中に向かって柱間が叫ぶ。

「俺の話を聞いているのか⁉マダラ!」

「この世はただの余興と見る方がまだ健全だ…俺と対等に戦えるのはお前だけだ。」

「・・・・」

マダラはいったい何を考えているのか、また争うというのか。

柱間には全く解らない。

「本当の夢の道に行くまでの間…お前との戦いを愉しむさ…」

「本当の夢ってなんだ⁉俺たちの目指したモンはここにあるだろーが!!」

マダラは顔だけを柱間に向けて答える。

「お前は…見えないのさ…さらに先が…先の夢が。」

マダラの瞳には写輪眼が浮かび上がる。

柱間は写輪眼を開眼した時のマダラと、それが何を意味するのかを思い出した。

「…だったら…その先の夢っていうのを教えてくれ。この里の夢と繋がるなら…導き役としてお前が必要だ…上役としても…」

柱間はマダラに近づく。

「…そして、友としても。」

マダラは振り返り柱間と再び対峙する。

「フッ…繋がりなどない。そしてお前には決して届かない。俺の後を追いかけても無駄だ…お前なら知ってるだろ…俺の後ろに立てる奴など居ないと。」

最後にそう言うとマダラはその場から姿を消した。

「マダラ!!」

柱間の声だけが地下室に反響し続けた。

 

◆

 

冷たい満月の夜。

いつか見たあの夜と同じように、辺りは青白い光に照らし出され、家々の屋根瓦とススキがキラキラと光っている。

 

「・・・・・」

「そんな顔をするな。必ず迎えに来る。できるだけ早くな。」

芙蓉は言葉が見つからない。だが本当は引き止めたくてたまらない。

しかしマダラを愛した時から、マダラの選ぶ道、選ぶ正義が自分の道と正義であると決めていた。それに、例え芙蓉が泣いて止めてもマダラは出て行くだろう。

「時が来れば伝書鳥で手紙を送る。どこに居てもお前の所に届くから安心しろ。ただ言ったように、柱間や里の幹部に俺の動きを悟られぬよう、お前は俺から捨てられた可哀想な女を演じるんだ。いいな。」

「…はい。分っています。」

芙蓉は悲しい顔をして目を伏せる。風でススキの擦れる音が物悲しく感じる。

マダラは芙蓉の両肩を掴み芙蓉を見つめて言う。

「芙蓉。お前と俺はこの先の夢の世界で生きるんだ。そこへ行けばもう犠牲などという概念すらなくなる。」

芙蓉は顔を上げてマダラを見つめる。

月明りがあるとはいえ、マダラの顔をはっきり見ることが出来ず、更に寂しさと不安がこみ上げてくる。それを押し殺そうと言葉を発する。

「マダラさま…私、マダラさまのことを信じています。私は一生貴方の味方です。愛しています…」

「また先に言われたな。俺も芙蓉を愛している。」

二人は暫く静かに抱き合い口づけを交わした。

そして何も言わずにマダラは月夜の闇の中に消えていった。

 

◆

 

子供が学校帰りにはしゃぎながら走って行く。夕方の商店街は多くの人たちで賑わい活気に溢れている。家には明かりが灯り始め、どこからか夕食の香りが漂ってくる。

マダラが里を出て行ったことを気にする者は、誰も居なかった。

女学校でもそれを知る者は居らず、何かを聞かれることも言われることもない。

マダラと柱間、二人の力で今の平和な時があるはずなのに、里の人は皆、まるで最初からマダラという人間など居なかったように振舞っているように見えて仕方がない。

 

もうすぐ夕陽が山の入端に沈む。

芙蓉は土手でそれを見届けようと一人で眺めていた。

「芙蓉・・・」

自分の名を呼ぶ声の方を向く。柱間が居た。

「柱間さま。こんばんは。」

芙蓉は驚きもせず、なぜ柱間が現れたかも考えず、ただ状況に合わせた言葉を言う。

「突然すまないな。家に押し掛けるのも難だと思って…その…一人で大丈夫か?」

柱間は自分を心配している。なぜ?

