ついに芙蓉は、マダラに着いて行くために自ら里を出ます。
しかし芙蓉が居なくなった事に直ぐに気が付いた柱間・扉間・樹は捜索を始めます。
芙蓉が居なくなった原因・・・それは・・・マダラ!?
マダラと芙蓉の再会を阻止するため、柱間・扉間はマダラと戦います。
果たして二人の再会の行方は・・・?
※柱間のオリジナル忍術があります。
春の夕暮れ。薄暗くなってきた頃。
芙蓉は所々草が伸びる細い砂利道を足早に歩いていた。
顔と頭は以前芝居で使った時のストールで隠し、マントを羽織って鞄を斜めに掛けている。
数人の通行人とすれ違ったが芙蓉に気づく者は居ない。この道を通るのは旅人くらいだ。
まだ陽は出ているとはいえもう林の奥は暗く、芙蓉はそれを見て更に歩みの速度を上げる。
数羽の烏が林から飛び出し、カアーカアーと鳴きながら飛び飛び去った。
芙蓉はその鳴き声にビクッとして思わず足を止めた。
大好きな樹も、柱間も、扉間も、今の芙蓉にとってはもう、いま一番会いたくない相手になっている。
だが、それに反して、気を抜くと三人の顔が頭に浮かんできて恋しくなり、引き返したくなる衝動に駆られてしまう。
そんな感情に流されてはならないと、芙蓉は必死に歩みを前に進める。
何としてでも、誰にも見つからず日没前に神社へ到着しなければならない。
ハァハァハァハァ・・・
芙蓉は林の中の一本道で息を切らし、立ち止まって前屈みになった。
急いで鞄から水筒を取り出して水を飲む。
上を見上げると黒い木々が薄暗い空を隠していた。
・・・もう少し。この道を抜けたら着く・・・
太陽は沈み、林の中はなんとか前が見える程度の明るさだった。
芙蓉は一本道のシルエットを辿りながら再び走り出す。
パキッ!
道に落ちた小枝を踏みよろめいた。
なんとか体勢を崩すまいとするが、斜め掛けにした鞄でバランスが取れない。
ドシャッ!「きゃっ!」
芙蓉は道の上に倒れた。なんとか受け身を取ったので足に怪我は無かった。
地面についた右肘が強く痛んだが、なんとか立ち上がる。
芙蓉の目線は、ただひたすら、道の先を見据えている。
ゆっくりと歩き出す。そして再び早足で歩きだした。
右肘の痛みが、心の痛みを麻痺させてくれるように思えた。
「・・・あれだわ!着いた!」
芙蓉の目の前に、白い鳥居四つに周囲を囲まれた小さな神社が現れた。うす暗くて細かい外観は分らないが、古びていることだけは分かる。
芙蓉はとにかく急いでその社の扉を開ける。
すると、同時に社の天井の四隅に小さな灯りがともる。マダラの忍術だろうか。
芙蓉は社の外を見回し、誰も居ないことを確認して扉を閉め急いで内鍵をかけた。
振り向いて、ようやく部屋の中を改めて見回す。
神棚の他には何も無かった。木の床が灯りにともされ艶々と光っている。芙蓉はその様子を見て、マダラはここにいつも来ていたのだろうかと想う。
そして部屋の中央におもむろに座り込む。
ふと振り返って見上げると、入口の扉の上に時計があった。
二時間はかかる道程を一時間半足らずで来たことに気づく。だが芙蓉にとっては、それ以上にとてつもなく長い道のりだった。
芙蓉は暫く放心状態で固まっていたが、もう安心して良いのだと気が付き、ようやくストールとマントを取り、鞄をおろした。
「ふぅー・・・・・」
芙蓉は強い脱力感に襲われ、床に横たわる。
すると、初めて仏間の家に来た日の事を思い出した。
あの日もこうして床に横たわった気が…。
しかし、もう母の顔も声も全く思い出せない。昔、何を話したかも。
病床の仏間が話してくれたあの日から、母の人物に想像を巡らせてきた。
しかし、いまの自分はきっと母とは全く違う生き方をしているのだろう。
母は父と愛し合っていたのだろうか?それともずっと仏間のことが好きだったのだろうか。父は、いったいどんな人だったのだろうか・・・
結婚・・・これから、マダラとどんな人生が始まるのだろうか・・・・・
◆
