目的の為に木ノ葉の里襲撃と柱間との戦いへ出発したマダラ。
しかしその間に、芙蓉は扉間によって里へ連れ戻されてしまいます。
木ノ葉の里で再び柱間・マダラ・扉間、そして芙蓉の4人が対峙した時、思いもよらぬ事が起こり・・・
そして、柱間とマダラの最後の壮絶な戦いが始まります。(原作の一部引用)
マダラと芙蓉は引き裂かれてしまうのか・・・?
芙蓉の悲痛な叫びは・・・
小春日和だった。晩秋とは思えぬ暖かさに冬が来るのを忘れてしまいそうになる。
空には刷毛で塗ったような白い巻層雲が高く浮かんでいる。
あの雲の上には、一体どんな世界があるのだろうかと芙蓉は思う。
「手筈は言った通りだ。三日後の夜までには必ず戻る。部屋の鈴が鳴ったらアジトに来い。俺が帰るまでは町には出かけるなよ。」
「分りました。・・・マダラさまも、お気を付けて・・・」
「なに、直ぐに終わらせて帰って来る。柱間の肉体の一部を奪うことが目的だ。まぁだが柱間との戦いも存分に愉しまなければならんがな。」
「・・・・・」
マダラは俯く芙蓉の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「行ってくるぞ。いなり作って待っとけ。」
「はい。」
芙蓉は寂しそうな笑顔でマダラを見送る。
それはいつもの見送りと変わらない、特に別れを惜しむでもない、あっけないものだった。
生暖かい秋風がマダラの姿を消し去ってゆく。
◆
「なんだと!芙蓉を見つけた⁉それは本当か⁉」
柱間が椅子から立ち上がり、部下の上忍に向かって身を乗り出す。
「はい…間違いありません。あれは芙蓉様です。あれほどの容姿の女性はなかなかいませんし、あんな場所に居るというのもマダラと一緒に居るのならば納得がいきます。」
「マダラの気配はあったか?」
隣に居る扉間が冷静に問う。
「いえ。私の能力では感知することは出来ませんでした。」
その上忍の部下は、里で不法な薬物を取引していた商人のルートを根絶させるため、山岳の墓場まで追跡していた所、町で芙蓉を見かけたという。
柱間の直属の部下の一人であるため僅かな間だが芙蓉とも同じ屋敷で暮らしており、芙蓉の容姿・背格好・声は良く知っていた。
「あそこは悪党共のアジトが多い。マダラと芙蓉が住んで居る可能性が極めて高いし、俺の感知なら見つけられる。」
「マダラが居るなら俺も一緒に…」
「俺一人で行く。まずは芙蓉が居るかどうかを確かめる。マダラもな。行動を起こすのは正確な居場所が判って作戦を立ててからだ。」
「そうだな・・・深追いはするなよ。扉間。」
「分っている。それに帰りは飛雷神の術で帰って来る。」
扉間は早急に準備を整え、柱間との会話から一時間も経たないうちに山岳の墓場へ向けて一人で出発した。
里を出て、火の国の国境までは昼間でさえ光がほとんど届かない深い森が続いていた。
走っている途中、何度か屍を見かけた。里が出来る前の戦いでは、この辺りでも激しい戦闘が続いていたことを思い出す。
子供の頃、柱間と板間の三人で大人の忍たちを批判し、在るべき忍の世界について討論していた頃の事も想い出した…その後間もなく、芙蓉が家にやってきたのだった。
実現するとは思っていなかった夢が、未来が、里が今、出来上がっている。
そこに芙蓉の姿が無いのは、絶対に許されない。
罪を犯したからこそ解った芙蓉の存在の大きさ、大切さが、扉間の胸に突き刺さっていた。
ザザザァーン・・・
昼前の明るい日差しを受けて青い海面がキラキラと輝き、白波が砂浜を潤す。
久しぶりに見る海だ。
きっと芙蓉は海をここで初めて見たのではなかろうかと思いながら、扉間は芙蓉の気配を慎重に感知する。すると芙蓉ではなく、マダラのチャクラを見つけた。だが、チャクラの強さから本人はそこには居ないようだった。そのチャクラを追えば、芙蓉は居るはずだ。
扉間は雑多な町を歩いた。悪党の集まる場所だというのでどれだけ荒れているのかと思えば、意外にものんびりとした普通の港町に見える。活気は無いが、行き交う人々の顔には明るさがあった。
