マダラ打倒の後、木ノ葉の里には再び平穏が訪れます。
そして柱間、芙蓉、扉間、それぞれ里での新しい生活が始まりました。
柱間は、うずまきミトと結婚します。
そして、芙蓉と扉間はというと・・・
ある日、いまだマダラの死のショックから立直れない芙蓉に、うちはドドメがある依頼をしてきました。
それを受け、芙蓉は次第に変わっていきます。
うちはカガミも登場します。
※カガミについては原作の設定を大きく変えております。
「号外だよー!号外―っ!!」
マダラに襲撃された里はすっかり元通りになり、麗らかな春を迎えた里は平穏と賑やかさを取り戻していた。
そして今日、里は祝福ムードに包まれている。
久しぶりに町を歩いていた芙蓉も、その号外瓦版を受け取った。
『 火影、渦の国・うずまきミトと結婚へ 』
芙蓉はそれを見ても表情を変えることなく、人混みをかき分け家に向かって歩き出した。
マダラの家はマダラ襲撃の後すぐに新地にされ、今はもう別の建物が建ってる。
いま芙蓉が住んで居るのは、里の外れにある小さな一軒家だ。
桃の花とレンギョウの甘い香りが漂う坂道を登ると、その家が見えた。
「おかえり。早かったな。もっとゆっくりしてくればいいのに…」
玄関を開けようとすると、庭先で盆栽の手入れをしていた扉間が芙蓉に声をかけた。
「…特にする事もないので…樹ちゃんも任務で暫く居ませんし。」
すると扉間の目に、芙蓉が手にしている瓦版の文字が入ってきた。
「…そうか。俺は夕方から出かける。夕飯は要らない。帰りも遅くなると思う。」
「分かりました。」
マダラが襲撃する前、各地で尾獣を発見した時から柱間の結婚話は上がっていた。
尾獣は単体で安定して封印することは難しく、人の身体の中に封印する“人柱力”と呼ばれる封印が一番安定して封印できることから、木ノ葉の里でもその人柱力となる為の人選が進めらているところだった。
そこへ、渦の国のうずまき一族の長が、娘・うずまきミトを推薦してきた。
うずまき一族と千手一族は遠い血縁関係にあり、今でも親交があった。しかし本当の理由は、うずまき一族は尾獣を捕らえるチャクラをもち、更に封印術にも長けていることである。
ただし、うずまき一族はミトが人柱力になる為の条件を提示してきた。
渦の国への多額の資金・人材面・防衛面での支援、そしてミトを柱間の妻にすることを条件としたのだ。
里側は当初、あまりに過剰な条件に戸惑ったが、確かにうずまき一族のミトが人柱力に一番相応しかった。また渦の国との国交設立は里にとっても有益だった。そこにちょうど柱間の結婚が無くなったとあって、里の上役と火の国の大名たちはこぞって賛成した。
そうして、半ば柱間の意思とは関係無く、ミトとの結婚が決まったのだった。
芙蓉が柱間の結婚を聞かされたのは、マダラの喪が明けた翌日だった。
少々驚きはしたものの、安堵のほうが大きかった。
お人好しで優しく、大きな包容力をもった柱間ならば例え政略結婚だとしても、きっと結婚相手とは互いに幸せになれるだろう。
未だ柱間に対しマダラを殺された遺恨はあったものの、心の整理はつけられていた。
里を守るために柱間はやるべきことをやっただけ。ただそれだけだ。
柱間のお陰で今も人々は平穏に暮らしている。
マダラが実現したかった平和とは違うだろうが、マダラの居ないこの里には、確かに平和がある。
それで納得しているのだが、芙蓉の中ではどうしても、マダラを殺さずになんとか二人が再び手を組む方法は無かったのかという問いだけは消えなかった。
芙蓉は、不意に居間の窓から見える空を見上げた。
いま自分は、マダラが憎んでいた扉間と一緒に暮らしている。
その現実は、芙蓉の胸をえぐるように辛い現実であった。