芙蓉が神社に到着してから一時間ほど経った頃。
「芙蓉のことは何か分ったか⁉樹の家には行っていたのか!」
芙蓉は昼過ぎに樹の家に行くと言って出かけてから、帰宅予定の時刻を一時間過ぎてもも帰って来ず、柱間と扉間が芙蓉を探し始めていた。
「いや。樹の家には行ってなかった。今、樹も里じゅうを探している。俺も感知で探しているが、そもそも忍ではないから気配が殆ど分らない。ただ残っている気配から、里の中を歩いていたのは間違いない・・・もしかしたらもう里には居ないのかもしれん。」
「・・・誘拐か!」
「その可能性もある。明日、兄者と結婚することが何者かにバレて、芙蓉を利用しようとしているのかもしれない。だが…芙蓉が自分で出て行った可能性もゼロじゃない。」
「芙蓉が自分で出て行くわけがないだろ!芙蓉はあんなに里の為に役立とうと働き、結婚も自ら望んでいたのだ。樹とも一緒に居られると喜んでいた。出て行く理由が無い!」
「・・・とにかく、今は探すしかない。誘拐にしろ、自分で出て行ったにしろ、まだそう遠くへは行っていないはずだ。俺なら感知で追える。兄者はここで上忍や樹からの情報を集約しいてくれ。誘拐なら犯人から要求が来るかもしれん。」
「・・・あ、ああ。わかった。」
既に戦闘服に着替えていた扉間は家から一瞬で姿を消した。
「芙蓉!いったいどこに行ったの⁉私が必ず見つけてあげるから、待ってて!」
樹は必死にチャクラを練り、風遁の風操作の感知術で里中を捜索していた。だが、ただでさえチャクラが無い芙蓉を感知するのは樹には相当に困難だった。
やはり感知のエキスパートの扉間しか頼れる人間はいないのか…いや、感知がダメでも私は足で探してやる!
樹は芙蓉が行きそうな場所にもう一度行き、走り回って探した。
・・・芙蓉が居なくなったら、私は生きていけない・・・
樹は不安と恐怖に押し潰されそうになりながら必死で芙蓉を探していた。
扉間はチャクラを最高に練り上げ、芙蓉の気配を感知しようと印を結ぶ。
・・・里のどこにも感じない。やはり里の外なのか・・・
芙蓉が誘拐されたとすれば、犯人は他族の忍か。
それとも・・・
まさか・・・マダラ・・・!!!
扉間はマダラのチャクラの感知を試みた。
だがやはり里のどこにも感じない。他にも邪悪なチャクラは無いか感知してみたが、異常は無かった。
・・・他族の誘拐ならば、まもなく要求を突き付けてくるはず。
ならば今やるべきことは、マダラの可能性を探る事だ。・・・
扉間はうちはの領土へと飛んだ。
うちはの領地は千手の領地と違い、住人のほぼ全員が里に移り住んでおり、町はわずか一年で随分と荒廃した風景になっている。
そんな事には気にも留めず、扉間はマダラのチャクラを感知しようと試みる。
・・・僅かに、感じる。だがこれは以前のものが残っているだけなのか?・・・
チャクラを感じる方へ向かった。
そこはマダラの元屋敷だった。かなり大きい。
大きなその門の上に飛び乗り、そして屋敷全体を見渡し感知する。
芙蓉の気配をうっすらと感じた。
扉間は気配を消し急いで家に近づく。
だが、マダラが居たらどうする・・・一人でやれるだろうか。
家の中を覗く。
真っ暗で誰も居ない。物音ひとつしない。
どうやら芙蓉の気配は以前ここに住んで居た執着心のようだ。
マダラもこの家で生まれ育ち、その間に染みついたチャクラだろう。
扉間は誰も居ないことを確認し、家の中に入ると起爆札に炎をつけ灯りにする。
部屋は荷物は殆ど運び出され大物の家具しか残っていない。
慎重に明かりを照らし、何か手掛かりは無いかと捜索する。
すると部屋の隅に置いてある机の上に書(しょ)を書いたでだろう跡が残っていた。
しかもただの書ではない。
暗号や伝書で使う為の自動消滅式の印を付けた、忍しか書けない手紙だった。机には墨の他に、それを書いたマダラのチャクラがしっかりと残っている。
「マダラの奴め、里を出てここに居たのか。いったい誰に伝書を書いていたんだ…」