自分のチャクラを消しながら、更に繊細にチャクラを練って感知を続けて歩く。
町を抜けると家も疎らになり、稲が刈り取られた田畑が広がっている。
東の方向に、マダラの強いチャクラを感じた。
「・・・これは・・・結界か。」
やはり、どうやらマダラ本人は居ないようで、マダラの作る結界のチャクラだけを感じる。
ここまで強い結界を張っているのならば、芙蓉一人で留守番をさせられているのかもしれないと考える。慎重に結界のある方向へ向かうと、小さな家が見えた。
案の定、そこにはマダラの結界が張られていた。
結界のせいで、扉間が居る場所からは家の中の気配までは感知できない。
扉間は林に身を隠し、しばらくその家の様子を見てみることにした。
小一時間経った頃だっただろうか。
見覚えのある、いや、ずっと探し続けてきた姿が目の前に現れた。
芙蓉だった。
やつれた様子も無く、美しさは変わらないどころか更に美しくなっているように見える。
長い髪の毛を後ろで無造作に丸めてかんざしで留めている。暖かそうな白い上着を身につけ、長いスカートを揺らしながら洗濯物を丁寧に竿に干していく。
扉間は、懐かしくもあり、初めて見るかのような光景を静かに見つめる。
芙蓉が洗濯物を干し終わり家に入ったのを確認すると結界の間近まで近づいた。
今一度、マダラが中に居ないか感知を試みる。
結界は対・忍用のものであり、芙蓉にだけ無害なように印が組まれているようで、強固なものではなく、扉間のレベルであれば簡単に解除できる程度のものだった。
そして家の中には、やはりマダラは居ない。芙蓉一人だけだった。
扉間は素早く結界を解除する印を結んだ。
音も無く、あっけなく結界が消えていく。
家の玄関に立ちそっと扉に手をかける。扉は僅かに動いたがそれ以上は動かない。鍵がかかっていた。しかし開錠術などたやすい事だった。再び手をかけ扉を静かに開いた。
目の前には台所があった。芙蓉の姿は無い。
短い廊下を曲がると部屋の扉が現れる。中で芙蓉の足音がする。
ス―――ッ
芙蓉は、部屋の扉が開いたことに気づかず、背を向けて本棚の整理をしていた。
手前に在る机の上には、沢山の本が積まれている。
「芙蓉。迎えに来たぞ。」
ビクッ! ドサドサドサドサッ!
「・・・・」
芙蓉は驚いて本を全て床に落とした。そして扉間の姿を見ると驚きすぎて声も出せず固まった。何が起こっているかも全く分からない様子である。
「・・・お前を迎えに来た。里に戻るぞ。」
扉間は固まる芙蓉にズカズカと歩み寄り、躊躇なく抱き上げた。
抱きかかえられて初めて芙蓉が悲鳴を上げる。
「キャッ!」
「飛雷神の術…」
大きな風を受けて宙に浮いたように感じたあと、扉間の顔の後ろの光景だけが一瞬にして変わった。これは以前と同じ術だと芙蓉にも分った。
芙蓉の長い髪がほどけて扉間の腕に流れる。
「芙蓉っ!!!」
大きな声の方を向くと、柱間が立っている。そして自分のほうへ駆け寄ってきた。扉間は芙蓉をゆっくり下に降ろして床に立たせる。
「芙蓉!!無事で良かった・・・」
すぐさま柱間が芙蓉をきつく抱きしめる。苦しい。
「おい兄者、それ芙蓉たぶん息できてないぞ。」
「おお!すまん!つい嬉しくてのう!!」
ぷはっ!芙蓉は大きく息を吸ってから、柱間の顔をゆっくり見上げた。
「芙蓉。元気だったか?・・・おお、髪がこんなに乱れて・・・」
芙蓉の乱れた髪を整えようと柱間は指を通した。
「触らないで!・・・私はもう、マダラさまの妻です。」
柱間は手を止め、芙蓉の髪から指を離した。そして芙蓉を挟んで目の前にいる扉間と目を合わせ、そして目をつぶって大きな溜息をついた。
「そうか…結婚したのか…」
「マダラに騙されているだけだ。まぁ当分目は覚めないだろうけどな。そもそもお前の戸籍は木ノ葉の里だ。抜け忍なんかと結婚できるかよ。」
扉間が呆れたように言う。
芙蓉は、柱間と扉間はまだ自分がマダラに操られているのだと思っていて、ここへ連れ戻したということは理解できた。だが、どうやってその誤解を解こうかと考える。