マダラ襲撃の後、樹と再会した直後、芙蓉は逮捕され裁判にかけられた。
芙蓉はマダラの悪事に加担していたとみなされたのだった。
例え禁固呪の札で縛られていたとはいえ、柱間を裏切って自分の意思でマダラに着いて行った事を糾弾された。死刑にしたほうが良いという意見まで出た。
しかし芙蓉は一切反論しなかった。
むしろ、どんな罰でも受けると言った。
だが、芙蓉を弁護する側の柱間と扉間は、マダラの意思である禁固呪の札に反し扉間を庇い死にかけた事、芙蓉が千手とうちはの平和協定に大いに貢献したこと、里創設期に教師として働いていたこと、その後も無償で里のために働いていたことを示し、無罪を主張した。
そしてなんと、うちは一族からも芙蓉の無罪を訴える署名が集まった。芙蓉がうちは領地で教師をしていた時から芙蓉を尊敬する者が多くいたのだ。
そのような理由を裁判官も無視することは出来ず、結果、芙蓉は釈放されることになった。
ただし、それには条件が付いていた。
扉間が責任を持ち、同居して監視を続ける事。
芙蓉はそれを拒んだが、自分を守ろうとしてくれる多くの人たちの気持ちを無駄にすることは出来ず、最後はその条件を飲んで釈放されたのだった。
「悪いな…これも決まった事なのだ。」
釈放されたその日、扉間は芙蓉の左手首の内側に飛雷神のマーキングをした。これで芙蓉がどこへ居ても居場所は分り、すぐにその場所へ飛べる。
芙蓉が逃亡するはすが無いのだが、これも釈放の必須条件だった。
いつの間にか空は薄い水色になり、夕暮れが近づいていることを知らせていた。
「じゃあ行ってくる。・・・ちゃんと飯食えよ。」
居間の机に座って窓の外の空を見ている芙蓉に扉間が声をかけた。
「はい…ありがとうございます。扉間さまもお気を付けて。」
芙蓉は少し微笑んで返事をした。
「ああ。」
扉間は芙蓉の気持ちを充分解ってはいたが、それでも芙蓉と二人で暮らし、出かける時はこうして微笑んで言葉をかけてくれるだけで胸が熱くなるほど嬉しかった。
…あの日、芙蓉は命を懸けて扉間を守った。
かつて自分を消そうとした自分のことを、傷つけないでくれと言ってくれた。
芙蓉が扉間を許すと言ったとはいえ、まさかそこまでして貰えるなど想像もしなかった。
まるで、一生分の愛情を、貰ったような気持だった。
たとえこの先マダラ以上に愛されなくてもいい。こうして一緒に居られるなら、もう何も望まない。そう思っていた。
扉間の里本部へ向かうその足取りは軽かった。
◆
「芙蓉は元気か?」
会議が終わり、火影室に戻った柱間が一緒に入ってきた扉間に問う。
「昨日も同じことを聞いただろ。変わり無い、安心しろ。それよりもう芙蓉のことは口にするな。こうしてもう結婚式の日取りも、人柱力になる日取りも決まったんだ。兄者はミトとの事だけ考えてろ。」
「だが・・・」
「未練がましい奴だな。ミトに失礼だと思わないのか。向こうもかなりの美人だろ。面食いの兄者には良かったじゃないか。」
「いや、俺はただ、その、マダラを倒した責任がだの・・・」
「うざい。」
扉間はそう吐き捨てて部屋を出て行った。
柱間は落ち込んで、いつもの様にずうーんと机に額を付けた。
「俺は…確かにまだ芙蓉を愛している。心に嘘はつけぬ…だが、それ以上に責任を感じておるのだ…」
そう一人で呟く。
だが今の柱間にはもう、芙蓉にできることは何も無かった。
◆
「お忙しい所、お時間頂きありがとうございます。改めまして、うちはドドメと申します。忍具研究開発と病院を経営しております。」
黒縁の四角いメガネに七三分け、両膝をきちんと揃えた低姿勢の中年男性が扉間へ名刺を出す。
「いやとんでもない。こちらとしてもありがたい申し出だ。ぜひ詳しく聞きたい。」