・・・まさか。やはりマダラと芙蓉は繋がっていたのか?・・・
だがそう決めつけるのは早合点だ。誰に書いていたのかまでは流石に分からない。だがこのチャクラからして、マダラは近くに居るのかもしれない。
扉間は一瞬だけ動揺したがすぐに冷静さを取り戻す。
芙蓉とマダラの関係が続いているのかは分からない。だが無関係とも言い切れない。
マダラが芙蓉を誘拐した可能性も大いにある。
とにかくマダラの居場所を引き続き感知してみる事にした。
うちは領地、千手とうちはの領地の間に広がる森、そして千手領地も全て。
時間はかかるが、夜が明けてマダラが動き出す前にしらみつぶしに感知するしかない。
扉間はチャクラを練り、感知をしながら夜の闇に消えていった。
柱間の所へは上忍たちからの情報が集まってきていた。
殆どは意味の無い情報ばかりだったが、一つ大きな情報が入ってきた。
「マダラの家から頭と顔を布で隠しマントを着た人物が走り去るのを見たという市民が居ました。背格好や履物から、おそらく女だろうと言っておりました。」
「それは何時頃だ?」
「十六時~十六時半の間だそうです。」
もしその情報が正しければ、芙蓉は自分で姿を消した可能性が高くなる。
それとも誰かに手引きされたのか…。
「もう一度マダラの家を捜索してみようぞ。俺が行く。扉間と樹が来たら伝えてくれ。」
「はい。承知しました。誰か部下を共に行かせましょうか。」
「いや、俺一人で行く。」
そう言うと柱間は忍具が置いてある部屋へ行き、戦闘服に着替える。
考えたくはないが、マダラが関わっているのかもしれない。
そうなれば戦いになる可能性が高い。
柱間はマダラが里を出て行く前に自分に言った『それまでお前との戦いを愉しむさ』という言葉を思い出していた。
扉間がずっと疑っていたように、芙蓉とマダラは今でも繋がり続けているのだろうか。それとも、マダラが芙蓉を手引きしたのか…
どちらにせよ、マダラの家から芙蓉が出て行ったのは、マダラに何かしら関係している事があるのかもしれない。
柱間は屋根伝いにチャクラを使って走り、一分ほどでマダラの家に着いた。
家に明かりは無く、静寂の闇に埋もれていた。
闇の中をチャクラを使って歩き、柱間は家のほぼ中心にある居間に辿り着く。
柱間は極秘に修行中だった「仙法」を使うことにした。
仙法とは然エネルギーを利用し、忍術・幻術・体術の全てを飛躍的に強める力である。
この仙法を使えば、この木造の家、庭の木、花、草、石…人間と動物以外の自然物からならそこに残っている『記憶の声』を聴くことが出来る。さらに木遁を併用することで更にその精度は上がる・・・はずだ。
「仙法木遁 残心兆話!」
両手を顔の前で合わせ目を閉じると、顔に朱色の隈取りが現れる。
静寂に包まれている部屋のそこら中から、僅かだが人の話し声や生活音、鳥の鳴き声が聞こえてくる…柱間はその音を精査していく。
一番大きく聞こえるのは芙蓉と樹の楽しそうな笑い声…これはつい最近の鮮明な記憶だからだろう。
そして次に大きく聞こえたのは、庭から聞こえるシジュウカラの鳴き声だった。
柱間は縁側まで行き、雨戸を開ける。そして庭に向かって両手をかざし、庭の木々、土、石、花の記憶を聴く。
目をつぶると、シジュウカラのツィッピーという鳴き声、そして芙蓉が驚く声が聴こえた。次にクシャクシャと紙を広げるような音が聞こえる。芙蓉は何かを読んでいるのだろうか。
『マダラさま!やっと会えるのね!』
芙蓉の喜びで上ずる大きな声が聴こえた。柱間は耳を疑うと同時に、疑惑が確信に変わり、愕然とする。
・・・シジュウカラはマダラからの伝書鳥か・・・
シジュウカラはうちは一族がよく伝書に使う鳥だった。
しかし扉間は落ち込む間も無く居間に戻ると、床に手を付け、更に残った記憶の声を探す。
ガサゴソ、ガサゴソ、トントン・・・鞄に何かを詰めているような音だ。