「芙蓉。今のマダラは里を潰そうと動いている。それはお前も知っているのではないか?そのような奴とお前を一緒におらせるわけにはいかぬぞ。」
柱間が真剣な顔をして言った。
「マダラさまは里に興味などありません。あなたと戦いたいだけです。そして平和という夢を実現させようと尽力されているんです。」
「平和か…それがマダラのその先の夢なのか…この里に無い平和とはどんなものなのか…芙蓉。答えられる範囲で良い。マダラが今どこに居るか何をしようとしているのか…」
「よせ兄者!」
扉間はマダラによって芙蓉の心臓に仕込まれた禁固呪の札のことを気にして柱間の言葉を遮った。もちろん柱間もその事は気にしていた。
「昨日、木ノ葉の里に行って柱間さまと戦ってくると言ってお出かけになりました…。マダラさまは平和を心から願っています。今回もその為の行動なんです!」
「平和を願っているだと?笑わせるな!ただの戦闘狂だろーが!また兄者と戦って何がしたいのだ。それにやはり里を潰そうとしているじゃないか!本部に伝えてくる。」
「待て扉間・・・芙蓉、教えてくれてありがとう。ところで、マダラがお前にかけている術の事なのだが・・・」
ドゴォォォーン!!!
巨大な爆発音が窓ガラスを揺らした。三人が外を見ると正面に炎が上がっている。
「マダラの奴めっ!!」
すると遠くからこちらへ向かって巨大な手裏剣が飛んで来るのが見えた。
「扉間!芙蓉を頼む!」
ドガッ!ガッシャ―ンッ!!
柱間が手をかざすと柱間の足元から巨大な木の枝が伸び窓ガラスを突き破り、その手裏剣を寸でのところで止めた。
「よう。柱間。」
マダラが木の枝の上に現れた。
「・・・・って、まずはなんでうちの嫁がここに居るのか答えてもらおうか。」
芙蓉を守っていた扉間と、その腕の中に居る芙蓉がマダラのほうへ振り返る。
「俺が見つけて連れてきたのだ!芙蓉は悪く無いぞ!」
柱間が芙蓉と扉間の前に立ちはだかり叫んだ。
「・・・本当か?芙蓉。」
「本当だ。さっき俺がここへ飛雷神で連れてきたのだ。」
「お前に聞いていない。答えろ!芙蓉!!」
「…本当です。家に居たら扉間さまに連れて来られました…」
「そうか・・・荷物が増えてしまったな。今日の所は引き上げる。退け柱間!」
マダラは神器うちはを振りかざし柱間に飛びかかる。
柱間は木遁で強化した腕でそれを受け止めた。
「水遁・水断波!」
扉間が放った水柱がマダラを退かせ、後ろの壁がその水柱で真っ二つに割れた。
「マダラ!悪いがお前たちの結婚は祝福できん!芙蓉はもう渡さんぞ!」
柱間は部屋に置いてある大刀を手にしてマダラに向かって構える。
「嫉妬か?無様だぞ柱間。芙蓉は俺のものだとまだ解らんのか。」
マダラは宙に浮きながら三人を見据え、ある事を思いついた。
「…そうだ。良い事を思いついたぞ。今日は柱間とやれない代わりにお前を殺してやる。扉間!芙蓉の目の前でな!…フフッ。芙蓉、お前も憎い扉間の死を観たいだろう?」
「マダラ!何を言っている!お前の相手は俺ぞ!」
マダラは柱間の言葉を無視して瞬間移動で扉間の隣りに立った。
その目には万華鏡写輪眼が現れている。
「天照!」
マダラは瞳術を発動させると、扉間はその場を離れようとしたが芙蓉のことを気にしてしまい間に合わず、左肩に黒炎が現れた。
「ぐっ・・・っ!!」
扉間は床に倒れた。
「この黒い炎は全てを焼き尽くし灰さえ消滅させるまで消えない。お前が憎み、愛する芙蓉の目の前で消え去れ扉間ァ!」
「水遁・全滅消!」
柱間は口から霧状の水柱をその黒炎に向けて放った。炎はあっという間に消えてしまった。
「天照の炎が消えただと!・・・」
「封印術を合わせた水遁だ。消えない炎は無い。火遁が得意なお前用に特別に作った術だ。ありがたく思えよ!」
柱間は刀を構えてマダラに飛びかかった。マダラはうちはでそれを防ぐ。
「…今日はお前とやり合う気は無い。お前とはお互い全力で戦わないと意味が無いんでな。」
マダラはうちはと刀越しに柱間を見てニヤリとした。
ビュン!