「はい。現在うちは一族専用の基礎教養科目を集中して学べる私塾を作りたいと考えております。アカデミーが出来て忍としての基礎を学ぶ場所は出来たのですが、やはり芙蓉さんがうちは領地にいらした時の、あの基礎教育がとても素晴らしく、これからの忍は学問もしっかり学ぶことが必要だと痛感したのです。それで、芙蓉さんにもぜひ、その私塾で教鞭を取って頂けないかと思いまして…」
「私塾か…思想教育は里の方針で禁止となっているが、分っておられるか?」
「勿論です。それに…我々は本当に芙蓉さんには感謝をしておるのです。芙蓉さんが来る直前のうちはは、弟を失って暴走気味だったマダラに振り回されていました。ご存知のように多くの亡命者と死者を出しました。ですが芙蓉さんがマダラを、そして強硬派だったうちはの忍を変えたのです。
あの方が来なかったら、平和協定はもっと先の事だったでしょう…いやもしかしたら実現していなかったもしれません。ですから、芙蓉さんのような人材をまるで咎人の様にしておくなど里にとって大きな損害です。ですが、それを解っているのはもはやうちは一族の我々だけでしょう…マダラとは色々あったでしょうが、だからこそうちはの事も理解してくれていると思っております。どうかお願いできませんでしょうか?」
扉間は芙蓉の裁判の時にも驚いたが、芙蓉がそこまでうちは一族に慕われ、理解され、必要とされていることに改めて驚いた。
「今の言葉、そのまま芙蓉に伝えよう。きっと芙蓉も喜ぶ。」
「ありがとうございます。よろしくお願い致します。」
ドドメは何度も深く頭を下げ、嬉しそうな顔で部屋を出て行った。
部屋に残った扉間の顔も、自然と笑顔になっていた。
「帰ったぞ・・・」
二十三時時を過ぎて帰宅した扉間は、芙蓉が寝ているかもしれなと思い小さな声で呟いた。
廊下に入ると居間の扉から光が洩れているのが見えた。まだ芙蓉は起きているようだ。
ゆっくりと居間の扉を開けた。
「おかえりなさい。扉間さま…遅くまでお疲れ様でした。」
刺繍をしていた手を止め微笑んだ。
「まだ寝て無かったのか。ちゃんと飯食ったか?」
「ええ、頂きました…でも一人だと、なんとなく不安で眠れないんです…」
「悪いな…遅くなって。」
「いいえ。遅くなられるのを分っていて私が勝手に起きていただけですから…お茶でも淹れますか。それともすぐお風呂に入ります?」
「うん…茶を淹れてくれ。着替えてくる。」
芙蓉は台所に立ち緑茶の用意し、扉間は自分の部屋に着替えに行った。
春とはいうものの夜になると冷える。火鉢には火が付いており、芙蓉はその上に鉄瓶を置いた。
「お前、まだ眠くないのか?」
扉間が椅子を引きながら芙蓉に問う。
「はい。そんなには…」
「土産話があるんだが今聞く?それとも明日にするか?」
「え?どんなお話ですか?今聞きたいです。」
芙蓉はとても久しぶりに目を輝かせる。
その様子に扉間は逸る気持ちを抑えようと咳払いをし、一呼吸置いてから話し始めた。
「・・・お前に、教師をしてほしいという依頼がきた・・・」
「え!私にですか!」
「そうだ。うちはドドメという人物は知っているか?その者からの依頼だ。」
「ドドメさん!はい。うちは領地の学校でドドメさんのお子さんも教えていました。それにドドメさんは学校に寄付をして下さったり、教材を提供して下さったり、とてもお世話になりました。」
シュ―――…鉄瓶から蒸気が上がり沸騰を知らせる。
芙蓉は思ってもみない話に興奮し、慌てて立ち上がると鉄瓶の取っ手を素手で握ろうとした。
「おい!素手で触るな!」
「熱っ!!!」
止めるのが遅かった。芙蓉は右手の人差し指と中指を火傷をした。
「馬鹿か!素手で触る奴があるか!」