『柱間さま、樹ちゃん、扉間さま・・・ごめんなさい。さようなら。』
芙蓉の小さなつぶやき声のあと、芙蓉の足音が玄関へ消えてゆく。
・・・やはり、芙蓉は自ら里を出て行ったのか・・・・
柱間は床に付けた掌を強く握りしめてうつ伏せる。
「芙蓉・・・お前がマダラに捨てられたのは嘘だったのか・・・!」
術で聴いた記憶の声の数々から導き出された結論は、芙蓉はマダラと別れたわけではなく、紛れもなく今も二人は繋がっているという事だった。
そして芙蓉はマダラに会うため、自ら里を出た。
柱間は考える。
芙蓉は何としてでも連れ戻す…
里で自分と結婚し暮らすことこそ芙蓉の一番の幸せだ…
愛するマダラの傍に居ることが芙蓉の一番の幸せなら、追わずにいるべきだ…
柱間は決められない。
マダラを引き止められなかった、あの日の事を思い出す。
・・・俺はなんと無力なのだ。
友を、愛する女を、引き止め、繋ぎとめることも出来ないとは・・・
まだ無意識に仙法を続けていたため、うつ伏せていると、床からマダラと芙蓉の幸せそうな笑い声が聴こえてきてしまった。
・・・芙蓉は男の前で、こんなに大きな声で笑うことが出来たのか。・・・
・・・マダラも顔に似合わず芙蓉の前ではこんなに馬鹿笑いしてたのか。・・・
『愛しています。マダラさま』
「もういい!!」
柱間は、床から聴こえる芙蓉の声をかき消そうと大声で叫んだ。
芙蓉はマダラとの愛を貫く為に、自分を愛したフリをしていたのか。
俺を・・・騙していたのか・・・
柱間はこれまで、芙蓉がこんな巧妙な駆け引きができる女だとは、想像すらしたことが無かった。未だに実感が湧かない。
芙蓉をそこまでさせるマダラの魅力とはなんだ?
マダラに在り、俺に無いものとは、いったい何だ?
ガタン!・・・
玄関から扉間が灯りを持って入ってきた。柱間の姿が闇に浮かびあがり影が伸びる。
「兄者!マダラのチャクラを感知したぞ!奴は近くに来ているかもしれん。だが、うちはの領地、千手の領地、その周辺の山や森、里中を感知したが、芙蓉の気配は全く見つけられなかった…チャクラが無いとはいえ臭いや体温がある以上、俺が最高精度で感知すれば見つから無いなど考えられない。まさかもう・・・」
柱間は、扉間に振り返らずに言う。
「・・・もういい。探さなくていい。芙蓉は自ら出て行ったのだ。」
「・・・何か、分ったのか?」
「仙法木遁 残心兆話を使った…。マダラと芙蓉は伝書鳥で連絡を取っていた。そして、芙蓉は自ら荷物を纏めて出て行った。」
「・・・・本当なのか?」
「ああ。間違いない・・・。もう、芙蓉を自由にしてやろう・・・」
それを聞いた扉間は小さく溜息をつき、灯りを柱間に向けて言う。
「兄者らしくないな。仙法で何を聴いたか知らないが、ここに在る記憶だけが全てとは限らないだろ。マダラは意味不明な言葉、里を否定するかのような言葉を残して出て行ったんだ。芙蓉を騙し、里を潰すための道具として利用しているのだとしたら、どうする?」
「・・・そんなことがありうるだろうか。二人は本当に心から愛し合っていたんだ。」
扉間の目には、柱間はただもう、友も、愛する女も、諦めて早く楽になろうとしている様に見えた。
「馬鹿が!うじうじ落込むのは後にしろ。芙蓉が自らの意思で里を出たとしても、本当にそれでいいのか?とにかく芙蓉を見つけるぞ!話はそれからだ。」
柱間はゆっくりと扉間の方を振り返り、少しだけ弱気な目で扉間の顔を見た。
仙法で聴いたことなど関係無いと言わんばかりに、芙蓉を見つけることを諦めない強い意志が扉間の瞳に写っている。
その強い瞳を見て、柱間は冷静さを取り戻した。
・・・このまま芙蓉を手放すわけにはいかない。・・・
「そうだな…お前の言う通りだ。つい取り乱してしまった…情けない兄で、すまんな。」
「いつもの事だろーが。行くぞ!」
二人は家を出て、いったん自宅に戻った。
そして未だ誘拐犯からの要求が無い事を確認すると、マダラを追う事を最優先とした。