・・・ああ、私は捨てられた可哀想な女なんだっけ・・・

「悲しいですけど…大丈夫です。昼間は学校もありますし。」

「その…嫌でなければ、家に来ないか?マダラが居なくなってすぐにそんな気持にもなれないだろうが、広い家に女一人は不安だろう。家の離れを使ってくれ。もちろん扉間とは顔を合わせないようにさせるし、前のように働いてくれなどとは言わない。好きなだけ居て、好きなように使ってくれればいい。」

芙蓉は考え込む。

ここで断れば柱間に怪しまれるだろうか。だが一緒に住む気は無いし、第一、流石に柱間の家に居ては伝書鳥から手紙を受け取れないだろう。

「お気遣いありがとうございます…でも今はそんな気持になれませんので。すみません。」

「そ、そうだな…悪かった。だが何かあればいつでも来てくれ。…俺は、今でも芙蓉の事を家族だと思っている。だから‥」

陽は沈み空だけが赤く光り、辺りは薄暗い紫色の世界になっていた。

「柱間さまは本当にお優しいですね。」

「いや、そ、そうか?…おお、もう陽が沈んでしまったな。家まで送ろうぞ。」

「では、お言葉に甘えます。」

二人は並んで歩き出した。

柱間はマダラの言っていた夢について芙蓉に訊きたかったが、今の芙蓉の気持ちを考えると訊くことは出来なかった。

それに現に、こうして芙蓉が置き去りにされている状況は、その夢に芙蓉は必要が無いとマダラは考えたからではないかと思えた。

だが、あのマダラが愛する女を本当にこうも簡単に捨てていくだろうか。僅かな疑問も残る。

柱間はそっと芙蓉の横顔を見た。薄暗い中でも芙蓉の表情が曇っていることが分かる。

「私・・・マダラさまに捨てられたんです。信じていたのに・・・。これから先の夢に、私は必要ないそうです。」

芙蓉は柱間の考えていることが分かっているかのように語り始めた。芙蓉は昔から人の気持ちを時々先取りするので驚かされる。

「やっぱり、うちはの人を信じて愛してしまった私が間違っていました。でも、まだマダラさまのことを嫌いになることも、忘れることも出来ないんです。」

涙声でそう言うと、芙蓉はそっと涙を拭った。柱間が立ち止まる。

「いや、お前は何も間違っていない。マダラだって、自分のことを信じて愛してもらえたこと、嬉しかったはずだ。ただ、夢もお前も両方を選ぶことが出来なかったのだろう…あいつの事だ、お前をこれから多難な道へと道連れにしたくなかったのだ。きっとそうだ。」

どこまでも人の好い柱間は、自分のことを全く疑っていないようで芙蓉は安心した。

芙蓉はそっと微笑んだ。

「ありがとうございます。柱間さまにそう言ってもらえると嬉しいです。マダラさまのこと嫌いにならずに済みますもの。私も、新しい道を見つけたいと思います。」

気丈に振舞う芙蓉の姿に、柱間は胸が苦しくなる。

今にも抱き締めて家に連れて帰りたい。

・・・もう一度、やり直したい。一緒に居てほしい・・・

思わず言葉にしてしまいそうになるのを何とか堪え、芙蓉が家の中に入るのを見届けてから帰路についた。

辺りは真っ暗だった。空に月は無い。新月だった。

 