「すみません・・・つい話に夢中になってて」
扉間は急いで冷水を出し、火傷をした指を冷やした後、回復術で手当てをする。
手当をしながら、あの日、芙蓉に人工呼吸をした時のことを思い出し、恥かしさで胸が高鳴る。そしてあの時、芙蓉を助けられて良かったと改めて実感する。
早急な対応のおかげで、直ぐに芙蓉の指は何事もなかった様に綺麗に治った。
「あ、お茶を・・・」
「もういい。俺がやるからお前は座ってろ。」
扉間は有無を言わさず芙蓉を椅子に座らせ、自分で鉄瓶の湯を茶葉の入った陶器の急須に注ぎながら先ほどの話の続きを始めた。
「でだ、そのドドメが今度うちは一族の為の私塾を作るんだと。そこは忍術ではなく基礎教育科目だけを教える場所だ。そこでお前に教師をしてほしいと言ってきたんだ。」
「でも・・・私は罪人です。もう教鞭を取るなんて、そんなこと・・・」
「お前は無罪だ。それに忘れたのか。裁判で多くのうちは一族の者がお前を助けようと直訴したことを・・・」
そして扉間は、ドドメが言っていた話の内容をそのまま芙蓉に伝えた。
俯く芙蓉の前に、そっと茶の入った湯呑を差し出す。
ポチャ・・・
すると、その茶の中に芙蓉の涙が落ちた。
「お前は一人じゃない。お前を慕う人々がそれだけ多くいる。お前はその人々から必要とされているんだ。もっと自信をもてよ・・・な。」
芙蓉は顔を上げ、涙を拭って、深刻な顔で扉間の目を真っすぐ見つめた。
「少しは罪を償うことは出来るでしょうか・・・?」
「償う?フッ…貢献だろ?卑屈になる必要なんてない。だいたいお前は罪なんて犯してないしな。あ、まぁ罪を犯したと言えば、お前に捨てられて落込んでいる奴が一人いるが…」
「・・・・。」
芙蓉は本気で困った顔をして俯いた。
「最後のは冗談だっ…そんな顔するな。とにかく、教師の件はお前がやりたいのならやれ。」
恐る恐る、上目遣いで芙蓉が扉間を見る。そして意を決して言う。
「・・・私、やらせて頂きます!」
「そうか。でも返事は良く考えてからでもいいんだぞ。」
そう言って扉間は腕を組み、椅子に背をもたげる。
「いいえ。扉間さまの仰る通りです。私をまだ必要としてくれる人がいるなら、それに応えたいです。それに、扉間さまや多くの方が私の無実を訴えてくれましたが、私自身は罪を背負っています。少しでもその償いになるなら…」
扉間はハーっと大きな溜息をつく。
芙蓉の変わらぬ生真面目さに少し呆れつつも、その芯の強さに感心した。
「うん…なら、お前の思うようにしてみるといい。」
「はい!ありがとうございます!」
「俺は…礼を言われることはしてないぞ。」
「いいえ。さっきの沢山の言葉、嬉しかったです。それにこのお茶も。」
芙蓉は湯呑を手に取り、そっと口を付けた。
「ちょっとしょっぱい・・・」
「それはお前のせいだろうが。」
「ウフフ。そうでした。」
いつ以来だろうか。芙蓉のこんな明るく自然な笑顔を見られたのは…。
扉間は思わず胸が熱くなる。
「あの・・・でも柱間さまには、どう償ったらいいんでしょうか。」
扉間はガクンと首を垂れた。話をその前で終わらせてほしかった。
「あのなぁ、冗談だって言ってるだろ。あんなエロ馬鹿のことなんて気にすんな。」
そう言って不機嫌そうにお茶をズズっとすする。
「でも・・・だけど・・・それじゃ・・・」
「でも、だけど、言うの禁止っ!!」
「はい…でも私に出来る事はないか、もっと考えてみます。」
「あ、またでも言った!…ハァー。兄者を話の引き合いに出した俺が悪かった。本当に兄者のことは気にしなくていいんだ。むしろ、もうお前はあいつに会わない方が良い。知っての通りもうすぐ、うずまき一族の娘と結婚する…」