すると樹も柱間の家に戻ってきた。
「火影様!何か分りましたか⁉こちらは何も見つけられませんでした…」
「樹、ご苦労だったな。詳しく話して居る暇は無いが、芙蓉は自ら里を出て行ったようだ。マダラが関係しているかもしれない。これからマダラを探しに行く。」
「そんな⁉芙蓉が自分で出て行くなんてあり得ない!・・・私も付いて行きます!」
「ダメだ。もしマダラと戦闘になればお前は足手まといになる。」
扉間が樹の申し出に間髪を入れず答えた。
「でも・・・!」
「樹、気持ちは解る。だが一刻を争うのだ。お前はここで芙蓉のことを待っていてやってくれぬか?頼む。」
樹は火影である柱間に頼むと言われ、引き下がるしかなかった。
柱間と扉間、もう二人を信じるしかない。
「芙蓉のこと、よろしくお願いします!!」
「ああ」
柱間と扉間は家を出て、マダラのチャクラを感知した方向へと向かって行った。
◆
山入端が青く繋がってゆく。辺りの景色も藍色に染まってゆく。
夜明けが近い。
柱間と扉間はマダラのチャクラの在る場所を見つけたが、既にそこにはマダラの姿は無かった。
だがチャクラの強さから、そこに居たのはさほど前ではないようだった。チャクラの痕跡を追えば、マダラの居場所に辿り着ける。完全に夜が明けてマダラが動き出してしまう前に、一刻も早く、マダラと芙蓉を見つけ出さなけらばならない。
「兄者、この方向、里に向かっているな。」
「ああ。だが少し違うな。若干うちはの領地の方向に近い。」
「やはりマダラはまたうちは領地の家に戻るつもりなのか?」
「その可能性は高いな。うちはの領地は荒廃している。マダラが暮らしていても気づく者などいないだろう。やはりマダラの屋敷に先回りしてみるか。」
二人は方向を変え、マダラの屋敷へと向かった。
◆
いつの間にか、長い眠りに入ってしまっていたようだ。
芙蓉が時計を見上げると、朝五時だった。
社の中から外の様子は分らない。ただ天井の四隅の灯りだけが優しく揺れている。
「・・・あと二時間・・・もうすぐ、マダラさまに会える・・・」
芙蓉は鞄の中を覗き、風呂敷に包まれた小さい重箱を見た。中にはマダラの好物であるいなり寿司が詰めてある。こけてしまった時に崩れてしまっていないか心配になった。
鞄から取り出し、風呂敷を解いて蓋を開けた。
「良かった。ぎゅうぎゅうに詰めてたおかげで何ともない。」
芙蓉はそれを見て一人で微笑み、再び蓋をして風呂敷で包む。
マダラが美味しそうにいなり寿司を頬張る顔が浮かんでくる。
その顔を想うと、マダラが来ないかもしれないという不安など感じなかった。
ただただ、約束の時間になることが待ち遠しい。芙蓉は緊張感と共に、一晩寝たところで消えるはずのない罪悪感を感じながら、そっと目をつぶった。
◆
夜明けが迫り、チャクラと灯りを使わずとも部屋の中が見えるほど明るくなっていた。
柱間と扉間はマダラが居ないことを確認し、マダラの屋敷の中に入っていた。
先ほど扉間が見つけた、手紙を書いた形跡のある机に、仙法を使う柱間が手を当てる。すると机には手紙の文字が浮かび上がり、仙法を使う柱間にのみそれが読み取れた。
「扉間…マダラの伝書は芙蓉に宛てたもので間違いない。五月一日。午前七時。檜枝岐神社で待つと書いてある。」
「今日じゃないか!しかももうすぐだ!あの神社は神樹で建造され、うちは一族の秘術のが行われてきた神社だと聞いたことがる。そこならマダラが結解を張っていて芙蓉を感知できなくても不思議じゃない。マダラが現れる前に芙蓉を連れ戻すぞ!」
「…いや、マダラに会うのが先だ。」
「何を馬鹿な事を!要らぬ争いなどしてどうする!」
「マダラのことだ。結界を破り芙蓉を連れ帰れば、奴も芙蓉を取り戻そうとするだろう。里で戦いになることだけは避けねばならん。奴が張った結界とはいえ、結界を解かぬまま神樹で出来た社の中を写輪眼で見ることは出来ぬだろう。芙蓉は来なかったとマダラに伝え芙蓉を諦めさせる。」