仰向けに倒れている扉間に向かってクナイが飛んでいく。
グサッ…ドス!
「・・・芙蓉・・・なぜだ!これくらい、俺なら避けられたのに!!」
扉間に覆いかぶさった芙蓉の左肩をクナイが貫通し床に突き刺さった。
貫通したのは、マダラが助けたあの時の傷と、全く同じ場所だった。
「おい芙蓉・・・・お前何やってんだ・・・なんでお前がそいつを庇うんだよ!!!」
「マダラさまお願い。これ以上…人を殺し…たり…傷つけたり…しない…で・・・」
芙蓉はそう言うと胸を抑えて扉間の上に倒れ込んだ。
「‥‥っ‥‥」
「マダラ!今すぐ禁固呪の札を解除しろ!!早く!!」
柱間がマダラに向かって叫ぶ。
「・・・・」
「オイ!聞いているのか!芙蓉が死ぬぞ!!」
「・・・構わん。俺を裏切るような女・・・もう・・・必要ない・・・」
そう言ってマダラはその場から姿を消してしまった。
「芙蓉!しっかりしろ!!今助けてやるからな!」
扉間は芙蓉を抱きしめ、必死に声をかける。
柱間が二人の前に瞬間移動し、芙蓉を床に横たえる。
芙蓉は苦しそうに胸を掻きむしっている。息もまともにできていない。
「扉間。二人で解除するぞ!間違えるなよ!」
「ああ!」
扉間は涙を拭い、急いで印を結ぶ。
「「酉・申・申・酉・巳・巳・酉・申・申・・・解っ!!」」
「かはっ!!はぁはぁはぁ・・・・」
芙蓉がようやく息をしたが、その息が徐々に細くなり、心音も小さくなっていく。
「扉間。お前は人工呼吸だ。俺は心臓を回復術でやる。」
扉間は芙蓉の鼻をつまんで口うつしに酸素を肺に送る。
柱間は印を結んで芙蓉の心臓に当て回復術で蘇生をさせる。
トクン・トクン・トクン・・・
心臓の音が安定したのを確認すると、次は左肩の傷を回復させた。みるみるうちに傷がふさがってゆく。
「もうこれで命の心配は無い。助かったぞ・・・」
「・・・良かった・・・・」
二人が床に膝を付き、安堵にうな垂れた時だった。
ドガガガガッッッ・・・!
先ほど爆炎が上がった近くから、今度は轟音と共に土煙が上がる。
マダラ奇襲対策本部の上忍たちがマダラ相手に奮闘している。しかし次々と建物もろとも吹き飛ばされてゆく。里の市民は悲鳴を上げて逃げ惑っている。
「・・・マダラの奴どこまで・・・。扉間!芙蓉のことは頼んだぞ。」
「わかった!」
柱間は急いで甲冑を纏い、武器を揃えてマダラの元へ向かった。
「マダラ。お前の大切な荷物は無くなったぞ。さあ、本気で来い。」
土煙の中から柱間が、マダラの目の前に現れた。
「フン・・・そうか。どうやらその顔、お前も本気の様だな。」
マダラがニヤリと笑う。
柱間は里から離れた場所で戦うため、森に向かって走り出した。
晩秋の昼下りの空は薄青く、眼下の森には針葉樹林に交じって美しい紅葉が点在している。
戦いとは無縁の自然の美しさの中、二人は死闘に向かって走っていた。
ガツッ!!