「・・・そう、ですよね・・・」
芙蓉はそう言いつつ、煮え切らない様子である。どうしても何かしたいのだろう。
その様子を見て扉間は思わず言葉を探し、思いついてそのまま口にする。
「その…俺は、兄者の右腕だ。俺が居なければあいつは困る。まぁ火影を、火影たるものにして支えているのは俺だってことだ。…俺を支えれば間接的に…兄者に貢献できる…」
扉間は思いつきとはいえ、自分で何てことを言っているのだと、自分自身に対して引く。
「そうですよね!なら私、これから扉間さまのことをしっかりお支えします!」
見張り役を見張られる者が支えるというのも、おかしな話である。
そんな事は充分解っていながら、扉間はつい自分の心からの願望が前に出てしまった。
だが芙蓉はそれに気づくはずも無く、やっと自分に出来る事が見つかったと喜んでいる。
・・・芙蓉が納得してくれるなら、それでもいいのか・・・
扉間は僅かに罪悪感に似たものを感じつつも、その感情に目をつむった。
「あら大変!もう十二時を過ぎています!私のせいで、すみません…」
「構わない。明日は一日休みを取っている。兄者の結婚の話も今日で全て決まったしな。」
「遅くまでお仕事をされてお疲れなのに、本当にありがとうございました。いまお風呂の用意をしてきますね。」
芙蓉がさっそく自分の為に張り切っているのが分る。
扉間は黙って風呂場の方へ消えていく芙蓉の姿を眺めていたが、その胸の内は、両腕を天に突き上げたいほど喜びで溢れていた。
◆
「芙蓉先生!久しぶり!元気そうで良かったよ!」
最初に声をかけてきた塾生は、うちはカガミだった。
カガミはうちは領地の学校で教えていた生徒のひとりだ。今は忍者アカデミーを主席で卒業し中忍になっていたが、芙蓉が教師をする私塾ができると聞いて入塾したのだった。
「カガミ君、お久しぶり!ずいぶん背が伸びて大人っぽくなったわね。」
「そりゃもうあれから二年以上経つんだぜ。成長するっつーの。」
「そうよね…。アカデミーを首席で卒業したんですって?凄いね!」
「へへっ!大した事ねーよ…でも先生が教えてくれた勉強の成果でもあるんだぜ?」
「そう言ってくれて嬉しいな!この塾では前の学校よりも高度なことも教えるから楽しみにしていてね。」
「うん。塾に来れないダチの分までしっかり勉強して、早く上忍になってやるんだ!」
「そう。それは頼もしいわね。先生も楽しみです。」
そう言って微笑む芙蓉の笑顔は二年前よりも美しくなっている気がして、カガミはドキっとする。
カガミにとって芙蓉は初恋の人だった。
これまで、マダラのような強い忍になって芙蓉に認めてもらいたいと頑張ってきた。その努力は実を結び、メキメキと実力を付け、今ではうちはの子供の中で一番強くなっていた。
そして今は、マダラのことを芙蓉をあのような目に遭わせた悪者、うちは一族の恥さらしとして恨んでいる。
だがカガミには、一つ劣等感があった。
それはまだ写輪眼を開眼していないことだった。
芙蓉に褒められて嬉しい気持とは裏腹に、素直に喜べないのはそのせいだった。
塾は平屋建てで教室が四つ、理科室、家庭科室、音楽室、講堂があり、庭には大きな松の木が数本植えられている。
教師は芙蓉の他に三人の教師が居る。
入塾するには入塾試験と一定条件が設けられたが、両親の居ない孤児は入塾試験以外、無条件で入塾することが出来きた。
クラスは学力のレベルによっていくつかのクラスに分けられ、基礎的な教養から、高度な専門知識まで幅広く学べるようになっていた。
そして今日は、その私塾の開塾式と授業初日である。
「当初話を聞いていたよりも、かなり本格的で高度な教育機関になっておるな。私塾というより、もうこれは完全な学校だが…?」