「それも解る。だが諦めるどころか里に芙蓉を奪いに行こうとしたらどうする。」
「その時は全力で止める。今のマダラに・・・芙蓉は絶対渡さない。」
扉間はようやく柱間が芙蓉を本気で連れ戻そう、マダラに渡すまいとしていることに安堵した。
たとえ芙蓉が自ら里を出たとしても、マダラと共に居て幸せになれるはずはない。
芙蓉は兄と、自分と、そして樹と里の皆と共に居るべき、唯一無二の人間なのだ。
二人は床に足を組んで座る。
柱間は完全にチャクラを消し、扉間はわずかなチャクラを一定に練って感知を続け、二人はじっとマダラを待った。
◆
ジャラリ・・・
マダラが崖の岩の上に立つと、背中に背負う武器の鎖が鳴る。
空は朝陽に照らされ水色に染まり、森の奥の平野にはうっすらと靄(もや)がかかっている。
その平野の更に向こう側の森の中に、檜枝岐神社が在る。
「芙蓉・・・」
マダラの頬と髪を涼やかな風がかすめてゆく。その心地良さは、芙蓉を抱きしめた時に感じるものに似ていて、マダラは思わず目を細める。
この数か月間、マダラは「その先の夢」のため、そしてその夢を芙蓉と共に実現していくための拠点づくりをしていた。
この世界の終わりと新しい世界の始まりには、芙蓉が隣に居なければ意味が無い。
マダラは崖を垂直に飛び降り、森に向かって走り出す。その顔は微笑している。
森を走り、木から木へと飛び移り、平野に出た。
緑の平野には白い花が沢山咲いている。
芙蓉が見たら喜びそうだと思い、しゃがんでその花に触れようとしたが、途中で手を止め、再び立ち上がって前を見て身構える。
燕が飛んでゆくのが見えたかと思うと同時に、目の前に良く知る二人が現れた。
「マダラ・・・残念だが、芙蓉は来ぬ。」
挨拶も無く、単刀直入に言葉を発したのは柱間だった。
・・・やはり柱間には隠しきれなかったか。だが、こんなことくらい想定内だ・・・
「お前は一人で先の夢とやらを追うために里を出たのだろう。芙蓉を巻き込むな。」
扉間が無言のマダラに向かって言った。
ザザッ!
マダラは更に無視をし、二人を飛び越え平野の向こう側の森へと向かって行った。
二人も後を追う。
「扉間、なんとしても神社に着く前にマダラを止めるぞ。」
「解っている。任せろ。」
扉間はあらかじめマーキングしたクナイが置いてあった場所へ飛ぶ。
マダラの目の前に扉間が現れる。
「水遁・水陣壁!」
扉間がすかさず術を発動する。
大地から森を取り囲むように天高く、ぶ厚い水の壁がマダラの前に立ちはだかる。
マダラが足を止めると、後ろに柱間が立った。
「・・・柱間。俺の後ろに立つんじゃねぇ。」
「マダラ、芙蓉は今日、俺と結婚するのだ。芙蓉はもうお前の事は愛していない。」
「お前と結婚?ハハッ。なかなか面白い冗談だな。」
「冗談ではない。お前が里を出てから芙蓉の気持ちは俺に戻ってきたのだ。」
「芙蓉の気持ちが変わる事などあり得ない。芙蓉は永遠に俺のものだ。」
そう言ってマダラは柱間の言葉に動揺するどころか、笑い飛ばした。
「仕方ない… 木遁・花樹界降臨!」
大地から無数の木の根が湧き出し、そこからみるみるうちに幹と枝が伸びる。
そしてその枝に着いた花の蕾が次々と開き、花粉をまき散らす。その花粉で平野に咲く白い花が、あっという間に萎れていく。
マダラは扉間の結界と柱間の樹海に挟まれ、樹海の枝を切り倒して防御する。
「毒の花粉か。俺には効かん。こんなもので大地を汚すな! 火遁・豪火滅却!」
ボオオオオォォォ・・・!バキバキバキ・・・
マダラは萎れる白い花を横目で見た後、口から噴き出した火炎で樹海を一気に焼き払った。
柱間はいったん後ろに下がり、炎を避ける。
その隙にマダラは扉間に飛びかかる。
「水遁・水龍弾の術!」
水陣壁から龍のかたちをした水の塊が飛び出し、扉間はマダラを迎え撃つ。
バッシャーン!ゴボォォォ!