◆

二人はお互いの姿が目に入るとすぐに走りだし、駆け寄って抱き合った。

抱き合う二人の息が白く立ち上る。辺りの木々は全ての葉を落とし寂しげな姿である。

「・・・芙蓉。ごめんね。一番辛い時に一緒に居てあげられなくて・・。」

「ううん。だって、任務なんだから仕方いよ…でも早く樹ちゃんに会いたかった。」

「ごめんね。本当にごめん…。」

涙目になりながら痛々しい笑顔を見せる芙蓉の顔を見て、樹は自分の不甲斐なさに対する悔しさ、そしてこれまでの芙蓉への気持ちが一気に溢れてきた。

・・・チュッ・・・

芙蓉は一瞬何が起きたのか信じられなかったが、これがどういうことなのかと考えるよりも、目を閉じ樹の優しさに身を任せることを自然に選んで目を閉じた。

芙蓉が嫌がらずに自分に身を委ねてきたことを感じると、樹は芙蓉をきつく抱きしめ、芙蓉の後頭部を撫でながら口づけを続けた。

樹は二人の気持ちが通じ合ったような気がしたが、もしも自分の思い込み、ただの気のせいで終わるのが怖く、口づけを止めることが出来ない。

芙蓉は甘く優しい口づけに心まで溶けてゆく気がしていたが、直ぐにマダラへの罪悪感が蘇ってきた。

「…樹ちゃん。」

芙蓉から口づけを止め、体を離した。

「ご、ごめん…嫌だった?き、気持ち悪いよね。ごめん。本当に…」

「ううん。嬉しかったよ。でも私…やっぱりマダラさまのこと、愛してるの。だから…」

芙蓉が自分を拒否する理由がマダラへの罪悪感と知ってほっとする反面、もどかしい気持に苛立ちが湧いてくる。

だが、芙蓉が突然里を抜けたマダラに捨てられてからのこの三ヵ月間、自分は任務で火の国の大名の所へ行っており、芙蓉を支えることが出来なかった。

芙蓉が一人でどれだけ辛い気持で過ごしてきたかを考えれば、捨てられてもなおマダラを慕う芙蓉を責める事など、出来ない。

自分が今すべきことは、芙蓉の傷ついた心に寄り添い、癒すことだ。

「そうだよね…そんなに簡単に忘れられるわけないよね。でも芙蓉ならきっとその思い出と一緒に新しい世界を見つけることができるはずだよ。焦らないで、大丈夫だから。」

「解ってくれて。嬉しい。樹ちゃん…大好き。」

芙蓉はそう言って再び樹に抱き着いた。

樹は芙蓉のマダラに対する愛情と、自分に対する「大好き」の気持ちが違うことは解っている。

いつか、そういつか、マダラに向けるのと同じ愛情を芙蓉が自分に向けてくれたら…こんな状況でもつい自分本位に考えてしまう。

でも、例え大好きのままでも構わない。

芙蓉が自分の傍に居てくれさえすれば。

「大丈夫。離れていても私はずっとずっと芙蓉と一緒だからね。私も、芙蓉のこと大好きだからね。」

二人は見つめ合い、微笑み合った。

いつの間にか小雪が舞い始めていた。だが二人の空間だけは春のように暖かい気がした。

 

◆

「これは…樹のチャクラか。任務から帰ってきて以来ほぼ毎日来ているな。もしや樹も関わっているのか?」

扉間はマダラが里を出てから、時折、芙蓉の住むマダラの家を感知能力で監視をしている。

 

マダラは里を出る前、柱間に不可解な言葉を残した。

それがどういう意味なのか扉間にも理解できなかったが、マダラがこの里を否定している事には間違いなかった。

そうであるならば、いつかマダラが里を襲ってくる日がやってきても不思議ではない。

その為に芙蓉を里に残しているのではないかと扉間は考えていた。

だがそんな事を考えているのは扉間、ただ一人だった。里のほとんどの忍と住民、そしてうちは一族ですら、マダラが居なくなったことに無関心だった。柱間も芙蓉は捨てられた哀れな女だと思って疑わないし、家に一緒に住まわせるとまで言っている。

「弟と一族を守ることにあれだけ執着し、その為にどんな手でも使ってきたあのマダラが、そう簡単に愛する女を手放すなど考えられない。必ず何かあるはずだ。」

柱間にもそう進言したが、お人好しで馬鹿な所がある兄にそれを言っても当然、信じなかった。

議会で話しても良かったのだが、変に騒がれるよりも、感知能力においては右に出る者が居ない扉間自身が一人で隠密に調査したほうが適切だと判断したのだった。

 

扉間はこの日、マダラの家から五十mほとの距離まで来ていた。この距離ならば、芙蓉と樹の会話が聞こえる。

「ちょっと、芙蓉。これはいくらなんでも作り過ぎじゃん?私こんなに食べられないよ?」

「だって、今日はマダラさまのお誕生日なんだよ?例えマダラさまが居なくても、お祝いしてあげたいの。沢山作れば気持ちも届くかなって。えへへ。」

「あのねぇ。流石にこんなに沢山作ってるとは思ってないと思うけどぉ?」

「マダラさまが帰ってきてくれれば、問題ないのにね…」

「ハイハイ。ストップ。またその思考にいくんだから。期待はしないって決めたでしょ?」

「う、うん…そうだね。ごめん。」

「しようがない。これ柱間んとこ持ってくよ。いい?この後仕事だからさ。芙蓉が作ったって言ったらあの人泣いて喜びそうだよね。あ、芙蓉からって言わない方が面白いかな。」

「言っても言わなくてもいいけど、持って行ってあげて。」

・・・火影のこと呼び捨てかいっ・・・

扉間はつい心の中でつっこんでしまう。

・・・今日も特に異常無しか。樹も今のところ何か知っている様子では無さそうだ。だが、いつ芙蓉が樹に協力を申し出るか分らない。注視しなければ。・・・

「じゃあ、また明日来るよ。戸締りしっかりしてね。柱間からは稲荷の代金徴収しとくから。」

「やめて、お金なんて!」

「じょーだん。でもそれくらいしても良いと思うよ。この味!」

「ありがとう。樹ちゃん。樹ちゃんが手伝ってくれたからいつもより美味しく出来たよ。お仕事、がんばってね。」

「うん。いってきまーす。」

樹が出てくのを確認し、扉間も柱間の所へ向かった。

 