大刀とうちはがぶつかり合う。
この日、もう何度ぶつけ合ったか分らない。
秋の夕暮れは早く、太陽はとうに沈んでしまった。
いつの間にかいつもよりも大きく見える満月が浮かんでいる。
・・・子供の頃、あの時から何度こうして刀を交えたか分らない。
もう二度と交える事は無いと思っていたのに。
・・・何故だ・・・マダラ・・・
バッ!
二人は離れる。柱間は樹海の木の根の上に着地した。
マダラが着地したのは口寄せした巨大な九尾の頭の上だった。
「木遁・木龍の術!!」
「九尾、尾獣玉を放て!」
柱間の木龍が九尾に絡みつくが、九尾はそれを綱のように引っ張る。
そして口から黒い球を作り柱間に向かって放った。木龍は破壊され、その球は柱間に一直線に向かってくる。
パン!と柱間が掌を合わせた瞬間、柱間の足元から木で出来た巨大な手が現れ、尾獣玉をキャッチする。
「木遁・木人の術!!」
柱間の足元の木が更に鬼人の面に変化し、轟音を上げながら木龍と絡み合う。
そしてその鬼人の手に握られた尾獣玉を九尾めがけて殴りつける。
「須佐能乎!」
マダラは九尾に須佐能乎を装備させ、その須佐能乎は防御の印を結び柱間の攻撃を受けた。
カッ!・・・ドン!・・・ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・
周囲数キロを吹き飛ばす大爆発が起こった。
爆風と土煙が徐々に晴れて、お互いの姿が現れる。
「獣の難を喰らう…木遁・傍排の術か…」
柱間は巨大な阿修羅の面の中に入り防御していた。
ガコン…その面の中央が左右に少し開き、中から柱間が顔を出す。
「ぬ!…尾獣を須佐能乎の鎧を着させるとはの…マダラめ…考えよる!!」
ブンッ!!
須佐能乎が巨大な剣を柱間めがけて振り下ろした。
バシィッ!!
木人の手が地中から現れ、その剣を両手でキャッチした。
「もうお前の太刀筋は読める・・・!」
柱間が素早く印を結ぶと地中からマダラと九尾を囲むように巨大な木人の手が現れ、九尾を捕らえた。
ズババババババ!
しかし九尾の尾がその手を全て切り倒し、柱間の足元の木人もバラバラに砕け散った。
柱間は宙を舞う。
「このままでは陸が滅茶苦茶になってしまう…海辺に移動したほうがいいな…」
柱間は海の方向へ向かって走り出した。
「逃さん!」
マダラは須佐能乎の剣で攻撃を続けながら柱間を追う。
「ちょこまかと逃げ回るだけか柱間!」
再び九尾が口から巨大な九尾玉を作り、そして今度はそれを須佐能乎の剣に突き刺した。
ブチッ!ブンッ!
九尾玉を差したまま剣を引きちぎり、手裏剣の様にして柱間めがけて投げた。
「これでもう掴むのは無理だぞ!さあどうする⁉」
ザッ!
柱間は地上に着地し、指を噛んで血を流した。
「口寄せ・五重羅生門!!」
地獄の入り口に在るような禍々しい巨大な門が五つ現れ、剣の刺さった尾獣玉を捕らえた。
「「これで・・・軌道は変えられたか・・・」」
ゴゴゴゴゴッ・・・ドシャアアアアア――――!!
尾獣玉は五つ全ての門をなぎ倒し、海を切り裂きながら進んでいく。
ドン!・・・
「向こうの陸まで達するとは・・・」
「柱間…お前と本気でやるのは久しいからな…昔とは違うのが分かったろ…」
柱間はマダラの方に振り返り、両手を合わせて印を結びながらマダラに言い返す。
「・・・今までのことを・・・俺たちの努力を・・・無駄にするのかマダラ!!俺とお前が戦ったところで何も生まれん・・・この戦いは里と忍を傷つけるだけだ!俺たちの兄弟を・・・仲間を・・・そして芙蓉を、侮辱するだけだぞ!!」
「・・・・・。お前に・・・俺の・・・・」
「・・・俺はお前を殺したくない・・・!」
「それは俺をいつでも殺せるってことか?」
「違う!!俺たちは友だと・・・」
「俺はもう、届いたのさ!」
グオオオォォオ!