龍がマダラに命中した途端、マダラの姿が消えた。
「くそ!影分身か!」
本物のマダラは扉間の頭上に浮かんでいる。
「行かせはせぬ!」
柱間がマダラの目の前に現れ、背中から抜いた刀をマダラに振り下ろす。
ガシィィィンッ!!
マダラは、神器うちはでそれを防いだ。
刀とうちはが交わり、震えている。
「フッ。解りやすいな。そこまで必死に俺をこの先に行かせないようにしているということは、芙蓉が居ると言っているようなものだぞ。柱間…」
「芙蓉は里に居る。この先は里だ。芙蓉と里には手出しはさせん!」
「安心しろ。里はまだやらない。今日は芙蓉を連れて行くだけだ。」
「里に仇なすお前に、芙蓉が渡せるか!」
「言っただろ。芙蓉は俺のものだと。芙蓉の意思は俺の意思だ。まだ意味が解らないのか?」
「まさか・・・お前!!」
ギシイィィン!!
マダラは、うちはに鎖で繋がっている鎌で柱間の刀を薙ぎ払った。
柱間から離れた瞬間に、地上から扉間がマダラに向けて攻撃をする。
「水遁・水断波!」
扉間の口から放たれる水柱が物凄いスピードでマダラに向かっていく。
「火遁・豪火球の術!」
マダラが口から吹き出した火炎がその水柱とぶつかり、炎と水は相殺され、水蒸気になって辺りを煙らせた。
一瞬、柱間と扉間の視界が奪われる。
「火遁・龍烙業歌!」
その一瞬の隙に、マダラは水陣壁に向かって龍の火炎をいくつも繰り出し、その火炎は水陣壁を貫き穴を開けた。
マダラはその穴に飛び込んで走って行く。
穴の開いた水陣壁は徐々に薄れ消えてゆく。
「扉間!マダラは芙蓉に何か術をかけているようだ!」
そう言うと柱間はマダラを追う。扉間もそれに続いた。
朝陽が差し込む森の中を、神社に向かって突き進むマダラを柱間と扉間が追いかける。
ついに三人の目の前に、芙蓉の居る神社が現れた。
「木遁・木呪包囲!」
マダラが印を結び神社の結界を結界を解こうとした瞬間、柱間の木遁で樹木が変形し、マダラに襲い来る。
思わず印を結ぶ手を解き、手で木々を薙ぎ払い、マダラは地面に足を着けた。
「柱間…神社の結界が解かれていなかったということは、お前も芙蓉には会っていないようだな。丁度いい。俺たちの前で芙蓉本人にどうしたいか聞こうじゃないか。」
「今芙蓉に問うたところで、お前に着いて行くと答えるだけだろうな…」
ここまで来てしまった以上、もう芙蓉が来ていないことを否定できなくなっていた。
「解ってるじゃねぇか。じゃあお前が身を引け。芙蓉は俺と一緒に居る事を望んでいる。」
「それは芙蓉の意思じゃない。平和協定を結ぶ直前、お前が亡命しようとした数名の腕が立つ部下たちにした事。同じ事を芙蓉にしたのだろう。違うか?」
「・・・まさか!あの禁固呪の札か⁉」
マダラは冷静な柱間と驚く扉間を見て、ニヤリとする。
「俺と芙蓉を繋いでいるだけだ。芙蓉が迷子にならないためにな。」
「なぜだ!お前は芙蓉を愛しているのではないのか!」
柱間は怒りを込めてマダラに問う。
「ああ。愛しているとも。だからこそ芙蓉のことを一番理解しているのは俺だ。芙蓉がどんな性格で、どんな所が欠点なのかもな。その欠点に躓かず、正しい道に導くのが俺の愛だ。」
「何が愛だ!ただ自分を裏切らない操り人形にしたいだけだろうが!!」
陽が昇り、森には木漏れ陽が雨のように降り注いでいる。
鳥たちは姿を消し森は静寂に包まれ、扉間が叫ぶ声だけが響く。
「フン…この数ヵ月、芙蓉がお前たち兄弟と樹、女学校、そして里の人間に囲まれて生きていれば、芙蓉の心が揺れ動くことくらい解っていた。禁固呪の札は、芙蓉が自分を傷つけてしまわないよう守る為のものだ。愛する者の苦しみを取り除きたいと思うのは当然のことだろう?なぁ、柱間よ。」