開塾式を待つ扉間がドドメに向かって、棘のある言い方をした。
「ハハハ…芙蓉さんが来て下さるということで張り切り過ぎました。」
「それだけでは無かろう?…うちは一族の勢力維持のためか…もう一度教育課程を提出してもらうぞ。」
「はい、承知しました。ただお言葉ですが、うちは一族の力は先の大戦で随分落ち込みました。そのせいで里創設の際もあまりお役に立つことができませんでした。うちは一族が本来の実力を取り戻し、さらに発展することは里への大きな貢献になると私は思っております。」
「…うちはの復興のために、芙蓉を利用したのか…?」
扉間がキッときつい視線をドドメに向ける。
「とんでもありません!…結果的にはそう見えるかもしれませんが、私たちが芙蓉さんを尊敬し必要としていることは真実です。いま芙蓉さんと同じ役目が出来る人は、うちは一族には殆ど居ないのです。どうかご理解下さい…お願いします。」
「…まぁ芙蓉も好きな教師の仕事が出来ると喜んでいるし、その事は感謝している。ただ、少しでも不穏な動きがあれば見逃すことは出来んぞ。」
…トントントン。ドアを叩く音がする。
「どうぞ」
「失礼します…あ、扉間さま、もういらしていたのですね。あの、ドドメ塾長。塾生たちに配る用紙の事でご相談があるのですが…」
「塾内を見てくる。」
「あ、ご案内しましょうか?」
「いい。お前は忙しいだろう。それに一人で見たいからいい。」
「・・・・。」
ドドメが苦い顔をして頭を掻いている。扉間は一人で部屋を出て行った。
「塾長、扉間さまと何かありましたか?なんだか不機嫌そうでしたけど…」
「この塾が完璧すぎて塾じゃないって仰ってるんだよ。その事でうちは一族が何か企んでいるんじゃないかって疑っているんだ…参ったなぁ…そんな気は無いのに。」
「…そうでしたか。でも扉間さまもそれがお仕事なので許してあげて下さい。この先、この塾から里に貢献する優秀な人材が輩出されれば、きっと扉間さまも認めて下さると思います。それまで私も一緒に頑張りますので!」
芙蓉は両手で拳を作って胸の前で揃え、ドドメに向かって微笑みかけた。
「・・・そうだね。ありがとう芙蓉さん。いや芙蓉先生。これから頑張ろう!」
芙蓉の笑顔は人の心を前向きにする。ドドメも笑って拳を作った。
講堂の椅子には入塾生たちとその保護者、来賓が座っていた。
塾生は十歳~十五歳までの合計四十五人。男女半々に近い比率だ。
式の最後に教師の紹介と挨拶が行われた。芙蓉は四人中、最後に挨拶をすることになった。
芙蓉が塾生の前に立つと、ひと際大きな拍手が起こり、芙蓉の名を呼ぶ声まで飛ぶ。
来賓席に座る扉間はその様子を見て、改めて芙蓉の人気に驚く。
「橘芙蓉です。まずはこの場をお借りして、私を弁護して下さったうちはの皆様にお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。」
芙蓉は深く頭を下げ、数秒間そのまま動かなかった。そして頭を上げて言葉を続ける。
「今回こうして教師として迎えて頂きましたこと、本当に嬉しくて言葉になりません。うちは一族の発展のため、そして木ノ葉の里の発展のため尽力してまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
さて塾生の皆さん。本業のお勉強や任務があるにも関わらずここに来られているということは、皆さん志が高くていらっしゃいますね。ところで皆さんには夢がありますか?・・・どうかこの塾で自分だけの夢を見つけてください。もう夢がある人はここで更に夢を具体的にしていきましょう。そのために一緒に頑張りましょうね。」