須佐能乎を着た九尾が雄叫びを上げると再び須佐能乎の剣が天に向かって伸びていく。
「・・・・仕方ない・・・仙法…木遁…真数千手!!」
ズォォォォ・・・・・
柱間の顔に仙術を使う時の隈取りが現れると同時に、柱間の足元から巨大で無数の手を持つ千手観音像が現れた。
「…行くぞマダラ!!」
「来い柱間!!」
「「ウオオオオオオ!」」
「頂上化仏!!」
「九尾玉連打!!」
ズガガガガガガガ・・・・!
無数の手が九尾を連打する。九尾球はそれを相殺しようとその手を切り裂いていく。
ドッ!
爆発音と土煙が上がった。
「須佐能乎が剥がされたか…!!」
マダラに焦る様子はない。
柱間の息は上がっているが、続けて木人の手で九尾の身体を鷲掴みにした。
ガルルルル!
「行くぞ!廓庵入鄽垂手!!」
須佐能乎が剥がれ、防御の結界も無くなり姿が露になったマダラに向かって、巨大な木人の手が一直線に伸びる。マダラはさっと九尾の額から飛び降り地面に着地する。
目の前には木人の手に額を押さえつけられ動けなくなった九尾が居る。
そして九尾の目に映っていた写輪眼の巴が消え、九尾はガクっと意識を失い、そのまま姿を消してしまった。
柱間も千手観音像から降り、マダラの目の前に立った。
「・・・!」
ザ――――・・・
月は空高く昇り、二人が対峙している谷にだけ俄雨が振っている。
・・・ハア、ハア、ハア、ハア・・・・
甲冑を外しうちはを握りしめるマダラと、左肩に怪我をして一本の剣のみを持った柱間。
既に二人とも息が上がっている。
「今度は・・・お前が届かないのさ」
二人は互いに向かって武器を構えて走り出した。
バシャ!
二人同時に小川の水面に足が付く。
ズバッ!!!
柱間の剣と、マダラの鎌が互いを切り裂いた。かの様に見えた。
・・・バシャンッ!
「立っているのは俺だ・・・あの時とは逆だな・・・」
小川に倒れた柱間が上半身を何とか起こし、マダラの方を見た。
「くっ・・・届いたばかりの夢を・・・守りたいんだ・・・俺は・・・これ以上は・・・・」
「・・・随分と落ち込んで見えるぞ柱間。今度こそ開き直りは出来ないか・・・?」
柱間に子供の頃マダラと過ごした日々の記憶が蘇る。
・・・腑を見せ合う事はできねーだろうか・・・
・・・まずはこの考え捨てねぇこと。自分に力付けることだろーが・・・
・・・ここに俺たちの集落を作ろう・・・
そして、マダラと二人、ようやく届いた夢を見渡した時のことを思い出す。
・・・掴もうと思えば出来ないことは無かったってのに俺は・・・
・・・これから夢が現実になる・・・
柱間はぐっと強く目をつぶった。
ズカッ!・・・
「・・・・・!!」
マダラの胸には背中から剣が貫通し、鮮血が流れる。
後ろを振り返ろうとしたが体が動かない。唇から顎に血が伝っていく。
正面の柱間を見ると、それは、木遁分身だった。
「・・・俺が・・・後ろを・・・取られるとは・・・」
「俺は、俺たちの・・・イヤ俺の里を守る。何があろうとも・・・里を守ることが何より人を・・・忍を、子供を、そして芙蓉を守ることになると俺は今でも信じる・・・!」
雨は激しさを増している。
柱間のチャクラが強く荒いものに変わる。
「たとえそれが・・・友であろうと、兄弟であろうと、我が子であろうと・・・里に仇なす者は許さぬ。」
ガクン。
マダラが立っている力を失い、小川に両膝を付いた。
この時、柱間は覚悟を決めた。
“今を見守る”ために、耐え忍ぶことを。
「・・・変わったな・・・柱間・・・本末転倒だな・・・それが・・・里の・・・闇になる・・・いずれ・・・」
バシャ!