 

「なんだこれは!超美味いぞ!どこの店のだ?」

「橘屋です。」

「はて?新しく出来た店か?次々店ができておるからわからんのう。」

「まだ開業未定、ですけどねー。ということで、開業資金の為に一個一〇〇円頂きますんで。よろしくお願いしますね~。」

「ひゃ、百円だと!高くないかっ⁉」

「じゃあ食べなくてもいいですよ~。せっかく橘芙蓉店主(予定)が作ったんですけどね。」

「食う!!!全部買うぞ!!!一個、二〇〇円で買う!」

「ほーんと分りやすいなぁ・・・」

ガチャ。扉間が部屋に入ってきた。

「あ、扉間様。お疲れ様です。扉間様も召し上がります?橘屋のいなり寿司。一個二〇〇円ですけど。」

「お、おい、樹・・・」

柱間が制止しようとする前に、扉間と芙蓉の事情を知らない樹はずかずかと扉間に近寄りいなり寿司を差し出す。

「…ああ。ちょうど腹が減っていたところだ。貰おうか。」

柱間が複雑な表情で、扉間が芙蓉の作ったいなり寿司に手を伸ばす様子を見ている。扉間は無表情でいなりを口に運んだ。

・・・うわぁぁぁすっげーーーうまいんですけどっ!・・・・

「うん…二〇〇円は高いが、まあ美味いな。」

そう言ってもう一つ手を伸ばす。

「ちょ、扉間!全部食うなよーっ!」

解りやすい兄弟だなぁと呆れつつ、本当にお金を払ってきた二人に対して少し反省する樹だった。

 

◆

 

芙蓉はいつものように空を見上げた。

気づけば年が明け、いつの間にか庭の梅の花がほころび甘い香りが漂っている。

樹が毎日のように家に来て泊ってくれ、芙蓉自身も女学校で放課後に料理倶楽部を作り数人の生徒に教え始めたことで、マダラからの伝書鳥がまだ来ない事を余計に気にせずに居られた。

だが、それでも芙蓉は毎日の習慣として空を見上げて待っていた。

 

天気は良いものの気温は低く、芙蓉は羽織っていたストールをしっかりと巻き直し、少し身震いしながら家の中に入ろうとした。

ツィピーツィピーツィピー

芙蓉の後ろで鳥が大きな声で鳴く。振り返ると梅の枝にシジュウカラが止まって居る。

よく見ると、足になにか白いものが巻き付いている。

「・・・!」

芙蓉は急いでシジュウカラに近づくと、鳥の方も芙蓉に寄ってきて芙蓉の手の上に乗った。

すると自分で自分の足に巻き付いている白い紙を蹴り、芙蓉の掌に落し、シジュウカラは芙蓉の肩に止まってまたツィッピーと鳴く。

芙蓉は急いで掌に落ちた白い小さな紙の包みを開こうとした。

気が急くのと緊張で手が震え、うまく開けない。

やっとのことで紙を広げると、それはマダラからの手紙だった。

 

『芙蓉。元気か?五月一日。午前七時。檜枝岐神社の社で待つ。この手紙は三分で燃えてなくなる。気を付けろ。』

 

マダラの文字を見て、そしてマダラに会えることに芙蓉は体が震えるほど嬉しくなり、短い手紙を何度も何度も繰り返して読み返す。

するとあっという間に三分が過ぎ、紙の四隅から発火し始めた。焦って手を離すと手紙は燃えて白い灰になりながら天へ消えていった。

待ちに待っていたマダラからの肉筆の手紙が消えてしまう様子を寂しそうに見つめたが、マダラに会えるという喜びに胸が躍り始める。

「やったぁ!」

握りこぶしにした両手で顔を隠し、芙蓉は小さく歓喜を上げる。

・・・でもあと二ヵ月半かぁ。長いなぁ・・・

芙蓉は家の中に入って居間に座り、マダラがいつも座っていた場所を眺めた。

・・・またマダラさまと一緒に暮らせる。ついにマダラさまと結婚できる。

・・・でも・・・

芙蓉の眼には、樹、柱間、仏間、椿…扉間、そして学校の生徒たちや里で関わる知人の顔が次々と浮かんできた。

里を出れば、もう二度と里に帰ってくることはないだろう。

だが、マダラの言う夢の世界が実現する日にはきっと、また会える・・・

それまで、マダラが否定するこの木ノ葉の里が平和であってほしいと芙蓉は切に願った。

 

 

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