そして再び深く頭を下げると、多くの大人がその場に立ち上がって大きく拍手する。
扉間も大きな拍手をした。自分がまだ知らなかった芙蓉を知り、心から感動していた。
・・・マダラもこの芙蓉を見て好きになったんだろうな。こんな素晴らしい女を手にかけ手放すとは、本当に愚かな奴だ・・・
◆
五月の新緑が眩しい道を、馬車に乗った新郎新婦が沿道の多くの拍手や歓声に向かって手を振りながらゆるりと走って行く。その行く先で色とりどりの紙吹雪が舞う。
芙蓉はその様子を遠くの建物の屋上から一人で見ていた。
ここからは新郎新婦の表情までは見えない。
二人のこれからの幸せを祈ってそっと目を閉じ、背を向けてその場から去って行った。
「やっぱあいつはただのエロ馬鹿だ。デレデレしやがって・・・」
結婚式から帰ってきた扉間が、正装の上着を椅子に投げて呆れたように芙蓉に向かって言った。
「…でも、柱間の好みの女性だったのなら良いじゃないですか。」
芙蓉がその上着を手に取って整えながら苦笑する。
扉間はその言葉に、ミトの容姿を思い出してみる。
顔はまあ美人。背はかなり高い。赤い髪。気が強そうな目。そして胸がかなりでかい。
思わず芙蓉の胸に目がいく。五月になり上着を脱ぎ薄着になった芙蓉の胸は、その形がきれいに見てとれる。大き過ぎず丸く上品な形をしている。
「…どうか…しました?」
「あ、いや、何でもない・・・」
芙蓉が扉間の視線を感じて持っている上着でそっと胸を隠した。扉間も焦って顔を逸らす。
「でも良かった・・・柱間さまが幸せそうで。」
「・・・ああ。」
柱間の本心は解らない。
おそらくまだ芙蓉のことを愛しているだろうに・・・
「お茶でも淹れましょうね。ほうじ茶と緑茶、玄米茶がありますよ。」
「ほうじ茶・・・素手で触んなよ!」
「解っています。もう、あれから毎回言うんだから。ウフフフ。」
「何回でも言う!ていうか何なら自分で淹れるわっ。これ、引き出物の菓子だ。出してくれ。」
「はい・・・あら、蝶屋の和菓子ですね。火影様の結婚式の引き出物に使われたら、ますます人気店になってしまいますわ。もう気軽に行けなくなってしまうかも…」
芙蓉は蝶屋の家紋を見てふと、樹が初めてマダラに会いに来てくれた日の事を思い出した。
・・・樹ちゃんがお土産に蝶屋のおはぎを持って来てくれて、黄粉のおはぎをマダラさまがいなりと間違えて笑ったんだっけ・・・
「そんなにまであの店好きだったのか?たまに樹と行ってるようだが…」
マダラを思い出しているとは思わない扉間が、芙蓉のとても寂しそうな顔を見て言った。
「えっ、ええ…白玉あんみつがとっても美味しいんですよ。」
芙蓉は急いで笑顔を作って誤魔化し、台所へ和菓子を持って行く。
シュー・・・沸騰したお湯を注意して急須に注ぐ。皿には最中を乗せた。
扉間は着替え終わって机に着き、結婚式の出席者票をもう一度見返している。
「・・・うん。確かに美味いな。ん、中に餅も入ってる。」
「でしょう?甘いものがお好きじゃない扉間さまが美味しいと言われるんですから、本当に美味しいんですよ!」
「・・・今度連れてけよ・・・俺も。」
「え?蝶屋にですか?」
「ほかにどこ行くってんだよ・・・」
「本当に甘い物しかないですけど、大丈夫ですか?」
「そりゃ甘味処だからそうだろーよ・・・そうだ明日!明日行くぞ!」
「え?あ、はいっ!でも樹ちゃんの予定を聞かないと・・・」
「明日は今日の祝日で、千手の忍は皆休みだ。ていうか・・・」
「?」
二人で行こうと言いかけたが、やはりその勇気はまだ無かった。
あの夏、二人で指輪を買いに行った日の苦い思い出が消えない。
「いや・・・後で予定を聞いておこう。」
「そうですね!三人でお出かけなんてすごく楽しみです!」