マダラは小川の水面にうつ伏せ、倒れた。
「!」
柱間が動かなくなったマダラを見つめると、一瞬空に何かの気配を感じた。
その瞬間目の前がくらみ、片膝を湖面に付け、俯いた。
柱間もまた、すべてが限界だった。
雨は容赦なく二人に降り注いでいた。
柱間の涙も、マダラの流した血も、雨は全てを見えなくした。
こうして、二人の戦いは終わった。
◆
真っ暗な横穴の中は土の匂いがする。掘ったばかりの穴だった。
松明の灯りは強烈で、月明りのような優しさは無く、穴の中を橙色に染め上げて景色を揺らしている。
芙蓉はそっと、マダラの頬に触れた。
「・・・マダラ・・・さま・・・」
木製の台の上にマダラの遺骸が横たえられている。
芙蓉の頬には涙の後がくっきりと残っており、そしてまたそこへ新たな涙が流れてゆく。泣き腫らした目は真っ赤に充血し、声も枯れていた。
「愛しています・・・永遠に・・・」
両手で冷たくなったマダラの頬を包み、そっと口づけをした。
唇も冷たく、固く閉じられたままだったが、僅かに柔らかかった。
こうして温めれば、次の日にはまた目を覚ましてくれる気がしてならない。
「…芙蓉、別れだ。」
マダラの遺骸はこれから柱間と扉間によって処理される。
その前に柱間は、芙蓉にマダラとの最後の別れの時間を与えた。
柱間と扉間はその間、二人に背を向け静かに待っていた。
「嫌です・・・」
「気持ちは解る。だが時間が無い・・・」
そう言って扉間が芙蓉の両肩を持って立ち上がらせた。
柱間は、その様子をただ黙って見ていた。
二時間前、柱間は芙蓉になんとか言葉を振り絞ってマダラの死を伝えた。
あの時の芙蓉の表情は、きっと一生忘れられないだろう。
里の為とはいえ、芙蓉の愛する男を殺したのだ。
言葉をかけるどころか、顔を見るのさえ罪深い気持がしていた。
扉間もそんな兄の気持ちを解っていた。
芙蓉は力無く扉間に引っ張られるまま後ずさっていく。
「兄者、俺は芙蓉を連れて一度帰って来る。」
「ああ…頼む。」
「マダラさまっ!」
芙蓉がマダラに向かって手を伸ばしたが、その瞬間に扉間と共にその場から姿を消した。
「・・・・・」
柱間はマダラの遺骸を見つめて立ち尽くす。そして目を閉じる。
『…友であろうと…里に仇なす者は許さぬ』
あの時マダラへ向かって言った言葉を心の中で反芻し、今度は自分に言い聞かせた。
移動した場所は柱間の屋敷だった。
扉間に肩を支えられながら元の芙蓉の部屋に向かうが、芙蓉は自分がどこに居て、どこへ向かって歩いているのかさえ分からない。
部屋に着くと扉間は芙蓉を座布団の上に座らせ、天袋の中から布団を出して敷き始めた。
「横になって休んでいろ。」
座って動かない芙蓉を扉間は抱きかかえ、そっと敷布団に上に横たえ布団と毛布を掛けた。
「何かあれば使用人に言え。いいな。」
「・・・・」
扉間は、茫然としている芙蓉の顔を見て小さく溜息をつくと姿を消した。
◆
一日、また一日と時は過ぎてゆく。
マダラが死んだ日がどんどん過去になってゆく。
あの日、芙蓉はマダラが自分の心臓に禁固呪の札を仕込み、裏切らないように操作・束縛していたことを知った。
だが、芙蓉はそのことで自分の愛情までが操作されていたとは思わなかった。
現にこうして術が解かれた今も、愛情は変わらない。
禁固呪の札を仕込んだのは、きっとマダラの弱さだったのだろう。
もう大切な人を失いたくないという怖れだったからに違いない。
そう思うとますます、マダラを諭そうとばかりしていた自分の言動を悔いた。
時を巻き戻したかった。
しかし、時を巻き戻したところで、きっとマダラは変わらなかっただろう。