「俺には理解はできぬ。そんな危険なものを愛する女の身体に仕込むなど、そんな卑劣な事など理解できてたまるか!」
「捉え方の相違だな。俺と芙蓉は愛し合っているんだから何の問題も無い。」
「一方的にお前が芙蓉を鎖で繋いでいるだけだろうが!」
「マダラ、愛は一方的に相手を何かで縛るものではないはずだ。そんなもので芙蓉の気持ちを縛って、愛されて幸せか?」
「俺の夢には芙蓉が必要だ。お前には届かない夢さ・・・もうすぐだ。もうすぐ届くんだ。」
マダラはそう言って両手の掌を天に向けた。
「なぁ、その夢を教えてくれないか。里の皆で共にその夢を叶えさせてくれ。お前が考えるその先の平和に導いてくれ!芙蓉を愛しているなら尚更だ!今ならまだ間に合う!」
「兄者!こいつに何を言っても無駄だ!早く倒して芙蓉を助けるぞ。」
扉間の言葉を聞いて、マダラがハハハと笑う。
「扉間!芙蓉を殺そうとしたお前がなぜ芙蓉を助ける。俺のものになるのがそんなに嫌か。」
「お前に答える義務はない!」
「マダラ、芙蓉はこの数ヶ月間、里の為に尽力してくれた。芙蓉は里の発展と平和を心から願っていた。芙蓉は、本当は里でお前と一緒に暮らすことを一番望んでいるのだ!お前の味方は芙蓉だけじゃない。里の皆がお前の兄弟であり家族だ。頼む、戻ってきてくれ!」
マダラの瞳の写輪眼の巴が変化した。
「須佐能乎!」
柱間の言葉を無視して術を発動させる。
バキバキバキ!!!
巨人が現れ、持っている剣で樹海ごと後ろの神社の結界を切り裂き、神社の屋根が吹き飛んだ。
「しまった!!!」
柱間と扉間が行動に出る前に巨人の手が伸び、社の中に居た芙蓉を握り持ち上げた。
「キャ―――ッ!!」
芙蓉の悲鳴が森中に響き渡る。
「手荒い再会ですまんな。芙蓉・・・少しじっとしていてくれ。」
「ま、マダラさま!・・・それに、柱間さま、扉間さま・・・!」
何が起こっているのか芙蓉に全く理解できない。ただマダラの言葉に従いじっとしている。
「やめろ!マダラ!!!」
巨人が黒い炎を纏った巨大な槍を取り出し、西の方向へ投げた。
「さぁ里のどこへ着地するかな?早く追わないと人が死ぬぞ。」
「くそっ!」
扉間が飛雷神の術で消えた。
「柱間さま!早く里へ行って下さい!私は大丈夫ですから!」
「・・・必ず助けるぞ。芙蓉!」
柱間も急いでその槍を追って行った。
「・・・すまん。こんな再会になってしまって。」
マダラは須佐能乎を解いて芙蓉を自分の腕の中に受け止め、抱きかかえながら言った。
「・・・・。」
「怒んなよ・・・なぁ。」
芙蓉は怒って苦い顔をし、そっぽを向いたままだ。
「なぁっ!」
マダラが芙蓉の頬を人差し指でつんっと押した。
その行動に芙蓉は思わず笑ってしまった。
「も、もうっ!…マダラさま、やり過ぎです!本当に人が死んだらどうするんですか!」
「大丈夫だ。柱間はそこまで無能じゃない。俺と対等に戦えるのはあいつだけだからな。」
芙蓉はマダラの首に腕を回して抱き着いた。
「マダラさまにも、怪我が無くて良かった・・・早く、会いたかった・・・」
マダラも芙蓉をきつく抱きしめた。
「俺もだ。お前が隣に居ないと変な感じだったぜ。」
「寂しかったって、素直に言えばいいのに。」
「・・・・。」
マダラは少し恥ずかしくなり遠くを見る。そして芙蓉の腕を解いて顔を合わせる。
チュッ・・・
二人の唇が重なる。
会えなかった時を埋めるかのように長い口づけが続く。
芙蓉はこれまで迷っていた気持ちなど無かったかのように、マダラに会えた喜びを噛みしめていた。
・・・やっぱり私はマダラさまを心から愛してる。
もう離れたくない。私の居場所は、ここよ・・・
森には再び鳥たちが戻り、二人を讃えるように様々なさえずりが音色を奏でていた。