すなわち、マダラの死も必然なのかもしれない。
ならばせめて、自分もマダラと一緒に里に仇をなし、共に柱間に殺されて死んだ方が良かった。それでマダラが幸せだったのなら…マダラの味方は自分しかいなかったはずなのに…
そう思うと芙蓉は後悔で悲しみが強くなるばかりだった。
自分を責めることしか出来ず、誰とも顔を合わせる気にも話す気にもなれず、芙蓉はあれから一週間一人で部屋に籠っていた。
「ちょっとでいいんです!芙蓉に会わせてください。無理やりにでも引っ張り出さないと…芙蓉は今、世界で独りぼっちの気持ちでいると思うんです。このままだとあの子、どうかなっちゃいます…お願いします会わせてください!!!」
樹が玄関で柱間に懇願していた。
「だが本人が誰とも会いたくないと言っておるのだ…まだ暫くは一人にしてやってくれぬか。」
「・・・そんなわけにいきません!ちょっと失礼しますね。」
そう言って樹は柱間の制止を押し切り家の中にズカズカと入っていく。
「ちょ、樹っ!待て!」
「兄者。俺も樹を芙蓉に会わせたほうが良いと思う。今の俺と兄者に何か出来るか?樹にしか芙蓉のことを慰めてやれる奴はいないんだぞ?」
扉間が部屋から出てきて、そう言って柱間を止めた。
「・・・そうだな。このまま芙蓉を一人きりにさせておくわけにはいかぬな・・・」
樹は芙蓉の部屋に一直線に向かって行った。
トントントン。
「・・・芙蓉。私だよ。・・・入っても良い?」
「・・・樹ちゃん・・・ごめん。私もう・・・樹ちゃんには会えないよ・・・」
「どうして?私は芙蓉にずっと会いたかったよ。ちょっとで良いから顔を見せてよ。」
「だって・・・私、樹ちゃんまで騙して・・・マダラさまと結婚してたんだよ。私もマダラさまと共犯なの・・・」
ガラ!
樹は扉を開けて部屋に入り、机の前でうな垂れて座っている芙蓉に駆け寄り、後ろからぎゅっと抱き締めた。
「私は、芙蓉がどうなろうと、何をしようと、一生芙蓉の味方だよ!お願い、一人になんてならないで!」
芙蓉は樹のほうを向いて抱き着き、大きな声で泣き始めた。
廊下までその泣き声が響き渡る。
柱間と扉間は顔を見合わせ、静かに芙蓉の部屋に近寄る。
「・・・私も・・・そう・・・思ってた・・・なのに、マダラさまの味方で居てあげられなかった!嫌われて見放されるくらいなら、私もマダラさまと一緒に殺されれば良かった!」
「そんな事言わないで!芙蓉は芙蓉なりに一生懸命マダラのこと愛してたんでしょ?愛している人を守りたいからこそ、時に味方できない時だってある。私だって、芙蓉が里を抜けてマダラと結婚するって知ってたら反対してた。きっと、マダラだって芙蓉の気持ちを解ってたはずだよ!それに、芙蓉は今でもこんなにマダラを愛してるじゃん。それって今でもちゃんと味方ってことじゃん!」
「・・・私ね、マダラさまの夢は、柱間さまと扉間さま、里の人と協力して実現させてほしかったの。これ以上、マダラさまが一人で誰かを傷つけるところなんて見たくなかった・・・だけど、マダラさまはそれも私に認めてほしかったはずなの・・・なのに・・・」
「うん・・・そうだね。マダラもあんなに芙蓉のこと愛してたもんね・・・だけど愛する人が間違った方向に行こうとしてるのを放っておくのって本当の愛かな?さっきも言ったけど、味方できない時、反対すべき時だってあるはずだよ。芙蓉は間違ってない。」
「・・・樹ちゃん・・・」
廊下で二人の話を聞いていた柱間と扉間は腕を組んで俯いた。
禁固呪の札の束縛とは関係なく、芙蓉はマダラを愛していた。
その事実と、芙蓉は里を出てもなお自分たちのことを想っていてくれた事に、二人は複雑な気持になった。